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リーダーシップの連鎖に基づく学校経営に関する一考察

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Academic year: 2021

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リ ー ダー シ ップ の 連鎖 に 基づ く 学校 経 営に 関 する 一 考察

A study of school management based on a chain of leadership

木 口 雅 也

( 兵庫教育大学大学院連合学校教育学研究科学生)

KIGUCHI Masaya

Doctoral program student of the Joint Graduate School in Science of School Education, Hyogo University of Teacher Education

1.はじめに 本稿はミドル・アップダウン・マネジメントの実効性を高めるための一つの要素としてリ ーダーシップの連鎖が有効であるということを質的調査を通じて明らかにすることを目的 とするものである。 1998 年の中央教育審議会答申「今後の地方教育行政の在り方について」を契機とし、新 自由主義的な教育改革が進むこととなった。同答申では教育委員会の学校への規制を緩和 して学校に自主性・自律性を与える一方で、学校に説明責任を課し、学校評価の導入による 責任の体系化を求めている。それを円滑に進めるために、校長のリーダーシップを強化(職 員会議の補助機関化、学校評議員制度の導入)することで、「組織的、機動的な学校運営体 制」をシステム化した(篠原 2012(1))。 この流れを受けて 2000 年 12 月に教育改革国民会議から出された「教育改革国民会議報 告:教育を変える 17 の提案」のうちの一つの提案が「学校や教育委員会に組織マネジメン トの発想を取り入れる」というものであり、教育界に組織マネジメントが導入される契機と なった。この提案の中では、「学校運営を改善するためには、現行体制のまま校長の権限を 強くしても大きな効果は期待できない。学校に組織マネジメントの発想を導入し、校長が独 自性とリーダーシップを発揮できるようにする」とされ、組織マネジメントの発想を取り入 れることで、学校のこれまでの経営のあり方を質的に転換することが求められた。その後、 全国各地で校長、教頭等を対象とした組織マネジメント研修が実施されるようになってい る(柳澤 2014(2))。 以上のような制度整備が行われ、独自性とリーダーシップを発揮できる状況において管 理職、特に校長が進めていかねばならないのが学校組織開発であろう。大野(2003)(3)は、 「学校組織開発の過程を促進する中心的なリーダーシップは、その学校のビジョン(組織文 化)を形成・管理し、教職員間の連携・協働を図っていく『文化的リーダーシップ』といえ る」とし、優れた実践力を持った教職員に、その力量に見合う仕事や責任をエンパワーメン ト(権限移譲)できれば、組織開発は学校の協働態勢づくりを実質的に支援する改革過程と して機能する、と述べている。ここで重要なのが、「誰に権限移譲をするのか」ということ である。学校組織変革のためには、トップダウン型では現場の共振が得られにくく、ボトム

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アップ型では個人的に動く人だけが動き、調整が難しい。そこで注目するのが組織と個人の 中間にあるチームとそのリーダーであるミドル層である。組織の向かうべき大きな方向性 を示すトップに対して、現場のチームリーダーであるミドルは変革の実質的な推進者であ る(曽余田 2003(4))。つまり、校長が学校組織の開発を行っていく上でミドル層への働きか けなくしては、その開発はうまく進まないと考えられる。また、畑中(2018)(5)は、「トッ プ層、ボトム層の間に生じた矛盾へ対処するのが、プロジェクト・チームリーダーを担うこ とが多い「ミドル」であり、「ミドル」は組織構成員との相互作用(ミドル・アップダウン) を通じて組織内で生じた矛盾に対処する。「ミドル」はこの役割を通じて暗黙知と形式知の 循環を促進させ組織的知識創造に貢献するのである。近年、学校組織の階層化が進む中、ト ップ層とボトム層の「かけ橋」としての役割は従来にも増して重視されており、それゆえ、 ミドル・アップダウン・マネジメントへの期待も高まっている。組織活性化の具現化のため にはミドル層を活用したマネジメントが求められる」、と述べている。 このように、校長が学校経営・組織開発を行う上で有効な方法であると考えられるミド ル・アップダウン・マネジメントであるが、このことについて検証している研究は管見の限 り非常に少ないと言わざるを得ない(cinii における「ミドル・アップダウン・マネジメント」 での検索結果は 2019 年8月8日時点でわずか 21 件であった)。本稿が、X 市立 Y 中学校長 のミドル・アップダウン・マネジメントの事例に着目し、その具体的手法とそこに見られる リーダーシップの連鎖について考察することは、今後の管理職候補者やミドル層の教員に とって、実効性のあるミドル・アップダウン・マネジメントの手法を知ることができるとい う点で有意義であろう。 2.学校訪問と聞き取り調査について (1)調査校の概要 調査対象とする学校は X 市立 Y 中学校である。X 市は関西大都市圏に位置する政令指定 都市である。Y 中学校は X 市の南部に位置し、区内には、主要な河川が流れ、古くから港 を中心に水運の拠点として栄え、発展してきた。Y 中学校区は、比較的経済力は高い地域で ある。保護者についても、比較的協力的なところが多く、今後の学校運営にどういった形で 関わってもらうかというところには管理職の手腕が問われる部分である。中学校区の全体 像としては、校区の 3 小学校(A 小学校、B 小学校、C 小学校)はいずれも Y 中学校の南に 位置し、B 小、C 小出身の生徒は電車を使って通学している。Y 中学校の全校生徒数は 609 名、教職員数は 37 名(いずれも 2016 年調査時)である。校長は F 氏であり、Y 中学校に赴 任して 5 年目(教頭として 1 年、校長として 4 年目)である。なお、本稿を執筆するにあた って、聞き取り調査を行うわけであるが、IC レコーダによる録音及び、聞き取り内容を文 章化することについての許可を F 校長に得ている。 (2)学校行事訪問 学校経営がいかなる状態にあるのかを最もよく表すのがその学校の生徒の様子であろう。 校長の描くビジョンがどう一般教員に共有され、それが生徒への指導にどうつながってい るのか、その指導を受けた生徒はどのように成長しているのか、という流れの最先端に位置 するのが生徒の姿である。よって、まずは学校行事訪問を行い、生徒たちのありのままの姿 を観察することから始めることとした。

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①合唱コンクール(2016.9.16 訪問) 生徒たちがホールに入場し一旦着席後、始まる前にトイレに行く時間があった。教師の立 ち番もきちんとなされていて、組織として生徒指導を行っていると感じた。とはいうものの、 高圧的に生徒を指導するという雰囲気はなく、むしろ声のかけ方は穏やかで、学校が落ち着 いているのだと感じた。実際の生徒の様子はというと、元気のいいあいさつをしてくれ、明 るい印象を受けた。 合唱コンクールが始まると、まずは教師の諸注意があった。この諸注意が終わると教師の 声かけ等は一切なく、すべてが生徒たちによる運営となった。司会進行、合唱委員長の話(メ モなし)、生徒会執行部と合唱部による校歌斉唱と続き、各学年の学年合唱から始まって、 クラス合唱。それが終われば次の学年の学年合唱、クラス合唱と流れていく。合唱のレベル は高かった。全員が前向きな姿勢で合唱に取り組んでいる姿が見受けられた。教師が前面に 出ることなく、生徒を前面に押し出しながら、自発的に取り組むように指導しているのだと 感じた。 ②体育大会(2016.9.27 訪問) 生徒が主体的に取り組んでいることをとてもよく感じた行事であった。開会式に引き続い て行われた準備体操では、ラジオ体操ではなく、J-POP の曲に準備体操の要素を入れた体操 となっていたのには驚いた。また、生徒会が中心となってオープニングセレモニーが行われ、 こちらもまた、生徒主体の取り組みが非常に好印象だった。 Y 中学校ではここ 3 年間、3 年生有志による「ハカ」(ニュージーランド、マオリの人々の 伝統的な踊りで、戦場で敵と対面するときや和平を結ぶ際に、一族のプライドをかけて披露 する慣わし、現在ではラグビーニュージーランド代表が有名)が行われている。これは、3 年 前に近隣の高校のラグビー部が実際に Y 中学校を訪れて、披露したことがきっかけとなっ ている。生徒たちは気迫に満ち、素晴らしい演技だった。こういったきっかけを作ったのは 校長の F 氏であり、外の風の活用が上手くなされた例であると考える。 全体を通して、順位に関係なく、最後まで頑張りぬこうとする姿勢、前向きに取り組む表 情、自分を出すという姿が印象的であった。行事は日頃の取り組みの集大成で、それを見に 来ている保護者や来賓にはそこに至るまでの水面下の部分は見えない。ここまで至るには、 教職員の日ごろからの並々ならぬ努力があったはずだ。 ③学校行事訪問を通して 合唱コンクール、体育大会の学校行事訪問を通して生徒たちがそれぞれの個性を十分に 発揮して、主体的に取り組んでいる姿が印象的であり、それと同時になぜここまで生徒たち がいきいきと活動できるのかという疑問を抱いた。そこで、両方の行事を中心となって動か している生徒会活動にその手がかりがあるのではないかと思い、F 校長だけではなく、生徒 会担当の教員にも聞き取り調査を行うことにした。 (3)聞き取り調査 筆者の学校現場での経験上、校長が全教職員を直接指導することはまずあり得ない。にも かかわらず、Y 中学校の教職員は同じ方向を向いて、生徒への指導に当たっている。指導を 受けた生徒たちはいきいきと活動している。この状態を作り上げるまでに、F 校長はどのよ

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うなことを考え、どういった手を打ってきたのか。その、鍵となる部分がミドル・リーダー への積極的な働きかけと、ミドル層のアイデアの尊重を重視した「配慮」型リーダーシップ (高尾 2004(6))である。そして、ミドル・リーダー(本稿では生徒会主任の J 教諭を指す) が、生徒会運営を行う際に、F 校長が J 教諭に対して行ったのと同様のリーダーシップを生 徒に対して発揮していた。つまり、「配慮」型リーダーシップの連鎖が起こっていたのであ る。以下では、F 校長への聞き取りと、J 教諭への聞き取り調査の詳細について述べたい。 ①ミドル層から始まる教員の意識改革 ~F校長への聞き取り調査より(2016.10.12、 2016.12.19 半構造化面接) F 校長への聞き取り調査では、校長自らの目指す教師像をどのような着眼点で、どのよう な方法で一般教員に浸透させたのか、その経過について尋ねることとした。初めに、F 校長 がどのような目指す教師像を描いているのかを尋ねたところ、1冊の書籍を手渡された。そ れは学校の教師がどうあるべきかということについて述べられたものであった。以下では その内容を引用し、紹介したい。 「力の指導」は無力であることを知ったとき、生徒の心を動かす術を学んだ。それは、人間 関係においては「相互の信頼関係」がすべての始まりであることを思い知らされた。 「学校の先生」と呼ばれる職業において、人を育てることを使命とするならば、信頼関係の 構築なしでは、教科を教えることはできても、人を育てることはできないと確信している。 (中略)本校の目ざす教職員像の一番に掲げているのは「子どもへの愛情や慈しむ心を大切 にする教職員」である。 舩山 洋一「学校の先生」『教育展望 2016 年 7・8 月合併号』教育調査研究所 p.50 より一部抜粋 F 氏は 5 年前に教頭として Y 中学校に赴任した。当時の Y 中学校生はひと頃の荒れた時 代を何とか通りぬけ、ようやく落ち着こうとしてはいたものの、協力して取り組むといった 姿勢が見えない、体育大会の予行演習でも座席につかない。そういった状況がある一方で教 師は自分の席に座ってただ見ているだけで何か指導をするということがない状況であった。 当時のことを F 氏は次のように語る。 学校の体質というか、その塀の外と塀の中という考えをしたときに、塀の中の世界という のは、結構お互いに干渉しないでいる体質があるでしょ。もっともっとそこは風通しを良く して、フランクにいろんなものをお互いに指摘をしあいながら、お互いを高めていくという、 組織体であればいいんだが、そこの部分は結構入っていかない。学校が荒れている時代とい うのは、そんなことを言っていられないから、お互いに協力し合うのだが、ある程度落ち着 いてしまうと、一旦そこでそういう組織づくりをしてきたのが、滞ってしまってお互いに干 渉しない。特にコンピュータが入ってきてからはあまり職員室での会話がない。うちが67年前に荒れていた時には、職員室での、僕も目の当たりにはしていないけれども、聞くと やっぱり職員室の中で会話がない。一部の年配の者の顔色を見ながら、動いていかなくては ならない。あるいは、年配の者は自分の了承を得ずに、他のところで動いていたら、そこを つぶしにかける、そういうものすごく閉塞的な世界があった。

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F 氏が着任してすぐに感じたのは教師間の相互不干渉やコミュニケーション不足による 教師間の対立であった。そこで「まず教師が変わらないと生徒は変わらない」と考え、頑張 ろうとしているミドルを中心に声をかけ続けた。例えば、「職員室に来客がある際に、誰も 反応しないなんてことは論外で、一般企業では通用しない行動だ」、のように教師の考え方 を「他人事」から「自分事」への発想の転換をはからせようとしたのである。そして、少し ずつ教師の意識が変わっていく中で、さらに教師間のコミュニケーションを図らせようと した。 2年目に校長をしたときには、職員がよく入ってくるのです。入ってきて何を言うかとい うと、「あの先生がこういうことをしているのです」、「あの先生はこういうところに問題が あります」、というような、そんな場面が多かったので、やっぱりここのしんどさはそれや なと。それは全部突き返して、「なんでそれをあなたが直接言ってあげないの、今あなたが 感じていることをその人に告げていくことの方が愛情深いのではないか」、という返し方を していく中で、ちょっと変わっていった。 F 校長はこれまでの教員生活の中で、「生徒は、教師同士が仲がいいかどうかは簡単に見 抜いてしまう」ということを経験則として持っていた。そこに手を打ち、協力して取り組ん でいる教師の姿を通して、子どもたちにあるべき姿を身につけさせようとしたのである。F 校長は Y 中学校の問題の核心は教師間の関係性にあると判断し、教師同士のコミュニケー ションを促進し、職員室内の風通しを良くしていこうとした。この戦略が実を結び、徐々に 職員間にコミュニケーションが生まれ、一枚岩になってきたところで、F 校長は次の手を打 つ。それは、学校教育目標における「目指す教職員像」の優先順位の変更である。それまで は、「授業力を高め、授業改善を恒常的に行う教職員」を目指す教職員像の第1の優先順位 にしていたが、「子どもへの愛情や慈しむ心を大切にする教職員」を目指す教職員像の最優 先事項に変更した。このことについて、F 校長は次のように語っている。 一番大きな転換期を迎えたのは、ここの目指す教職員像のここら辺はずうっと言い出し てきたのだが、子どもへのというのが2番目にきていたが、1 番に上げてきて、子どもへの という部分があるとき足らないなと、ものすごく強調していた。3年ほど前に。結局、うち の先生はものすごくまじめな先生が多くて、足を引っ張るような、かつてはそういう先生も いたみたいだが、ものすごくまじめに取り組むのだが、結局本当に子どもと一緒になってい こうという部分が、ちょっと冷めた部分があったので、そうじゃないよと、わずか10分で も職員室に帰ってくる前に、休み時間でも生徒と廊下で話をするとか、子どもの変化に気付 いてやろうとか、朝は子どもの変化を見るために校門で迎えてやろうとか、ということを言 い出して生徒との関わりが変わっていった。馴れ合い的なものではなくて、どっちかという と来た時に、子どもはある意味大人の目で先生を見ていた、というかちょっと冷ややかな部 分があった、そこは変わった、この何年かで。そういうのものも、ものすごく学校を動かし ていくうえで大事な先生の要素かなと。授業するだけではなくて、そこができてくると目に 見えない問題も発見できることが多くなった。まあ、人間の原点ですもんね。いやな奴にな んぼ教えてもらったって、聞く気になれない。

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以上のことより、F 校長が自らの目指す教師像を一般教員に浸透させるまでの経過を述べ たが、そこには①問題を発見し、組織のどの部分に手を打つかを考えた上で、②ミドルへの 働きかけを行い、一般教員への働きかけが実効性を伴うような準備をし、③目指す教師像の 変更を行うことで、一般教員にも浸透させることに成功したといえよう。 ②ミドル・リーダーの意識と行動 ~J教諭への聞き取り調査より(2016.10.12 半構造化面接) 学校行事訪問を通して、生徒たちがいきいきと活動している姿が非常に印象に残った。と 同時に、「なぜ、生徒たちはこれほどまでに主体的に活動しているのか。また、指導する教 員はどのようにして、このような状態をつくることができたのだろうか」という関心を持っ た。そこで、合唱コンクールと、体育大会の両方に深くかかわっていた生徒会に着目し、そ の主任であった J 教諭に聞き取り調査を行うこととした。 J 教諭は 2013 年度から 2015 年度まで生徒会主任を担当し、2016 年度は第 1 学年の主任 を務めている。Y 中学校の生徒会活動は活発である。体育大会の冒頭に生徒会役員がオープ ニングセレモニーを行うが、企画、運営のすべてを生徒たち自身で行っている。他にも、「Y ウィーク」として、生徒会執行部と各専門委員会がそれぞれの取り組みを行う期間を設け、 自治的な活動を行う仕組みを作っている。実際に合唱コンクールや、体育大会を見学させて もらったが、生徒たちは自分の思いを言葉や行動で表している。何よりも取り組んでいる最 中の目の輝きが素晴らしかった。「なぜここまで生徒たちがいきいきと活動できるのか」と いう質問を J 教諭にしたところ、次のような答えが返ってきた。 生徒会活動を活発化させるには、生徒の発想を先生がつぶさないということが最も大切 だと思います。少なくとも生徒会の中心に立候補してくる生徒なのだから、何らかの形で頑 張りたいという気持ちを持ってきているんですよね。にもかかわらず、教師側が一方的に意 見を押し付ける、あるいは強力に誘導するような、生徒を「教師のコマ」として働かせるよ うな運営では、生徒会活動はうまくいかないと思うんです。 J 教諭は、生徒会活動を活性化するために生徒会執行部への関わり方のスタンスとして、 生徒たちの発想をつぶすのではなく、彼らの意欲を大切にし、議論が活発になるよう支援を するという立ち位置をとることとした。生徒たちに内発的動機づけを起こして、その勢いを もって生徒会活動を活発にしようとしたのである。 そういった J 教諭の取り組みもあって現在では、X 市内全中学校の生徒会の代表を務める までに成長した Y 中学校の生徒会だが、そこに至るまでには平坦な道ばかりではなかった。 初めは「生徒が主役になれる」取り組みに対して「どうしてそんなことをするのか」と疑問 を投げかける教師もいた。当時は、荒れが少しずつ収まり始めた頃であったが、まだまだ生 徒会活動への理解が高まってはいなかった時期に、支えとなったのはメンターの存在であ り、管理職の存在であった。 僕が生徒会の主任をしながら、先生方が手をたくさん差し伸べてくれたということはす ごく大きいことではあるが、何よりも生徒会活動を学校の中の大きな柱にするためには、管

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理職の先生の一番のバックアップがないと絶対に実現できないことです。現校長が教頭で あった時から、生徒会活動に関しても、直接の言葉は少ないかもしれないけれど、やろうと していることに対して、ほぼ「だめだ」という言葉を聞いたことはないんです。まずはやっ てみなさいというスタンス。F教頭が校長になってから、全市の中学校の生徒会の長になる のも、校長の後押しがあったのが大きくて、生徒会活動に主体的になれる元をたどっていく と、やはり管理職の先生方の理解と、任せてくれるという姿勢がないと実現できない。 この J 教諭のインタビューの中に、F 校長のミドル・アップダウン・マネジメントの核心 部分を見ることができる。F 校長が描くビジョンをミドルである J 教諭に伝え、「任せる」 ことでミドルに自由度を与える。自由度を与えられた J 教諭は、「やらされる」仕事ではな く、生徒会主任を「自らの意思でやる」仕事ととらえ、積極的に発信するようになる。発信 の内容が学校全体を巻き込むようなものであったとしても、校長が後ろ盾となって J 教諭の 取り組みを支えることができており、安心して J 教諭は生徒会活動の活性化に尽力すること ができるということである。 また、いい意味で生徒会執行部が「特別な存在である」ことを執行部自身にも、一般生徒 にも持たせるために映像を使った取り組みも行った。それはチャイムを鳴らさずに行動す ることを推奨するために、動画を作成し、全校生徒の前で放映する、というものである。 一日中チャイムを鳴らさずに、時計を見て動く。似たような活動を他校がやっていて、F 支部生徒会の集まりが年3回あるのだが、他校の活動の報告をきいて、アレンジして今のY 中学校ならもっとできるだろう、とかむしろそういう学校になりたいよねという話が子ど もの方から出てきて、もともとはベル着、チャイムが行動のきっかけだった。そういう取り 組みをしていたが、ノーベル運動は、正当な発想と、面白い発想のハイブリッドでできたい い取り組みだった。この取り組みは単に、生徒の向上心だけではなく、目に見えて学校が良 くなっているという実感があるからこそもっと上を目指そうという子どもたちの向上心に つながっている。とはいえ、最初は1から10までレールを引いてやらないといけないこと ではある。そこに行き着くには、生徒が主役だということをわからせるために、映像を用い た。ベル着しましょうというのを、30秒程度のCMを生徒会役員を使ってつくる。全校生 徒からすると、知っている子が映っている。映像に映るというのは特別なこと。映されてい る本人はみんなに対して、特別な状態で自分が紹介されているという、「なんかやってやっ たで」、みたいな気分が出てくる。 生徒会執行部は学校の顔であり、自主・自立・自治の象徴であると考える。執行部にいか に自尊心を持たせつつ、学校の中での存在感を示していくことができるか。J 教諭は生徒会 主任としての実践の中で、まず生徒との間に信頼関係を築くために生徒たちに自由度を与 え、彼らの内発的動機付けを喚起しながら、活動に主体的に取り組む土台を作った。その上 で、生徒たちが主役になるような手段を講じ、生徒会執行部員たちに自尊感情を持たせるこ とに成功したわけである。

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3.考察 F 校長のインタビューの中に「ミドルで牽引できる者が 4・5 人いて、ここ数年は任せて おいていいような状態で、さぼらせてもらっていて(冗談)、でも企画をきちっと作ること ができていれば、動いていくから。もうそういう段階に入っているので」とあった。 校長の描くビジョンをミドルに伝え、そのミドルが企画を校長に提案し、しっかりと仕事 を「任される」。そしてビジョンに沿った内容の企画をミドルが第一線の教職員に伝え、実 際の教育活動となって子どもたちに還元される。その時には第一線の教職員も目指すベク トルが合った状態で行われるので、よい成果が得られる。第一線の教職員にとっても、企画 運営したミドルにとっても、最終的には学校長にとっても幸せな結果が訪れるという状況 になっている。こういったことの積み重ねで、Y 中学校には任せておけるミドルが数人育っ ているというわけである。しかしながら、ミドルは勝手に育つものではなく、育てるもので ある。生徒会の成功例をとると、F 校長が「補導的生徒指導よりも、開発的生徒指導へ」と いう理念を実現するために、思い切って J 教諭を生徒会主任として起用し、後ろ盾となりな がらミドルの戦略的突出を起こす。短期的に見えた成果を使って、後続集団の発生を誘発す る。その相乗効果によって、学校全体が「生徒指導とは生徒会活動を通して開発的に行うも のである」という新しいレベルに到達することができた。 そういった過程の中で注目すべきは、校長と J 教諭のリーダーシップであろう。2 者のイ ンタビューを通して、注目すべきは F 校長が J 教諭に示すリーダーシップの在り方と、J 教 諭が生徒に示すリーダーシップの在り方が重なっているということである。リーダーがフ ォロワーに自由度を与えることで、フォロワーには内発的動機付けが起こり、そのことが取 り組みの成果に影響を与える。フォロワーがその成果に対して充実感と自己有用感を感じ ることができ、次の取り組みへとつなげていくことができるわけである。この流れがリーダ ーである校長とフォロワーである J 教諭の間に発生し、また、リーダーである J 教諭とフォ ロワーである生徒会執行部員の間に発生しているという、いわばリーダーシップの連鎖が 起こっているのである。ここに、ミドル・アップダウン・マネジメントが実効性を持つかど うかの鍵があるのではないかと考える。リーダーシップにおいては、リーダーがフォロワー から信頼されることが前提条件である(露口 2009(7))。リーダーがフォロワーに対して自由 度を与えることにより、フォロワーは物事に主体的に取り組むことができる。また、必要な 時にリーダーからアドバイスをもらえること、あるいは何かをするときにリーダーに後ろ 盾になってもらえることで、フォロワーとしてはそのことを進めやすい状況になる。そうい ったことの積み重ねで、フォロワーはリーダーに対して信頼を抱くようになる。その結果、 リーダーの描くビジョンがフォロワーに受け入れられ、物事が円滑に進む状況ができあが っていると考える。今回の調査では、ミドル・アップダウン・マネジメントの中にある、リ ーダーシップの連鎖が実効性の鍵となるということが明らかとなった。 4.おわりに 今回の研究では、ミドル・アップダウン・マネジメントを実効的にするためにはリーダー シップの連鎖が重要であるという結論を得ることができた。ここで、本研究における課題と 今後の展望を述べてみたい。まず、課題の 1 点目は、校長のミドル・アップダウン・マネジ メントについて、生徒会主任の教諭からしか聞き取り調査をできていない点である。例えば、 教務主任、生徒指導主任、研究研修主任といった各主任からの聞き取りができていない状況

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である。それぞれの主任から聞き取りを行うことができることによって、より多面的な角度 から校長のミドル・アップダウン・マネジメントの成功要因に迫ることができるはずである。 2 点目は、フォロワーとしての一般教員への調査が不足している点である。校長のマネジ メントの元で、一般教員にどういった変容があったのかというところまでを明らかにする ことができていない点が課題であると言える。今後については、これら課題及び、学校組織 開発において、小中連携や研究指定の活用といった人材以外の要素にも着目して研究を深 めていくことが望まれる。 <文献> 1 篠原清昭「学校改善の課題」篠原清昭編著『学校改善マネジメント―課題解決への実践的 アプローチ―』ミネルヴァ書房、pp.3-18、2012 年 2 柳澤良明「学校の組織と経営」浜田博文編著『新・教育課程シリーズ 教育の経営・制度』 一藝社、pp.130-140、2014 年 3 大野裕己「学校組織開発を促す校長・教頭の役割」木岡一明編著『チェックポイント・学 校評価1 これからの学校と組織マネジメント』教育開発研究所、pp.96-99、2003 年 4 曽余田浩史「学校組織開発を担うミドル層の役割」木岡一明編著『チェックポイント・学 校評価1 これからの学校と組織マネジメント』教育開発研究所、pp.100-103、2003 年 5 畑中大路「ミドル・アップダウン・マネジメントにおける教頭の位置―高等学校における 3年間の実践を分析事例として―」『日本教育経営学会研究紀要 第 60 号』、pp.128-142、 2018 年 6 高尾義明「組織のリーダーシップ」二村敏子編著『現代ミクロ組織論』有斐閣ブックス、 pp.177-198、2004 年 7 露口健司「学校改善のリーダーシップ」篠原清昭編著『学校改善マネジメント―課題解決 への実践的アプローチ―』ミネルヴァ書房、pp.41-59、2012 年

参照

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