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ストレス科学研究32巻

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Academic year: 2021

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Abstract

The purpose of the present study was to examine depression and social disability among Japanese high school students who experienced the Great East Japan Earthquake and tested if cognitive behavioral factors were related to depression and social disability. Two hundred and five students (160 female,

M age = 16.2 years, SD = 0.4) who experienced the Great East Japan Earthquake were administered the

Impact of Event Scale–Revised, Center for Epidemiologic Studies Depression scale, Sheehan Disability Scale, Automatic Thoughts Questionnaire–Revised, Behavioral Activation for Depression Scale, and En-vironmental Reward Observation Scale(EROS). More participants had depression than post-traumatic stress disorder(PTSD) symptoms. Partial correlation analysis found that depression was positively cor-related with social disability. Multiple regression analysis found that, regarding cognitive factors, “neg-ative evaluation of the future” was positively correlated with depression and social disability, whereas “positive thinking” was negatively correlated with depression. Regarding behavioral factors, “avoid-ance/rumination” and “social impairment” were positively correlated with depression, “school impair-ment” was positively correlated with social disability, whereas EROS was negatively correlated with depression and social disability. These findings suggest that interventions to reduce depression are necessary after natural disasters. Specifically, interventions should target cognitive behavioral factors to reduce depression and improvement of social disability.

Keywords: Great East Japan Earthquake, Japanese adolescents, depression, cognitive behavioral factors, social disability

東日本大震災被災生徒の抑うつと生活支障度の関連

仲座 舞姫

1)

,伊藤 大輔

2)

,小関 俊祐

3)

,大谷 哲弘

4)

,鈴木 伸一

5) 1)琉球大学大学院人文社会科学研究科 2)琉球大学法文学部 3)桜美林大学心理・教育学系 4)岩手大学大学院教育学研究科 5)早稲田大学人間科学学術院 キーワード:東日本大震災,青年期,抑うつ,認知行動的要因,生活支障度 (ストレス科学研究 2017, 32, 41-49)

Relation to depression and social disability in Japanese high school students who experienced the Great East Japan Earthquake

Maki Nakaza1), Daisuke Ito2), Shunsuke Koseki3), Tetsuhiro Ohtani4), Shin-ichi Suzuki5)

1) Graduate School of Humanities and Social Sciences, University of the Ryukyus 2) University of the Ryukyus

3) J. F. Oberlin University

4) Faculity of Education and Graduate School of Education, Iwate University 5) Faculty of Human Sciences, Waseda University

Received March 2, 2017, Accepted May 19, 2017

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1.問題と目的 2011 年に発生した東日本大震災による被害状況は, 2016 年時点で,東日本大震災関連死者数は 15,894 名, 行方不明者数は 2,561 名と報告されている1)。東日本 大震災は,地震や津波による被害に加え,福島第一原 発事故による放射能漏れや度重なる余震による影響も あり,現在でも住民の生活に大きな影響を与えてい る。さらに,東日本大震災は物理的な被害に留まら ず,被災者に対しても強い心理的影響を及ぼした。例 えば,宮城県の病院における震災後ストレス外来での 被災者の心理的問題に関する調査では,うつ病性障害 が 25.4%,心的外傷後ストレス障害(post-traumatic stress disorder:以下,PTSD)が 12.7% であったこと が報告されている2)。このように,震災に代表される 大規模な自然災害は,直接的な被害だけでなく,その 後の PTSD として心身の健康に広く影響を及ぼすこと が知られている3)。そして,特に環境の変化に敏感な 児童思春期の子どもの発育や発達が阻害されることに よる悪影響が強く懸念され,成人のみならず,児童思 春期を対象とした心理学的研究が重要であると考えら れる。実際に,過去に発生した阪神淡路大震災では, 震災の影響による心の健康に対して教育的配慮を必要 とする児童生徒が,震災直後よりも震災後 2 ∼ 4 年目 にかけて増加したことが明らかにされている4)。この ことから,現在でも心理的援助のニーズは決して低い ものではなく,被災児童生徒への心理的支援は必要不 可欠であるといえる。 これまでの児童思春期を対象とした震災関連の研究 では,心理学的観点から PTSD を取り上げ,その経過 を観察している研究が多くみられる5)。また,PTSD の改善を目的とした効果研究も多く存在し,国際トラ ウマティック・ストレス学会の治療ガイドラインで推 奨されている曝露療法,系統的脱感作,認知療法,ア サーショントレーニング,リラクセーション法といっ た認知行動療法や EMDR(Eye Movement Desensiti-zation and Reprocessing)など,様々な介入の効果が

実証されている6)。さらに,本邦においても,Ito,

Koseki, & Ohtani(2016)7)は,東日本大震災被災生

徒に対して,PTSD の予防を目的とした集団認知行動 療法が PTSD 症状の改善に効果的であることを示唆し ている。 このように,自然災害後は PTSD やそれに類似した 不安や恐怖に着目した基礎的研究・効果研究が多く存 在するが,抑うつに関する問題を取り上げている心理 学的研究もある。例えば,塩山他(2000)8)は,阪神 淡路大震災が小中学生に及ぼした心理的影響について 検討を行い,不安や恐れは震災被害の大きさと相関し, 時間の経過とともに軽減することを明らかにした。そ の一方で,抑うつ気分や身体化徴候はやや遅れて現わ れ,震災被害よりも二次的なストレスに大きく影響し, 遷延化する可能性があると報告している。さらに,宇 佐美他(2008)9)においても,抑うつや身体症状など のストレス関連症状を持つ児童が一定の期間を経てか ら現れてくる可能性を示唆している。つまり,震災な どの自然災害発生から数年が経過した後は抑うつの重 症化やそれに伴う問題が顕在化すると推察される。 このことから,東日本大震災発生から数年が経過し た現在は,抑うつ症状に焦点をあてた支援が必要であ ると推察される。しかしながら,一般的に被災者の抑 うつ症状の低減に焦点を当てた研究よりも PTSD 症状 改善に関する研究が比較して多く,抑うつ症状へのア プローチという点では十分に検討されていない。実際, 地震に関する先行研究10)においても,PTSD を取り 上げたものが多いと述べられている。そのため,同一 母集団内で PTSD と抑うつ症状の実態や影響性につい て比較検討することが,震災から数年が経過した時点 における抑うつ症状の問題を優先的に取り扱う必要性 があるか検討するために有益であると考えられる。さ らに,被災後は生活への支障度と被災者のメンタルヘ ルスの問題が関連していることを考慮すると,生活支 障度との関連について比較検討を行う必要があると考 えられる。 児童思春期の抑うつ症状は,学業不振や社会的不適 応,薬物乱用,自殺企図,自殺などと関連がみられ, 発達にも悪影響を及ぼす可能性があることが示されて いる11)。また,抑うつ症状は現在の不適応状態との関 連がみられるだけでなく,後にうつ病性障害の発症率 を上昇させる可能性があることも指摘されている12) このように,うつ病性障害の診断基準を満たしてい ない準臨床的な抑うつ症状でも,日常生活上の機能 低下や学業不振,社会的不適応などのリスクファク ターとなり,後の抑うつ症状悪化につながる可能性が ある13)。また,うつ病は生活の質(QOL)を著しく低 下させることから14),生活上の支障の改善も極めて重 要な観点であると考えられる。実際に,震災直後の混 乱を脱した後でも,衣食住の不安定化や生活環境の変 化は,被災者に大きなストレスを与えることが指摘さ れている15) 以上の点から,被災地において中・長期的視点から のうつ病対策が必要であり,診断基準を満たしていな い準臨床的な抑うつ症状に対する介入やそれに伴う生 活支障の改善が重要な課題であると考えられる。特に, 自然災害という点を考慮すると,大規模な災害におい ては,すべての被災者に対して個別にアプローチする

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には限界があるため,学校といった集団単位でアプ ローチすることが,震災支援には有効かつ効率的であ ると考えられる16)。しかし,自然災害後の抑うつの 問題については,児童期の子どもを対象とした調査は されているものの,高校生といった思春期を対象とし た実態調査はほとんどされておらず17),またこれま での通常の抑うつに対する心理的介入と同様の手続き で良いのか明らかになっていない。 児童思春期を対象とした,これまでの抑うつ症状に 対する集団介入による効果研究では,認知行動療法の 効果を示しているものが多くみられる18)19)。佐藤・ 嶋田(2006)20)によると,児童の抑うつ症状に対する 認知行動療法プログラムの最も代表的なものは Stark (1990)21)のプログラムと述べられている。プログラ ムの構成要素は,セルフコントロール訓練,活動計画 法,リラクセーション,社会的スキル訓練,認知的再 体制化,問題解決訓練となっており,認知的再体制化 や問題解決訓練といった認知的な技法に加えて,リラ クセーションや社会的スキル訓練などの行動的な技法 も組み込まれている。実際に,本邦においても,各認 知的,行動的側面が抑うつ症状に影響し,これらの側 面に介入することで,抑うつ症状を改善させることが 報告されており19)22),生活の質を向上させる可能性が あると考えられる。また,Clarke et al.(1995)23)の研 究では,抑うつ症状を呈する青年に対して,学校規模 で介入を行う集団認知行動的介入プログラムを実施し た結果,将来のうつ病性障害の発症を抑えられること が示唆されている。 そのため,抑うつ症状や生活支障度の改善には認知 行動療法が有効であると推察されるが,被災生徒の抑 うつ症状や生活支障度に及ぼす自動思考や回避行動, 報酬知覚といった認知行動的要因は十分には検討され ていない。つまり,児童思春期の子どもの抑うつ症状 については上述した認知行動的要因が介入ターゲット として奏功しているが,被災生徒の抑うつ症状や生活 支障度に対して,これらの認知行動的要因がどのよう に影響するかは明らかではない。したがって,先行研 究において,介入ターゲットとして想定されてきた認 知行動的要因が,被災生徒の抑うつ症状や生活支障度 に対して,どのように影響を及ぼすのか検討する必要 があるだろう。なぜなら,これまで述べてきたように, 震災から数年が経過した現在の東日本大震災被災者の メンタルヘルスを考慮すると,従来,震災研究で着目 されてきた PTSD 症状のみならず,抑うつ症状や生活 支障度に焦点を当てた支援が必要であると考えられる ためであり,抑うつ症状や生活支障度に影響を及ぼす 認知行動的要因が明らかになれば,より効果的な集団 介入プログラムの検討ができるようになると考えられ るからである。 以上のことを踏まえて,本研究では,東日本大震災 被災生徒の抑うつ症状やそれに起因する生活の支障の 問題について,PTSD 症状と比較し,自動思考や回避 行動,報酬知覚といった認知行動的要因が抑うつ症状 と生活支障度に対して,どのような影響を及ぼすのか について明らかにすることを目的とする。これらの検 討を行うことで,被災した思春期の高校生の状態像が 明らかにされ,被災高校生のメンタルヘルスに対する 効果的な支援を検討するための一助となることが期待 できると考えられる。 2.方  法 2.1 研究デザイン 本研究は,横断的研究デザインで実施された。 2.2 調査対象者 東北地方の内陸部に位置し,津波による浸水被害は なく,原発事故による警戒区域に属していないが,震 度 6 弱の地震と同程度の余震に複数回見舞われた地域 に在住する高校生219名に対して質問紙調査を行った。 2.3 調査期間 質問紙調査は 2015 年 6 月に実施された。 2.4 調査方法 調査実施に先立ち,対象校の校長および生徒指導担 当教員と打ち合わせを行い,調査実施中に体調が悪く なった場合には,臨床心理士や養護教諭が対応するこ と,調査後に問題が生じた場合には,当該県の臨床心 理士と連携しているため,速やかに対応できる体制が 整えられている旨が伝えられた。調査については,調 査内容の目的を説明した上で,対象校の高校教員に対 して,(a)質問紙は全部で 5 ページあること,(b)過 不足がある場合は交換を申し出ること,(c)記入漏れ がないように,回答後に確認すること,(d)正解・ 不正解はないので,自分の思った通りに回答してよい こと,(e)質問の意味が分からない場合も,自分の思っ た通りに回答してよいことを文面で説明し,これらの 内容を教示した上で集団一斉方式の調査を行ってもら うように依頼を行った。 その後,対象者である高校生に対して教員から,(a) 調査用紙には東日本大震災に関する質問が含まれてい ること,(b)調査への協力は本人の自由意思で決め てもらうこと,(c)協力したくない場合は,記入・提 出をしなくてもかまわないこと,(d)調査に協力し ない場合でも本人の不利益にはならないこと,(e)調

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査によって得られた研究の成果は,学会発表などで公 表されることがあるが,それ以外の目的には使用しな いこと,などについて口頭で伝えられた。調査への同 意が得られた場合のみ調査用紙への提出を依頼し,調 査用紙の提出をもって調査への同意は得られたものと 判断した。 なお,本研究は,上述した倫理的配慮を行い,筆者 らの所属する機関の倫理委員会の承認を得て実施さ れた。 2.5 調査材料 2.5.1 フェイスシート 性別,年齢の記入を求めた。 2.5.2 自動思考

Kendall, Howard, & Hays(1989)24)により作成され

た Automatic Thoughts Questionnaire Revised(ATQ-

R)の日本語版25)を使用した。「将来に対する否定的 評価」,「自己に対する非難」,「肯定的思考」の 3 因 子,全 38 項目から構成されている。先行研究25) て α = .88 以上の信頼性が得られており,Joiner et al. (2005)26)の α = .70 を基準にすると高い信頼性がある といえる。妥当性検討においても,抑うつや状態不安 尺度との関連性がみられ,基準関連妥当性が確認され ている。ATQ-R は最近 1 週間で浮かんだ考えの頻度 を「なし」(0 点)から「常に」(4 点)の 5 件法で測 定する質問紙であり,得点が高いほど,それぞれの下 位尺度の傾向が強いとされる。 2.5.3 行動活性化

Kanter, Mulick, Busch, Berlin, & Martell(2007)27)

により作成された The Behavioral Activation for De-pression Scale(BADS)の日本語版28)を使用した。「活 性化」,「回避と反すう」,「仕事や学校での機能障害」, 「社会場面での機能障害」の 4 因子,全 25 項目で構成 されている。先行研究28)にて BADS-Total で α = .78 と高い信頼性が得られており,妥当性検討においても, 抑うつや回避行動,主観的報酬知覚尺度と関連性がみ られ,構成概念妥当性が確認されている。BADS は 「まったくあてはまらない」(0 点)から「完全に当ては まる」(6 点)の 7 件法で測定する質問紙である。 BADS の合計得点は,活性化を除くすべての項目を逆 転項目として値を変換した上で合計得点が算出され る。すなわち,BADS の合計得点は得点が高くなるほ ど行動が活性化していることを示している。 2.5.4 報酬への知覚

Armento & Hopko(2007)29)により作成された

En-vironmental Reward Observation Scale(EROS)の日

本語版30)を使用した。EROS は主観的で全体的な報 酬を測定する尺度で 1 因子,全 10 項目から構成され ている。先行研究30)にて内的整合性値は α = .78 と高 い信頼性が得られており,妥当性検討においても,抑 うつ,不安,行動抑制・行動賦活傾向尺度と関連がみ られ,構成概念妥当性が確認されている。各項目につ いてどの程度当てはまるかを「まったくそう思わない」 (1 点)から「とてもそう思う」(4 点)の 4 件法で測 定する質問紙である。 2.5.5 外傷後ストレス反応

Weiss & Marmar(1997)31)に よ っ て 作 成 さ れ た

Impact of Event Scale-Revised(IES-R)の日本語版32)

を使用した。IES-R は「侵入症状」,「回避症状」,「過 覚醒症状」の 3 因子,全 22 項目から構成されている。 先行研究32)にて IES-R-Total で α = .92 と高い信頼性 が得られており,妥当性検討においても,トラウマ関 連症状尺度との関連といった併存的妥当性や,アル コール依存スクリーニング尺度など他の尺度との弁別 的妥当性が確認されている。過去 1 週間でどの程度, 外傷後ストレス反応に悩まされたかを「まったくなし」 (0 点)から「非常に」(4 点)の 5 件法で測定する質 問紙である。25 点以上がカットオフポイントとされ, それ以上の得点の場合は PTSD の発症リスクが高いと される。 2.5.6 抑うつ

Radloff(1977)33)によって作成された the Center

for Epidemiologic Studies Depression Scale(CES-D)

の日本語版34)を使用した。CES-D は抑うつの評価尺 度であり,「うつ気分」,「身体症状」,「対人関係」,「ポ ジティブ感情」の 4 因子,全 20 項目から構成されて いる。先行研究34)にて再検査法や折半法により高い 信頼性が得られており,妥当性検討においても,うつ 病を測定する SDS や HRSD との関連がみられ,併存 的妥当性が確認されている。過去 1 週間に抑うつが生 じた頻度について「ほとんどない」(0 点)から「ほ とんど毎日」(3 点)の 4 件法で測定する質問紙である。 16 点がカットオフポイントとされ,それ以上の得点 の場合はうつ病のリスクが高いとされる。 2.5.7 生活支障度 Sheehan(1983)35)に よ っ て 作 成 さ れ た Sheehan Disability Scale(SDISS)の日本語版36)を使用した。 SDISS は,精神的な問題によって,「仕事・学業・家事」, 「人付き合いや余暇の過ごし方といった社会生活」,「家 族内のコミュニケーションや役割」の 3 因子に支障が 出ているかどうかを 11 件法で測定する尺度である。 先行研究36)にて内的整合性値は α = .84 と高い信頼性 が得られており,妥当性検討においても,精神疾患の 包括的評価尺度として知られている GAF との関連が みられ,併存的妥当性が確認されている。得点が高い ほど日常生活上の機能障害が重症であることを示す。

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2.6 分析方法

解析には統計解析ソフト SPSS(Statistical Package for Social Science)を使用した。

3.結  果 質問紙へ回答した 219 名のうち,回答に不備のあっ た 14 名を除き 205 名を分析対象者とした(男性 45 名, 女性 160 名,M = 16.2 歳,SD = 0.4)。 まず,対象者の PTSD 症状や抑うつ症状に関する状 態像を明らかにするため,各測定尺度の記述統計量を 算 出 し た(Table 1)。 そ の 結 果,IES-R の 平 均 点 は 2.43 ± 5.42 点,CES-D の平均点は 14.10 ± 10.02 点で あり,いずれもカットオフポイントを下回っていたこ とが示された。しかし,カットオフポイントを超えて いる人数について検討したところ,IES-R のカットオ フポイントを超えていた者は 4 名(1.9%)であった のに対し,CES-D のカットオフポイントを超えてい た者は 72 名(35.1%)であった。そのため,カット オフ値を超えている人数に差異があるかどうか検討す るため,χ2検定を行った結果,CES-D のカットオフ ポイントを超えている者が IES-R のカットオフポイン トを超えている者よりも有意に多いことが示された (χ2 = 114.62, df = 2, p < .001)。 次に,PTSD と抑うつ症状のどちらが生活支障度と 強い関連を示すか検討するため,偏相関分析を行った (Table 2)。まず,PTSD 症状と生活支障度の関連につ いて,CES-D を統制変数として IES-R と SDISS の偏 相関分析を実施したところ,弱い正の相関がみられた (r = .21, p < .01)。次に,抑うつ症状と生活支障度の関 連について,IES-R を統制変数として CES-D と SDISS の偏相関分析を実施したところ,中程度の正の相関が みられた(r = .52, p < .01)。そのため,それぞれ算出 された偏相関係数の強さに違いがみられるかどうか確 認するため,偏相関係数の差の検定を行った結果, CES-D と SDISS の関連の方が IES-R と SDISS の関連 と比較して有意に強かった(Z = 3.65, p < .01)。 次に,自動思考や回避行動,報酬知覚といった認知 行動的要因が抑うつ症状と生活支障度に及ぼす影響に ついて検討するため,ATQ-R,BADS,EROS を説明 Table 1 各尺度の基本統計量 M SD ATQ-R(自動思考) 将来に対する否定的評価 9.82 13.76 自己に対する非難 12.90 13.26 肯定的思考 16.43 10.43 BADS(行動活性化) 98.77 20.69 活性化 14.25 9.52 回避と反すう 12.36 10.18 学校での機能障害 7.47 5.90 社会場面での機能障害 3.65 6.03 EROS(報酬知覚) 27.04 5.27 IES-R(PTSD 症状) 2.43 5.42 侵入的想起 0.41 1.28 回避症状 0.50 1.78 過覚醒症状 1.52 3.26 CES-D(抑うつ症状) 14.10 10.02 うつ気分 2.87 3.96 身体症状 3.75 3.86 対人関係 0.86 1.32 ポジティブ感情 6.61 3.15 SDISS(生活支障度) 3.63 5.24 学業生活への支障度 1.36 2.13 社会生活への支障度 1.46 2.23 家庭生活への支障度 0.80 1.65 注)ATQ-R = Automatic Thoughts Questionnaire Revised, BADS = The Behavioral Activation for Depression Scale, EROS = Environmental Reward observation Scale, IES-R = Impact of Event Scale-IES-Revised, CES-D = Center for Epidemiologic Studies–Depression scale, SDISS = Sheehan Disability Scale.

Table 2 偏相関分析の結果 SDISS

IES-R .21 ** CES-D .52 **

注 )IES-R = Impact of Event Scale-Revised, CES-D = Center for Epidemiologic Studies–Depression scale, SDISS = Shee-han Disability Scale.

** p < .01 Table 3 重回帰分析の結果 CES-D SDISS β β ATQ-R(自動思考) 将来に対する否定的評価 .38 ** .35 * 自己に対する非難 .06 –.02 肯定的思考 –.28 ** .09 BADS(行動活性化) 活性化 .03 .00 回避と反すう .11 * .02 学校での機能障害 .03 .15 * 社会場面での機能障害 .15 ** .05 EROS(報酬知覚) –.18 ** –.27 ** R2 .84 ** .45 **

注)ATQ-R = Automatic Thoughts Questionnaire Revised, BADS = The Behavioral Activation for Depression Scale, EROS = Environmental Reward observation Scale, IES-R = Impact of Event Scale-IES-Revised, CES-D = Center for Epidemiologic Studies–Depression scale, SDISS = Sheehan Disability Scale.

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変数,CES-D,SDISS を目的変数とした重回帰分析を それぞれ行った(Table 3)。なお,それぞれの分析に おいて,多重共線性について検討を行ったが,共線性 は確認されなかった。その結果,CES-D に対して, 認知的要因では ATQ-R の「将来に対する否定的評価」 に有意な正の影響(β = .38, p < .01),「肯定的思考」に 有意な負の影響がみられた(β = –.28, p < .01)。行動的 要因では,BADS の「回避と反すう」,「社会場面での 機 能 障 害 」 に 有 意 な 正 の 影 響( そ れ ぞ れ β = .11, p < .05;β = .15,p < .01),EROS に有意な負の影響が みられた(β = –.18, p < .01)。一方,SDISS に対して, 認知的要因では ATQ-R の「将来に対する否定的評価」 に正の影響がみられた(β = .35, p < .05)。さらに,行 動的要因では BADS の「学校での機能障害」に有意 な正の影響(β = .15, p < .05),EROS に有意な負の影 響がみられた(β = –.27, p < .01)。 4.考  察 本研究の目的は,東日本大震災被災生徒の PTSD 症 状と比較しながら,抑うつ症状やそれに起因する生活 支障度の問題について実態や関連性について検討し, 自動思考や回避行動,報酬知覚といった認知行動的要 因が抑うつ症状と生活支障度に対して,どのような影 響を及ぼすのかについて明らかにすることであった。 まず,PTSD と抑うつ症状に関する状態について, PTSD 症状では,IES-R のカットオフを超えている者 は全体の 1.9% であった。東日本大震災から 1 年 4 ヶ 月後の高校生に対する実態調査17)では,PTSD 症状 のカットオフポイントを超えていた者は 19.3% であっ たことが報告されており,先行研究と比較すれば,低 い割合であった。対象者が同一ではないため,単純に 先行研究と比較して述べることはできないが,震災か ら 4 年が経過した現時点の被災地域の高校生において は PTSD の臨床的リスクを抱える者が少なからず存在 するものの,PTSD 症状は時間経過とともに緩和され ていることが推察される。 一方,抑うつ症状に関しては,CES-D のカットオ フポイントを超えている者は全体の 35.1% であった。 これまで本邦で実施された一般高校生を対象とした抑 うつ傾向に関する調査では,抑うつのカットオフポイ ントを超えた者は 19.4% であったことが報告されて いる37)。また,東日本大震災から 1 年 4 ヶ月後に実 施した調査17)では,被災地域の高校生の抑うつ傾向 者は 27% であったことが報告されている。これらに ついても単純比較はできないものの,先行研究と照ら し合わせると,震災から 4 年が経過した現在において も,抑うつに関して臨床的リスクを抱える者の割合は 比較的多いものであることが示唆された。これは PTSD 症状が時間経過と共に緩和するという,PTSD の知見とは異なる結果であり,実際に,本研究におい ても,PTSD と抑うつ症状のリスクを抱える人数に差 異があるかどうか検討を行った結果,PTSD よりも抑 うつ症状が重症化した者がより多いことが示された。 塩山他(2000)8)は,PTSD に関連する情動である不 安や恐れよりも,抑うつ気分はやや遅れて顕在化し, 震災被害よりも 2 次的な要因に左右され,遷延化する と指摘しており,本研究はその指摘を反映した結果で あるといえる。抑うつ症状がやや遅れて顕在化・残存 することについて,被災者は家族・友人の喪失や住居 の喪失による仮設住宅への転居など,大きく変化した 生活環境への適応を求められ,日常生活上のストレス も重なることから,抑うつ症状は遅れて顕在化・残存 すると考えられる。 さらに,PTSD と抑うつ症状が,生活支障度に対し てどの程度関連があるのか検討を行った結果,いずれ の症状も生活支障度と正の関連がみられたものの,抑 うつ症状と生活支障度の関連の方が,PTSD 症状と生 活支障度の関連よりも強い正の相関がみられた。つま り,被災生徒の抑うつ症状を改善することで生活支障 度の改善につながる可能性が示唆された。実際に,抑 うつを予防することで生活の質(QOL)を高めること が可能であることが指摘されている38)。以上の結果 をまとめると,震災後の抑うつ症状は長期間,慢性化 および遷延化する可能性があり,抑うつに焦点を当て た介入が生活改善に繋がる可能性が高いことから,災 害後の中・長期的視点に立った心理的支援においては, PTSD のみならず,抑うつへの介入が重要かつ被災者 の生活改善のためには効果的であると考えられる。 次に,抑うつ症状や生活支障度に影響を及ぼしてい る認知行動的要因について検討するため,重回帰分析 による検討を行った。その結果,認知的要因について は,自動思考の下位因子である「将来に対する否定的 認知」は抑うつ症状に対して正の影響がみられ,「肯 定的思考」は負の影響がみられた。一般的に高校生は 進学や就職などの選択を迫られる時期であり,一般高 校生のメンタルヘルス調査においても,進路について の不安がストレスになることが報告されていることか ら39),「将来に対する否定的な認知」が抑うつ症状に 影響したと考えられる。また,本研究の対象者は被災 体験者であることを考慮すると,震災というトラウマ 体験による影響が考えられる。つまり,震災などのト ラウマを経験すると,未来に向けられた恐怖や危機へ の懸念(例:いったい,これからどうなるのだろう) という不安喚起的認知を生じさせることが示されてい る40)。そのため,今回の対象者は,不安喚起的認知

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を少なからず有している可能性があり,それが将来へ の期待を損なわせ,結果的に抑うつ症状に悪影響を及 ぼしていると考えられる。さらに,被災した高校生は, 一般高校生に比べて学業の遅れや就職先の被災など, 震災による影響が大きいことが指摘されていることか ら17),一般の高校生に比べて将来に対するネガティ ブな認知を持ちやすくなると同時に,肯定的な認知を 持ちにくくなることが推察される。抑うつ症状は否定 的思考だけでなく,肯定的思考からも影響を受けるこ とや25),肯定的思考が抑うつ症状の低減に効果的で あることが報告されていることからも41),本研究に おいて「肯定的思考」の減少が抑うつ症状に悪影響を 及ぼすという結果は妥当なものと考えられる。以上の ことから,否定的認知と肯定的認知の両側面にアプ ローチすることや,認知との付き合い方そのものに焦 点を当てた介入が効果的である可能性が考えられる。 さらに,行動的要因としては,行動活性化の下位因 子である「回避と反すう」,「社会場面での機能障害」 は抑うつ症状に対して正の影響がみられ,報酬知覚の 随伴性と負の影響がみられた。これらの要因はいずれ も先行研究によって抑うつ症状の維持要因であること が示されており42),本研究においてもこれらを支持 する結果となった。震災後は,以前であればやりがい を持っていた取り組みや楽しめていた活動を抑制せざ るを得ない状況となったり,自ら行動を抑制すること も少なくない。行動抑制は環境中の報酬知覚の減退や 行動に随伴する正の強化子が減少させ,抑うつ症状が 悪化することから43),「報酬知覚の随伴性」が抑うつ 症状に対して負の影響,「社会的機能障害」が正の影 響を及ぼすという結果になったと考えられる。これま での震災支援において,急性期における PTSD に対す る介入では,エクスポージャー法に代表されるように, 恐怖や不安といったネガティブ感情を低減するアプ ローチが主流になっている。しかしながら,被災後の 中・長期的支援という点における抑うつに対する介入 では,「将来に対する否定的認知」といったネガティ ブ思考を低減するためのアプローチに加え,行動を賦 活し,それに伴う正の強化子の随伴性を高め,ポジティ ブ感情を促進するアプローチが有効であることが考え られる。 生活支障度に影響を及ぼす認知行動的要因について は,自動思考の下位因子である「将来に対する否定的 認知」,行動活性化の下位因子である「学校での機能 障害」と正の影響,報酬知覚の随伴性と負の影響が示 された。被災者の中には震災によって住んでいた地域 が津波や地震の被害に遭い,家財や家屋の喪失,生活 の混乱,再定住などの状況に直面することもある。つ まり,生活上の基本的ニーズが奪われることも多く, 日常生活に支障が生じる可能性が高い。このような経 済的,物理的な生活上の問題は,客観的にみても,高 校生にとっては解決が困難な問題であることも多いと 考えられる。したがって,問題解決のために行動した としても正の強化が得られないことで随伴性の知覚の 減退が生じ,そのような経験の積み重ねとして,将来 に対するネガティブな認知が生じるやすくなる。その ことが,高校生の日常場面である学校で求められる現 在の取り組みや行動の抑制に繋がり,結果的に,学校 での機能障害が生活全般の不全感を生じさせるという 悪循環を形成すると考えられる。 以上をまとめると,本研究では,特に,被災後の中・ 長期的観点からは,抑うつ症状に焦点を当てることが 重要であり,特に,「将来に対する否定的認知」,「回 避や反すう」といった認知的側面に焦点を当てた認知 的再体制化や脱フュージョンや,「報酬知覚の随伴性」 を促進する行動活性化法が抑うつ症状の改善には有効 であり,結果的に生活支障度の改善に繋がることが示 された。したがって,今後は抑うつ症状と生活支障度 の関連についてや,抑うつ症状と生活支障度に及ぼす 認知行動的要因の影響といった本研究で得られた知見 の一般可能性を検討するのと同時に,今回得られた知 見に基づいた介入プログラムを開発し,教育臨床など の領域に応用していくことが求められる。特に,子ど もの精神保健医療サービスは学校などの専門医療機関 以外で実施されることも多く,病院やクリニックを拠 点として行う介入よりも,学校を拠点とした介入のほ うが,治療継続に繋がることが報告されている16) また,診断基準を満たしていない準臨床的な抑うつ症 状を有する者を適切にスクリーニングし,予防的に介 入することも重要であるため,学校を拠点とした介入 プログラムを構成し実施する試みは価値があるものと 考えられ,今後の進展が望まれる。 最後に,本研究の限界を述べる。東日本大震災の被 災地域は広範囲にわたっており,被災の程度も地域で 異なっていることが考えられる。しかし,本研究では 対象校が 1 校のみであり,サンプルバイアスが生じて いることは否定できない。そのため,今後は対照地域 や複数の地域も含めて調査を実施することで,より厳 密に被災生徒の状態像を把握し,知見の一般化可能性 を慎重に検討していく必要がある。次に,被災状況・ 被害状況との関連についての検討である。震災による 被災・被害状況によって抑うつ症状や生活支障度への 影響も異なると考えられるが,倫理的配慮によって被 災状況や被害状況については尋ねておらず,このこと は検討できていない。そのため,今後は,個人の状態 像と被災・被害状況の関連についても詳細な検討が必 要であると考えられる。次に,抑うつ症状と生活支障

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度の因果関係について詳細な検討が必要である。つ まり,本研究では抑うつ症状が生活支障度に影響を 及ぼすという想定のもとで検討を行ったが,松永他 (2012)44)で指摘されているように,生活支障度が抑 うつ症状に影響している可能性も考えられる。そのた め,今後は縦断的研究を行い,因果関係についても検 討が必要である。 謝 辞 本研究は,JSPS 科研費 JP16K13492 の助成を受けたもので ある。 文 献 1) 警察庁緊急災害警備本部,東北地方太平洋沖地震の被害 状況と警察措置.広報資料 2016. 2) 福士 審・庄司知隆・遠藤由香・他,大災害のストレス と心身医学―仙台・宮城からの速報―.心身医学 52, 388-395, 2012.

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Table 2 偏相関分析の結果 SDISS

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