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語と考えられる 因みに 認知科学辞典に依れば 忘却 は 学習した項目の記憶減衰 健忘症 は 狭義の健忘症 ( 健忘症候群 ) は知能や注意能力が保たれているにも拘らず記憶障害のみが突出している病態を指す と記されている 記憶障害 はあくまで症状を示す用語であり 認知症などの疾患を表す言葉ではない 英

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はじめに 我が国では人口の急速な高齢化に伴って認知症 老人が増加し、認知症の初期症状であり、中核症 状である記憶障害が注目されるようになり、多く の医療機関で物忘れ外来が開設されている。しか しながら、医療機関においても、記憶障害に対す る一般的な知識は必ずしも十分とは言えず、認知 症を含めた高次脳機能障害を診療するうえで、記 憶のメカニズムや記憶障害の病態について理解を 深める必要性が生じている。本稿では、記憶に関 する用語の整理、記憶と忘却のメカニズムなどに ついて概説する。 I. 記憶に関する用語の整理 認知神経科学領域において、記憶に関する記述 に関して、「物忘れ」、「記憶障害」、「健忘」、「忘却」 をはじめとする多くの用語が曖昧な定義のもとで 頻用されているので、こうした記憶に係る知識を 整理することが必要である。 広辞苑に依れば、「物忘れ」は「物事を忘れるこ と、失念」、「忘却」は「忘れること」と簡単に書 かれているが、「記憶障害」は「記憶を構成する記 銘・保持・再生・再認の 4 つの過程のいずれか、 または全てが正常に働かない状態」と説明されて いる。また、「健忘」は、「よく忘れること、忘れっ ぽいこと」、さらに「健忘症」は、「①記憶が著し く障害される症候、見聞きしたことを記銘でき ず、直ぐに忘れてしまうもの(前向性健忘)や、 ある時から遡って過去の記憶をなくするもの(逆 向性健忘)がある、②物事を忘れやすい性質」と 記載されている。すなわち、病的な物忘れに対し ては「記憶障害」或いは「健忘(症)」が適切な用 講習会 【要旨】 記憶は、過去を回想するときの把持時間から、短期記憶と長期記憶に分類され、短 期記憶は数十秒程度の記憶、長期記憶は数分から数十年前の記憶とされる。短期記憶には、 電話番号を即座に憶えるなどの一時的な情報保持機能である作動記憶が相当する。長期記憶 は、記憶内容を言葉で表現できる陳述記憶と技術や無意識の経験など言葉で表現できない非 陳述記憶に分類される。陳述記憶には、出来事記憶と意味記憶が含まれる。出来事記憶は、 個人的な体験やイベントの思い出に相当し、意味記憶は客観的な事実・知識・情報など学習 によって習得される一般的な知識や教養に相当する。出来事記憶は加齢の影響を受け易い が、意味記憶は加齢の影響を受け難い特徴がある。非陳述記憶には、水泳や自転車の運転な ど必ずしも意図せずに習得した技量や技術に係わる記憶に相当する手続き記憶が含まれる。 手続き記憶も加齢の影響を受け難く、認知症でも若い頃に修得した手続き記憶は相対的に保 たれることが多い。記憶障害を時間軸で捉えると、脳損傷を受けた時点以降の記憶が欠落す る状態を前向性健忘、一方受傷以前の出来事を思い出すことができない状態を逆行性健忘と 呼ぶ。逆行性健忘では、新しい出来事から古い出来事へ、複雑なことから単純なことへ、慣 れないことから習熟したことへ記憶の解体が進む。 Key words : 記憶障害、健忘、出来事記憶、意味記憶、手続き記憶

長田

乾、小松 広美、渡邊真由美

記憶障害

秋田県立脳血管研究センター神経内科

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語と考えられる。因みに、認知科学辞典に依れ ば、「忘却」は「学習した項目の記憶減衰」、「健忘 症」は「狭義の健忘症(健忘症候群)は知能や注 意能力が保たれているにも拘らず記憶障害のみが 突出している病態を指す」と記されている。 「記憶障害」はあくまで症状を示す用語であり、 認知症などの疾患を表す言葉ではない。 英語圏においても、“forgetfulness”、“forget-ting”、“memory impairment”、“memory loss”、 “memory disturbance”、“memory failure”、“amne-sia” などの用語が入り乱れて使われている。「忘 却」は “forgetting”、「物忘れ」は “forgetfulness” に対応するが、“forgetting” は日本語の「ど忘れ」 に近い意味で用いられることもある。記憶障害 は、“memory impairment” 或 い は “memory dis-turbance”、「健忘」は “amnesia” に対応している。 記憶は、最も単純なモデルで説明すると、「登録 (registration)」、「保持(retention)」、「想起(re-trieval)」の 3 つの情報処理過程から成り立つ。最 初の過程は、情報を符号化(encoding)して入力す る機能で、「記銘(memorization)」、「符号化」など とも呼ばれる。 次に情報を貯蔵する過程は、「貯蔵(storage)」 とも謂われる。貯蔵・保持される記憶情報の断片 は記憶痕跡(memory engram/ memory trace)と呼

ばれる。記憶痕跡は、Lashley1)が記憶と学習のメ カニズムを理解する上で想定したもので、当初は 抽象的な概念であったが、現在では脳内に生化学 的な変化として存在すると考えられている。記憶 が貯蔵されると神経回路が構築され、その回路に 繰り返し刺激(情報)が伝わることで、回路の情 報伝達の効率が強化されると解釈されている。 最後に貯蔵されたデータを再生する過程は、 「再生(recall)」あるいは「検索(access)」とも呼 ばれる。コンピュータに例えれば、「登録・記銘」 はデータの入力作業、「保持・貯蔵」はデータの保 存でハードディスクに相当する。「想起・再生」 は、データを検索して取り出す機能に当て嵌める ことができる(図 1)。記憶の 3 つの過程のうち、 「保持」の替わりに「固定化(consolidation)」を当 て嵌めて、「登録」、「固定化」、「再生」とする考え 方もある。 心理学領域では、「再生(recall)」とは、一旦記 憶した単語や情報を記憶の中から再生成する手続 きであり、「再認(recognition)」とは、学習した単 語や情報と学習しなかった単語や情報を区別する 手続きである。主な再生手続きとして、「自由再 生(free recall)」、「手掛かり再生(cued recall)」、 「系列再生(serial recall)」が挙げられる。自由再 生は、学習した情報を思い出した順に報告するこ と、手掛かり再生はある標的となる情報に関連し た情報を思い出して報告すること、系列再生は学 習(記銘)するときに提示された順に思い出して 報告することを謂う。 記憶は、過去を回想するときの把持時間の短い 順に、即時記憶(immediate memory)、近時記憶 (recent memory)、遠隔記憶(remote memory)に分 類され、即時記憶は数秒から数十秒の記憶、近時 記憶は数分・数時間から数か月の記憶、遠隔記憶 は数年から数十年前の記憶と見做されている。心 理学用語では、即時記憶が短期記憶(short-term memory)、近 時 記 憶 と 遠 隔 記 憶 は 長 期 記 憶 図 1. 記憶のモデル:最も単純なモデルでは、「登 録(registration)」、「保持(retention)」、「想起 (retrieval)」の 3 つの情報処理過程から成り 立つ。コンピュータに例えれば、「登録・記 銘」はデータの入力作業、「保持・貯蔵」は データの保存でハードディスクに相当する。 「想起・再生」は、データを検索して取り出す 機能に当て嵌めることができる。

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(long-term memory)に含まれる(図 2)。即時記憶 すなわち短期記憶は数十秒程度という目安がある が、長期記憶に含まれる近時記憶と遠隔記憶は相 対的な対比で論じられることが多く、時間的な明 確な定義はない。 長期記憶は、さらに陳述記憶(declarative mem-ory)と非陳述記憶(non-declarative memory)に分 類される(図 3)。Squire らの長期記憶の分類を図 4 に示す。長期記憶の機能を関連する脳部位と対 応させたところが特徴である2- 4)。Gazzaniga らが Squire らの長期記憶の分類をさらに発展させ、そ れぞれの機能と対応する脳部位を明示させた分類 を図 5 に示す5) 知識や経験など記憶内容がイメージとして再現 図 2. 時間軸に沿った記憶の分類:過去を回想する ときの把持時間の短い順に、即時記憶、近時 記憶、遠隔記憶に分類される。心理学用語で は、即時記憶が短期記憶、近時記憶と遠隔記 憶は長期記憶に含まれる。 図 3. 内容や機能による記憶の分類:短期記憶には 作動記憶が含まれ、長期記憶は、陳述記憶と 非陳述記憶に分類される。陳述記憶は意味 記憶と出来事記憶が含まれ、非陳述記憶には 手続き記憶、プライミング、条件付けなどが 含まれる。 図 4. Squire らによる長期記憶の分類:記憶の機能と関連する脳部位を対比させたところが特筆に 値する。

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できて言葉で表現(陳述)できる記憶を陳述記憶 と呼ぶ。また、陳述記憶は、意識にのぼる記憶、 すなわち本人が意図的に学習して習得する知識や 情報であることから顕在記憶(explicit memory) とも謂われ、陳述記憶とほぼ同義語として用いら れることが多い。1972 年に Tulving6)は、言葉や さまざまなシンボルで表象・表出できる知識・情 報、すなわち陳述記憶を命題記憶(propositional memory)と定義し直した上で、その命題記憶を、 個 人 的 な 体 験 の 記 憶 に 対 応 す る「意 味 記 憶 (semantic memory)」と世界に関する知識に対応す る「出来事(エピソード)記憶(episodic mem-ory)」に分類した。 たとえば「時計」という言葉から想起される 「中学生に入学した時に両親が腕時計を買ってく れた」という記憶や、そこから連想される具体的 な思い出が出来事記憶に相当する。単一の情景だ けでなく「社会人になって自分の給料で腕時計を 購入した」といった時間的につながりのある思い 出やそれに付随する感情・情動も出来事記憶に含 まれる。さらに「祖父の家の掛け時計」や「駅前 の時計店」などさまざまな記憶を回想できること から、出来事記憶は極めて恣意的な記憶と解釈さ れている。また、出来事記憶の内容は個人的なエ ピソードに係る情報であり、真偽性を検証するこ とは難しい場合が多い。 意味記憶は、知的記憶(intellectual memory)と も呼ばれ、専門用語や客観的な事実・情報など意 図的な学習によって習得される一般的な知識や教 養に相当する。Tulving は、出来事記憶を意味記 憶と対比させて定義した。出来事記憶は常に新た な刺激・情報が入力されることから、変化しやす い状態にあり、保存された情報が変容したり検索 が困難になることがあり、加齢によって減衰し易 い。これに対して意味記憶は加齢の影響を受け難 い。また、出来事記憶は情報を時間軸上に配置し て保持するのに対して、意味記憶では、意味の近 い情報は空間的に近くに配置され、意味の遠い情 図 5. Gazzaniga らによる記憶の分類:Squire らの長期記憶の分類をさらに発展させ、機能と対応 する脳部位を明示している。

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報は空間的にも離れて配置されると考えられてい る。 出来事記憶では、知覚情報がそのまま記憶され るのに対して、意味記憶では知覚情報を一旦解釈 して記号化され情報としてしか記憶されないこと がある。すなわち、出来事記憶は直接的な一時的 知識・情報(first-hand knowledge)が登録されるの に対して、意味記憶は一旦処理された間接的な知 識・情報(second-hand knowledge)が登録される。 アルツハイマー病患者では、数週間前に病院を 受診したことや前日に知人に会ったこと、さらに は数分前に薬を飲んだことなどの最近の出来事記 憶が著しく欠落する、一方、ピック病患者では、 出来事記憶は相対的に保たれ、病早期から単語の 意味などに係る意味記憶が障害されることが多 い。 Tulving の想定した SPI(serial-parallel-indepen-dent)モデルでは、出来事記憶、作動記憶、意味記 憶、知覚表象システム(perceptual representation systems : PRS)を認知表象システム(cognitive representation systems)とし、さらに手続き記憶を 加えた全 5 階層から成る7,8)。知覚表象システム において符号化された情報が、意味記憶、作動記 憶を経て出来事記憶に到達し、それぞれの記憶は 独立して想起される(図 6)。 意識の中に再現されなくとも自然に身体が動く ような技量や無意識の経験など、言葉で表現でき ない記憶は非陳述記憶と謂われる。非陳述記憶 は、本人が明確に意識できない記憶で、意図的に 想起もできないが長期的に保存されている無意識 的な記憶であることから、潜在記憶(implicit memory)と謂われる。 非陳述記憶は、さらに手続き記憶(procedural memory)、プライミング(priming)、条件付け (conditioning)に分類される。水泳、自転車の運 転、ダンスなど必ずしも意図せずに習得した技量 や技術に係わる記憶を手続き記憶と呼ぶ。手続き 記憶は、非陳述記憶と同義語で使われる場合も多 い。手続き記憶も加齢の影響を受け難いと考えら れており、認知症患者でも、自動車や自転車の運 転や裁縫など若い頃に修得した技量・技術はなか なか失われないことが多い。 Tulving7,8)によれば、手続き記憶と命題記憶 (陳述記憶)の相違を次のように説明している。 ①手続き記憶はその技能を必要とする行為・課題 を遂行するときのみ表示されるが、命題記憶の表 示方法は多様である。②手続き記憶に真偽の区別 はないが、命題記憶では真偽性が問題となる。③ 命題記憶に属する情報は命題の形式で表象される と考えられているが、手続き記憶の表象形式は命 題の形式を成さない。④手続き的知識・情報は練 習を繰り返すことで取得されるが、命題的知識・ 情報は 1 回の機会のみで取得されることがある。 ⑤手続き記憶に基づく行為・行動は考えなくても 自動的に遂行されるが、命題記憶に基づく行動・ 行為には意図や注意が必要である。⑥命題記憶で 図 6. Tulving の想定した SPI(serial-parallel-inde-pendent)モ デ ル:出 来 事 記 憶(episodic memory)、作動記憶(working memory)、意味 記憶(semantic memory)、知覚表象システム (PRS)を認知表象システム(cognitive repre-sentation systems)とし、さらに手続き記憶 (procedural memory)を加えた全 5 階層から 成る。

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検索した情報・知識を他人に伝えるときには言語 やその他のシンボルが使われるが、手続き記憶は 非シンボル的な行動によって伝えられる。 プライミングとは、先に与えられた刺激が、後 から与えられた刺激への反応に無意識のうちに影 響を与えることを謂う。先に提示された言葉が、 後から提示された言葉の想起や反応時間などに影 響 を 及 ぼ す と き に は 、意 味 的 プ ラ イ ミ ン グ (semantic priming)と呼ぶ。例えば、被験者に、最 初に「富士山」と云う単語を提示し、次に「阿蘇 山」を読ませたときの方が、「国会議事堂」の後に 「阿蘇山」を読ませたときよりも反応時間が短く なるという実験結果があり、前後の単語に意味的 に関連性のある場合に、反応時間が短縮し、意味 の理解が速くなる現象が知られている。こうした 現象は、無意識のうちに起るので、潜在記憶に分 類される。 条 件 付 け は 、古 典 的 条 件 付 け(classical ditioning)とオペラント条件付け(operant con-ditioning)にさらに分類される。古典的条件付け はレスポンデント条件付け(respondent condition-ing)とも呼ばれ、「パブロフの犬」の実験で知ら れるように、犬の口に餌を入れるのと同時にブ ザーを鳴らすような条件を設定し、これを繰り返 し経験させると、犬は餌が口に入らなくてもブ ザー音を聞くだけで唾液を分泌するようになる。 これはブザー音の刺激に餌を与えると云う条件を 随伴させることで、ブザー音に反応して唾液分泌 が起こるという条件反射の学習が成立したことに なる。こうした現象を、古典的条件付けと呼ばれ る。唾液が分泌されると云う現象は、レスポンデ ント行動(respondent behavior)と呼ばれる。卑近 な例では、実際に梅干を口に入れなくても、梅干 を見たら、唾が出るという現象が古典的条件付け に当てはまる。 オペラント条件付けは、道具的条件付けあるい はオペラント学習(operant learning)とも呼ばれ、 オペラント(operant)と云う言葉は、操作する (operate)から派生した造語で、「働き掛けるもの」 と云う意味を持つ9)。古典的条件付けは、与えら れる刺激に自然に反応する図式であるのに対し て、施行錯語学習に近い意味で、動物が自発的に 環境に働き掛けた結果、動物の行動が変化するこ とをオペラント条件付けと謂う。自分が行動した 直後の環境の変化に呼応し、その行動を繰り返す 頻 度 に 変 化 が 生 じ る こ と を オ ペ ラ ン ト 行 動 (operant behavior)と呼ぶ。その後の行動の頻度に 影響を与えることを強化(reinforcement)と呼ぶ。 頻 度 が 増 え る と き に「正 の 強 化(positive rein-forcement)」と謂うのに対して、頻度が減少する ときには「負の強化(negative reinforcement)」と謂 う。卑近な例では、勉強をしているときには誰か らも叱れないが、勉強をやめたら叱られると云う 環境下では、叱られるという不快な刺激を避ける ために、勉強すると云う行為が強化され、勉強の 頻度が増す。こうした状態もオペラント条件付け に相当する。 非陳述記憶は、学習と云う観点から連合学習 (associative learning)と非連合学習(non-associa-tive learning)に分類されることがある。連合学習 には、先に述べた古典的条件付けとオペラント条 件付けが含まれ、非連合学習には馴化或いは慣れ (habituation)と感作(sensitization)が含まれる。 馴化(慣れ)は、同じ刺激を何度も反復するうち に応答・反応が徐々に弱くなりやがて消失する現 象で、逆に、感作とは、繰り返し与えられる刺激 に対する応答・反応が徐々に亢進する現象であ る。 また時間軸の観点から、過去の体験に関する記 憶或いは過去の記憶を回想記憶(retrospective memory)とよび、現在進行中の出来事に関する記 憶を作動記憶(working memory)と呼び、未来の 予定に関する記憶を展望記憶(prospective mem-ory)と呼ぶ。 電話番号を即座に憶えるなどの一時的な情報保 持機能は作動記憶(working memory)と謂われ、

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日本語でも「ワーキングメモリー」と片仮名で表 記されることも多い。作動記憶は、情報処理理論 における短期記憶から派生した概念で、1974 年に Baddeley と Hitch が「種々の認知課題を遂行する ために一時的に必要となる記憶」と定義して以 来、神経心理学のさまざまな領域においてその役 割が強調されている。 自伝的記憶(autobiographical memory)、それま での生涯を振り返って想起される自己に関する情 報、経験、出来事の記憶を意味し、記憶の分類に 従えば出来事記憶に属する。自伝的記憶の機能は 個人内機能として重要な性質を持ち、アイデン ティティの基盤をなしているため、自己を方向付 け る 際 に も 重 要 な 役 割 を 持 つ と 考 え ら れ る。 Brewer11)によれば、自伝的記憶は、経験頻度や経 験心像を伴うか否かによって、個人的記憶(sonal memory)、概括的な個人的記憶(generic per-sonal memory)、自 伝 的 事 実(autobiographical facts)、自己スキーマ(self-schema)に分類され る。 われわれは、生涯のすべての時期における記憶 を均等に有する訳ではないことは明らかで、通常 は 3〜4 歳以前の記憶をほとんど思い出すことが できない。幼児期の記憶が再生できないことを幼 児性健忘(childhood amnesia/infantile amnesia)と 呼ぶ。また、20 代の大学生が自伝的記憶の想起を 行うと、昔の出来事を思い出すことが少なく、よ り最近の出来事を思い出す頻度が高くなり、親近 性効果(recency effect)と呼ばれる。これに対し て、高齢者が自伝的記憶を想起する場合には、 10〜30 歳頃の出来事の想起数が多いことが知ら れている(図 7)。10〜30 歳頃の記憶がより多く 想起されることをバンプ現象(bump phenomena) と謂い、この時期をレミニセンス・バンプ(re-miniscence bump)と呼ぶ12) バンプ現象の起こるメカニズムに関しては、少 年期から青年期に起きる出来事は新奇性や示差性 の高い他の事象から弁別され易いこと、社会発達 的には青年期は自己のアイデンティティーが確立 される時期に当たること、さらに 10〜20 代の時 期は個人的な認知能力が最も優れていることなど の説明がなされている13)。一般に記憶痕跡は時間 経過とともに薄れていくが、記憶の内容や条件に よっては、一定時間を経過した後の方が鮮明に想 起できることがあり、レミニセンス(reminisc-ence)と謂う。 時間が経った後でも強烈な感情を伴った記憶は 鮮明に思い出すことができる。すなわち時間経過 によって減衰を受けない記憶で、フラッシュバル ブ記憶(flashbulb memory)と呼ばれる。大衆ある いは個人にとって重大な事象は、何度も繰り返し てメディアに登場したり、何度も繰り返して思い 出すために繰り返して記憶が強化されることが、 記憶が減衰しない原因のひとつと考えられてい る。 II. 記憶のメカニズム 19 世紀末に James14)は、短期間一時的に記憶す る一次記憶(primary memory)と永続に記憶する 図 7. 記憶想起の相対的頻度:幼児期の記憶は希薄 で幼児性健忘(childhood amnesia)と呼ばれ る。10〜30 歳頃の出来事の想起数が多くレ ミニセンス・バンプ(reminiscence bump)と 呼ばれる。より最近の出来事を思い出す頻 度が高く、親近性効果(recency effect)と呼 ばれる。

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二次記憶(secondary memory)に分類した。一次 記憶は現在の短期記憶に近い概念で、経験した事 象の表象に注意が向けられることで保存されるシ ステムを指す。二次記憶は永続的に保存されるシ ステムで、現在の長期記憶に相当する概念であ る。 1958 年に Broadbent15)は、感覚貯蔵庫と短期貯 蔵庫、長期貯蔵庫を想定したモデルを想定し、そ の形状から「マルタ島の十字架(Broadbent’s Maltese Cross Model)」と呼んだ(図 8A、8B)。こ のモデルでは、入力刺激は最初に容量制約のない 感覚貯蔵庫へ入る。次に、容量制約のある短期貯 蔵庫へ送られ、最後に、長期貯蔵庫へ送られ貯蔵 される。

1971 年に Atkinson と Shiffrin16)が提唱した多

重(二重)貯蔵モデル(dual storage model)は、感 覚 登 録 器(sensory register)、短 期 貯 蔵 庫 (short-term storage)、長期保存庫(long-term stor-age)の 3 つの機能から構成される(図 9)。感覚 登 録 器 に 入 力 さ れ た 情 報 の う ち 選 択 的 注 意 (selective attention)によって抽出されたものは、 感覚記憶(sensory memory)として短期貯蔵庫に 短期間保存される。短期記憶は、まさに短期間一 時的に保存するシステムであり、短期貯蔵庫の容 量は小さいので、新しい情報が入力されると古い 情 報 は 自 動 的 に 消 去 さ れ る。Peterson と Peterson17)によれば、短期記憶は約 15 秒以内にそ の 90% が消失する。 しかしながら、複数の保存場所(slot)を有する 「リハーサル・バッファー(rehearsal buffer)」とい うメカニズムによって情報を循環させながら保持 することが出来ると考えられている18)。同じ情報 を何度も繰り返して学習(復唱)すること、すな わちリハーサル(rehearsal)により、その中の幾つ かの情報は長期貯蔵庫へと転送され長期間保存さ れる。短期貯蔵庫から長期保存庫に転送された情 報は、忘却(消去)されることなく半永久的に保 存される。リハーサルの頻度と選択的注意の強度 が大きいほど、短期記憶の情報が長期記憶として 定着する可能性が高くなる。 ここでは、視覚系を経由して入力された感覚記 憶はアイコニック・メモリー(iconic memory)、聴 覚系から入力された感覚記憶はエコイック・メモ 図 8. Broadbent の感覚貯蔵庫(sensory buffer)と短

期 貯 蔵 庫(short-term store)、長 期 貯 蔵 庫 (long-term store)を想定したモデル(A)、そ の形状からマルタ島の十字架(Broadbent’s Maltese Cross Model)と呼んだ(8B)。

図 9. Atkinson と Shiffrin の提唱した多重(二重) 貯蔵モデル:感覚登録器(sensory register)、 短期貯蔵庫(short-term storage)、長期保存庫 (long-term storage)の 3 つの機能から構成さ

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リー(echoic memory)と呼ばれる19,20) 多重貯蔵モデルにおける短期記憶は、単語綴り や数字の組み合わせなどの短い情報を聞いて、そ の直後に思い出すような状況では活用されるが、 短期記憶が単一の情報源からの入力のみに対応す ると仮定すると、そこで処理される情報量は限定 的である。ここにおいて情報処理量を増大させる 機能(概念)が、作動記憶(working memory)であ る。すなわち、作業記憶は、情報を維持しながら 同時に処理する「システムの保持と情報処理の並 列作業を行なう機能」と定義され、「記憶のバッ ファ」あるいは「こころの黒板」と謂われる所以 である21) Baddeley と Hitch10)が「作動記憶は、種々の認 知課題を遂行するために一時的に必要となる記 憶」と定義して以来、神経心理学のさまざまな領 域においてその役割が強調されている。彼らは、 音韻ループ(phonological loop)と視空間スケッチ パッド(visuo-spatial sketchpad)という言語性作動 記憶と視空間性作動記憶を担う下位機能と、全体 を制御する中央実行系(central executive)から構 成されるモデルを提唱した(図 10)。ここでは、 作動記憶は、自発的で目標志向的な記憶システム と認識され、その記憶の制御に注意の実行系を重 要視していることが特徴的である。 Baddeley22)は、音韻ループと視空間スケッチ パッドに加える第 3 の下位機能として、エピソー ド・バッファ(episodic buffer)を追加した(図 11)。エピソード・バッファは、映画の映像記憶な どのように時系列に対応して音声情報、視空間情 報、言語情報を統合する機能を有し、さらに長期 記憶情報や意味情報と連携する機能も持ち合わせ る。 記憶スパン(memory span)とは、数系列や単語 系列を読み上げたものを記憶して、その直後に系 列をそのままの順序で思い出して報告するとき の、再生に成功した系列の長さと定義され、短期 記憶の機能を評価するひとつの尺度である23,24) 記憶スパンにはおのずから限界があり、個人差が 存在する。短期記憶の記憶スパンに関係する機能 として、Miller25)は、「チャンク(chunk)」と云う 概念を提案した。情報をひとまとめにして記憶す るときの、ひと塊、すなわち構造化された情報単 位を「チャンク」と呼ぶ。一度に憶えられる記憶 スパンには個人差はあるものの、成人では約 7 ± 2 チャンクで、これをマジックカル・ナンバー (magical number)と呼ぶ25) III. 忘却のメカニズム 学習した内容(情報)、すなわち記憶痕跡が減 図 10. Baddeley と Hitch による作動記憶のモデ ル:音韻ループ(phonological loop)と視空 間スケッチパッド(visuo-spatial sketchpad) および全体を制御する中央実行系(central executive)から構成される。 図 11. Baddeley の提唱する作動記憶の新たなモデ ル:音韻ループと視空間スケッチパッドに 加える第 3 の下位機能として、エピソー ド・バッファ(episodic buffer)を追加した。

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少・消失することを忘却と呼ぶ。日本語の「忘却」 は、英語では forgetting あるいは amnesia と訳され ることが多い。忘却の説明には、減衰説(decay theory)、干渉説(interference theory)、手掛かり説 (cue dependent theory)、抑圧説(repression theory)

などがある。 頭の中に形成された記憶痕跡は時間経過ととも に薄れるという考え方は、減衰説と呼ばれる。 100 年以上前に Ebbinghaus26,27)はヒトの記憶が時 間経過に変化する過程を「忘却曲線(forgetting curve)」により表現した。Ebbinghaus の実験では、 健常人を対象に、子音・母音・子音から成る『jor, nuk, lad』と云った無意味な音節綴り記憶(記銘) させて、時間経過に沿ってその再生率を測定して 記憶の保持と忘却の過程を研究した。実験結果 は、20 分後には 58.2% は記憶していたが時間経 過とともに記憶は失われ、1 時間後には 44.2%、9 時間後には 35.8%、1 日後には 33.7% まで減少し、 その後も記憶の低下は緩やかになり、6 日後には 25.4%、1 ヶ月後には 21.1% 保持していた(図 12)。すなわち、「人間の記憶内容は、記銘した直 後には、指数関数的に急速に減少するが、次第に 緩やかな減少に転じ、一定時間が経過するとそれ 以上の忘却が殆ど起こらなくなる」ことを示し た。記憶は時々刻々と減少傾向を辿るが、繰り返 して何度も復習することで、一旦減少した記憶を その都度記銘し直すと徐々に固定化(consolida-tion)され保持されるようになると考えている (図 13)。 減衰説に対して、複数の記憶痕跡どうしが互い に干渉した記憶痕跡が消失して忘却すると云う考 え 方 は、干 渉 説(interference theory)と 呼 ば れ る28,29)。過去に学習した内容が新たに学習した内 容の想起を妨げることを順向干渉(proactive in-terference)、その逆に、新たに学習した内容が過去 に学習した内容の想起を妨げることを逆向干渉 (retroactive interference)と呼ぶ30)(図 14)。例え 図 12. Ebbinghaus の忘却曲線:20 分後には 58.2% は記憶していたが時間経過とともに記憶は 失われ、1 時間後には 44.2%、9 時間後には 35.8%、1 日後には 33.7% まで減少したが、 6 日後には 25.4%、1ヶ月後には 21.1% 保持 していた。 図 13. 繰り返し学習の効果:記憶は時々刻々と減 少傾向を辿るが、繰り返して何度も復習す ることで、一旦減少した記憶をその都度記 銘し直すと徐々に固定化され保持される。 図 14. 干渉説:過去に学習した内容(learned first) が新たに学習した内容(learned second)の 想起を妨げることを順向干渉(proactive in-terference)、その逆に、新たに学習した内容 (learned second)が 過 去 に 学 習 し た 内 容 (learned first)の想起を妨げることを逆向干 渉(retroactive interference)と呼ぶ。

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ば、最初に会った人物の名前を「田村さん」と記 憶したが、次に会った人物の名前を「村田さん」 と記憶した時に、最初に会った人物の名前を「村 田さん」と間違えて答えたときが順向干渉に当て はまる。この逆に、最初に会った人物の名前が頭 から離れず、次に会った人物の名前を「田村さん」 と間違えて答える時が逆向干渉に当てはまる。 抑圧説は、精神的にショックを受けた出来事や 外傷(trauma)は、一時的ないし長期にわたって 抑圧を受けるために、意識的に想起できない状態 になることを指す。抑圧された記憶は、本人の心 理的・行動的側面にさまざまな不適応症状を生じ る原因となることが報告されている31,32) IV. 記憶の機能局在と健忘 1957 年に Scoville と Milner33)は、両側の海馬を 含む側頭葉内側部の切除手術を受けた症例 HM の観察から、海馬の損傷により短期記憶から長期 記憶に移行する機能が失われることを報告した。 症例 HM は、16 歳から強直性間代性痙攣を頻回 に繰り返し、難治性のてんかんと診断された。側 頭葉内側部がてんかんの発生源と診断され、1953 年に両側の海馬、海馬傍回、扁桃体を含む側頭葉 内側の部分切除が行われた。症例 HM は、手術後 に重度の記憶障害を呈した。自分の眼前に提示さ れる情報に注意を向けて極く短時間のみ憶えるこ とは可能で、その情報の内容について会話するこ とも可能あったが、一旦注意が離れると、数分前 の会話内容や誰と話していたかも思い出すことが できなかった。すなわち、短期記憶を長期記憶に 移行することが困難なために、出来事記憶を形成 することが困難であった。症例 HM は、中程度の 逆向性健忘も呈し、術前 10 年間の記憶の一部も 失われていた。手続き記憶は保たれていたので、 運動技能を新しく学習して上達することができた が、自分が練習したことを思い出すことができな かった。症例 HM について詳細な心理学的評価 が行われ、海馬の機能と記憶に関する多くの臨床 報告がなされた34- 36)。症例 HM は 2008 年に死亡 し、実名も公表された。 その後の動物実験の結果や臨床報告から、出来 事記憶の障害は、大脳辺縁系の損傷により生じる ことが明らかになった37- 39)。大脳辺縁系には、「記

憶の回路」と呼ばれる Papez の回路(Papez’s cir-cuit)と、「情動の回路」と呼ばれる Yakovlev の回 路(Yakovlev’s circuit)が存在する(図 15)。Papez

図 15. 記憶に関連する大脳辺縁系の回路:Papez の回路(Papez’s circuit/ medial limbic system)と Yakovlev の回路(Yakovlev’s circuit/ basolateral limbic system)が存在する。

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の回路は海馬体−脳弓−乳頭体−視床前核−帯状 回−海馬という閉鎖回路で、内側辺縁系とも謂わ れる40)。回路内のどの領域でも両側性に損傷され ると健忘が生じる(図 16)。記憶を、海馬体とそ の周辺皮質固有の回路での情報処理で理解するの ではなく、このようなネットワークの損傷として 考えると、海馬に限らずに脳のさまざまな部分の 損傷で記憶障害が見られるという事実を説明する ことが出来る。しかし逆に、ネットワーク内の損 傷部位による症状に違いを説明することが難しく なる。記憶がネットワークの働きで形成されるな ら、そのネットワーク内のどこが損傷しても、ほ ぼ同程度の記憶障害が出るはずだからである。こ のように、記憶の機能分化論とネットワーク論と もにそれぞれ単独では、記憶障害を完全には説明 しきれない。 我が国で Yakovlev の回路と呼ばれるが、欧米 の文献では Yakovlev の名前では引用されていな い41)。1948 年 の Yakovlev の 論 文42,43)

Livingston44)が引用して、basolateral limbic circuit

を説明している。1962 年の Nauta の論文のなか で詳しく考察されていることから、Nauta の扁桃 体回路とも謂われる45- 47)。Yakovlev の回路は、扁 桃体、前頭葉眼窩皮質、マイネルト基底核、視床 背内側核がブローカ対角帯核を介して海馬と連絡 する。Yakovlev の回路は、情動記憶と関係してい るが示唆されており、扁桃体の機能と記憶の強化 との関係は最近注目を集めている。 「健忘(amnesia)」は、広義には、認知症まで含 めて記憶障害の広い意味で使われることが多い。 健忘の内容で分類すると、健忘を呈する期間内の すべての出来事を想起することが困難な状態であ る「全健忘(global amnesia)」と、思い出せる情報 と思い出すことが困難な情報が混在する状態「部 分健忘(partial amnesia)」に分けられる。 また時間軸で捉えると、脳損傷を受けた時点以 降の記憶が抜け落ちる状態、すなわち記銘困難な 状態を「前向性健忘(anterograde amnesia)」、一方

図 16. Papez の回路と Yakovlev の回路:Papez の回路は海馬体−脳弓−乳頭体−視床前核−帯状 回−海馬という閉鎖回路で回路内のどの領域でも両側性に損傷されると健忘が生じる。 Yakovlev の回路は、扁桃体、前頭葉眼窩皮質、マイネルト基底核、視床背内側核がブローカ 対角帯核を介して海馬と連絡し、情動記憶と関係しているが示唆されている。

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脳損傷を受けるより以前の出来事を思い出すこと ができない状態、すなわち想起が障害された状態 を「逆行性健忘(retrograde amnesia)」と呼ぶ(図 17)。 100 年以上前に Robot48,49)は「逆向性健忘」にお ける記憶の減衰に法則性を指摘した。①新しい出 来事から古い出来事へ記憶の解体が進む、②複雑 なことから単純なことへ記憶の解体が進む、③知 的に習得した事項から体験的に記憶した事項の順 に記憶の解体が進む、④知的能力の方が感情的能 力よりも先に減退する、③慣れないことから習熟 したことへ記憶の解体が進む、すなわち、日常の 慣例的なことや長い間に身についた習慣などは最 後まで残存する。 また、記憶障害は、器質的脳損傷に起因する記 憶障害(器質性記憶障害)と心因或いは精神疾患 に 関 連 し た 記 憶 障 害、す な わ ち「解 離 性 健 忘 (dissociative amnesia)」或いは「解離性障害(dis-sociative disorders)」に分類される。器質性記憶障 害には、アルツハイマー病、血管性認知症、前頭 側頭型認知症、レビー小体型認知症などを含む認 知症、ビタミン B1(チアミン)欠乏症に起因する Wernicke-Korsakoff 症候群、頭部外傷に起因する 外傷後健忘、くも膜下出血や脳梗塞などの脳卒 中、脳腫瘍、更には「一過性全健忘(transient global amnesia)」が含まれる。しかしながら一過 性全健忘は画像診断で責任病巣が捉えられない場 合も多いことなどから、必ずしも器質性記憶障害 に含めない考え方もある。 解離性健忘は、「重要な個人的情報の想起が不 可能になり、それがあまりにも広範囲にわたるた め通常の物忘れでは説明出来ない状態」と定義さ れる。解離性健忘には、「全生活史健忘(general-ized amnesia)」や「解 離 性 遁 走(dissociative fugue)」など含まれる。 全生活史健忘は、自伝的記憶が保持されている にも拘らず想起できない状態と定義され、「自ら のアイデンティティの喪失」とも謂われる。選択 的な逆行性健忘であり、前向性記憶は保たれ、発 症後の出来事記憶は正常に近く、知能も保たれ、 WMS-R の成績も良好で、画像診断では器質的病 変が否定されることなどが特徴である。 以上、記憶に関する用語の整理と記憶や忘却の メカニズムについて概説した。 文献

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Ken Nagata, Hiromi Komatsu, Mayumi Watanabe

図 9. Atkinson と Shiffrin の提唱した多重(二重)
図 15. 記憶に関連する大脳辺縁系の回路:Papez の回路(Papez’s circuit/ medial limbic system)と Yakovlev の回路(Yakovlev’s circuit/ basolateral limbic system)が存在する。
図 16. Papez の回路と Yakovlev の回路:Papez の回路は海馬体−脳弓−乳頭体−視床前核−帯状

参照

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