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Academic year: 2021

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(1)

Whomの生き方

著者

深谷 輝彦

雑誌名

椙山女学園大学研究論集 人文科学篇

39

ページ

13-23

発行年

2008

URL

http://id.nii.ac.jp/1454/00001544/

(2)

* 国際コミュニケーション学部 国際言語コミュニケーション学科

Whom の生き方

深 谷 輝 彦*

Whom is Still Alive?

Teruhiko F

UKAYA

1.序  論

 現代英語において whom は極端に形勢不利な状況にある。いうまでもなく whom は, whoの目的格であるから,疑問代名詞及び関係代名詞として動詞の目的語,前置詞の目的 語に代わり節頭に生起する。British National Corpus コーパスに基づく Harrap’s Essential English Dictionary (1995)が whom の諸用法の例文をかなり網羅的に挙げているので引用す る。

(1) (疑問代名詞)

a.Whom (or who) would you consider suitable?(動詞の目的語)

b.Whom (or who) did you want to speak to?(前置詞の目的語,前置詞残留).To whom are you referring?(前置詞の目的語,前置詞随伴)

.I wondered whom (or who) to ask.(wh-疑問不定詞節)

.I suspect a certain person, I won’t say whom (or who).(wh-節削除).He enquired who (rather than whom) else I’d met.(間接疑問文) (2) (関係代名詞)

.I need to find workers whom (or who) I can trust.(動詞の目的語,制限用法).Isn’t that the lady whom (or who) you were dancing with?

(前置詞の目的語,前置詞残留) c.Bill was a man to whom we could all turn in a crisis.

(前置詞の目的語,前置詞随伴) d.She lived with her sister, whom (or who) she secretly hated.

(動詞の目的語,非制限用法) e.I rang the Jessops, from whom I’d just had a postcard.

(3)

確かに動詞および前置詞の目的語の位置に在るべき語が whom に置き換えられ,それぞれ の節の先頭に移動している。特に前置詞の目的語の場合,前置詞が whom と共に節頭へ随 伴されている例と,もとの位置に残留している例が観察できる。注目すべきは,(1c), (2c), (2e) を除き,whom の直後に代替表現として who に言及している点である。動詞の目的語 及び前置詞残留の場合には,who が whom の代わりを務めることができる。さすがに前置 詞の目的語だけは whom の専用域である。

 しかしその前置詞目的語についても,who が進出しつつある。British National Corpus コーパスで試しに with who という連鎖を検索すると,

(3) a.Who would be paired with who?

b. A passionate lover of the Savoy Operas, she was a founder member of the Bradford Gilbert and Sullivan Society, with who she had a long association.

というような例を容易に見つけられる。また With who? という疑問文を11例も同定でき る。この「前置詞+who」という連鎖の可否は,Corpora というメーリングリストで1999 年に取り上げられ,英語母語話者からの様々な反応が寄せられている。Dan Slobin は, (4) I’m quite confident that the examples of PREP+who are quite genuine, and not transcription

errors. … and the PREP+whom form seems to be on its way out.

といい,アメリカ英語で PREP+who が正当な英語であることを主張する。他方,Eleanor Olds Batchelderは PREP+who を容認しない,英語母語話者としての言語直観を披露して いる。

(5) I’m going to have to jump in here, as someone who finds all of these examples ill-formed! … In some cases, even postposing the preposition would, for me, not completely remove the tendency toward “whom.” In others, postposing makes “who” preferable for me.

と述べ,(4b) を例にとると,with を out の後に残留させ,… who(m) she had a long association with.とすれば容認可能だとする。

 who と whom の混用は決して現代英語に始まった現象でない点を押さえておきたい。 Merrium-Webster’s Concise Dictionary of English Usage (2002)によれば,14世紀の中期英語 にすでに登場し,Shakespeare の作品にもよく見られるという。

(6) a.PROTEUS: Who wouldst thou strike?̶The Two Gentlemen of Verona, 1595.

. BOYTE: … Consider who the King your father send, To whom he sends, and what’s the embassy̶Love’s Labour’s Lost. 1595.

.EDGAR: To who, my lord? Who has the office?̶King Lear, 1606.

(4)

められる。18世紀の規範文法家 Lowth は Whom is this for が正用法であり,Who is this for? は誤用であると主張する。しかし同時代の文法家 Priestley は Who is this for? こそが自然な 英語であると対立する。時代が19世紀後半から20世紀に進むと,whom の衰退が全面に 押し出されてくる。

(7) a. One of the pronoun cases is visibly disappearing̶the objective case whom.̶White. Words and their Uses, 1870.

. Whom is fast vanishing from standard American̶Mencken. The American Language, 1936.

. If … we lose the accusative case whom̶and we are in great danger of losing it.̶Simon 1980.

したがって Swan (2005: 296) の,“Who is replacing whom.” とし,who/whom の交替を現代 英語の変化であるという説明は正確さを欠く。

 それでは,最新の英語学習者向け英語辞書は whom についてどのような記述をしている のであろうか。Longman Dictionary of Contemporary English (4th edition, 2005) と Cambridge Advanced Learner’s Dictionary (2005)ともに,whom の正式度がとても高く,who を用いる のが普通であると指摘する。Cambridge Advanced Learner’s Dictionary (2005) はさらに,前 置詞の目的語では whom を選択するものの,むしろ前置詞残留と who の組み合わせで whomを避ける,と言う。一例をあげると,Who did you go out with last night? と With whom did you go out last night?を比べると,後者の言い方は極端に正式で不自然である, とまで言い切り whom の回避を推奨している。これに対して Oxford Advanced Learner’s Dictionary (7th edition, 2005)は,疑問文と関係節文の場合分けを行い,それぞれ語法を説 いている。疑問文形成で,whom は話し言葉ではあまり使われず,who が代わりをする。 これは Cambridge Advanced Learner’s Dictionary (2005) の記述と一致する。who が好まれる 構文として疑問文である,と明記している点が優れており,本研究がめざすところでもあ る。前置詞の目的語として whom をとると,とても正式な言い方となるので,話し言葉英 語では,who の使用と前置詞文末残留が適切である。次に制限的関係節では,目的語の関 係代名詞 whom はあまり使われず,who,that,ゼロ形式のいずれかである。非制限的関 係節においては,who あるいは正式度をあげて whom という選択肢となる。that やゼロ形 式は不可である。但し,非制限的関係節自体が話し言葉での頻度は高くない。以上のよう に,whom の構文・語彙的相性により場合分けをしながら記述する方が,whom の言語的 実態をより正確につかまえることできる。  語法文法的な視点の重要性を意識しながら,語法辞典や語法書を読むと,これまでの記 述とは反対に本来は who の領域であるのに whom が使用される環境があることに気づく。 例えば『現代英語語法辞典』(2006)は (8) の例文を挙げながら,

(8) a.I’m looking for a woman whom I believe works here̶Sheldon, Doomsday..The children, whom she thought were dead, had been saved̶Manser (ed.) (1990).

(5)

関係節の後に I believe / she thought が挿入された構文では,関係代名詞が whom になるこ とがある,と whom 環境の存在を教えてくれる。同様に Swan (2005: 482‒483) は whom が 好まれる環境に気づいている。

(9) a.In that year, he met Rachel, whom he was later to marry.

. They picked up five boat-loads of refugees, some of whom had been at sea for several months.

(9a) のような非制限的関係節では,who より whom の方が歓迎される,とコメントする。 また (9b) の構文,すなわち数量詞+of+whom では,数量詞を後置することは可能だが, of whomは切り離せないので,who と whom の交替はない。whom 限定の構文と言える。

2.whom のコーパス調査方法

 whom の記述的文法の代表格は Aarts (1994) と de Haan (2002) である。特に後者は, Brown, Frown,LOB,FLOB という書き言葉コーパスに BNC の spoken 部門を加えた5つ のコーパスに基づき,次の視点から whom の分布を明らかにしている1) (10) a. 英米語の変種と whom の相関:宗教書,伝記物,新聞などの正式なテクストで whomの頻度が高い。 b.構文による whom の頻度差:関係節とくに非制限的用法で頻度が高い。.whom の文法機能:前置詞の目的語をはたす whom が最高頻度。 d.whom と共起する前置詞:of が第一位。 e.前置詞残留と随伴:圧倒的に前置詞随伴。 このような調査項目ごとの頻度情報はとても重要である。それと同時に,項目と項目のつ ながりがあるのか,という疑問にも答えなければならない。例えば,疑問文と関係節で whomの分布に差があるだろうが,実際どのように異なるのか,of は whom のどのような 構文と結びついているのか,前置詞の種類と前置詞の残留は何か関係があるのか,等の問 題を検討したい。構文と構文,語彙と語彙,構文と語彙,の相互関係を常に意識しなが ら,whom の分布調査を進める。

 同時に,調査するコーパスについても考慮が必要である。書き言葉と話し言葉という変 種による whom 分布の違いを論じるときに,de Haan のコーパス選択は最善とは言えない。 Brown / LOB系の書き言葉コーパスと BNC コーパスは同一の基準で構築されていない。 そこで,本研究では,The International Corpus of English̶The British Component(通称 ICE-GB)を利用する。このコーパス・サイズは約100万語で,話し言葉と書き言葉の割 合が60%対40%である。話し言葉が豊富である点,話し言葉と書き言葉を統一したコー パスデザインに基づいて構築している点,500のテクストから2000語ずつ抽出する手法を とっている点が特徴である。しかし100万語というコーパス規模は決して大きくない。そ こで必要に応じて British National Corpus(約1億語)という大規模コーパスも活用し,

(6)

ICE-GPの検索結果を補足する予定である。 3.whom のコーパス調査  以下では,最初に whom と英語の諸構文の関係を調べたい。次に whom と英語語彙のつ ながりを論じたい。構文,語彙いずれとの関係を議論するときにも,ICE-GB の実例を材 料にしながら whom を含む節が談話上どのような役割を果たしているか,という疑問にも 注意を払いたい。そうした結果として現代英語において「使われない」と言われる whom の存在理由を問いたい。 3.1 whom と構文  すでに述べたように whom の主な用法は疑問代名詞と関係代名詞である。前者は直接疑 問と間接疑問に,後者は制限用法と非制限用法に下位分類される。ICE-GB100万語コーパ スでそれぞれの用法がどれくらい実現されているのか,頻度表を作成する2)。目的語も動 詞目的語と前置詞目的語に分けておく。それと同時に比較のために,whom と同じように 動詞・前置詞の目的語の代名詞としての who の頻度もあげる。 表1 whom の主な用法とその頻度 代名詞 用法 動詞目的語 前置詞目的語 合計 疑問代名詞 直接疑問 0 3 3 間接疑問 3 5 8 関係代名詞 制限用法 16 33 49 非制限用法 6 17 23 表2 who(=whom) の主な用法とその頻度 代名詞 用法 動詞目的語 前置詞目的語 合計 疑問代名詞 直接疑問 11 13 24 間接疑問 5 10 15 関係代名詞 制限用法 18 9 27 非制限用法 0 0 0

 合計欄を縦に再合計すると,whom の代名詞用法が83例,whom と同じ役割をする who が66例という総計頻度を得る。この頻度を見る限り,who が whom の代役を見事に演じ ている,という先行研究の指摘が妥当だと言える。

 その一方で,whom と who の分布を比べると,疑問代名詞と関係代名詞の役割分担が見 える。疑問代名詞では who が,関係代名詞では whom が優勢という傾向が見て取れる。 表3は頻度の割合をパーセントで示している。

(7)

表3 who(=whom) と whom の割合 WHOM WHO(=WHOM) 疑問代名詞 13% 59% 関係代名詞 87% 41%

こ の 対 比 は,Oxford Advanced Learner’s Dictionary の “Who is usually used as the object pronoun, especially in questions …”という記述と一致する。このような違いがなぜ生じるの だろうか。関係節と whom,疑問文と who という相性の良さはどこからくるのだろうか。 関係節の基本的機能は,先行詞となる名詞句について聞き手・読み手に情報を提供し,先 行詞の同定を援助する(制限用法)か,すでに同定された先行詞に追加情報を提供する (非制限用法)ことである。したがって,先行詞が関係節とどのような関係を形成するの か,という問に答える必要がある。そうした時に whom という関係代名詞は,先行詞が後 続する関係節において動詞目的語であると合図し,あるいは前置詞+whom という構成素 で後続する動詞とのつながりを予告する。これが疑問文となると,who(m) に後続するす る部分は前提とされ,who(m) が誰か,という質問をしている。Who have they appointed? を例にとると,they have appointed someone を前提としながら,その someone を同定せよ と要請していると言える。したがって who(m) が主語か目的語か,は聞き手・読み手には 自明だと想定されているので,重要度が落ちる。以上のように,疑問文・関係節の機能か ら代名詞形 who/whom に対する嗜好が生まれている。  関係節と疑問文の機能的相違点は前置詞目的語の場合,前置詞残留と随伴のいずれを選 択するのかを精査すると,さらに明確になる。具体的にいうと次の例文はすべて文法的で あるが,どの文が無標だろうか。

(11) a.I met a man who I used to work with.(前置詞残留) b.I met a man with whom I used to work.(前置詞随伴) (12) a.Who should I address the letter to?(前置詞残留)

b.To whom should I address the letter?(前置詞随伴)

答えは (11b) と (12a) である。この答えを確認するために,who/whom の直接疑問,制限用 法に限り,前置詞残留と前置詞随伴の頻度を調べる。 表4 who/whom と前置詞残留・随伴の頻度 WHO WHOM 制限的関係節 残留 9 1 随伴 0 32 直接疑問文 残留 11 0 随伴 2 3 制限的関係節では whom の前置詞随伴が,直接疑問文では who の残留が最高頻度である。 この事実は (11b)/(12a) の無標性を支持してくれる。

(8)

 表4のうち,頻度がゼロのケースについて,BNC コーパスで補足検索を行っておく。 (11),(12) に倣うと,次のような例文が ICE-GB コーパスに発見できないということであ る。

(13) I met a man with who I used to work. (14) Whom should I address the letter to?

(13) に近いものとして,(3b) の非制限的関係詞があるが,これについては既述のように, 容認可能性についてかなり問題がある。しかし,関係節でなく疑問文ならば,(3a) の類例 が9例,加えて,

(15) “I ha I had sort of few, few words with him this morning.” “With who?” “Cliff, Cliff.” に代表される例が9例ある。“With whom?” の14例と比べても遜色ない。(14) については 類例が見つからない。BNC コーパスから whom を含む任意の3000例を抽出しても,(14) のパターンは特定できない。「正式である」という語感の whom と「略式である」前置詞 残留が衝突し,さらに whom が疑問文を得意としないという理由で,直感的には容認可能 でも((1b) を参照),コーパスに実現しないと思われる。  whom と文法の関わりを考えるときに,最後に不定詞関係節をとりあげる。ICE-GB に は次の例がある。

(16) … the Brazilian police with whom to collaborate a matter …

前置詞随伴の場合には,不定詞関係節を前置詞 with と代名詞 whom が先導する。ところ が前置詞残留の場合には,with が matter の直後に残るけれども,whom や who は文法的 に生起できない。つまり,関係代名詞が不定詞関係節で実現するのは前置詞随伴に限定さ れている。不定詞関係節構文では who と whom のうち,whom だけが用いられる。 3.2 whom と語彙

 whom と語彙の関係を論じるときすぐに注目を引くのが,whom の直前に起こる前置詞 である。ICE-GB コーパスから「前置詞+whom」を検索し,それを頻度順に並べると, (17) となる。カッコ内は頻度を示す。

(17) 1.“of whom” (18) 2.“to whom” (13) 3.“with whom” (12) 4.“for whom” (11), 5.“from whom” (4) 6.“on whom” (3) 7.“after whom” (1) 8.“by whom” (1)  9.“without whom” (1)

BNCコーパスで同様の作業を行うと,

(9)

という随伴前置詞の順位を得る。このうち,of の頻度が第一位である点は両コーパスで 共通している。続いて of に先行する語を調べると,上位20語のうち,実に7語が「数量 詞+of+which」の連鎖である。(19) では各連鎖の順位,該当表現,頻度を表示する。 (19) 2.many of which (386) 4.all of which (335) 5.some of which (303)

.one of which (268) 11.both of which (191) 12.most of which (180) 18.each of which (84)

非常に多くの数量詞を主要部とする関係節がみられる。of whom の直後に現れる語につい て調べると,次の順位,該当表現,頻度を得る。

(20) 1.of whom were (429) 2.of whom had (289) 3.of whom are (254)

.of whom have (134) 5.of whom, (97) 6.of whom was (88) 7.of whom died (72).of whom is (62) 9.of whom he (60) 10.of whom the (52)

(20) から読み取れる要点は,「数量詞+of+whom」が後続する関係詞の中で,主語という 文法機能を果たしていることである。例えば,

(21) This is where I was first introduced to Paul Cook and Steve Jones, both of whom were regulars in the shop.

この例文では,主節で Paul Cook と Steve Jones が場面に導入され,その二人がその店の常 連客であるという従属節を付加し,Paul と Steve の追加情報としている。

 また (20) の項目の中で,7番目の of whom died が際だっている。died 以外はすべて機 能語であり,コーパスの種類を問わず高頻度を示す。そうした中で,died のみが内容語で ある。さらに of whom died の後には,

(22) a.in infancy (26) b.died young (7) c.died in childhood (6) というパターンが見られる。具体例を引くと,

(23) Petre married twice. In 1762 he married Anne (died 1787), younger daughter and co-heir of Philip Howard, of Buckenham, Norfolk. They had four sons, two of whom died in infancy, and one daughter.

人物描写のなかで,一部の人に限定した記述を付加するときに of whom died が登場して いる。そこで of whom died の原典を調べると,その90%が,

(24) The Dictionary of National Biography: Missing persons. Nicholls, C. S. (ed.), Oxford University Press, Oxford (1993). Sample containing about 31394 words from a book (domain:

(10)

world affairs)

からの実例であることがわかる。(24) の国民伝記辞典ではまず全体 (four sons) を述べ,そ の部分 (two) が died したという談話の頻出が予想され,さらに早世であれば辞典の記事に 取り入れる価値があるため,of whom died in infancy というパターンが高頻度という結果 に至っている。

 die の類義語として predecease があり,“die before another person” という語義である。こ の動詞が whom と共起する例は3例しかないが,すべて die と似たパターンを示す。 (25) They had five sons, three of whom predeceased their father, and two daughters.

(23) と比べると,非常に共通点が多いことがわかる。最初にすべてをあげ,数字+of+ whomという表現で部分集合をとりだす構文である。

 (11),(12) を振り返ると,前置詞残留と前置詞随伴のいずれもが文法的に可能であった。 しかしこの選択がいつもできるとは限らない。ICE-GB コーパスから次例を引用する。 (26) … she is condemning the lover without whom she is bereft …

この例の場合,without を文末に残す前置詞残留は適用できない。ということは without が 前置詞随伴を義務的に受ける。そして without who という形は,依然容認度が低いので, without whomが唯一の可能な形となる。同様に前置詞随伴を義務的とする可能性がある PREPOSITION+whom は次の通りである。

(27) among(st) whom, against whom, through whom, as to whom, after whom, before whom, over whom, under whom, in relation to whom, towards whom, with respect to whom

可能性があるというのは,前置詞ごとに残留,随伴の度合いが異なるからである。例え ば,after whom をとりあげる。BNC コーパスによれば,

(28) a.The head of the family was Granpa Charlie, whom I was named after.

. Playing in goal that day was the legendary Sam Bartram, after whom a road beside the ground has been named.

(28a) の前置詞残留は1例で,(28b) の前置詞随伴は31例という頻度結果である。つまり文 法的には残留,随伴ともに可能であるが,随伴が普通で残留は例外的と言わざるをえな い。さらに (28b) の関係節の非制限用法では,前置詞が絡むならば,随伴が望ましい選択 であることはすでに述べた通りである。

(11)

4.結  語

 現代英語では whom の役割が縮小しつつあると言われる。英英辞典の記述は異口同音に 「whom は正式すぎるので who を代わりに使いましょう。」という。そのためか,whom の 頻度は確かに低い。ICE-GB コーパスでは,who の2195例に対して,whom は87例という 頻度である。では whom ならではの文法的・語彙的特性はないのだろうか。この質問に答 えるべく,本稿では ICE-GB,British National Corpus を活用しながら,以下の点を明らか にした。構文面からは,

 ・who は,主に疑問文で whom の代わりを務めている。しかし関係節では whom が依然 代名詞として働いている。この役割分担は,疑問文・関係節の機能から導き出され る。

 ・前置詞と who/whom の関係を調べると,who は残留と,whom は随伴とそれぞれ結び ついている。  ・以上の特性を破る文,つまり前置詞随伴の who を含む関係節,前置詞残留の whom を含む疑問文はともに有標な文である。  ・不定詞関係節では whom のみが前置詞随伴とともに現れる。 語彙面からは,  ・whom に先行する前置詞の第一位は of である。そして「数量詞+of+whom」という 関係節を形成する。

 ・of whom に導かれる関係節で,死亡を表す die が目立つ。これは伝記辞典の記述の中 で全体・部分,早世の価値が連結している。  ・whom に随伴する前置詞がすべて残留を許すわけではない。また文法的には残留を認 めつつも,随伴が普通であるケースがある。 whomは前置詞の目的語という機能を担いつつ,前置詞随伴を基本とするという基本的性 質から,関係節と強く結びついている。特に (Quantifier) of whom という形式で,先行詞 で全体導入,関係詞部分で部分へ移行,という whom ならではの構文を作り出している。 さらに前置詞残留を認可せず随伴を常とする前置詞があるので,PREPOSITION+whom という形式は豊かな関係詞のバラエティを生み出している。 注 1) 本稿で言及するコーパスの詳細については齊藤,中村,赤野(2005)の1章,2章を参照さ れたい。

2) To whom it may concern. という自由関係節用法も2例ほど見られる。また自由関係節として Whom the gods love die young.という例を挙げる辞書もあるが,BNC コーパスにある6例中5 例が those という先行詞を伴い,Those whom the gods love die young. という文である。

References*

Aarts, F. 1994. “Relative WHO and WHOM: Prescriptive Rules and Linguistic Reality.” American Speech 69, 71‒79.

(12)

de Haan, P. 2002. “Whom is not dead?” In P. Peters, P. Collins and A. Smith (eds.) New Frontiers of Corpus

Research. Amsterdam: Rodopi, 215‒228.

小西友七(編).2006.『現代英語語法辞典(Sanseido’s Dictionary of Present-day English Usage)』. 東京:三省堂.

Merriam-Webster’s Concise Dictionary of English Usage. 2002. Springfield: Merriam-Webster.

齊藤俊雄,中村純作,赤野一郎(編).2005.『英語コーパス言語学:基礎と実践』改訂新版.東 京:研究社.

Swan, M. 2005. Practical English Usage. 3rd edition. Oxford: Oxford University Press. *紙幅の都合で英英辞典の書誌情報掲載を省略する。

表 3 は頻度の割合をパーセントで示している。

参照

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