氏 名 PARMESHWAR DIGAMBER UDMALE 博士の専攻分野の名称 博士(工学) 学 位 記 番 号 医工博甲第356号 学 位 授 与 年 月 日 平成27年9月25日 学 位 授 与 の 要 件 学位規則第4条第1 項該当 専 攻 名 環境社会創生工学専攻
学 位 論 文 題 目 Comprehensive assessment of drought, its impacts and mitigation strategies in a drought prone area of India (インドの旱魃頻発地域における渇水とその影響および 軽減策の包括的評価) 論 文 審 査 委 員 主査 准教授 石 平 博 教 授 風 間 ふたば 教 授 末 次 忠 司 教 授 新 藤 純 子 教 授 舛 谷 敬 一 京都大学 准教授 市 川 温
学位論文内容の要旨
インド国マハラシュトラ州の約40%は平均年降水量が 750mm に満たず、5 年に一度程度 の頻度で渇水が発生する旱魃頻発地域に分類される。州人口の 64%以上が農業を収入源と していることから、渇水の農学的・経済学的影響を地域レベルで評価する必要があると考 えられる。また、政策立案者に、渇水の原因と影響、様々な適応策、現地で認識されてい る被害軽減策などを伝えることが重要である。 以上を背景として、本研究では、渇水とそのローカルな社会的・経済的・環境的影響、 渇水への適応策・被害軽減策を評価すること、ならびに渇水外力と渇水に対する脆弱性に 関する指標を用いた渇水リスクマップを作成することを目的としている。本研究の対象地 域はマハラシュトラ州の旱魃頻発地域(ビマ川上流域)である。様々な情報源から二次的 なデータを収集するとともに、現地の農家世帯に対するアンケート調査を実施し(渇水が 発生した2012~2013 年)一次的なデータを収集した。また、飲料水のサンプルを採取し、 イオンクロマトグラフィで分析した。 アンケート調査の結果、渇水の最も直接的な経済的影響は、穀物類、花き・果物類、家畜類の生産の減少、雇用の減少であり、すべて農民の収入減につながるものであることが 明らかとなった。住民の移住や健康への影響、子供の通学、絶望感・喪失感、水をめぐる 争い、栄養不良といった社会的な影響も報告されている。平均気温の上昇、牧草地・森林 の悪化、水質の悪化、魚類などの野生生物の生息環境への影響、地下水位の低下などもか なり認識されている。 アンケート調査の結果をさらに定量的に分析したところ、調査に応じた世帯では、渇水 年において主たる穀物の生産が平年に比べて約 86%減少していることが明らかとなった。 また、農場での単純労働の機会が大幅に減少し、農場以外での単純労働に従事する機会が 増えたこと、調査対象の約69%が借金しており、うち 79%が渇水により借金の返済が遅れ ていることも見出された。さらに、渇水による被害の程度は、世帯人数や年間収入、所有 する土地の広さ、灌漑の程度、渇水の強度によって異なることが明らかとなった。このこ とから、世帯人数が大きく、所有する土地が小さいか中程度であり、収入が少なく、灌漑 があまり利用できない世帯ほど渇水の影響を受けやすいこと、渇水管理策を設計するにあ たっては、これらの世帯の耐性を大きくすることに特別に留意すべきであることが示唆さ れた。 飲料水に着目した分析では、渇水年において水を入手するのに必要な時間は通常の年の 約二倍となること、世帯人数が多く、収入の少ない世帯は、そうでない世帯にくらべて、 家庭用水の入手という観点で渇水に対してより脆弱であること、渇水時に政府や民間の水 供給車(タンカー)によって供給される水量は、必要量をはるかに下回っていることが明 らかとなった。また、飲料水のサンプルの分析により、硝酸性窒素による汚染が深刻であ り、水量だけでなく水質も問題であることが明らかとなった。 渇水による影響を軽減するため農民は様々な形の備えや適応策を実施し、また一部の農 民は、農作業における対応策も実施していることが明らかとなった。しかし、これらの適 応策に対する知識や認識の欠如がみられる。また、教育が十分ではないこと、所有する土 地が小さいこと、収入が少ないことなどが、これらの適応策を実施するうえで障害となっ ている。所有する土地が大きく、収入の多い農家ほど様々な適応策を採用する傾向にある。 世帯レベルでの適応策に加えて、行政の対応策も渇水に適応するうえで重要な役割を果た す。厳しい渇水への対応として、政府は、雇用の提供、飲料水の供給、家畜キャンプでの 飼料の配給、農作物被害への補償、農作物保険の実施、低利率での農業貸付金、電気料金 の免除など、様々な救済策を行っている。主要な対応策は、被害を受けた世帯にある程度 の救済を与えているが、計画と管理が効果的でないことから、農民世帯の間での満足度は 低く、よりよいガバナンスが必要である。
最後に、対象流域におけるローカルなレベルでの渇水リスクの評価を行い、マップの形 で整理した。このマップは、渇水の頻度と深刻度(ハザード)と、渇水への適応能力と直 接的に関係する社会経済的指標に基づいている。その結果、ビマ川上流域に位置するアー メドナガル、ソラプール、オスマナバード、ビードの各地域は、渇水に対するリスクが高 いか非常に高く、この地域の渇水耐力を向上させる対策をとる必要があることが明らかと なった。同様にして他の地域においても渇水リスクを評価し、渇水対策を実施する優先順 位の決定、対策の立案に資することが重要であると考えられる。 以上の調査分析の結果から、農民の渇水耐力を向上させるとともに、農民や政府が渇水 に立ち向かうことを促進する様々な対策を実施することが望ましいと考えられる。渇水の 発生後に農業地域社会が短時間で被害を回復し生産能力を元に戻すことのできる短期的・ 中期的対策に重点を置いた研究が必要である。また、旱魃頻発地域における渇水リスクを 低減させるためには、効果的な渇水モニタリングシステムや早期警報システム、効率的な 影響評価、事前のリスク管理、渇水災害計画、効果的な緊急対応プログラムの開発に関す る研究が必要であると考えられる。
論文審査結果の要旨
論文公聴会は、審査委員のほか、約30 名の研究者、学生が出席して行われた。40 分のプ レゼンテーションでは、研究内容を良く整理し、調査分析の結果を分かりやすく説明した。 質疑(20 分)では、主に、本研究で実施された調査の結果や渇水リスク評価の方法、渇水 リスクの低減策などに関する質問と回答がなされた。最終試験においては、渇水リスクの 評価方法や、調査結果をふまえた今後の研究の展開などについて質疑が行われた。審査委 員からの主な質問・コメント、および当該学生からの回答は以下の通りである。 ・研究対象地域の西側では降水量が比較的豊富であるにもかかわらず、渇水ハザードの程 度が高いと評価されているのはなぜか。 回答:本研究で用いた渇水ハザードの指標が、対象地点の降水量と平年値の比に基づく相 対的なものであるためと考えられる。今度は、絶対的な値も取り入れた指標を考える必 要がある。 ・渇水の影響を軽減する方策の効果的な組み合わせを具体的に示してほしい。 回答:たとえば、政府による飲料水の供給と cattle camp(家畜に水や飼料を提供するキャ ンプ)は別々に計画・実施されているが、これらを連携して実施することでより効率的 なものとなると考えられる。・本研究で示した結果は単一の渇水イベントに基づいているため一般性が十分ではないと の言及が論文中にあるが、今後はどのようにすればいいか。 回答:パイロット地域で長期間のモニタリングを行い、その結果をデータベースとして利 用できるようにすることが望ましいと考えている。 ・本研究の成果から渇水対策に対してどのような提案が考えられるか。 回答:現在の渇水対策は事後的なものがほとんどである。渇水に対する意識を高め、予防 的な対応策を計画・実施することが重要であると考えられる。 上記の質問、コメントに対する回答は的確なものであり、質疑を通じて、渇水の影響と その軽減策、アンケート調査や降水量データ分析の方法など関連する研究領域について深 い知識と技術を持っていることが確認された。また、論文審査の結果、以下のような点が 新たな研究成果であり、当該分野において学術的に高く評価できる功績であると結論した。 ・インド国の旱魃頻発地域で農家世帯に対するアンケート調査を実施し、渇水の影響や対 応策に関する多くの貴重な一次データを収集した。 ・アンケートの記述的項目から、渇水の最も直接的な経済的影響は、穀物類、花き・果物 類、家畜類の生産の減少、雇用の減少であり、農民の収入減につながるものであること、 住民の移住や健康への影響、子供の通学、絶望感・喪失感、水をめぐる争い、栄養不良 といった社会的な影響も無視できないことなどを明らかにした。 ・農業に関しては、渇水年の主たる穀物の生産が平年に比べて約 86%減少していること、 農場での単純労働の機会が大幅に減少し、農場以外での単純労働に従事する機会が増え たこと、渇水による被害の程度は、世帯人数や年間収入、所有する土地の広さ、灌漑の 程度、渇水の強度によって異なることなどを明らかにした。 ・飲料水に関しては、渇水年において水を入手するのに必要な時間は通常の年の約二倍と なること、世帯人数が多く収入の少ない世帯は、家庭用水の入手という観点で渇水に対 してより脆弱であることなどを明らかにした。また、飲料水の水質分析を実施し、硝酸 性窒素による汚染が深刻であることなどを明らかにした。 ・渇水に対する対応策についても分析し、一部の農民は農作業における対応策を実施して いるものの、対応策に対する知識や認識の欠如がみられること、教育が十分ではないこ と、所有する土地が小さいこと、収入が少ないことなどが、対応策を実施するうえで障 害となっていることを明らかにした。 以上のことから、本審査委員会は当該学生が博士(工学)の学位に相応しい科学的思考 能力と技術的能力、理解力、コミュニケーション能力を備えているものと判断した。