大星雲までの距離を測定し、 これらの星雲が銀河系の外 にあることを示した。この ように望遠鏡が発明されて、 より遠くの天体を観測でき るようになると、人間が観 察できる天体は地球のある太陽系から銀河系へ、そして 銀河系の外にある多数の銀河へと広がった。 20 世紀に入って科学技術が進歩すると、観測手段は可 視光だけでなく、電波や赤外線、紫外線、X線、ガンマ 線などの電磁波のあらゆる領域に広がっていった< 図 1>。さらに近年は、電磁波だけでなく、宇宙線(*1)、 ニュートリノ(*2)などの素粒子、重力波(*3)などの観測 手段も発達している。さらに、人工衛星を使って大気圏 外から宇宙を観測する技術も確立し、地上約600km上空 にあるハッブル宇宙望遠鏡は、宇宙の始まりに近い 130 52 Kawaijuku Guideline 2010.11 (*1)宇宙線…宇宙で観測される高エネルギーの放射線。陽子やヘリウムの原子核などの、比較的重い荷電粒子線が大部分を占める。 (*2)ニュートリノ…物質を構成する最小単位である素粒子の一種。太陽中心核や超新星爆発などから生成され、これらを観測することで宇宙現象に迫る分野をニュート リノ天文学という。日本の小柴昌俊博士がこの分野を開拓したことでノーベル賞を受賞している。
小惑星探査機「はやぶさ」の地球到着、NASAの
スペースシャトル「ディスカバリー」号に搭乗した
山崎直子宇宙飛行士のニュースなど、今年は宇宙に
関するニュースが多かった。
そんな宇宙に関する学問にはさまざまな学問分野
があるが、今回は「天文学」を紹介する。天体の動
きから時間や方向などを知るための学問として始ま
った天文学は、観測技術の発展とともに、対象領域
を宇宙全体へと拡張している。
現在の天文学研究におけるトピックスを中心に、
宇宙で起きている全ての現象を対象にしている天文
学を紹介しよう。
第
12
回
学部・学科
◆東京大学 岡村定矩教授入試情報 ◆ダークエネルギー 東京大学 須藤靖教授 ◆太陽系外惑星 東京工業大学 井田茂教授 ◆ブラックホール 愛媛大学 粟木久光教授 ◆授業・ゼミ紹介「天体観測実習」 鹿児島大学 今井裕准教授 ◆コラム 宇宙を学べる大学・天文学者のいる大学 ◆卒業後の進路 ………p56
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天文学
概説
電磁波や重力波などの情報をもとに 宇宙で起きている諸現象を解明 天文学はもともと、天体の動きから時間や方向などを 知るための実用的な学問として始まった。太陽の動きか ら1日の、月の満ち欠けから1カ月の、星の周期的な運 動から1年の長さがそれぞれ決まっていった。また、星 座の季節的な変化から季節の変化を知り、農耕に役立つ 暦作りにも役立てられた。 天体の運動を詳しく観察しているうちに、自然の運動 法則の解明に興味が広がり、天動説と地動説の対立を経 て、科学としての天文学が発達していく。1609年にガリ レイは口径 5cm の望遠鏡で、太陽、月などの太陽系内の 天体を観測しただけでなく、天の川を観測し、それが恒 星の集まりであることを発見した。さらに、1924年には ハッブルが口径2.5mの反射望遠鏡を用いてアンドロメダ観測技術の飛躍的な進展が
新たな宇宙の姿を描き出す
――東京大学 大学院理学系研究科 天文学専攻
岡村 定矩
教授に聞く
億年以上昔の天体の撮影に成功している。天文学は観測 技術の発展とともに、対象領域を宇宙全体へと拡張して いった。 現代の天文学は、宇宙で起きている全ての現象を研究 対象とする学問である。「全ての現象」を文字通りにとれ ば、地上における人間の諸活動も含まれるが、当然のこ とながら、そうした研究は天文学とは呼ばない。岡村教 授は、次のように説明する。「天文学は、天体や宇宙で起 きている現象のうち、地上で簡単には実験・再現できな いような現象について、それらの現象から発せられてい る信号を観測データとして受け取り、その現象の仕組み や実体を明らかにしていく学問なのです」 宇宙に関する学問には、他にも、天体物理学や宇宙論 と呼ばれるものがある。天体のスペクトルからその組成 や温度や密度などの物理状態を調べる天体分光学が生ま れ、また可視光以外の電磁波へと観測が広がって、物理 学との関係が密接になり、宇宙の起源や構造などの解明 への手掛かりもできた。天体の物理的性質に焦点を当て た分野を天体物理学と呼び、宇宙そのものの起源や構造 に焦点を当てた分野を宇宙論と呼ぶが、両方とも広い意 味での天文学に含まれる。 しかし、惑星科学や地球科学のように地学的な側面が 強い分野や、ロケット開発や国際宇宙ステーション開発 など工学的な分野は、今回紹介する天文学とはやや性格 が異なる。こうした分野は、宇宙科学と総称されること もあるが、宇宙科学という用語はさまざまな使われ方を するので、注意が必要である。例えば、月の石を持ち帰 って分析したり、金星の気象と地球の気象を比較したり することは、天文学の主な研究領域ではない。 電磁波や重力波などの「信号によって情報を得る」と いう研究手法が、天文学の大きな特色であるといえる。 「物理の基本法則の解明」と 「人類の世界観の構築」が目的 天文学は何を目指しているのか。岡村教授は大きく2 つの目的があるという。 「1つは、『物理の基本法則の解明』です。恒星の中心 部における高温度・高密度、星間空間における高真空、 中性子星付近における強い磁場や重力場など、宇宙には 地上では決して実現できないような極端な物理環境が存 在します。地球上で我々が知っている自然を説明する法 則が、こうした極端な物理環境における現象にも適用で き る か を 検 証 す る こ と は 天 文 学 の 重 要 な テ ー マです」 宇 宙 に お け る 現 象 を 調 べ よ う と す る と 、 ニ ュ ー ト ン 力 学 の 範 囲 で は 対 応 で き ず、一般相対性理論が必要になることがわかった。太陽 のように莫大なエネルギーを作り出す天体では、通常の 化学反応ではなく、核融合反応が起こっていることもわ かってきた。このように、宇宙における物理現象を説明 するためには、基本的な物理法則を修正・拡張したり、 新しい体系を作ることも必要になってくる。その意味で 天文学は、人間には創り出すことが困難な、宇宙という 実験場で行われている壮大な物理実験の観察を行ってい ると捉えることもできる。 「2つ目は、『人類の世界観の構築』です。人間は、な ぜ自分が存在するのか、人類はどこから来てどこへ向か うのか、という根源的な疑問を抱いています。それが、 宇宙の誕生や生命の誕生、宇宙全体の構造や行く末など を知りたいという欲求につながっていきます。天文学は、 そうした世界観を形作る学問でもあるのです」 現在の天文学研究における5つのトピックス 天文学は、宇宙の姿をより鮮明に描き出すことに成功 してきた。現在、ほとんどの研究者は、宇宙はビッグバ ンで誕生して現在もなお膨張し続けていると考えている し、20年前には確定していなかった宇宙の年齢も、約137 億年であることがほぼ明らかになっている<図2>。だ が、なぜビッグバンが起きたのか、宇宙で最初の天体は どのようなものだったのか、そもそも宇宙は何からでき ているのかさえ、依然として謎のままであり、観測デー タを矛盾なく説明する理論の検証が続いている。 岡村教授によれば、天文学の研究では、現在、次の5 つのトピックスが注目されているという。 ダークエネルギーとダークマター 1929年、ハッブルの観測によって宇宙が膨張しているこ 概 説 <図1>電磁波の波長領域と観測手段の関係 (*3)重力波…一般相対性理論から導き出される時空のゆがみが波動のように伝わる現象。中性子星の合体など、大質量の天体の運動に伴って重力場が変化すると、重力 波が光速で伝播する。日本でも、神岡鉱山内で検出装置を作って観測しようというLCGT計画が推進されている。 入 試 情 報 ダ ー ク エ ネ ル ギ ー 東 京 大 学 太 陽 系 外 惑 星 東 京 工 業 大 学 ブ ラ ッ ク ホ ー ル 愛 媛 大 学 授 業 ・ ゼ ミ 鹿 児 島 大 学 地球大気の吸収により強度が半減する高度を電磁波の 波長に対して示した図。地表に届かない電磁波は大気外 (スペース)から観測する。 岡村定矩他『シリーズ現代の天文学Ⅰ 人類の住む宇宙』日本 評論社、2007年、7頁 宇 宙 を 学 べ る 大 学 ・ 天 文 学 者 の い る 大 学 卒 業 後 の 進 路
宇宙定数に対応するものとして、注目されているのが、『真 空のエネルギー』です。ダークエネルギーの候補として最 も可能性が高いとされていますが、唯一の解ではないため、 多くの研究者がダークエネルギーの正体の解明に挑んでい ます」 ちなみに、ダークマターの正体も未だ解明されていない。 カミオカンデで知られる東京大学宇宙線研究所の神岡宇宙 素粒子研究施設では、ダークマターの直接検出を目指す XMASS計画が始まっており、世界的にも有望な研究として 注目されている。 なお、ダークマターを探る強力な手法であり、ダークエ ネルギーの研究にも重要な役割を果たす「重力レンズ効果」 を利用した研究も非常に盛んである。重力レンズとは、天 体の光が途中にある天体の重力の影響でまっすぐ進まず、 曲げられる現象のことである。この現象によって、1つの 天体であっても複数の天体のように見えたり、像がゆがん で弓状に見えたりすることがある。重力レンズ効果は、ダ ークマターやダークエネルギーの探索だけでなく、太陽系 外惑星の探索などにも利用されている。 太陽系外惑星 地球や火星などの太陽系惑星の存在は古くから知られて いたが、太陽系外の恒星を回る惑星が見つかったのは、 1995年と意外に新しい。自ら光を発しない惑星は、それだ け発見が困難だったからだ。しかし、いったん見つかって からは次々と太陽系外惑星が発見され、2010年9月の段階 で、すでに490個を数えるまでになった。 光を出さない太陽系外惑星を探すには、主に2つの方法 がある。1つはドップラー法だ。惑星が恒星の周りをまわ ると、両者の万有引力で、恒星はわずかに揺らぐ。恒星の 光のスペクトル(*4)中のスペクトル線の見かけの波長が周 期的に変化していれば、そこに衛星が存在していることが 予測できる。もう1つはトランジット法だ。もし、惑星が 恒星と地球との間に入ると、恒星の明るさが惑星に遮られ てわずかに暗くなる。明るさの時間的変化を調べれば、惑 星の存在が予測できる。 「ドップラー法では惑星の質量が、トランジット法では惑 星の半径がそれぞれ求められます。質量と半径がわかれば 密度がわかるため、岩石惑星かガス惑星かもわかるのです。 これまでは比較的大きな質量の惑星が多かったのですが、 観測精度の向上で、近年はより小さな質量の惑星も見つか っています。2009年3月に打ち上げられた太陽系外惑星探 査専用のケプラー衛星は、2011年2月には新たに700個の惑 54 Kawaijuku Guideline 2010.11 とが明らかになったが、その膨張は宇宙にある天体がお互 いを引き合う重力のために減速していると考えられていた。 ところが、1998年には、その速度がだんだん速くなってい ることが明らかになった。宇宙膨張は加速していたのだ。 一方で、さまざまな観測や研究から、宇宙を構成してい る物質のうちの大部分は光で見えていないということが 1980年代に明らかになった。光で見えないのに存在するこ とがわかるのは、それが重力を及ぼすからである。その物 質は、質量はあるが観測できない物質ということで「ダー クマター」と呼ばれるようになった。ダークマターの正体 はまだわかっていない。光で見える見えないにかかわらず、 物質が存在すれば、宇宙の膨張速度はゆるやかになるはず だ。しかし、観測データはそれとは逆の事実を示していた。 その観測事実を説明するために考え出されたのが「ダーク エネルギー」である。 「現在、宇宙を構成しているのは、我々が通常知っている 原子などの物質(元素)が約4.6%、ダークマターと呼ばれ る正体不明の物質が約23%、残りの約72%がダークエネル ギーだとされています。ダークエネルギーは重力とは逆の 力、すなわち斥力(反発する力)として働くとされていま す。ということは、ダークエネルギーは物質ではないので す。宇宙は静的だと考えていたアインシュタインは、一般 相対性理論を宇宙全体に当てはめると、宇宙は膨張するか 収縮するという解しか得られないことに気づきました。そ こで、理論の式に宇宙定数を付け加えて、静止状態にある 宇宙を表現できるようにしました。その後、宇宙が膨張し ていることが発見され、アインシュタインは宇宙定数を撤 回しました。ところが、宇宙定数を加えることで、現在の 宇宙の加速膨張が説明できることがわかったのです。この (*4)スペクトル…光を波長ごとに分けたときの強度分布のこと。太陽の光をプリズム(光を屈折させる)や回折格子(光を反射・干渉させる)に通すと虹のように色を 持った光に分かれる。この虹の帯をスペクトルというが、その帯に沿った光の強度変化もスペクトルという。天体のスペクトルにはいろいろな元素に 特有のスペクトル線が見られる。 岡村定矩教授 提供
星候補を報告するとしています。今までの発見ペースでい けば、2012年頃には、地球と同じ質量程度の岩石惑星が見 つかる可能性があります。地球型の惑星があれば、そこに 生命が存在する可能性もあります。超大口径望遠鏡で暗い 惑星のスペクトルが得られれば生物の存在の兆候が見える かもしれません。第2の地球を探す研究として注目されて います」 ガンマ線バースト ガンマ線バーストの正体は、近年になって少しわかって きた。ガンマ線バーストとはガンマ線と呼ばれる電磁波が、 1∼2秒程度閃光のように突然明るく輝く現象である。そ の正体は宇宙の中で起こっている非常に大規模な爆発現象 の結果だと推測されている。例えば、ブラックホールが合 体したり、超新星爆発が起こったりしたときに、莫大なエ ネルギーが解き放たれ、一番高いエネルギーを持つ電磁波 であるガンマ線が放出されるとされている。 「ガンマ線バーストは銀河の中で起き、しかも極めて明る いので、非常に遠くの銀河の存在を確かめることができま す。また、ガンマ線バーストの直後に見えるX線や可視光線 を詳しく調べることで、遠くの銀河の様子もわかるのでは ないかと期待されています。ガンマ線バーストは秒単位の 閃光のような現象のため、常に観測していなければなりま せんが、遠くの銀河の性質やガンマ線バーストの発生原因 の解明を目指して、盛んに研究されるようになっています」 ブラックホールと銀河の成長 近年になって銀河の中心核にある大質量ブラックホール と、銀河の成長が深く関係していることがわかってきた。 多くの銀河の中心核には太陽質量の数百万倍から数十億 倍程度の質量を持つブラックホールがある。このブラック ホールの質量と銀河の質量がほぼ比例するという関係があ ることがわかった。 「ブラックホールにはガスが周りから供給され、ブラック ホールの質量は増えてゆきます。銀河の中で星ができると ガスの供給が増えてブラックホールの成長が早まったり、 反対に、成長が早まりすぎるとブラックホール周辺からガ スなどが噴出して(ジェット)、そのジェットが銀河をかき 回して星をできにくくさせる等、複雑な関係があるかもし れません。両者の関係を解明しようという研究が盛んに行 われています」 初期銀河の解明 宇宙誕生から137億年が経過したが、誕生してからごく初 期の、例えば誕生後10億年前後の宇宙や銀河の様子はどう だったのかということを調べる研究は、世界的な競争の場 である。宇宙は膨張し続けているため、初期の(過去の) 宇宙は遠くにある。つまり、初期の宇宙の様子を知るには、 できるだけ遠くの宇宙を観察することが必要だ。すばる望 遠鏡をはじめとして口径8m級の望遠鏡が世界各地に建設 されており、最古の銀河=最も遠い銀河の観測と情報入手 を目指して、現在、世界中で観測が行われている。次世代 の地上望遠鏡として、口径30mのものが計画されているが、 その大きな目標の1つが、宇宙初期の銀河の観測である。 研究目的によって異なる観測手段 人工衛星を使った大気圏外の観測にも期待 天文学の研究は観測手段の発達と共に歩んできた。こ こ20∼30年ほどで天文学は長足の進歩を遂げたが、それ はこの間に観測技術が高度に発展してきたからだ。例え ば銀河のスペクトルを1晩で何百個も測定したり、CCD (電荷結合素子を使ったセンサー)を使って1億個の銀河 を観測するスローンデジタルスカイサーベイなどの大規 模観測が可能になった。また、電波、赤外線やX線の検 出器の感度も向上し、解像度も可視光に勝るほどの画像 が得られるようになった。このように、全ての波長域で 観測技術が向上したことに加えて、電磁波以外の観測方 法も手に入れることができた。 「さらに、大量の観測データを短時間で処理する情報処 理技術の進展も大きく貢献しています。観測データを理 論から解釈する場合には、強力なコンピュータを用いた シミュレーションが必要ですが、それが容易になったこ とで、観測と理論の結びつきも密接になりました。例え ば、理論の側から、こんなデータを取ったらどうかとい った提案も行われるようになっています」 天文現象の場合は、ある現象とそこから出る信号の性 質には対応関係がある。電磁波の場合、波長域が非常に 広いため、この現象ならこの波長域の電磁波が出るとい ったことが予測できる。そのため、天文学の研究では、 自分が観測したい現象に応じて、それにあった観測方法 を組み合わせることが多い。また、地表に届く信号は、 可視光と一部の赤外線、それと電波で、あとは大気に吸 収されてしまう。そのため、より幅広い観測や、地上の さまざまな影響を受けずに精度の高い観測をしようとな ると、人工衛星での観測が必須になる。天文学は、今後 も、こうした技術の向上と共に、ますます発展していく ことになるはずだ。 概 説 入 試 情 報 ダ ー ク エ ネ ル ギ ー 東 京 大 学 太 陽 系 外 惑 星 東 京 工 業 大 学 ブ ラ ッ ク ホ ー ル 愛 媛 大 学 授 業 ・ ゼ ミ 鹿 児 島 大 学 宇 宙 を 学 べ る 大 学 ・ 天 文 学 者 の い る 大 学 卒 業 後 の 進 路 参考文献 岡村定矩他『シリーズ現代の天文学Ⅰ 人類の住む宇宙』日本評論社、2007年
分け制度の進学者受入予定表をみると、天文学科の上 限定数は9名で他の学科と比べ非常に狭き門である。 また、一部の大学では「教員養成系学部」でも天文 学・宇宙が学べる。例えば、北海道教育大旭川校、山 形大、愛知教育大、福岡教育大、大分大の教員養成課 程の理科選修では天文学専門の教員がおり、1・2年 次のゼミ等で学べるようになっている。 私立大では、理、工学部や一部の情報系学部で天文 学・宇宙を学ぶことができる。早稲田大、国際基督教大、 東京理科大などで設置されているほか、文系色の強い大 学・学部にもみられる。設置されている学科をみると、 物理学科のほか、数学、言語文化学科など、一見天文 学・宇宙と関係がなさそうな学科もある。 国公立大は物理重視、私立大は幅広い選択科目 次に、入試科目について特徴をみていく。国公立大 前期日程のセンター試験科目数をみると、ほとんど全 ての大学で7科目を課している。また分野の特性上、 物理が必須の大学も散見されるほか、約8割の大学で 56 Kawaijuku Guideline 2010.11
入試情報
ここでは 66 ページで紹介する、「 宇 宙 を 学 べ る 大 学・天文学者のいる大学」を中心に、「天文学」「宇宙」 について学べる国公立大・私立大の入試の特徴をみて いく。 理学部のほか教員養成系学部でも設置 国公立大で天文学・宇宙が学べる学部は主に「理学 部」となっている。大学の顔ぶれをみると、東京大、 京都大、東北大といった旧帝国大が目立ち、理学部の なかに天文、地球惑星環境、宇宙地球物理、物理とい った学科を設置している。学科で天文学科を設置して い る の は 東 京 大 し か な く 、 理 科 一 類 か ら の 進 級 が一般的である。 東 京 大 の 進 学 振 理・工学系 教員養成学系 学際系 (総合・環境・情報・人間) 2次試験 偏差値 東京(理科一類) 京都(理一理) 大阪(理一物理) 北海道(総合理系一物理重点) 東北(理一物理系、地球科学系) 千葉(理一物理) 名古屋(理) 九州(理一物理) 筑波(理工一物理学) 首都大学東京(都市教養一理一物理学) 神戸(理一地球惑星科学) 金沢(理工一数物科学) 大阪府立(理一物理) 熊本(理一理) 茨城(理一理一地球環境) 奈良女子(理一物理科学) 広島(理一物理科学) 山形(理一物理) 茨城(理一理一物理学) 新潟(理一物理) 岐阜(工一数理デザイン) 広島(理一地球惑星システム) 山口(理一物理・情報科学) 鹿児島(理一物理科学) 弘前(理工一物理科学、地球環境) 会津(コンピ理工一コンピュータ) 佐賀(理工一物理科学) 高知工科(システム工一A方式) 宮崎(工一材料物理工) 東京学芸(教育一環一環境教育) 東京学芸(教育一中一理科) 東京学芸(教育一環一自然環境) 埼玉(教育一学一理科) 東京学芸(教育一初一理科) 新潟(教育一学校一理科) 愛知教育(教育一現一宇宙物質) 三重(教育一学校一理科) 大阪教育(教育一学一理科中学) 香川(教育一学校教育A・B系) 長崎(教育一学一中学理科) 大分(教育福祉一学校一理科) 滋賀(教育一学校教育、情報教育文系・理系) 大阪教育(教育一学一理科小学) 和歌山(教育一学校一理科系) 福岡教育(教育一中等一理科) 福岡教育(教育一初等一理科) 福岡教育(教育一環一環境教育) 兵庫県立(環境人間一環境人間) 徳島(総合科学一総合理数) 70.0 65.0 60.0 57.5 55.0 52.5 50.0 47.5 45.0 42.5 ※前期日程のみ ※予想難易度は2010年10月現在 <図表3>国公立大 天文学・宇宙を学べる学部・学科の予想難易度一覧(抜粋) <図表 1 >国公立大前期日程 2次試験教科パターン 教科数 教科パターン 募集区分数 4教科 3教科 2教科 1教科 教科なし 英、数、国、理2 英、数、理2 英、数、理 英、国 (英、国、地歴→2) 英、数 数、(英、国→1) 数、理2 数、理 理、(英、数→1) (英、国→1) (数、理→1) 理2 理 理、小 (理、地歴、公→1) 実技 小論文 総合問題 3 12 5 2 1 3 1 1 10 1 1 4 3 8 1 1 1 2 2 <図表2>私立大 一般方式 主な教科パターン 教科数 教科パターン 募集区分数 3教科 2教科 1教科 英、数、理2 英、数、理 英、国、(数、国、地、公→1) 英、国、(数、地、公→1) 英、国、(数、理、地、公→1) (英、数、国、理→3) 英、理、(数、国→1) 数、(英、数、理→2) 数、理、(英、数→1) 英、(数、国、地、公→1) 英、(数、理→1) 英、国 英、数 (英、数、国、理→2) (英、数、国→2) (英、数、理→2) 数、(英、理→1) 数、理 英、他 1 37 1 2 1 1 1 1 1 1 1 1 2 1 2 3 4 1 1理科2科目が必須となっている。 <図表1>は2次試験の教科パターンを科目の多い 順に並べたものである。受験生にとって負担感のある、 理科2科目必須としている大学は4分の1にのぼり、 なかでも東京大、名古屋大、京都大では4教科5科目 を課している。 2次試験は理科のほか、数学、英語を課す場合が多 い。理科は物理が必須の大学が目立ち、出題範囲はほ とんどの大学で「Ⅱ」までとなっている。この分野の 志望者には理科の選択科目は物理を中心に考えさせた い。また、他の分野と比べ、地学でも受験できる大学 が多いのが特徴といえる。例えば旧帝国大や弘前大、 山口大などでは地学の選択も可能である。数学の出題 科目は数学Ⅲ・数学Cまでが多く、入試では数学・理 科の学力が重視されている。 <図表2>は私立大一般方式の教科パターンを集計 した表である。3教科の大学が7割以上を占め、次い で2教科で受験できる大学が約3割となっている。な かには、英語や国語を必須科目に、数学や理科、地 歴・公民を選択科目にするなど文系生も受験できるよ うに配慮している大学もみられる。また、理科は物 理・化学・生物から選択できる大学が多く、国公立大 ほど物理が重視されていない。そのなかで、早稲田大 (先進理工−物理)では4科目が課されており、英語、 数学、物理、化学が必須である。 入 試 情 報 入試難易度については、国公立大では東京大をはじ め京都大、大阪大で2次試験のボーダーライン(偏差 値)が60.0 以上の難関となっているが、偏差値50.0 前 後の学科が最も多くなっており、幅広い難易度に分散 している<図表3>。 私立大では偏差値 50.0 以上の大学が全体の半数を占 めており、比較的難関の系統といえるだろう< 図 表 4>。 基礎研究分野の人気により倍率上昇 最後に、近年の入試状況について見ていこう。<図 表5>は国公立大前期日程の物理分野の志願者数と倍 率(志願者/合格者)の推移である。志願者数はここ 数年の基礎研究分野の人気により、増加傾向を示して おり、ここ2年は2千2百人程度となっている。倍率 は上昇が続いている。 <図表6>は私立大(一般方式+センター利用方式) の延べ志願者数と倍率(志願者/合格者)の推移を示 している。志願者数は増加を続けており、倍率も毎年 0.2 ∼ 0.3 ポイントずつ上昇している。国公立大同様、 人気が顕著に現れている。 <図表5> 国公立大前期日程 物理分野志願者数推移 <図表6>私立大 物理分野志願者数推移 2,400 2,200 2,000 1,800 1,600 06 07 08 09 10 3.0 2.0 2.2 2.4 (人) (倍率) 倍率 志願者数 (年度) 2.8 2.6 ※河合塾調べ 25,000 20,000 15,000 06 07 08 09 10 3.2 3.4 2.0 2.2 2.4 (人) (倍率) 倍率 志願者数 (年度) 3.0 2.6 ※河合塾調べ 数値は一般方式+センター利用方式のもの 2.8 <図表4>私立大 天文学・宇宙を学べる学部・学科の予想難易度 一覧(抜粋) 理・工学系 その他学系 一般方式 偏差値 早稲田(先進理工一物理) 東京理科(理一物理B方式) 中央(理工一物理) 立教(理一物理個別) 青山学院(理工一物理・数理B方式) 学習院(理一物理) 東京理科(理工一物理B方式) 立命館(理工一物理科学A方式) 関西学院(理工一物理全学) 芝浦工業(システム理一電子情報シス前期) 東邦(理一物理B日程) 日本女子(理一数物科学) 京都産業(理一物理科学前期3) 近畿(理工一理一数学前期A) 近畿(理工一理一物理前期A) 近畿(理工一理一化学前期A) 甲南(理工一物理A日程) 日本(文理一物理A方式1期) 東邦(理一生命圏環境科学A) 工学院(工一機械工A日程) 工学院(工一応用化学A日程) 東海(理一物理A方式) 神奈川(理一情一数理物理前A) 東京理科(理二部一物理B方式) 国際基督教(教養一アーツサイエンス) 獨協(国際教養一言語文化A・B方式) 文教(教育一学校一理科A1期) 桜美林(リベラル一3科目型) 67.5 65.0 57.5 55.0 52.5 50.0 47.5 45.0 42.5 40.0 ※予想難易度は2010年10月現在 概 説 太 陽 系 外 惑 星 東 京 工 業 大 学 ブ ラ ッ ク ホ ー ル 愛 媛 大 学 授 業 ・ ゼ ミ 鹿 児 島 大 学 ダ ー ク エ ネ ル ギ ー 東 京 大 学 宇 宙 を 学 べ る 大 学 ・ 天 文 学 者 の い る 大 学 卒 業 後 の 進 路
58 Kawaijuku Guideline 2010.11 (*1)バリオン…原子核を構成する陽子と中性子などのように、クォークからなる複合粒子のこと。原子は原子核と電子から構成され、電子はバリオンではないが、 電子の質量は原子核に比べて無視できるほど小さい。従って正確ではないのだが、宇宙論では、普通の物質、あるいは元素のことを単にバリオン と呼ぶことが多い。 (*2)宇宙マイクロ波背景輻射…宇宙を一様に満たしている電磁波で、マイクロ波と呼ばれる電波領域に強度のピークを持つことからそう名づけられている。宇宙が高温高 密度の状態から始まったとするビッグバン宇宙論の観測的証拠である。宇宙背景輻射、宇宙マイクロ波背景放射とも呼ばれる。 かり、ダークマターと呼ばれるようになります。つまり 「光を出さない、質量を持った未発見の粒子」で宇宙は満 たされていると考えられるようになってきたのです。 ところが、さらに観測データが出てくると、ダークマタ ーと元素だけでは説明できないことが増えてきました。そ の代表的なものが後述の宇宙の加速膨張の発見です。それ を説明すべく登場したのがダークエネルギーで、「光を出 さず、互いに反発するような性質を持った存在」だと考え られています。ただし、ダークエネルギーの存在が直接確 認されたというよりも、そういう奇妙な性質を持った成分 を考えないと、宇宙の加速膨張という観測事実が説明でき ないのです。 実はさらに、完全に正体がわかっている元素(=バリオ ン)の約半分が宇宙のどこにどのような形態で分布してい るかはわかっていません。星や高温ガスとして直接観測さ れているバリオン以外はダークバリオンと呼ばれていま す。このように、宇宙を構成している成分のうち、性質と 存在形態がはっきりわかっているのはわずか2%程度でし かなく、残りの98%は、ダークバリオン、ダークマター、 ダークエネルギーなどの、正体不明の「ダークな」成分だ ということになります。 宇宙が加速膨張していることから導かれる ダークエネルギーの不思議な振る舞い ダークマターの存在自体は、すでに数多くの天文学的観 測データから、ほぼ確立しているといってよいでしょう< 図2>。その正体は、質量を持った未知の素粒子であると 考えられており、現在は、地上での直接検出を目指した地 「何もない」はずのところに「何か」があり 宇宙の 98 %はダークな成分でできている 宇宙は何からできているのか――これは、誰もが抱く単 純なかつ本質的な問いです。ここ 30 年くらいの天文学の 研究で、「この宇宙の大部分を占めているのは、光ってい るものではない」ということがわかってきました。すなわ ち、見えているものだけが世界のすべてではなく、「夜空 の暗いところに何かがある、さらにそれこそが宇宙の主成 分である」ことが明らかになってきたのです。私たちは、 その何かの正体を探す研究を行っています。 現在、宇宙を構成しているものは大きく3種類に分かれ ていることが知られています<図1>。このうち、5%弱 を占めるのは我々がよく知っている元素から成る物質です (バリオン(*1))。次に多いのがダークマターで約5分の1、 そして全体の4分の3を占めるのがダークエネルギーだと されています。 1970年代にはすでに宇宙の大半の成分は直接光は出さな い「見えないもの」であることが知られていました。しか しそれらは地上のすべての物質と同じく、元素からできて いると考えられていました。例えば太陽は水素やヘリウム など我々の体を作っている元素と同じ元素からできていま す。しかし、宇宙が100%通常の元素だけからできている と仮定すると、宇宙全体のヘリウムの存在比や、宇宙マイ クロ波背景輻射(*2)の等方性の観測結果と矛盾することな どが指摘されるようになりました。 1980年代になると、「見えないもの」は元素ではないが 通常の万有引力の法則には従う(重力を及ぼす)ことがわ
宇宙全体の4分の3を占めるナゾの成分
「ダークエネルギー」の正体に迫る
「宇宙は一体何からできているのか、宇宙を満たしている主成分は何か」という疑問は、 単に天文学だけにとどまらない根源的な問いかけである。地球上のあらゆる物質は元素から できているが、宇宙全体まで対象を広げると実はそうではない。元素からできている物質は わずか 5 %弱でしかなく、残りはいずれも正体不明の「ダークマター」と「ダークエネルギ ー」で占められていることがわかっている。特に宇宙の4分の3を占めるダークエネルギー は、互いに反発する斥力を及ぼすような奇妙な存在である。この不思議な宇宙の主成分の解 明は、天文学と基礎物理学に横たわる一大テーマである。東京大学 大学院理学系研究科 物理学専攻
須藤 靖
教授
ダーク
エネルギー
(*3)宇宙定数…一般相対性理論の基礎方程式であるアインシュタイン方程式に付け加えることのできる、定数の自由度。1917年にアインシュタインは進化しな い静的な宇宙を実現するために導入したが、その後取り下げた。しかし現在では、宇宙の加速膨張を説明するダークエネルギーの最も有力な候 補として再評価されている。 (*4)バリオン振動…宇宙誕生後38万年後に凍結したバリオンの密度ゆらぎがもたらす音響振動で、銀河の3次元分布のなかに埋め込まれている。理論的に正確 概 説 入 試 情 報 ダ ー ク エ ネ ル ギ ー 東 京 大 学 太 陽 系 外 惑 星 東 京 工 業 大 学 ブ ラ ッ ク ホ ー ル 愛 媛 大 学 授 業 ・ ゼ ミ 鹿 児 島 大 学 が唱えた宇宙定数(*3)ではないかとの説や、空間からすべ ての物質を取り除いた後に必然的に残る真空自体が持って いるエネルギーのようなものではないかとの説があります が、いずれも納得できる理論のレベルには達していません。 またこのいずれの場合でも、直接的な観測はほぼ不可能で あり、実験による検証を考えるとしても今後100年スケー ルの話でしょう。そのため、ダークエネルギーの正体の解 明は、天文学的な観測に頼らざるを得ないのです。 ダークエネルギーの正体を天文学的に探る方法として、 現在は、「超新星のハッブル図」「宇宙マイクロ波背景輻射 の温度ゆらぎスペクトル」「宇宙論的重力レンズ」「銀河分 布のバリオン振動(*4)」の4つが有力な方法として知られ ています。特に現在私たちは、遠方の銀河分布を正確に測 定することで、このバリオン振動の周期を測定し、それを もとにダークエネルギーの存在量、時間変化などの基本的 な性質を絞り込んでいこうとしています。 そのためには、遠くの銀河を数多く、できるだけ広い範 囲で、しかも精密に観測する必要があります。そのために、 ハワイ島のマウナケア山頂にある国立天文台のすばる望遠 鏡を使って、50億年くらい前の銀河を数百万個観測しその 3次元地図を完成させる国際プロジェクトを計画中です。 これとは全く独立に、ダークバリオンの研究も進めてい ます。ダークバリオンの存在形態としては、宇宙の大構造 に沿って分布している温度十万度から一千万度程度の中高 温ガスが最も有力だと予想されています。それを直接検証 するために、専用の人工衛星を打ち上げて、軟X線領域で 酸素の発する特徴的な輝線を観測することで、ダークバリ オンを直接検出したいと考えています。 下実験や大型加速器実験が活発に行われています。つまり、 天文学から素粒子物理学へとバトンが渡されつつあると言 ってよいでしょう。その一方で、ダークエネルギーに関し ては、まだその正体は皆目わからないままです。にもかか わらず、どうしてダークエネルギーが存在するなどと結論 されているのでしょうか。 宇宙が膨張していることは、ハッブルの観測によって 1929年に発見されました。この宇宙膨張の速度の時間変化 の割合、すなわち加速度が測定できるようになったのは 1998年のことです。その結果は驚くべきことに、速度が時 間とともに増大している、言い換えると、宇宙が加速膨張 していることを示していたのです。宇宙を構成する成分は、 元素であれダークマターであれ互いに重力を及ぼし合いま す。従って万有引力の法則により、その膨張速度は徐々に 減少していくはずです。ところが、観測事実はその逆だっ たのです。 これを説明するために、考え出されたのがダークエネル ギーという成分です。宇宙の膨張を加速させるためには、 引力である重力とは逆に反発する斥力として作用する成分 を考えざるを得ません。いわば「万有斥力」ですが、もち ろんそのような性質を持つ存在が直接観測されているわけ ではありません。またその性質から、ある特定の場所に集 中して分布することはできず、宇宙全体に一様に広がって いると考えられます。その意味でも、通常我々が想像する 物質と描像とはかなり異なり、具体的なイメージを思い浮 かべることすら困難な不思議な存在です。にもかかわらず、 それが宇宙の主成分であるというのですから、並大抵の驚 きではありません。 50 億光年前の銀河を数百万個観測し ダークエネルギーの詳細な性質に迫る 現在、ダークエネルギーについては、アインシュタイン <図1> 宇宙の組成 中 央 の オ レ ン ジ 色 の 銀 河 団 ( 6 2 億 光 年 先 ) の ま わ り に 見 え る 4 つ の白く光る天体は、98 億 光 年 先 に あ る 1 つ の ク エ ー サ ー の 多 重 像 。 ク エ ー サ ー の 手 前 に あ る 銀 河 団 の 及 ぼ す 重 力 の た め に 、 ク エ ー サ ー の 光 の 軌 道 が ゆ が め ら れ 複 数 の 像 と し て 観 測 さ れ る ( 重 力 レ ン ズ 効 果)。さらに、クエーサ ー の 多 重 像 の 内 側 に あ る複数の銀河の 10 倍もの質量が存在すると考えなければ、この重力レンズ効果を 説明することができない。これは銀河団に全体として大量のダークマターが存在す る直接的な証拠の一例である。2003年に須藤先生の研究室の大学院生2名(当時) がSDSS(スローンデジタルスカイサーベイ)で発見した。この図は、その後ハッ ブル宇宙望遠鏡で精密に観測した際の画像。 光を出さない バリオン バリオン以外の ダークマター ダークエネルギー 星・銀河(バリオン) 1970年代 1980年代 1990年代 ダークエネルギー 72.1±1.5% 元素 4.6±0.2% ダークマター 23.3±1.3% <図2> ダークマターが存在する証拠 ▲ 宇 宙 を 学 べ る 大 学 ・ 天 文 学 者 の い る 大 学 卒 業 後 の 進 路 図1、2とも須藤靖教授 提供
60 Kawaijuku Guideline 2010.11 に近い円運動をしていますが、エキセントリック・プラネ ットは楕円軌道を持っているなど、太陽系の惑星形成理論 からは説明できそうもないような異形惑星でした。 そのため、惑星研究には、異形の太陽系外惑星の形成を も説明できるような、標準的な惑星形成モデルを構築する ことが求められるようになったのです。 太陽系外惑星は、その後も次々と発見され、現在では 500個以上が観測されています<図>。今後もその数がさ らに増加することは間違いありません。太陽系外惑星の研 究は、太陽系の惑星形成理論の根本的な見直しも含め、天 文学における最もホットな分野の1つになっています。 観測チームとの「他流試合」を通して 惑星形成の理論モデル構築を目指す 太陽系外惑星の研究は、観測と理論の両面で進められて います。観測面では、より多くの惑星、とりわけまだ発見 されていない地球くらいの大きさの惑星を探すための努力 を続けており、理論面では、観測された太陽系外惑星のデ ータを説明できる理論の構築を目指しています。 惑星ができる前の状態、すなわち恒星の周りに円盤状の ガスが集まっている状態と、その結果である惑星が存在し ている状態は、数多く観測されています。ですから、理論 研究は、その間の過程をつなぐものといえます。ある初期 条件を入力すると、こんな惑星ができるというモデルを作 り、そこに観測データを入力して比較検討しながら、理論 を作り上げていくわけです。 とはいえ、惑星ができる過程は非常に複雑で、しかも多 段階です。最初はミクロンという単位の大きさだったダス トが、ぶつかり合って小さな天体になり、重力的な相互作 異形惑星の発見により 太陽系も含めた惑星の研究に脚光 この銀河には、数千億個の星があるといわれています。 この場合の星とは、恒星(star)のことを意味しており、 自ら光を放っているため、望遠鏡で観測できます。一方、 地球のような星は惑星(planet)といい、太陽系には8つ の惑星(*1)があることが早くから知られていました。そこ で他の恒星にも同じような惑星があるのではないかと、 1940年代から太陽系以外でも惑星の探索が行われてきまし た。ただ、惑星は非常に強く輝く恒星の周りを淡く照らさ れて公転しているため、その淡い光を地球上で捉えるのは 難しく、半世紀もの間、太陽系以外では惑星の存在が確認 できませんでした。 1995年10月に、ペガサス座51番星に初めて太陽系外惑 星が発見されると、惑星研究に大きな変化が起こります。 従来の惑星研究の対象は太陽系に限られており、1980年 代には、多少の疑問点を残しつつも、太陽系の惑星形成に 関してほぼ合理的に説明できるところまで研究が進んでい ました。そのため、その後の惑星研究はあまり進展してい なかったのです。ところが、次々と発見される太陽系外惑 星は、太陽系の惑星系とは似ても似つかないような惑星系 を形成していることが判明します。大半は、中心の恒星の 極めて近くを、数日の公転周期で回るような木星クラスの 巨大なガス惑星でホットジュピターと呼ばれるものや、中 心の恒星の至近距離を通る楕円軌道を持つ惑星でエキセン トリック・プラネットと呼ばれるものです。ホットジュピ ターは、非常に高温で、紫外線や赤外線も強烈に降り注い でいます。また、太陽系惑星のほとんどの惑星はほぼ真円
惑星形成理論の再構築が進み
地球外生命発見への期待も高まる
1995年に初めて太陽系以外の場所で惑星が発見されて以来、太陽系外惑星の発見が相 次いでいる。太陽系とは全く異なる姿の惑星系の存在が確認されたことで、新たな惑星 形成理論の構築が研究課題となり、さらに地球外生命の可能性に関する議論も次の段階 に進んだ。天文学の研究は、「より遠く」の宇宙を目指す方向と同時に、太陽系も含め、 近くに存在する惑星系について「より深く」探究する方向へも進化を始めている。東京工業大学 大学院理工学研究科 地球惑星科学専攻
井田 茂
教授
太陽系外惑星
(*1)8つの惑星…2006年までは冥王星が第9惑星と見なされていたが、国際天文学連合により、現在では準惑星として規定されている。概 説 入 試 情 報 ダ ー ク エ ネ ル ギ ー 東 京 大 学 ブ ラ ッ ク ホ ー ル 愛 媛 大 学 太 陽 系 外 惑 星 東 京 工 業 大 学 授 業 ・ ゼ ミ 鹿 児 島 大 学 在するためには、恒星の至近距離を回っていなければなり ません。距離が近いということは、恒星の引力の強い影響 を受けることになり、いつも同じ面が恒星に向いているこ とになります。すると、常時昼の区域と常時夜の区域がで き、昼側には強烈な紫外線や赤外線が常に降り注ぎ、生物 が存在するには厳しい環境となります。ただし、最近のゲ ノム解析によれば、遺伝子が厳しい環境に置かれることが 生命の進化を促進させることがわかっています。地球で生 命が急激に進化した時期も、全球凍結(*2)という生命にと って非常に厳しい時期と一致します。そうなると、紫外線 にさらされる厳しい条件を持った惑星の方が、かえって生 命を進化させているのではないかという仮説も不可能では ありません。 また、太陽系外惑星の大気中の酸素に注目する研究もあ ります。酸素が確認できれば、光合成生物の存在が強く示 唆されます。光合成を行うというだけでは、単細胞生物か もしれませんが、多細胞の高等生物である植物も観測可能 かもしれません。植物の葉には赤外線を強く反射する性質 があるため、太陽系外惑星の赤外線の反射率が自転にあわ せて変動するかどうかを観測すれば、植物が繁茂する陸地 があるかどうかもわかるのです。 地球外生命はこれまで、恒星からの距離や重さが地球と 同じくらいの「第2の地球」でのものを漠然と考えてきま した。しかし、生命の存在可能性に関する本質的な議論が 深まったため、地球とは全く異なる環境を持つ惑星にも独 自の進化を遂げた生命が存在するかもしれません。 惑星は、これまで天文学が研究対象としてきた天体の1 つですが、内部構造が複雑で、しかも表層もさまざまな姿 を持っているため、単純な変数では表現できません。生命 進化ともつながる惑星の研究は、今後もますます面白くな っていくはずです。 用を起こしながら、お互いに衝突したり、周りのガスを集 めたりして惑星として成長していくわけですが、それぞれ の詳細な過程はまったくわかっていない部分もたくさんあ ります。そこで理論研究では、各過程を理論的にきちんと 説明した上で、全体の過程を統合し、最終的にこんな惑星 が形成されるということをシミュレートできるような数値 モデルを作ろうとしています。 それには観測結果との密接な連携が不可欠で、私の研究 室では、海外も含めて学内外の観測チームとの「他流試合」 に力を入れています。理論が予測する結果と現実の観測デ ータとは当然異なりますから、それらを修正しながら、観 測データに合致するような理論を作り、観測チームにその 理論から予測される結果を提示します。観測チームは、そ の結果をもとに、新たな発見を目指します。こうした相互 のやりとりを繰り返すことで、太陽系も含めた惑星形成理 論を進化させているのです。 生命の進化の過程の再検討により 高まる地球外生命の存在可能性 太陽系外惑星の研究は、地球外生命の存在可能性を追究 する研究にも大きな影響を及ぼしています。 生命は、地球では海底で誕生しました。人間の体の成分 も海とほぼ同じですし、有機物が集まってタンパク質がで き、核酸ができるためには、液体の海の存在は重要だと考 えられるからです。そこで、まず、惑星表面上に海がある ことが、生命を生み出す本質的な条件だと仮定します。 H2Oが液体状態で存在できる物理的条件は、惑星表面の 温度と大気の圧力で決まります。温度は恒星からの距離、 大気の圧力は重力の大きさ、すなわち惑星の質量で決まり ます。もちろん、海があるだけで生命が存在できるのかと いう議論も必要です。海底の地熱をエネルギー源としてい た生物は、やがて光合成を行うようになり、陸地へと進出 していきます。そういう過程が生命にとってどの程度一般 的なことなのかを追究することも必要ですし、陸地の存在 も条件の1つだとすると、惑星の冷却条件や地球の表面が 固い岩盤(プレート)で構成され、マントルにのって対流 するというプレート理論等も考慮しなければなりません。 ところが、太陽系外惑星の発見により、海があれば、見 た目が地球と似た惑星である必要はないのではないかとい う議論も可能になってきました。銀河系には、太陽よりも 暗い恒星がたくさんあり、その周りにも惑星は存在してい ることがわかってきたからです。これらの惑星に液体が存 <図>発見された系外惑星の分布図 (*2)全球凍結…赤道まで含めて地球の表面が完全に凍ってしまった状態。約20億年前と6億年前に起きたとされ、最初の全球凍結で原核生物が真核生物へと劇的 に進化し、2度目の全球凍結で陸上高等生物へと進化したといわれている。 宇 宙 を 学 べ る 大 学 ・ 天 文 学 者 の い る 大 学 卒 業 後 の 進 路 縦軸は惑星質量、横軸は軌道半径(正確には1周での平均軌道半径である軌道 長半径)。それぞれ、地球質量とAU(地球の軌道長半径)を単位としている。 井田茂・中本泰史『ここまでわかった新・太陽系』ソフトバンククリエイティブ、 2009年、201頁
62 Kawaijuku Guideline 2010.11 線を放射し、しかもその明るさの時間変動が速いという特 色があります。この天体は連星系をなしており、伴星の運 動を調べたところ、この天体の質量が太陽質量の 10 倍程 度になりました。通常の恒星であれば、高い温度を持ち青 白く光っているはずですが、それに相当するものは見えま せん。そこで、この天体こそがブラックホールではないか と考えられているわけです。 銀河の誕生や形成に深く関わる 活動銀河核の巨大ブラックホール 宇宙には、恒星状ブラックホールとは異なる種類のブラ ックホールが存在すると考えられています。いくつかの銀 河を観測すると、銀河の中心に非常に強いX線を出してい る領域があることがわかってきました。この中心領域は 「活動銀河核」と呼ばれています<図2>。活動銀河核か ら放射されるX線の強さには時間変動があり、X線を放射 している領域が太陽系程度と推測されています。星由来の 光では説明できません。 ある活動銀河核から放出されているメーザー線(*2)を観 測した結果、活動銀河核には太陽質量の107∼109倍くらい の質量があることが推測されています。これだけの狭い領 域にこれだけの大質量を集めることはブラックホール以外 には不可能です。また、日本のX線天文衛星「あすか」に よって、強い重力を持つ天体の近くから放射された光がエ ネルギーの一部を失って低い周波数域に移る「重力赤方偏 移」という現象も観測されました。これらの観測結果から、 活動銀河核には巨大ブラックホールがあるのではないかと 考えられているのです。 吸い込まれる物質が放射するX線などから ブラックホールを観測 ブラックホールは、星(恒星。以下同じ)の最期の姿の 1つです。核融合反応で明るく輝いていた星も、やがて材 料の水素などがなくなると、核融合反応ができなくなりま す。すると、その核エネルギーの圧力で形を保っていた星 は、自らの重力によって収縮をはじめ、いくつかの過程を 経て、縮退圧(*1)と釣り合うところで安定した形を保つよ うになります。しかし、太陽の 30 倍以上の質量を持った 星は、もはや重力を縮退圧で支えきれず、重力崩壊が起こ り、極限まで収縮したブラックホールになるのです。 ブラックホールは非常に強い重力を持っているため、周 りのガスや塵などを強く引き寄せます。それらの物質はブ ラックホールの周囲を回りながら、ブラックホールに吸い 込まれていくため、円盤状のものが形成されます。これが 降着円盤です。降着円盤はブラックホールに近づくにつれ て速度を増すため、円盤の最も内側では摩擦熱等で 1000 万度もの高温になり、非常に明るいX線を放出します。ブ ラックホールは光を出さないため、直接観測することは非 常に難しいのですが、こうしてブラックホールに吸い込ま れていく物質から出される放射線などを測定することで、 存在を予測できるわけです。星の最期の姿として誕生する このようなブラックホールは「恒星状ブラックホール」と 呼ばれており、太陽質量の数倍から数十倍程度の質量を持 っています。 現在、恒星状ブラックホールの可能性が最も高いものが 「はくちょう座X−1」と呼ばれる星です<図1>。強いX
銀河の誕生や形成に深く関わる可能性を持つ
活動銀河核の巨大ブラックホールを探究
強力な重力のために、光さえも出ることができないとされるブラックホール。一般相 対性理論によってその存在が予想されていたが、今ではその候補天体は数十個ほど観測 されている。また近年は、この銀河系も含む多くの銀河の中心域に、巨大なブラックホ ールがあり、それらが銀河の成長に深く関与しているのではないかとの仮説も現実味を 帯びてきた。ブラックホールは、宇宙や銀河の生成を考える上で極めて重要な研究対象 の1つである。愛媛大学 理学部 物理学科/宇宙進化研究センター
粟木 久光
教授
ブラック
ホール
(*1)縮退圧…素粒子などが非常に高密度になった場合に、エネルギーの高い粒子が増えることで生じる圧力。太陽質量の8倍までの星は電子の縮退圧で支えら れる白色矮星に、10∼20倍の星は中性子の縮退圧で支えられる中性子星になる。 (*2)メーザー線…高い指向性を持ったマイクロ波。レーザーの電波領域のものと考えていい。ドップラー効果を測定することで質量が推測できる。す。ブラックホールの周りには、その重力に引き寄せられ てさまざまな物質が集まっているため、多くのブラックホ ール自体は隠れています。だからこそ、物質を透過する性 質を持つX線が有効です。日本のX線天文衛星「すざく」 には、広域スペクトルを観測できるX線観測装置が搭載さ れており、このデータを使うことで、ブラックホールの性 質を明らかにしていく予定です。特に、小さい質量の巨大 ブラックホールがどのような特徴を持つのか、また、どの ような銀河に多いのかを調べることで、銀河形成との関係 も明らかにできるのではないかと考えています。 一方で、巨大ブラックホール周辺の時空構造を調べる研 究も進めています。活動銀河核からは、ほぼ全ての電磁波 が放出されていますが、その中心にある巨大ブラックホー ルの強い重力場の影響を受けて、いずれも重力赤方偏移を 起こしています。私たちは、鉄の蛍光X線を詳細に観測す ることで、エネルギーの変化の度合いを調べています。エ ネルギー変化がわかれば、重力場の強さもわかり、巨大ブ ラックホールの構造も明らかにできる可能性があるからで す。巨大ブラックホール周辺の時空構造の解析は、強い重 力場を使った実験という意味合いもあり、一般相対論を検 証することにもつながります。 こうした研究には、測定装置が不可欠ですが、私たちは 測定装置の開発も行っています。2013年度に打ち上げが予 定されている宇宙航空研究開発機構(JAXA)のX線天文 衛星「ASTRO−H」に搭載するX線望遠鏡の開発も、大 学院生と共に手がけています。新たな測定装置のデータが 新たな分析を生み、その分析をもとに次の測定装置の開発 につなげるという連鎖によって、研究が進んでいくのです。 恒星状ブラックホールは、星の最期の姿であることはわ かっていますが、巨大ブラックホールは、いつ、どのよう にできたのか、まったくわかっていません。ただ、さまざ まな研究から、巨大ブラックホールは、銀河の誕生や形成 に関係があるのではないかと考えられています。 例えば、クエーサー(*3)の存在です。クエーサーは、現 在では、巨大ブラックホールを持つ活動銀河核の一種と考 えられています。クエーサーが宇宙誕生の頃の初期の銀河 の姿だとすれば、銀河誕生の頃から巨大ブラックホールが 銀河中心にあったことになります。また、巨大ブラックホ ールの質量と、銀河バルジ(*4)の質量に相関関係があるこ ともわかっています。巨大ブラックホールの大きさはせい ぜい太陽系程度です。にもかかわらず、何桁もスケールの 異なる銀河バルジの質量と関係があるということは、互い に何らかの影響を及ぼし合っているのではないかと推測さ れるわけです。巨大ブラックホールの研究は、銀河の成り 立ちを探ることにもつながっています。
一般相対性理論の検証にもつながる
巨大ブラックホールの時空構造の解明
私たちは巨大ブラックホールを対象として、複数の研究 を進めています。1つは質量の小さい巨大ブラックホール の探索です。巨大ブラックホールは太陽質量の106∼1010倍 程度と推定されますが、ここまで巨大になる前の105∼106 倍くらいの巨大ブラックホールを見つけることができれ ば、その成長過程が明らかになるのではないかと考えられ るからです。そこで、まずはヨーロッパのX線観測衛星 「XMM−Newton」などのデータを使って、小さい質量の 巨大ブラックホールの探索を行っています。 次の段階としては、巨大ブラックホールの性質の解析で (*3)クエーサー…極めて高速で遠ざかっている非常に明るい天体。天文学では、高速で遠ざかる天体は遠方に存在していることと等しく、宇宙初期の天体であ ることを意味している。 概 説 入 試 情 報 ダ ー ク エ ネ ル ギ ー 東 京 大 学 太 陽 系 外 惑 星 東 京 工 業 大 学 ブ ラ ッ ク ホ ー ル 愛 媛 大 学 授 業 ・ ゼ ミ 鹿 児 島 大 学 宇 宙 を 学 べ る 大 学 ・ 天 文 学 者 の い る 大 学 卒 業 後 の 進 路 <図1>伴星からブラックホール候補天体 「はくちょう座 X −1」に流れ込むガス(想像図) ブラックホールの周りには大量の塵やガスがトーラス状に分布している。 また、中心から放射された強い光でガスが電離され、輝線放射雲を作る。 <図2>活動銀河核中心部(概念図)Illustration by Martin Kornmesser,ESA/ECF
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64 Kawaijuku Guideline 2010.11 最初の授業で、電磁波や天体観測の原理に関する講義を 受けた後、3つの望遠鏡でそれぞれ1回ずつ観測実習を実 施。その後、単一電波望遠鏡観測データの解析と光赤外線 観測データの解析実習を2回ずつ行う。なお、観測によっ て本格的なデータを取るためには1泊するのが望ましいが、 アクセスや宿泊施設の関係で、1回の実習は3∼4時間で ある。そのため、解析実習用のデータはあらかじめ観測し たものを使うが、実際に研究で使われているものである。 「電磁波には周波数によって電波、赤外線、可視光、赤 外線、X線があり、望遠鏡の種類によって観測できる電磁 波が異なります。それぞれの電磁波から得られる情報は異 なるため、観測の目的に応じて望遠鏡を使い分けたり、組 み合わせたりします。天体観測実習では、電波望遠鏡と光 赤外線望遠鏡の2種類の望遠鏡で実習しますから、これら を通して、学生は望遠鏡の仕組みや操作法とともに、1つ の方法だけからでは天文現象を正しくは解明できないとい うことを学びます」(今井准教授) 天体観測には、天体の明るさを観測する「測光(フォト メトリ)」、天体から届く光を周波数ごとにスペクトルに分 けて測る「分光(スペクトロスコピー)」、天体の位置を正 確に測る「アストロメトリ」、偏波を測る「ポラリメトリ」 があるが、実習ではこのうち「測光」と「分光」に関する 実際に望遠鏡を触り、仕組みを知って データを解析する実習 鹿児島大学理学部物理科学科の「宇宙コース」は、1997 (平成9)年にスタート。鹿児島県薩摩川内市の入来観測 所に開口直径1mの光赤外線望遠鏡と 20 mの VERA 電波 望遠鏡、鹿児島市の錦江湾公園に6mの電波望遠鏡を運用 し、国内外の研究機関とも連携して、天文学研究を行って いる。 これら複数の本格的な天文観測装置を持っている利点を 生かし、3年次後期に「天体観測実習」という授業を行っ ている。学部段階で電波望遠鏡と光赤外線望遠鏡の両方を 使っての実習を行っている大学は珍しい。 また、宇宙コースの中には「天体物理学」「宇宙理論研 究」「人工衛星リモートセンシング」「地球惑星科学」があ る。天体観測実習と研究分野が直結するのは「天体物理学」 である。しかし、「天体観測実習」を教える今井裕准教授 は、「学部生のうちは幅広い知識を修得して欲しい」と言 い、なるべく多くの学生が履修することを推奨している。 理論研究であっても実際にある自然の情報が盛り込まれて いる観測データを読み解くことは必要である。また、どの 分野でも実際に観測・実験装置に触れ、その仕組みを知り、 データを解析してどのような情報が得られるのかを理解し ておくことは大切だからだ。最近は、宇宙コース1学年25 ∼30名中、毎年約20名の学生がこの授業を履修している。 観測では「測光」と「分光」を実習 全 15 回の授業計画は、<図表1>のとおりである。オ リエンテーションのあと、8回から 15 回が望遠鏡を使っ た観測とデータの解析となる。