Cs系ペロブスカイトナノ結晶およびPt接合系の励起
子素過程の研究
著者
助吉 拓哉
2019 年度 修士論文要旨
Cs 系ペロブスカイトナノ結晶および Pt 接合系の励起子素過
程の研究
関西学院大学大学院理工学研究科 化学専攻 玉井研究室 助吉拓哉 【序論】CsPbX3 (X = Cl, Br, I) ナノ結晶(NCs)は,吸光係数や発光量子収率が 高いだけでなく,有機無機ハロゲン化鉛ペロブスカイトより耐湿性や耐光性に 優れた性質を持つことから,太陽電池や発光材料などへのさらなる応用に向け た研究が盛んに行われている。これらの応用において,CsPbX3 NCs やアクセ プターを接合した系におけるキャリア移動や励起子ダイナミクスを知ることは 重 要 で あ る 。 こ れ ま で に キ ャ リ ア ア ク セ プ タ ー と し て benzoquinone や phenothiazine 等の有機分子を吸着させた系の励起子ダイナミクスが時間分解 分光により解析されているが1),貴金属ナノ粒子を接合させた系の報告例はほと んどない。本研究では,異なる粒径のCsPbBr3 NCs,CsPbBr3 NCs-Pt を合成 し,これらの励起子素過程をピコ秒時間分解発光分光およびフェムト秒過渡吸 収分光により明らかにした。 【実験】反応温度と成長時間を変えることで異なる粒径のCsPbBr3 NCs(保護 剤:オレイン酸,オレイルアミン)をhot-injection 法により合成した2)。また, Pb 前駆体に PtBr2を加えて同様の手順を施すことでCsPbBr3 NCs-Pt を構築し た。溶媒はいずれのサンプルもn-hexane を用いた。合成したサンプルは透過電 子顕微鏡(TEM)により構造解析を行った。フェムト秒過渡吸収分光では, Ti:Sapphire laser の基本波の一部を BBO 結晶に通して発生させた第二高調波 (exc. = 400 nm)を励起光として用いた。また,観測光には,十分に弱めた基本 波を重水に集光させて発生させた白色光を用いた。 【結果・考察】図1に合成した中で最も 大きく比較的バルクに近い粒径(ボーア 半径 ~3.5 nm)を持つ CsPbBr3 NCs およ びCsPbBr3 NCs-Pt の TEM 像を示す。 キューブ状のCsPbBr3 NCs が観測され, 構造解析の結果,CsPbBr3 NCs の粒径 は9.0±1.3 nm(図 1a),9.3±1.7 nm (図1b)であることが明らかとなった。 また,図1b では,CsPbBr3 NCs に球状の粒子が接合している様子が観測され る。Pt を含まない系ではこの粒子が観測されないことから,球状粒子として Pt がCsPbBr3 NCs に接合していることがわかる。また,Pt の粒形は 4.1±1.0 nm 図1 大きい粒径の CsPbBr3 NCs (a) およびCsPbBr3 NCs-Pt (b) の TEM 像であった。 定常光分光実験では,粒径の小さな CsPbBr3 NCs は,量子閉じ込め効果を強 く受けるため,吸収,発光スペクトルの ピークは粒径の大きなもの比べて短波長 側に観測された。 フェムト秒過渡吸収分光においてブリ ーチ信号の励起光強度依存性を測定する と,励起光強度を上げるにつれて Auger 再結合と思われる早い減衰成分が観測さ れた。各サンプルにおいてグローバル解 析を行った結果,Auger 再結合の時定数 は粒形の概ね三乗に比例し,粒径が小さ くなるにつれて Auger 再結合の時定数 も小さくなることが明らかとなった(図 2)。また Pt を接合した系ではいずれ の粒径でも Auger 再結合の時定数が遅 くなり,最も大きい粒径では181 ps の 時定数が得られた。これは,CsPbBr3 NCs 内で生成した励起子が電荷分離を 起こし,二励起子間の相互作用が起こり にくくなったものと考えられる。 同程度の粒径で大きなCsPbBr3 NCs とCsPbBr3 NCs-Pt の 1S ブリーチ信号 の立ち上がりの比較を行った(図3)。 励起パルスをパルス幅 100 fs のガウス 関数として畳み込み積分を行った結果, CsPbBr3 NCs の立ち上がり成分は 330 fs であったのに対して,CsPbBr3 NCs-Pt の立ち上がり成分は120 fs であった。これは,Pt を CsPbBr3 NCs に接合する ことにより,高励起状態の電子がバンド端へ緩和するよりも早くPt へ遷移する ホット電子移動に起因しているものと考えられる。また,Pt 接合系では CsPbBr3 NCs のみに比べ 1S ブリーチ収率も低下した。一方,粒径が小さくなるとバン ド内緩和の速度が早くなるため,ホット電子移動はほとんど観測されなかった。
1) K. Wu, G. Liang, Q Shang, Y. Ren, D. Kong, T. Lian, J. Am. Chem. Soc. 2015, 137, 12792−12795. 2) L. Protesescu, S. Yakunin, M. I. Bodnarchuk, F. Krieg, R. Caputo, C. H. Hendon, R. X. Yang, A. Walsh, M. V. Kovalenko, Nano Lett. 2015, 15, 3692-3696.
図2 CsPbBr3 NCs の Auger 再結合 の粒径依存性 (D:粒径) 図3 大きい粒径のCsPbBr3 NCs と CsPbBr3 NCs-Pt の早い時間領域にお け る 1S ブ リ ー チ ダ イ ナ ミ ク ス (CsPbBr3 NCs : mon. = 507 nm, CsPbBr3 NCs-Pt : mon. = 512 nm)