氏 名 前島 偉 博士の専攻分野の名称 博 士 ( 医科学 ) 学 位 記 番 号 医工博甲 第438号 学 位 授 与 年 月 日 平成30年9月27日 学 位 授 与 の 要 件 学位規則第4条第1項該当 専 攻 名 人間環境医工学専攻 学 位 論 文 題 名 陽子線治療ワブラー法における新たな呼吸同期システムの臨床 導入に向けた基礎的検証
(Fundamental verification of new respiratory gating system for clinical implementation in the wobbler method of proton beam therapy) 論 文 審 査 委 員 委員長 教 授 松川 隆 委 員 准教授 柏木 賢治 委 員 講 師 前川 伸哉
学位論文内容の要旨
「研究目的」 呼吸同期照射を用いた体幹部臓器に対する陽子線治療が多くの施設で行われているが、呼吸同期装 置には照射の精度に影響する様々な因子があることが知られている。近年、患者自身の呼吸制御がよ り簡便に可能な新たな呼吸同期装置(AbchesET)が開発された。本研究では、従来の呼吸同期装置 (ANZAI)を比較対象とし、新しい呼吸同期装置(AbchesET)を用いた陽子線ワブラー法の呼吸同期照 射の有用性に関して種々の検証を行った。 「研究方法」 呼吸同期照射時の陽子線ビーム特性および遅延時間の検証を ANZAI と AbchesET のそれぞれに関し て行った。ビーム特性の検証の検証に関しては動体ファントムと 2 次元検出器を用いて、同期無し (Nongate)に対する同期あり(Gate 幅:最大呼気を 0%としたときの 12%, 25%)の検証を、矩形照 射野の各ビーム特性(平坦度(Flatness)、対称性(Symmetry)、半影(Penambra)、照射野サイズ(field size)、線量(Dose))に関して評価した。またガンマ解析による線量分布の評価も行った。動体ファン トムの呼吸波形は Sin 波を基準とし、3 種類の呼吸速度(5,12,20BPM(Breath per Minute)、2 種類の 振幅(±1cm、±2cm)に関して評価した。また、呼吸同期装置の Gating 信号から陽子線ビームが発 生、遮断するまでの遅延時間を独自の計測システムにて測定した。「結果及び考察」
Flatness、Symmetry に関しては、すべての条件において±2%以内、field size, Dose に関しては ±3%以内の変動であり臨床上問題ないことが確認された。一方で Penambra に関しては、BPM が大き くなるに従い大きくなる傾向があり、特に振幅が±2cm においては、AbchesET、ANZAI ともに臨床使
用する上で考慮が必要となった。線量分布の評価に関しては Gate 幅が大きくなるほど、また BPM が 大きくなるほど γ パス率が低下する傾向となり、特に振幅が±2cm に関しては顕著なパス率の低下 を示した。遅延時間の測定に関して、AbchesET の遅延時間はビーム ON、OFF でそれぞれ、36.7±27.2 msec, 46.8±28.7 msec,ANZAI の遅延時間はビーム ON、OFF でそれぞれ、48.6±24.8 msec, 57.2±25.2 msec であった。ビーム ON、OFF とも、遅延時間は AbchesET のほうが少ない傾向となり、臨床使用す ることは問題ないと考えられる。 「結論」 AbchesET を用いた陽子線ワブラー法の呼吸同期照射は一部の使用制限はあるものの、臨床で十分 に使用できることが確認された。また AbchesET の使用により、小型モニターの指針の回転角の表示 を直接見ることにより、患者自身による呼吸制御が簡便且つ正確に再現できるため、より精度の高い 陽子線ワブラー法の呼吸同期照射が可能になると考えられる。
論文審査結果の要旨
1.学位論文研究テーマの学術的意義 放射線治療の中の陽子線治療は、物理特性(ブラッグピーク)を利用することで正常組織への線量 を減少しつつ、腫瘍に線量を集中させることができる。そのため呼吸同期照射を用いた体幹部臓器に 対する陽子線治療が多くの施設で行われているが、呼吸同期装置には照射の精度に影響する様々な因 子があることが知られている。近年、患者自身の呼吸制御がより簡便に可能な新たな呼吸同期装置 (AbchesET)が開発された。本研究では、従来の呼吸同期装置(ANZAI)を比較対象とし、新しい呼吸 同期装置(AbchesET)を用いた陽子線ワブラー法の呼吸同期照射の有用性に関して、①ビーム特性の 評価、②遅延時間の評価の検証を行った。 結果,ファントムを使用して基本的条件下において、AbchesET を用いた陽子線ワブラー法の呼吸 同期照射は一部の使用制限はあるものの、臨床で十分に使用できることが確認された。また AbchesET の使用により、小型モニターの指針の回転角の表示を直接見ることにより、患者自身による呼吸制御 が簡便且つ正確に再現できるため、より精度の高い陽子線ワブラー法の呼吸同期照射が可能になると 考えられる。 本研究において AbchesET を用いた論文は世界初となり、今後 AbchesET を呼吸同期装置として選択 した場合、検討した検証データは大変有意義なものである。 2.学位論文および研究の争点、問題点、疑問点、新しい視点等 本研究は実際のヒトではなく、ファントムを用いて 10x10cm(放射線治療における検証に用いるゴ ールデンスタンダードの照射野サイズ)、腫瘍の動きを頭尾方向だけを模擬して本研究は行われてた。 実際のヒトにおける腫瘍の照射野形状、腫瘍の頭尾方向以外の移動(腹背方向、左右方向)を検証す る必要があると指摘された。その点を今後更なる追及を期待したい。 本研究の問題点として,「ビーム特性の検証(①)」に関して,数字の羅列が多く、その結果が優位 なのか、劣勢なのか、数値の意味を含めクリアに感じられない箇所がある。その点を見た時にすぐ分かるように改善できることを、今後期待したい。 新たな視点として、実際のヒトで行った呼吸同期法により、何らかの理由でずれてしまった場合、 それが判別できる方法が導き出せないのかと提案があった。 更に、この度は陽子線ワブラー法に関して行われているが、いずれはスキャニング法(ラインスキ ャニング法)においても呼吸同期法が行われても良いのではないかと期待されている。現段階におい ては、ビームの始点、終点の再現性などに問題があり行われていないが、今後は行われることを期待 される分野であるといえる。 3.実験およびデータの信頼性 本研究において、実験のデザインや検証データの選択、研究方法、統計学的手法など明確に記載さ れており、これらの研究データの信頼性は十分であると判断した。 4.学位論文の改善点等 今回提出された論文は、内容も様式も学位論文として全く問題が無く、改善点は無いと判断した。