第 5 章 全翼振動時の非定常空力特性
本章では,翼列中一枚の翼が振動する場合に誘起される各翼の非定常空気力を,一翼 振動法により任意の翼間位相差で線形重ね合わせを行うことにより,全翼振動時の非定 常空気力を求め,フラッタ解析を行った.
本章では,非圧縮領域,亜音速領域及び遷音速領域における全翼振動時の非定常空力 特性について述べるとともに,特に衝撃波が翼列フラッタ特性に及ぼす影響を明らかに するために,翼面局所エネルギ分布に着目した解析を行う.
5.1 非定常空力仕事と考察
5.1.1 非圧縮領域の場合
ここでは非圧縮領域として,翼列上流の流入マッハ数
M
=0.15 の場合について示す.翼間位相差β(背面側位相進みを正とする)で全翼が角振幅α0,角振動数
ω
のねじ り振動をする時,着目する翼(0 番翼)に働く無次元の非定常空力仕事W
は,付録 A‑1 で詳細に述べるように,翼振動 1 サイクル毎に流体によって 0 番翼に作用する仕事とし て,式(5.1)のように各翼からの寄与の和で与えられる.ここで,W
>0 の領域が不安 定領域を示す.(5.1)
å
¥( )
= + -
+
=
1 0
m
m
m W
W W
W
ただし,
W
0は着目する翼(0 番翼)に対して,その翼自身がなす仕事を表し,W
m は m 番翼からの仕事の寄与を表す.また,着目翼の,単位角振幅あたりの無次元翼面局所エネルギ
E
を下式のように定義 する.A
は圧力変動の基本振動数成分 の振幅,φは着目翼の翼振動に対する位相差 を表し,l は符号を考慮したモーメントの腕の長さを表す.C~p
c A l
E
c A l
E
L L L L
U U U U
a f
= a f
= 1 sin 1 sin
0
0 (5.2)
ここで,添字 U と L は,各々翼の背面と腹面を示す.無次元非定常空力仕事
W
と無次元 局所エネルギE
との関係は,下式のとおりである.=
ò (
U + L)
çèæ ÷øö=å
i ïîïíì( )
U i×ççèæ U ÷÷øöi +( )
L i×ççèæ cL÷÷øöiïþïýü E sc E s
c d s E E
W ⊿ ⊿
(5.3)
ただし,
s
は翼面に沿う長さを表し,iは翼表面の圧力孔番号である.
図 5‑1 に,無次元振動数
k
をパラメータとして,着目翼(0 番翼)の全翼振動時の非 定常空力仕事W
を翼間位相差β(背面側翼位相進みを正)に対して示す.翼振動数が 低いk
=0.074 の場合,翼間位相差が 15°<β<170°の範囲内に不安定領域が存在する.最も危険な翼間位相差βは 70°付近である.
k
を増すと不安定領域の範囲は狭まり,k
=0.455 とk
=0.613 の間で安定となり,それ以上のk
の範囲では,全てのβに対してW
は負となり安定である.ここで図 5‑2 に,着目翼(0 番翼)の非定常空力仕事に及ぼす各翼の寄与
W
mを,翼 間位相差βに対して,(a)k
=0.047,(b)k
=0.302 及び(c)k
=0.613 の場合について示す.縦軸は各翼(m 番翼)から着 目翼(0 番翼)への非定常空 力仕事の寄与
W
m を示して おり,図中の記号 m は翼番号 を示している.振動数の低い (a)k
=0.074 の場合,0 番振動 翼自身の寄与はW
m <0 で安 定側にあるがその絶対値が 小さく,振動翼上流側(腹面 側)に位置する‑1 番翼から 0 番翼への寄与が大きいため,合成した場合には 15°<β
<170°の範囲で不安定にな る.振動翼から離れた+2 番翼 と‑2 番翼の寄与も 0°<β
<90°の範囲では
W
m >0 とな0 90 180 270 360
-0.03 -0.02 -0.01 0 0.01 0.02 0.03
Interblade phase angle β[degree]
Aerodynamic work W
unstable
stable
k=0.074 k=0.222 k=0.302 k=0.455 k=0.613 k=0.833 k=1.061 k=1.289
図 5‑1 全翼振動時の非定常空力仕事(
M
=0.15)り,若干ではあるが空力的不安 定に寄与している.
0 90 180 270 360
-0.03 -0.02 -0.01 0 0.01 0.02
Interblade phase angle β[degree]
Wm
unstable
stable
(a) k=0.074
m = -2 m = -1 m = 0 m = +1 m = +2
次に,全翼振動時に
W
のピー ク値がk
=0.074 の場合より低い (b)k
=0.302 の場合は,30°<β<120°の範囲で不安定となっ ている.‑1 番翼から 0 番翼への 寄与は
k
=0.074 の場合とほぼ同 程度であり,+2 番翼の寄与は若 干小さくなっているが,負であ る 0 番振動翼の寄与の絶対値が 大きくなっているため,重ね合 わせた場合にW
の大きさが減 少することになる.‑2 番翼の寄 与はほとんど変わっていない.さらに
k
が増加してk
=0.613 と なった場合,0 番振動翼の非定 常空力仕事はk
=0.302 の場合に 比べてさらに負値が大きくな り,その他の翼の寄与はほとん ど変わらないことから,合成す るとW
は負となって安定とな る.さらにk
が高くなっても,ほぼ 0 番振動翼と‑1 番翼の関 係だけで安定・不安定が決まる.
0 90 180 270 360
-0.03 -0.02 -0.01 0 0.01 0.02
Interblade phase angle β[degree]
Wm
unstable
stable
(b) k=0.302
m = -2 m = -1 m = 0 m = +1 m = +2
0.02 m = -2
0 90 180 270 360
-0.03 -0.02 -0.01 0 0.01
Interblade phase angle β[degree]
Wm
unstable
stable
(c) k=0.613
m = -1 m = 0 m = +1 m = +2
次に,最も不安定となる翼間 位相差(β≓ 70°)における全 翼振動時の翼面局所エネルギ
分布を見てみる.局所エネルギ 図 5‑2 0 番翼に及ぼす各翼の非定常 空力仕事の寄与 (
M
=0.15)0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 0
0.25 0.5
-180 -90 0 90 180
x/c
A
(a) k=0.074, β =70 °
φ[deg]
AU AL
φU φL
0 0.2 0.4 0.6 0.8 1
-2 -1 0 1 2
E
x/c EU
EL
0 0.2 0.4 0.6 0.8 1
0 0.25 0.5
-180 -90 0 90 180
x/c
A
(b) k=0.302, β =70 °
φ[deg]
AU AL
φU φL
0 0.2 0.4 0.6 0.8 1
-2 -1 0 1 2
E
x/c EU
EL
E
は,翼面要素に対して翼振動 1 サイクル ごとに流体から振動翼に流入する単位角振 幅あたりのエネルギを表し,局所的に安定,不安定に寄与する部位を調べるために有効 である.
0 0.2 0.4 0.6 0.8 1
0 0.25 0.5
-180 -90 0 90 180
x/c
A
(c) k=0.613, β =70 °
φ[deg]
AU AL
φU φL
0 0.2 0.4 0.6 0.8 1
-2 -1 0 1 2
E
x/c EU
EL
図 5‑3 に (a)
k
=0.074,(b)0.302 および (c)0.613 の場合のW
がピークとなる危険 位相差(β≑ 70°)における局所エネルギ 分布を示す.上図はエネルギ分布E
,下図は 圧力変動振幅A
と位相φを示し,添え字の U と L は 各 々 翼 背 面 と 翼 腹 面 を 示 す . (a)k
=0.074 の場合を見ると,A
Uは前縁から 後縁にかけてなだらかに減少する傾向を呈 し,φUは後縁付近を除き前縁から後縁方向 に 180°から 120°へなだらかに変化してい る.ねじり軸(x
/c=0.5)前後で腕の長さの 符号が変わるため,ねじり軸より前縁側で図 5‑3 全翼振動時の局所エネルギ分布
(
M
=0.15)は安定(
E
U<0),後縁側では不安定(E
U>0)に寄与することになる.翼腹面側では,A
Lの分布はA
Uとほぼ同様な分布傾向を呈しており,φLは前縁から後縁方向に 40°〜90°の範囲で単調増加している.そのため,ねじり軸より前縁側の不安定(
E
L>0)か ら後縁側の安定(E
L<0)へと単調に変化している.全非定常空力仕事W
を考える時,E
Uはねじり軸より前縁側と後縁側でほぼ相殺するが,E
Lは前縁側の不安定さが後縁側 の安定さより大きいため,翼全体としては不安定を呈する.つまり,翼前縁付近の腹面 側が大きな不安定要因となって,全体としては前縁付近が不安定に寄与することになる.k
が増加して(b)k
=0.302 になると,E
UとE
Lは翼全体にわたりk
=0.074 の場合よりも若 干小さくなるが,分布傾向は変わらない.しかし,E
Lはねじり軸より前縁側の方が後 縁側より減少の程度が大きいために,全体としてE
Lの不安定さは減少する.さらにk
が高い(c)k
=0.613 の場合,E
Lはねじり軸前後でほぼ対称となってエネルギ的にほぼ中 立となるが,E
Uはねじり軸から前縁方向に単調減少し,k
の低い場合に見られたように 前縁で 0 にはなっていない.これは,非定常圧力振幅はほとんど変化していないが,位 相が 180°より小さくなっているためである.また,翼後縁付 近でも負値が大きくなってお り,翼全体では
E
Uは安定に寄 与することになり,非定常仕事W
は安定を示すことになる.0 90 180 270 360
-0.03 -0.02 -0.01 0 0.01 0.02
Interblade phase angle β[degree]
Aerodynamic work W
unstable stable
k=0127 k=0.277 k=0.418 k=0.564 k=0.699
図 5‑4 全翼振動時の非定常空力仕事(
M
=0.45)5.1.2 亜音速領域の場合
圧縮性の影響を見るために,
例として,翼列上流の流入マッ ハ数
M
=0.45 の場合について示 す.図 5‑4 は全翼振動時の翼間位 相差βに対する非定常空力仕 事
W
を,無次元振動数k
=0.127〜0.699 について示している.
k
=0.127 では 30°<β<130°の0 90 180 270 360 -0.03
-0.02 -0.01 0 0.01 0.02
Interblade phase angle β[degree]
Wm
unstable
stable
(a) k=0.127
m = -2 m = -1 m = 0 m = +1 m = +2
範囲で空力不安定領域が見ら れる.
k
が増加してk
=0.277 に なると,W
の値が減少して不 安定領域は 45°<β<100°の範 囲に狭まるが,本実験では全て のk
の範囲で不安定であった.ここで,翼間位相差に対する 各翼の非定常空力仕事の寄与 を , (a)
k
=0.127 , (b)k
=0.277 および(c)k
=0.418 の場合につ いて図 5‑5 に示す.振動数の低 い(a)k
=0.127 を見ると,0 番振 動翼の寄与は安定側にありW
m=‑0.008 程度の値となっている.
しかし,例えばβ=90°では,
振動翼上流側(腹面側)に位置 する‑1 番翼からの寄与はおよ そ
W
m=0.013 で,それ以外の翼 からの寄与は非常に小さいた めに,‑1 番翼の寄与が不安定要 因となって,合成結果は不安定(
W
>0)となる.+2 番翼と‑2 番翼については,非圧縮(M=0.147 ) の 場 合 と 同 様 , 0 ° < β
<90°の範囲では
W
m>0 となり,若干ではあるが空力的不安定 に 寄 与 し て い る . さ ら に (b)
k
=0.277 とk
が高くなった 場合,‑1 番翼の寄与はk
=0.1270 90 180 270 360
-0.03 -0.02 -0.01 0 0.01 0.02
Interblade phase angle β[degree]
Wm
unstable
stable
(b) k=0.277
m = -2 m = -1 m = 0 m = +1 m = +2
0 90 180 270 360
-0.03 -0.02 -0.01 0 0.01 0.02
Interblade phase angle β[degree]
Wm
unstable
stable
(c) k=0.418
m = -2 m = -1 m = 0 m = +1 m = +2
図 5‑5 0 番翼に及ぼす各翼の非定常 空力仕事の寄与(
M
=0.45)の場合とほぼ同じ約 0.013 となっているが,0 番翼自身の安定化への寄与も‑0.011 程度 と大きくなっているため,これら 2 枚の翼からの寄与としては不安定傾向が弱まること になる.また,‑2 番翼の寄与も
k
=0.127 の場合とほぼ同じで,β<70°の範囲では空力 的不安定を助長するように作用している.+2 番翼の寄与はk
=0.127 の場合より若干小 さくなっている.(c)k
=0.418 では,0 番翼自身の安定としての寄与はほとんど変わらな いが,‑1 番翼の不安定としての寄与がk
の低い場合に比べて増加している.それ以外 の翼については,‑2 番翼と+1 番翼の寄与がわずかに大きくなっているが,+2 番翼の寄 与は(b)k
=0.277 の場合とほぼ変わらない.つまり,k
=0.418 で不安定傾向が強まるのは,背面側に位置する‑1 番翼の不安定への寄与が大きくなるためである.
次に,図 5‑6 に,(a)
k
=0.127,(b)k
=0.277 および(c)k
=0.418 の場合について,危険 位相差における局所エネルギ分布を示す.(a)k
=0.127 の場合,A
UとA
Lの分布傾向はM
=0.15 の場合とほぼ同じであるが,φUは前縁から後縁にかけてほぼ単調に減少し,x
/c<0.6 の範囲では非圧縮の場合と同様の傾向を示しているが,x
/c>0.6 の範囲で非圧 縮の場合とは分布傾向が異なっている.φLについては,後縁付近で 90°以上になるこ とを除き,非圧縮の場合と同様の分布傾向となっている.そのためE
Lについては,非0 0.2 0.4 0.6 0.8 1
0 0.25 0.5
-180 -90 0 90 180
x/c
A
(a) k=0.127, β =70 °
φ[deg]
AU
AL
φU
φL
0 0.2 0.4 0.6 0.8 1
-2 -1 0 1 2
E
x/c EU
EL
0 0.2 0.4 0.6 0.8 1
0 0.25 0.5
-180 -90 0 90 180
x/c
A
(b) k=0.277, β =70 °
φ[deg]
AU
AL
φU
φL
0 0.2 0.4 0.6 0.8 1
-2 -1 0 1 2
E
x/c EU
EL
図 5‑6 全翼振動時の局所エネルギ分布(
M
=0.45)圧縮の場合と同様,ねじり軸より前縁 側の不安定(
E
L>0)から後縁側の安定(
E
L<0)へと単調に変化している.し かしE
Uについては,ねじり軸より前縁 側では非圧縮の場合とあまり変わらな い分布となるが,φUが後縁付近で負に ならないため,非圧縮の場合とは違っ て不安定のままとなっている.このことから,翼背面後縁付近の剥 離の影響も考えられるため明確ではな いが,圧縮性の影響は後縁付近の翼背 面に対して大きいと推察される.
k
が 増加すると,x
/c=0.85 付近でφUが 0 に近づくため,非圧縮の場合のようにE
U<0 となることはないがE
Uは 0 に近づき,ねじり軸より後縁側では全体として安定化への寄与が強まる.しかし前縁側での 局所エネルギ分布をみると,翼背面側ではほとんど変わらないのに対し,翼腹面側では 不安定の程度が増している.つまり,翼振動の影響は,前縁側の翼腹面と後縁側の翼背 面に対して大きい.このことは,食違い角が付いているために,背面側隣接翼の振動の 影響は背面側後縁付近に,また,
腹面側隣接翼の影響は腹面側前 縁付近に及びやすいためである と考えられる.
0 0.2 0.4 0.6 0.8 1
0 0.25 0.5
-180 -90 0 90 180
x/c
A
(c) k=0.418, β =70 °
φ[deg]
AU AL
φU φL
0 0.2 0.4 0.6 0.8 1
-2 -1 0 1 2
E
x/c EU
EL
図 5‑6(続き) 全翼振動時の局所 エネルギ分布(
M
=0.45)0 90 180 270 360
-0.03 -0.02 -0.01 0 0.01 0.02 0.03
Interblade phase angle β[degree]
Aerodynamic work W
unstable
stable
k=0.015 k=0.045 k=0.078 k=0.117 k=0.161 k=0.203 k=0.284 k=0.325 k=0.402
5.1.3 遷音速領域の場合
ここでは翼列上流の流入マッ ハ数
M
=0.815 の場合について示す.図 5‑7 に,
k
=0.015〜0.402 の範 囲について,全翼振動時の非定常空力仕事
W
を翼間位相差βに対 図 5‑7 全翼振動時の非定常空力仕事(M
=0.815)0 90 180 270 360 -0.03
-0.02 -0.01 0 0.01 0.02
Interblade phase angle β[degree]
Wm
unstable
stable
(a) k=0.015
m = -2 m = -1 m = 0 m = +1 m = +2
して示す.20°<β<120°の範囲 に不安定領域が存在する.
ここで図 5‑8 に,翼間位相差 βに対する各翼の非定常空力仕 事の寄与
W
mを,(a)k
=0.015,(b)k
=0.161,および(c)k
=0.325 の場 合について示す.振動数の低い (a)
k
=0.015 を 見ると,0 番振動翼はW
m=‑0.006 と安定側に寄与しているが,+2 番翼の寄与は,ピーク値が 0 番 翼の値とほぼ同程度となってお り,例えばβ<90°の範囲では不 安定として寄与するが,β=60 ° 付近では 0 番翼と+2 番翼だけで もW
mの合計はほとんど 0 になる.さらに‑1 番翼からの不安定さが 加わるために,大きな不安定さ が 生 じ る こ と に な る . 次 に , (b)
k
=0.161 の場合を見ると,‑1 番翼と+2 番翼の寄与はk
=0.015 の場合より小さくなっており,0 番翼の安定傾向が強まるので,結果的に図 5‑7 で見られるよう に,不安定の程度は小さくなる.
さらに
k
が増して(c)k
=0.325 と なった場合,0 番翼のW
mの値は ほとんど変化していないが,‑1 番翼と+2 番翼のW
mは増加して0 90 180 270 360
-0.03 -0.02 -0.01 0 0.01 0.02
Interblade phase angle β[degree]
Wm
unstable
stable
(b) k=0.161
m = -2 m = -1 m = 0 m = +1 m = +2
0 90 180 270 360
-0.03 -0.02 -0.01 0 0.01 0.02
Interblade phase angle β[degree]
Wm
unstable
stable
(c) k=0.325
m = -2 m = -1 m = 0 m = +1 m = +2
図 5‑8 0 番翼に及ぼす各翼の非定常空力 仕事の寄与(
M
=0.815)いるため,合成すると不安定傾向が強まる ことになる.
0 0.2 0.4 0.6 0.8 1
0 0.25 0.5
-180 -90 0 90 180
x/c
A
(a) k=0.015, β =65 °
φ[deg]
AU AL
φU φL
0 0.2 0.4 0.6 0.8 1
-2 -1 0 1 2
E
x/c EU
EL
shock wave(U)
shock wave(L)
以上のように,遷音速領域では,非定常 空力仕事への寄与としては,非圧縮や亜音 速領域の場合と同様に,0 番翼と‑1 番翼の 寄与が支配的であるが,それに加えて+2 番翼の寄与が大きく影響していることは,
非圧縮や亜音速領域の場合と大きく異な る点である.これは,第 4 章で述べたよう に,翼振動の影響が振動翼腹面側に対して 遠くまで及ぶことに起因するものであり,
遷音速領域における特徴的な点であると いえる.
次に,翼弦方向の局所エネルギ分布を,
0 0.2 0.4 0.6 0.8 1
0 0.25 0.5
-180 -90 0 90 180
x/c
A
(b) k=0.161, β =60 °
φ[deg]
AU AL φU
φL
0 0.2 0.4 0.6 0.8 1
-2 -1 0 1 2
E
x/c EU
EL
shock wave(U)
shock wave(L)
0 0.2 0.4 0.6 0.8 1
0 0.25 0.5
-180 -90 0 90 180
x/c
A
(c) k=0.325, β =70 °
φ[deg]
AU AL φU
φL
0 0.2 0.4 0.6 0.8 1
-2 -1 0 1 2
E
x/c EU
EL
shock wave(U)
shock wave(L)
図 5‑9 全翼振動時の局所エネルギ分布 (
M
=0.815)(a)
k
=0.015, (b)0.161 および(c)0.325 の場合について図 5‑9 に示す.図中の矢印は衝 撃波変動の範囲を示す.全ての場合について特徴的な分布が翼背面側の局所エネルギ分布に見られる.つまり
x
/c=0.65 付近からx
/c=0.85 付近までの範囲で,非圧縮領域と亜音速領域では見られな かったE
Uの落ち込みが現れている.これは局所的な超音速流れの発生と衝撃波変動の 影響と考えられる.この落ち込みは,圧力変動の位相分布を見ると,翼背面側でx
/c=0.65 付近の位相とx
/c=0.8 付近の位相では 90°(k
=0.015)から 180°(k
=0.325)の間の位相差があることから,衝撃波前後で圧力変動の位相特性が大きく変わることが エネルギ分布の大きな変化を生じさせる主要因であると言える.
ここで,非圧縮領域の図 5‑3 あるいは亜音速領域の図 5‑6 と比較しながら詳細に見て みる.(a)
k
=0.015 の場合,図 5‑3(a) あるいは図 5‑6(a)と比較すると,ねじり軸より 前縁側では,AUの値は非圧縮と亜音速領域の値より全体的に小さくx
/c=0.3 付近で落ち 込む分布となっており,後縁側では,衝撃波変動位置付近で変動が見られ,さらに非圧 縮と亜音速領域の場合とは逆に,後縁方向に増加する傾向を示している.A
Lについて は,非圧縮と亜音速領域の場合とは分布が大きく異なっており,x
/c=0.3 からx
/c=0.5 にかけて増加し,x
/c>0.5 で急激に減少している.これは図 4‑18 で示したように,非 定常圧力振幅が腹面側では衝撃波付近でピークとなることに対応している.位相につい てみると,φUは 0.7<x
/c<0.8,φLは 0.5<x
/c<0.6 を除く範囲で,図 5‑6 とほとんど同 じ分布傾向を示しており,衝撃波変動位置付近を除いてマッハ数(あるいは圧縮性の強 さ)の違いが非定常圧力の位相に及ぼす影響はほとんどないことが判る.上述したよう に,衝撃波前後で位相がほぼ 90°変化していることは,非圧縮や亜音速領域との大き な相違点である.以上のような非定常圧力の振幅,位相分布に対応して,局所エネルギ 分布にも非圧縮や亜音速領域との違いが現れている.E
Uを見ると,ねじり軸より前縁 側では安定の程度が弱くなり,x
/c=0.8 でφU=‑30°となるために,衝撃波後方では安 定に寄与している.それより後縁付近では約φU=90°となるので再び不安定に寄与する.E
Lについては,A
LとφLはx
/c=0.5 付近で大きく変化するものの,ねじり軸がx
/c=0.5 であるため局所エネルギには影響せず,分布傾向は亜音速の場合と変わらない.x
/c=0.5 付近を除き,φLの分布傾向は亜音速の場合とほとんど変わらないので,腹面側局所エ ネルギにはA
Lの違いが影響していることが判る.この局所エネルギ分布から,衝撃波前方では亜音速と同様の寄与があること,衝撃波変動は安定側に作用すること,翼背面 側の後縁付近では不安定として強く作用することが判る.
次に,
k
の影響を見てみる.(b)k
=0.161 の場合は(a)k
=0.015 の場合とほとんど相違 が見られず,k
の影響は見られない.さらにk
が高い(c)k
=0.325 の場合,A
U,A
Lともに 大きくなるが,位相分布はほとんど変わらず,E
Uについてはk
の影響は見られない.また,
E
Lはねじり軸前後でk
の低い場合より絶対値は大きくなるが,翼全体としては 相殺し,エネルギ的に中立である.以上のことから,圧縮性は翼面上の局所エネルギに対してはあまり影響しないこと,
衝撃波が存在する場合は,衝撃波変動位置付近の非定常圧力振幅と位相が大きく変化し,
背面側局所エネルギにも大きな影響を与えるが,腹面側では衝撃波の影響は翼弦中心付 近で強いため,ねじり軸が翼弦中心にあることから局所エネルギへ及ぼす衝撃波変動の 影響はほとんど現れないことが明らかになった.また,無次元振動数が増加すると,翼 背面,腹面側共に局所エネルギの分布傾向は変わらないが絶対値が大きくなることも明 らかになった.
5.2 非定常空力仕事に及ぼす圧縮性と衝撃波の影響
前節では,非圧縮,亜音速および遷音速の領域ごとに全翼振動時の非定常空力特性に 関する特徴を述べたが,ここでは圧縮性と衝撃波の影響について考察する.
4 章で示したように,非圧縮領域と亜音速領域とでは,一翼振動時に翼振動が各翼の 非定常翼面圧力に及ぼす影響はあまり違わない.例えば,図 4‑4 と図 4‑9 の非定常圧力 振幅の翼弦方向分布を見ると,両者に相違はほとんどない.このことは,本実験の亜音 速領域における圧縮性の強さの程度では,圧縮性の影響はそれほど大きくないことを示 している.その結果,図 4‑5 と図 4‑10 に示した各翼に生じる非定常モーメント振幅の 大小関係もほぼ同様となり,振動翼(0 番翼)と振動翼の背面側隣接翼(+1 番翼)で大 きく,その他の翼では小さい.このことは,着目翼(0 番翼)の空気力仕事への寄与と いう面から見ると,着目翼自身と腹面側隣接翼(‑1 番翼)からの寄与が大きく,その 他の翼からの寄与は小さいことを示している.遷音速領域では,非定常圧力振幅は,振 動翼(0 番翼)と振動翼の背面側隣接翼(+1 番翼)で大きく,それ以外にも衝撃波の影 響が現れて‑2 番翼でもある程度大きくなっている.従って,着目翼の空気力仕事への
寄与は,振動翼自身と腹面側隣接翼(‑1 番翼)からの寄与が大きいだけでなく,+2 番 翼からの寄与もある程度大きくなっている.
ここで,着目翼の非定常空気力仕事への各翼からの寄与について考察する.
(1)着目翼自身の非定常空気力仕事に対する寄与は,非圧縮,亜音速,遷音速領域の 全ての場合に負となり,安定に寄与している.これは,非定常モーメントが常に位相遅 れとなるためである.着目翼(0 番翼)の振動により着目翼自身に誘起される非定常モ ーメントが最大となるのは,非圧縮領域と亜音速領域では,翼背面及び腹面ともに非定 常圧力振幅が大きく,さらに翼前縁から後縁にかけて単調に減少するため,ねじり軸前 後のモーメントに大きな差が生じるためである.遷音速領域の場合,非定常圧力振幅の 分布は他の領域とは異なり,特に衝撃波位置付近で非常に大きな振幅となるが,背腹面 ともにねじり軸前後で非定常圧力振幅に大きな差があるために非定常モーメントは最 大になる.
(2)着目翼の腹面側隣接翼である‑1 番翼の不安定への寄与は一番大きい.これは,
各領域とも,非定常圧力振幅は,背面では前縁で少し大きく他の翼面部分では小さく一 定に近い分布であり,ねじり軸前後で相殺してほぼ 0 となるが,腹面では前縁から後縁 にかけて減少する分布となっているので,ねじり軸前後で非定常モーメントに差が生じ,
着目翼(0 番翼)自身に次いで大きな非定常モーメントが作用することになるためであ る.
(3)+1 番翼の寄与が小さい理由は,次のように説明できる.+1 番翼の振動により着 目翼(0 番翼)に誘起される非定常圧力振幅(第 4 章では,0 番翼の振動により‑1 番翼 に誘起される非定常圧力振幅として示されている)は,腹面では非圧縮,亜音速領域と もに翼弦全体にわたりほとんど一定で,ねじり軸前後で相殺して非定常モーメントはほ ぼ 0 となり,背面ではねじり軸位置(
x
/c=0.5)で最大振幅となるねじり軸に対してほ ぼ対称な山形分布であるため,腹面と同様にねじり軸前後でモーメントはほぼ相殺され てしまう.遷音速領域では,背腹面ともに,衝撃波変動の影響が少ない部分では亜音速 領域の場合とほぼ同様のことが言えるが,衝撃波位置付近はその変動の影響により分布 傾向は大きく異なる.しかし,式(A.1.14)で示されるように,非定常圧力の位相と振幅 の関係,およびモーメントの腕の長さの符号がねじり軸前後で変わることから,ねじり軸前後でモーメントは相殺されるため,結果的に非定常モーメントは小さくなる.つま り,+1 番翼の振動により誘起される非定常圧力振幅はかなり大きいにも拘わらず,ね じり軸位置が翼弦中心にあるために,非定常モーメントは小さくなっている.そのため に,着目翼の空気力仕事への+1 番翼の寄与はあまり大きくない.
(4)着目翼(0 番翼)の腹面側に離れて位置する‑2 番翼からの寄与は,非圧縮,亜音 速,および遷音速領域で違いがある.これは次のように説明できる.‑2 番翼の振動に より着目翼(0 番翼)に誘起される非定常圧力振幅(第 4 章では,0 番翼の振動により +2 番翼に誘起される非定常圧力振幅として示されている)は,背腹面ともに翼全体に わたり非常に小さくほぼ一定となり,非圧縮領域においては,非定常モーメントは小さ い.しかし,亜音速領域では,背面では,前縁から後縁にかけてわずかながら非定常圧 力振幅は増加し,腹面では前縁から後縁にかけてわずかながら減少する,ねじり軸前後 で若干非対称な分布となるため,背腹面でモーメントを増加させることになり,振動翼 から離れているにも拘らず,非定常モーメントは若干ではあるが大きくなる.これは圧 縮性の影響であると考えられる.すなわち,着目翼の空気力仕事に対しては,圧縮性の 影響により,着目翼の腹面側に位置する‑2 番翼からの寄与が若干大きくなる.遷音速 領域では,‑2 番翼の振動の影響(第 4 章では,0 番振動翼が+2 番翼に及ぼす影響)は,
背面の非定常圧力振幅にはほとんど現れず,腹面の衝撃波位置付近に衝撃波による非定 常圧力振幅の増大が若干見られるが,ねじり軸位置に近いため,非定常モーメントとし ては非常に小さい.従って,着目翼の空気力仕事に対する‑2 番翼の寄与は非常に小さ い.
(5)最後に,振動翼(0 番翼)の背面側に離れて位置する+2 番翼の寄与について見て みる.非圧縮領域と亜音速領域では,+2 番翼の振動により着目翼に誘起される非定常 圧力振幅(第 4 章では,0 番翼の振動により‑2 番翼に誘起される非定常圧力振幅)は,
翼全体にわたり小さくほぼ一定であるので,非定常モーメントは非常に小さい.つまり,
着目翼の空気力仕事に対して背面側に位置する+2 番翼からの寄与は非常に小さい.し かし,遷音速領域では,背腹面とも衝撃波変動位置付近の非定常圧力振幅が大きくなり,
+1 番翼の振動により誘起される非定常圧力振幅よりもねじり軸前後で非対称性が大き いために,+2 番翼の振動により着目翼に誘起される非定常モーメントは,着目翼の背 面側隣接翼である+1 番翼の振動により誘起される非定常モーメントよりも大きくなっ
ている.このように,衝撃波変動の影響は圧力変動に大きく現れるが,非定常モーメン トはねじり軸位置と衝撃波位置との関係によって決まるため,振動翼の背面側隣接翼
(+1 番翼)よりも,振動翼から離れている+2 番翼の影響の方が大きくなる.これは衝 撃波がある場合の特徴である.すなわち,衝撃波の影響により,着目翼の空気力仕事に 対しては,着目翼の背面側に位置する+2 番翼からの寄与が大きくなる.しかし,衝撃 波が存在する遷音速領域で,振動翼腹面側に対して遠くまで翼振動の影響が及ぶ理由に ついては,現段階では明確ではない.
上述したように,遷音速領域においては衝撃波変動位置付近に大きな圧力変動が生じる が,背面のようにその位置がねじり中心から離れていればモーメントに大きく効くが,腹 面のようにねじり軸に近いとモーメントには効かない.しかし,翼列条件が違えば,衝撃 波位置とねじり軸との位置関係が変化して,モーメントにも大きく影響を及ぼすことが考 えられる.
上述したように,遷音速領域においては衝撃波変動位置付近に大きな圧力変動が生じ るが,背面側のようにその位置がねじり中心から離れていればモーメントに大きく効く が,腹面側のようにねじり軸に近いとモーメントには効かない.しかし,翼列条件が違 えば,衝撃波位置とねじり軸との位置関係が変化して,モーメントにも大きく影響を及 ぼすことが考えられる.
次に,図 5‑3(非圧縮領域),図 5‑6(亜音速領域)及び図 5‑9(遷音速領域)に示 した局所エネルギと非定常圧力について比較してみる.図 5‑3(非圧縮領域)と図 5‑6
(亜音速領域)を見ると,(4)で述べたように,亜音速領域では圧縮性の影響により,
着目翼の空気力仕事に対して腹面側に位置する‑2 番翼からの寄与は若干大きいという 違いがあるが,非定常圧力振幅についてはほとんど相違は見られず,圧縮性の影響は少 ない.しかし,翼背面後縁付近の位相に影響が現れるため,翼面局所エネルギについて は,亜音速領域では,翼背面後縁付近に非圧縮の場合とは違いが生じる.ただし,それ を除いては,非圧縮の場合とほぼ同じ分布傾向を示しており,圧縮性の影響はあまり顕 著ではない.
遷音速領域では,衝撃波変動により,非定常圧力変動の振幅と位相に,衝撃波がない 亜音速の場合とは大きな違いが生じる.図 5‑9 に示すように,腹面では,衝撃波変動位
置付近で圧力変動振幅が最大になる分布となるが,ねじり軸位置前後でほぼ対称である ためモーメントとしては相殺され,結果として局所エネルギ分布には衝撃波の影響は生 じない.背面では,非定常圧力振幅の分布がねじり軸より前縁側で一旦減少する分布を 示すことや衝撃波位置付近で圧力振幅が大きくなること,及び位相が衝撃波前後で大き く変化することが,非圧縮や亜音速の場合と異なる特徴である.しかし,衝撃波変動位 置付近を除いて,局所エネルギ分布にマッハ数による大きな違いはない.ただし,衝撃 波変動は,局所エネルギの面から見ると安定側に作用する.
5.3 まとめ
非圧縮領域,亜音速領域及び遷音速領域における全翼振動時の非定常空力特性につい て調べた.その結果以下のことが明らかになった.
(1) 非圧縮領域では,無次元振動数
k
=0.613 以上のk
で安定となる.この場合,空力的不安定に大きな影響を与えるのは腹面側隣接翼(‑1 番翼)である.0 番 翼自身は空力的安定に寄与する.
局所エネルギ分布から,翼背面側はねじり軸より前縁側は安定,後縁側は不 安定に寄与し,翼腹面側はねじり軸より前縁側で不安定,後縁側で安定に寄与 する.また,翼前縁付近の腹面側が大きな不安定要因となって,全体的には翼 前縁付近が不安定に寄与している.
k
が増加しても局所エネルギの分布傾向は変 わらないが,腹面側の局所エネルギが,ねじり軸より前縁側で後縁側より減少 の程度が大きいために,全体として不安定さは減少する.(2) 亜音速領域では,本実験における無次元振動数
k
の全ての範囲にわたり不安 定であった.空力的不安定に大きな影響を与えるのは腹面側隣接翼(‑1 番翼)であり,0 番翼自身は空力的安定に寄与する.また,圧縮性の影響により,腹面 側に位置する‑2 番翼からの寄与も若干大きくなる.
腹面側の局所エネルギ分布は,非圧縮の場合と同様に,ねじり軸より前縁側 の不安定から後縁側の安定へ単調に変化する.しかし背面側の局所エネルギに ついては,ねじり軸より前縁側では非圧縮の場合と分布傾向はほぼ同じである が,後縁付近では,非圧縮の場合とは違って不安定となる.しかし,全体的に 見ると,非圧縮の場合と似た傾向を示す.
(3) 翼間衝撃波が存在する遷音速領域では,本実験における無次元振動数の全て の範囲にわたり不安定であった.非圧縮領域と亜音速領域同様に,0 番翼は空力 的安定に寄与している.空力的不安定に大きく寄与するのは腹面側隣接翼(‑1 番翼)であり,衝撃波の影響により,背面側に位置する+2 番翼からの寄与も大 きくなる.
衝撃波変動位置付近を除いて,非定常圧力の位相特性に及ぼすマッハ数(あ るいは圧縮性の強さ)の影響は小さい.衝撃波前後で位相がほぼ 90°変化して いることは,非圧縮や亜音速領域との大きな相違点である.非定常圧力の振幅 と位相分布が,特に衝撃波位置付近で大きく変化するのに対応して,局所エネ ルギ分布にも衝撃波位置付近で非圧縮や亜音速領域との違いが顕著に現れる.
衝撃波変動は安定側に作用する.