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環境税の財政社会学―その問題意識―(特集 環境税の財政社会学―長期的傾向と国際比較の分析から―)

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Academic year: 2021

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(1)特集 環境税の財政社会学  ―長期的傾向と国際比較の分析から― . 環境税の財政社会学 ―その問題意識―. 茂  住  政 一 郎 本特集は,国際的な環境税政策の動向に関す. は欧州各国で広まっていった.そして,その重. る研究を,国際比較分析を念頭にまとめたもの. 要性は,環境政策論のみならず,財政学の研究. である.. 領域においても広く認識されることとなったの. かつて宇沢弘文は,全ての人々の人間的尊厳. である(例えば石編[1993]) .. と魂の自立が守られ,市民の基本的権利が最大. 本来,環境税は,環境汚染物質の排出に伴う. 限に確保できる,本来的な意味でのリベラリズ. 外部不経済の発生を抑制するピグー的課税とし. ムの理想が実現される「ゆたかな社会」の基盤. て位置付けられる.この観点に立つ場合,税収. にあるべきものとして, 「社会的共通資本」とい. の中立性が原則とされ,効果的に環境保全の取. う概念を提唱した.彼は,社会的共通資本を,. り組みを促進しつつ,資源の効率的活用,生産. 大気,水,森林,河川,湖沼,海洋,沿岸湿地帯,. 性の向上等を確保しようとする「税制のグリー. 土壌などの「自然環境」 ,道路,交通機関,上. ン化」 ,また環境税を導入する結果として社会. 下水道,電力,ガスなどの「社会的インフラス. に対して環境面と経済面に二重の受益をもたら. トラクチャー」 ,教育,医療,金融,司法,行政. す「二重の配当」が期待されてきた(例えば諸. などの「制度資本」の三つの範疇に分類した.. 富[2000]) .他方,日本では,1999 年の地方分. 宇沢にとってこれらは,社会全体の共通の財産. 権一括法以降,地方独自課税として産業廃棄物. として社会的な基準に従って管理運営され,そ. 課税や森林・水源環境税の導入が広まった.こ. の具体的な構成は,それぞれの国ないし地域の. のことは,なぜ当該地域の住民が負担増を受け. 自然的,歴史的,文化的,社会的,経済的,技. 入れたかに加え,産業廃棄物課税が環境負荷の. 術的諸条件に依存して,政治過程を経て決めら. 排出に行われる本来的な環境税である一方,森. れるものだった.そして,これら社会的共通資. 林・水源環境税がそれとは異なる目的税的性格. 本を充足する手段の一つとして宇沢が位置付け. を持つことの是非,その税収によって進められ. ていたのが,環境税である(宇沢[2000]) .. る政策の実施主体のあり方についての問題提起. 1970 年代以降,地球温暖化を含む地球環境. となった( 諸富・沼尾編[2012]) .しかし,そ. 問題に対する注目が国際的に高まり,OECD. のような指摘の一方で,近年,財政システム全. や EC を中心として,世界各国で対策が講じら. 体を環境保全的なものへと再構築していく,環. れ始めた.1991 年 9 月には,EC によって,二. 境政策の「財政論アプローチ」の一部として環. 酸化炭素排出量を 2000 年までに 1990 年の水準. 境税を評価する動き(片山[2008]),また,炭. で安定させるための提案がまとめられた.この. 素税やエネルギー課税を通じて温室効果ガス排. 提案の中に含まれていたのが,環境保全・エネ. 出を抑制しつつ,その税収を生活的・文化的環. ルギー保全を目的とした環境税だった.それ以. 境,教育や社会保障といった,近年ニーズの高. 降,オランダ,デンマーク,スウェーデン,ノ. まりが著しい分野における政府事業の財源とし. ルウェー,フィンランドを皮切りに,炭素税,. て活用する可能性が提示されていることも事実. エネルギー課税といった環境税政策の取り組み. である( 伊藤[2017]).従来,環境政策論の領. 『エコノミア』第 69 巻第 2 号(2019 年 3 月),1-4 頁[Economia Vol. 69 No.2(March 2019),pp. 1-4].

(2) . 域では,租税原則への「環境」の組み込み,環. 踏まえると,各国における環境税制が形成され. 境政策に関する適切な事務配分と負担配分の確. た意思決定過程,それが各国における財政運営. 立,及び人々の意思決定への参加が,中央政府. を通じた環境政策のあり方,及び各国の「共通. と地方政府に加え,中間領域を巻き込んだ国家. の必要」の充足の試みといかなる関係を持って. 全体による環境政策にとって不可欠であると捉. いたのかに関する分析は,極めて重要であると. えられてきた( 例えば藤田[2001]) .以上の動. いえるだろう.とりわけ,本特集の各論文が分. 向は,環境税が,環境汚染の抑制手段の一つと. 析対象とする 1980 年代末以降の時期は,1988. して評価される一方,一般的な財源調達手段と. 年「トロント会議」,1990 年「第 2 回世界気候. しての位置付けが与えられつつあることに加. 会議」 ,1992 年「環境と開発に関する国際連合. え,租税政策と環境政策の関係,財政運営を通. 会議」など,環境保全に関する国際会議が次々. じた環境政策の実施主体や財源調達のあり方が. と開催され,欧州各国で相次いで炭素税が導入. 問われつつあることを示唆しているように思わ. され,その重要性は欧州以外の地域においても. れるのである.. 認識されつつあった.このような当時の国際的. さて,財政学では通常,租税を,私たちの「共. な状況を踏まえると,環境税の導入に関する国. 通の必要」を満たす公共サービスの財源調達の. 際協調が図られていた中で,各国における環境. ために,政府が民間部門から強制的に無償で調. 税政策の動向の類似性や差異が,各国の財政状. 達する貨幣として捉える.一国の財政の有り様. 況の下で生まれた文脈についての国際比較分析. と社会動態の相互関係を,政治,経済,社会の. は,一層重要性を増すと思われる.そして,財. 観点から歴史的に分析する財政社会学では,税. 政社会学の問題意識の観点からは,各国におけ. 制を通じた財源調達のあり方と支出面での受益. る環境税制の特質が形成された要因のみなら. のあり方を,「その国の社会的価値が反映され. ず,各国の社会的特質と財政構造の関係を考察. たもの」と捉える.そのため, 財政社会学では,. する上で,環境税は格好の題材であるというこ. ある国民国家における財政構造と社会的価値の. とができるだろう.以上の問題意識に基づいて,. 関連の中で,ある税制や支出の構造が形成され. 本特集では,環境税政策を巡る各国の動向を,. た過程,それらと租税抵抗との関係,及び各国. 国際比較分析を念頭に行っていくこととする.. に固有の社会的価値との関連を制度的,歴史的. 以下,各論文の概要を紹介しておきたい.. に考察することが重要な課題となる.その際,. 本特集は,佐藤論文から始まる.1990 年以降,. 類似した制度を持つ国が異なる社会的価値を,. 欧州諸国を中心に,環境税の導入によってエネ. 異なる制度を持つ国が類似した社会的価値を持. ルギー税制の状況は国際的に大きく変化してき. つ可能性がある.そのため,各国の財政構造が. た.佐藤論文はこの状況について,そのエネル. 形成される歴史的文脈の国際比較分析は,財政 社会学のもう一つの重要な課題となる(赤石・ 井手[2015] ).さらに,各国における制度の類. 似性や差異が,ある特定の事柄を巡る国際関係 の影響を受けた,あるいは退けた,文脈の違い の結果である可能性がある.従って, 「共通の 必要」の充足と税制のあり方に関する,国際関 係論と文脈比較の融合としての国際比較分析の 有効性が浮かび上がるのである 1). 以上の環境税を巡る研究動向,宇沢の社会的 共通資本の観点,及び財政社会学の問題意識を. 1) こ の よ う な 分 析 手 法 の 可 能 性 は,Skocpol [1985]によって提示されている.国際関係論と 文脈比較を融合した分析手法の手がかりとして は,R. パットナムの提唱した二層ゲーム(two-level game)がある(Putnam[1988] ) .大島・井手[2006] では,経済政策の決定のあり方や構造といった重 要な問題について市民が行使しうると想定されて いる民主的な選択をグローバル化が束縛する可能 性と,そのような状況下における,国民国家の財 政を通じた統治及びその正統性を問うことの重要 性が指摘されている.また,国際関係論と文脈比 較の融合を意識した財政史研究として,嶋田・茂 住[2014]がある..

(3) . ギー税制の変化を,環境税導入の前後も含めた. ギー税制に対する批判が,2000 年代以降の増. 長期的な国際比較によって明らかにする.本論. 税禁止ルールと低所得者向け税額控除に帰結す. 文の分析によって,エネルギー税率は環境税の. ることになった過程を,倉地論文は明らかにし. 導入により国際的に上昇しているものの,低い. ている.. 税率に留まる諸国(日米) ,環境税の導入後も. 最後に,茂住論文では,環境税の研究蓄積の. 税率が上昇し続ける諸国(蘭丁) ,環境税導入. 中でアメリカが等閑に付されてきた状況,及び. の時期のみ税率が上昇しその後は停滞する国な. 佐藤論文で明らかにされた,環境税の規模が他. ど,多様化が進んでいる現状が明らかにした.. 国と比較して著しく小さいというアメリカの現. さらに本論文は多様化が進んだ要因について計. 状に鑑み,1993 年アメリカ連邦段階における. 量的な分析を進め,経済発展に伴う環境意識の. BTU 税導入が失敗に終わる過程を分析する.. 高まりは共通して税率を引き上げる要因となっ. 1990 年代までに,アメリカ連邦段階における. ているが,エネルギー集約度,経済のグローバ. エネルギー税政策の焦点は,石油とガスの生産. ル化,財政需要,他の租税の増税可能性が与え. と利用の促進からその供給や仕様の抑制,エネ. る影響は各国において異なるという 「多元因果」. ルギー保全や代替的エネルギー源の開発や利用. が働いていることを明らかにしている.. の促進,および財源調達へと移り変わっていっ. 続いて,島村論文は,1980 年代後半から 90. た.1993 年に発足したクリントン政権の下で. 年代にかけて政治経済的な転換期にあったオラ. 提案された BTU 税は,以上のエネルギー課税. ンダにおいて環境税がどのように導入されたの. の目的の移り変わりを踏襲したものだった.し. か,その後の史的展開は財政の動向上どのよう. かし,財源調達手段としての側面がクリントン. に位置づけられるのか,明らかにすることを目. 政権によって強く押し出されたこと,BTU 税. 的としている.オランダでは,従来環境汚染問. は低中所得層の税負担増加をもたらす可能性が. 題に個別の課徴金を導入していたが,地球温暖. あること,各州のエネルギー産業やエネルギー. 化問題への認識が広まるにつれ,それに対する. 供給の事情を個別に勘案することが連邦政府に. 包括的な経済的手段の積極的利用が検討され,. は困難だったことから,BTU 税は廃案に追い. 一般燃料「課徴金」として一本化し,さらに一. 込まれていったのである.. 般燃料「税」として改組を重ねてきた.その背. 本特集の問題意識を鑑みると,全体を総括す. 景には,国内では環境重視の政党が国民から支. る章が必要になると思われる.この点は,今後. 持されたこと,国外では他の欧州諸国を環境政. この研究プロジェクトを発展させていくうえ. 策で牽引するという外交上の政治的な立場を. で,残された課題の一つである.また,各論文. とっていたことが促進要因にあったことを島村. の内容とつながりについては,多くの問題や行. 論文は明らかにしている.. き届かない点が存在するかもしれない.そのよ. 倉地論文は, デンマークのエネルギー税制 (特 に炭素税制)の政策過程を分析し,エネルギー. うな点については,読者のご批判を請う次第で ある.. 税制が租税政策全体に与えた影響を明らかにす. 最後に,本特集をまとめるにあたって,特集. る.デンマークは炭素税をいち早く導入した国. を組むことをお認めくださった『エコノミア』. の一つであるが,産業向けの優遇措置を認めた. 編集委員の先生方,また,厳しい日程の中,編. 結果,当初の構想から外れて,炭素税の負担構. 集の労をとってくださった安達さんに心より感. 造が家計に対して重い負担を課すこととなっ. 謝申し上げる.. た.同時に,導入当初は納税者の合意が取りや すかったエネルギー税制(炭素税等)だったが, 次第に納税者の反発が強まった.このエネル. 参考文献 赤石孝次・井手英策[2015]「財政思想と財政社会.

(4) . 学」池上岳彦編『現代財政を学ぶ』有斐閣,. 諸富徹[2000] 『環境税の理論と実際』有斐閣.. 27-45.. 諸富徹・沼尾波子編[2012]『水と森の財政学』日. 石弘光編[1993]『環境税̶̶実態と仕組み̶̶』 東洋経済新報社. 伊藤康[2017] 「環境保全型社会と福祉社会の統合」 神野直彦・井手英策・連合総合生活開発研究 所編『 「分かち合い」社会の構想̶̶連帯と共 助のために̶̶』岩波書店,59-86.. 本経済評論社. Putnam, R. D.[1988] Diplomacy and Domestic Politics: The Logic of T wo-Level Games,. International Organization , Vol. 42, No. 3, 427460. Skocpol, T.[1985] Bringing the State Back In:. 宇沢弘文[2000]『社会的共通資本』岩波新書.. Cur rent Research, in ed., Peter B. Evans,. 大島通義・井手英策[2006]『中央銀行の財政社会. Dietrich Rueschemeyer, and Theda Skocpol,. 学̶̶現代国家の財政赤字と中央銀行̶̶』. B r i n g i n g t h e S t a t e B a c k I n , N e w Yo r k :. 知泉書館.. Cambridge University Press, 3-37.. 片山博文[2008]『自由市場とコモンズ̶̶環境財 政論序説̶̶』時潮社. 嶋田崇治・茂住政一郎[2014]「土建国家と国際政 治̶̶『機関車論』を巡る日米独の対応と関係」. ※本特集は,「文部科学省私立大学戦略的研究基盤 形成支援事業(平成 26∼30 年度) 」より助成を 受けた,各執筆者の研究成果の一部である.. 井手英策編『日本財政の現代史 I̶̶土建国家 の時代 1960∼85 年̶̶』有斐閣,277-299. 藤田香[2001]『環境税制改革の研究̶̶環境政策 における費用負担̶̶』ミネルヴァ書房.. (横浜国立大学大学院国際社会科学研究院准教授).

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参照

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