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妊娠30週で子癇発作のため母体搬送されたHELLP症候群の一例-香川大学学術情報リポジトリ

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(1)

日本産科婦人科学会香川地方部会雑誌 vo1.10,No.1, pp.21 -24, 2008(平20.9月)

一 症 例 報 告

-妊娠

30

週で子病発作のため母体搬送された

HELLP

症候群の一例

高松赤十字病院産婦人科 岩 見 州 一 郎 , 後 藤 真 樹 , 佐 藤 美 樹 , 小 西 陽 子 , 松 本 美 奈 子 , 里 子 々 垣 多 加 史

概 要

症例は25歳, 0経妊 O経産婦.患者は妊娠 30週 2日に全身壇寧,意識消失発作が出現し,当院救急、外来に搬送さ れ た 来 院 時 , 血 圧145/98mmHg,意識はやや混濁し,血液・生化学・尿検査にて著明な肝酵素上昇・溶血・血液濃縮・ 原蛋白強陽性を認めた.血小板減少は伴わずけEししP症候群の診断基準 (Sibaiの基準)は満たさなかった.また,超音 波検査にて著明な子宮内胎児発育遅延(児推定体重:931g, -2.83SD) ・羊水過少 (AFI:

1

c

m) を認めた.搬送時が当院 初診で,それまでは他院で妊婦健診を受けていたが,前医では超音波検査にて子宮内胎児発育遅延であった以外は妊娠 経過に著変を認めていなかった.入院後,窪筆発作が再燃し, 60bpm台の胎児徐脈が 3分程度持続したため,胎児機 能不全・子痛発作の診断にて,直ちに緊急帝王切開術を行った.960gの男児を ApgarScore (1分値 /5分値)で 8/8 で娩出した.術後1日目の血液検査で血小板数 10万/μ│以下となりHEししP症候群と診断した.術後は硫酸マグネシウム, メシル酸ガベキサートを投与し,子摘発作の再燃は認められず;徐々に肝機能・溶血・血液濃縮・原蛋自の改善を認めた. 良好な経過が得られ,産祷8日目に退院となった 児はNICU入院となったが,入院後の経過は良好で, 日齢 78日目に 退院となった.

緒 言

HELLP症候群は,妊産梶婦に溶血 (hemolysis),肝 酵素上昇(巴levat巴dliver enzymes),血小板減少(low platelets) の三徴を有する症候群であり, 1982年 に Weinsteinにより提唱された症候群である1)診断・治 療が遅れると症状が進行し,肝不全・DIC・常位胎盤早 期剥離などに至り重篤な経過をとる.母体死亡率は約

1%

であるが,子病を合併した場合はさらに予後不良で、 ある2) 児は子宮内胎児発育遅延(以下IUGR) や胎児 機能不全の発症率が高く,早産に至る頻度が高いため, 周産期死亡率は約

1

0

%

である3) 今回我々は,妊娠中 期からIUGRを認め,妊娠 30週に子病発作で当院に母 体搬送され,母児とも救命し得たHELLP症候群の一例 を経験したので報告する.

症 例

患者:25歳, 0経妊O経産婦 既往歴:特記事項なし 家族歴:特記事項なし 現病歴:自然妊娠成立し,他院にて妊婦健診を受けて いた.最終の前医受診は妊娠28週5日で,児推定体重: 927g(-1.86SD)であり,その前の受診は妊娠 24週 5日で, 児推定体重:557g (-l.56SD) であり, IUGRを認めてい た(表1).それ以外は妊娠経過に著変を認めていなかっ た.妊娠30週2日,未明に約2分間持続する全身痘筆, 意識消失発作があり救急車にて当院救急外来に母体搬 送となった.当院到着時には痘筆発作は治まっていたが, 救急外来担当医の診察中に痘撃発作が再燃した.2度目 の産主義発作も自然に治まったが,妊娠中で、あったため当 表

1

妊娠中の胎児計測 BPD APTD TTD FL EFBW 12w5d 24mm 16w5d 37mm 20w5d 51mm 271llm ※.妊娠28週 5日までは前医での検査値,測定は全て東大式 24w5d 57.81ll1ll 50.81ll1ll 55.31ll1ll 36.51ll1ll 557g -l.56SD 28w5d 65mm 927g -l.86SD 30w2d 72.4mm 55.7mm 55.3mm 48.4mlll 931g 2.83SD 21

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22 妊 娠30週で子嬬発作のため母体搬送された HELLP症候群の一例 産婦香川会誌 10巻l号 表 2 入院後検査結果の推移 来院時 術後 1日目 術後 3日目 術後 7日目 WBC 17200 12500 Hb 14.3 11.6 Ht 42.2 33.9 PLT 21.3 9.4 PT 10.8 11.1 APTT 29.4 30.1 Fib 368 376 ATill 68 60 AST 417 95 ALT 285 103 LDH 1061 776 尿蛋白 300以上 科に対診依頼があり,痘撃発作精査目的で同日当院 ICU に緊急入院どなった. 来院時身体所見:血圧 145/98mmHg,脈拍 112/min, 体 温37.20 C,Sp02 : 98%,意識やや混濁,両下肢に著明 な浮腫を認めた. 来院時各種検査所見・

l

f

u

.

算)WBC : 17200/μ!, RBC: 481

x

104/μ!, Hb : 14.3 g/d!, Ht: 42.2 %, MCV: 87.7f!,ルICH 29.7pg,ルlCHC: 33.9%, Plt: 21.3

x

104/μ!, 検鏡で異常赤血球の出現を認めた 凝固系)PT : 10.8sec, P下 INR: 0.84, PT活 性 :141%, APTT : 29.4sec, Fib: 368mg/c1!, AT-

m :

68%, D-dimer : 12.4g/m!

生化学)TP : 7.0g/d!, A!b: 3.6g/d!,下 Bil: l.lmg/d!, AST : LH7IU/

ALT: 285IU/L, LDH: 1061IU/L, ALP: L130IU/L, BUN: 15mg/d!, Cr: 0.9mg/d!, UA : 8. 1mg/c11, CK : 127 IU/L, Na : 143mEq/L, Iく:4.4mEq/L, C! : 105mEq/L, Ca : 9.9mEq/L 尿検査)蛋白 :3十(300mg/dl以上),糖:陰性 頭部単純 CT検査)脳内に腫蕩・出血像なし 超音波検査)BPD :

72Amm

, APTD : 55.7mm, TTD : 55.3mm, FL : 48.4mm, EFBW: 931g, AFI : 1cm 入院後経過 :ICUに収容後,痘肇発作が再燃し, 60bpm 台の胎児徐脈が 3分程度持続した.ジアゼパム静注に て底繁発作は治まり,母体に酸素投与することで胎児徐 脈も改善した.著明な肝酵素上昇・溶血は認められたが, 血小板減少は伴わなかった.胎児機能不全・子病発作 の診断にて,同日緊急帝王切開術を施行した.児は, 960g,男児, Apgar Score (1分 値 /5分値)は 8/8であっ た.術後 1日目の血液検査で、血小板数 9.4万/μ1とな り HELLP症候群と診断した.術後は子病予防に硫酸 9600 7000 10.5 12 31.7 36.7 14.2 38.9 11.3 27.6 368 128 30 28 49 40 46'1 284 陰性 マグネシウム, DIC予防にメシル酸ガベキサートを 投与した.その結果,子摘発作の再燃は認められず, 徐々に肝機能・溶血・血液濃縮・尿蛋白の改善を認 めた(表 2).良好な経過が得られ,母は産祷 8日目に 退院となった.なお,分娩後の問診で,発作前日に上腹 部の違和感があったことが分かった,また,療病の除外 診断のために脳波検査を行ったが癒摘は否定的であっ た. 一方,児は早産児・超低出生体重児であり,出生直後 より NICUに入院となった.入院後の経過は良好で, 日 齢 、78日目に退院となった.

考 察

HELLP症候群の多くは妊娠高血圧症候群に合併して 発症し,実際に重症妊娠高血圧症候群の 5~20% に HELLP症候群を発症する1)ただし HELLP症候群の 10~ 20%においては妊娠高血圧症候群の症状なく発症 することから注意が必要である(本症例は妊婦健診中 に妊娠高血圧症候群の所見はなく,子病発作にて母体 搬送され, HELLP症候群と診断した.妊娠 24週より超 音波検査にて IUGRを認めた以外は妊娠経過に著変を 認めていなかった.本症例の経過を検討した結果,妊 娠高血圧症候群の所見がなくても,超音波検査で IUGR が認められた場合は,稀ではあるが HELLP症候群発症 の可能性を念頭に置き,妊婦健診間隔を縮め,埋学的 所見,尿及び血液の精査ならびに,超音波検査による血 流測定などを駆使し,必要があれば入院管理するなどの 厳重な管理を行うことが望ましいと考えられる. HELLP症候群の初発症状は右季肋部痛または心嵩 部痛などの上腹部痛が最も多いが,悪心・幅i止,頭痛,

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(3)

2008年9月 岩見他 表3 HELLP症候群の診断基準 表4 日本妊娠中毒症学会HELLP症候群検討 (Sibaiの診断基準)6) 小委員会からの提言7) ①溶血 血清T-Bil;;:;;1. 2mg/dl ①肝機能 血清AST値、血清LDH値が各施設の

E

常 血清LDH迄600U/l j或を超えて高値の場合 異常赤血球の出現 ②溶血 血清間接ピリノレビン値、血清LDH値が各施 ②肝機能 血清AST孟70U/l 設の正常域を越えて高値の場合 血清LDH孟600U/l ③血小板減少 血小板数15万

/

1

1

1以下の場合 ③血小板減少 血小板数三三10万/μl ④その他 黄痘などが初発症状のこともある川.これらの症状は交 感神経優位の状態に起因すると考えられている.腹腔動 脈や肝動脈の肇縮によって肝虚血となり,右季肋部痛や 心寵部痛が引き起こされると考えられている.また,消 化管嬬動が抑制され,消化管拡張が起こった結果,悪 心・H匿吐などの症状を引き起こすと考えられている.本 症例では子病発作のため来院時意識混濁があり,代表 的な初発症状があったかど、うか術前は不明で、あったが, 術後に再度問診したところ,来院前日に上腹部痛があっ たとのことが判明した.妊産揮婦が上腹部痛や悪心など を訴えてきた場合は,HELLP症候群あるいは子痛を念 頭に置き診察することを忘れてはならない.血管挙縮に より赤血球は溶血を起こし, ピリルビン値・LDH値が上 昇する.また,腹腔動脈や肝動脈の筆縮による肝虚血 性壊死により, AST 値・ALT値・LDH値が上昇する.血 管内皮障害による微小血栓形成により血小板が消費され 血小板減少が生じる.これらは血小板減少,肝酵素上昇, 溶血の順に起こると考えられている(診断はSibaiの 基準(表3)が国際的に普遍性が高い6)が、 Sibaiの基 準を全で満たさなくても,表 4の基準を 1つでも満たす 場合にはHELLP症候群の発症を警戒し注意を払う必要 がある7) 本症例では来院時の血小板数が21.3万/μI と血小板減少を認めなかったが,術後1日目には9.4万 /μlと血小板減少を認めた.HELLP症候群では血小板 減少,肝酵素上昇,溶血の順に起こると考えられている が,本症例のように最後に血小板減少が起こる場合もあ るため,血小板数が正常で、もHELLP症候群の発症には 注意を払う必要がある.本邦では全ての基準を満たさな い症例 (partialHELLP症候群)の多いことが報告され ており, しかも全てを満たしていなくても重篤な母児の 異常を合併する場合があるため注意が必要である8) 治療については時期を逸することなく妊娠の終了を試 みるのが原則であり,高血圧や凝固系異常を併発してい 血中AT11l活性が正常域の80%未満の低下 を示した場合やハフoトグロビン値の低下した 場 合 ることも多いため,分娩方法として望ましいのは市王切 開術による分娩である.分娩までの保存的療法としては, 抗Dl

C

療法・交感神経の抑制・血管拡張剤投与・降庄 剤投与・副腎皮質ステロイド投与などで治療を行う.ま た,分娩後も全身状態・血液検査等が改善するまでそれ らの治療を行う必要がある.本症例では発症早期に帝王 切開術を行ったこと,血小板減少が軽度で、あったことよ り,輪血・血液製剤を使用することなく,メシル酸ガベ キサートによる抗DlC療法のみで治療し管理することが 出来た.なお産科DlCスコアでは,子病発作,血小板 数低下,AT旧低下が認められ,合計6点であり産科DIC 診断基準を満たさなかった9) また,硫酸マグネシウム による血管拡張を行い,術後に子病発作の再燃も予防し 得た.早期の診断と早期の治療開始がHELLP症候群 の管理には不可欠と考えられる.

文 献

1) Weinst巴inL. Syndrome of hemolysis

elevated

liver巴nzym巴s

and low platelet count; A severe

consequence of hypertension in pr・egnancy.A m J

Obstet Gynecol 1982; 142; 159-167.

2) Sibai B M, Ramadan M K, Usta 1, Salama M, Mercer B M, Fr・iedmanSA. Maternal morbidity

and mortality in 442 pregnancies with hemolysis,

巴levatedliver enzym巴s

and low platelets (HELLP

syndrome) . A m J Obstet Gynecol 1993; 169 ; 1000-1006. 3) 寺尾俊彦.妊娠中毒症とHELLP症候群.周産期 医学 2000; 30; 1441-1445. 4) 久保愛子,金山尚裕.HELLP症候群.産婦の実際 2008 ; 57 ; 89-93. 23

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(4)

24 妊 娠30週で、子摘発作のため母体搬送されたHELLP症候群の一例

5) 森)11肇,梅影秀史.HELLP症候群.産と婦 2000 ; 67 ; 342-348.

6) Sibai BM. The HELLP syndrome (hemolysis

elevated liver enzymes

and low plat巴lets): much

ado about nothing

7

.

A m J Obstet Gynecol 1990 ; 162; 311倒316. 7) 日本妊娠中毒症学会学術委員会. HELLP症候群 に関する定義・用語についての提案. 日妊娠中毒 症会誌 2001; 9 : 30-34. 8) 梅津秀史. partial HELLP症候群.産婦の進歩 2001 ; 53 ; 72-73. 9) 真木正博,寺尾俊彦,池ノ上克.産科DICスコア: 産婦治療 1985; 50 ; 119~ 124. 産婦香川会誌10巻1号

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参照

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