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<論説>集合的・公共的利益に対する私法上の権利の法的構成についての一考察(2)

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Academic year: 2021

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(1)集 合 的 ・公 共 的 利 益 に 対 す る私 法 上 の 権 利 の 法 的 構 成 につ い て の 一 考 察(2). 集 合 的 ・公 共 的 利 益 に 対 す る 私 法 上 の 権 利 の 法 的 構 成 に つ い て の 一 考 察(2)***. 第一章. 澤. 俊. 昭. 宮. 本 稿 にお け る考 察 の 目的 と構 成. 第一節. 本 稿 の 目的. 第二節. 集 合 的 。公 共 的 利 益 に対 す る私 法 上 の権 利 の理 論 的 構 築 に 向 けた 考 察 の 視 角 一 私 権 と して の 環 境 権 を め ぐ る議 論 の 検 討 か ら. 第三節 第 二章. 本 稿 の構 成一 「 行 政 法理 論 との 関係 」 と 「 根 拠 とな る民 法 理 論」 の提 示 行 政 法 理 論 との 関 係 に お いて 集 合 的 ・公 共 的利 益 に 対 す る私 法 上 の 権 利 の持 つ意 味. 第一 節. 問題 の所 在 と本 章 の構 成. 第二節. 民 法理 論 と行 政 法 理 論 の 交 錯 領 域 にお け る集 合 的 ・公 共 的利 益 に 対 す る私 法 上 の 権 利 の 存 在 意 義 一 環 境 秩 序 に対 す る私 人 の役 割 に 関 す る議 論 の整 理 を基 礎 に お い て. 第三節. 集 合 的 ・公 共 的 利 益 の 維 持 に 対 す る私 法 上 の 権 利 を論 じる必 要 性 一 私 人 に よ る行 政 訴 訟 を通 じた秩 序 維 持 の検 討 か ら(以 上54巻3号). 第三章 第一節. 集 合 的 ・公 共 的 利 益 の維 持 に対 す る私 法 上 の権 利 の根 拠 とな る民 法 理 論 問 題 の構 造 と本 章 の構 成 一 民 法 と憲 法 の 関 係 につ いて の理 論 的枠 組 を 基 礎 と して. 第二節. 集 合 的 ・公 共 的 利 益 の維 持 に 対 す る私 法 上 の 権 利 の 思 想 的 ・哲 学 的 基 礎 一 民 法 学 と公 共 哲 学(以 上 本 号). 第三節. 集 合 的 ・公 共 的 利 益 の維 持 に対 す る 私 法上 の 権 利 の 法 的 構 成一 法 技 術 的 概 念 と して の 「私 法 上 の 権 利 」 を 基 礎 と して(以 下 次 号). 第四章. 本 稿 の 結 論 と今 後 の 課 題. 一59一.

(2) 近畿大学法学. 第三章. 第54巻第4号. 集合的 ・公共的利益の維持 に対 する私法上の権利の. 根拠 となる民法理論 第一節. 問 題 の 構 造 と本 章 の 構 成. 民 法 と憲 法 の 関 係 に つ い ての 理 論. 的 枠 組 を 基 礎 と して 一 .は. じめ に. 本 章 にお いて は,集 合 的 ・公 共 的 利 益 の 維 持 に対 す る私 法 上 の権 利 の 根 拠 と な る民 法 理 論 の 明 示,と. い う視 角 か ら考 察 を行 う㈹。 この 視 角 か らの. 考 察 にあ た って は,私 法 上 の 権 利 と は何 で あ るの か,そ. して その 私 法 上 の. 権 利 と認 め られ た 場 合 に,な ぜ 私 人 が 民 事 裁 判 を 通 じて そ の 実 現 を 強 制 で き るの か,と い う問 題 の 根 拠 とな る基 礎 理 論 に基 づ いて,私 法 上 の 権 利 と して 認 め られ るか 否 か を 論 じる こ とが 必 要 とな る㈹。 以 下,ま ず 本 節 二.に お い て,筆 者(宮 澤)の 提 示 した 民 法 と憲 法 の 関 係 に つ い て の 理 論 的 枠 組㈹ を 基礎 に お い て,私 法 上 の 権 利 を 理 論 的 に構 築 す るた め の 基 礎理 論 に つ い て 考 察 を 加 え る。 この 考 察 の うえ にた って,本 節三.で,集. 合 的 ・公 共 的 利 益 の 維 持 に 対 す る私 法 上 の 権 利 を 根 拠 づ け る. 民 法 理 論 の考 察 に お い て論 じ られ な け れ ば な らな い 論 点 は な にか と言 う意 *本 稿 は. ,2004年. 度 お よ び2005年 度 科 学 研 究 費 補 助 金(研. に よ る研 究 成 果 で あ る。 **本 稿 にお い て は 敬 称 を 略 させ て いた だ き ま した. 究課 題 番 号:16730059). 。. ⑬ ゆ 本 稿 第 一 章 第 二 節 三 。(3)参照 。 な お,本 稿 にお いて は,「集合 的 ・公 共 的 利益 の維 持 に対 す る私 法 上 の 権 利 」 の 語 は,私 人 が,集 合 的 ・公 共 的利 益 に 関 して 形 成 さ れ た秩 序 に よ って 他 の 主 体 に課 せ られ て い る義 務 を,そ の主 体 に対 す る 民 事 訴 訟 を通 じて直 接 的 に 実 現 す る とい う意 味 内 容 を もつ 語 と して用 い て い る (本稿 第 二 章 第 二 節 三.(3)参 照)。 ㈲ ㈱. 本 稿 第 一 章 第 二 節 三.(3)参 照 。 宮 澤 俊 昭 「現 代 立 憲 主 義 国家 に お い て 国家 法 と して民 法 を 制定 す る意 味(一) ∼(四 ・完)」 近 法53巻1号55(144)頁 ,同2号103(402)頁,同3・4号241 (272)頁,同54巻1号1頁(2005∼2006年)参 一60一. 照。.

(3) 集 合 的 。公共 的 利益 に 対 す る私法 上 の権 利 の 法 的 構 成 に つ い て の 一 考 察(2). 味 に お け る 問題 の構 造 を 明 らか に す る。. 二 。 私 法 上 の権 利 を理 論 的 に構 築 す る た め の論 点. 民法 と憲法の関係. に つ い て の理 論 的枠 組 を基 礎 と して (1)民 法 と憲 法 の 関係 に つ い て の理 論 的枠 組 の概 略. 私 法上 の 権 利 の. 理 論 的構 築 に必 要 な 限 りで (a)私 法 秩 序 の裁 判 規 範 化 と して の民 法 の制 定 まず, 民 法 と憲 法 の 関係 に つ い て の理 論 的枠 組 の前 提 と して,① 近 代立 憲 主 義 国家 も現 代 立 憲 主 義 国家 も, 先 行 して存 在 す る社 会 の た め に 存在 す る こ と,② 国家 が, 正 当 な権 限 と して の他 者 に対 す る強 制 力 を独 占 して い る こ と,③ 現 代 立 憲 主 義 国家 に お い て は近 代 的意 味 に お け る憲 法 を基 礎 に お い た現 代 立 憲 主 義 憲 法 が存 在 す る こ と,④ 国家 の権 力 が分 立 して お り, そ の 分 立 さ れ た 権 力 の な か に 立 法 権 ・司 法 権 ・行 政 権 が 存 在 す る こ と, ⑤ 近 代 立 憲 主 義 か ら現 代 立 憲 主 義 へ と言 う流 れ の 中 で,私 的行 為 に お け る 諸 問 題 の解 消 の た め に 国家 の介 入 が一 定 程 度 求 め られ る とい うか た ち で 国 家 の 役 割 が 変 化 した こ と,が そ れ ぞ れ示 され る㈹。 これ らの前 提 に,社 会 に お い て 「私 人 間 の関 係 に お い て実 力 と して の強 制 力 を もって 実 現 され るべ き で あ る と さ れ る規 範 の集 合 」 で あ る とこ ろ の 「私 法 秩 序 」が既 に 自生 的 に存 在 して い る こ と⑬[ゆ を あ わ せ て考 え れ ば,私 法 秩 序 に含 まれ て い る規 範 の 実 現 が,実 力 と して の強 制 力 を独 占す る 国家 の 義 務 と して 捉 え られ る こ とが 導 か れ る゜1ゆ 。 そ して,大 陸 法 体 系 を もつ 国 家 に お い て は,司 法 権 を持 つ 裁 判 所 に よ る ㈹. 以 上 に つ い て 宮 澤 ・前 掲 注 ㈹ よび. 「(1)」111(88)-116(83)頁. 「社 会 」 の 用 語 法 に つ い て は,宮. 澤 。前 掲 注 ㈹. 参 照 。 「国 家 」 お 「(1)」105(94)-107(92). 頁を参照。 ⑬1ゆ 宮 澤 ・前 掲 注 ㈱. 「(1)」117(82)頁. ⑧ゆ. 「(1)」118(81)-120(79)頁. 宮 澤 ・前 掲 注 ㈹. 参照。. 一61一. 参照。.

(4) 近畿大学法学. 第54巻 第4号. 強 制 力 の発 動 の基 準 とな る法 律 が,立 法 権 を持 つ 国家 機 関 に よ って制 定 さ れ る こ とが 必 要 と さ れ るGig。そ こで,私 法 秩 序 に含 ま れ て い る規 範 を 国家 が 実 現 す る た め に は,私 法 秩 序 に含 ま れ る規 範 の 内容 が,裁 判 規 範 と して の 国 家 法 と して,す な わ ち民 法 と して立 法 権 の属 す る 国家 機 関 に よ って制 定 さ れ る こ とが 必 要 と な る㈱。 た だ し,裁 判 所 は立 法 権 の 属 す る国 家 機 関 の 制 定 した 法 律 と と も に裁 判 時 の私 法 秩 序 に 拘 束 され る こ と を基 礎 と し て,裁 判 所 に よ る法 形 成 も認 め られ る余 地 が あ る㈹。 この よ うな 立 法 権 の 属 す る国 家 機 関 に よ る私 法 秩 序 の 国 家 法 と して の制 定 あ るい は 裁 判 所 に よ る法 形 成 に あた って は,そ の 私 法 秩 序 に含 まれ る規 範 を,日 常 的 な 用 語 法 と明 確 に区 別 され て 構 成 され た 一 義 的 な意 味 を 持 つ 概 念(法 技 術 的概 念),お よ び法 の 技 術 とい う 目的 の た め に構 成 され た 日常 的 な 論 理 の 習 慣 と異 な る論 理 構 成(法 技 術 的 構 成)を 用 いて 表 現 す る必 要 が あ る㈱。 (b)私. 法 秩 序 の 修 正 とい う意 味 に お け る裁 判 規 範 と して の 民 法 に対 す る. 国家の介入 前 述(a)に示 した か た ちで の 民 法 の 制 定 に 加 え て,近 代 立 憲 主 義 国 家 か ら 現 代 立 憲 主 義 国 家 へ の 変 化 に 伴 って 一 定 程 度 是 認 され るよ うに な った 国 家. ㈹. 宮 澤 。前 掲 注 ㈹. 働. 宮 澤 ・前 掲 注 ③ゆ 「(1)」122(77)-123(76)頁 に 際 し て は,社. 「(1)」120(79)-121(78)頁. 参照 。 参 照 。 この よ うな 民 法 の 制 定. 会 に お い て 形 成 され る私 法 秩 序 に含 まれ る規 範 の 内容 を制 定法. の 内 容 と し な け れ ば な ら な い,と. 言 う 意 味 で 私 法 秩 序 に 拘 束 さ れ る と 同 時 に,. 憲 法 に よ って 定 め られ た制 限 の 枠 内 に お い て の み 制 定 法 を定 め る こ とが で き る,と. 言 う意 味 で の 憲 法 の 拘 束 も 受 け る 。 な お,こ. の 憲 法 の 拘 束 は,憲. 法 に定. め られ て い る 内 容 を 国 家 法 と し て の 民 法 の 内 容 と して 規 定 す る こ と を 義 務 付 け る と い う 意 味 で は な い(以 (69)頁 鋤. 上 に つ い て,宮. 澤 ・前 掲 注 ㈱. 「(1)」128(71)-130. 参 照)。. 宮 澤 ・前 掲 注 ㈹. 「(1)」123(76)-125(74)頁. 論 と の 関 係 に つ い て,宮 Glゆ 宮 澤 ・前 掲 注 ㈹. 参 照 。 ま た,民. 澤 ・前 掲 注GlΦ 「(2)」154(351)頁. 「(1)」125(74)-128(71)頁. 一62一. 参照。. 法 解 釈(方. 一171(334)頁. 法) 参照。.

(5) 集 合 的 ・公 共 的 利 益 に対 す る私 法 上 の権 利 の法 的構 成 に つ い て の一 考 察(2). の 社 会 へ の 介 入 の表 れ の一 つ と して,私 法 秩 序 に お い て形 成 され た規 範 の 内 容 と異 な る 内容 を裁 判 規 範 と して制 定 す る とい うか た ち で の民 法 の制 定 も存 在 す る㈱。 この よ う な介 入 は,国 家 が 私 法 秩 序 に拘 束 され て い る こ と を 理 由 と して,「 自律 的 に形 成 され た私 法 秩 序 の修 正 」 と して行 われ る こ と が 求 め られ る㈱。 こ の よ う な 裁 判 規 範 と して の 民 法 に 対 す る 国 家 の 介 入 の 限 界 に つ い て は,「 国 家 で あ る こ と に よ る憲 法 上 の 制 約 」 か ら導 か れ る限 界 ㈱と,「 自律 的 に形 成 さ れ た 私 法 秩 序 の修 正 で あ る こ と」 か ら導 か れ る 限 界 が 存 在 す る㈹。 (2)私. 法 上 の 権 利 を 理 論 的 に構 築 す るた め に示 され な けれ ば な らな い理. 論 前 述(1)に概 略 した 現 代 立 憲 主 義 国 家 に お い て 国 家 法 と して 民 法 を 制 定 す る意 味 を 示 す 基 礎 理 論 に 基 づ け ば,私 法 上 の 権 利 を 理 論 的 に構 築 す る には 次 の二 つ の 型 が 存 在 す る こ とに な る。 (a)私 法 秩 序 の 表現 と して 当事 者 に 認 め られ る私 法 上 の 権 利 (ガ 意. 味. 第 一 の型 は,私 法 秩 序 に 含 ま れ る 規 範 そ の もの を 根拠 と して,私 法上 の 権 利 を理 論 的 に構 築 す る とい う型 で あ る(私 法 秩 序 の 表現 と して 当事 者 に 認 め られ る私 法 上 の 権 利)。 この 型 に お い て 私 法 上 の 権 利 を 理 論 的 に構 築 す る と い うこ とは,私 法 秩 序 に含 ま れ る規 範 を,生 活上 の 利益 を享 受 し う ㈱. 宮 澤 ・前 掲 注 ㈹ 「(2)」105(400)-107(398)頁. ㈱. 宮 澤 。前 掲 注 ㈹ 「(2)」106(399)頁. 参照。. 参照。. ㈱. 宮 澤 ・前 掲 注 ㈹ 「(2)」107(398)頁. 参照。. 働. 具 体 的 に は,① 前 提 とな る私 法 秩 序 に 含 まれ る規 範 の 確 定 の必 要 性 を基 礎 と す る限 界,② 裁 判 規 範 と して の 民 法 に 対 す る国 家 の 介 入 の 方 法 ・内容 に 関 す る 限 界,③ 裁 判 規 範 と して の民 法 に 対 す る国 家 の 介 入 の 目的 を明 示 す る必 要 性 を 基 礎 とす る 限界,④ 前 提 とな る私 法 秩 序 に 含 まれ る規 範 の 機 能 を基 礎 と した 限 界,の 四 つ が 存 在 す る(宮 澤 ・前 掲 注 ㈹ 「(2)」108(397)-113(392)頁 一63一. 雌跡 瀦'.. 参 照)。.

(6) 冒 賜旧帥 曹鬼へ. ・ご 詠. 近畿大学法学. 第54巻第4号. る地 位 と して の 「権 利 」お よ び権 利 に対 応 す る拘 束 で あ る と ころ の 「義 務 」 の 関係 とい う法 技 術 的構 成 ・法 技 術 的概 念 を用 い て言 語 的 に 表現 す る こ と を意 味 す る こ とに な る。 ω. 構 築 の た め に示 さ れ な け れ ば な らな い理 論. 前 述(1)(a)に示 した基 礎 理 論 に基 づ け ば,こ の私 法 秩 序 の表 現 と して 当事 者 に認 め られ る私 法 上 の権 利 を理 論 的 に構 築 す る た め に は,次 の二 つ を示 さ な けれ ば な らな い。 第 一 は,構 築 しよ うとす る私 法 上 の権 利 の 内容 と な る私 法 秩 序 に含 ま れ る規 範 が 存 在 して い る こ と で あ る。 こ こ に は,従 来 認 識 さ れ て い な か った 規 範 で あ る場 合 と,認 識 され て い たが 表 現 され て い な い規 範 で あ る場 合 の いず れ もが 含 まれ る。 第 二 は,私 法秩 序 に含 まれ る規 範 を,法 技 術 的構 成 ・法 技 術 的 概 念 に よ っ て 表 現 す る こ とで あ る。 仮 に,既 存 の 法 技 術 的 構 成 な い し法 技 術 的 概 念 に よ って 表 現 され え な い場 合 に は,当 該 規 範 を 表 現 す る た め の新 た な法 技 術 的 構 成 な い し法 技 術 的 概 念 を 開 発 す る必 要 が 生 じる㈱。. ㈱. 淡路 剛 久 は,権 利 の 生 成 ・確 立 の た め の条 件 と して,① 当 事者 の あ る種 の 行 動 の 存 在,② 要 求 され た 利 益 を保 護 す べ き だ とす る価 値 あ るい は 価 値 判 断 が 社 会 的 に 広 く共 有 され て い る こ と,③ 実 定 法 体 系 の 中 で,既 存 の 法 体 系 と大 きな 矛 盾 を き た さず に組 み 込 まれ る よ う に,法 技 術 的 あ る い は法 論 理 的 に 精 錬 され て い る こ と,の 三 つ を 挙 げて い る(淡 路 剛久 「民 事 法 の領 域 か ら一 新 しい 権 利 の生 成 を め ぐ って 」 日本法 社 会 学 会編 『 権 利 の実 態1(法 頁(有 斐 閣,1986年))。. 社 会 学38号)』13-18. た だ し,こ の ① ∼ ③ の 条 件 は,環 境 法 領 域 を 題 材 と し. て法 社 会 学 的 見 地 か ら示 され た も ので あ り,日 本 法 体 系 全 体 の な か で 矛 盾 な く 整 合 的 に 位 置 づ け られ る実 定 法 理 論 が,こ れ らの 条 件 を基 礎 付 け る根 契 と して 示 さ れ て い るわ けで はな い(す な わ ち,こ の 三 つ の条 件 が満 た さ れ た な らば 私 法 上 の権 利 と して 国 家 が そ の 内 容 を 実 現 しな けれ ば な らな い の か,と い う問 い に こ た え る実 定 法 理 論 が 明示 され て い る わ け で は な い)。 本 稿 に お け る以 上 の 考 察 は,こ れ ら三 つ の 条 件 の う ち,② お よ び③ の 条件 を 実 定 法 理 論 と して 根 拠 づ け う る(① の 条 件 を 必 要 とす る根 拠 は本 稿 の理 論 か ら は導 か れ な い)。 ま ず,② の条 件 に 関 して は,本 文 に 示 した 第一 の 「 構 築 しよ う/ 一64一.

(7) 集 合 的 。公 共 的 利 益 に対 す る私 法 上 の権 利 の 法 的構 成 につ い て の一 考 察(2). (b)私 法 秩 序 に対 す る国 家 の介 入 に基 づ いて 当事 者 に認 め られ る権 利 (ガ 意. 味. 第 二 の 型 は,一 定 の 限 度 の範 囲 内 に お いて 行 われ る国 家 の介 入 に よ って 内 容 の 形 成 され た規 範 を根 拠 と して,私 法 上 の 権 利 を理 論 的 に構 築 す る と い う型 で あ る(私 法 秩 序 に対 す る国 家 の 介 入 に基 づ い て 当事 者 に認 め られ る権 利)。 この 型 に お い て は,私 法 秩 序 の 修 正 と して の 国 家 の 介 入 に よ っ て 内 容 の 形 成 され た 規 範 を 「権 利 」 お よ び 「義 務 」 の 関 係 とい う法 技 術 的 構 成 。法 技 術 的 概 念 を 用 いて 言 語 的 に表 現 す る こ とが,私 法 上 の 権 利 を理 論 的 に構 築 す る と い う こ との 意 味 とな る。 (イ)構 築 の た め に示 され な けれ ば な らな い理 論 前 述(1)(b)に示 した 基 礎 理 論 に基 づ けば,こ の 私 法 秩 序 に対 す る国 家 の 介 入 に基 づ い て 当 事 者 に認 め られ る権 利 を 理 論 的 に構 築 す るた め に は,次 の 二 つ が 示 され な けれ ば な らな い 。 第 一 が,そ の 規 範 を形 成 した 国 家 の 介 入 が,「国 家 で あ る こ と に よ る憲 法 上 の 制 約 」か ら導 か れ る限 界 と,「自律 的 に形 成 され た 私 法 秩 序 の 修 正 で あ る こ と」 か ら導 か れ る限 界 の 範 囲 内 で あ る こ とを 示 す こ とで あ る㈱。 第 二 は,私 法 秩 序 に含 ま れ る規 範 を,法 技 術 的構 成 ・法 技 術 的 概 念 に よ っ. \ とす る私 法 上 の 権 利 の 内 容 と な る 私 法 秩 序 に含 ま れ る規 範 が 存 在 して い る こ と」 と対 応 す る(た だ し,正 当化 の対 象 と な る規 範 の 内容 は,「 要 求 され た 利 益 の保 護 」 とい う内 容 に限 定 され る わ け で は な い。 な お,こ 範 の 存 在 」 は い か に示 され るべ き なの か,と. こで 求 め られ る 「規. い う 問題 に つ い て は 本 節 三.(2)(a). 参 照)。 他 方,③ の 条 件 は,本 文 に 示 した 第二 の 「法技 術 的 構 成 ・法 技 術 的 概 念 に よ って 表 現 す る こ と」 と同 じ内 容 を 示 して い る(な お,「私 法 上 の権 利 」 を 構 築す る 以上,「 権 利 一 義 務 構 成 」 とい う法技 術 的 構 成 を 維 持 す る こ とが 必 要 とな る(こ れ が 憲 法29条1項. に 基 づ い た 憲 法 上 の義 務 と考 え られ る こ とを 含 め て 宮. 澤 。前 掲 注㈹ 「(三)」285伽 頁 参照))。 ㈱. そ の 限 界 の具 体 的 内容 に つ い て は,前 掲 注㈹ お よ び 宮 澤 ・前 掲 注㈲ 「(2)」107 (398)-113(392)頁. を 参 照。 一65一.

(8) 近畿大学法学. 第54巻第4号. て 表現 す る こ とで あ る。 この 点 に 関 して は,私 法 秩 序 の 表現 と して 当 事者 に認 め られ る私 法 上 の権 利 に 関 して,前 述(a)(イ)に 示 した もの と同 様 に,既 存 の法 技 術 的構 成 な い し法 技 術 的概 念 に よ って 表現 され え な い場 合 に は, 当該 規 範 を表 現 す る た め の新 た な法 技 術 的構 成 な い し法 技 術 的概 念 を 開発 す る必 要 が生 じる㈱。. 三.集 合 的 ・公 共 的利 益 の維 持 に対 す る私 法 上 の権 利 の理 論 的構 築 と い う問 題 の構 造 (1)集 合 的 ・公 共 的利 益 の維 持 に対 す る私 法 上 の権 利 の理 論 的構 築 の型 「私 法 秩 序 の表 現 と して 当事 者 に認 め られ る私 法 上 の権 利 」 と し ての構成 集 合 的 ・公 共 的 利 益 の 維 持 に対 す る私 法 上 の 権 利 の理 論 的 構 築 の た め の 議 論 の 構 造 を 示 す に あ た って,ま ず この 権 利 が,本 節 二.(2)に 示 した いず れ の 型 に あ て は ま る もの と して 構 成 さ れ る の か,と. い う こ とが 問 題 と な. る。 この 問 題 につ いて 重 要 とな るの が,第 二 の 型 で あ る と こ ろの 「私 法 秩 序 に対 す る国 家 の 介 入 に基 づ いて 当 事 者 に認 め られ る権 利 」 と して の 構 成 に お い て は,自 律 的 に形 成 され た 私 法 秩 序 の 修 正 で あ る こ とが 求 め られ る, とい う点 で あ る。 少 な くと も現 在 の 議 論 にお い て,集 合 的 ・公 共 的 利 益 の 維 持 に 対 す る私 法 上 の 権 利 を 根拠 づ け る規 範 は,私 法 秩 序 に含 まれ る規 範 と して示 され て は い な い。 そ の た め,集 合 的 ・公 共 的 利 益 の 維 持 に対 す る 私 法 上 の 権 利 を,「 私 法 秩 序 に 対 す る 国家 の 介 入 に基 づ い て 当事 者 に認 め られ る権 利 」 と して の 構 成 す る こ と は,現 時 点 で は で き な い㈱。 す な わ ち, 集 合 的 ・公 共 的利 益 の維 持 に 対 す る私 法 上 の権 利 の理 論 的 構 築 に 向 けた 本 ㈱. ま た前 掲 注 ㈱ も参照 。. ㈹. な お,本 稿 の 考 察 に お い て, 集 合 的 ・公 共 的 利 益 の維 持 に対 す る 私法 上 の 権/ 一66一.

(9) 集 合 的 ・公 共 的 利 益 に対 す る私 法 上 の 権 利 の法 的 構 成 につ いて の一 考 察(2). 章 に お け る民 法 理 論 の 考 察 は,「 私 法 秩 序 の表 現 と して 当事 者 に 認 め られ る私 法 上 の権 利 」 と して こ の規 範 を表 現 しう るか ど う か,と い うか た ち で 行 わ れ る こ とが 求 め られ る。 (2)「 集 合 的 ・公 共 的利 益 の 維 持 に対 す る私 法 上 の 権 利 」 の理 論 的 構 築 と い う問 題 の 構 造 (a)私 法 秩 序 に含 まれ る規 範 で あ る こ とを 示 す た めの 考 察 の 対 象. 集. 合 的 ・公 共 的利 益 の 維持 に対 す る私法 上 の 権利 を正 当化 す る思 想 ・哲 学 「私 法 秩 序 の 表現 と して 当事 者 に認 め られ る私 法 上 の権 利」を 理 論 的 に構 築 す るた め に は,ま ず,そ の 構 築 の 対 象 とな る私 法 上 の 権 利 の 内 容 とな る 規 範 が 私 法 秩 序 に 含 まれ て い る こ とを示 さな けれ ば な らな い    D。集 合 的 ・ 公 共 的 利 益 の 維 持 に対 す る私 法 上 の 権 利 の 内 容 とな る規 範 と は,集 合 的 ・ 公共 的 利益 に 関 して 形 成 され た 秩 序 に よ って 他 の 主 体 に課 せ られ て い る義 務 を,そ の主 体 に 対 す る民事 訴訟 を通 じて 私 人 が 直 接 的 に実 現 す る こ との 基 礎 とな る規 範 で あ る㈹。 この 規 範 が,私 法 秩 序 に 含 まれ る規 範 と して 形 成 され て い る とい うた め に は,現 代 の 日本 社 会 に お い て,そ の 私 法 上 の 権 利 の基 礎 づ け る規 範 の思 想 的 ・哲 学 的 な正 当性 を 明 示 す る こ とが必 要 とな る㈱。 す な わ ち,集 合 的 ・公共 的 利益 に 関 して 形成 され た 秩 序 に よ って 他 の \ 利 が,私 法秩 序 の 表 現 と して 当 事 者 に認 め られ る私 法 上 の権 利 と して構 成 され え た場 合 に は,そ れ を 修 正 す る とい う形 で の,国 家 の介 入 に基 づ い て 当事 者 に 認 め られ る権 利 の 構成 は認 め られ る こ と とな る。 ㈹. 本稿 における 「 私 法 秩 序 」 は,「私 人 間 の 関係 に お い て 実 力 と して の 強 制 力 を もっ て実 現 され る べ き で あ る と され る 規範 の 集 合」と い う意 味 で 用 いて い る(本 節 二.(1)(a)参 照)。. ㈹ ㈹. 前掲注㈹参照。 こ こ で は思 想 ・哲 学 の 意 味 を,対 象 とな る範 囲 に含 ま れ る全 て の事 象 に共 通 す る性 質 を 抽 象 的 な 概 念 を 用 い て 矛 盾 な く整 合 的 ・総 合 的 に表 現 す る た め の 学 問 的営 為 と捉 え て い る(思 想 ・哲 学 の 意 味 を この よ う に捉 え る こ と は,梅 原 猛 「は じめ に」 同 『隠 され た 十 字 架 一. 法 隆 寺 論 』5-7頁(新. 潮 社,1972年)の. 記 述 を基 礎 と して い る)。 この よ うな 捉 え 方 の も とで は,「 解 釈 理 論 の思 想 的 ・ 哲 学 的 な正 当 化 」 と は,そ の よ うな 学 問 的 営 為 の 結 果 と して 示 され る 理 論 に/ 一67一.

(10) 近 畿大 学法学. 第54巻第4号. 主 体 に課 せ られ て い る義 務 を 私 人 が 直 接 的 に実 現 す る こ とを 基 礎 づ け る規 範 が,思 想 的 ・哲 学 的 に正 当 化 され な けれ ば な らな い働。 そ して,集 合 的 ・公 共 的 利 益 の 維 持 に対 す る私 法 上 の 権 利 は,私 人 が 独 占的 に享 受 し う る私 的 利 益 を 目的 とす る古典 的 な 私 法 上 の 権 利 の 範 疇 には 収 ま ら な い も の と して 構 築 さ れ る必 要 が あ る㈹。 そ う で あ る 以 上,集. 合 的・. 公 共 的 利益 の維 持 に対 す る私 法 上 の 権 利 を実 体 私 法 上 の 権 利 と して 構 築 す るに あ た って は,従 来 の 古 典 的 な 私法 上 の権 利 を正 当 化 す るそ れ とは 異 な る思 想 ・哲 学 が必 要 と され る。. \ よ って,問 題 とな る規 範 が,そ の 対 象 とな る現 実 社 会 の一 定 の範 囲 に お い て 含 ま れ る事 象 等 に,共 通 す る性 質 と して 備 わ っ て い る(存 在 して い る)こ. とを 示. す とい う意 義 を持 つ こ と とな る。 こ の よ うに思 想 的 ・哲 学 的 な 正 当 性 の 提 示 の 必 要 性 を強 調 す る こ とは,私 法 秩 序 に含 ま れ る規 範 の 存 在 を,法 社 会 学 の 手 法 を用 い て,あ る い は経 済 学 の手 法 を 用 い て実 証 的 に 提 示 す る こ との 意 義 を 否 定 す る こ と を意 図す る もの で は な い。 ま た,外 国法 の 関 連 制 度 を 内 在 的 に考 察 し,そ の考 察 結 果 か らの比 較 の な か で得 た 示 唆 に 基 づ い て 私 法 秩 序 に含 まれ る規 範 の 存 在 を示 す こ と も否 定 す る もの で は な い。 思 想 的 ・哲 学 的 にそ の 正 当性 を 備 え た規 範 の さ らな る補 強 ・展 開 に 関 して,こ れ らの手 法 は 重要 な意 味 を もつ と考 え られ る。 な お,内 田 貴 「 現 代契 約 法 の思 想 的基 礎 」 同 『契 約 の 時代 』138頁 注(2)(注56 頁)(岩. 波 書 店,2000年,初. 出 ・1992年 及 び1993年)で. は,「 … …,現 実 を社 会. 科 学 の理 論 に 基 づ い て 批 判 的 に 分 析 す る こ と は,学 問 的 営 為 と して 当然 に な さ れ る べ き こ とで あ るが,他 方 で,規 範 学 で あ る法 解 釈 学 が 現 代 契 約 法 の 『解 釈 論 』 を展 開 す る た め に は,ま ず そ れ を 正 当 化 す る こ とか ら は じめ な け れ ば な ら な い。 正 当化 理 論(哲. 学)を 伴 わ な い 解 釈 論 は,単 な る言 葉 の操 作 で しか な く. 解 釈 論 の 名 に値 しな い か らで あ る。 そ の よ うな 正 当化 理 論 を説 得 的 に展 開す る こ と に最 終 的 に失 敗 した と き,は じめ て 法 解 釈 学 は,現 実 に対 して徹 底 した批 判 の 目を 向 け,他 の社 会 理 論 に 勝 る と も劣 らな い実 践 的 な批 判 理 論 と な る の で あ る。 私 の い う正 当 化 理 論 とは,単 な る現 状 追 認 で はな く,法 解 釈 学 の右 の よ う な(あ る意 味 で保 守 的 な)学 問 的 性 格 を 踏 まえ た 理 論 的 試 み な の で あ る」 と 述 べ られ,解 釈 理 論 の思 想 的 ・哲 学 的 な正 当化 の必 要 性 が示 さ れ て い る。 ㈱. 「集 合 的 。公 共 的利 益 の維 持 に対 す る私 法 上 の権 利 」が こ の よ うな意 味 内容 を 持 つ こ と につ い て は,前 掲 注 ㈹ 参 照 。. ㈱. 本 稿 第 一 章 第 二 節 三.(3)参 照 。 一68一.

(11) 集 合 的 ・公共 的利 益 に対 す る私 法 上 の権 利 の法 的構 成 に つ い て の一 考 察(2). こ の 問題 に 関 して は,近 年 提 唱 され て い る 「公 共 哲 学 」が 注 目 され る。 こ の 公 共 哲 学 と は,基 本 的 に 人 間 と国 家 との 中 間 媒 介 領 域 を活 性 化 。健 全 化 ・成 熟 化 す る こ とを思 考 と実 践 の基 本 課 題 と捉 え,そ. こか ら現 代 に お い. て人 間 と国 家 の関 係 は ど うあ り,ま た ど う あ るべ き か を多 次 元 相 互 関連 的 に か つ根 本 的 に問 うこ と と され る㈹。 さ らに,公 共 哲 学 の 議 論 は,複 数 の 専 門 分 野 に開 か れ た形 で進 め られ て い る。 こ の よ う な公 共 哲 学 は,私 人 が 他 の 主 体 を直 接 の対 象 と して集 合 的 ・公 共 的 利 益 に関 す る秩 序 維 持 を はか る こ と を正 当 化 す るた め の基 盤 とな る可 能 性 を もつ と考 え られ る㈹。 そ こ で 本 稿 にお いて は,集 合 的 ・公 共 的 利 益 に関 して 形 成 され た秩 序 に よ って 他 の 主 体 に課 せ られ て い る義 務 を,そ の 主 体 に対 す る民 事 訴 訟 を通 じて 私 人 が 直 接 的 に実 現 す る こ とを 基 礎 づ け る規 範 の 正 当化 理 論 を提 示 す るた め に,公 共 哲 学 を 対 象 と した 考 察 を 行 う。 (b)私. 法 秩 序 に含 まれ る規 範 を 法 技 術 的 構 成 ・法 技 術 的 概 念 に よ って 表. 現 す るた め の 考 察 の 対 象 前 述(a)にお け る考 察 か ら,私 人 が 実 力 と して の 強 制 力 を も って 集 合 的 ・ 公共 的 利益 を実 現 す る主 体 とな る こ とを基 礎 づ け る規 範 の 思 想 的 ・哲 学 的 正 当 性 を提 示 しえ た な ら ば,そ れ に 続 い て,「 権 利 」 と 「義 務 」 と い う法 技 術 的概 念 の 関係 と して の法 技 術 的構 成 の も とで,集 合 的 ・公共 的 利益 の 維 持 に対 す る私 法 上 の権 利 を表 現 す る こ とが で き るの か,と い う問題 に つ い て考 察 を加 え る こ とが必 要 とな る㈱。. ㈱. 金 泰 昌 「今 何 故,公 学1公. ㈹. 共 哲 学 共 同 研 究 会 な の か 」 佐 々木 毅=金 泰 昌編 『公 共 哲. と私 の思 想 史 』iv頁(東. 京 大 学 出版 会,2001年)。. こ の他,公 共 哲 学 を 本 稿 に お い て 集 合 的 ・公 共 的 利 益 の 実 現 の た め の私 法 上 の 権 利 の思 想 的基 礎 とす る理 由 につ い て は,本 章 第 二 節 一.参 照 。. ㈱. 具 体 的 な考 察 の方 法 に つ い て は,本 章 第 三 節 一 。 参 照 。 一69一.

(12) 近畿大学法学. 第54巻第4号. 四.ま と め 一. 本 章 の構 成. 以 下,本 章 に お い て は,本 節 三.(2)に 示 した 「集 合 的 ・公 共 的利 益 の維 持 に対 す る私 法 上 の権 利 」 の理 論 的構 築 とい う問題 の構 造 に そ って,第 二 節 に お い て,私 人 が実 力 と して の強 制 力 を もっ て集 合 的 。公 共 的利 益 を実 現 す る主 体 と な る こ と を基 礎 づ け る規 範 の思 想 的 ・哲 学 的 正 当 化 につ い て, 第 三 節 に お い て そ の規 範 を集 合 的 ・公 共 的利 益 の維 持 に対 す る私 法 上 の権 利 と して 表 現 す る た め の法 技 術 的 概 念 につ い て,そ れ ぞ れ考 察 を行 う。. 第二節. 集 合 的 ・公 共 的 利 益 の 維 持 に対 す る私 法 上 の 権 利 の 思 想 的 。哲. 学的基礎 一 .は. 民 法 学 と公 共 哲 学. じめ に. 本 節 で は,集 合 的 ・公 共 的 利 益 に関 して 形 成 され た秩 序 に よ って 他 の主 体 に課 せ られ て い る義 務 を私 人 が 直 接 的 に実 現 す る こ と の基 礎 と な る規 範 を 正 当化 す る た めの 思 想 ・ 哲 学 に つ い て考 察 を加 え る。 この 問題 に 関 して, 以 下 で は,近 年 提 唱 され て い る 「公 共 哲 学 」 を 基 礎 と して 考 察 を 進 めて い く㈱。 こ の公 共 哲 学 に お い て は,「 公 」,「私 」,そ して 「公 共 性 」 とい う概 念 に関 して議 論 を 行 わ れ て い る儲P。た だ し,こ の 公 共 哲 学 は,哲 学 で あ る が ゆ え,さ. ら に は政 治 学,経 済 学,倫 理 学 な ど他 の 学 問 分 野 に も開 か れ て. い る ゆ え に,議 論 の 全 て が 法 律 学 と関 わ る もの とな って い る わ け で は な い。 また,法 律 学 に関 わ り う る議 論 の な か で も,国 家 の 民 主 的 統 制,マ. ㈹. ス. な ぜ 集 合 的 ・公 共 的 利 益 の 維 持 に対 す る私 法 上 の権 利 の思 想 的 。哲 学 的 基 礎 に 考察 を 加 え る必 要 が あ るの か,と い う点 も含 め て,詳 し くは,本 章 第 一 節 三. (2)(a)参 照。. 儲Φ な お,「 公 共 哲 学 」 と英 米 に お け る 「パ ブ リ ッ ク ・フ ィ ロ ソ フ ィ ー(public philosophy)」. と は異 な る もの と され て い る(金 泰 昌 「お わ りに」 佐 々 木毅=. 金 泰 昌編 『公 共 哲 学1021世. 紀 公 共 哲 学 の 地 平 』426頁 以 下(2002年,東. 出版 会))。 一70一. 京大学.

(13) 集 合 的 ・公 共 的 利 益 に対 す る私 法 上 の権 利 の法 的構 成 に つ い て の一 考 察(2). メ デ ィア や政 党 の位 置 づ け,な. どに関 わ る議 論 は,本 稿 の課 題 と直 接 関係. す る もので は な い。 そ こ で,以 下 で は,本 稿 の問 題 関 心 と関 連 す る 「私 法 学 に お け る集 合 的 ・公 共 的 利 益 に対 す る私 人 の 役 割 」 と い う視 角 か ら,関 連 す る公 共 哲 学 の 議 論 を整 理 し,検 討 を 加 え た うえ で㎝,集 合 的 ・公 共 的 利 益 の 維 持 に対 す る私 法 上 の 権 利 の 思 想 的 ・哲 学 的 基 礎 に考 察 を 加 え て い く。 以 下,本 節 二.に お い て,ま ず 「公 」 とい う概 念 と 「私 」 とい う概 念 に 関 す る議 論 の そ れ ぞ れ に つ い て 検 討 を 加 え,本 稿 に お い て どの よ うな 意 味 で 用 い るの か を 明 らか に す る。 続 い て 本 節 三.に お い て,公 共 哲 学 に お け る議 論 を,本 稿 の 関心 に 沿 って整 理 ・検討 す る。 そ の うえ で,本 節 四 。 に お い て,集 合 的 ・公共 的 利益 に 関 して 形 成 され た秩 序 に よ って他 の 主 体 に 課 せ られ て い る義 務 を私 人 が直 接 的 に実 現 す る こ とを 基礎 づ け る規 範 が, 公 共 哲 学 に基 づ い て正 当化 され うる の か,と 言 う問題 に考 察 を加 え る。. 二.本. 章 の 考 察 に お い て 「公 」 と 「私 」 の 概 念 の 持 つ 意 味. (1)検. 討 の視 角. 「公 」 と 「私 」 の 概 念 に つ い て は,西. 欧,中. 国,そ. し て 日 本 に お い て,. そ れ ぞ れ そ の 持 つ 意 味 が 異 な る こ と が 指 摘 さ れ て い る㈹。 以 下 で は,(2)に お い て,西. 欧 に お け る 「公 」 と 「私 」 の 概 念 に つ い て,(3)に. お け る 「公 」 と 「私 」 の 概 念 に つ い て,(4)に. お い て 中国 に. お い て 日 本 に お け る 「公 」 と. 「私 」 の 概 念 に つ い て の 議 論 を み た の ち に,(5)に お い て 本 稿 の 考 察 に お い て. 儲Dな. お,以 下 の 考 察 で は,東 京 大 学 出版 会 よ り シ リー ズ と して 出 版 され た 「公. 共 哲 学[第 一 期 ∼ 第 三 期]」 を そ の 対 象 と し,さ らに シ リー ズ全20巻 の す べ て に お い て編 者 とな った 金 泰 昌 の 議 論 を 中 心 に す え て 整 理 ・検 討 を 行 う。 ㈱. この よ う に西 欧. 中 国,そ. して 日本 に お い て 「公 」 と 「 私 」 の概 念 が 異 な る. こ とに つ い て は,私 法 学 にお いて も既 に指 摘 さ れ て い る(星 野 英 一 『民 法 の す す め』81頁 以 下,特. に89頁 以 下(岩 波 書店,1998年(参 一71一. 照)。.

(14) 近 畿大 学法学. 第54巻第4号. 用 い る 「公」 と 「私 」 の意 味 を 示 す。 (2)西. 欧 に お け る 「公 」 と 「私 」. 西 欧 に お い て,「 公 」 を 示 す 単 語 で あ る パ ブ リ ッ ク(public)⑬. 跡は,ラ. テ. ン語 の プ ブ リ ク ッ ス(publicus)に. 由 来 す る 鱒。 プ ブ リ ク ッ ス は,「 人 民 」. を 意 味 す る ポ プ ル ス(populus)か. ら で き た 語 で,「 人 民 全 体 に 属 す る ・関. わ る 」 と い う意 味 を も っ て い た ㈹。 ま た,「 審 査 や 監 視 を 受 け る よ う公 開 さ れ て い る もの」 と言 う意 味 もあ った㊤ 陶。 こ の よ う な プ ブ リ ッ ク ス の 理 解 は,. 古 代 ギ リシ ア の都 市 国 家 に お い て,「 ポ リス(自 由 民 の 共 同 体)」 と 「オ イ コ ス 」 の 二 元 的 な 構 成 を も っ て い た こ と と 通 じ て い る 餌ひ 。 しか し,絶. 対 王 政 の 時 代 に な る と,権. 力 そ の も の,権. 力 を も って い る人. 間,あ. る い は権 力 を 自分 の道 具 と して 使 う支 配 の メ カ ニ ズ ム と して,ス. ㈱. 以 下 本 文 の 記 述 に お い て は,西 欧 に お け る 「公」 を 現 す 語 と して,英 語 にお け るpublicを 6ffentlichも. あ げ る。 こ れ は,仏 語 に お け るpublique及. び独語 に おけ る. 基 本 的 語 義 は 同 一 と され て い る こ とを 理 由 とす る(星 野 ・前 掲 注. ㈱85頁,渡 辺 浩 「『お ほ や け』 『わ た く し』 の 語 義 一 『公 』 「私 』,"Public" "P rivate"と の 比 較 に お い て」 佐 々木 毅=金 泰 昌編 『公共 哲 学1公 と私 の 思 想 史』146頁(2001年,東. 京大 学 出版 会))。 た だ し,文 化 的 あ るい は 歴 史 的 に 見. れ ば,そ れ ぞ れ に 相 違 点 の あ る こ と も指 摘 さ れ て い る(例 え ば,金 泰 昌 他 「総 合討 論1」 佐 々木 毅=金 泰 昌編 『公 共 哲 学1公 と私 の思 想 史』89頁 〔 福田歓 一 発 言 〕(2001年 ,東 京 大 学 出 版 会),金 泰 昌他 「発 展 協 議II」 佐 々 木 毅 二金 泰 昌編 『公共 哲 学4欧. 米 にお け る公 と私 』178頁. 〔 水 林 彪 発 言〕(2002年,東. 京. 大 学 出版 会)。 働. 星 野 ・前 掲 注 ㈱85頁 。. ㈹. 星 野 。前 掲 注 ㈱85頁 。. ㈱. 星 野 ・前 掲 注 ㈱85頁 。. ㈱. 星 野 。前 掲 注 働85頁,福 泰 昌編 『公共 哲 学1公. 田 歓 一 「西 欧 思 想 史 に お け る公 と私 」 佐 々 木毅=金 と私 の思 想 史 』5頁(東. 京 大 学 出版 会,2001年)。. 前掲. 福 田5頁 で は,古 代 ギ リ シア にお け る公 私 の 観 念 は,古 代 ロ ー マ に お い て も基 本 的 に 大 き な 違 い が な か っ た と さ れ,ま た,古 代 ロ ー マ に お い て 「レ プ ブ リ カ」,「レス ・プ ブ リカ(公 共 の 物)」 は,ポ と い う意 味 を持 って い た と さ れ て い る。 一72一. リス と同 じよ う に 「自由 人 の共 同体 」.

(15) 集 合 的 ・公 共 的 利益 に対 す る私 法 上 の権 利 の法 的構 成 に つ い て の一 考 察(2). テ ー ト(state・. 国 家)が. 現 れ る ㈹。 こ の ス テ ー トは,被. は な か っ た ㈱。 す な わ ち,古 あ っ た の に 対 し て,こ. 代 ギ リ シ ア 以 来,政. 治 者 を含 む概 念 で. 治社 会 は人 的 な団体 で. の ス テ ー トの 出 現 に よ っ て そ の 伝 統 が 途 切 れ て し ま. う と 同 時 に,「 被 支 配 者 を 含 ま な い 」と い う 形 を と る こ と に な っ た ㈹。 ま た, 宗 教 改 革 以 後,カ. ト リ ッ ク教 会 の 普 遍 的 な 権 威 が 崩 れ,自. 由 に,制. 限な し. に 法 を 作 る こ と の で き る 権 力 と し て の 主 権 と い う観 念 を 君 主 が もつ よ う に な っ た 働。 そ し て,こ. の 君 主 の 優 位 は,「 サ ル ス ・プ ブ リ カ(公. 共 の 福 祉)」. と い う新 し い 観 念 で 正 当 化 さ れ た ㈱。 こ の サ ル ス ・プ ブ リ カ(公. 共 の 福 祉)に. 対 し て,こ. れ を批 判 す る勢 力 が. 新 し い パ ブ リ ッ ク と し て 登 場 し て く る ㈹。 こ の よ う な 新 しい パ ブ リ ッ ク の 前 身 と な っ た も の と し て,文 こ の 流 れ の 中 で,自. 芸 的 な サ ロ ン な ど が あ げ ら れ る 働。 そ し て,. 由 主 義 モ デ ル が 現 れ る ㈹。 自 由 主 義 モ デ ル と は,ギ. シ ア時 代 あ る い は ロ ー マ時 代 の 作 に よ り,地. 福 田 ・前 掲 注 ㈱9頁 。. ㈹. 福 田 ・前 掲 注 ㈲9頁 。. ⑳. 福 田 ・前 掲 注 ㈹9頁 。. ㈹. 福 田 ・前 掲 注 ㈱10頁 。. 働. 福 田 ・前 掲 注 働10頁 。. ㈱. 福 田 ・前 掲 注 ㈱10頁 。. ㈱. 「パ ブ リ ッ ク 」 の 観 念 を 復 活 す る 理 論 的 操. 縁 的 な も の に そ れ を 置 き 換 え,被. ㈱. 星 野 ・前 掲 注 ㈹86頁,福 (Habermas)に. リ. 治 者 を含 ま な くな った政 治. 田 。前 掲 注 ㈱10頁 。 こ こ で は,ハ. ー バー マ ス. よ る指 摘 が 引用 され て い る(星 野 ・前 掲 注 ㈱86頁,福. 田 ・前 掲. 注 ㈱10頁)。 ハ ー バ ー マ ス の文 芸 的 な 意 味 に お け る公 共 性 の 成 立 過 程 に 関 す る 指 摘 に つ い て は,ユ ル ゲ ン ・ハ ー バ ー マ ス(細 谷 貞雄 ・山 田正 行 訳)『[第 二 版] 公共性の構造転換一 以 下](未. 市 民 社 会 の一 カ テ ゴ リー に つ い て の 探 求 』 第 二 章[46頁. 来 社,1994年),政. 治 的 な機 能 を もつ 公 共 性 の 成 立 過 程 に関 す る指 摘. に つ い て は,前 掲 ハ ー バ ー マ ス ・第 三 章[86頁 ㈹. 福 田 。前 掲 注 ㈱11頁 。 一73一. 以 下]を 参 照 。.

(16) 近畿大学法学 社 会 を,も. 第54巻第4号. う 一 度,人. 的 な 団 体 と して 再 構 成 し た も の で あ る ㈹。 こ の モ デ. ル は 近 代 市 民 革 命 へ と結 び つ い て い く凡 そ し て,こ. の よ う な 歴 史 を 経 た 西 欧 に お け る パ ブ リ ッ ク の 概 念 は,現 在,. 「人 民 皆 の 共 同 の こ と 」 と い う 意 味 を も っ て い る と さ れ る㈹。 他 方,プ. ラ イ ベ ー ト(private)は,プ. リバ テ ィ ス(privatus)に. 由来 す. る と さ れ る ㈹。 プ リバ テ ィ ス に は,「 他 人 に よ っ て 見 ら れ 聞 か れ る こ と か ら 生 ず る リ ア リ テ ィ を 奪 わ れ て い る 」 と い う意 味 が あ る と さ れ る ㈹。 (3)中. 国 に お け る 「公 」 と 「私 」. 中 国 に お い て,「 公 」 の 概 念 は,第 朝 廷,政 開,世. 府,国 間,社. 家 と い う意 味,第. 会,共. 一 に,首. 二 に,共. 同 と い う意 味,そ. 長 に 関 わ る 部 分 か ら 公 門,. 同 体 に 関 わ る 部 分 か ら公 田,公. し て,第. 三 に,平. 分 か ら均 等,公. 平,. 構 成 と い う意 味 を も つ と さ れ る    D。 こ の よ う な 中 国 に お け る 「公 」 の 観 念 に は,「 天 」 の 観 念 が 色 濃 く反 映 し て い る と さ れ る     カ 。 そ し て,こ. ㈱. 福 田 ・前 掲 注 ㈱11頁 。 た だ し,古 典 古 代 に お い て は,シ. の よ うな. ビル ・ソサ エ テ ィ あ. るい は レ ス・プ ブ リカを 構 成 す る実 体 は 「ポ リス」 あ る い は 「共 同 体」 に あ った が,近 代 国 家 の 理 論 にお いて,シ publica)の. ビル ・ソサ エ テ ィ あ る い は レス ・プ ブ リカ(res. 英 語 訳 で あ る コモ ンウ ェル ス を 構 成 す る実 体 は 「個 人 」で あ る と さ. れ て い る(福 田 。前 掲 注 ㈱11頁)。 ㈲. 福 田 ・前 掲 注 ㈱11頁 。. ㈹. 星 野 ・前 掲 注 働86頁,同88頁,渡. ㈱. 星 野 ・前 掲 注㈱86頁 。. ㈹. 辺 ・前 掲 注 ㈱146頁 。. 星 野 ・前 掲 注 ㈹87頁 。 福 田 ・前 掲 注 ㈱5頁. は,プ. リバ テ ィス の意 味 と して,. 「他 人 の 目か ら隠 され て い る」,あ るい は 「他 人 の 目 に触 れ な い領 域 」を 示 す 。 な お,星 野 ・前 掲 注 ㈱87頁 は,現 在 の フ ラ ンス語 の辞 書 か ら,プ リヴ ァ(priv6) の意 味 と して,「 ① 人 々が ア クセ スで き な い,又 は そ の許 さ れ な い場 所」 「② 個 人 的,特 殊 な 」「③ 親 密 な」 「 ④ 公 の こ と に一 切 関与 して い な い」 「 ⑤ 国に関係 し な い,国 に 依 存 しな い」 を 示 して い る。 ㈹. 溝 口雄 三 「中 国 思 想 史 にお け る公 と私 」 佐 々木 毅=金 泰 昌 編 『公 共 哲 学1 公 と私 の思 想 史 』36頁(2001年,東. 京大 学 出版 会)。 ま た,星 野 ・ 前 掲 注働82頁. も参 照 。 ㈹. 溝 口 ・前 掲 注¢6D40頁,星 野 ・前 掲 注㈱82頁 以 下。 一74一.

(17) 集 合 的 ・公共 的 利益 に対 す る私 法上 の権 利 の法 的 構 成 に つ い て の一 考 察(2). 中 国 に お け る 「公」 の観 念 は,政 治 的 な 局面,社 会 的 な 局 面,自 然 的 な 局 面 の そ れ ぞ れ か ら,解 析 され て い る㈱。 まず,政 治 的局 面 に つ い て は,次 の二 つ が指 摘 され る㈹。 そ の 第一 は,国 家 の うえ に さ らに そ れ を超 え か つ そ れ を覆 う天 下 の観 念 が あ り,こ の天 下 観 念 に は天 の構 成 な どの道 義 的観 念 が浸 透 して お り,そ こか ら皇 帝 ・王 朝 の専 横 を 一 姓 一 家 の 「私 」 と して 指 弾 され うる こ とで あ る㈹。 第 二 は,こ の場 合 の天 ・天 下 の 内実 は天 の生 民,あ. る い は天 の調 和 を得 て共 存 を とげ. るべ き天 下 の万 民 で あ る こ と,従 って天 ・天 下 の観 点 に立 つ とき,皇 帝 ・ 朝 廷 ・国 家 が 「私 」,人 民 ・国 民 が 「公 」 と み な され る場 合 もあ る こ と で あ る㈹。 続 いて,社 会 的 局 面 に お いて は,中 国 に お け る 「公 」 が共 同性 とい う側 面 の他 に,分 配 と い う側 面 も もつ と され る    ゆ 。 そ して,こ の 両 者 の 側 面 を 併 せ て み る と,そ の 「公 」 は,個 々の 私 的 欲 望 を容 認 しつ つ,そ な 「私 」 相 互 を 均 分 原 理 に よ って つ な げ,か つ,そ. の主 体 的. の個 々 の 「私 」 は,つ. な が りの 全 体 を 構 成 す る一 単 位 と して 全 体 を 規 定 しつ つ,一 方,全 体 の一 部 と して 全 体 か らの 規 制 を 受 け る,と 指 摘 され る㈱。 そ して,自 然 的 局 面 にお いて は,こ こで い う 自然 が,宇 宙 万 物 の 存 在 態. ㈹. 溝 口 ・前 掲 注 ㈹40頁 。. ㈹. 溝 口 。前 掲 注 働42頁 。. ㈹. 溝 口 ・前 掲 注 ㈱42頁 。. ㈹. 溝 口 。前 掲 注 ㈹42頁,渡. ㈹. 溝 口 ・前 掲 注 ㈹42頁 。. ㈹. 辺 ・前 掲 注㈱149頁 。. 溝 口 ・前 掲 注 ㈹46頁 。 溝 口 ・前 掲 注 ㈹46頁 以 下 は,こ い た 上 で,「,こ. こで,孫 文 の 言 葉 を 引. こで は 個 々の 生 民 の 個 私 の 利 益 追 求 は 容 認 され るが,. そ の 実 現 は,排 他 的 ま た は利 己的 な追 及 に よ る の で は な く,均 分 原 理 に 基 づ く 天 下 的 な つ な が りの 全 体 を 通 じて 達 成 さ れ る,と さ れ る。 個 は 全 体 に 埋 没 す る の で は な く,全 体 を 生 か し,全 体 を生 かす こ と を通 じて 発 揮 す る,と され る と い え よ う」 と述 べ て い る。 一75一.

(18) 近畿大学法学. 第54巻第4号. 様,存 在 根 拠 を示 す 概 念 で あ る こ と とさ れ る㈱。 そ して,『 荘 子 』 応 帝 王 に お け る 「万 物 の 自然 に順 い,私 を 入 れ る こ とが な けれ ば 天 下 は 治 ま る」 の 句 に 対 す る 「本 性 の ま ま に 自ず と生 々す るの が 公 で あ る。 … … 公 に順 って こ そ生 々 は 全 う さ れ る」 と い う郭 象 の コ メ ン トに お け る 「公 」 と 「私 」 の 意 味 につ い て,「 私 」 が万 物 の 自然 な あ り よ う に対 しな ん らか作 為 的 な もの が 介 在 す る こ とで あ り,「公 」 は,自 然 の 調 和 的 な 秩 序 そ の もの,あ る い は そ の 秩 序 に 順 った 自然 本 来 の あ り方 を さ す と さ れ る㈹。 そ の うえ で,い. くつ か の 事 例 が 引 か れ た うえ で,天. の 観 念 の 色 濃 く反 映 した 「公 」. は,自 然 の 局 面 に お い て も,均 等,調 和,道 義 を 自然 の 中 に浸 透 させ ず に は い な か った,と す る㈹。 他 方,中 国 に お け る 「私 」 は,私 曲,姦 私,私 邪 とい った 反 倫 理 的 な 意 味 を も って い た と され る㈹。 (4)日. 本 に お け る 「公 」 と 「私 」. い わ ゆ る大 化 前 代 の ヤ マ ト言 葉 の 世 界 に お い て は,「公 私 」の 対 概 念 は 存 在 しな か った㈱。 「私(ワ タ ク シ)」は語 源 未 詳 の 訓 読 語 と され,中 国 の 「公 私 」 観 念 を 知 った古 代 人 に よ る新 造 語 で あ る と推 測 され て い る⑬1° 。 他 方, 今 日 の 「公 」 の 訓 読 語 で あ る 「オ オ ヤ ケ 」 は 「オ ホ ヤ ケ 」 とい う形 で ヤ マ ト言 葉 に 存 在 した㈹。 「ヤ ケ」 と は在 地 の 豪 族 の 敷 地 ・建 物 群 か らな る. ㈹. 溝 口 ・前 掲 注㈹46頁 。. ㈹. 溝 口 ・前 掲 注㈹48頁 。. ⑳. 溝 口 ・前 掲 注㈱49頁 。. 働. 星 野 ・前 掲 注働83頁,溝. ㈱. 水林 彪 「日本 的 『公 私 』 観 念 の 原 型 と展 開 」 佐 々木 毅=金 泰 昌編 『公共 哲 学 3日. 口 ・前掲 注㈹36頁,渡. 本 に お け る 公 と私』12頁(2002年,東. 頁。 ㈱. 水林 ・前 掲 注 ㈹6頁 。. ㈱. 水林 ・前 掲 注㈱6頁 。 一76一. 辺 ・前 掲 注㈹150頁 。. 京 大学 出 版 会),星 野 ・前 掲 注㈱82.

(19) 集 合 的 ・公 共 的利 益 に対 す る私 法 上 の権 利 の法 的構 成 につ い て の一 考 察(2). 一 区 画 の 経 営 施 設 を 意 味 す る価 ㊥ 。 こ の 「ヤ ケ 」 に つ い て は,大 豪 族 の 大 き な ヤ ケ を意 味 す る 「オ ホ ヤ ケ」 と小 豪 族 の 小 さ な ヤ ケ を 意 味 す る 「ヲ ヤ ケ」 とが 対 と して 存 在 した ゜ の。 そ して,当. 時 の権 力 構 造 は 「オ ホ ヤ ケ 」. や 「ヲ ヤ ケ 」 が 重 層 的 に 存 在 し,そ の 首 長 が 人 的 に結 合 して い る 国 制 で あ っ た と考 え られ て い る㈱。 こ の よ うな ヤ ケ の 重 層 構 造 と して 存 在 す る国 制 は,中 国 的 「公 私 」 概 念 が 成 立 して くる前 提 と な る と こ ろ の国 家(官) と社 会(民)と. が 分 離 した 二 元 的 国 制 と異 質 で あ り,こ の 点 が 重 要 で あ る. と され る眺 す な わ ち,社 会 と国 家 と い う二 元 的 な シ ス テ ム が未 成 立 の 国 制 の 段 階 にお いて,発 達 した 二 元 的 国 制 の 形 成 を 経 験 した 後 の 中国 的 「公 私」 観 念 が 継 受 され た こ と に よ り,複 雑 な 問 題 が 発 生 す る こ と にな った と され る㈱。 8世 紀 初 頭,中. 国帝 政 国 家 の生 み 出 した律 令 を継 受 し,ヤ ケ の 重 層 構造. と して存 在 した 旧 国制 を再 編 して律 令 国 家体 制 を 形 成 した と き に,国 家機 構 な い し これ を担 う支 配 層 ・貴 族 層 に 関 わ る語 と して 「公」 とい う語 が 用 い られ る よ う に な った脚。 そ して,社 会 と国 家 の分 離 とい う国 制 が 未 成 立 で あ る た め に,社 会 的公 共 とい う意 味 で の 「公 」 は成 立 す る余 地 は な か っ た㈹。 他 方 「私」 は,例 え ば 日本 書 紀 に お いて は,非 国 家 的 個 別 的 領 域 を 指 示 す る意 義 の語 と して用 い られ て い た とさ れ る㈱。 ¢7Φ水 林 ・前 掲 注 ㈱6頁 。 ㈱. 水 林 ・前 掲 注 ㈱6頁 。. ㈱. 水 林 ・前 掲 注 ㈹6頁 。. ㈹. 水 林 。前 掲 注 ㈱6頁 。. ㈹. 水 林 。前 掲 注 ㈱6頁 以 下 。. 儲D水 林 ・前 掲 注 ㈱8頁 以 下 。 ㈹. 水 林 ・前 掲 注 ㈹12頁 以 下 。 ま た,倫 理 的正 し さ とい う観 念 も欠 けて いた と さ れ る(水 林 ・前 掲 注 ㈹10頁)。. ㈱. 水 林 。前 掲 注 ㈹10頁 以 下 。 こ こ で は,反 国 家 的 な い し倫 理 的 悪 の ニ ュ ア ンス の あ る 「私 」 が 存 在 はす るが さ ほ ど 多 くな い こ と も指 摘 され て い る(水 林 ・前 掲 注 ㈱11頁)。 一77一. 唱h,¶. 一.

(20) 近 畿大学法学. 第54巻第4号. しか し,こ の よ うな8世 紀 初頭 の律 令 国 家成 立期 に お け る 「公 私」 概 念 は,8世. 紀 中葉 に変 容 を 見 せ る。 す な わ ち,狭. く国 家機 構 な い し これ を 担. う貴 族 層 だ け を 「公」 とす るの で は な く,広 く国 家 的 関 係 を 「公」 と意識 す る と ころ の 〈公(国. 家)一 公 田 ・公民 〉 の体 系 が,8世. 紀 中葉に形成 さ. れ る㈱。 そ して,そ の 国家 的関 係 の外 側 に 「私 」 の領 域 が展 開 した㈱。 こ こ で は,ど の レベ ル の経 営 体 に も,中 核 に は 「公」(公 田 ・公 民)が 存 在 し, そ の 周 りに 「私 」(私 領)が. 付 着 して ゆ く構 造 が 形 を 成 して き た と さ れ. る脚。 この よ うな 「公 私 」 構 造 の 特 徴 の 第 一 と して,「 公 」 が 国 家権 力 体 系 と して の み 存 在 す る とい う こ とが あ げ られ て い る㈱。 そ して,そ の特 徴 の 第 二 と して,「 公 」 と 「私 」 が 連 続 し,か つ 浸 透 しあ っ て い る こ と もあ げ られ て い る㈹。 こ の8世 紀 中 葉 に成 立 した 「公 私 」 構 造 は,日 本 の そ の 後 の長 い 歴 史 を生 き続 け た㈹。 す な わ ち,こ の8世 紀 中 葉 に形 成 され た 「公 私 」 概 念 が,そ の 後 の 日本 に お け る 「公 私 」 概 念 の原 型 で あ る と され る㈹。 そ して現 在,以 上 の よ うな背 景 を もつ 日本 に お け る 「公 」 の概 念 は,「 国 家 」 あ る い は 「官 」 を意 味 し,「私 」 の 概 念 は 「国 家 や 社 会 に 関 わ らな い. ㈹. 水 林 ・前掲 注㈱12頁 。 こ こで は,ま ず,土 地 制 度 に関 して,国 家 か ら諸個 人 に割 り当 て られ た 口分 田 につ い て,律 令 国 家 成 立 期 に は こ れ が 「 私 田」 と して 意 識 さ れ て い た が,8世. 紀 の 中 葉 に 「公 田」 と して 観 念 さ れ る よ う に な った こ. とが あ げ られ て い る(水 林 ・前 掲 注 ㈱12頁)。 ま た,「 公 民 」 概 念 に つ い て,律 令 国家 成 立 期 に は,専 ら貴 族 層 を 指 し示 す 語 で あ っ たが,天 平 年 間 の ころ か ら, 「公 」 の 管 理 下 に あ る 「公 田」 を耕 す 「百 姓 」 も 「公 民 」 と して意 識 され る よ う に な った とさ れ る(水 林 ・前 掲 注㈱12頁)。 ㈹ ㈹. 水 林 ・前 掲 注㈱12頁 。 水 林 ・前 掲 注 ㈱12頁 以 下 。 こ の 構 造 は 「墾 田永 年 私 財 法 」 に 基 づ い て い る (水林 ・前 掲 注 ㈱12頁)。. ㈹. 水 林 ・前 掲 注㈱13頁 。. ㈱. 水 林 ・前 掲 注 ㈱13頁 。. ㈹. 水 林 ・前 掲 注㈱13頁 。. ㈲. 水 林 ・前掲 注㈱12頁 。 一78一.

(21) 集 合 的 ・公 共 的 利 益 に対 す る私 法 上 の 権 利 の 法 的 構 成 につ い て の 一 考 察(2). 隠 れ た もの 」 を 意 味 す る との 指 摘 が な され て い る働。 (5)ま. とめ. 本 章 にお い て 用 い る 「公 」 概 念 と 「私 」 概 念 の 意 味. 以 上 の よ う に,現 在 の 議 論 にお い て は,日 本 にお け る 「公 」 と 「私 」 と い う概 念 に込 め られ て い る意 味 が,と. りわ け 「公」 とい う概 念 につ い て,. そ の概 念 を 日本 が継 受 した 中 国 に お け る意 味 と も,日 本 にお け る法 律 学 の 個 別 の領 域 が そ れ ぞ れ そ の体 系 ・概 念 を継 受 した 西 欧 に お け る意 味 と も, 重 な りあ わ な い部 分 を も って い る こ とが指 摘 され て い る㈹。 具 体 的 に は, 中 国 や西 欧 に お け る 「公」 の概 念 に は含 ま れ て い る 「人民 の総 体 」 あ るい は 「人 民 皆 の共 同 の こ と」 とい う意 味 が,日 本 に お け る 「公」 の概 念 に は 含 ま れ て い な い とい う こ とで あ る㈹。 この よ うな状 況 に あ る 「公 」 及 び 「私 」 の概 念 に深 く関 わ る本 稿 の考 察 を進 め る に あ た って,以 後 の考 察 の 内容 が 曖 昧 とな り混 乱 す る こ とを 防 ぐ た め に,「 公 」 及 び 「私 」 の 概 念 に つ い て,日 本 に お け る理 解 を 基 礎 と し て考 察 をす す め て い く。 す な わ ち,本 稿 の考 察 に お い て は,「 公」 とは 「国 家 」 を意 味 す る が,「 人 民 の集 合 体 」 あ る い は 「人 民 皆 の共 同 の こ と」 と い う意 味 を もた な い概 念 と して 取 り扱 う。 他 方,「 私 」 とは 個 々人,お. よ. び そ の個 々人 そ れ ぞ れ に の み に関 わ る個 人 的 領 域 を意 味 す る概 念 で あ る,. ㈱. 星 野 。前 掲 注 働84頁 以 下,同89頁. 以 下,溝. 口 ・前 掲 注 ㈹49頁 以 下,水 林 ・前. 掲 注 ㈱17頁 以 下,金 泰 昌 「お わ りに」 佐 々木 毅=金 泰 昌編 『公 共 哲 学5国 と人 間 と公 共 性 』288頁(2002年,東. 家. 京 大 学 出 版 会)。 この ほ か,「 公 」 に対 し. て 「私 」 が 従 属 して い る と言 う意 識 の 存 在 も指 摘 され て い る(星 野 ・前 掲 注 ㈱ 83頁,前 働. 掲 金 ・288頁)。. 星 野 ・前 掲 注(吻82頁以 下,同88頁 昌編 『公 共 哲 学3日. 以 下,金 泰 昌 「お わ りに 」 佐 々木 毅=金 泰. 本 に お け る 公 と私 』294頁 以 下(2002年,東. 京 大 学 出版. 会)。 ㈱. た だ し,中 国 ・西 欧 にお いて も 日本 と 同様 に,「 公 」 の 概 念 は 「国 家 」 あ る い は 「政 府 」 と い っ た意 味 も含 ん で い る。 一79一.

(22) 近畿大学法学. 第54巻第4号. と し て 考 察 を 進 め て い く゜ 鵬 。. 三.公 共 哲 学 に お け る 「公 共 性 」. 「公 」 と 「私 」 を媒 介 す る概 念 と. して の 「公 共 性 」 (1)は. じめ に. 公 共 哲 学 と は,基 本 的 に人 間 と国 家 の 中間 媒 介 領 域 を活 性 化 ・健 全 化 。 成 熟 化 す る こ と を思 考 と実 践 の 基 本 課 題 と捉 え,そ. こか ら人 間 と国 家 との. 関 係 は ど う あ り,ま た ど う あ るべ きか を多 次 元 的 ・相 互 関 連 的 にか つ 根 本 的 に問 う こ とで あ る,と さ れ る㈱。 以 下 本 節 三 。 に お い て は,私 法 学 に お け る集 合 的 ・公 共 的 利 益 に対 す る私 人 の 役 割 の 議 論 に関 連 す る公 共 哲 学 の 議 論 を 整 理 し,検 討 を 加 え る。 この 検 討 は,集 合 的 ・公 共 的 利 益 に関 して 形 成 され た 秩 序 に よ って 他 の 主 体 に課 せ られ て い る義 務 を 私 人 が 直 接 的 に 実 現 す る こ との 基 礎 とな る規 範 の 正 当 性 に関 す る考 察 の 基 礎 とな る もの で あ る。 ま ず,(2)に お い て,公 共 哲 学 に お け る 「公 共 」 の 概 念 につ い て 検 討 を 加. ㈱. 金 ・前 掲 注⑬ゆ417頁及 び426頁 。 また,日 本 に お い て 「公 」 が 「 国 家」 を意 味 す る との 意 識 が 根 強 い こ と につ い て は,金. ・前 掲 注 ㈱288頁 以 下 を 参 照 。 こ の. 他,こ の点 に 関 す る私 法 学 者 の 意 見 と して,金 泰 昌他 「総 合 討 論II」 佐 々 木毅 =金 泰 昌編 『公 共 哲 学9地 球 環 境 と公 共性 』213頁 以 下 〔 森 篤 昭 夫 発 言 〕(2002 年,東 京 大 学 出版 会)も 参 照 。 ㈹. な お,本 文 の よ う に述 べ る こ と に よ って,「 公」=「 公 共 性 」 と して 「私 」 を 従 属 させ る べ き で あ る,と す る 考 え 方 を 取 る事 を 主 張 して い る わ け で は な い。 ま た,「 公 」 と は な に か,「 私 」 とは な に か,と い う問 題 に対 す る解 答 と して, こ の よ う に 「公 上 「私 」 と い う語 を も ち い な け れ ば な らな い,と い う こ と を支 持 ・主 張 す る もの で もな い。 あ くま で も,集 合 的 ・公 共 的 利 益 の 維 持 に対 す る 私 法 上 の 権 利 を正 当化 す る こ と を 目的 と して,「 公」 と 「私 」 を媒 介 す る概 念 と して の 「公 共 性 」 を提 示 す る 「公共 哲 学 」 を 理 解 す る にあ た って,本 稿 に お い て は この よ う な意 味 を持 つ語 と して 「公 」 と 「私 」 の 概 念 を 把 握 す る と い う に 過 ぎな い 。. ㈹. 金 ・前 掲 注 ㈹iv頁 。 一80一.

(23) 集 合 的 ・公 共 的 利 益 に対 す る私 法 上 の 権 利 の 法 的 構 成 につ い て の 一 考 察(2). え る。 続 い て,(3)に お いて 公 共 哲 学 にお け る人 間 像 につ いて,(4)に お いて 公 共 哲 学 にお け る思 考 様 式 で あ る 「間 発 的 思 考 」 につ いて,そ れ ぞ れ 検 討 す る。 (2)公 共 哲 学 にお け る 「公 共 性 」 (a)従 来 の 「公 私 」 観 念 の 枠 組 従 来 の 日本 にお け る公 私 関 係 と公 共 性 に関 して は,次 の よ うな 指 摘 が な され て い る㈱㈱。 まず,従 来 の 日本 にお け る公 私 関 係 は,公 私 二 極 対 立 の 二 元 論 で あ り, 「公 」 と 「私 」 の あ い だ に 中 間媒 介 が存 在 しな い とさ れ る㈱。 既 に本 節 二. (4)にお い て 見 た よ う に,日 本 的 公 私 観 の 原 型 は,国 家(オ (=公)が. ホ ヤケ)的 領 域. 中 心 部 に存 在 し,そ の周 辺 に 非 国 家(最 初 は ヲ ヤ ケ,そ の 後 ワ. タ ク シに 転 化)的 領 域(=私)が. 付 着 して い くよ うな 重 層 構 造 にな って い. る。 そ れ を 源 流 と して,日 本 で は 国 家 収 敏 的 な 「公 」 の 力 学 が 強 く作 動 し て い る と さ れ る㈹。 この よ うな 日本 的公 私 観 の も と で は,国 家 と社 会 の 二 元 分 離 が成 立 して も,「 国 家 的 公」 とは 別 個 の 「社 会 的 公 共 性 」 が確 立 す. 働. 以 下(a)につ い て は,金 泰 昌 「お わ りに 」 佐 々 木 毅=金 中 間 集 団 が 開 く公共 性』376頁 以 下(2002年,東. 泰 昌編 『公 共 哲 学7. 京 大 学 出 版会)を 基 礎 と して 記. 述 を 進 め て い く。 ㈱. な お,「 公 」 と 「私 」 を 区分 す る意 味 が あ る の か,あ る と した ら ど うい う根 拠 か らそ うい え るの か と い う問 題 につ い て,次 の三 つ の事 実 が,区 分 す る意 味 を 肯 定 す る根 拠 とな り う る と さ れて い る。 ① 古 代 ギ リ シア 時 代 か ら最 近 まで,世 界 の 大 部 分 の 国 々で(古 代 中国 か ら現 代 の東 ア ジ ア文 化 圏 の 国 々 で も)一 部 の 反 対 意 見 に も拘 らず 議 論 の 枠 組 み と して認 め られ て き た こ と。 ② 我 々の 日常 生 活 の 現 場 を 見 て も,ご. く普 通 の会 話 の 中で 使 わ れ て い る常 識 的 区分 の ひ とつ に. な って い る こ と。 ③ 現 実 の 状 況 を理 解 した り,そ の変 化 を 支持 した りあ るい は 反対 した りす る場 合,一 つ の 判 断 基 準 と して有 用 で あ る こ と(以 上 に つ き金 泰 昌 「お わ りに」 佐 々 木 毅=金 (2001年,東. 泰 昌編 『公 共 哲 学2公. 京 大 学 出 版 会)参 照)。. ㈱. 金 ・前掲 注㈲376頁 。. ㈹. 本 節 二.(4)参 照。 ま た,金. ・前 掲 注㈱294頁 も参 照。 一81一. と 私 の 社 会 科 学 』239頁.

(24) 近畿大学法学. 第54巻第4号. る と こ ろ ま で は行 か な い た め,現 在 に 至 る ま で 「公 ・私 」 は 専 ら 「国 家 (オ ホ ヤ ケ)的 公 」 に 一 元 化 さ れ た 認 識 図 式 の 限 界 内 に と ど ま って い る と 指 摘 さ れ る  』D。 ま た,「 公 」 と は ちが う 「公 共 性 」 と い う概 念 は存 在 せ ず, 昨 今 の議 論 の な か で は 「公 」=「 官 」 ≒ 「公 共 性 」 とい うふ うに想 定 され て い る と され る㈹。 さ らに,「 滅 私 奉 公 」 の 原 理(論 理 ・倫 理 ・事 理)の 存 在 も指 摘 され て い る㈹。 他 方,個. 人 あ る い は個 性 は 「私 」 と同 一 視 さ れ る. か 「私 」 と混 同 され て適 切 な理 解 が成 立 して い な い とさ れ る㈱。 以 上 に加 え て,従 来 の 「公 」 と 「私 」 の既 存 性 ・所 与 性 ・実 体 性 に つ い て の 指 摘 も な され て い る㈹。 す なわ ち,「 公 」 と 「私 」 と い う物 理 的実 体 が 存 在 して,我. 々 は それ を正 し く認 識 し,そ れ を行 動 に よ って実 現 して い く. よ う な もの で あ る と捉 え られ て き た こ と,ま た,「 公 」 と 「私 」 は 既 に存 在 す る けれ ど我 々が 認 識 不 足 で 知 らなか っ た だ け の こ と を改 め て発 見 す る と い う もの で あ る と捉 え られ て き た こ と,が それ ぞれ 前 提 と して示 され て. ω. 金 ・前 掲 注 ㈱294頁 。 さ ら に,国 家 と社 会 との二 元 分 離 に 対 応 して,「 公 」 を 国 家 と社 会 とい う相 異 な る二 つ の脈 絡 か ら捉 え る とい う観 点 を 確 立 した 中 国 と の 違 い,及. び,市 民 革 命 を通 じて 「市 民 的公 共 性 」 を,そ. して 産 業 革 命 を 通 じ. て 「市 場 的 公 共 性 」 を定 着 させ た ヨー ロ ッパ との違 い,及 び 「人 種 間 の 公 共 性 」 や 「性 差 的 公 共 性 」 の 問 題 まで も真 剣 に省 察 さ れ る よ うに な った ア メ リ カ との 違 い が そ れ ぞ れ 指 摘 され て い る(金 ㈲ ㈱. ・前 掲 注 ㈱294頁 以 下)。. 金 ・前 掲 注㈲376頁 。 金 ・前 掲 注㈱376頁 。 滅 私 奉 公 的 公 私 観 と は,「 … … 『私 』 は常 に 従 属 的 で な け れ ば な らず,場 合 に よ って は 『国 家=公 』 と い う大義 名 分 の た め に は,人 間 の 尊 厳,生 存 権,思 想 信 条 ・信 教 の 自 由等 々 が 『私 』 の要 求 ・欲 望 と して 否 定 さ れ る べ き で あ る,と い う考 え 方 を許 容 す る公 私 観 で あ 」 る と され る(金. ・前. 掲 注㈱288頁)」 。 な お,戦 後 の 日本 を戦 前 の 延 長 線 上 で把 握 す る立 場(滅 私 奉 公 的 な 立場)も,今. の 日本 は 過 去 の 日本 と は違 う と い う立 場(滅 私 奉 公 を 否 定 ・. 脱 却 ・克 服 す る方 向 を 目指 す 立 場)も,い. ず れ の立 場 も 「公 」 を 「国 家(オ ホ. ヤ ケ)的 公」 とす る 前 提 に 立 って い る と い う指 摘 も示 さ れ て い る(金 働295頁)。 ㈹. 金 ・前 掲 注 ㈱377頁 。. ㈹. 金 ・前 掲 注 働376頁 。 一82一. ・前掲 注.

(25) 戸 :窄. 集 合 的 ・公 共 的 利益 に 対 す る私 法上 の権 利 の 法 的 構 成 に つ い て の 一 考 察(2). い る㈱。 (b)従 来 の 「公 私 」 観 念 の枠 組 を か え る必 要性 前 述(a)に示 した よ うな従 来 の 日本 に お け る公私 の あ り方 に つ い て,次 の よ うな 問題 意 識 が示 され て い る㈹ゆ 。 まず,日 本 に お い て,「 お お や け」 「わ た く し」 とい う言 葉 と,「公 」 「私 」 とい う漢 字 とを,本 来 的 な意 味 が違 うに もか か わ らず 両者 を ほ とん ど同 じ 意 味 で使 って い る こ と,及 び 「公 」 が 「お お や け」 と と もに英 語 の 「パ ブ リ ッ ク」 と,そ して 「私 」 が 「わ た く し」 と と もに 英語 の 「プ ラ イベ ー ト」 と同 じ意 味 を表 して い る よ うに思 わ れ る こ と,の そ れ ぞ れ が 問題 と して指 摘 さ れ て い る㈹。 ま た,個 人 な どの存 在 と国家 との 関係 は,ど ち らか一 方 が他 方 の た め に 犠 牲 に な る(あ る い は否 定 さ れ る)こ. とに よ って,他 方 の側 だ け が成 立 ・. 発 展 ・繁 栄 す る とい うよ うな こ とは あ りえ な い,と の認 識 が示 され る㈹。 さ らに,日 本 は い ま や発 展 途 上 国 の段 階 を超 え最 先 進 国 の一 員 と して の ㈹. 金 ・前 掲 注 ㈱240頁 。 な お こ こ で 引 用 した 部 分 に お い て は,こ の前 提 の も と に,「 … …,例 え ば,社 会 は 『私 』 で国 家 が 『公 』 だ と か,経 済 や市 場 は 『私 』 で あ る と か固 定 的 に規 定 す る よ うな考 え 方 か ら開 放 す る必 要 」 性 が 指 摘 され て い る(金. ・前 掲 注 ㈱240頁)。. しか し,後 に,こ の よ う に 「公 」 を 解 体 ・再 生 す. る こ と に よ って 非 ・国 家 独 占的 「公 」 の構 築 の 可 能 性 を探 る方 向か ら,「公 」 と 「私 」を 媒 介 す る第 三 項 と して 「公 共 性 」 を捉 え な おす と い う方 向 に転 換 して い る(金 ㈹. ・前 掲 注 ㈹288頁 以 下)。. な お,金. 。前 掲 注 ㈹iv頁 以 下 で は,公 共 哲 学 に お け る問 題 意 識 が,1,II,. 皿 の 三 つ の 段 落 に分 け て示 さ れ て い る。 以 下 本 稿 に お い て は,こ の う ちH及 び 皿 に示 され て い る 問題 意 識 を取 り上 げ る。1(金. ・前 掲 注 ㈹iv頁 以 下)に つ い. て は,公 共 哲 学 に お け る議 論 の あ り方 及 び 基 本前 提 が 示 され て い る。 前 者 につ い て は 日本 に お け る 「公 私 」 観 念 に対 す る 問 題意 識 に 直 接 関 わ る記 述 で な い た め に,後 者 につ い て は 後 述(c)にお け る 記 述 の対 象 と もな る の で 省 略 す る。 な お,1に. お い て 示 され て い る公 共 哲 学 に お け る 議 論 の あ り方 につ いて は,一 部. で あ るが 前 述(a)にお い て 示 して い る。 ㈱. 金 ・前 掲 注㈹ 樋 頁(1.(イ)及. ㈹. 金 ・前 掲 注 ㈹v五頁(皿.(イ))。 な お,金 泰 昌 「お わ りに 」佐 々木 毅=金 泰 昌編/. び ㈲)。 また,金. 一83一. 駈、、噛. 。前 掲 注 ㈹416頁 以 下 も参 照 。.

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