間質性肺炎、肺線維症に合併した肺癌症例め検討
山梨医科大学第2内科
西川圭一 広瀬久人 内川謙治郎 小沢克良 田村康二 はじめに 近年、間質性肺炎、肺線維症と肺癌の合併 頻度が高いことが注目されている。しかしな がら、その原因についてはいまだ定説はない。 臨床上の大きな問題点としては、胸部レン トゲン写真で早期に発見することが困難な場 合が多く、また治療に際して、高齢であるこ とや低肺機能などのために十分な治療を行え ない症例が少なくない、といった点があげら れる。 今回我々は1983年10月の当院開院以来の入 院症例で、間質性肺炎、肺線維症に合併した 肺癌症例10例につき臨床的考察を加えたので 若干の考察を加え報告する。 対象および結果 1983年10月から1990年4月までの約6年半の 間に当科に入院し、組織学的診断が確定して いる原発性肺癌症例は133例で、組織型では腺 癌が39.8%と最も多く、ついで扁平上皮癌が 38.3%、小細胞癌が15.8%であった。また男 女比は全体ではほぼ3対1と男性に多く、特に 扁平上皮癌、小細胞癌では9割以上が男性であ った。(Table 1) 同期間に当科に入院した間質性肺炎、肺線 維症症例は34例で、男性が約7割を占めていた。 ( Table 2 ) 肺癌を合併した間質性肺炎、肺線維症症例 はto例で、全肺癌症例の7.5%にあたり、また、 問質性肺炎、肺線維症の29.4%に肺癌の合併 を認めたことになる。 肺癌合併症例10例の内訳をTable 3に示し た。10例すべてが男性で、年齢別では60歳代 が5人、70歳代が4人、80歳代が1人で、平均年 齢は70.6歳であった。喫煙との関係を見ると、 10例すべてがブリンクマン・インデックス6 00以上であるgroup 4の重喫煙者であり、平 均喫煙指数は1260と高い値を示した。胸部レ ントゲン写真における間質性肺炎の病型は、 厚生省間質性肺疾患研究班による分類1)で、 1型が2人、il型が4人、 m型が3人、 IV型が1 人となっていた。肺癌の発生部位は、右上葉 が6人と最も多く、左下葉が2人、右下葉、左 上葉が各1人であった。組織型では、扁平上皮 癌が8人と多数を占め、小細胞癌が2人で、腺 癌は1例もなかった。TNM分類で癌の進行度 を見ると、1期が2人、3期が5人、4期が3人と なっており、3、4期で全体の8割を占めており、 進行癌で発見される症例が大多数であった。 治療は、外科的手術例は2例にとどまり、それ 以外は化学療法、放射線療法、免疫療法(OK −432)を行い、まったく治療を行えなかった 症例が2例であった。 考案 問質性肺炎に合併した肺癌症例はCallaaha n2}により最初に報告されて以来、数多くの報 告があり、現在では両者の関係が広く認識さ lれるにいたっている。しかしながら間質性肺 炎で肺癌合併が多い理由に関して、いまだ確 立された定説はない。米田ら3》は、肺癌の発 生母地として肺線維症における肺胞、呼吸細 一98一Table l, 当科における肺癌症例 (1983.10,−1990.4.) 組織型 症例数 性別 squallOUS 51(38,3%) M47(92.1%) e4(7.9%) adeno 53(39.8%) M28(52,8%) e25(47・2%) smaU 21(15,8%) Ml9(90.5%) e2(9,5%) large 5(3,5%) M’4(80、0%) e1(20.0%) total 133(】00%) 田00(75.2%) e33(24.8%) Table 2. 当科における間質性肺炎、肺線維症症例 (1983.10.−1990.4.) 性別 症例数 male 24(70.6%) female 10(29.4%) total 34(100%) Table 3. 肺癌合併症例の内訳 症例 年齢 性別 B.1. lIP病型 部位 組織型 TM分類 治療 1 68 M 900 H−3 rt−S2 squam, T4N2M1 BRM 2 60 M 1500 Ia−2 rt−S2
squa団, T2N2MO OP.
3 77 M 1200 IVab
rt−S2 squa匝, T州2Ml (一)
4 71 M 900 n−1 rt−S6 8quam, T2N2MO cheロo.
5 85 M 1000 皿a−2 lt−S9 squam. T3NIMO (一)
6 63 M 魯600 ma−2 rt−S3 ■
squa田. T3NOMO rad.
7 72 H 2000 Ia−1 rt−S2 squaロ. TINOMO OP.
8 68 H 1000 mb−3
rt−S2 squaロ, TINO麟0 9 68 H 2000 ロー2 、 ・ lt−SlO ゴ ■
s匝all T2NOMO cheロo.
10 74 H 1500 n−2 lt−S4 8田al1 T2N2Ml
cheロo.
気管支領域での腺様化生、扁平上皮化生に注 目している。しかし、腺様化生、扁平上皮化 生ともに肺癌非合併例でも認めており、どの 程度の因果関係があるかは疑闘の残るところ であろう。Neyer−Liebow4}は蜂窩構造が肺癌 発生の母地となり得るとしており、清水6)も 蜂窩巣内に癌病巣を多く認めるとしている。 また、河野ら6》は肺癌合併症例での免疫学的 異常の存在を指摘している。 近年の我が国の賭家による報告7)“12》では 問質性肺炎の肺癌合併率は15−28%となってお り、非常に高率である。当科でも29.4%と高 い値を示しており、間質性肺炎、肺線維症例 の診療に当たっては、肺癌の合併を常に念頭 にいれておくことが必要といえるであろう。 また、レントゲン像で肺癌の合併を早期に 発見することが困難な症例が多いと考えられ、 定期的な1喀綴細胞診を行なうことも早期発見 のためには重要と思われる。 治療に際しての大きな問題点として、低肺 機能から手術適応から外さざるを得ない症例 がある(症例4,6)こと、また進行癌となるま で発見できず、全身状態の悪化から十分な治 療が行えない(症例1,3)などの点があげられ る。通常の肺癌に比して、治療上不利な面が あることは間違いないが、早期発見によりそ の不利を少しでも軽減する努力が必要であろ う。また肺癌合併者が全員重喫煙者だったと いう結果をふまえ、間質性肺炎、肺線維症患 者に対する徹底した禁煙指導が望まれる。 今回の我々の調査で特徴的であったことは、 組織型において腺癌の合併が認められなかっ たことであるg最近め報告6》7)9)11)ではいず れも腺癌が多いとされており、また従来、組 織型に差がないとする報告13}もあるが、少な くとも腺癌が少ないという報告はなく、我々 の施設でなぜ腺癌がなかったかは明らかでな い。全員が重喫煙者であったことが、扁平上 皮癌、小細胞癌が多かったとと関係している という考え方もあり得るかも知れないが、そ 一100一 もそも間質性肺炎の肺癌合併患者では重喫煙 者が多いという事実があり、この点に関して は今後更に症例を重ね、検討していきたい。 文献 1)厚生省特定疾患肺線維症調査研究班(班 長 村尾誠):昭和49.50.51年度研究報告 薔、診断基準、疫学分化会. 2) Callahan.W.P..Sutheriand.J、C..Fulton J.K.& Kltne.J.R.:Acute dlttuse tnter stltSal fibrosl3 0f the lungs.Arch、 1nter.Ned..90:468,1952. 3)米田良蔵、山中晃:肺線維症に合併した肺 癌症例について.厚生省特定疾患肺線維 症調査研究班(班長 村尾誠),昭和54年 度研究報告書.1970.p37. 4) Meyer EC,Llebow AA. RelationshiP of tnterstltlal pneumonta honeycombtng and atypical eplthelial proliterati− on to cancer of the lung. Cancer l8 :322,1965. 5)消水英男.特発性間質性肺炎に合併した 肺癌の病理学的研究一特に蜂窩描造との 関係につ占、て一.日胸疾会誌 23:873 1985 6)河野修興ほか.肺線維症に合併した肺癌 症例の臨床的検討.日内会誌 72:173 1, 1983 7)’シ本幸男ほか.肺線維症に合併した肺癌 症例の臨床的検討(その2).厚生省特 定疾患肺線維症調査研究班、昭和56年度 研究報告ar,198i,p151. 8)本間行彦ほか.特発性間質性肺炎(HP)に おける肺癌合併について.厚生省特定疾 患肺線維症調査研究班、昭和60年度研究 報告as.1985.p231. 9)饗庭三代治ほか.特発性間質性肺炎と肺 癌合併症例の背景因子と治療の問題点 jlifi癌、 25:617,1985. 10)岡野昌彦ほか.特発性間質性肺炎に合併 した肺癌の6例につV、て.日胸、 44:25 1985. lD谷村一則ほか.特発性問質性肺炎と肺癌 合併例の特徴一とくに頻度、組織型、発 生部位、病期、年齢、肺機能について一 日胸疾会誌、25:216.!987. 12)二宮和子ほか.特発性閥質性肺炎に合併 した肺ms 8症例の検肘.呼吸、8:549,198 9 13)米田良蔵,特発性悶質性肺炎と合併症一 とくle肺癌との合併一.内科Mook.NO.22 金原出版.pl28.1983.