21『岡山大学法学会雑誌』第57巻第1号(2007年9ナ])
担保保存義務に関する一考察 −
判例・学説の推移臼 −四
五 一ヽ ﹂ノ 櫛 民法第≒九l一条二項との制度的交錯 ㈱ 担保保存義務の免除特約論 ㈲ その他の問題点 ㈲ 小括−判例・学説の大枠形成 交錯・特約論の登場・その他
㈲ ﹁間接義務﹂概念の導入 − ドイツ法の注人
物 制度の位置付けの相違﹂柚木説と西村説を中心に
後期の判例・学説1企業法務の展開︑判例・学説による制度の微調整
最近の判例・学説の動向とその到達点
むすび 中期 ︵大正・昭和初期︶ の判例・学説
− 間接義務概念の導入・制度の位置付けの対﹂吐・民法第三九二条との はじめに − 問題設定 初期の判例・学説 − 動揺期
複雑化の新たな要因
︵以上本号︶ ︵以上本誌五六巻二・E号︶ ︹以上本誌五六巻⁝一号︶
明 博
二
同 法(57−1)22
三 中期 ︵大正・昭和初期︶ の判例・学説
− 間接義務概念の導入・制度の位置付けの対立・
民法第三九二条との交錯・特約論の登場・その他
㈲ 民法第三九二条二項との制度的交錯 − 複雑化の新たな要因
担保保存義務制度の位置付けを複雑化する要因が︑中期へ大正から昭利の前半︶ に新たに加わるりそれは︑民法第
五〇四条︵担保保存義務制度︶と第三九二条二項︵共同抵当の代位︶との交錯である︒わが国においては︑従来から不
動産担保を中心としており︑担保力強化のため複数の不動産に抵当権を設定し︑かつ同一不動産上に複数の抵当権
が設定されることが二股的である︒しかし︑一部の不動産の代価のみから配当︵異時配当︶がなされると︑後順位抵
当権者と先順位抵当権者との利益調整が必要となるため︑後順位抵当権者には第三九二条二項による代位が認めら
れている′∪一方︑後順位抵当権者は法定代位権者でもあるため︑第五〇四条における免責対象者を後順位抵当権者 l− まで拡張する解釈が次第に有力となる ︵独仏法のような保証人限定型 ︵または保証人プラスα型︶ ではない︶り ここに︑
本来は質的に異なる二つの代位制度が交錯する背景があり︑この交錯が担保保存義務制度の位置付けをさらに複雑
化することになる︒
この当時の判例を見ると︑当初の対応とその彼のそれとは異なる︒まず当初においては︑後順位抵当権者は代位
の期待を有するのみでそれは法的に保護される利益・権利ではないという立場をとっていたっ この立場をとるもの
として︑﹇12﹈大決大六・一〇・二二民録二三・一四一〇がある︒すなわち︑先順位の抵当権者は︑後順位の抵当権
が設定された物件のみを残して他の物件について抵当権を放棄し︑これを原因として放棄物件に対する抵当権登記
の抹消を申請した︒これに対して︑後順位抵当権者が不動産登記法第一四﹂ハ条における抹消につき登記上利害関係
23 担保保存義帝に関する・一考察
ルモノニシテ該次順位抵当権者ハ単二将来右代位権ヲ取得スルニ至ルヘキ希望ヲ有スル二過キサルカ枚二縦令此ノ
場合二先順位抵当権者力次順位抵当権ノ目的タル物件以外ノ不動産二付有セル抵当権ヲ地棄シタレハトテ之ヲ以テ
直二次順位抵当権者ノ権利ヲ侵害セルモノト断スルコト能ハス﹂とした︒すなわち︑先順位抵当権者が︑後順位抵
当権の目的でない不動産について有する抵当権を放棄したからといって︑後順位抵当権者の民法丁二九二条二項に基 づ く代位権が未発生である限り︑未だ発生せず代位権を取得する希望を有するにすぎず︑その権利を害したとはい
二三
条第二項二基ク次順位抵当権者ノ代位権ハ先順位ノ抵当権者力其ノ抵当権ヲ実行スル以前二在リテハ末夕発生セサ ノ希望ヲ有スル二過キサルモノトス然レハ一番抵当権者力二番抵当権ノ目的不動産ノミニ付弁済ヲ受クルニ先チ他 ノ抵当不動産こ付抵当権ヲ放棄スル場合ハ二番抵当権者ハ其放棄ヲ妨クヘキ何等ノ権利ヲ有スルモノニ非サルナ リ﹂︑とした ︵傍線・筆者∵以下も同様︶︒すなわち︑本決定は︑後順位抵当権者は代位の期待を有するのみで抵当権 の放棄を妨げる権利を有しないとし︑抗告を棄却した︒また︑﹇32﹈大判昭七二一二一九民集一一 二二 二二九 七も基本的には﹇12﹈決定と同様の対応をとっている︒すなわち︑甲乙丙の物件に先順位の抵当権を有するYが内物 件に対する抵当権を放棄し甲乙物件を実行し弁済を得た︒これによって︑甲乙物件上に後順位の抵当権を有するⅩ が丙物件への代位権を行使できなくなったとして損害賠償を請求した事件である︒﹇32﹈判決は︑﹁民法第三百九十二 を有する者であるとして︑その承諾書のない登記抹消は登記官吏の不当処分であるとし抗告した事件である︒﹇12﹈ 決定は︑﹁第一順位ノ抵当権ノ目的クル数箇ノ不動産中ノ一部ノ上二第.一順位ノ抵当権ノ設定アル場合二於テ一番抵 当権者力民法第三百九十二条第二項前段ノ規定二従ヒ二番抵当権ノ目的タル不動産ノ代価ノミニ付弁済ヲ受ケタル トキハT一番抵当権者ハ同条項後段ノ規定二依り一番抵当権者二代位シテ抵当権ヲ行フコトヲ得ルモ此代位権ハ一番 抵当権者力二番抵当権ノ目的不動産ノミニ付キ弁済ヲ受ケタル為メ其不動産二付債権全部ノ弁済ヲ受クルコトヲ得 サル場合二始メテ取得スルモノテンテ一番抵当権者力右ノ弁済ヲ受ケサル限リハ二番抵当権者ハ単二代位スルコト同 法(57→ト)24
百四条ノ法意ヲ類推スルニ依リテ知ルヲ得ヘシ﹂とした︒すなわち︑先順位の抵当権者が数個の不動産の一部に対
する抵当権を放棄した場合に︑光順位の抵当権者は︑競売代金の配当に当って︑抵当権の放棄がなかったならば代
位しえた限度で︑後順位の抵当権者に優先しないとした︒
﹇42﹈判決は主な争点において﹇32﹈判決と同様であり︑後順位抵当権者は損害賠償を請求したのに対して︑判決は
残抵当権の行使は可能であるとしその請求を棄却したが︑その中で重要な価値判断の転換が見られる︒つまり︑残
抵当権を実行して配当をするに当たり︑先順位抵当権者はその放棄の目的である抵当物件の価額に準じ後順位抵当
権者に対して優先弁済を受けることができないとしたのである︒これは︑先順位抵当権者にべナルティを課してで
も︑後順位抵当権者の代位を保護しようとする価値判断が洋上していることが窺える︒
以上の判例の流れを整理すると︑第lに︑請求原因として担保保存義務違反が正面から主張されていないことが
分る︒登記官吏の不当処分に対する再抗告の件︵﹇12﹈決定︶︑損害賠償事件︵﹇32﹈﹇42﹈判決︶である︒当初の﹇12﹈決定 価額二準シ次順位抵当権者二村シ優先弁済ヲ受クルヲ得サルハ必シモ多言ヲ侯タス這ハ民法第三百九十二条及第五 二囲
えないとした︒
ところがその後︑判例理論に変化が生ずる︒﹇42﹈大判昭一一・七・一四民集一五・一七・一四〇九は︑﹇12﹈決定
﹇32﹈判決とは異なる価値判断を窺わせるようになる︒﹇42﹈判決は︑﹁民法第五日四条ノ規定ハ第五百条ノ規定二依リ
テ代位ヲ為スヘキ者アル場合二於テ債権者力故意又ハ慨怠二因リテ其ノ担保ヲ喪失又ハ減少シタルトキハ代位ヲ為
スヘキ者ハ其ノ喪失又ハ減少二困り償還ヲ受クルコト能ハサルニ至りタル限度二於テ其ノ責ヲ免ルト云フニ過キス
而モ抵当権ノー部 ︵即チ同一債権ノ担保タル数個ノ抵当不動産中ノ戎モノニ対スル抵当権︶ ヲ地棄シタリトテ其ノ
残部ノ抵当権 ︵即チ爾余ノ不動産二対スル抵当権︶ ハ勿論存在スルカ放こ其ノ行使ヲ為シ得サルノ道理無シ唯本件
ノ如キ場合二於テハ抵当権ヲ実行シ競売代金ノ配当ヲ為スニ当り先順位抵当権者ハ其ノ拗棄ノ目的タル抵当物件ノ
25 担保保存義務に関する一十考察
﹇32﹈判決の事案では︑請求内容から両制度︵第三九二条二項と第五〇四条︶ の枠組みの交錯は意識されていない︒こ
れに対して︑﹇42﹈判決の事案では損害賠償請求の前提として第五〇四条の議論が持ち出されており︑これが両制度
の交錯︵﹁民法第三百九十二条及第五首四条ノ法意ヲ類推﹂︶ に繋がったと推測される︒
第二に︑代位の期待利益の位置付けに違いがある︒﹇12﹈決定﹇32﹈判決においては︑第三九二条二項による代位の
期待は法的に保護するに催する利益とは解されていない点が注目される︒これに対して︑﹇42﹈判決は判例理論の転
換を示唆している︒確かに﹇42﹈判決も損害賠償の請求を認めておらず︑この結論については抵当権者の自由選択権
を前提にした判断であり︑担保価値の効率的利用という第三九二条二項の趣旨に従った解釈である︒そこから推論
をすれば︑後順位抵当権者の代位期待を強く保護する必要性は導かれないはずである︒しかし︑﹇42﹈判決は︑後順
位抵当権者の代位期待を強く保護している︒その判断の根底には︑先順位抵当権者による行為によって後順位抵当
権者の代位権が不利益を被ることは放置されるべきではなく︑代位の期待・地位は法的に保護されるべきものであ ′りご るとの価値判断があったものと思われる︒しかし︑当時の学説には︑回﹇42﹈判決の結論を大筋において是認する説
もあるが︵もっとも山田博士は理論構成において不十分とする︶︑﹇42﹈判決とは異なる主張が複数見られる︒すなわち︑
㈲抵当権を放棄をした先順位抵当権者に対する不法行為責任の追求を認める説︑回放棄には後順位抵当権者の同意
を要するとする説︑刷抵当権を放棄しても後順位抵当権者に対抗できないとする説である︒㈲説によれば︑不法行
為による損害賠償の問題となり︑担保保存義務の問題から切り離して処理されることになる︒また︑先順位抵当権
者に後順位抵当権者を促害する認識または認識可能性があることが要件となり︑担保の放棄について違法性が必要
となる︵第五〇四条構成との違い︶︒回説によれば︑そもそも後順位抵当権者の同意がなければ︑先順位抵当権者は担
保の放棄ができなくなり︑﹇42﹈判決とは推論の前提が異なってくる︵﹇42﹈判決は同意なしに放棄できることを当然の前
提とする︶︒刷説は︑抵当権を放棄しても後順位抵当権者に対抗できないとする︒これは︑担保放棄には相対的効果
二五
岡享去(57 1)26
二六
しかないと考えているからではないだろうか︒民法典が規定する放棄は︑絶対的放棄ではない ︵第三七六条︶︒絶対
的放棄は︑利害関係を有する第三者を害することになり︑信義則上も許されないはずである︒そうであるとするな
らば︑両説刷説は︑民法の原理部分から推論すると︑柁心に関わる︑十張が含まれていることになるU
最後に︑この間題の根底には︑両制度はどのような法的性質を有するかという問題がある︒﹇42﹈判決は︑右のよ
うに︑﹁民法第三百九十二条及第五百四条ノ法意ヲ類推スル﹂とし︑類似の性質を有する制度であるかのような表現
をする︒問題は︑両制度は見たところよく似た制度ではあるがその実態は似て非なるものではないかという点であ
る︒もしこの仮定が真であるとするならば︑本来性質の異なる制度が区別されずに議論されることによって︑制度
理解を一層複雑にする枠組みが形成され︑それが独り歩きしはじめたことになるU担保保存義務制度においては︑
免責対象者の求償権の有無・その確保が問題となるが︑第三九二条二項にいう代位は求償権とは関係しないという
ことである︒規定の体裁を見ても︑第三九二条二項は後順位抵当権者の代位を規定するのみで︑弁済者代位におけ
る第五〇四条のようなペナルティ規定が設けられていない︒第三九二条二項の趣旨が抵当権者の担保価値の効率的
利用と調整制度であるとするならば︑そこから後順位抵当権者の代位期待の侵害に対するペナルティを導き出すこ
とはできないはずである︒つまり︑後順位抵当権者の代位期待は自由選択権を有する先順位抵当権者の優先弁済権
を奪ってまで保護されるべき法的価値を有する利益なのかが問題となる︒
このように︑当時の判例・学説の議論を見ると︑両制度の交錯が生ずる萌芽が見られる︒﹇42﹈判決は︑傍論では
あるが︑その後の判例・学説に影響を残すことになる︒﹇42﹈判決は共同抵当の後順位抵当権者を保護しペナルティ
を認めようとするが︑そこでは第三九二条二項と第五〇四条の法意を類推すればとしか述べられていないつ両制度
の法意が問題なのであり︑両制度がどのように位置付けられるべきなのかを検討し直す必要がある︒
それでは︑第五〇四条の法意とはなにか︒第三九二条と原理部分で交錯するのであろうか︒第五〇四条の趣旨は︑
27 担保保存義務に関する一考察
債権者の担保保存義務を定めた規定である︒﹁第五百条の規定により代位をすることができる者がある場合におい
て︑債権者が故意又は過失によってその担保を喪失し︑又は減少させたときは︑その代位をすることができる者は︑
その喪失又は減少によって償還を受けることができなくなった限度において︑その責任を免れる﹂︑とする︒同条が
いう﹁第五百条の規定により代位をすることができる者﹂とは︑弁済をするについて正当な利益を有する者︵法定
代位権者︶ である︒わが国の民法の起草者は︑免責対象者を保証人・連帯債務者・不可分債務者に限定していた原
案を︑立法過程において変更し︑法定代位権者全般にまで免責対象者を拡げた︒それは︑立法者が︑代位による求
償の問題と担保保存義務の問題の ﹁質的な相違﹂を見落としたためである︒さらに︑その後の学説・判例は︑第五
〇四条の免責対象者を﹁後順位抵当権者﹂ にまで拡張する解釈をとるようになる ︵拙稿・同法第五六巻二号二三百ハ以
下︑四六頁︵γ一人︶︑二号八頁︵平一九︶︶︒担保保存義務制度は︑その制度の沿革・趣旨からみて︑本来は﹁保証人﹂
の求償権保護を念頭においた制度である︒つまり︑担保保存義務制度︵第五〇四条︶は︑その趣旨・原理部分におい
て︑共同抵当権者の代位︵第二九二条︶とは全く異なり︑次元を異にする︒したがって︑両制度はその法意において
も交錯するものではなく︑切り離して議論すべきである︒この点で︑判例理論の根拠付けは︑制度の原理部分の理
解において問題があると思われる︒
︵1︶ 仁井田益太郎﹁代位弁済﹂法協一一二二巻∵号八二︑九八百ハ︵大四︶︒
︵2︶ 回説⁚山田康・判民昭和二年度九E事件評釈︑m畠順﹁判研﹂
研﹂法と経済七巻二号一三四頁 ︵昭一二︶︑銀行判例⁝七巻∴号三
件評釈︑両説⁚石田文次郎﹁判研﹂論叢三六巻四号七三二頁︵昭︷
動産とが混同するとき共同抵当権は消滅するとした﹇18﹈大判大一一
博士は抵当権を放棄しても後順位抵当権者に対抗できないと解すべきであるとする︵末広厳太郎・判民大正二年度一二用事
件評釈︶︒当時の我妻博⊥は先の﹇12﹈決定﹇32﹈判決について後順位抵当権者の保護に欠けるとし批判的な見解を述べる ︵耗妻
二七 民商五巻二日ケ二八九三九〇頁﹁昭一一一︶︑浅井晴信﹁判 頁︵昭一.一︶︑㈲説⁚戒能通孝・判民昭和七年度一人一事 ︺ がある︒なお︑放棄事例ではないが︑共同抵当権と不
二 一一人民集一・八六五に関する評釈において︑末広
開 法(571)28
㈱ 担保保存義務の免除特約論
次に︑担保保存義務の免除特約の有効性についての議論を考察することにする︒債権者としては︑自己の債権の
担保力強化のために︑担保を増やそうとするはずである︒ところが︑実務においてほ︑担保設走者からの求めに応
じて︑担保を放棄したり︑担保権の順位を譲渡・放棄したり︑保証債務を免除したりすることがある︒このような
担保操作の必要性は︑すでにこの当時において認識されていたようである︒そうすると︑債権者とりわけ銀行にとっ
て無視できない問題が浮上する︹ノそれは︑担保操作が担保保存義務に違反すると解されるのではないかという懸念
である︒実務においてはすでにこの当時︑このような怯えに近い懸念を振り払う手段として︑担保保存義務の免除
l﹂ 特約が一般に利用されていたようである︒
このような実務の状況にあって免除特約の有効性が問題となったのが︑﹇44﹈大判昭一二・五・一五新聞四一三
三一大である︒﹇44﹈判決は︑まず︑当座勘定借越契約書の契約条項における﹁保証人ハ本契約ヨリ生スル債務二
付テハ担保品二不拘本人卜連帯ノ義務ヲ負担弁済ノ責二可任候就テハ担保品提供返却交換並二増減等ハ貴銀行卜本
人間二於テ自由二御取計相成候共脚力異議無之候﹂との記載を担保保存義務の免除特約と認定している︒その上で︑
﹁民法第五百四条ノ規定ノ趣旨トスルトコロハ法定代位ヲ為シ得ル者ハ債権者力故意又ハ慨怠二因り其ノ担保ヲ喪
失又ハ減少シタルトキハ其ノ担保物二付代位ヲ為スコトヲ待サルニ至り為二債務者ヨリ償還ヲ受クルコト能ハサル
虞アルヲ以テ其ノ償還ヲ受クルコトヲ得サル限度二於テ法定代位ヲ為シ得ル者ヲシテ其ノ責任ヲ免レシメ以テ債権
者ヲシテ法定代位ヲ為シ得ル者ノ利益ノ為メ二担保ヲ保存スヘキコトヲ間接二強制スルニ外ナラス従テ該規定ハ全 r一人
栄・担保物権法 ︵昭二︶ 二〇〇頁︶︒
︵3︶ 西村信雄﹁法定代位権﹂民商一⁚巻三号四七−四人頁 ︵昭一〇︶︵この当時この点を示唆する文献はほとんどない︶︒
29 担保保存義務に関する・一考察
ク法定代位ヲ為シ得ヘキ者ノ利益ヲ保護スルコトヲ目的トスル一種ノ便宜的規定二シテ竜モ公益的意義ヲ有スルモ
ノニ非サルヲ以テ法定代位ヲ為シ得へキモノカ債権者トノ間二該規定二基キ享受スヘキ利益ヲ予メ地棄シ該規定ノ
適用ヲ除外スルコトラ特約スルコトハ固ヨリ有効ニシテ右ノ如キ特約ヲ以テ信義誠実二反シ若ハ公序良俗二反スル
コトヲ目的トスル契約ナリト謂フヲ得サルモノトス﹂︑とした︒すなわち︑第五〇四条の規定の趣旨とするところ
は︑債権者に法定代位権者のために担保を保存すべきことを間接に強削するものであるとし︑従って︑同条は法定
代位権者の利益を保護することを目的とする一種の便宜的規定にして公益的意義を有するものではないとした︒そ
れゆえ︑免除特約をすることは有効であって︑特約が信義誠実または公序良俗に反することを目的とする契約では
ないとした︒
﹇44﹈判決を分析すると︑第一に︑第五〇四条の趣旨として︑債権者に対する強制は間接的なものであること︑同
条は便宜的規定であること︑公益的意義を有しないことを挙げている︒つまり︑同条は任意規定であると位置付け
られていることになる︒ここから︑同条が定める担保保存義務を排除する旨の免除特約がなされてもそれは有効で
あり︑信義則または公序良俗に反するものではないとされていることが分る︒あわせて︑債権者に不法行為的責任
のある場合をも免除する特約ではないとする主張がなされたが︑判決はこれも理由なしとして排除している︒以上
のことから︑﹇44﹈判決は︑債権者の担保操作による責任を免除する特約の有効性を積極的に肯定する判断を示した
ことになる︒第二に︑﹁保証人ハ本契約ヨリ生スル債務二付テハ担保品二不拘本人卜連帯ノ義務ヲ負担弁済ノ責二可
任侠﹂との定めが先の契約条項の前半に含まれている︒つまり︑保証人は担保品に拘わらず責めを負うことを意味
する︒﹇44﹈判決がこの条項の有効性をも認めていることからすれば︑保証人は取引の最終段階において責めを負う
ために存在する担保と位置付けられていることになる︒つまり︑保証の担保的価値が非常に高く位置付けられてい
ることになる︒このような過剰な負担が保証人となる者の合理的意思に合致するかどうかが問題となる︒
二九
開 法(57rl)30
二〇
﹁44﹈判決の推論の出発点はどこにあるのであろうか︒第五〇四条を弁済者代位制度の補完制度と位置付け︑それ
を起点として推論しているとするならば︑﹇44﹈判決の結論およびその理由付けは﹁分に予想されうるものである︒
第五〇四条は信義則や一般的注意義務とは無関係な規定であることになり︑任意規定の色彩が強くなるからである︒
﹇44﹈判決が参照したと推測されるこの当時の通説的な理解も︑根底においては﹇44﹈判決と同様であり︑債権者は法
定代位権者に対して担保保存の間接義務を負うにすぎず︑同条は︑担保の毀滅によって法定代位権者の事実上の負 ソニ 担が増加することを防ぐ一種の便宜規定であるとされている︒
しかし︑担保保存義務は信義則に基づくものであり︑とりわけ免責対象者が保証人の場合には︑債権者は一般的
注意義務を負うと解することができる︒もしそうだとするならば︑債権者は保証人の求償手段を確保する義務を最
後まで負うことになる︒保証人の求償権の確保手段は︑免除特約によっても奪うことができない性質のものと思わ
れるからである︒そうだとすると︑免除特約は無条件に有効とすることはできないはずである︒少数説ではあるが︑
具体的諸事情に応じかつ信義誠実の原則に従って合理的な意思解釈をなすべきであり︑免除特約も担保保存の注意
ハJ 義務を全面的に免除するものではなく︑ある程度これを軽減する趣旨であったと解しうるとする説がある︵西村︶︒
この説は︑そもそも﹇44﹈判決や通説とはその推論の起点が異なり︑免除特約の捉え方も異なる︒それは︑免除特約
があっても︑担保保存義務は完全には免除されないというところに反映されている︑り特に︑保証人の代位期待は免
除特約によっても完全には奪いとることのできない性質を有することになる︒
︵1︶ 小林徳二一郎﹁銀行に於ける債権擁護の方法﹂銀行論叢二四巻五号八二︑八八頁︵昭一〇︶︑銀行判例一八巻二号三九頁︵﹇44﹈
判研︑昭一一▲︶︒
︵2ノー鳩山秀夫・円本債権法︵総論来∵二︶ 二六一頁︑柚木馨﹁債権者の担保喪失に関る代位弁済者の免責﹂民商一巻号八九
頁 ︵昭一〇︶︒
31担保保存義務に関する一考察
㈱ その他の問題点
先述の問題︵㈲〜㈱︶以外にも︑この当時において議論されたいくつかの問題点がある︒それらを︑以下におい
て整理することにする︒
日 代位後の担保放棄−−∴第五〇四条の適用範囲か ﹇3﹈大判明四〇・五・一六民録一三・五一九は︑﹁民法第
五百四條ハ既二班洒ヲ馬シタル者即チ既二代位ヲ馬シタル者二開スル規定ニアラスシテ若シ排酒ヲ焉サハ代位ヲ馬
スヘキ者二開スル規定ナルコトハ該條文二 ﹁代位ヲ馬スヘキ者アル場合二於テ﹂ト云ヒ ﹁代位ヲ焉スヘキ者ハ﹂ト
云フこ依テ明瞭ナリ﹂とする︒すなわち︑第五〇四条の適用があるのは︑すでに弁済し代位した着ではなく代位を
なすべき者であるとする︒この解釈は︑当時の学説においても定着していく︒
それでは︑担保の放棄によって免責効果が生じているにもかかわらず︑担保の実行があった場合はどうなるか︒
この点について︑﹇3﹈判決は︑共同抵当権を有する債権者が︑ある第三取得者の不動産に対する抵当権を放棄した
後︑債権全額について他の第三取得者の不動産に対する抵当権を実行したときは︑後者に対する不当利得となると
する︒担保保存義務違反について︑当然免責主義をとりかつ担保放棄時に免責効果が確定的に生ずると解するなら
ば︑不当利得の問題となる︒これに対して︑もし仮に当然免責方式ではなく免責の抗弁を裁判上主張する方式をと
るならば︑債権者の請求や担保権の実行があれば︑それに対して抗弁が主張され︑免責の有無・担保権の実行の正
当性が判定される︒これほ︑同条の適用対象だけの問題ではなく︑制度の位置付けと関係する︒
なお︑代位した後に担保の放棄などがあった場合については︑不法行為・不当利得により解すべしとする説が つ︼ノ ある︒
二∴ ︵3︶ 西村信雄・継続的保証の研究 ︵昭二七︶ 二五〇頁リ
同 法(57−1)32
■・・
㈱ 第五〇四条における﹁債権者﹂ 次に︑第五〇四条にいう﹁債権者﹂ の意義であるが︑その意義はそれま
で曖昧であったが︑﹇36﹈大判昭九・一〇・一六民集一三 二一・一九一三は︑﹁民法第五百四条ハ保証人其ノ他法定
代位ヲ為スヘキ者アル場合二於テ之ヲ保護シ主タル債務者二村スル求償権ノ確保ヲ得セシムル為債権者二担保保存
ノ義務ヲ負ハシメタルモノニシテ其ノ債権者力当初ノ債権者タルト将夕代位二因リテ債権者卜為りタル者タルトヲ
区別スヘキ理由存セス﹂︑とした︒すなわち︑第五〇四条にいう債権者とは︑当初の債権者だけを指すのではなく︑
例えば連帯保証人の.人が弁済により債権者に代位した後に担保を放棄Lた場合のように︑代位により債権者の地
二Jこ 位に止った者も含まれることになる︒なお︑第五〇E条にいう担保は代位を正当に期待しうる担保であることを要
するから︑担保と弁済者との間に代位権の行使を期待できない事情がある場合には︑担保の喪失による免責はない
・1 と解される︒従って︑連帯保証人でかつ物上保証人である者が弁済をし自己の提供物件上の登記を抹消しても︑他
の連帯保証人は弁済した連帯保証人からの求償に対して担保の喪失を理由として責任を免れることはできない
︵﹇37﹈大判昭九・一・二四民集一三・二一五三︶︒
㈲一部弁済・一部放棄 一部弁済にともなう一部放棄の事案の取り扱いも問題となっている∩︑すなわち︑債
権者が一部弁済を受けて担保の一部を放棄した場合に︑一部弁済がなされたことを考慮するかにつき︑﹇47﹈大判昭
二二一二・一七判決全集六・一一二一六は︑﹁民法第五百四条ニハ単二債権者力故意又ハ僻怠二困リテ其ノ担保ヲ喪
失又ハ減少シタルトキハ代位ヲ為スヘキ者ハ其ノ喪失又ハ減少二困り償還ヲ受クルコト能ハサルニ至りクル限度二
於テ貢ヲ免ルル旨規定セルカ故二縦令債権者力一部弁済ヲ受ケテ担保ヲ喪失又ハ減少セル場合卜雑然ラサル場合卜
同様民法第五百条ノ代位権者ハ其ノ喪失又ハ減少シタル担保物ノ価格二相当スル債務一一付其ノ貢ヲ免ルルモノト解
スヘク﹂とし︑⁚部弁済を受けて担保を放棄したか否かにかかわらず︑放棄された担保物の価格に応じて免責され
るとした︒この判断は︑﹇3﹈人判明四〇・五・一六︵先述一一2刷︶を踏襲するものである︒つまり︑第五〇四条の文
33 担保保存義務に関する一一考察
言においては担保の喪失または減少が無条件に行われたか否かを区別していないことを理由としており︑そこでは
7ヱ 担保放棄の背景となる実質的事情・条件を考慮する視点は見られない︒また︑担保不可分の原則を維持する方向に
ある︒囚に︑﹇47﹈の原審判決は放棄された担保価格から一部弁済額を差し引いた残額を限度に免責されるとL︑山
部弁済の有無を考慮するとの立場をとっている︒同条にいう﹁償還ヲ受クルコト能ハサルニ至りタル限度﹂ の解釈
が問題となる︒これは︑次の㈲残担保の有無⁚三倍務者の支払能力の有無を考慮するかの問題とも関連する︒
﹁残担保﹂の有無⁚王債務者の﹁支払能力﹂の有無を免責 ㈲ ﹁残担保﹂の有無・主債務者の﹁支払能力﹂
額の考慮要因とするか︒この点については︑主債務者が償還に応ずる資力を有するかどうかに拘わらないとする判
決がある︒第五〇四条の規定は喪失または減少Lた担保によって償還を受けることがてきた限度において法定代位
権者は責めを免れる趣旨であると考えられているためである︵︷22﹈朝鮮高判人一五二〇・二六評論一五・民一一五三︒
この﹇22﹈判決は先の﹇6﹈宮城控判明四三・四・一一七新聞六四八二三と同旨である ︵先述二2刷︶︶︒もっとも︑大審院判
決においては傍論ではあるが︑これとは異なる判断を窺わせるものがある︒﹇39﹈大判昭一一二二・一三民集一五・
三三九は︑﹁債権者力担保ノ一部ヲ地嚢スルモ残担保ノ価格充分ナルニ於テハ民法第五百四条適用ノ問題ヲ生セサル
場合モ有ルヘク従テ地棄当時二於ケル地棄担保ノ価相其ノモノヲ以テ直ナニ同条所定ノ免責ノ額ナリトナス能ハサ
ルハ論ナシ﹂︑とする︒すなわち︑債権者が担保の一部を放棄しても残担保の価格が十分であるときには第五〇四条
適用の問題を生じない場合もあるとし︑残担保実行時における喪失担保の価格を免責額とすべきとする︒差異を生
ずる分岐点は︑同条における﹁償還を受けることができなくなった限度﹂を文字通りに解するか︑それとも残担保
を実行し主債務者・共同債務者への求償権も行使した結果生ずる損害︑つまり実損害と解するかにある︒この当時
における学説において︑法定代位権者が求償権に基づいて債務者から償還を受けたときには︑代位権者はなんら損 卜 害を蒙らないから本条の適用はないとする有力な主張が一部にあり注目される︵石田︵文︶︶︒しかし︑実際にその後
三三
同 法(57−1)34
..川
受け継がれるのは残担保などの存在を考慮﹂ないとする立場である ︵綬述四︶︒本質的には︑制度の付置付けと関連
する問題である︒
回 第三九二集二項代位と第五〇〇集代位 第三九二条二項による代位と第五〇〇条による代位との﹁優先関
係﹂がこの当時の判例において浮上する︒債権者が狭義の弁済ではなく﹁競売﹂ によって満足を得た場合に︑第五
〇〇条による代位を否定する判決が当初に見られたが ︵﹇16﹈人判大一〇・二 二八民録二七二九六六︶︑その後の
判決は肯定するに至った ︵﹇24﹈大判昭四二 二二〇新聞二九四五二二︑﹇43﹈大判昭一 二∵九民集一五∴由・劇
一七二︶︒このことから︑競売によっても第五CC条の代位が生ずるとするならば︑共同抵当の目的物の一方または
双方が物上保証人の提供物件である場合に異時配当がなされると︑後順位抵当権者の代位︵第二九二条二項︶と物上
保証人の代位︵第五〇〇条︶との優先関係が新たに問題となる︒具体的には︑共同抵当の目的物の二万が債務者所有
‖0ノ 二7∴ 物件であり他方が物上保証人所有物件の場合︑双方が異なる物上保証人所有の場合が間道となっており議論されて
qこ いる︒第三九∴条の趣旨は配分︑上義を貫くか割付主義や制限主義の色彩が加味されたものと見るかによって︑物上
保証人の信頼保護の程度が左右されることになる︒そうであるとするならば︑そこでの議論は︑先述畑における先
順位の抵当権者が後順位の抵当権の設定された物件のみを残して他の物件について抵当権を放棄した場合の代位の
期待保護の問題とも根底において繋がることになる︒
︵1︶ 横甜秀雄・債権総論︵大国︶九三九頁︑川名兼四郎・債権法要論︵大七︶五五〇頁︑柚木馨﹁債権者の担保喪失に因る代位
弁済者の免責﹂民商一巻号九〇頁︵昭一〇︶︑田島順・債権法︵昭一五︶ 二七人頁︑末広舷太郎・債権総論︵現代法学全嗅
第一〇巻︑昭四︶ 二二二頁り
︵2︶ 川島・同右︒
︵3︺ 石本雅男﹁判研﹂放と経済三寒斎号︷二三頁︵昭一〇︶︑小池隆一﹁判研﹂民商一巻五号八五頁 ︵椚∴○︶ ︷第五〇四条の立
35 担保保存義務に関する一考察
法理由 ︵求償権の保護︶ から債権者の範囲を広く解する︶U 両評釈ともに﹁36﹈判決を支持する︒
︵4︸ 来季彦■判民昭和九年度二血四事什評釈︵抵当権の消滅は物上保証人が本来の義務を逐行した当然の結果であるとする︶︑
西村信雄﹁判研﹂民商一巻六号一一〇頁︵昭∵0︶ ︵他の法定代位権者の正当な期待への侵害の有無を問題と↓る︶︑近藤英吉
ほか∴任釈じ本民法︵債権総則︶ 下巻 ︵帽一一︶ 二五四貢 ︵柚木馨執筆︶︑田島・前掲書注︵1︶二七七頁︒
︵5︶ 柚木博⊥も︑前掲論文 ︵注︵1︺九二頁︶ の時代においては一部弁済を考慮しない立場をとられる ︵しかし変化がその後に見
られる ︵後述四︶︶︒
︵6︶ 石田文次郎・債権総論講読 ︹昭一五︶ 二九三頁︒これに対して︑石本椎男・債権法総論 ︵昭二六︶一九〇頁は残担保の有無
などを考慮する必要はないとする︒
︵7︶ 物上保証人の代位を優先↓る判決として︑本文の﹇24﹈判決がある ︵﹇33﹈広島地尾道支利昭八・五・一六新聞三五七五・一二
も同旨︶︒この立場がその後の判決にも吾け継がれる ︵後述四︶︒
︵旦︶ 双方が異なる物上保証人所有の場合について︑本文の﹇43﹈判決は物上保証人の信頼を保護する立場をとり︑競売物件を耀供
した物上保証人に提供物什の価格に応じて代位︵第九〇一条︶を認めるとする︒この当時の耗妻博士は︑物上保計人となる者
は不動産の価格に応じた披担保債権の按分敢の負碑を甘受しているとの判断をホされた︵我妻栄・判民昭利一一年嘆▲瓦○事
件評釈︑同・担保物権法︵昭〟 二 二〇一頁︑同旨⁚小池隆一﹁判研﹂民商五巻﹂ハ号五一二頁︵昭一二︶︶︒ただし︑その後改
説される ︵新訂担保物権法 ︵昭四三︶ 四五七貝︶=ここから窺えることは︑第三九二条∴項の代位を割付的な権利に近いもの
と解するか否かが推論結果に影響しているということである︒
なお︑﹇43﹈判決は物上代位借用法理を採用した判決でもある∩ 物上代位の法理に言及する見解もあるが ︵梶m年﹁判研﹂新
報四七巻六号九六八頁︵昭一二︶︶︑第三九二条二項の趣旨を裁妾説︵旧説︶・小池説のように解すると借用法理は不要になる︒
ここでも︑第三九∴条の趣旨が問題となる︒囚に︑閲∵一物上保証人の掟供物件の場合について︑﹇25﹈大判昭五・九・二二新聞
二二九三・二二は傍詣であるが︑後順位抵当権者の代位︵第三九二条∴項︶ を認めている ︵もっとも︑この輯型が本格的に問
題となるのは﹇川2﹈最判平四二一・﹂ハ民集四﹂∵八∴二ハ二禿である ︵後述五︶︶U
︵9︶ ‖第二九二条二項の趣旨ついて︑﹇21﹈大連判大一五・Pq・八民集五・五七五は後順位抵当権者間の公平を維持することとす
る︒この当時の研究として︑石印文次郎﹁結締抵当論﹂法学一巻九号二四五頁︵昭七︶がある ︵比較法的研究に畢づく制度分
析から配分主義に制限主義を加味する立場を揺言される㌔
三五
同 法(57−1)36
三六
㈲ 小指 − 判例・学説の大枠形成
以上 ︵川〜㈲︶ において︑大正から昭和前半における判例・学説の流れを概観したが︑その内容を整理をすると
以下の通りである︒
注目すべき点は︑担保保存義務制度に関する現在の判例・学説の大枠がこの時代に形成されることである︒確か
に︑この時代には未形成の枠組やその後修正される部分もあるが︑現在の判例・通説における基盤が形成される︒
H 制度の位置付け 担保保存義務制度は︑弁済者代位制度の﹁補完制度﹂と付置付けられており︑それは︑
Lヰ法者の制度設計および初期の判例・学説の流 れの延長線上にある理解である︒これに対して︑保証人を中心とす
る信義則上の制度と解する説も主張されているが︑少数説にとどまる︵西村説︑﹇35﹈大判昭八・九・二九民集一二 二
四国三は保証人を重視する︶︒
㈲ 義務論 義務論はこの当時において精力的に議論されている︒ドイツ法の影響が強い時代にあって﹁間接
義務﹂という概念が導入され︑それが義務論の共通の土俵となっている︒当時の学説においては︑柚木論文に対す
る西村博士の反論は制度の根底に戻って義務論に反映させる主張であり興味深い︒しかし︑その後は︑西村博士の
ような視点を評価する研究はごく一部を除いて見られらなくなる ︵綬述凹︶︒また︑この当時の判例にも︑担保保存
義務を注意義務とする先述㈲の﹇11﹈大判大穴∵七・五民集二三・一一九七︑﹇17﹈大判大一一三⊥ハ民集一・八五
があり︑それは間接義務説をとる学説から強い批判を受けている ︵例⁚柚木︶︒しかし︑義務諭それ自体は︑戦後に
おいては問題解決に差異を生ずる程のものではないとされ︑議論がその後低調となる︒この背景としては︑ドイツ
法特有の性格が強い間接義務概念をあえてわが国の義務論に導入する必要性があるのか︑もし導入するとしても間
接義務概念をどのように位置付けるかという問題が未解決だったからであるっ この点は︑現在も引きずっている問
題である︒
37 担保保存義務に関する一考察
㈲ 免責対象者 免責対象者の範囲について︑この時代までにほぼその輪郭が浮び上がる︒保証人・物上保証
人・第三取得者が免責対象者であることが判例・学説において確認されている︒立法過程および初期の判例・学説
の流れから推論すると︑連帯債務者・不可分債務者も該当することになる︒第五〇囲条は︑免責対象者を﹁第五日
条の規定により代位をすることができる者﹂ ︵法定代位権者︶とする︒もしこの文言を文字どおりに解するならば︑
法定代位権者であればその全てが免責対象者となることになる︒一方︑この当時の判例は︑一般債権者にまで法完
︑︵l﹂ 代位権者の外延拡大を承認する方向にあ町︑その結果︑免責対象者もそれと連動して拡人することになる︒第五〇
四条の位置付けおよび体系において無視できない問題が表面化し始める︒担保保存義務制度はその沿革・比較法的
にも本来保証人を中心とする制度であるが︑第五〇四条はそのような体裁をとらないため︑同条の単純な解釈から
は免責対象者の範囲の制限的解釈は容易には引き出せない︒免責対象者の範囲は︑立法過程における制度設計に問
題の根があり︑その後も法解釈によって絞り込まれず︑逆に拡大する方向に向う︒
㈱ 担保の範囲 担保の範囲についても︑判例・学説の大枠がこの時代に形成される︒まず︑第五〇四条にい
う担保とは︑特別担保であって一般担保をいうのではないとされる︵先述潮の﹇7﹈大判大一二〇二八民録一人・八
七九︶︒債権者の一般的注意義務を問題とするならば︑すべての場合に一般担保が除外されるとはいえないはずであ
るが︑﹇7﹈判決の制限的解釈が判例・通説化してその後に受け継がれる︒主債務者が家賃の取立を担保として債権
者に委任した事案において︑取立委仔は第五〇四条にいう担保に該当Lないとし︑担保の範囲を制限的に解してい
る ︵﹇48﹈大判昭一四∵二二・二二判決全集六・八二二︶︒もっとも︑﹇48﹈判決は︑取立委任が債権者の便宜のためにな
されたもので︑賃料を取立てこれを主債務の弁済に充てるか否かはその任意に属すると認定された事案である︒従っ
て︑一般論としては︑取立委任の設定趣旨により同条にいう担保︵変型担保の一種︶と認定される場合もあると思わ
れる︒なお︑恩給を担保にする場合が見られるが︑恩給法第一一条により恩給を受ける権利を担保に供する契約は
三七
例 法(57−= 38
二八
禁止されており無効であるため︑債権者が恩給証書を債務者に返しても第五〇四条にいう担保の喪失または減少に
当たらないとされる ︵﹇28﹈大判昭六・五・山九新聞三二七七・一三 ︵その後も踏襲される︶︶︒
他方︑第五〇四条は保証債務負担後に始めて担保を生じた場合にもその通用があると解され︵先述㈲の﹇35﹈大判昭
八・九・二九民集一二面四二︵傍論︶︶︑担保の ﹁時的範囲﹂を広く解している︒﹁不作為﹂による担保の喪失・減
少についても︑例えば︑成立済み担保の登記を怠った場合︵﹇H﹈大判大六・七・五民録二三・一一九七︑﹇開﹈大判昭一
五・二・二四新聞四五囲四・八︑﹇51﹈大判昭一六 三・一一民集二〇二七⊥ハ︶︑担保設定契約を怠った場合︵先述榔の
﹇26﹈大判昭六二二二六民集一〇二五七︑﹇34﹈大判昭八・七・五民集一二二↓一九一︶︑条件付き担保について条件成就 り∴ の手続きを怠った場合において︑担保の範開を広く解する傾向が定着しっつある︒そこでは︑第五〇四条の保護法
意から債権者の執るべき手段に踏み込む見方もあり注目される︵西村説のような一般的注意義務を前面に出した推論で
はないが通ずる部分がある︶っもっとも︑取得吋能件の大きさ・付された条件の軽易さを判断し︑成立済み担保と同様
の期待がもてるものかどうかを計る解釈がその後は中心となる︒
回 担保物の価格下落 担保物の価格下落については︑第五〇四条による免責を認める判決︵先述榔の﹇35﹈大判
昭八■九二一九民集山一二一国些二︑﹇謂﹈大判昭一C∴二・.天民集一四・一二八二︶と否定する判決︵﹇19﹈東京地判大
一二二一・五評論一二民法一C〇八︑﹇訓﹈大判昭七二二・八評論二一民法山一九一︵以上先述甘︶︑﹇41﹈大判昭一一・六・
り′︶ 九判決全集三・六・九︑﹇46﹈大判昭一二・六・七判決全集五・一閃・二︶とがある︒問題は︑結論を分岐させる実質的
判断要因はなにかである︒換価せず放置した期間の長さ︑取引の実質的中止の有無︑当事者間に存する取引外の関
係・背景︑当該地域の取引慣習︵担保権の行使方法︶などがある︒これらは︑信義則的な考慮において読込まれる要
素である︒担保物の価格下落による免責を認めた判決では︑裁判官が当該事実関係からこれらの要素を抽出し辿っ
た上で総合的に判断している︒
39 担保イ呆存義務に関する■考察
佃 故意・過失 故意・過失については︑担保の喪失または減少につき故意・過失があれば足りるとする解釈
が︑この当時すでに判例 ︵﹇3﹈大判明四〇・五・一六民録一二・五一九 ︵先述二伽︶︶・通説となりつつあるっ しかし︑
いくつかの判決を見ると︑必ずしもそうとはいえない推論がなされている︒先述脚の﹇35﹈大判昭八・九二一九民集
一二二一四四三は︑担保物の価格下渚を担保の減少ではないとしつつも︑法定代位権者が保証人であること︑保証
人に対する高度の注意義務の存在︑換価せず放置した期間の長さその他の要因を読み込み︑信義則を挺子にして免
責を導く判断をしている︒そこでは︑客観的要件と主観的要件とが補完的に判断されていることが分る ︵担保物の
価格下落に関するその他の判決︵右回の﹇30﹈﹇謂﹂﹁41﹈判決︶についても分析する必要がある︶︒もし背景となる要因を総合
的に判断しているとするならば︑過失の判定は右﹇3﹈判決のいうようなものではないことになる︒なお︑担保の返
還から過失を推定する推論をとらず︑逆に相当の注意の有無によって第五〇凹条にいう故意または過失による担保
の喪共を限界付ける判断をするものもある ︵﹇9﹈大判大五∵一二七民録∵二・四〇八︶︒過失の判断は単線的判断で
はないことが窺える︒
㈹ 免責の効果 免責の効果についても︑判例・学説の大枠が浮かび上がる︒まず︑免責方式について︑弁済
を要せず法律上当然に免責されるとする﹇27﹈大判昭六・四・一七新聞三二六六・一一︵先述榔︶ の立場が判例■通
説となる︒さらに︑免責およびその額は︑残担保の有無⁚王債務者の支払能力の有無に拘わりないとされる ︵先述
㈲の﹇22﹈朝鮮高利大一五二〇・二六評論一五・民二五三︶っ一部弁済を受けて担保の一部放棄がなされた場合も︑一
部弁済の有無は考慮しないとされる︵先述㈲の﹁47﹈大判昭一三・一二∴七判決全集六∴二・二エハ︶︒いずれも︑画一的
判断に基づく処理である︒この立場からは︑免責の時期は︑債権者が担保を喪失・減少させた時ということになる
であろう︒実際︑先述脚の﹇26﹈大判昭六二二一六民集一〇・一五七がこの立場をとる︵判例・通説︶︒免責額の算
完時期も︑担保の全部喪失事案においては︑その時であるとする︒ところが︑一部喪失事案においては︑担保の減
三九
同 法(57−1)40
四〇
少時ではなく担保権の実行時期であるとされる ︵先述甘の﹇27﹈大判昭六・E・一七新聞二二﹂ハ六・一山︑﹇39﹈大判昭山
一・三・一三民集t五∴二三九︑右﹇47﹈判決︑通説︶︒そこでは︑抵当権の実行時や保証債務の履行請求時における実
際の償還不能額を見ており︑先のような画一的処理ではない︒現に︑この点についての学説は分かれる︒
㈹ 担保保存義務の免除特約 担保保存義務の免除特約については︑その有効性を完全かつ無条件に認める先
述㈱の﹇44﹈大判昭一二・五・一五新聞四一三三・一六がある︒その推論の起点は︑第五〇四条を弁済者代位制度の
補完制度と位置付け︑同条は便宜的規定であり任意規定と見るところにある︒﹇44﹈判決は︑実務の要請に応える内
容である へ免除特約に関する本格的な議論が登場するのは昭和四〇年代以降 ︵後述四︶︶︒
㈲ 第三九二条二項との交錯 第五〇四条と第三九一▲条二項との制度的交錯が生じたのはこの当時の判例であ
る︒これによって︑担保保有義務制度はさらに複雑化することになる ︵先述㈱︶︒
︵1︶ 判例における法定代位権者の拡大傾向が続く︒①第l二取得者︵﹇14﹈大判大八二二・五民録二五・∴二〇八︑﹇23﹈大判昭二・
一〇二〇民集六・五五四︑﹇13﹈大判大七・五二八民録二四・九人四 ︵弁済をしなければ地上権を喪失する例︶︑﹇15﹈大判
大九・六二一民琴一九・八三九 ︵譲渡担保権の口的物の譲受人ご︑②連帯債務者﹁﹇8﹈大決大三・四∴ハ民録二C二一七三︑
﹁40﹈大判昭一・六二一民集∵五・山〇七四︶︑③重畳的債務引受人︵﹇10﹈大阪地判大京・九二九新聞一一亡七二一七︶︑④
後順位抵当権者︹﹇29﹈大決昭六一二∴人民集一∩・二三∴ ﹇31﹈大決昭七・八一一〇評論二二渾法六二五︶︑⑤山根債
権者︵﹇45﹈大判昭一二・二二五民集一七︑﹇52﹈大判昭一七・五・二一法苧一二二二五⁚一般債権者が弁済するにつき正当
な利益のある場合を認定︶ が︑そうである︒
︵2︶ この当時の学説の動き︵先述榔注︵柑︶︶︒維妻栄・債権総論︵民法講義Ⅳ︶ 二〇七頁 ︵昭一五︶︒
︵3︶ 下級審ではあるが︑担保権者は担保物を時価最高に換価する義務を負うとする判決がある︵﹇49﹈東京区判昭一四∵九二九
新聞四四七九・−四︶︒