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組織における社会化と交渉--意思決定前提の発生過程を巡って---香川大学学術情報リポジトリ

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組織における社会化と交渉

一 一 ー 意 思 決 定 前 提 の 発 生 過 程 を 巡 、 っ て 一 一 一

渡 辺 敏 雄

I 序 キルシュ (WKirsch)の意思決定過程論から見た組織行動については,われ われは既に別稿にて取り上げた。そこでは,既に意味の限定された組織目標が あり,これが,恰も機械がその部品に分割されるように,組織内の各部分に分 解されたうえで割当てられて行くという像とは異なり,いくつかの場面で,個 人間の交渉の余地が発生しているとし、う像が見られた。 そうした見方は,交渉の余地の中から形成されて来る個人の意思決定をど重視 することにつらなり,個人の意思決定がどのように形づくられるのかが問題に なる。キルシュによると rこの(1"意思決定過程』第

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巻で展開した一一渡辺〉 研究は,集合的意思決定過程における個人の意思決定を中心に置く。その際, 意思決定前提の概念が中心的概念として強調される。組織の社会的文脈から組 織構成員の個人的意思決定に対して生まれる影響を研究すると,結局,そうし た構成員の意思決定前提がそれらによってどれほど影響されるのかという聞い に対して解答が行われるべきである。

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,S.. 94..)こうした意味において,意 思決定前提(Entscheidungspramisse)の概念は組織理論と個人の意思決定理論 (1) 次を参照のこと。 渡辺敏雄(稿),組織と組織的意思決定過程一一意思決定過程論における組織把握の構 想を巡って一一,香川大学経済論叢第61巻 第3号,昭和63年 12月。 (2) われわれは本稿においては,キルシュの『意思決定過程』第3巻(Enぉcheidu司gψrozess

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BandIII. Enおcheidungenin0ケganisationen,Wiesbaden1971)をEIlIと略記する。

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-44ー 第62巻 第2号 124 との連結をおこなう紐帯であるといえるのである。「さらに,意思決定前提の連 結的機能によって,個人の意思決定の理論を,組織的システムの理論的分析な いしこのシステムの行動を規定する集合的意思決定過程の理論的分析に対する 基礎にすることが可能になる。J(EIII, S.. 94剛)これらの引用文には,組織の行 動を規定す町るのは,集合的意思決定過程であって, また,集合的意思決定過程 の基礎的要素は個人の意思決定であるという考えが看取されうる。結局,個人 の意思決定がキノレシュの意思決定過程論の基本的単位となるのである。 個人の意思決定が基本的単位となるというそうした立場においては,当然, 個人の意思決定が何によって規定されるのかが問題になる。ここに,個人の意 思決定を規定する意思決定前提が問題にされる根拠があって,意思決定前提が 組織内においてどのように発生しまた影響を受けるのかが問題にされる根拠が ある。ここに,組織内における個人の意思決定前提の発生過程を探究する理由 がある。 ところで,組織内の交渉には,意思決定前提の意味の解釈を限定しようとし ておこなわれるものと,限定された意思決定前提に基づいて行動を起こす場合 の他の個人による妨害の除去のためにおこなわれるものとがあるのである。こ のうち,他の個人による妨害の除去のためにおこなわれる交渉は,まったく未 決定のことについて交渉されるのではなく,大まかには組織の中の個人につい ては役割(Rolle)が決定されているので,その範囲内で予測がつかなかったこ とに関してのみ交渉がおこなわれるのである。 われわれは, ここに,組織内の個人が意思決定前提としなければならない情 報には,第1に,組織内で学習する役割があることが理解でき,第2に,交渉 によってそのときそのときに個人に呼び出される情報があることが理解できる のである。 これらの役割の学習に関する議論と,交渉とそれに関連した権力を巡る議論 の特質を描き出すことは,キルシュの意思決定過程論の特質を知るうえで必須 の作業である。 しかし,役割の学習に関する議論と,交渉とそれに関連した権力を巡る議論

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組織における社会化と交渉 -45-は,その基礎に,影響を受ける側としての個人行動論を前提としているのであ る。それ故,われわれは,意思決定過程論における個人行動論の簡略的な紹介 をも含みながら,役割の学習と,交渉とそれに関連した権力を巡るキノレシュの 議論を跡付け,それに吟味を施そう。 II 組織内の社会化の過程 キルシュによるならば,個人の意思決定前提の発生の研究には

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つの方途 が可能である。一つには,人格(Personlichkeit),態度(Einstellung),意思決定 状況の定義(Definitionder Entscheidungssituation)としづ個人の意思決定の 概念の区別に結びつき,まず,個人が学習過程(Lernprozeβ)の中で,人格に等 しい情報にどのように到達するのかを究明し,次に, どのような法則が個人の 一時的な態度を形成する情報の知覚と喚起を規定するのかを究明し,さらに, 知覚され喚起された情報が意思決定状況の定義の構成部分すなわち意思決定前 提になることに仕向ける要素について究明がなされるのである。この第lの方 ( 3) 個人の意思決定が組織の行動の基本的単位であるという立場は,言わば,組織の行動が 個人の意思決定から組み立てられていると見る立場に他ならないのであって,こうした 立場は,還元主義(Reduktionismus)の立場である (EIlI, S 95)。 しかしキノレシュは,組織的法則性が個人の行動に還元できるというのは科学の速い目 標であるとし、う。還元への要求は必ずしも巨視理論の定式化を臨むものではない。社会科 学においては,考察様式の複数の水準(例えば,個人の水準,集団の水準,組織の水準, 社会の水準等〉を区別し,より高い水準の言明体系をより低い言明体系に明確に還元する ことを避けることは,大いに実り多い科学上の戦略である。 こうしてキノレシュは,一方で還元を要求しつつも,他方でその還元につき,緩和的な表 現をとることになるのである。要するに,キノレシュは,還元すなわち組織の行動の個人の 意思決定に対する引き戻しについては,集団になってこそ現れると考えられる創発 (emergence)(ElJI, S 96)を否定せずに,他方で組織の行動をその中における個人の意思 決定から解明しようとする態度をとろうとしているのである。そして,その際,個人の意 思決定がどのようにおこなわれるのかが問題になるが,この問題に答えるのが個人の意 思決定前提の発生の分析である。 キノレシュの見解には組織とその環境との対応の概念を含むシステム論的構想が見られ ることは,われわれが,前掲別稿(注(1)参照〉で確認したところであるが,あえて推し はかれば,集団あるいは組織に付与されると考えられる諸特質を含むそうした構想がか れの見解に取り込まれていることは,一方で還元を要求しつつも,他方でその還元につ き,緩和的な表現をとり創発を認める立場に起因するのではないかと考えられる。

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-46ー 第62巻 第2号 126 途は,専ら個人の意思決定の概念に結びつき,個人の意思決定前提がどのよう に発生すuるのかを個人の意思決定過程に則しつつ究明するものである。個人の 意思決定前提の発生の研究の第2の方途は,行動科学的議論において論述され ている社会化の過程に結びつきながら,個人の人格,態度,意思決定前提がど のように影響されるのかについて究明していく道である。 第

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の方途が専ら個人の方からみて個人の情報がどのように発生するのかを 究明しその限りでは個人の意思決定過程の研究の範時にはいるのに対して,第 2の方途の方は,個人の外側からみて,何が個人の意思決定前提に影響するの かを考慮する道である。キルシュはこれらの

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つの方途の中間

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を とる。 ここに中間という言葉の意味は,どちらの道をも考癒するということである。 すなわち,個人の外部にある組織内の影響要因について考察すると同時に,そ うした影響要因が個人の意思決定のどのような部分に影響があるのかをも個人 の意思決定過程論の言葉で表現しつつ考慮するとL、う道がキルシュの選択した 方途なのである。 キノレシュの選択したこうした方途は,具体的には,どのようなものであろう か。かれによると,個人の意思決定過程に関する議論では,個人の意思決定は, 長期的な情報の蓄積容器あるいは長期的記憶としての人格によって影響を受け る一方,その人格からそのときそのときの意思決定に直接的関連をもっ情報が 喚起され意思決定前提になってし、く過程すなわち短期的な過程によって影響を 受けるのであり,このような過程で個人の反応が決められていくのである。こ うして個人の意思決定前提が形成される過程の側が二分され,このことに対応 して,個人外部からの影響も二分されることになる。 すなわち,人格に対する長期的な外部的影響としては,社会化

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の過程があり,喚起に対する短期的な外部的影響としては,権力の行使がある のである。 このうち,社会化に関するキノレシュの議論からわれわれは跡付けよう。かれ によると,社会化の概念規定は r既に考察されている個人とは無関係に,組織

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127 組織における社会化と交渉 -47-の公開的情報として認知的情報の中のどこかに存在し,一一一認知的情報に関す る限り一一組織参加者のすべての集団あるいは個別的集団によって分かち合わ れているなんらかの種類の情報を個人が獲得し,かれの長期的記憶に蓄積する ことに導く学習過程J

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, 176)というようにおこなわれる。役割 (Rolle), 価値(Wert),特殊な熟練 (besondereGeschicklichkeit),一般に分かち合われた 信 念(Uberzeugung), 組 織 の 特 殊 な 問 題 を 解 く 発 見 法 的 原 則 (heuristisches Prinzip)と大まかな規則 (Faustregeln)が,社会化の対象となりうる。社会化の 定義の基準は,その対象が多くの組織構成員によって分かち合われている情報 であるということであって,この定義の基準からすれば,他の組織構成員が持 ち合わせていない新しい情報を個人が獲得したからといって,そのことはここ で言う社会化に相当しない。 概念的な明確化に加えて,キルシュは社会化の過程について論じている。わ れわれは,社会化の対象となるものについてのかれの見解をも明らかにするこ (4) 社会化に近似の概念に内面化(Internalisierung)がある。内面化は r学習された認知的 情報(就中価値〕が,その当初の源(送り手〕とその獲得の状況ともはや結び付けられて いなし、J(EIII, S" 177)ことを意味するのである。社会化の概念との関係に注意して,例 えば,役割の学習に関連付けながら言うと,役割期待の社会化は,役割l情報が他の組織構 成員の期待と推論に呼応していることを合意しているが,内面化になるともはやこうし た期待と推論に対する関連が消え去っている段階である。そして,この内面化の段階にな ると,内面化の対象となった情報の内容に背いて行動をおこなうことは,個人の中に罪悪 感(Schuldgefuhl)を生むことになるほどに,その対象となった情報は意思決定前提にな る見込みが大いに高くなる(EIII,S, 177)。それ故,内面化は社会化の最終段階というこ とヵ:でトきる。 さらに,社会化にも内面化にも似た概念に一体化(Identifikation)がある。一体化は, 自己(Selbst)という概念と関係している。対象に自己と同ーの特性を見出1..-,これを自己 と感じていくことが一体化である。確かに,個人がある対象に一体化していることは社会 化ならびに内面化の過程を促進するのであるが,組織内の個人の意思決定前提に対する 影響要因としての長期的記憶の変更の側面については,社会化とその完成段階たる内面 化の概念で十分であって,特に一体化はそれらの概念と同一平面の概念ではない。なぜな ら,組織内における個人の意思決定前提の形成については,それが導出される源としての 人格に情報が蓄積されたり,そこから情報が短期的な態度や意思決定前提に喚起された りする「状態」の方が重要であって,そのような状態に導く一種の手段たる一体化は必ず しも状態を表す事項と同列に論じられないからなのである。こうした事情がある故に,キ ノレシュは一体化についての考察を社会化との関連で論じることはなく,むしろ後述の,権 ガとの関連でその基盤のひとつになりうるという形で論じることとなる。

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-48ー 第62巻 第2号 128 とをおこないながら,そうした過程について触れておこう。 社会化の対象の主要なるものは何と言っても,役割(Rolle)である。組織内の 個人の行動については,個人相互の聞に互いの行動に関する期待が形成されて いて, こうした相互の期待によって他人の意思決定はその不確実性を吸収され る。その場合の個人相互に成立している期待の対象である行動こそここに言う 組織内の「役害リ」に相当するのである。 役割は,立場(Position)に関連付けられる (VgL

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, SS.. 99-109)。 父親,母親,結社の役員等がこうした立場の例である。ある特定の立場につ く人は,その立場に相応の振舞いをするようになる。このような事態の背後に は,それぞれの立場には,他人がその立場の人に期待する行動あるいはその行 動を描いた情報が結び付いているということがある。役割とは r個人がある立 場と結び付けている事実的種類と規定的種類の認知的情報の総体J

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102)なのである。組織内における事情もこれとほぼ同じように考えられる。す なわち,伝統的組織論に従えば,立場に相当するものは,組織内の職位(Stelle) である。そうして,職位につく人がなすべき任務が職務(Aufgabe)として規定 されていると考えられるのであり,組織内の個人がかれの認知内に取り込み蓄 積した,かれ自らの職位と結び付いた事実的種類と規定的種類の情報が「役害

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と言われるのである。 それでは,個人は役割を組織内においてどのように学習するのであろうか (VgL

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, SS.174-183)。まず,上述のように,組織には職位についた人に対す る職務という形で,ある個人がなすべきであるとされる情報が個人の外側に存 在する。個人の外側に存在するこうした情報のことを公開的情報(o任entliche Information)というが,部下についての公開的情報としてのなすべき職務につ いて上司は解釈を加えながら,部下に伝える。部下は,この伝えられた情報に 基づきながら行動を起こす。そして,部下の行動が,上司の思いどおりではな い場合には,上司によって制裁が加えられる。伝達,行動,不履行の場合の制 裁という一連の行為を通じて,個人は組織内の役割を学習していくのである。 こうした過程こそ役割の社会化の過程なのである。

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組織における社会化と交渉 -49-さて,本稿の序でも触れたように,役割の学習に関する議論と,交渉とそれ に関連した権力を巡る議論は,その基礎に,影響を与えられる側としての個人 の意思決定過程論を前提としている。個人の意思決定過程では, まず,長期的 記憶の総体としての人格から,そのときそのときの意思決定に直接的関連をも っ情報が喚起され意思決定前提になり,この喚起された情報によって個人の反 応が決められていくと考えられた。そして,社会化の過程は,長期的記憶の総 体としての人格の方に対する影響なのであった。だが, この人格が社会化過程 によってその内容につき変更をきたし,個人が,この意味で徐々に組織内にお ける他人からの期待を学習していくとしても,人格は未だ,個人のそのときそ のときの反応を規定する喚起された情報あるいは意思決定前提の導き出される 元の情報に相当するのであって, この意味では,必ずそのときそのときの意思 決定前提になっていくとL、う情報ではない。 すなわち個人は,そのような長期的記憶の総体としての人格に蓄積された役 割情報の中からその場その場で部分的情報を喚起し意思決定前提にしつつ,組 織内で反応をしていくのである。それ故,キノレシュも役割情報のことを,潜在 的意思決定前提(potentielleEntscheidungspramisse) (EIII, S, 105 u" S" 183) であると表現している。すなわち rしかし長期的記憶に蓄積された情報の総体 としての人格はまずは潜在的意思決定前提にすぎなし、。潜在的意思決定前提が 具体的な意思決定状況において事実上の意思決定前提になるためには,それが 喚起され状況の定義に取り上げられなければならない。個人が他人から受け 取った情報をどの程度意思決定前提にするのかということを問うことは,権力 (Macht)を問うことなのである。J(EIII,S" 183,)それ故,われわれはjこのキノレ シュの言葉に導かれながら,今度は,権力についてのかれの見解を跡付けよう。 もちろん,権力を巡る議論も個入の意思決定過程に関連付けられることは上述 のとおりであり,その議論は,人格から情報が喚起され意リ思決定前提になる過 程の方に関連するのである。

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-50- 第62巻 第2号 130 III 組織における権力と交渉 権力について,まず「ある個人あるいは…u ぃ集団が,他の伺人をして, さも なくば状況の定義に入れなかったであろう情報を意思決定前提としてかれの意 思決定の基礎に置かせる場合に,かれらはその個人に対して権力を持つj(EIII, S.186)と言われる。 キルシュは,権力についての行動科学的構想を紹介することから議論を説き 起こしているが,その際,特にハーザニー(l

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の見解に拠りつつ, 権力分析の諸側面に関して紹介し,続いて,マーチ

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の見解により つつ,権力分析の諸構想とそれらが基礎に置く仮定について紹介する (Vgl EIII, SS“187-193)。しかし,キノレシュの構想との関連で重要なことはむしろ以 下のことである。 それは,一次的情報

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の区別である。一次的情報とは,当該の個人の聞で,意思決定前提への 受け入れが問題になっている情報そのものであって,これに対して,二次的情 報とは,情報のそうした受け入れあるいは拒否に至るまでの考慮の途上で参照 される情報のことを言う。ある個人が情報を意思決定前提として受け入れるか どうかの考慮をなす場合に最も重要な関連をもっ二次的情報とはまさにここで 問題にしようとしている権力に関する情報なのである。すなわち,権力を巡る 議論は,二次的情報を巡る議論だと言えるのである。 キノレシュは,権力に関しては,権力の基盤

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に関する議論な らびに操作

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の戦術に関する議論を中心にしている。このうちま ず権力の基盤については,かれは,それを r制裁の期待j,r専門知識所有と共 同志向j,r

一体イじ

j,r服従義務の内面化」に4分類し, この順に次のような解 説を加えているのである。 制裁の期待

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は,潜在的意思決定前提の受け入れある (5) 権力については次を参照のこと。 EIIl, SS..183-223

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131 組織における社会化と交渉 -51-いは拒否が,肯定的制裁ないし否定的制裁と結び付いている場合に存在するも のである。制裁が社会的規範によって支持されている場合には,制裁は,影響 者からのみならず,影響者ならびに被影響者が属している社会からもおこなわ れると期待されるのである。このことは,影響者がある立場についた人間

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,例えば,組織内なら特定の職位についた人聞として被 影響者に対して振る舞う場合に当てはまり,その影響者の情報を意思決定前提 にすることを拒否することは,それへの従属を規定している背後にある規範を 破ることをも意味する。そして,その場合,拒否をおこなった被影響者に対し ては,立場あるいは職位についた人間としての影響者によって制裁が加えられ るのみではなく, さらにかれらが属する社会の他の構成員によっても制裁が加 えられるのであるる。 専門知識所有

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と共同志向

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について, キル、ンュは次のように言う。制裁の期待による情報の意思決定前提としての受 け入れは,規定的情報と事実的情報のいずれにも関わるのであるが,専門知識 所有による情報の受け入れの促進は,専ら事実的情報の方の受け入れの促進に 関わり,事実的情報についての権力基盤として作用するのである。そして,こ の専門知識所有は,当該の知識の所有者がある特定の立場にいる人間であるこ とによっても補強される。例えば,企業家がある長期的景気予測につき,その 予測が国民経済学者の言ったことである故にそれを受け入れる場合はそうした 補強に相当する。次に,共同志向についてであるが,こちらも主として事実的 情報の受け入れの促進にかかわるということで、は,専門知識所有と通じている。 共同志向とは,専門を同じくする集団の見解を事実的情報として受け入れやす いという傾向をさし示している。 ( 6 ) もちろん,制裁がこうした規範に基づいていない場合すなわち影響者がある立場ある いは職位についた人間としてではなく個人として制裁を加える場合も存在し,その場合 には,影響者個人からの制裁はおこなわれるものの,他の人々からの制裁は期待されない のである。 (7) 一例として,裁判官は同じ職業の集団であるかれの同僚の以前の判決あるいは専門的 意見をかれの意思決定前提にしやすいということがあげられる。

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-52ー 第62巻 第2号 132 共同志向は,専門家の集団に属していることからのみならず,同じ組織に属 していることからも発生し,自らが属する組織のおこなった予測であるのでそ れを意思決定前提に据えていくという事態も考えられるのである。しかし,専 門知識所有と共同志向は,事実的情報の権力基盤として同じ作用をするわけで はなし専門知識所有が,ある代替案をとることの帰結の予測についての情報 に専ら関わっていくのに対して,共同志向はむしろ代替案そのものの探索ある いは代替案の重み付けに関わる情報にも関連する。すなわち,代替案の重み付 けということが出される限りでは,共同志向は,事実的情報から出て評価的情 報あるいは価値的情報の領域に関連していることになるのである。 権力の基盤としてキルシュが続いてあげるものは一体化

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で ある。一体化については,既に長期的記憶として人格の変更にいたる学習過程 としての社会化の場面で,一体化が社会化や内面化とは考察の平面が異なる現 象であり,その限りではそれらと同列には論じられないことが指摘され,そし て一体化はむしろ社会化や内面化へ導く手段的な役割を果たすことも指摘され

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この指摘と一貫しつつ,一体化は権力の基盤として作用するのである。一体 化の概念規定については既に触れたのでここでは繰り返さないが,集団構成員 が影響者としての個人あるいは集団に一体化していることに基づいて,それら の個人がその集団構成員に対して,ある情報の意思決定前提としての受け入れ の促進をはかることができ,その限りで一体化は権力の基盤として作用するの である。キルシュはさらに一体化に導く原因として,出世主義に基づいて,人 が未だそこについたことのない立場についている者の考えに,近付くことをあ げている。 キノレシュが権力の基盤として最後にあげるものは,服従義務の内面化

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である。これは文字どおり,規範すなわちこ の場合にはある立場の命令権の内面化であり,既に触れた内面化の概念規定に 基づくならぷ〕服従義務の内面化とは,組織内の個人がかれらの社会化の枠内で、 (8) 本稿注 (4)参照。 (9) 本稿注(4)参照。

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133 組織における社会化と交渉 -53-命令に従うことが当初誰に指示されたのかを忘却してしまうほどの段階であ り,それ故にこの権力基盤に基づいて按舞う影響者の情報は個人の意思決定前 提になる見込みが大きいのである。 キルシュが権力の基盤としてあげるものは以上であるが,われわれはかれが あげている権力の基盤の中には,権力をふるう際に統制している「対象」を示 すものと,人がどのような途を通じて権力を持つに至ったのかという「経路」 を示すものとの

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つが含まれていることに気づく。このうち対象を示すものに は,制裁の期待ならびに専門知識所有が含まれ,経路を示すものには,共同志 向と一体化と服従義務の内面化が含まれると考えられる。もちろんこのような 意 味 で の 対 象 札 経 路

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それらに基づいて権力が行使されるという意味では 権力の基盤である。 (10) これらの区別をしている研究者に,バキャラックとローラーがいる。

S.. B. Bacharach

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Lawler, Power and Politics in0勾anization--TheSocial

Psychology

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Confli副は Coalitions, and Bargaining一一, San Francisco / Washing -ton / London 1980 (11) さて,以上において,キノレシュが言う権力基盤の分類について跡付けたが,かれはこれ らの権力基盤は分離して存在するものではなく,相互に関連し合いつつ,補強し合ってい ると考える。そうした関連をキルシュは次のような図を掲げながら解説している〈図1参 照)(VgL EIII, S.214)

「 一 一 一 ⑫ 斗 内 面 化 │ ⑤ ④ ① ーーー⑬ー ③ 図 上 権 力 の 基 盤 の 聞 の 関 連 ⑦ ⑩ ⑨ ② 1 1 1 1 1 ﹂ ⑬ ⑬

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-54ー 第62巻 第2号 134 さ て , 権 力 基 盤 の 分 類 は 以 上 の よ う に な る の だ が , 影 響 者 か ら 見 て , 権 力 基 盤 を 持 つ こ と の み が 被 影 響 者 に 情 報 を 意 思 決 定 前 提 と し て 受 け 入 れ さ せ る に 十 分 で あ る と は 限 ら な い 。 そ れ 故 , こ こ に , 権 力 行 使 の 行 動 が 必 要 に な り , 被 影 響 者 に 対 し て 情 報 を 意 思 決 定 前 提 と し て 受 け 入 れ さ せ る よ う に 積 極 的 に 働 き か け る 行 動 が 必 要 に な る 。 そ う し た 権 力 行 使 の 方 法 が 操 作(Manipulation)であ る。キルシュは操作の方をも r威 嚇J,r約束J,r無 条 件 の 補 償J,r公 正 な 反 対 給 付 に 対 す る 義 務 感J,r完 成 し た 事 実J,r権 威 付 け ら れ た 規 定J,r説 得 」 の7 つに分類する (EIII,SS..217-223)。 威 嚇(Drohung)は , 被 影 響 者 が 権 力 所 有 者 の 望 む 意 思 決 定 前 提 を 受 け 入 れ な かった場合に,権力所有者が,被影響者に否定的制裁を通知する場合である。 こ の 否 定 的 制 裁 は 通 常 明 示 的 に は 言 わ れ な い で , 被 影 響 者 に 否 定 的 制 裁 を 喚 起 するような行為によって伝えられるのである。制裁の実行は,なんらかの資源、 を 前 提 と し て い る が , 資 源 に よ っ て 出 来 る こ と よ り 以 上 の 権 力 の 範 囲 を 持 て る の で あ る 。 そ れ 故 , 往 々 に し て 権 力 所 有 者 に と っ て の 問 題 は , 被 影 響 者 が 不 服 従 の 場 合 に , 実 際 に 制 裁 が お こ な わ れ る と 信 じ さ せ て お く こ と で あ る 。 こ う し て , 権 力 所 有 者 は 特 に 実 際 に 制 裁 を お こ な う こ と な く 被 影 響 者 の 服 従 を 勝 ち 取 ろうとし,またそうすることがかれにとって有利なのである。なぜ、なら,実際 矢印①,②,③は制裁の期待,専門知識所有・共同志向,一体化に基づいて意思決定前 提への受け入れが促進されることを表す。矢印④と⑤は服従義務の内面化に基づく意思 決定前提への受け入れを表す。それ故,これらの①から⑤までの矢印は,上述の権力基盤 の再掲に過ぎない。矢印⑥は,規範あるいは服従義務が制裁によって正当化されることを 表す。矢印⑦は,そのような規範が一体化によっても基礎付けられることを表すのであ る。矢印⑧は,服従ないし拒絶に対する処罰ないし報酬を与えることが,規範の対象であ ることを示す。矢印⑨は,専門家の情報が意思決定前提として入っていくことも相応の規 範の対象であることを示す。矢印⑬は,専門知識所有・共同志向が規範を正当化すること を示している。矢印⑪は,規範がより高次の規範によって支持されることを示している。 点線の矢印⑫から⑬は,長期的に効果の出る関係を表現している。矢印⑫は,反復され る制裁は社会化過程のなかにおいて規範の内面化に導くことを表す。矢印⑬は,反復され る報酬(肯定的制裁〕が,その報酬を与えた個人あるいは集団に対する一体化を促進する ことを表す。矢印⑬は,一体化がおこなわれると,個人は集団の価値あるいは確信を自分 のものであると感じるようになることを表す。このことを通じて前述の共同志向が一層 促進されることとなるのである。矢印⑬は,この過程とは逆に,共同志向が既に存在する とそのことは一体化を促進することを示す。

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組織における社会化と交渉

-55

ー に制裁をおこなってしまうと,そのときは権力所有者にとって望ましい服従が 得られたとしても権力所有者と被影響者の関係には良いものがもたらされず, 長 期 的 に は 被 影 響 者 の 服 従 が 得 ら れ な い よ う な 方 向 に 向 か っ て い く か ら で あ る。 約 束

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は , 被 影 響 者 が 権 力 所 有 者 の 望 む 意 思 決 定 前 提 を 受 け 入れた場合には,権力所有者が報酬(肯定的制裁)を与えることを予め信じさ せることを言う。約束を果たさないと,権力所有者の信頼性は失われてしまう が,約束を果たすことは権力基盤の消耗に導くことも考えられる。 約束が,被影響者が権力所有者の望む意思決定前提を受け入れるという条件 付 き の 操 作 で あ っ た の に 対 し て , 無 条 件 の 補 償

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は,そういう条件なしに,すなわち被影響者が権力所有者の望む意思決定前提 を受け入れるとも確約しない状態で,肯定的制裁あるいは報酬を与えることで ある。そして無条件の補償をおこなって権力所有者は被影響者が権力所有者の 望む行動の範時を選択するように心理的に追い込むことを目指すのである。無 条件の補償の例としては,なんらかの条件付きでおこなわれるのではない開発 援 助

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があげられる。 無条件の補償は,被影響者が権力所有者の望む意思決定前提を受け入れてく れると期待しておこなわれるのであるが,こうした期待の背後には,何か肯定 的なことをおこなってもらうと後にそれに相当するような行動によって一種の 返礼としての反対給付をおこなわなければならないとしづ義務感がある。この 義務感をむしろ前面に出しつつ意思決定前提の受け入れを促進する方法が,公 (12) こうした権力基盤の消耗に導くかどうかは,約束の対象が何かによって決ってくるの であり,権力基盤の消耗があるかどうかについては 3つの類型がある。第 lに,権力所有 者が権力基盤を失いその失われた部分が被影響者に所有される場合で,これは権力基盤 の振替えといわれる。第 2に,権力所有者が権力基盤を失うが,被影響者もその失われた 部分の権力基盤を得るのではない場合で,権力基盤の消費と言われる。例えば,権力所有 者が被影響者の服従が得られる場合には否定的制裁の撤回を約束する場合がこれに相当 する。第 3に,権力所有者の権力基盤が失われるわけではなく,被影響者も同時に権力基 盤に到達できる場合で,これは例えば,権力基盤が特殊な情報の所有である場合に起こ り,これは権力基盤の分散と言われる。このうち第 1の場合と第 2の場合が,権力の消耗 に相当するのである。

(14)

-56- 第62巻 第2号 136 正な反対給付に対する義務感

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を利用した操作の戦術である。過 去にある種の譲歩あるいは補償をおこなってやったことを被影響者に喚起さ せ,かれに意思決定前提の受け入れを促したり,公正な反対給付に対する義務 感を意識していることを被影響者に印象付けながらかれに意思決定前提の受け 入れを促す場合がこの戦術に相当する。 完成した事実

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は,つぎのような場合に存在する。権力 所有者と被影響者の意思決定が相互依存していて,権力所有者から見てその意 思決定が調整されていることが望ましく思われ,それ故ここにかれは被影響者 との何の相談もなく先に意思決定をおこなってしまう時に,この操作の戦術は 完成した事実と言われる。この操作の戦術は,特に被影響者から見た場合に適 応

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と区別が困難ではあるが,適応の場合には被影響者には適応の 他に別に取りうる行動の代替案が与えられているのに対して,完成した事実が おこなわれた場合にはかれには権力所有者が先におこなってしまった意思決定 を受け入れる道しか残されていなし、。このことを逆に権力所有者の方から言え ば,被影響者が従わざるを得ない状況をわきまえてそうした状況で、実行できる 操作の戦術が完成した事実だということになる。権力所有者が,意思決定がお こなわれたことが殊更明確になるように衆自の前で意思決定をなし,その後に は,被影響者と情報伝達することを拒否するという方法は,こうした完成した 事実の戦術に対応する。この完成した事実の戦術は被影響者に再度の交渉の余 地を与えないものである。 権威付けられた規定

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は.,文献で言われていること に従うと組織のなかでは最も頻繁に使用される操作の戦術である。この場合に は,権力所有者は意思決定の権威付けの体制的権利を使用するのである。上記 (13) 上記の無条件の補償は,補償がおこなわれたその時は権力所有者の望む意思決定前提 が被影響者の方で受け入れられなくとも(もちろん無条件の補償は補償をおこなう時点 でそうした受け入れを約束させるものではないのは上述の通りであるが),すなわち無条 件の補償が一応失敗に終わったとしても,後々になって,公正な反対給付に対する義務感 に基づく操作の戦術の基盤に利用されることもある,という形でこうした義務感に基づ く操作の戦術の基盤に関連してくるのである。

(15)

1

3

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組織における社会化と交渉 -57ー の完成した事実においては戦術が投入されてから後の交渉あるいは議論が権力 所有者の行動によって打ち切られていたのに対して,権威付けられた規定に基 づく操作の戦術の場合には,そうした交渉あるいは議論が権威付け権限を規定 している規範によって打ち切られる。すなわち,権威付け権限を規定している 規範は,常軌的な服従をするべきことを規定するのみならず, _..E[権威付けが 実行されたならば,その後の議論を禁じもする。権力基盤の分類の箇所でも明 らかにしたように,権威付け権限を規定している規範は制裁によって支えられ ている。つまり,権威付けがおこなわれたということは,その内容に従わない 時には公式的な処罰が実施されるということの暗黙的な威嚇を含んでいる。そ してこの戦術は他の操作が成功しない時の最後の方途である。権威付けられた 規定に基づく操作の戦術は組織のなかでは最も頻繁に使用される操作の戦術で あると言われていると表現したが, どの程度までそれが組織内において支配的 な戦術なのかは経験的な問題である。 操作の戦術としてあげられている最後のものは説得(むberzeugen)である。 今まで述べてきた操作の戦術すべてが,操作をしている権力使用者の権力基盤 を指摘することによってそれに頼っていた。これに対して,意思決定前提とし て受け入れられた情報が将来的に被影響者において如何に有利な事項をもたら すのかあるいは不利が回避されるのかとし、う情報,すなわち必ずしも操作をし ている権力使用者の権力基盤に関するものではない情報を流しつつ,ある情報 の意思決定前提としての受け入れを促進するという場合には,説得がおこなわ れているというのである。要するに,この説得だけは権力所有者の権力基盤に 関するこ次的情報に基づかない操作の戦術なのである。 以上が操作の方法に関するキルシュの論述である。 ところで,操作は権力所有者から見て一方的におこなわれる行動だと解され たのだが,被影響者の方からもまた操作の戦術がおこなわれると,そこに交渉 (Verhandlung)が存在することになるのである。すなわち交渉とは相互的な操 作(weckselseitigeManipulation)

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, S" 223)の行為であるといえるのであ る。キルシュは,組織内の交渉についても議論を展開している(VgL

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-58- 第62巻 第2号 138 223-239)

まず交渉は,そこで使用される主な操作の戦術が説得である場合に議論 (Debatte)と言われ,操作の戦術がそれ以外の戦術とりわけ威嚇と約束の場合に は駆け引き (Aushandeln;bargaining)と言われる (EIII,S.. 224)。そして,この うち議論が支配的な交渉過程は統合的(integrativ)な交渉過程であり,駆け引 きが支配的な交渉過程は分散的(distributiv)であると位置付けられ,交渉過程 が専ら統合的になるかあるいは分散的になるかは,組織内の規範と構成員の社 会情緒的関係によるものとされる。すなわち,組織が威嚇行為のあからさまな 投入を回避し議論を優先する規範をもっている場合には,それ相応の交渉過程 の類型に向かうよう影響があり,また,組織構成員相互に否定的な感情がある 場合と肯定的な感情がある場合とでは交渉過程の類型に違いが生じることとな る(EIII

S..225)

交渉の大まかな類型とその類型が発生するにあたっての影響要因は以上のよ うであるが,組織内の交渉はどのような段階でおこなわれるのか,また

2

人 間関係を前提として個人的な意思決定過程に関連付けると交渉はどのように見 られるのか。 このうち,交渉の段階については,組織内の交渉は連合体(Koalition)形成を 含みつつ複数段階性(Mehrstufigkeit)を持つ。別稿でも見て来たように,組織内 の集合的意思決定過程においては,中核集団が権威付けをおこない,そこに衛 星集団が影響を与えようとする。すなわち組織内では影響を与え合うのは個人 ではなく集団となるのである。ここに交渉が複数段階性を持つ理由があるのだ が,交渉の穣数段階性の意味は次のようである。 交渉に2人以上の人聞が参加すると連合体が形成される可能性が存在する。 つまり複数の個人の一部分が,自らの要求と操作の試みを相互に調整しそれら を強調するために他の個人とまとまって連合体の形成を試みる。ここから出発 すると,交渉は複数段階的に進行する。 すなわち,第

1

段階として,ある連合体が形成されることも交渉の対象なの である。第

2

段階として,連合体が形成されてからは,集団としての連合体は

(17)

139 組織における社会化と交渉 -59-通常

1

人の個人によって代表されるが,この代表者がかれの属する連合体の意 見を集約し,その意見が未限定な場合はそれを限定しつつ,その意見を携えて 他の連合体の代表者と交渉しなければならない。この交渉が本来の交渉である といえる。なぜ、なら,連合体としてまとまって強調し,かつ押し通そうとした 意見がたたかわされるのはこの交渉の場だからである。つぎに本来の交渉が終 わってからも,連合体内部での交渉が発生する。すなわち,第3段階として, 代表者が連合体に帰って来てから,本来の交渉の場での連合体の意見のかれに よる限定が連合体の意見を正しく反映したものとして仲間の構成員から承認さ れるかどうかは,それ自体交渉の対象である。また,第4段階として,この交 渉と同時に発生し密接に関連しているのでそれと区別が難しいのではあるが, 代表者が,本来の交渉の場で得られた成果すなわちどこまで集団の意見を本来 の交渉の場で反映させることができたのかという成果について仲間の構成員に 説明しかれらを納得させる必要があり,ここにも交渉が発生するのである。こ うして本来の交渉を巡っても複数の交渉が出てくる。 さて,交渉の複数段階性は以上のようであるが,キル:ンュは

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個人聞の交 渉を個人の意思決定過程論により一層関連付けつつ次のように論じる (EIII,

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228-239)。交渉とは,それ以降の意思決定過程における意思決定前提をどの ようなものにするのかを巡っての討論なのであり,交渉に参加する個人の意思 決定問題は次のようである。 交渉の出発状況は,交渉の前に存在する参加各人の思惑に沿った複数の意思 決定前提であり,交渉の最終状況すなわち到達点は,交渉に参加した複数の個 人の妥協の産物としての意思決定前提である。交渉に参加した個人は,交渉の 結果としてどのような意思決定前提が生まれたら望ましいかについて考えを 持っているが,この望ましい意思決定前提は,最も望ましい点から最大限の妥 協点まで、幅を持ったものであるとするならば,その幅の中のそれぞれの位置は, 通常の意思決定過程における代替案に匹敵するものである。もちろん,交渉相 手もかれの方から見て望ましいと思われる代替案をもって交渉に臨んでくる。 ここに,両者はそれぞれの持つ代替案のなかでもより望ましい方に交渉結果が

(18)

-6θ一 第62巻 第2号 140 落ち着くように交渉戦術を練ることとなる。 交渉が終了しある結果に落ち着くまでの過程は,相当複雑であるが,交渉に 参加した者の相互の操作の繰り返しを経て,歩み寄りがおこなわれてある代替 案に落ち着く場合には,妥協

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がおこなわれたのであり,こうした 妥協がおこなわれないでのミつ両者の代替案に議離がある場合には交渉は決裂 (Scheitern)に終わったのである

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,S. 235)。 このように交渉過程は経過するのであるが,交渉過程についての研究上少な くともひとつの重要な事項は,交渉過程外部から見ていて,交渉結果がどのよ うになるのかということである。ところが r……交渉過程の経過と結果とを説 明ないし予測することができる本来の意味の理論は未だ存在しなし、J

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228)のである。 (14) 交渉結果がどのようになるのかということに関するキルシュの言うことは萌芽的では あるが,われわれは次に紹介しておく。 交渉の結果には,もちろん個人間の心理過程の記述が重要になってくる。すなわち,交 渉に参加した個人がそれぞれどのように望ましい代替案の帽を設定したか,交渉に臨ん だ最初の場面ならびに交渉の経過中にかれは自身の代替案を相手がどのように評価して いると見たか,が就中問題になるであろうし,相手の評価の「評価」は一段階的になされ るのではなく,複数回なされることから考えて,個人の心理に関連付けつつ交渉結果を説 明することには,難しい問題があると言える。それ故,交渉結果がどのようになるのかに ついては,外部から見て理解できるようにする要素があげられている。そうした要素とし てあげられているのは,顕著な代替案(auffaligeAlternative)の存在(EIII,S 236)と完 成した事実の戦術の存在(EIII,S 236-238)である。 このうち,顕著な代替案とは,代替案の評価それ自体とは特に関係のない,外部的で目 だっていて,交渉の参加者がそこに合意しようとするほどの特徴を持つ案のことである。 例えば, 2つの寡占企業が,将来争いをおこさずにある地域の販売領域を分かち合いたい 場合に,当該の地域に河川,州境,その他の目だった分離線が存在していたとすると,そ れらの企業は,その境を隔てて地域を分割するという案に合意しやすいというのである。 次に,完成した事実の戦術の存在についてであるが,この戦術は,既に操作の箇所でも 出てきたことであるが,交渉の打切りに使用されるのであった。既述のように,この戦術 は,個人が相手よりも先に意思決定を公然とおこなってしまい,その後には,相手とは情 報伝達を打ち切るというものであった。交渉の相手が,ある代替案に適応さぜるをえない ように決定をおこなうことがこの戦術なのであるが,この戦術が成功裡に終わるために は,これを使用する仮JIが交渉の状況について正確で、現実的な像を持っている必要がある。 なせeなら,交渉相手が,代替案の承服よりも交渉の決裂を優先してはこの戦術は失敗に終 わったことになるから,相手の事情をよく理解しつつしかも相手を承服に追い込むこと が出来なければならないからなのである。 交渉結果がどこに落ち着くのかを外部から見て理解可能にするこうした2つの構想に

(19)

141 組織における社会化と交渉 A , , F O

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組織における影響過程に関する吟味 ある領域に関して概念を構成し現象を分類していくことは,科学的研究の出 発点である。社会化と交渉に関するキルシュの見解を見てきた今や,そこでの 議論がこうした出発点に相当するものであると考えられる。 科学理論的立場にのっとると,概念の構成から出発しつつ展開された科学的 研究の目指す目標として,存在する事態を説明するということと,現実の実践 的行為を支援して行くこととの

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つが考えられる。前者は,説明

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の 課題と言われ,後者は,形成

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の課題と言われる。科学的研究に関す るそれらの

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つの目標は,科学理論的立場において一般に言われるのみならず, キルシュの見解にみられたものである。つまり,われわれの跡付けてきたとこ ろによるならば,かれの見解には,存在する事態を説明することとしての説明 の見地と,現実の実践的行為を支援して行くこととしての政策論的見地の両方 が含まれていたのである。 それ故,われわれは本稿で跡付けたキノレシコの見解をこれら

2

つの科学的目 標との関連で整理して,吟味としたい。 関してわれわれの見解を記しておこう。それら2つの構想、のうちで,顕著な代替案の方は いかにも萌芽的でそれで広い範囲における交渉結果が解明できるとはとうてい考えられ ない。次に,完成した事実の戦術の方は,顕著な代替案の方とは異なりある代替案あるい は交渉結果を直接指定したものではなく,ある代替案に洛ち着く条件を述べるのである。 それ故,外部から交渉状況をよく見て,完成した事実の戦術を使用で、きるほどの権力の差 があるかどうかを画定し,その後に,権力所有者の方の最優先している代替案を画定して 交渉の結果を説明することが必要となる。それ故,この場合には,個人聞の評価の複雑な 読み合いは考えなくともよく,言わば一段階的な考察で十分になる。 もとより,この完成した事実の存在による交渉結果を理解可能にするという考えの基 底には,権力の大きい方の主張が交渉結果に反映されやすいという,権力基盤や操作の構 想をそもそも考察に取り入れる場合の共通の基本的考えが存在する。要するに,権力の大 きい方の個人を画定しつつ交渉結果を説明しようとすることについてはキノレシュの考え に一貫したものがあり,特にそのうちで完成した事実の戦術を用いることのできるほど 権力の差異のある場合に限って,それが交渉結果を理解させやすいので,その戦術が交渉 との関連で抽出されたと考えられる。 (5) 渡辺敏雄(稿),組織と組織的意思決定過程一一意思決定過程論における組織把援の構 想を巡って一一,香川│大学経済論叢第61巻 第3号,昭和63年12月, rVI結」の部分 参照。

(20)

-62- 第62巻 第2号 142 権力と交渉の戦術に関する議論もまた,このような存在する事態の説明と現 実の実践的行為の支援の2つの目的に役立つようになりうる。しかし,そのた めには,キノレシュ的な権力の議論ならびにとりわけ交渉の戦術論はどのような 陶冶を経なければならないのだろうか。まずこのことに対してわれわれは一顧 しておきたい。 われわれの見解によると,権力ならびに交渉の戦術に関する議論は,権力基 盤にはどのような種類があり,交渉の戦術にはどのようなものがあるのか,と いうそれらの主題に関する概念の分類をなす域にあるのである。と言うよりも むしろ,存在する事態の説明と現実の実践的行為の支援の段階に到達する道程 上の理論的な基礎研究の第

1

段階として概念の分類がなされたとわれわれは言 うべきであろう。本節の官頭に,キルシュの議論が科学的研究の出発点である と表現したのはこういう意味なのである。 議論が概念の分類の域であるというこうした現状判断を踏まえるならば,交 渉にまつわる論述を,存在する事態の説明に利用するにせよ,現実の実践的行 為の支援に利用するにせよ,これらの

2

つの目的に役立つようにするためには, 次に,現実の事態に関する命題である「仮説」を練り上げていく必要がある。 すなわち,概念の分類から出発して, どのような状況においては, どの交渉戦 述が有効なのかという形の仮説を形成していく必要がある。 われわれは,ここでゼンケ・フント (SonkeHundt)の位置づけを想起したい。 キルシュの作っている理論的枠組は,可能性分析(Moglichkeitanalyse)に導く が rしかし,その枠組は,決して,一般的事態と関連に関する説明要求を伴う 理論には導かないのである。」フントのこの批判は,キノレシュが操作の戦術を単 に分類したに過ぎず,これらの分類をもってしてはとうてい事態の説明は出来 ないということを指摘したものである。すなわち,キノレシュの見解においては, どういう状況でどの操作の戦術が有効なのかの分析がこれからの課題として残 されているのである。 (16) Sonke Hundt, Zur Theoriegω,chichte der Betriebswirtsc.加fぉlehre,Koln 1977, S 200

(21)

143 組織における社会化と交渉 -63ー 操 作 の 戦 術 に 関 す る 論 述 に つ い て の わ れ わ れ や フ ン ト の 位 置 づ け は r仮説」 を 形 成 す る 努 力 を 状 況 要 因 を 含 み 込 み な が ら お こ な う 必 要 が あ る と 言 っ て い る わ け で あ る が , 事 実 , キ ル シ ュ に よ る 権 力 な ら び に 操 作 の 議 論 に 対 し て は r状 況 的 方 向 」 な い し 「 コ ン テ ィ ン ジ ェ ン シ ー 理 論 」 の 方 向 の 組 織 理 論 を 推 進 す る キ ー ザ ー

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叶Kieser)と ク ビ チ ェ ク

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“Kubicek)に よ っ て も わ れ わ れ や フ ン ト と ま っ た く 同 様 の 位 置 づ け が , お こ な わ れ て い る 。 キ ル シ ュ が 権 力 と 交 渉 の 戦 術 に 関 し て 論 述 し て き た こ と は , 仮 説 を 形 づ く る 前 の 基 礎 的 段 階 に な っ て い る と い う 位 置 づ け を わ れ わ れ は 言 い た い の で あ る 。 こ の こ と を 確 認 し て お き , か れ の 議 論 が , 存 在 す る 事 態 を 説 明 す る と い う こ と と , 現 実 の 実 践 的 行 為 を 支 援 し て 行 く こ と と の

2

つ の 目 的 に 役 立 ち う る と (17) キーザーとクビチx.!1は次のように言う。 「しかし,これらすべての構想(キルシュや他の人々が提出した操作のさまざまな戦術 に関する構想一一渡辺)には,重大な制約が加えられる。すなわち,それらの構想、は,ど のような条件のもとでどのような戦術が適用されるのかを規定する要因について,ほと んど述べていないし,さらにまたそれらの戦術の効果を規定する要因についてもほとん ど述べていない。J(A Kieser und H..Kubicek, 0得anisationstheorien II, Stuttgart 1978, S 52 邦訳,田島壮幸(監訳), r組織理論の諸潮流 II~ 千倉書房,昭和 57 年, 53-54 ページ参照。〉 さらにキノレシュの学説を中心とする行動科学的意思決定理論の特質と批判的評価なら びにその構想の一層の発展に関しては,キーザーと F ピチェクの上記の書物の次の箇所 を参照のこと。 A Kieser und H..Kubicek, a α0, SS..41-76 前掲邦訳書, 40-83ページ。〉 (18) われわれは,キノレシュの研究は,サイモン(H..A.Simon)の研究から多大な影響を受け ていると考えている。キノレシュは,サイモンの『経営行動J(Administ.rative Behavior, N Y 1945)から,組織内の情報伝達による影響方法についての基本的考えを枠組としては 受け取りながら,影響方法としての「権力」と「操作」の概念を詳細に分類し整理したの である。こういう意味で,かれは,サイモンの理論を一層発展させたのであると考えられ る。 理論の荒削りな部分を一層の分類によって完成させるのは,通常科学の中の仕事であ るので,キノレシュが草野らしたこの発展は,サイモンの『経営行動』によって示されたパラ ダイムに基づいた通常科学的研究であると言える。すなわち,本稿で紹介した限りでのキ ノレシュの研究は, トマスo!1ーン(T.S Kuhn)の言う「通常科学」の中の出来事であって, キノレシュの展開したことは,サイモンの『経営行動』の中のパズノレ解きをおこなったのだ と考えられる。 このように,キノレシュの研究を通常科学的研究とみるならば,われわれが指摘した,交 渉の戦略に関して状況との関連で仮説を作って行き,テストして行くという研究は,サイ モンの r経営行動』に基づくパズノレ解きの中でのさらなる残された作業と言えるだろう。

(22)

-64- 第62巻 第2号 144 言っても,いったい何の説明をしようとしているのか,どういう領域での実践 的行為の支援をしようとしているのかという,説明の対象ならびに支援の対象 に関してわれわれはさらに究明しておきたい。 まず,われわれは,支援の対象に関して論述したい。われわれは別稿までで, キルシュの『意思決定過程』第

3

巻においては,組織把握の構想として,もち ろん意思決定志向的構想が見られるものの,それのみではなく,システム論的 構想もまた見られ,それには,政策論的見地が含意されたということを窺い知っ た。われわれはそれに関して次のように表現した。 「まず日常的な制御については,システム論的構想では,上方からの情報が, 制御される部分によって受容される「必要性」が含意されていた。これに対し て,組織的意思決定過程の特質に関しては,事実が指摘されたのであって,交 渉を有利に導き情報を受容させる政策論的見地は一応本稿で位置付けた限りで は前面にはなかった。制御に関してシステム論的構想が持っている政策論的見 地あるいは管理論的見地と,組織的意思決定過程論の特質付けとは,例えば, 後者が前者の理論的な基礎的研究という形で関連していくことが考えうる。」 システム論的構想には, こうした日常的な制御のみではなく,論理上は,非 日常的な制御が含意されていたことも次のように触れられた。 「しかし,超安定性と多重安定性という特質が直接言うことではないが,状態 としての構造から別の状態としての構造への組織変更があることが考えうる。 そしてそうした組織変更は一種の過程をなすと考えられ,また,この過程は, 日常的制御とは異なる非日常的な側面の行動である。つまり超安定性と多重安 定性の概念の含意を振り返ると, 日常的にあるいは安定的に制御を行っていく という側面と,構造を飛躍的に変更するという非日常的な側面が存在すること が含意されている。」 それでは,システム論的構想が含意する,構造を飛躍的に変更するという非 日常的な側面を,状態が出来上がるまでの過程的側面を強調する意思決定志向 (19) 渡辺,前掲稿, 202ベージ。 (20) 渡辺,前掲稿, 196ベージ。

(23)

145 組織における社会化と交渉 -65ー 的構想から見れば,そこにどのようなことが意味されていることになるのか。 すなわち,システム論的構想と意思決定志向的構想とは,非日常的制御の場面 でどういう形で合流するのか。われわれは,これについては次のように触れた。 「組織的な統一的な行為の確保のためには, 日常的な意思決定過程のみならず 非日常的な組織変更の行為についても,その中で情報の受容の促進行為が必要 とされることは容易に想像されうる。つまり,システム論的構想と意思決定志 向的構想の聞には,システム論的構想の重要部分としての超安定性と多重安定 性の概念が含意する「組織変更」に関しても,情報の受容の促進行為について 究明される余地があるとL、う合流の可能性がある。 超安定性と多重安定性という特質に関連しながら,システム論的構想、と意思 決定志向的構想が交差した場面でt土,一応この時点でも,以上のように,われ われは,組織変更の意思決定過程とそこにおける情報の受容の促進行為の存在 を考えうるのである。」 今までで,われわれは,システム論的構想には,制御の必要性が合意されて いて,さらに,制御には, 日常的制御と非日常的制御があることを知ったので ある。 そして,制御には, 日常的制御と非日常的制御があるのだが,その後のキル シュの研究は, これら

2

つの制御の分野のうちの非日常的制御としての組織変 更の分野に展開して行ったのである。 それ故,以上の考察を要するに,われわれは,かれの学説における支援の領 域あるいは対象に関しては次のように言える。 権力と交渉の戦術は, 日常的制御と非日常的制御の場の両面と関連する。す なわち, 日常的制御の領域においては,日常的対人管理論の領域が発生し,非 日常的制御の領域においては,組織変更過程における対人管理論の領域が発生 するのである。その際の対人管理論は,個人間の「情報の受容の促進行為」と して理解されうるのであった。 (21) 渡辺,前掲稿, 196-197ベージ。 (22) 渡辺,前掲稿, 197ベージ。

(24)

-66ー 第62巻 第2号 146 そして w意思決定過程』において理論上はありうると解されうる制御の2つ の領域のうちの非日常的制御の領域の研究の方に,それ以後のキノレシュの事実 上の進路は選択されたのであった。すなわち結論的には,事実上は,非日常的 制御の領域が,かれの学説における支援の領域あるいは対象と言えるのではな いかと考えられる。 ところで,われわれは,以上では,実践的行為の支援を先に論じてきたので あるが,権力と操作の戦術に纏わるキノレシュの議論は,実践的行為の支援にの み役立つというのではなく,存在する事実の説明にも使用しうるのである。わ れわれは次にこうした存在する事実の説明の側面について触れよう。 組織の事実上の行動の説明の側面を聞いだすと,今度は,キルシュの見解に 見られた意思決定志向的構想の意味したものを想起する必要がある。 その構想、が意味したものに関しては,われわれは,意思決定志向的構想は, 組織的意思決定過程の事実上の特質を明確化しようとしてきたのであり,この 特質の明確化の過程ゼ,交渉がどのような位置に発生しているのかということ が明らかにされたと考えた。 すなわち,組織目標の意思決定とそれ以後の段階の意思決定について,まず, 意思決定をなす際の交渉,その解釈を巡る交渉,さらに,調整行為としての交 渉という

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つの場面lで交渉の余地が発生する。それ故,キ/レシュが考えている ような情報意思決定システムの内部では,意思決定について

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つの場面で交 渉が発生しうると考えられていたのである。 この方向の議論にのれば,組織目標というのは,必ずしも予め意味が限定さ れている形で存在するのではなく,それが組織の実際の行動に現れるまでには, いくつかの個人間交渉が入ってくるのである。 このような事情は,組織目標のみではなく,重要な意思決定にも当てはまる ものとすると,組織の実際の行動を説明しようとするならば,組織目標を含ん でそれぞれの重要な意思決定の具体化の過程について,まず,個人間交渉が, (23) 渡辺,前掲稿, 187-188ベージ。

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