もうひとつの手話
明晴学園 斉藤道雄
2015年10月22日 私特連研修会
書店の「福祉コーナー」
手話の本はどこで買えるだろうか?
手話の本は
「語学コーナー」では売っていない
書店の「福祉コーナー」
手話の本はどこで買えるだろうか?
手話は長年、「言語」とは
思われていなかった
いまでもなお・・・
手話は「完全な言語」
手話は日本語や英語と
同じ力をもつ自然言語である
手話は「完全な言語」
“福祉の手話”と
“言語としての手話”は
まったく別なもの
手話は太古から存在した
紀元前の記録「タルムード」に
「ろう者でも身振りを使うことによって
結婚や離婚をすることができる」とある。
「身振り」はおそらく手話のことだろう。
Miles, Dorothy. British Sign Language
BBC Books, 1988
一般的にいって・・・
● ろう者が1人でいる時
「ホームサイン」ができる
● ろう者が2人以上いる時
「ピジン手話」ができる
● ろう児がピジン手話を受け継ぐと
「手話」ができる
(1980年代、ニカラグア手話
の研究で実証された)
手話のABC
・ 手話は世界共通ではない
日本手話、アメリカ手話、イギリス手話、台湾手話・・・
世界には200以上の手話がある
・ 音声語とは別に発達した言語
日本手話は日本語と単語も文法もちがう別言語
・ 音声語と同じ獲得過程をたどる
まず言語意識の芽生え
ついで生後数か月での喃語
1歳前後で初語の表出
2歳までには2語文
感受期は5歳まで・・・
手話のABC
・ 新生児1000人に1人は「ろう」
9割は聴者の親のもとに生まれる
(約1割は“デフ・ファミリー”に生まれる)
・ 多くの手話はろう学校で生まれた
・ 水平伝播する言語
音声語は親から子に伝わるが
手話はほとんどが子から子に伝わる
・ 日本の手話話者は約6万人
・ 厳密な文法がある
ノン・ネイティブの習得は困難
日本手話
・ 1878年、京都に日本最初のろう学校が
できた。いまの日本手話はこの後に
成立したと思われる。
・ 19世紀末、手話は「手真似」「手勢」などと
呼ばれた。
・ 20世紀初頭
「口話」の台頭とともに
手話は禁止、排斥された。
手話の社会学
・ 手話は「言語」とされていなかった
「手まね、猿まね」
「あなたはおサルさんなの?」
「あんなものを使っていたらオオカミとおなじ」
「ろう児には口話を与え、人間にせねばならない」
「何よりもまず手話は“悪”であった」
手話の社会学
・ サルの「手話」の研究
1960~70年代、アメリカでゴリラやチンパンジーに
手話を教える実験がくり返された。
ゴリラが「手話の単語132語を覚えた」という報告が
あったが、追試は否定的だった。
手話の社会学
・ サルの「手話」の研究
ろう者がアメリカ手話を使えば
そんなものは言語でないといわれ、
サルが覚えればそれこそが言語だといわれる
(Arden Neisser. 1983)
“カリフォルニアの研究所のゴリラが
「歯が痛い」と手話で訴えた”
2004.8.11. 朝日新聞夕刊
「手話はゴリラやチンパンジーが使える
程度で、音声言語より劣っているという
イメージを与えている」
木村晴美、『日本手話とろう文化』2007
手話は「完全な言語」
手話は日本語や英語と
同じ力をもつ自然言語である
すべてを変えたのは
言語学だった
手話とは
1960年、ストーキー
(William C. Stokoe)が
アメリカ手話の構造を解析
言語学による研究が進み、
80年代に手話は自然言語
であることが解明された
手話との遭遇
1995年「ろう文化宣言」
“ろう者は医学的、身体的に
規定される存在ではない”
“言語的・文化的に規定される
存在である”
手話との遭遇
1995年「ろう文化宣言」
「宣言」は明晴学園が設立される
起点となった
TBS「報道特集」
1997年2月9日放送
“手話の世界”
日本のろう学校はなぜ
手話を使わないのか?
(手話とは何か? ろう者とはだれか?)
TBS「報道特集」
1997年2月9日放送
“手話の世界”
(手話とは何か? ろう者とはだれか?)
羽柴志保さん
「ろうの子がほしかった。
生まれてきた下の子がろうだったので
よかったと思った」
読売新聞論争
(口話法で)子供たちは・・・音声言語としての
「ことば」を認識し、相手の唇から「ことば」を
読み取れるようになっていく。・・・
(それで)東大法学部を卒業し、弁護士になっ
た人もいる。
2006年12月7日読売新聞に
元小樽聾学校校長・森川佳秀氏が寄稿
口話法を守るべきだと訴えた
読売新聞論争
「東大法学部を卒業した弁護士」は自分だが、
私は口話法の失敗例だ。・・・
教師の手を噛みボタンを引きちぎって抵抗した。
私の日本語は口話法で覚えたものではない。
2006年12月20日
ろう者の弁護士、田門浩氏が反論を寄稿
手話の教育を訴えた
読売新聞論争
手話には明確な文法規定がないので、文章
の関連付けがあいまいだ。同表現意義語が
多い。日本語体系の習得は、手話では難しい。
森川佳秀氏は
手話を言語とは思っていなかった
読売新聞論争
手話には
明確な文法規定がない
ので、文章
の関連付けがあいまいだ。同表現意義語が
多い。日本語体系の習得は、手話では難しい。
読売新聞論争
手話には明確な文法規定がないので、文章
の関連付けがあいまいだ。
同表現意義語が
多い
。日本語体系の習得は、手話では難しい。
読売新聞論争
英語がわからない人は、英語に
「明確な文法規定がない」とは思わない。
英語話者に問題があるとは思わない。
手話がわからない人は、手話に
「明確な文法規定がない」と思う。
手話話者(ろう者)の知的なレベルを疑う。
自然言語の普遍性
「石器時代さながらの
部族はあっても
石器時代さながらの言語は
存在しない」
スティーブン・ピンカー
『言語を生みだす本能』、NHKブックス 1995
自然言語の普遍性
● 手話は言語として、日本語や英語と
同等の力をもっている
● ろう児の言語は手話であり、ろう児は
手話を第一言語として獲得する
● ろう児は手話の環境で聴児とおなじ
知的成長をとげる
明晴学園設立の基礎
TBS「報道特集」
2004年1月25日放送
“赤ちゃん 手で話す”
2004年1月25日放送
“赤ちゃん 手で話す”
聾学校
校長
子どもを手話で育てるのは
外国語で育てるようなもの、むずかしい
(どう育てるかは、大人が決める)
ろう児の
母親
自分も手話を覚え、子どもに近づきたかった
(どう育てるかは、子どもが決める)
「ろう文化宣言」 ・・・ 1995
「龍の子学園」 ・・・ 1999
「教育特区申請」 ・・・ 2003
「日弁連に人権救済
申し立て」 ・・・ 2003
「NPO設立」 ・・・ 2003
「教育特区認定」 ・・・ 2007
「明晴学園開校」 ・・・ 2008
「中学部開設」 ・・・ 2010
設立の経緯
手話とは何か
言語学による研究が進み、
70年代以降、アメリカ手話は
英語とは異なる言語として
理解されるようになった
ろう社会の混乱
手話とは何か
ろう社会の対立と混乱
「自分たちの“手話”をなぜ
“アメリカ手話”というのか?」
(手話は英語の一部だと思われていた)
(手話が、英語とは異なる言語だという考えを
“エリートろう者”は認めなかった)
手話とは何か
エリートろう者の手話
昔からろう者同士で使ってきた手話
表情を多用した“スラング”
“下品でくずれた”低学歴ろう者の手話
手話を、できるだけ英語の語順で話す
指文字(アルファベット)を多用する
“上品できれいな”高学歴ろう者の手話
草の根ろう者の手話
アメリカろう社会の混乱
手話とは何か
エリートろう者の手話
昔からろう者同士で使ってきた手話
表情を多用した“スラング”
“下品でくずれた”低学歴ろう者の手話
手話を、できるだけ英語の語順で話す
指文字(アルファベット)を多用する
“上品できれいな”高学歴ろう者の手話
草の根ろう者の手話
アメリカろう社会の混乱
英語対応手話
アメリカ手話
手話とは何か
草の根ろう者の手話は
“下品でくずれている”と思われていたが
英語とはまったく別の言語である
アメリカ手話だった
アメリカろう社会の混乱
エリートの手話は、英語の一部を
手の動きに直した「英語対応手話」で
実体は英語だった
手話とは何か
草の根ろう者の手話は
“下品でくずれている”と思われていたが
英語とはまったく別の言語である
アメリカ手話だった
アメリカろう社会の混乱
エリートの手話は、英語の一部を
手の動きに直した「英語対応手話」で
実体は英語だった
手話とは何か
草の根ろう者の手話は
“下品でくずれている”と思われていたが
英語とはまったく別の言語の
アメリカ手話だった
アメリカろう社会の混乱
アフリカ系アメリカ人の英語(黒人英語)も
同じように見られていた
(“下品でくずれている”のではなく
独自の文法、表現を持つ別の言語)
手話とは何か
アメリカろう社会の混乱
アメリカ手話と英語対応手話
・誰が、どの手話を使っているのか?
・「手話」とは、どちらの手話のことか?
・ろう者はどの手話を使うべきなのか?
・ろう者とはだれのことか?
80年代以降、「ろう者の手話は
アメリカ手話」との認識が進み
混乱は収束した
手話とは何か
エリートろう者の手話
昔からろう者同士で使ってきた手話
表情を多用した“スラング”
“下品でくずれた”低学歴ろう者の手話
手話を、できるだけ日本語の語順で話す
指文字(あいうえお)を多用する
“上品できれいな”高学歴ろう者の手話
草の根ろう者の手話
日本のろう社会
日本語対応手話
日本手話
手話とは何か
日本のエリートろう者も
“日本語的な手話”を使おうとしてきた
「大仰で道化て見える」「生地のまま」の手話は、
「国語を土台に」して「きれいな」「教養的手話」に
変えるべきだ 1940年 藤本敏文
日本のろう社会
手話は「日本語との共通性」を
確立すべきだ 2003年 高田英一
手話とは何か
日本ではいまだに
「日本語対応手話」が主流、多数派
日本のろう社会
全日本ろうあ連盟(エリートろう者)は
「日本手話」 を認めていない
(福祉の手話)
(言語としての手話)
手話とは何か
日本ではいまだに“エリートの手話”
「日本語対応手話」が主流、多数派
・手話通訳が使う手話
・ろう学校で使われる手話
・手話教室の手話
・手話言語条例が対象とする手話
・ろうあ連盟が使う手話
・ドラマや映画の手話
・朝日手話スピーチコンテストの手話
・政府が使う手話・・・の、
ほとんどは
「日本語対応手話」
手話とは何か
「日本手話」は
少数言語のなかの、さらに少数派
しかし自然言語としての力をもっている
この力が多数派の聴者と
聴者に同化しようとする人々には
わからなかった
手話とは何か
「日本手話」は
少数言語のなかの、さらに
少数派
しかし自然言語としての力をもっている
この力が
多数派
の聴者と
聴者に同化しようとする人々には
わからなかった
手話とは何か
明晴学園は日本手話を使う
日本手話は自然言語であり、ろう児は
人工言語である日本語対応手話を
理解できない
自然言語の日本手話を使うことで
明晴学園の教育は従来にない
成果をあげてきた