開胸創への接触転移により再発したと
思われる肺癌の一例
山梨県立中央病院外科 久保田至 千葉成宏 芹沢大 織畑剛太郎 藤塚光晴 三井照夫 芦沢一喜 今村公一 中沢美知雄 肺癌において経皮針生検後、その部位にimplantation metastasisを認める 例は多々報告されているが、我々は、肺癌手術後、その開胸創へ、孤立性転 移を来した症例を経験したので、報告する。 (症例) 68歳、男性 (主訴) 右側胸部痛及び同部位の腫瘤触知 (家族歴)特記すべき事なし (既往歴)36歳 胃潰瘍、十二指腸潰瘍にて胃亜全摘術施行63歳 右下肢骨折
64歳 肺の検診にて、右肺の異常陰影を指摘される 気管支Fiber施行、 biopsyにてSquamous Cell Ca. 当科入院、右中下葉切除術施行、経過良好にて 軽快退院する。 (現病歴)64歳時の手術施行後、経過良好にて外来followされていたが、 平成元年8月頃より、右側胸部の痛みが出現、11月に入り、同部位に腫瘤 触知するため、外来にて、針生検施行したところ、Squamous Cell Ca.を 認めたため、治療目的にて入院となる。 (入院時検査所見) 特に異常は、認められなかった。(図1) 前回入院時の胸部Xp写真(図1)では 右下肺野、心陰影に重なって、異常陰影を 認めた。前回入院時の気管支fiber所見 (図2)は、右B8入口部を完全に閉塞す る腫瘤を認め、その一部にNecrosisを認め た。これをbiopsyしたところ、 Squamous Cell Ca.と診断された。手術は、右、中、
下葉切除術を施行。 T3NlMOで、
Stage皿Aであった。前回手術時の摘出標本(図3)を示す。S9十10に4×3
×3㎝の腫瘍を認め、心外膜への浸潤を認 めた。また、切除標本の強拡大像(図4) では、中分化扁平上皮癌の所見であった。 今回入院時の胸部Xp写真(図5)では 肺葉切除後の所見で、胸水を認めるほか異 常なく、胸壁腫瘤は認められない。CT像 (図6)では、右胸壁には、外方に突出す る腫瘤陰影を認める。今回手術にて得た、 摘出標本(図7)では、腫瘤は、第5、6 肋骨間に存在し、一部は壁側胸膜に癒着し ており、肋骨、胸膜と共に腫瘤を、摘出し た。マクロ的には、臓側胸膜に浸潤は認め られなかった。同標本の強拡大像(図8) (図2) (図3)(図4) (図5) (図6) (図7) (図8) (図9)
(考察) 肺癌の転移形式には、リンパ行性、血行性、播腫性、などが多く見られる が、接触性転移は希である。(5,6)針生検による、同部位の Implantation Metastasisが、文献的に報告されており、〈、4)開胸創への、孤立性の転移 は希である。一方、胸壁、特に肋間筋への血行性転移の頻度は、日本病理剖
検集報によれば、(7)肺、気管支悪性腫瘍14484症例のうち、93例、
0.64%であった。しかし、これは進行癌についてのものであり、本例のよう な手術症例においては、更に頻度が低くなると思われる。今回の症例では、 再発部位が開胸創に一致していること、孤立性であること、初回手術後10 ケ月で再発を来したにも関わらず、転移巣手術後、2年6ケ月の現在まで、 他の部位に全く再発を認めないこと、などより、接触性転移が強く示唆され る。非常に頻度は低いが、このような症例が認められる事より・これらの予 防には、開胸創の保護が必要と思われ、特にP2、 P 3のような胸膜浸潤例 では、病巣の取扱いには、十分な配慮をすべきである。それと同時に、開胸 創や胸腔内の十分な洗浄など、癌細胞の遺残を極力減少させることに、努め るべきである。 (結語) 肺扁平上皮癌手術後、開胸創に一致して孤立性転移を認め、接触性転移が 強く疑われる症例を経験した。 接触性転移の予防には開胸創の保護や術野の洗浄が有用であると考えられ る。2)William R. Hix, Benjamin L. Aaron Needle aspiration in lung cancer, Risk of tumor implantation is not negligible. Chest 1990;97:516−7 3)Virgilio Sacchini, Viviana Galimberti,Silvana Marchini, et al. Percutaneous transthoracic needle aspiration biopsy:a case report of implantation metastasis. European Journal of Surgica1 0ncology 1989;15:179−183 4)Harvey Wolinsky, Mark W. Lischner Needle track implantation of tumor after percutaneous lung biopsy. Ann Internal Medicine 1969;71:359− 362 5)Tsuguo Naruke Lymph node metastasis of lung cancer and associated surgery. Asian Med. J.1990;33:668−77 6)廣田 映五 北上 慈子:がんの諸相.薬局 1984;Vo1.31, No.1:479−486 7)日本病理剖検集報(第32)1990P.1504