• 検索結果がありません。

睡眠と生体リズムの最新の知見

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "睡眠と生体リズムの最新の知見"

Copied!
5
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

日本人の4人に1人がなんらかの睡眠障害を有してい るといわれている。ストレスに伴う不眠や睡眠時の無呼 吸に起因する昼間の眠気などは,現代社会において大き な問題となっている。睡眠薬の投薬の多さが医療費を圧 迫する原因の一つになっている。また,「コンビニ」に 代表される現代の24時間社会は,生体リズムの乱れを引 き起こし,さまざまな身体的・精神的障害を作り出して いる。睡眠や生体リズムの調節メカニズムを明らかにす ることは,上記の問題解決や高齢者における quality of life(QOL)の向上にとどまらず,生活習慣病の予防とい う観点からも,重要な課題といえる。 睡眠は,ホメオスタシス機構とサーカディアン機構の 二つの機構によって調節を受けている。睡眠のホメオス タシス機構とは,残業などによって長く起きる(=睡眠 を削る)と,生体に何らかのひずみが生じ,そのひずみ を是正するために,引き続く睡眠が(「長く」ではなく!) 「深く」なるという仕組みである。これは,血圧や血液 中の電解質などを一定に保つように作られたわれわれの 生理学的なホメオスタシス機構の一つとも言える。この 睡眠の「深さ」は脳波のなかのデルタ波(<4Hz=徐波) が表現している。 デルタ波はノンレム睡眠の特徴であるが,ノンレム睡 眠は,プロスタグランディン(PG)D2とアデノシン A2A レセプタ,さらに,ヒスタミン系神経群の相互関係で調 節されることが明らかになっている(図1)1)。覚醒が 続くと PGD2が蓄積される。蓄積された PGD2は前脳基 底部のクモ膜に存在するレセプタに結合する。この結合 はアデノシンの増加を引き起こし,A2A レセプタが活 性化される。PGD2からアデノシンへの情報変換過程に ついては不明な点が多く,今後の課題である。A2A レ セプタの活性化は,腹側外側視索前野に存在する GABA や galanin作動性神経群の活動を増加させる。このGABA や galanin 神経群は下降性に視床下部後部のヒスタミン 系神経群へ投射している。ヒスタミン系神経群は広く大 脳皮質などに投射しており,覚醒を維持する役割を持っ ている。このヒスタミン系神経群が,GABA や galanin といった抑制性神経伝達物質によって活動を低下させら れることがノンレム睡眠の発生であると考えられている。 実際,われわれは,ラットに6時間の断眠ストレスを負 荷すると,視床下部において,観察したペプチドの中で galanin のみその mRNA を増加させることを明らかにし ている(図2,3)2) 睡眠のサーカディアン機構とは,いつも同じ時間帯に 眠くなって,それをすぎるとかえって眠れなくなるとか, 徹夜明けでも,朝はなかなか寝付けないといった現象が 示しているものである。サーカディアン機構は,時計遺 伝子と呼ばれる遺伝子群によって調節されていることが 近年明らかになっている3,4)。さらに,上述したような 睡眠の発生機構が,生物時計である視交叉上核からの直 接的な神経連絡を受けていることが明らかになりつつあ る。

睡眠と生体リズムの最新の知見

勢 井

徳島大学大学院ヘルスバイオサイエンス研究部情報統合医学講座統合生理学分野 (平成17年3月18日受付) (平成17年3月25日受理) 図1.プロスタグランディン D2による睡眠誘発機構の模式図 四国医誌 61巻1,2号 2∼6 APRIL25,2005(平17) 2

(2)

局所睡眠 睡眠と学習については,これまでも,睡眠中にヘッド ホンで繰り返し聞いたら覚えられるといった「睡眠学 習」のように科学的証拠の乏しいものも含め,いろいろ な議論がなされてきた。しかし,最近になって,徐波睡 眠(ノンレム睡眠)と記憶・学習について,Science や Nature などへの掲載が続いている。特に最近の Huber らの報告5)は「局所睡眠」としてインパクトがある。 以下にその内容を紹介する。 彼らは脳波の測定に256個の電極を用いる。この電極 の多さに,さすがに被験者は終夜眠ることは不可能で, 256点脳波の観察は入眠後数時間に限られている。被験 者は睡眠前に学習作業を行った。パソコンの画面上をあ る角度間隔で動く点に向けて,マウスを用いてポインタ を合わせるという作業を学習するものである。この作業 を遂行する際に,被験者は大脳皮質の運動野のある限ら れた部分を使用することが,fMRI を用いて画像的に明 らかにされている。被験者はこの学習作業の後,256個 の電極をつけて就寝した。 通常,入眠するとまずノンレム睡眠に入り,stage Ⅰ∼ Ⅳと,深くなっていく。「深い」とは,上述したように, 脳波上のデルタ波成分の比率が多いということである。 Huber らは,256点それぞれから記録できるデルタ波を 比較した。その結果,学習作業をする際に特異的に活動 する部位において,他の部位より強いデルタ波が出現し 図2.視床下部での各種ペプチド mRNA の発現(in situ

hybridi-zation)の例2) A:内側視索前野(MPO)と腹外側視索前野(VLPO)における galanin mRNA の発現。 B :視索上核(SON)におけるarginine vasopressin(AVP)mRNA の発現。 C :室傍核(PVN)における corticotropin-releasing factor(CRF) mRNA の発現。

D :視床下部外側野(LHA)における orexin mRNA の発現。 3V:第3脳室,OC:視索,SCN:視交叉上核。

図3.断眠による各種ペプチド mRNA 発現量の変化2)

OXT : oxytocin, POA:視索前野(図2における MPO と VLPO を合わせたもの),他の略語は図2と同じ。 3h:3時間断眠群,6h:6時間断眠群,6h+r:6時間断眠 の後3時間回復させた群。 黒棒:断眠群,白棒:対照群,グレー:なんの操作も受けてい ない対照群。 galanin mRNA にのみ有意な変化が観察された。 睡眠と生体リズムの最新の知見 3

(3)

ていることを見出したのである。さらに Huber らは, 被験者の学習成績,あるいは,起床後に再試験した際の 成績と,睡眠やデルタ波の強さとの相関について検討し た。その結果,学習後に睡眠をとった被験者は起床後の 再試験の成績が向上するのに,睡眠を取らなかった被験 者には成績の向上がないこと,デルタ波の強さと,学習 中のエラー回数や再試験での成績との間に有意な正の相 関があることを明らかにしたのである。この研究から, デルタ波,つまりは徐波睡眠は,脳の可塑的過程の表現 であり,デルタ波が出現している間,記憶・学習にかか わる神経回路に神経生理学的・生化学的・形態的な変化 が起こっている可能性が示唆されたのである。しかも, その変化は局所的であり,つまり,学習に使用した部位 に限局して行われることをはじめて明らかにしたのであ る。これが「局所睡眠」である。 このデルタ波の重要性は,われわれの実験からもわか る。その実験とは,fmr1ノックアウトマウスにおける 断眠実験である。fmrとはfragile-X syndrome mental re-tardation の頭文字をとった遺伝子であり,精神遅滞の 原因遺伝子のひとつである。われわれは,その fmr1遺 伝子をノックアウトしたマウス(精神遅滞モデルマウ ス)における睡眠を記録するとともに,断眠ストレスを 与え,それに対するデルタ波の反応性を観察したのであ る。断眠前の同じ時間帯に対する比率で表現した断眠後 のデルタ波の変化を図4に示す。断眠後,デルタ波は断 眠前に比べて強くなる。しかし,fmr1ノックアウトマ ウスは,コントロールマウスに比較して,デルタ波の増 強が小さい。Huber らの実験で明らかにされたように, 睡眠期のデルタ波の増加は学習成績と相関している。 Huber らの仮説にそって考えると,fmr1ノックアウト マウスの大脳皮質では,可塑的変化が弱い,あるいは障 害されている,すなわち,学習能力が低いことを示す可 能性があるものと考え,研究を続けている。 時計遺伝子と飲酒 サーカディアン機構は,時計遺伝子群によって調節さ れている。時計遺伝子群とは,clock,bmal1,per1∼ 3,cry1∼2などが主要メンバーである。これらの遺 伝子は,どれもその機能を失うとサーカディアンリズム に障害がでる。最近,これら時計遺伝子がサーカディア ンリズムだけにとどまらず,脳や心臓,肝臓,腎臓など, さまざまな器官の生理機能に直接・間接にかかわってい ることが明らかになりつつあり,注目されている。 Spanagel ら6)は,時計遺伝子群のなかで,時計の針 のような中心的役割を演じているとされる per2の異常 が,飲酒行動と関連していることを見出した。per2遺 伝子変異マウスは,水とアルコール(エタノール8‐16%), それぞれの入った給水びんが用意されると,野生型マウ スに比べて,アルコールの方を好んで摂取することが示 されている。このアルコールへの嗜好性は,脳内のグル タミン酸濃度と関連している。近年米国において,アル コール依存症の治療薬として用いられている Campral を per2遺伝子変異マウスに投与すると,脳内のグルタ ミン酸濃度が低下するとともに,飲酒量も低下すること を示し,グルタミン酸濃度と飲酒の関連性についての実 験的証拠を提示している。この論文では,per2遺伝子 の変異がグルタミン酸トランスポーターの発現低下を引 き起こし,それが脳内のグルタミン酸濃度上昇につなが るとしている。 われわれは,これまで,8時間の明暗サイクルの位相 前進(パリから東京へ瞬時に移動したのと同じ)がラッ トの睡眠・覚醒リズムや深部体温リズムを大きく崩すこ とを報告してきた(図5)7,8)。いわゆる「時差ぼけ」 状態である。この時差ぼけ状態は,時計遺伝子群間にお いて,それぞれの発現がアンバランスになった状態であ ると考えられている。時差ぼけによって,飲酒行動が誘 発されるのか?実際,交代制勤務者9)や頻繁に海外出 図4.fmr1ノックアウト(KO)マウスと野生型マウスにおけ る,6時間断眠後のデルタ波の変化 勢 井 宏 義 4

(4)

張を繰り返すビジネスマン10)は飲酒量が多いという報告 がすでになされている。われわれは,時差−時計遺伝子 発現−飲酒行動との関連性について,実験動物を用いた 慎重な検討を続けている。 今後の展望 「眠れない」,つまり不眠症は,生活習慣病やうつな どとの関連性から,その病態メカニズムの解明を急がな くてはならない睡眠障害のひとつである。睡眠の役割や サーカディアンリズムによる調節など,今回紹介した研 究は,「眠れない」病態解明にはつながりにくい。人間 に特有なこの「不眠症」を,今後,研究のターゲットに していく必要がある。実験動物において,「不眠症」モ デルはいまだ登場しておらず,その開発が待たれるが, 不眠症モデルマウスは眠れないことに悩むのだろうか? 謝 辞 ここに紹介したわれわれの研究は,日本学術振興会・ 科学研究費補助金,および,21世紀 COE プログラム・ 「ストレス制御をめざす栄養科学」のサポートを受けて いる。 文 献 1)乾 隆,裏出良博:睡眠調節の分子機構.呼吸と循 環,48(6):587‐593,2000

2)Fujihara, H., Serino, R., Ueta, Y., Sei, H., et al . : Six-hour selective REM sleep deprivation increases the expression of the galanin gene in the hypothalamus of rats. Mol. Brain Res.,119:152‐159,2003

3)岡村 均,山口 瞬:時計遺伝子と哺乳類の時間発 振機構.医学のあゆみ,190:259‐267,1999 4)Reppert, S.M., Weaver, D.R. : Molecular analysis of

mammalian circadian rhythms. Ann. Rev. Physiol., 63:647‐676,2001

5)Huber, R., Ghilardi, M.F., Massimini, M., Tononi, G. : Local sleep and learning. Nature,430(6995):78‐81, 2004

6)Spanagel, R., Pendyala, G., Abarca, C., Zghoul, T., et al. : The clock gene per2influences the glutamatergic system and modulates alcohol consumption. Nature Med.,11(1):35‐42,2004

7)Sei, H., Fujihara, H., Ueta, Y., Morita, K., et al . : Single eight-hour shift of light-dark cycle increases brain-derived neurotrophic factor protein levels in the rat hippocampus. Life Sci.,73(1):53‐9,2003

図5.明暗サイクルの8時間前進によっておこるラット深部体温 リズムの変化8) ‐1:位相変化前日,0:位相変化当日,+7:位相変化後7日目。 位相変化後7日目でも,まだ,位相変化前のようなはっきりし たリズムが見えていない。 睡眠と生体リズムの最新の知見 5

(5)

8)Sei, H., Kiuchi, T., Chang, H.Y., Seno, H., et al . : Re-sponse of the sleep-wake rhythm to an 8-hour advance of the light-dark cycle in the rat. Chronobiol. Int.,11(5):293‐300,1994

9)Trinkoff, A.M., Storr, C.L. : Work schedule charac-teristics and substance use in nurses. Am. J. Ind.

Med.,34(3):266‐271,1998

10)Rogers H.L., Reilly, S.M. : A survey of the health experiences of international business travelers. Part one-Physiological aspects. AAOHN J.,50(10):449‐ 459,2002

Update on research for sleep and circadian rhythm

Hiroyoshi Sei

Department of Integrative Physiology, Institute of Health Biosciences, The University of Tokushima Graduate School, Tokushima, Japan

SUMMARY

Slow wave activity(SWA:<4Hz)in electroencephalograms(EEG)appears during non-REM sleep, which is regulated homeostatically, increasing after wakefulness and returning to baseline during sleep. Recently, it has been suggested that SWA homeostasis may reflect synaptic changes underlying a cellular need for sleep. Huber et al.(Nature,430(6995):78‐81,2004)have shown that SWA homeostasis has a local component, which can be triggered by a learning task involving specific brain regions. We also found an impaired SWA rebound after sleep deprivation in fmr1 (fragile-X syndrome mental retardation1)knockout mice, indicating an involvement of fmr1gene

in neural plasticity.

Clock genes regulating circadian rhythm are recently thought to modulate several brain functions. Spanagel et al.(Nature Medicine,11(1):35‐42,2004)have shown that per 2 mutant mice show alterations in the glutamatergic system in the brain, accompanied by increasing alcohol intake. They also found that, in humans, genetic variations of human per 2 are related to the alcohol consumption Furthermore, clock genes have been indicated to have important roles in not only brain but also peripheral organs.

In future, we need an animal model for“insomnia”which is one of the most common sleep disorders in humans.

Key words :sleep, slow wave activity, learning, circadian, clock genes

勢 井 宏 義 6

参照

関連したドキュメント

 基本的人権ないし人権とは、それなくしては 人間らしさ (人間の尊厳) が保てないような人間 の基本的ニーズ

わからない その他 がん検診を受けても見落としがあると思っているから がん検診そのものを知らないから

健康人の基本的条件として,快食,快眠ならび に快便の三原則が必須と言われている.しかし

森 狙仙は猿を描かせれば右に出るものが ないといわれ、当時大人気のアーティス トでした。母猿は滝の姿を見ながら、顔に

たとえば、市町村の計画冊子に載せられているアンケート内容をみると、 「朝食を摂っています か 」 「睡眠時間は十分とっていますか」

巣造りから雛が生まれるころの大事な時 期は、深い雪に被われて人が入っていけ

雇用契約としての扱い等の検討が行われている︒しかしながらこれらの尽力によっても︑婚姻制度上の難点や人格的

自然言語というのは、生得 な文法 があるということです。 生まれつき に、人 に わっている 力を って乳幼児が獲得できる言語だという え です。 語の それ自 も、 から