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複合劣化を受ける RC 構造物のライフサイクルの評価 塩害が促進されると考えられる 中性化が塩害を促進する機構として 中性化による塩化物イオン濃度分布の変化 すなわち 中性化したコンクリート中において セメント水和物による塩化物イオンの固定化能が低下することによって生じる中性化領域以深における塩化物

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(1)

複合劣化を受けるRC構造物のライフサイクルの評価

−LCC算出によるコンクリート構造物の維持管理計画の試算−

武田 均

*1

・小山 哲

*2

・丸屋 剛

*1

Keywords : RC structure, combined deterioration, chloride attack, carbonation, alkali silica reaction, LCC RC構造物,複合劣化,塩害,中性化,アルカリ骨材反応,ライフサイクルコスト

1. はじめに

高度経済成長と共に建設されてきた、公共あるいは民 間の多くの土木構造物は、建設後30年あまりを経過して 何らかの対策を要する構造物が増加しつつある。対策に あたっては、構造物の劣化状況をできるだけ正確に把握 して劣化機構を明らかにし、個々の劣化機構に応じて適 切な対策方法を選定することが重要である。また、限ら れた予算によっていくつかの構造物を維持管理するため には、いつ、どの構造物のどの部位に、どのような対策 を実施すべきかといった課題に対して、費用対効果によ って対策の意思決定が行なわれるのが理想的である。こ のような観点から、構造物の供用期間中における劣化の 進展を予測することによって、維持管理におけるライフ サイクルコスト(LCC)を算定し、LCCをできるだけ小 さくできるように、維持管理計画を策定するといった考 え方が一般的になりつつある1) 構造物のLCCに関する研究は、便益評価やリスク評価 など、評価手法に特徴がある研究が多い。しかし、これ らの研究においては、劣化の進展を劣化機構に基づいて 設定したものは少ない。構造物の劣化機構が、ある程度 明らかになってきた現状において、その劣化機構に基づ いた劣化予測手法をLCC評価に適用することは、LCC評 価の精度向上のために非常に有意義である。本論文は、 塩害、中性化およびASRなどの劣化機構の複合を供用環 境に応じて考慮して構造物の劣化曲線を算出することに よって、構造物のLCC評価を試みたものである。なお、 本論文では、LCCは耐用期間内における維持管理に要す る補修費の累積値とした。したがって、構造物のライフ サイクルのうち、構造物の構築、取り壊し、更新などの 費用は含まないものとした。

2. RC 構造物の劣化曲線の検討

鉄筋コンクリート(RC)の劣化現象の中で、コンクリー ト中に配置された鉄筋が腐食し断面欠損する現象は構造 物においてしばしば観察され、維持管理において考慮さ れる主要な劣化現象となっている。本論文では、鉄筋腐 食を指標としていくつかの劣化機構が複合して作用する 場合の構造物の劣化曲線を検討した。劣化曲線を求める ために適用した手法は、塩化物イオンや中性化の進行を 拡散現象として解析的に求め、次に、これらの劣化要因 を入力とするニューラルネットワークによって鉄筋の腐 食グレードを状態確率として求め、最終的に鉄筋腐食に よって構造物に生じる浮き、はく離などの変状確率を求 めるものである。 2.1 鉄筋腐食の機構 コンクリート中にある鉄筋は、セメントに由来する高 いpHのため表面が不動態化しており、その電位に拘わ らず鉄の溶解反応速度は極めて小さい状態にある(腐食 電流密度が非常に小さい領域)。しかし、長期の供用に おいて、空気中の二酸化炭素の影響によってコンクリー トが表面から徐々に炭酸化されて鉄筋周囲のpHが低下 する場合がある。中性に近いpH下で、鉄は活性溶解し、 このとき、鉄筋の腐食が進行する。一方、コンクリート 中の塩化物イオンの濃度が高い場合には、高いpHの条 件下であっても、鉄の溶解反応が進行する場合がある。 何れの場合にも、鉄の溶解反応は水の存在下で進行する。 したがって、鉄筋周囲の塩化物イオン濃度、pH、酸素 濃度および水の存在などが主要な鉄筋腐食の要因と考え られる。 2.2 複合劣化の機構 本論文では、複合劣化機構として、塩害と中性化、塩 害とASR、塩害、中性化とASRの複合について検討した。 それぞれの劣化機構の複合によって図-1に示したように *1 技術センター土木技術研究所土木構工法研究室 *2 (株)篠塚研究所

(2)

塩害の促進 中性化 ASR 塩化物イオンのセメント水 和物による固定化能の低下 ひび割れによる塩化物イ オンの拡散の促進 鉄筋位置塩化物イオン濃度の上昇 図-1 中性化および ASR の複合による塩害の促進

Promotion of Chloride Attack by Combined Deterioration Mechanism 塩害が促進されると考えられる2)。中性化が塩害を促 進する機構として、中性化による塩化物イオン濃度分布 の変化、すなわち、中性化したコンクリート中において、 セメント水和物による塩化物イオンの固定化能が低下す ることによって生じる中性化領域以深における塩化物イ オンの濃縮を考慮した。また、ASRが塩害を促進する機 構として、ASRによるひび割れに着目して、ひび割れを 考慮した塩化物イオンの拡散係数を適用することによっ て、ASRによるひび割れの存在下で鉄筋位置の塩化物イ オン濃度が高くなる現象を考慮した。以上の各劣化機構 の影響を考慮して、図-2に示したように逐次の塩化物イ オン濃度分布を求めた。 2.3 劣化機構の複合を考慮した劣化進展モデル 2.3.1 中性化と塩害の複合劣化 (1)コンクリート中のpH 分布の中性化速度による評価 塩化物イオンのコンクリートによる固定化能はコンク リートのpHの低下に伴って低下すると報告されている 2),3)。これを、中性化と塩害の複合劣化に適用するた めに、コンクリート中のpH分布を求める必要がある。 コンクリートの中性化の進行を、空気中の炭酸ガスと セメント水和物との反応をモデル化して解析的に求める 研究もある。しかし、現存する構造物を対象にこのよう な解析を行なうためには、材料や環境に関して多くのパ ラメータを仮定する必要があり、手法は精緻であっても、 現実に合っているかは検証できない場合がある。したが って、ここでは一般に構造物の中性化の進行予測に適用 される t則を拡散則で整理することによって、構造物 の調査で得られる中性化速度係数に基づいて、コンクリ ート内部のpH分布を評価する手法を適用した4) コンクリートの中性化深さは、1%フェノールフタレ インアルコール溶液をコンクリート表面に噴霧したとき の呈色の有無によって判定される。したがって、コンク リートのpHがあるしきい値pHよりも小さくなる表面か らの深さを意味する。一般に、コンクリートの中性化の 進行は t 則で表されるので、コンクリートのpH分布の 中性化による変化は、拡散則で表現できる。拡散方程式 コンクリートの 含水率分布 コンクリートのpH分布 中性化深さ 疑似吸着による自由塩化 物イオンのフラックス 中性化部および未中性化 における塩化物イオンの 固定化率 中性化、ASRの影響を考慮 した塩化物イオン濃度分布 自由塩化物イオンの濃度勾 配によるフラックス 自由塩化物イオン濃度分布 ASR進行度の経時変化の仮定 調査データによるASR進行度と ひび割れ指標との関係 (ひび割れ幅、ひび割れ密度) ひび割れ幅、ひび割れ密度の 影響を考慮した自由塩化物イ オンの拡散係数   はニューラルネットワークへの入力となる 乾湿繰返し条件 中性化の影響 塩化物イオンの移動計算 ASRの影響 図-2 劣化機構の複合を考慮した塩化物イオン濃度分布の計算

(3)

0 5 10 15 20 25 30 0 1 2 3 自由塩化物イオン濃度Cfree,mol/l 未中性化部 中性化部

(

)

(

)

(

) (

0035 035 0 . ln exp . , ≥ + ⋅ = < + = free free fixed free free free L m fixed C b C a C C A C C v C 固定塩化物イオン量 Cfi xed ,mg/g 4 6 8 10 12 14 0 2 4 6 8 表面からの深さx ,cm の解を適用してpHに関わる[H+ ]濃度分布を表せば式(1)の ように表される。ここで、コンクリートが中性化してい るか否かのしきい値となる[H+]濃度またはpHとコンクリ ート表面における[H+]濃度またはpHをそれぞれ仮定すれ ば、[H+]の拡散係数DH+t 則における比例定数である 中性化速度係数αcの関係は式(2)となる。つまり、調査な どによって中性化速度係数が得られれば、任意の時刻の pH分布が得られる。図-3に示したように、中性化判定の しきい値pH(= -log(CH+, bound))となる表面からの深さが 各時刻の中性化深さに対応する。

( )

⎪⎭ ⎪ ⎬ ⎫ ⎪⎩ ⎪ ⎨ ⎧ ⎟⎟ ⎟ ⎠ ⎞ ⎜⎜ ⎜ ⎝ ⎛ ⋅ − = + + + t D x erf C t x C H H H 2 1 0 , , (1)

(

)

2 0 1 1 2 ⎪⎭ ⎪ ⎬ ⎫ ⎪⎩ ⎪ ⎨ ⎧ − = + + + , ,bound H H c H C C erf D α (2) ここに、CH+(x,t):深さx(cm)、時刻t(d)における[H+]濃 度(mol/l)、CH+, 0:表面の[H+]濃度(mol/l)(一定値)、DH+[H+]の拡散係数(cm2/d)、αc:中性化速度係数(cm d )、 CH+, bound:中性化の判定に用いる[H+]のしきい値濃度 (mol/l)(一定値)、pH=-log[H+]、erf():誤差関数、erf-1(): 誤差関数の逆関数である。 (2)中性化による塩化物イオンの濃縮 セメント水和物による塩化物イオンの固定化能を表す、 自由塩化物イオンと固定塩化物イオンの関係は、構造物 の調査結果から得られた図-4に示した関係を用いた。こ こで、自由塩化物イオンはコンクリート液相中を移動可 能な塩化物イオンを、固定塩化物イオンはコンクリート 中において、セメント水和物などに固定されて、細孔中 を容易に移動しない塩化物イオンをそれぞれ意味する。 自由塩化物イオンと固定塩化物イオンの和を全塩化物イ オンと呼ぶ。図の関係は、構造物の調査で得られた自由 塩化物イオン濃度と固定塩化物イオン量との関係を用い て、コンクリート中において液相の塩化物イオン濃度と 固相に固定または細孔壁に吸着されている塩化物イオン 量との関係を吸着現象として整理して得られたものであ る。関係式および中性化部と未中性化部に対する各係数 を図中にそれぞれ示した。図に示したように、水和物に 固定される塩化物イオン量(Cfixed)は自由塩化物イオン濃 度(Cfree)の関数で与えられる。両者の関係は、中性化部 と未中性化部で変化し、中性化部では自由塩化物イオン 量が相対的に増加する結果となる。 中性化による塩化物イオンの濃縮量を推定する場合に、 図-4から得られる塩化物イオンの固定化率の変化のみを 考慮する場合には、塩化物イオンの固定化率の分布を仮 定することによって中性化による塩化物イオンの濃縮が 表現される。すなわち、固定塩化物が液相中に解離され ることによって、液相中の自由塩化物イオン濃度が上昇 し、自由塩化物イオンの濃度勾配を駆動力とする拡散が 促進される。引続き、未中性化域では液相中の塩化物イ オン濃度に比例して塩化物イオンの固定量が増加するた め、見掛け上全塩化物イオンは中性化のフロントで濃縮 されることになる。しかし、構造物の塩化物イオン濃度 分布を調査した場合に、コンクリート中の塩化物イオン

)

未中性化部と中性化部の各係数 係数 未中性化部 中性化部 A 0.000953 0.000953 vm,L 1.57 0.839 a 0.627 0.627 b 2.53 1.90 図-4 自由塩化物イオン濃度と固定塩化物イオン濃度の関係 Relationship between Free Chloride Ion Concentration and Amount of Total Chloride Ion

5年 10年 20年27年

図-3 コンクリート内部のpHの分布と中性化深さ Relationship between Distribution of pH Value i Concrete and Carbonation Depth

コンクリー ト の pH ( = -log [H + ]) n pHbound= -log(CH+, bound)

pH(x,t)= -log(CH+(x,t))

pH0 = -log(CH+, 0)

(4)

濃度が環境の塩化物イオン濃度と比較してかなり高くな る場合がある。既往の研究において、コンクリート表層 における塩化物イオンの濃縮に対して、陰イオンである 塩化物イオンが細孔表面の正の電荷に引き寄せられて外 部からコンクリート内部に浸透する機構が提案されてい る5)。本論文においても、セメント水和物への塩化物 イオンの吸着を駆動力とする塩化物イオンの移動を考慮 することにした。吸着を駆動力とする塩化物イオンのフ ラックスは式(3)により算定した4) 0 2 4 6 8 10 12 14 0 5 10 15 表面からの深さ,cm マーク:調査値,27年時 線:計算値 中性化深さ24mm/27年 図-5 中性化による濃縮を考慮した塩化物イオン濃度分布 Example of Calculation of Chloride Profile Affected b

(

)

{

( )

( )

(

)

}

dx t x C t x C t x C t x C A F OH OH OH free ads cl , , , , , − − − − − ⋅ − ⋅ = 1 1 (3) ここに、COH-(x,t):pHから計算される時刻t(d)、深さ x(cm)における[OH -]濃度(mol/l)、Cfree(x-1,t) :時刻t、深x-1における自由塩化物イオン濃度(mol/l)、A:[OH -]濃 度勾配の疑似吸着への影響度を表す係数、dx:差分要素 の分割厚さ(cm) 式(3)は、液相のpHの勾配が大きいほど、また、液相 中のpHが小さいほど疑似吸着の影響が大きくなること を仮定したものである。中性化部と未中性化部では細孔 表面のチャージが変化し、疑似吸着の影響がより大きく なる可能性があると考えられる。 塩化物イオンのフラックスの全量は、式(4)に示した ように、自由塩化物イオンの濃度勾配によるフラックス と上述の吸着によるフラックスの和とした。塩化物イオ ン濃度分布の経時変化の計算においては、式(4)のフラ ックスを用いて、差分法により逐次の濃度分布を求めた。 (4) ads cl conc cl cl F F F = , + , こ こ に 、 : 自 由 塩 化 物 イ オ ン の フ ラ ッ ク ス (mol/d/cm cl F 2 )、 :自由塩化物イオンの濃度勾配によ るフラックス(mol/d/cm conc cl F , 2 )、 :自由塩化物イオンの 疑似吸着によるフラックス(mol/d/cm ads cl F , 2 ) 図-5はトンネルの漏水痕部で観察された塩化物イオン 濃度分布と本手法による計算結果を示したものである。 この構造物は、竣工後27年を経過し、漏水の影響を受け る部分では高濃度の塩化物イオンが含有されていた6) 図に示した調査地点での中性化深さは24mmであった。 本手法による計算値は、疑似吸着項に関する係数Aを調 整することで調査結果と良く一致した4) 2.3.2 塩害と ASR の複合劣化 コンクリートの劣化機構としてアルカリシリカ反応 (ASR)に着目すれば、ASRによる主要な劣化現象は膨 張性のひび割れである。したがって、ASRは鉄筋腐食の 直接的な原因とはならない。しかし、塩害とASRが複合 する場合には、ASRによって生じたひび割れが、塩化物 イオンの鉄筋への到達を容易にし、鉄筋の腐食を促進す ることは考えられる2),7),8),9) (1)塩化物イオンの移動に及ぼすひび割れ密度の影響 本論文では、塩化物イオンの移動に及ぼすASRのひび 割れの影響を考慮するために、示方書に示されている式 (5)で表される拡散係数の算定式10)を参考にして、ひび 割れの影響を考慮した自由塩化物イオンの拡散係数を求 めた。 0 2

D

w

w

l

w

D

D

a k c d

⎟⎟

⎜⎜

+

=

γ

(5) ここに、Dd:塩化物イオンに対する設計拡散係数 (cm2 /年)、γc:材料係数、Dk:塩化物イオンに対する 拡散係数の特性値(cm2 /年)、D0:塩化物イオンの移動 に及ぼすひび割れの影響を表す定数(cm2 /年)、wa:許 容ひび割れ幅(mm)、w:ひび割れ幅(mm)、l:ひび割れ 間隔(mm)、w/l:ひび割れ密度 式(5)は、ひび割れを含むコンクリートの平均的な拡 散係数を与えることによってひび割れによる塩化物イオ ンの移動を考慮するものである。ASRの進行と共にひび 割れ幅が増大すれば、コンクリート中への塩化物イオン の侵入が促進され、鉄筋の腐食が促進されることになる。 式(5)の実構造物への適用性は十分に明らかでないが、 ASRのひび割れが鉄筋腐食に及ぼす影響を考慮する方法 としては有効であると考えた9) y Carbonation 全 塩 化物イ オ ン濃度, kg/m 3

(5)

0.0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0 0 10 20 30 40 50 60 供用期間,年 ASR 進行度, α 2

[

{

(

)

}

1

]

1 + ⋅ =αmax tanhkt th α αmax=0.5 th=30年 0.5αmax k =0.15 0.000 0.002 0.004 0.006 0.008 0 10 20 30 40 50 60 供用期間,年 ひび割れ密度 d 0.0 1.0 2.0 3.0 ひび割れ幅 w ,mm ひび割れ間隔 l ,m d w l 図-6 ASR 進行度の経時変化 図-7 ASR ひび割れに関する各指標の経時変化

Variation of ASR Reaction Factor along Service Time Variation of Indexes of ASR Crack along Service Time

(2)ASR の進行度とひび割れ密度の関係 式(5)をASRのひび割れが生じた構造物に適用する場 合に、ASRの進行によるひび割れ密度およびひび割れ幅 の変化を考慮する必要がある。ここでは、既往の研究を 参考にして、式(6)によってASRの進行度とひび割れ密 度の関係およびASRの進行度とひび割れ幅の関係を仮定 した9) (6) 2 1 k k w w d d α α ⋅ = ⋅ = max max ここに、d:ひび割れ密度(=w/l)、dmax:最大ひび割 れ密度(=wmax/lmin)、w:ひび割れ幅(mm)、wmax:最大ひび 割れ幅(mm)、α:ASR進行度、k1、k2:各部材ごとに決 まる係数 式(6)において、ASR進行度(α)とは、構造物における ASRの進行度をその残存膨張性を指標として定義したも のであり、全くASRが進行していないときに0、ASRが 完全に進行してしまった状態で1となる。例えば、同一 材料で施工された構造物において、雨掛りなどの環境条 件によって、降雨の影響を受ける部位ではASRのひび割 れが発生しているが、降雨の影響を受けない部位は全く 健全であるといった場合がある。このような環境条件に ある構造物から、コンクリートコアを採取して残存膨張 性を調査した結果、健全部では残存膨張量(ε' 2)が大きく、 劣化部では残存膨張量(ε' 1)が小さい結果が得られている 9)。このとき、健全部では全くASRが進行していないと 仮定すれば、劣化部におけるASR進行度は、式(7)に示し たように、健全部の残存膨張量に対する、健全部と劣化 部の残存膨張量の差の比によって評価される。 2 1 2 1 2 1 ε ε ε ε ε α ′ ′ − = ′ ′ − ′ = (7) ここに、ε' 2:健全部の残存膨張量(長さ変化率%)、 ε' 1:劣化部の残存膨張量(長さ変化率%)、α:ASR進行 度 例えば、実構造物の調査結果から、式(8)のような関 係が得られている9) d=0.012α2.0 l=0.350α-1.1 (8) w=1000dl=4.2α0.9 式(8)を用いて、構造物における各種ひび割れ指標の 経時変化を求めるためには、ASR進行度αの時間変化を 求める必要がある。ASR進行度の時間変化は各種構造物 の置かれる環境条件や供用条件によって決定されると考 えられるため、一律に決めることは難しい。また、同一 部位に対して供用年数の異なる複数回の調査を行なって ASR進行度の時間変化を求める必要があり、現状ではそ のようなデータは得られていない。したがって、ここで は、式(9)のようにASR進行度の経時変化を仮定した。

(

)

{

}

[

1 2 1 + − ⋅ =αmax tanhk t th α

]

(9)

ここに、α:ASR進行度、αmax:ASR進行度の最大値

であり構造物の環境によって0-1の間の値をとる、t:供 用期間(年)、th:ASR進行度が最大値の50%となる時間 (年)、k:進行速度を表す係数

例えば、式(9)で表される曲線は適当な係数を用いれ ば、図-6のように表され、これにより、式(8)で計算され

(6)

るASRによるひび割れ指標の経時変化は図-7のように決 定される。このようにして求めた、ひび割れ密度および ひび割れ幅を用いて、各時刻における塩化物イオンの拡 散係数を算定して、塩化物イオン濃度分布を求めること で、ASRによるひび割れが塩害を促進する機構を考慮で きる。 階層型ニューラルネットワーク かぶり 鉄筋位置塩化物イオン濃度 中性化深さ 気象データ 鉄筋の腐食グレード 推定誤差に基づく各腐食グレー ドの確率分布 腐食グレードと外観変状との相 関表による外観変状確率 各種劣化機構の複合を考慮した 劣化要因の推定値 図-8 腐食グレード確率と外観変状確率の算出フロー Flow Chart of Calcuration for Corrosion Probability and Probability of Visible Deterioration

2.4 補修の効果 本論文では補修方法として、一般的に用いられている 表面被覆工法、断面修復工法を対象とした。その他、電 気防食工法も最近では適用される場合があるが、電気防 食工法が十分に機能すれば、それ以降の劣化の進行は考 慮しなくて良いことになるため、本論文の範囲からは除 外した。 表面被覆工法は、構造物の表面に塗膜層を作り、これ により表面からの塩化物イオン、水等の物質の侵入を抑 制するものである。塗膜層の寿命については十分に明ら かでないが、ここでは表面被覆材料の劣化モデルとして 塗膜の物質透過性の低減率を累積正規分布関数によって 与える式(10)で表されるモデルを適用した。

( )

( ) ∞ − − − = t t dt e t F 2 2 2 2 1 σμ π σ (10) ここに、F(t):時刻tにおける塗膜の物質透過性の低減 率、t:塗膜施工後の経過時間(年)、μ:塗膜の平均寿命( 年)、σ:塗膜の寿命の標準偏差(年) 物質透過性の低減率は、表面被覆材を通る塩化物イオ ンの浸透フラックスの低減率および中性化速度の低減率 とすることによって、表面被覆材の劣化状況による鉄筋 腐食の抑制効果の低下を表現する指標として用いた。 次に断面修復工法については、対策実施時に断面修復 を施した範囲では塩化物イオン濃度がゼロになること、 断面修復材料の材質に応じて塩化物イオンの拡散係数や 中性化速度を再設定すること、腐食した鉄筋は取り替え ることを仮定して、腐食グレードが初期値に戻ることな どを仮定した。断面修復後には、構造物の環境条件に応 じて再び中性化が進行したり、塩化物イオンが浸入する ことによって再劣化が生じる場合がある。 2.5 劣化曲線 前節までの検討によって、各種の劣化機構の複合によ る塩化物イオン濃度分布の変化が推定できる。また、補 修効果を考慮して塩化物イオン濃度分布や中性化の進行 を推定することができる。本節では、上述のモデルを適 用して、劣化機構が複合する場合の劣化曲線を試算した。 構造物の劣化指標としては、最終的には、構造物に生じ る浮きおよび剥離の面積率に相当する外観の変状確率を 用いた。 2.5.1 ニューラルネットワークを利用した腐食グレー ド確率および外観変状確率の評価 ニューラルネットワークを利用した鉄筋腐食評価の概 要を図-8に示す。本手法の核となるモデルは、既往の調 査データを用いて構築した、腐食要因と鉄筋の腐食グレ ードとを関連付けるニューラルネットワークであり、こ れにより、任意の入力に対して鉄筋の腐食グレードを推 定することができる11) 次に、調査データ全体に対する推定値の確率分布に対 して対数正規分布を仮定することにより、式(11)を用い てニューラルネットワークによる腐食グレードの推定値 を各腐食グレードの確率に変換した12) ) ln ln ( ) ( ) ln ln ( ) ln ln ( ) ( ) ln ln ( ) ln ln ( ) ( ) ln ln ( ) ( ζ μ α ζ μ α ζ μ α ζ μ α ζ μ α ζ μ α -1 -3 4 2 3 3 1 2 2 1 1 Φ = Φ Φ = Φ Φ = Φ = E P E P E P E P (11)

(7)

ここに、P(E1)、P(E2)、P(E3)、P(E4):各腐食グレード の確率[P(E1)+P(E2)+P(E3)+P(E4)=1]、Φ( ):標準正規確率 分布関数、α , 1 α , 2 α :腐食グレードのしきい値であ3 り、調査値と推定値との誤差の確率分布に対数正規分布 を仮定して、隣り合う腐食グレードの確率分布のしきい 値となる腐食グレードの推定値を求めた、μ :中央値で あり、ここではニューラルネットワークによる腐食グレ ードの推定値、ζ :腐食グレードの推定値分布を対数正 規分布と仮定したときの対数標準偏差であり、調査値と 予測値の関係における対数尤度が最大となる条件で決定 した対数標準偏差である13) 本研究で用いたニューラルネットワークモデルによる 腐食グレードの推定値のしきい値および推定値分布に対 する対数標準偏差は、それぞれ、α =1.8、1 α =2.4、2 3 α =2.9、ζ =0.2であった12) 構造物において鉄筋の腐食は、浮きやはく離といった 外観調査で把握される外観変状と強い相関がある。この ような観点で調査データを整理して、腐食グレードと外 観変状の相関は表-1のように整理されている14)。ここ で、変状ありとは構造物表面に浮きおよび剥離が観察さ れる状態であり、変状なしとは、健全およびひび割れが ある状態である。本論文では、腐食グレードの確率から 外観変状確率への換算は、表-1の換算式により行なった。 表-1に従えば、概ね腐食グレードIおよびIIは変状なし、 腐食グレードIIIおよびIVは変状ありとなる。 2.5.2 劣化機構の複合が劣化の進展に及ぼす影響 表-2に示した条件で、各種劣化機構における劣化の進 展を試算した結果を図-9に示す。本研究では中性化は乾 燥条件下でのみ進行し、塩化物イオンの浸透は湿潤条件 下でのみ進行することを仮定した。したがって、表に示 したように、塩害単独および塩害とASRの複合の場合に は、乾湿繰返し条件として、常に湿潤環境であることを 仮定し、中性化が複合する場合には、乾燥と湿潤が一定 のサイクルで作用することを仮定した。このように、乾 表-1 鋼材の腐食グレードと外観変状の換算表14)

Conversion Table for Probability of Corrosion Grade of Reinforcement and Probability of Visible Deterioration

外観変状 鉄筋の腐食グ レードと確率 変状なし 変状あり 合計 I P1 P1 0.000 P1 II P2 0.958P2 0.042P2 P2 III P3 0.538P3 0.462P3 P3 IV P4 0.167P4 0.833P4 P4 P1+0.958P2 +0.538P3+0.167P4 0.042P2+0.462P3 +0.833P4 合計 1.000 表-2 劣化曲線の検討条件

Condition for Trial Calcuration of Deterioration Curve 劣化機構 項目 単位 塩害+中性化 塩害+ASR 塩害+中性化+ASR 塩害単独 湿潤 日 365 60 365 60 乾湿サイクル 乾燥 日 0 305 0 305 初期塩化物イオン濃度 kg/m3 0.0 環境の塩化物イオン濃度 mol/cc 0.00451 自由塩分の拡散係数 cm2 /d 0.001 塩化物イオン 濃度分布 疑似吸着 Flux の係数 - 0.0005 最表面のpH - 6.0 コンクリートのpH - 12.4 中性化境界のpH - 9.0 中性化深さ y cm 中性化速度係数 3.65 最大値 - 0.0 0.0 0.5 0.5 50%となる時間 年 30 ASR 進行曲線 曲率 - 0.15 最大ひび割れ密度 mm/mm 0.012 ひび割れ密度曲率 - 2.0 最大ひび割れ幅 mm 4.2 ひび割れ幅曲率 - 0.9 ASR ひび割れ 最小ひび割れ間隔 m 0.350 指標 ひび割れ間隔曲率 - -1.1 寿命の平均値 年 15 表面被覆の仕様 寿命の標準偏差 年 3 修復厚さ cm 10 自由塩分の拡散係数 cm2 /d 0.001 断面修復の仕様 中性化速度係数 cm y 3.65

(8)

a) 劣化曲線(変状確率の経時変化) b)鉄筋位置塩化物イオン濃度の経時変化 c)40 年時の塩化物イオン濃度分布 0.0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0 0 20 40 60 80 100 供用期間,年 変状確率 塩害単独 塩害と中性化の複合 塩害とASRの複合 塩害、中性化とASRの複合 0 5 10 15 20 25 30 35 0 20 40 60 80 100 供用期間,年 かぶり 4cm の鉄筋の Cl - 濃度 塩害単独 塩害と中性化の複合 塩害とASRの複合 塩害、中性化とASRの複合 kg/m3 0 5 10 15 20 25 30 35 0 5 10 15 20 表面からの深さ,cm 全塩化物イオン濃度 塩害単独 塩害と中性化の複合 塩害とASRの複合 塩害、中性化とASRの複合 kg/m3 図-9 各種劣化機構による劣化曲線の試算結果 湿繰返し環境の設定によって、中性化と塩害の複合の有 無を設定した6)。なお、ASRについては、原因となる鉱 物の含有の有無によってASRが発生するか否かが決まる ことから、ASRを考慮する場合にはASR進行度の最大値 を0.5とし、ASRを考慮しない場合には最大値を0とした。 図-9a)は、各種劣化機構における変状確率の経時変化を 示したものである。100年間の変状確率の推移では、塩 害、中性化とASRが複合する場合が最も変状確率が大き く、次に塩害と中性化が複合する場合であった。塩害単 独の場合と比較すれば、100年時の変状確率は劣化機構 の複合を考慮するか否かで大きく異なっている。変状が 現れる時期は、中性化が複合する場合に早く、約20年で 変状が現れる。次に、ASRと塩害が複合する場合に約25 年、塩害単独の場合には約50年頃から変状が現れる結果 となった。図-9b)に示したように、20年頃までは中性化 の複合の有無に拘わらず、鉄筋位置の塩化物イオン濃度 は各劣化機構とも同等であることから、本論文で適用し たニューラルネットワークモデルでは、中性化が影響す る場合に変状が早期に現れると評価される。次に、ASR の進行は、図-6に示したように、10年頃から開始し、50 年頃までに終了する。この間、ひび割れ密度の増加に伴 って、塩化物イオンの拡散係数が増大する。したがって、 図-9b)に示したようにASRが複合する場合には、25年頃 から、急激に鉄筋位置塩化物イオン濃度が増加するため、 25年頃から変状が現れるものと考えられる。本研究で仮 定した各種複合劣化機構における劣化の進展は、図-9c) に示したように塩化物イオン濃度分布の変化で表される。 すなわち、ASRが複合する場合には、ひび割れの影響に よって塩化物イオンの拡散係数が増大することによって、 内部における塩化物イオン濃度がかなり大きくなる。ま た、中性化が複合する場合には、最表面よりも表面から 数センチメートル内部で塩化物イオンが濃縮するため、 塩害単独の場合よりも鉄筋位置の塩化物イオン濃度は初 期から高い値で推移する結果となる。表-2に示したよう に、中性化の複合の有無によって湿潤期間に約5倍の差 があり、中性化が複合する場合には、塩害単独および ASRと塩害が複合する場合と比較して、塩化物イオンの 浸透期間が1/5程度であるにも拘わらず、より多くの塩 化物イオンが内部に浸透していることがわかる。 なお、中性化が複合する場合の変状確率が階段状を示 しているのは、差分要素のpHによって中性化深さの判 定を行なったため、中性化深さの経時変化が階段状に評 価されたことの影響である。差分要素の分割幅が十分に 小さければ、本来は滑らかな曲線を示すものである。 2.5.3 補修対策後の劣化の進展 図-10に、補修対策時期の違いが、その後の劣化の進 行に及ぼす影響についての試算結果を示す。ここでは、 構造物の竣工後20年毎に、表-2に示した断面修復の仕様 (かぶり4cmに対して、修復深さ10cmで既設コンクリー トと全く同じ材料を用いる仕様)で断面修復を行なった 場合について試算した。図-10a)および図-10b)に示した ように塩害単独および塩害と中性化が複合する場合には、 対策時期に拘わらず、対策後の劣化の進展は無対策の場 合とほぼ同様な履歴を示すと考えられる。一方、塩害と ASRが複合する場合には、図-10c)に示したように、対策 時期が遅いほど、その後の劣化の進展が早くなる傾向が ある。これは、ASRにより構造物が劣化した場合に、ひ び割れの影響により、断面修復部以深のコンクリートに おける塩化物イオンの拡散係数がかなり大きくなること、 断面修復時期が遅くなれば、修復範囲以深に残留する塩 Trial Calculation Results of Deterioration Curve with Various Deterioration Mechanisms

(9)

a)塩害が単独で作用する場合 b)塩害と中性化が複合する場合 0.0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0 0 20 40 60 8 断面修復後の経過時間,年 断面修復後の変状確率 0 無対策 20年 40年 60年 80年 断面修復実施年 0.0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0 0 20 40 60 8 断面修復後の経過時間,年 断面修復後の変状確率 0 無対策 20年 40年 60年 80年 断面修復実施年 c)塩害と ASR が複合する場合 d)塩害、中性化と ASR が複合する場合 0.0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0 0 20 40 60 8 断面修復後の経過時間,年 断面修復後の変状確率 0 無対策 20年 40年 60年 80年 断面修復実施年 0.0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0 0 20 40 60 8 断面修復後の経過時間,年 断面修復後の変状確率 0 無対策 20年 40年 60年 80年 断面修復実施年 化物イオン濃度がより高くなることなどによって、修復 後に既設コンクリート部から鉄筋位置に拡散する塩化物 イオンが相対的に増加するためと考えられる。また、断 面修復対策後はASRの進行が停止することを仮定したた め、無対策の場合と比較すれば、何れの時期に対策して も対策後の劣化の進展は遅くなる。さらに、図-10d)に 示したように塩害、中性化とASRが複合する場合にも、 対策時期が遅いほど対策後の劣化の進展がやや早くなる 傾向があるが、図に示したようにその差は僅かであり、 対策時期に拘わらずほぼ同様な履歴とみなせる。以上の 結果は、かぶり4cmに対して非常に大きい断面修復厚さ である10cmを仮定して得られたものである。 2.5.4 断面修復厚が対策後の劣化の進展に及ぼす影響 2.5.3に示したように、断面修復厚さが十分に大きけれ ば、対策後の劣化の進展は、対策時期に関係なくほぼ同 様な劣化の進展を示す場合が多い。しかし、断面修復深 さが十分大きくない場合には、再劣化時期はさらに早期 になると考えられる。図-11は塩害と中性化が複合して 作用する場合に、供用後60年時に断面修復を行なったと きのその後の劣化の進展を示したものである。図のよう に、はつり深さが50mmの場合には対策後10年くらいか ら再劣化による変状が現れる。これに対して100mmの場 合には、対策後20年くらいから再劣化による変状が現れ ると考えられる。両ケースでは、対策後の中性化の進展 は全く同じと見なせるので、鉄筋位置の塩化物イオン濃 度の対策後の履歴がはつり深さによって異なることによ って、再劣化の開始時期に違いが生じたと考えられる。 図-12は対策直前(60年時)から対策後40年(供用100年 時)までの塩化物イオン濃度分布の変化を示したもので ある。はつり深さを100mmとすれば、はつり深さ以深に 残留する塩化物イオン濃度はかなり小さい。一方、はつ り深さが50mmの場合には、図-12b)に示した61年時の濃 度分布のように、はつり深さ以深に多量の塩化物イオン が残留し、この残留した塩化物イオンは対策後の時間経 過に伴って、断面修復部(表面方向)および内部方向の 両方向に拡散する。したがって、はつり深さ100mmの場 合よりも50mmの場合の方が鉄筋位置塩化物イオン濃度 が高い値で推移することになる。これにより、断面修復 厚さが50mmの場合には、より早期に再劣化が生じると 考えられる。 図-10 補修対策後の劣化の進展

(10)

a)はつり深さ 100mm b)はつり深さ 50mm 0 5 10 15 0 5 10 15 表面からの深さ,cm 全塩化物イオン濃度, kg/m 3 60年 61年 65年 70年 80年 90年 100年 かぶり4cm 0 5 10 15 0 5 10 15 表面からの深さ,cm 全塩化物イオン濃度, kg/m 3 60年 61年 65年 70年 80年 90年 100年 かぶり4cm 図-12 塩害と中性化が複合する場合の対策後の塩化物イオン濃度分布 Time Variation of Profile of Chloride Concentration after Repair 0.0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0 0 20 40 60 80 断面修復後の経過時間,年 断面修復後の変状確率 はつり厚さ50mm はつり厚さ100mm 塩害と中性化の複合 60年時断面修復 図-11 断面修復厚さと変状確率の関係 Difference in Deterioration Progress by Section Restoration Thickness

3. LCC の試算

3.1 LCC の算出方法 本研究では、変状確率を変状面積率とみなして、構造 物の見付け面積に変状確率を乗じたものを変状面積とし た。ここで、対策は、変状ありの部分に部分的に適用さ れるものとした15)。したがって、未対策の部分は、当 初の条件のまま劣化が進行することになる。図-13およ び式(12)に示すように、i回目の対策時期における再劣化 を考慮した対策面積率は、無対策のまま推移した場合の i+1回目の変状確率の増分と、i-1回目までに既に対策が 終了している範囲の再劣化によるi+1回目における変状 確率の増分の和とした。LCCは、式(13)に示したように、 再劣化を考慮した変状面積率に補修面積単価と構造物の 見付け面積を乗じることにより算出する。なお、構造物 の管理上、ある程度の変状確率が許容される場合を想定 して、式(12)に示したように、算出された変状確率から 許容される変状確率を差引くこととした。 ここでは、再劣化以降の対策後の劣化については、劣 化曲線の算定は可能だが、LCC算定の簡単のため考慮し なかった。また、i回目に対策したもののi+1回目におけ る再劣化による変状確率は考慮しなかった。 (12)

(

)

[

]

(

)

− = + + − + ⋅ − − = = = 1 1 1 1 2 1 3 2 i j j i j i j i i i P P Q P P Q i Q P Q ,... , lim (13)

(

⋅ = i i n i Q C A LCC *

)

ここに、Qi:対策時期i回目の再劣化を考慮した対策 i i+1 i-1 i-2 j=i-2(i-2回目の対策範囲の再劣化曲線) 2 1 − + i i P 2 − i i P 2 1 − − i i P 無対策範囲の劣化曲線 j=i-1(i-1回目の対策範囲の再劣化曲線) 無対策範囲のi回目 における要対策面積率 i-1回目に対策した範囲の i回目における要対策面積率 i i+1 i-1 i-2 i i+1 i-1 i-2 (変状確率) 1 1 − + i i P 1 − i i P i-2回目に対策した範囲の i回目における要対策面積率 (対策時期,回目) 1 + i P i P 1 − i P i i+1 i-1 i-2 j=i-2(i-2回目の対策範囲の再劣化曲線) 2 1 − + i i P 2 − i i P 2 1 − − i i P 無対策範囲の劣化曲線 j=i-1(i-1回目の対策範囲の再劣化曲線) 無対策範囲のi回目 における要対策面積率 i-1回目に対策した範囲の i回目における要対策面積率 i i+1 i-1 i-2 i i+1 i-1 i-2 (変状確率) 1 1 − + i i P 1 − i i P i-2回目に対策した範囲の i回目における要対策面積率 (対策時期,回目) 1 + i P i P 1 − i P M i i+1 i-1 i-2 変状を許容しない場合の i回目の要対策面積率Qi 対策面積率 許容される面積率Qlim 変状を許容する場合の 要対策面積率Qi 変状を許容しない場合のQiの累計 変状を許容する 場合のQiの累計 図-13 対策面積の算出方法

(11)

面積率、Pi:無対策の場合の対策時期i回目の変状確率、 PP 試算条件 化機構は塩害が単独で作用する場 合 場合の劣化の進展には図-9a)に示し た 変状を許容しない場合 b)5%の変状を許容する場合 c)10%の変状を許容する場合 j i+1j回目に対策した範囲の対策時期i+1回目における 再劣化による変状確率、i:対策番号(回目)、ただし、 最終の対策時iにおけるi+1回目は、構造物の管理期間の 終了時を意味する、j:対策履歴番号(回目)、A:構造 物の見付け面積、Cnii回目の対策に適用される補修工nの補修面積単価、Q :構造物の管理上許容される変 状面積率 3.2 LCC の lim 比較の対象とした劣 、中性化と塩害が複合する場合、ASRと塩害が複合す る場合および塩害、中性化とASRが複合する場合とし、 劣化機構の複合によって劣化の進展が異なることが、 LCCに及ぼす影響について検討した。さらに、維持管理 において、ある程度の変状を許容する場合を想定して、 許容される変状確率の設定値がLCCに及ぼす影響につい ても検討した。 対策を行なわない 劣化曲線を適用し、各年時に断面修復によって対策し た場合の対策後の劣化の進展には図-10に示した劣化曲 線を適用した。なお、2.5.3項と同様に、表-2に示した断 面修復の仕様(かぶり4cmに対して、修復深さ10cmで既 設コンクリートと全く同じ材料を用いる仕様)で断面修 復を行なった場合について試算した。次に、塩害と中性 化が複合する場合について、対策方法の違いがLCCに及 ぼす影響を検討するため、断面修復と表面被覆を併用し た場合のLCCを試算した。このとき、表面被覆の仕様は 表-2に示した通りとし、表面被覆の寿命は平均15年、標 準偏差3年とした。 ここでは、3.1節に示したように、予め対策時期を決 めて維持管理する場合について検討した。対策時期は、 供用20年時、40年時、60年時および80年時とした。 式(13)に示したように、本研究におけるLCCは、対策 面積率に単価と面積を乗じたものであり、対策面積率に 比例するものである。したがって、ここでは単価および 面積を1として対策面積率の多少を検討することでLCC に及ぼす劣化機構の複合の影響について検討を行なった。 3.3 LCC の試算結果 3.3.1 劣化機構および許容される変状確率が LCC に及 ぼす影響 許容される変状確率および劣化機構をパラメータとし て、対策面積率の累計を試算した結果を図-14に示す。 算出された累計の面積率に補修単価および構造物の面積 を乗じればLCCとなる。図から、許容される変状確率の 設定値に拘わらず、累計のLCCが最も大きいのは、やは り、無対策での劣化が最も進展すると予想された塩害、 中性化とASRが複合する場合であった。無対策の場合の 各劣化機構における最終の変状確率の大きさの順位と各 劣化機構のLCCの大きさの順位は一致している。塩害、 中性化とASRが複合する場合の、100年時における対策 面積率の累計は構造物全体の面積の約90%であると推定 された。この劣化機構における、無対策の場合の100年 時の変状確率は70%程度であったことから、これらの差 である約20%は再劣化による変状であると解釈できる。 図-14a)、b)およびc)を比較すれば、当然のことながら、 より大きい変状確率を許容するほど、累計のLCCは小さ くなる。試算の結果では、10%の変状を許容した場合に、 変状を許容しない場合と比較して約50%程度のLCCが低 a) 0.0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0 0 20 40 60 80 10 供用期間,年 断面修復面積率の累計 0 塩害単独 塩害+中性化 塩害+ASR 塩害+中性化+ASR 0.0 0.2 0.4 0.6 0.8 0 20 40 60 80 100 供用期間,年 断面修復面積率の累計 1.0 塩害単独 塩害+中性化 塩害+ASR 塩害+中性化+ASR 0.0 0.2 0.4 0.6 0.8 0 20 40 60 80 100 供用期間,年 断面修復面積率の累計 1.0 塩害単独 塩害+中性化 塩害+ASR 塩害+中性化+ASR 図-14 断面修復を繰返し実施して構造物を管理した場合の LCC(対策面積率)の経時変化 Managed Calcuration Results of LCC when Section Restoration is Repeatedly Executed and Structure is

(12)

減される結果となった。これは、変状を許容することで、 無対策範囲の対策面積率が低減されること、対策面積率 が低減される為に再劣化する面積率もまた低減されるこ となどによると考えられる。なお、塩害、中性化とASR が複合される場合以外の劣化機構では、5%および10% の変状を許容すれば、60年時および80年時の対策を実施 3. 面修復と表面被覆を併 用した方がLCCは小さくなる。

. まとめ

討したものである。得られた結果を以下にまとめ し、その 合により塩害によ 後の劣化の進展が早くなる場合があると考えら れらの劣化機 大き なると考えられた。したがって、LCC の精度向上の ためには、再劣化を考慮 ある。 文献 [維持管 ンクリート構造物 pp. 1-14,19 6) 道廣 英司,池田 義明,丸屋 剛:漏水による塩 反応により変状を起こした 化進行予測,土木学 0.0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0 0 20 40 60 80 10 供用期間,年 補修面積率の累計 0 断面修復 断面修復+表面被覆 塩害+中性化 しなくても良い場合がある。 3.2 対策方法の違いが LCC に及ぼす影響 対策方法の違いがLCCに及ぼす影響を図-15に示す。 図では、塩害と中性化が複合する場合を対象として、20 年ごとに断面修復を行う場合と20年ごとに断面修復と表 面被覆を併用した場合とを比較した。断面修復と表面被 覆を併用する場合には、供用開始時に表面被覆を構造物 全面に適用したとして劣化予測を行なった。ここで、断 面修復および表面被覆の仕様は表-2に示したとおりであ る。なお、図は構造物の変状を全く許容しない場合の LCCの試算結果である。図に示したように、断面修復と 表面被覆を併用した場合の方が、断面修復のみを適用し た場合よりも、累計の補修面積率を小さくすることがで きる。100年時の補修面積率の累計を比較すれば、断面 修復のみを適用する場合の0.52に対して断面修復と表面 被覆を併用した場合には0.34となっており、補修面積は 65%程度に低減される。したがって、両補修工法の単価 の差が1.5倍程度以下ならば、断 対策方法 断面修復実施年 表面被覆実施年 断面修復 20,40,60,80 - 断面修復+表面被覆 20,40 60,80 , 0,20,40,60,80 図-15

Influence of Repair Method on LCC 対策方法が LCC に及ぼす影響

4

本論文は、構造物の調査結果を検討して得られた複合 劣化の進展を予測するモデルの、LCC評価への適用につ いて検 る。 1) 中性化の影響により、コンクリート中において塩 化物イオンが濃縮する現象をモデル化し、劣化曲線を求 めた結果、中性化と塩害が複合することによって、塩害 単独の場合と比較して、より早期に劣化が開始 後の劣化の進展も促進されると考えられた。 2) ASR により発生するひび割れを考慮した塩化物イ オンの拡散係数を適用することにより、ASR による塩 害の促進を評価した結果、ASR の複 る劣化が促進される結果となった。 3) 劣化機構が複合して作用する場合には単独の劣化 機構が作用する場合よりも、劣化の進展が早くなる場合 や、対策 れた。 4) 構造物の LCC は劣化曲線の設定によって大きく変 化する。劣化曲線は、劣化機構によっても劣化機構の複 合によっても異なると考えられるため、こ 構および劣化機構の複合を詳細に考慮することが、LCC 評価の精度向上に繋がると考えられる。 5) 補修対策後の再劣化の進展について試算した結果、 断面修復厚さが不十分な場合には、対策後の再劣化が早 期に現れると考えられた。また、無対策の場合に予想さ れる変状確率の進展が大きい場合には、再劣化による変 状面積率が累計の変状面積率に占める割合が比較的 く することが重要で 参考 1) 土木学会:2001年制定コンクリート標準示方書, 理編],同制定資料,2001. 2) 日本コンクリート工学協会:複合劣化コ の評価と維持管理計画研究委員会 報告書,2001. 3) 小林 一輔:コンクリ-トの炭酸化のメカニズム,土木学 会論文集,No.433/V-15, 91. 4) 武田 均,丸屋 剛:漏水の影響を受ける実構造物の中性化 と塩化物イオンの濃縮,土木学会第58回年次学術講演会概 要集, pp.63-64, 2003. 5) 丸屋 剛, Somnuk,T., 松岡 康訓:コンクリート表層部にお ける塩化物イオンの移動に関するモデル化,土木学会論文 集,No.585/V-38,pp.79-95,1998. 武田 均, 害を受けたコンクリート構造物の詳細調査,コンクリート 構造物の補修,補強,アップグレード論文報告集,第3巻, 2003. 7) 武田 均,丸屋 剛,飯田 一彦,水田 富久:アルカリ骨材 構造物の劣

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