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台湾総督府審議室「律令制定権ノ解釈ニ就テ」 : -大正10年法律第3号に基づく内地延長主義法体制修正の試み- 利用統計を見る

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台湾総督府審議室「律令制定権ノ解釈ニ就テ」 :

-大正10年法律第3号に基づく内地延長主義法体制修

正の試み-著者名(日)

後藤 武秀

雑誌名

東洋法学

41

1

ページ

79-111

発行年

1997-09-30

URL

http://id.nii.ac.jp/1060/00000491/

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︻資  料︼

台湾総督府審議室﹁律令制定権ノ解釈二就テ﹂

  1大正一〇年法律第三号に基づく内地延長主義法体制修正の試みー

東洋法学

解 題 一 一九二二︵大正工︶年一月一日以降、その前年に成立した大正一〇年法律第三号が施行されたことにより、       ︵−︶ 台湾統治の基本法体制は特別統治主義から内地延長主義へと大きな転換を遂げた。  それまで、台湾統治の基本法制については、領有当初の一入九六︵明治二九︶年、特別統治主義を制度化した法 律第六三号が制定され、一〇年間実施された後、一九〇六︵明治三九︶年にこれに手直しを加え若干内地延長主義 的色彩を加味した法律第三一号が制定され、翌年より実施されていた。六三法においては第一条に台湾総督が﹁法        ︵2︶ 律ノ効力ヲ有スル命令︵律令と称する︶﹂の制定権を有することが規定されており、三一法においても第一条に﹁法 律ヲ要スル事項﹂について総督の律令制定権が認められていた。六三法において台湾総督が法律と同位の規範制 79

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台湾総督府審議室「律令制定権ノ解釈二就テ」 定権を有することから憲法問題化し、また政治問題化した、法律と律令の関係については、三一法では第五条に ﹁第一条ノ命令ハ第四条二依リ台湾二施行シタル法律及特二台湾二施行スル目的ヲ以テ制定シタル法律及勅令二 違背スルコトヲ得ス﹂と規定し、律令の地位を法律・勅令の下に置いたことにより一応の解決をみた。しかし、 三一法においても総督の律令制定権に制約を加えることはなく、台湾固有の状況に対応するために台湾総督には 依然として広大な委任立法権が認められていたのであった。  これに対し、法三号は第一条に、﹁法律ノ全部又ハ一部ヲ台湾二施行スルヲ要スルモノハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム﹂ と内地法施行の原則を掲げた。法律と律令の位置関係については、三一法に明示されたところを第五条において 踏襲するが、総督の律令制定権については第二条において﹁台湾特殊ノ事情二因リ必要アル場合二限リ﹂認める こととした。このように内地延長主義が具体化されたために、台湾総督の有する律令制定権は大幅に制約される こととなったのである。  しかしながら、法三号の実施により内地法が直接台湾に実施されてからも、台湾特殊の事情は依然として存在 していた。そのために、これに対処する律令と法律との衝突という間題が新たに噴出してきた。すなわち、一般 法たる内地法が台湾に施行されている場合、台湾の実情を斜酌した特別法を律令の形で制定しようとしても、内 地法優先の原則があるためにこれを制定することができないといった間題が生じてきたのである。実際、台湾都 市計画令︵昭和一一年︶等の制定の際に、このような律令制定権の制約に伴う問題の解決に総督府が腐心したこと       ︵3︶ が中村哲氏により明らかにされている。しかし、総督府が個別的問題解決を迫られる過程でどのような一般的・

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東洋法学

総合的解決を模索していたのか、換言すれば内地延長主義と台湾統治の現実的要請の狭間で法三号に対してどの ような態度をとろうとしていたかについては、資料の制約もありほとんど解明の手が延びていない。        ︵4︶ 二 ここに紹介する資料は、台湾省立台湾銀行経済研究室所蔵資料の一つであり、﹁昭和十五年六月・牛尾部長意 見書﹂なる表題を付した一件綴に収録されているものである。本綴には、三件の資料が収められている。        ︹5︶  第一は、﹁総督委任立法改正二関スル件﹂である。本資料は、牛尾部長なる人物が総督府部内において法三号改 正作業が進行中であることを探知してその試案を入手し、試案の概要を摘記したものである。牛尾は、この試案 は﹁未タ改正企図ノ初論トモ云フヘキモノ﹂であり、総督府の意向が法三号の実施に伴って生じた﹁今日ノ禍根﹂ の速やかな是正にあることを指摘している。  第二は、﹁総督府律令制定権梗塞状態ノ打開策﹂と題する資料である。これは第一の資料に﹁抜葦ヲ付シ蘇許高 覧二供ス﹂と記されているところの﹁抜葦﹂に該当するものである。総督府の試案がかなりの長文であるために、 その要旨を簡潔にまとめたものであり、牛尾自身の手になるものと思われる。  第三は、﹁律令制定権ノ解釈二就テ﹂なる表題を付した資料である。表紙には、﹁昭和十五年三月﹂という日付 および﹁台湾総督府審議室﹂との表記があることから、この時期に総督府審議室において作成されたものと考え        ︵6︶ られる。この時期には審議室職員として事務官須田一二三を筆頭に七名の職員が配されており、その中で、当時、       ︵7︶ 律令と法律との関係について論文を発表している鈴木信太郎が起案者であると考えてよいであろう。鈴木は、﹁総 督官房審議室次席事務官で総督府関係のあらゆる法令の審議、立案並に法令の解釈適用に関する事務に携はつて 81

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台湾総督府番…議室「律令1制定権ノ解釈二就テ」 居られる方であり、独り行政法規に通暁せられるのみならず民法、商法、訴訟法等の司法関係法規に付てもその        ︵8︶ 造詣深きことは司法の職に在る者を驚かす程の篤学明敏の士﹂と評される人物である。鈴木の﹁律令制定権の範 囲に付て﹂なる論文は、目次を配して論文としての形式を踏んでいるが、内容も文体も本資料とほとんど同一で あると言っても過言ではない。しかし、本資料は単に一個人の論文ではなく、総督府部内の作業として位置づけ られるものであるので、ここに翻刻することとした。  本資料第一丁には、﹁律令制定権梗塞状態ノ打開策二就テ﹂との見出しが付けられている。この時期における律 令制定権の制約をめぐる総督府の苦悩を如実に物語るものである。  なお、原資料では改行の際に一字空けられてはいないが、翻刻に際しては、一字空けて段落を示すこととした。 ︵1︶ ︵2︶  台湾統治の基本法体制の変遷については、中村哲﹃植民地統治法の基本問題﹄︵日本評論社一九四三年︶、同﹁植民 地法︵法体制確立期︶﹂﹃講座日本近代法発達史5﹄︵勤草書房一九五八年︶一七三頁以下、条約局法規課﹃外地法制 誌3︵台湾の委任立法制度︶﹄︵一九五九年︶に詳しい。内地延長主義に至る政治的要因については、春山明哲﹁明治 憲法体制と台湾統治﹂﹃岩波講座近代日本と植民地4統合と支配の論理﹄︵岩波書店一九九三年と一二頁以下、同﹁台 湾旧慣調査と立法構想  岡松参太郎による調査と立案を中心に  ﹂台湾近現代史研究六号︵一九八八年︶八一頁 以下に詳しい。  ﹁律令﹂という呼称は、明治二九年四月二〇日﹁律令ナル呼称ヲ決定シタル文書写﹂によれば、﹁法律ノ効力ヲ有ス ル命令﹂を発する場合に、﹁律令第OO号﹂という書式を採用したことに由来する。これについては、台湾総督府官 房審議室﹃律令制度の沿革﹄︵昭和一五年・国立中央図書館台湾分館蔵︶二三一頁以下を参照。

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︵3︶ ︵4︶ ︵5︶  中村哲﹁植民地立法に於ける同化政策!﹁六三問題﹂以後の律令権の問題﹂同﹃前掲書﹄二⋮一頁以下所収、同 ﹁前掲論文﹂一九五頁以下を参照。  台北市中華路にある台湾省立台湾銀行経済研究室には、明治三〇年に台湾銀行法に基づいて設立され明治三二年 より営業を開始した台湾銀行の収集した書籍・新聞のほか、六段六連の書架一列余りに調査・報告書およびその原 稿が架蔵されている。調査・報告書類はほぼ項目ごとにまとめられ、油紙の表紙に綴じ込まれている。数年前まで憲 兵の監視下に保存されてきたということであり、高温多湿の地で五〇年以上の歳月を経ているにもかかわらず、保存 状態は極めて良好である。総数は、油紙のファイルで一千点以上にのぼる。その一部は戦前に台湾銀行から刊行され ているが︵台湾銀行の刊行物については、アジア経済研究所編﹃旧植民地関係機関刊行物総合目録・台湾編﹄︵同研 究所一九七三年︶一九九頁以下参照︶、大部分は未刊資料である。  同研究室の所蔵する資料は、書籍も含め一般には非公開であるが、台湾銀行人事室副主任・専門委員の要職を歴任 された周承伝氏の多大な御尽力により、これらの資料の調査研究の便宜を与えられた。筆者に与えられた時間の制約 上資料の全体について詳細な調査を行うことは不可能であったが、幸運にも台湾大学法学院研究所に留学中の宮畑 加奈子女史の協力を得て、ほぼすべてのファイルの表題目録、特に法律関係のファイルについては綴込資料の件名目 録を作成した。これらの目録は、台湾大学法学院王泰升副教授の研究室に保管を依頼している。  なお、台湾銀行所蔵資料の存在は、すでに知られているところである︵例えば、檜山幸夫﹁台湾総督府文書と目録 編纂について﹂﹃台湾総督府文書目録第一巻﹄︵ゆまに書房一九九三年︶二七頁︶。  牛尾部長がいかなる人物であるかは特定できないでいる。この当時、台湾銀行には牛尾という姓を持つ人物は台北 頭取席調査課長に牛尾竹之助が在職しているが︵﹃第二一版台湾銀行会社録・昭和一四年九月現在﹄︵昭和一四年一〇 月・台湾銀行経済研究室蔵︶五六頁、なお﹃第二二版・昭和一五年九月現在﹄︵同室蔵︶においても、牛尾なる人物 は調査課長に同一人物が在職するのみである。また、﹃台北市民住所録・昭和一五年﹄︵国立中央図書館台湾分館蔵︶ によれば、当時の台北市には牛尾姓は三名居住しているが、他の二名は、大学理学部勤務と逓信部航空課勤務であり 83

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台湾総督府審議室「律令制定権ノ解釈二就テ」 ︵6︶ ︵7︶ ︵8︶ ︵四〇頁︶、本資料に関係する人物とは思われない︶、部長職ではなく、また軍嘱託であったかどうか不明である。  ﹃職員録・昭和一五年二月一日﹄および﹃職員録・昭和一五年八月一五日﹄は共に、総督官房審議室事務官として、 須田一二三、大野季夫、清水七郎、鈴木信太郎、鈴木斗人、岸田実、理事官として河合與市郎の名を掲げる。両﹃職 員録﹄の中間の時期である昭和一五年三月段階においても、これらの者が審議室に配属されていたと考えてよい。  鈴木信太郎の論文には、﹁律令の制定と法律との関係に付て﹂台法月報三四巻九号・二号︵昭和一五年︶、﹁律令 制定権の範囲に付て﹂台法月報三五巻二号︵昭和一六年︶がある.  台法月報三四巻九号三〇頁。

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資 料 [  総督委任立法改正二関スル件

東洋法学

 襲二当地軍部ノ仏印金融制度調査二関連シ偶本島金融統制ノ欠陥二就キ指摘シタルニ対シ小役軍嘱託トシテノ 個人的所見ヲ開陳シ本島金融制度ノ根本的改変ヲ主張シ置キタルカ其根基ヲナス総督委任立法ノ規定改正二関シ テハ督府二於テモ近年ノ律令制定難二鑑ミ内々審議中ナルコトヲ其后知リ得ソレカ試案別冊ヲ最近金融課長ヨリ 回付受ケタルニ付抜葦ヲ付シ薙許高覧二供ス。  案ノ内容ヲ検スルニ大体論トシテ  ﹁台湾二施行スヘキ法令二関スル法律﹂︵現行ハ大正十年法律第三号︶力明治二十九年ノ該法第六三号公布以来 所謂﹁六三問題﹂トシテ常二議会二於テ論争ヲ繰返サレタル沿革アルニ鑑ミ根本的法律ノ改正二就キテハ相当臆        ハママロ セル感ナキニアラス従テ本島特殊事情二基ク特殊法制定ニツキテノ主張緩漫ニシテ法ノ﹁解釈方変改﹂或ハ法律 二対スル除外例制定方法タル﹁特例勅令﹂ノ適用範囲拡大ト云フカ如キ彌縫的処置タルヲ免レス。  元来本島民力特殊民族ヲ以テ構成セラレ従テ特殊立法ヲ要スル事情二対シ中央ノ認識不充分ナリシトコロヘ議 会モ亦徒ラニ大義名分二囚ハレ殊二田総督当時即チ現行法律ノ改定セラレタル大正十年ノ議会二於テ同総督自身 力﹁統治ノ根本ハ出来ルタケ速カニ事情ノ許ス限リ内地同様二致シ度シトノ主義ナルコト﹂ヲ言明シタルハ別紙 85

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台湾総督府審議室「律令制定権ノ解釈二就テ」       の   の ﹁律令制度ノ沿革略記﹂ノ内ニモ﹁⋮⋮主義ナルコトヲ言明シタルハ注目スヘキコトナリトス﹂ト述懐シ居レリ。 越エテ大正十一年ノ民商法ノ全面的島内施行トナリ之力﹁今日ノ禍根ヲナスモノ﹂ト謂フヲ得ヘク之ハ朝鮮二於 テハ其事ナク別二朝鮮民事令ノ制定アリ、同総督ノ発スル制令ハ其内容タルヲ以テ無用ノ拘束ヲ受ヶスシテ発布 シ得ル次第ニシテ本島二於テハ大正十年以前即チ現行法ノ制定セラレサリシ時代ハ朝鮮ト同様ナリシナリ兎モ角 別紙案ハ未タ改正企図ノ初論トモ云フヘキモノニシテ律令制定権行詰リノ打開二就テハ督府トシテモ引続キアラ ユル根拠立論ヲ求メ以テ一日モ早ク之力実現ヲ期セントシツツアル模様ナリ。  尚右ト併行シテ産業組合令施行準備中ナルコトハ既報ノ通リ、又金融課二於テモ島内金融制度改革二関シ検討 中ノ模様ニシテ同課意見大綱脱稿ノ上ハ当行ニモ内覧二付セラルル筈ナリ。        .      以上 資 料 二  総督府律令制定権梗塞状態ノ打開策 一 行詰ノ実情 台湾統治ノ必要上島民同化ノ徹底、産業政策ノ遂行、経済機構ノ整備等ニツキ制定改廃ヲ要スル法令多数二上 ル処現行律令制度ノ宿命的欠陥ニョリ其実施困難ナル実情アリ。

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 即チ現行律令制定権ノ根拠法タル大正十年法律第三号ハ e法制上ノ内地延長主義ヲ採用シナルヘク内地ノ法律ヲ施行スルコトヲ原則トシ ロ律令ヲ制定スルハ已ムヲ得サル場合ノ処置トシテ之ヲ認メントスルノ法意ヲ含マシメ ◎律令ハ法律二違反スルコトヲ得サル旨 規定セリ。  越エテ大正十一年右原則二基キ民法、商法等ノ一般基礎的法律ヲ台湾二施行セラレ爾来本島特殊事情二基ク特 則又ハ例外規定ハ前記法律第五条二所謂﹁法律二違反スル律令﹂ナリトシ之力制定ハ中央二於テ毎二容認セラレ サル所ナリ。  襲二台湾拓殖株式会社創立二際シテモ督府ハ律令二依リ度キ希望ヲ有シタリシモ前述事情ニョリ中央ノ認ムル 所トナラス而モ同時二創立セラレタル鮮満拓殖株式会社ハ制令︵朝鮮二於ケル命令ハ制令ト称ス︶ヲ以テ規定セ ラレタルニ拘ラス台湾拓殖会社ハ法律ヲ以テ定メラレタリ。 二 行詰リノ原因  台湾統治ノ根本義ヨリセハ寧ロ内地ト民度ヲ異ニセル特殊事情ヲ参酌シテ実状二即セル特則ヲ設クヘキ筋合ニ アルニ不拘前記法律第三号ノ如キ制限ヲ付スルニ至レルハ其原因専ラ政治的沿革ニアルナリ。  即チ明治二十九年法律第六三号︵所謂﹁六三問題﹂トシテ領台以来大正十年二至ルニ十五年間三旦リ毎二議会 ヲ中心トシテ政治論争ヲ繰返シタル法律︶ハ台湾総督ノ命令︵律令︶制定権ヲ原則トシ法律ノ施行ヲ寧ロ特例ト 87

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台湾総督府審議室「律令制定権ノ解釈二就テ」 ナシ而モ理想トシテ総督ノ命令制定権ハ可及的早ク之ヲ撤廃スルノ法意ナリシヲ以テ右法律第六三号ノ施行期限 モ三ケ年トシ爾来三ケ年毎二期限ヲ延長シ来リ大正十年二至リタルカ此時該法律ノ施行期限力従来短期トナリ居 リ期限毎二政治的論争ヲ繰返シ来レルノ愚ヲ改メ而モ言語風俗ヲ異ニセル民族ヲ期限ヲ定メテ内地ト同一ノモノ トスヘキコトノ困難ナルコトヲ認メ蕪二本法律ノ体系ヲ  一、従来ノ総督命令制定権ノ原則ヲ寧ロ特例トシ  一、内地法律ノ施行ヲ原則トスルコト  一、同時二施行期限ヲ付セサルコト ニ改メ、即チ大正十年法律第三号トシテ今日施行セラレ居ルナリ元来此法律第三号ハ多分二政治的妥協性ヲ帯ヒ 従テソレ自体ノ内二大ナル矛盾ヲ蔵スルナリ。  即チ法文上一方二於テ律令ハ法律二代ハル命令トシテ之二法律ト対等ノ地位ヲ与へ乍ラ他方二於テ律令ハ法律 二違反スルヲ得スト為シ而モ可及的多クノ内地法律ヲ台湾二施行スヘキコトヲ原則トスルニ至リテハ律令ノ制定 権ヲ認ムル法文ハ全ク空文化シ而モ斯ル結果ヲ来スヘキコトハ法律第三号制定当時二於テハ予想セサリシ所ナ ヲo ハママレ 四 打開策  現状打開ノ方策トシテハ左記  一、法律第三号ノ改正法律案ヲ提出シ同法第五条

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 ﹁本法ニョリ台湾総督ノ発シタル命令ハ台湾二行ハルル法律及勅令二違反スルコトヲ得ス﹂ ヲ削除スルカ又ハ台湾特殊ノ事情ニョリ規定セラレタル事項二関シテハ右第五条二不拘当該命令ノ規定ニヨルコ トニ修正スルコト  ニ、前項第五条ノ規定ノ解釈ヲ﹁律令ハ法律ヲ廃止シ又ハ空文化スルコトヲ得ス﹂ト定メタルニ過キス。  従テ﹁律令ハ一般法タル法律二対シ特別法乃至例外法トシテノ地位二立ツコトハ支障ナシ﹂ト解スル公定的解 釈ヲ確立スルコト。  三、台湾特殊ノ事情ニョリ特例ヲ設クル必要アル場合ハ実際問題トシテ民事、刑事ノ範囲ヲ多ク出テサルニ付、 大正十一年勅令第四〇七号ニヨル台湾二施行スル民事、刑事二関スル法律ノ特例勅令第四条ノニニ改正ヲ加へ律 令ハ過去並二将来トモ法律二違反抵触スル場合ニハ当該律令ノ規定ヲ優先セシムルモノトスルコトニ改正︵右勅 令ハ其公布以前ノ律令二就テノミ優先適用ヲ認メタルモノ︶ ノ三案考慮セラレ此内第一条ノ法律ノ根本的改正ハ該法律力其沿革二於テ屡々政治上ノ論争ヲ起シタル事実二鑑 ミ其実現性ヲ危倶セラレ、第三案亦特例勅令ノ濫用トナリ法制ヲ複雑化スル惧ナシトセス。結局第二案ノ中央公 定解釈ノ変更ヲ以テ最モ穏当ナリトセラル。       以上 89

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台湾総督府審議室「律令制定権ノ解釈二就テ」 資 料 三  昭和十五年三月  律令制定権ノ解釈二就テ 台湾総督府審議室     律令制定権梗塞状態ノ打開策二就テ 一 行詰ノ概況  台湾統治ノ必要上即チ同化ノ徹底、産業政策ノ遂行、経済交通衛生機構ノ整備等ノ為制定改廃ヲ要スル法令ハ 相当多数二上ル所其ノ中台湾特殊ノ事情二因ルモノトシテ律令ヲ以テ制定スルヲ要スト認メラルルモノニシテ特 二急ヲ要スルモノノミヲ挙クルニ左ノ如シ   台湾証券取引所令   台湾産業組合令︵現行産業組合規則ノ全面的改正︶   商工貿易組合令   小作二関スル律令   台湾土地改良令   勤労奉仕二関スル律令

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 其ノ他懸案事項トシテ調査研究ヲ進メラレツツアルモノニ蕃人二関スル律令、祭祀公業二関スル律令ノ制定、 民事調停制度二関スル律令、薬品二関スル律令、保甲条例ノ改正等枚挙二逞ナク更二南方発展及生産力拡充ノ根 幹トシテ台湾工業化政策ヲ遂行スル為各種特設会社ヲ律令ヲ以テ設立スル等各般ノ事項二付律令ノ必要ヲ生スル コト少カラサルヘシ  然ルニ之等法規ヲ律令ヲ以テ制定センカ為ニハ台湾二於ケル律令制度ノ宿命的難関二逢着セサルヲ得ス何トナ レハ律令制定権ノ根拠法タル大正十年法律第三号ハO法制上ノ内地延長主義ヲ採用シ成ルヘク内地ノ法律ヲ施行 スルコトヲ原則トシロ律令ヲ制定スルハ已ムヲ得サル場合ノ処置トシテ之ヲ認メントスルノ法意ヲ含マシメルト 共二口律令ハ法律二違反スルコトヲ得サル旨ヲ規定セリ加之大正十年以来eノ原則二基キ民法商法等ノ一般的基 礎的法律ヲ法律トシテ台湾二施行セラレタリ其ノ結果今日二於テ証券取引所令以下前掲ノ如キ諸法令ヲ律令ヲ以 テ規定セントスレハ当然之等ノ律令中ニハ民法商法等一般的法律ノ特則又ハ例外タル規定ヲ設ケサルヲ得ス所謂 法律二違反スト解セラルル規定ヲ各所二設ケサルヲ得サルモノトス然ルニ之等ノ特則又ハ例外ノ規定ハ大正十年 法律第三号第五条二所謂﹁法律二違反スル律令﹂ナリトシ之力制定ハ中央二於テ容認ヲ得ルコト極メテ困難ノ事 情ニアリ嚢二台湾拓殖株式会社ノ創立二際シ本府トシテハ律令二依リ度キ希望ヲ有シタリシモ其ノ規定力商法ノ 例外タルノ故ヲ以テ律令二依ル能ハストノ中央ノ見解モアリ同時二朝鮮二於テ創立セラレタル鮮満拓殖株式会社 ハ制令ヲ以テ規定セラレタルニモ拘ラス台湾二於テハ台湾拓殖株式会社二関スル規定ヲ法律ヲ以テ定メサルヲ得 サルノ余儀ナキニ至レリ 91

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台湾総督府審議室「律令制定権ノ解釈二就テ」 二 行詰ノ原因  大正十年法律第三号二於テハ律令制度ノ存立ヲ認メタルニ拘ラス実際上ハ律令制定権ハ漸次梗塞状態二陥リ今 日二於テハ殆ント有名無実ノモノタラントシツツアルカ右ハ決シテ台湾統治ノ現実ト理想トニ照シタル合理的ノ 理由二基キテ律令制定権二制限ヲ加ヘラレタル結果二非ス島民同化ノ統治ノ根本ヨリスレハ寧ロ内地ト民度ノ異 ナレル本島二於テハ律令ヲ以テ充分特殊ノ事情ヲ参酌シテ適切妥当ノ法制ヲ設クルコトカ却テ統治ノ理想実現ノ 為ノ捷径ト謂ハサルヘカラス然ルニ斯ル制限ヲ受ヶサルヲ得サルニ至レルハ其ノ原因専ラ政治的沿革ニアリ即チ 所謂六三問題トシテ領台以来二十五年ノ久シキ三旦リ帝国議会ヲ中心トシテ政治的論争ヲ繰返ヘサレタル後制定 セラレタル現行大正十年法律第三号ハ政治的妥協ノ所産ナルカ故二其レ自体ノ内二大ナル矛盾ヲ包含スルモノナ リ何トナレハ一方二於テ律令ハ法律二代ル命令トシテ之二法律ト対等ノ地位ヲ与へ他方二於テハ律令ハ法律二違 反スルヲ得スト為シテ之ヲ法律ノ下位二置キ而モ可及的多クノ内地ノ法律ヲ台湾二施行スヘキコトヲ原則ト為シ タリ而シテ法理上一旦台湾二施行シタル法律ハ其レカ内地二於テ存続スル限リハ特二別箇ノ法律ヲ以テ廃止セサ ル限リ台湾二於ケル効力ヲ勅令又ハ律令ヲ以テシテハ消滅セシムルコト能ハサルナリ斯クテハ法律ノ施行件数ノ 増加二従ヒ急速度二律令制定権ハ其ノ範囲ヲ縮少セラレ此ノ儘之ヲ放置スレハ遠カラスシテ空文ト化スヘキハ今 日二於テ見レハ必然ノ趨勢ト謂フヘシ而モ斯ル結果ヲ来スヘキコトハ法律第三号制定当時二於テハ予想セラレサ リシ所ナリ 三 最近ノ傾向

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 斯クテ右法律第三号ノ規定ト民法商法等ノ法律ノ施行トニ禍セラレテ十数年間台湾ノ立法事務ハ甚シク渋滞シ 大正十一年以来昭和十年迄ハ既存律令ノ改廃ノ外ハ新二律令ノ制定ヲ見タルモノ皆無ノ状態ニアリタリ最近二至 リテ其ノ必要ノ緊切ナルト中央ノ同情アル理解トニ依リ梢々緩和セラルルヲ得テ租税法規地方制度其ノ他ノ公共 団体法ノ如キ公法系統二属スルモノハ其ノ中二民法商法等ト抵触関係ヲ生スルモノナシトノ解釈ヲ得テ梢々律令 立法ノ進捗ヲ見タルモ其ノ他ノモノニ付テハ依然民法商法違反ナリトノ難関二遭遇シテ容易二進行スルヲ得サル ノ実情二在リ過去二於テ台湾統治ノ輝ク成績力律令委任立法制度二負フ所多大ナリシカ如ク将来二於テモ尚当分 特定ノ法律分野二於テハ律令二依ル特殊立法制度ノ活用ヲ必要トスルコトハ弦二贅言ヲ要セス従テ今日ノ如キ律 令制定権ノ梗塞状態ハ統治上真二遺憾二堪ヘサル所ナリ 四 打開策  依テ薙二之力流通ノ途ヲ勘案スルニ凡ソ左ノ三案ヲ想定スルコトヲ得ヘシ

第一案法律二依ル解決案

 法律第三号ノ改正法律案ヲ提出シ同法第五条ヲ削除又ハ修正スル案 第二案現行法ノ解釈ノ変更二依ル解決案  法律第三号第五条ノ﹁律令ハ法律二違反スルヲ得ス﹂トノ規定ヲ狭義二解シテ律令ハ法律ノ正条ヲ否定スルコ トヲ得サルモ単二法律ノ正条二抵触スルハ差支ナキモノトストノ公定的解釈ヲ得ルコトニ付中央ノ諒解ヲ求ムル 案 93

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台湾総督府審議室「律令制定権ノ解釈二就テ」 第三条 特例勅令二依ル解決案  大正十一年勅令第四百七号台湾二施行スル民事刑事二関スル法律ノ特例勅令第四条ノニニ改正ヲ加へ律令ハ大 正十一年以前ノモノノミナラス其ノ後ノ制定二係ルモノ及将来制定セントスルモノモ総テ当分ノ内民事及刑事ノ 法律二違反抵触スル場合ニハ当該律令ノ規定ヲ優先セシムルモノトスルコトニ改正スル案 五 各案ノ比較  以下右三案二付仮二具体案ヲ作成シテ其ノ難易長短ヲ比較検討スルニ左ノ如シ 第一案 法律二依ル解決案︵第三号ノ改正法律案︶  ︵A案︶  大正十年法律第三号中左ノ通改正ス 第五条 削除  ︵B案︶  大正十年法律第三号中左ノ通改正ス  付則二左ノ一項ヲ加フ  別二定ムルモノヲ除クノ外第二条ノ規定二依リ台湾総督ノ発シタル命令中台湾特殊ノ事情二因リ規定セラレタ ル事項二関シテハ台湾二行ハルル法律トノ関係二於テハ当分ノ内第五条ノ規定二拘ラス当該命令ノ規定二依ル  ︵C案︶

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東洋法学

 大正十年法律第三号中左ノ通改正ス  付則二左ノ一項ヲ加フ  第二条ノ規定二依リ台湾総督ノ発シタル命令中台湾特殊ノ事情二因リ規定セラレタル事項二関シテハ第一条第 一項ノ法律トノ関係二於テハ当分ノ内第五条ノ規定二拘ラス当該命令ノ規定二依ル  ︵説明︶        パママレ  ω解釈上ノ疑義ヲ一掃シテ抜本的解決ヲ得ル意味二於テハ法律ヲヲ以テスルヲ最モ適当トス然レトモ大正十 年法律第三号ハ何人モ知ル如ク明治二十九年法律第六十三号以来所謂六三問題トシテ多年論議セラレタル政治問       ママレ 題ニシテ従来短期ノ期限付漸定法ナリシモノヲ屡々延長シテ漸ク大正十年二至リ現行ノ如ク改正シ恒久法ト為ス コトヲ得タル沿革ヲ有スルモノナリ依テ今日之力改正案ヲ議会二提出スルコトハ最モ慎重ヲ要シ政治的見透シ充 分ナラサルニ之力提案ヲ為スコトハ却テ往年ノ紛争ヲ繰返スノ虞アリ更二最近二至リ本法ノ改廃ハ重要ノ国務ナ リトシテ其ノ改正法律案ハ枢密院諮詞事項ト決定セラレタル次第モアリ此ノ点モ亦提案上特二留意ヲ要スヘシ  ㈹仮リニ法律案ヲ提出スルモノトシテA・B・C三案ノ可否長短ヲ考フルニ律令制定可能ノ範囲ヲ拡大自由ナ ラシムル意味二於テハA案ヲ最モ可トシB案之二次ク然レトモ法案通過上ノ困難ノ予想セラルルコトモ亦A案ヲ 以テ最ト為ス何ト為レハA案ハ法三号及三一法ヲ遡リテ寧ロ六三法二近キモノニ還元スルモノナルカ故二国法上 二於ケル法律ノ地位ノ重要性ト律令制定権ノ特殊的例外的地位トニ鑑ミ到底実現困難ナルヘク従テ実際上二比較 的実現性ノ大ナルハC案ナルヘシ 95

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台湾総督府審議室「律令制定権ノ解釈二就テ」 第二案現行法ノ解釈変更二依ル解決案  現在ノ厳格ナル解釈ヲ以テ進メハ救ヒ難キ矛盾二陥リ現行法上律令制定権ハ消滅シタルト同様ノ結果ト為ルコ トト現行法ノ解釈ヲ変更拡張シ得ル理論的余地アルコト並二律令制定権ヲ相当広範囲二認ムルコトハ今後二於テ モ統治上大二必要ニシテ何等弊害ヲ伴ハサル所以ヲ明ニシテ速カニ中央ノ諒解ヲ得以テ今後ノ律令案進行ヲ容易 ナラシムル案  ︵説明︶  ω所謂﹁違反スルヲ得ス﹂トノ規定ノ公定的解釈ノ矛盾二付テ  先ツ現行法律第三号ノ現在二於ケル公定的解釈ヲ徹底セシメタル場合二生スル矛盾二付述フルニ同法二於テハ 律令ハ法律二代ル命令トシテ其ノ実質的効力ヲ法律ト同位二置キタリ然ルニ他面律令ハ其ノ形式的効力法律勅令 ノ下位二在ルモノトシテ法律勅令二違反スルヲ得サル旨規定セリ而シテ勅令ノ如ク法律律令トハ規定ノ分野ヲ大 体二於テ異ニスルモノニ付テハ略問題ナキモ法律ト律令トノ関係ノ如ク同一分野二属スルニ個ノ法体系二付︼方 力他方二対シ絶対二違反スルヲ得スト為スニ於テハ上位ノモノノ存スル限リ下位ノモノハ全ク存在スルヲ得サル ヘク若シ下位ノモノヲ存在セシメントスレハ上位ノモノハ之ヲ廃止セサルヘカラス何トナレハ法ハ社会生活ノ規 範ナル以上単ナル静的固定的ナル存在二非スシテ社会二於ケル事物現象トノ結合二於テ無限ノ波動ヲ以テ自己ノ 内容ヲ実現シ拡大シ目的手段ノ関係二於テ無限ノ連鎖ヲ為スモノト謂ハサル可カラス従テ一個ノ法体系ハ同時二 存スル他ノ法体系ト又一個ノ法規ハ他ノ法規ト何レカノ部面又ハ点線二於テ必ス抵触又ハ衝突ヲ生スルコトハ法

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東洋法学

ノ本質二基ク当然ノ結果タリ従テ法ト法トノ抵触衝突ヲ絶対二避クルコトハ到底不可能ノコトニ属シ唯特定ノ場 合二於テ顕著ナル抵触衝突力当然予想セラルル場合二法体系ノ秩序ヲ維持スル為ノ必要ノ限度二於テ一応上位下 属ノ関係ヲ定ムルニ過キサルモノト解スヘキナリ然ルニ台湾二於テ法律体系ト律令体系トノ両者併存ヲ認メント スル場合二後者ハ前者二絶対二違反スルヲ許サスト為スニ於テハ純理上ハ単二一個ノ法律ト錐モ法律力法律トシ テ台湾二存スル限リ律令ノ規定ハ之二違反スルノ故ヲ以テ存在スルコトヲ得サルニ至ルヘク又律令ヲ存置セシメ ント欲スレハ法律ハ全ク台湾二施行スル能ハサルコトト為ル即チ一方二於テ法律律令ノ併存ヲ認ムルト共二他方 二於テハ両者ノ何レカ一方ノ退却ヲ余儀ナクスルカ如キハ前後明ナル撞着ト謂ハサルヘカラス故二﹁違反スルヲ 得ス﹂トノ語義ハ絶対的ノモノト解スヘカラス専ラ法律第三号ノ具体的目的二照シテ程度ノ間題トシテ取扱フヘ キモノト解スヘキナリ  ③所謂﹁違反スルコトヲ得ス﹂トノ規定ノ公定的解釈ノ変更二付テ  叙上ノ如ク法律第三号第五条中ノ﹁律令ハ法律二違反スルコトヲ得ス﹂トノ規定ヲ絶対的ノモノト解スルトキ ハ法律第三号全体二付矛盾ヲ生スルヲ以テ違反ナル字句ハ現在ノ公定的解釈ノ如ク解スルコトノ妥当ナラサルヲ 知リ得ヘシ  依テ然ラハ之ヲ如何二解スヘキカノ間題ヲ沿革ト理論二照シテ検討セントス ω 立法ノ沿革  沿革的ニハ本条ノ規定ハ明治三十九年法律第三十一号即チ三一法二於テ帝国議会ノ修正二依リ初メテ挿入セラ 97

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台湾総督府審議室「律令制定権ノ解釈二就テ」 レタルモノニシテ其ノ以前明治二十九年法律第六十三号即チ六三法時代ニハ存在セサリシ規定ナリ従テ六三法二 基ク律令ハ実質的効力二於テモ亦形式的効力二於テモ全タ法律ト同一ノ効力ヲ有シ其ノ法律ト異ル点ハ単二制定 手続ト名称トニ在リタルニ過キス  然リト錐モ法律ト律令トノ実質的及形式的効力ヲ共二全ク同一ナラシムルコトハ台湾二施行セラレタル法律ヲ 律令ヲ以テ自由二廃止シ又ハ前法後法ノ関係二立チテ法律ノ規定ヲ空文化スルコトヲ可能ナラシムルヲ以テ必ス シモ妥当ナラス固ヨリ律令ト錐モ其ノ制定手続ハ法ノ定ムル所二依リ勅裁ヲ仰キ発布スルモノナルカ故二事実上 斯ル不当ノ結果ヲ来スカ如キコト無カルヘキモ法律力一応之ヲ可能トシ是認スル以上理論上絶無トハ云ヒ難キニ 依リ明治三十九年法律第三十一号二於テ初メテ明文ヲ以テ之ノ関係ヲ明ニセラレタルモノト解セラル  本条立法ノ沿革動機ハ将二右ノ如シ唯其ノ違反ノ限界如何二関シテハ当時ノ立法資料二徴スルモ明確ナラス政 府委員議会答弁二於テ律令二依リ法律ヲ改廃スルカ如キコトハ従来ト錐有リ得ヘカラサルコトナルヲ以テ此ノ点 ヲ明瞭ナラシムル為帝国議会力本条ヲ挿入セラルルコトニ対シテハ政府トシテ別段異議ナシト答ヘラレタルヲ見 ルノミ @ 積極的見解  次二法律第三号第五条中﹁律令ハ法律二違反スルコトヲ得ス﹂トノ規定ノ意義ハ単二律令ハ法律ヲ廃止シ又ハ 前法タル法律ヲ空文化スルコトヲ得サルコトヲ規定シタルニ過キスシテ律令力一般法タル法律二対シ特別法乃至 例外法ノ地位二立ツコトハ支障ナキモノト解スル理論的根拠ヲ述ヘントス

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東洋法学

 法令用語トシテノ﹁下級法規ハ上級法規二違反スルコトヲ得ス﹂トノ意義ハ固定的絶対的ノモノト観念スヘキ ニ非スシテ規定ノ目的観念二照シテ理解スヘキ相対的分量的ナル問題タルヘキコトニ付テハ前述ノ如シ  帝国憲法第九条ハ其ノ但書二於テ命令ヲ以テ法律ヲ変更スルコトヲ得スト規定セリ然ルニ理論的ニハ委任立法 ノ制度ノ可能ヲ認メ法律ノ委任アル場合ニハ勅令其ノ他閣省令等ヲ以テ憲法上ノ法律事項ヲ規定シ又ハ既存ノ法 律ノ例外又ハ特例ヲ設クルコトヲ一般二是認セラレ憲法施行以来実行シ来レリ即チ之等ノ委任命令二付テハ憲法 第九条但書ノ規定ノ適用ナク法律ノ例外又ハ特例ヲ設クルコトハ法律二依リ法律ノ例外又ハ特例ヲ設クルモノナ リトシテ理論的二是認セラルル所ナリ然ラハ此ノ場合二於テ委任命令ヲ以テ既存ノ法律ヲ廃止シ又ハ既存ノ法律 二対シ全面的二後法ノ地位二立チテ之ヲ空文化スルコトハ可能ナリヤ可能ナリトセハ何故二之ヲ禁止セサルヤノ 理由二付考フルニ先ツ委任立法制度ノ内容ヲニ種二区分シテ観念スルヲ要ス其ノ一ハ通常個々ノ法律中ノ規定二 依リ委任スヘキ事項ノ内容ヲ限定シテ行政権二対シ立法ノ一部ヲ委任スルモノ︵以下通常ノ委任立法ト称ス︶ト 其ノニハ律令制令並二府県条例市町村条例ノ如ク一般的抽象的二法律ヲ要スル事項ヲ行政権二対シ云ハハ官制的 権限トシテ法律ヲ以テ委任スルモノ︵以下一般的委任立法ト称ス︶トノニ種二区分スルコトヲ得ヘシ  通常ノ委任立法二付一例ヲ挙クレハ耕地整理法第三十七条二於テ﹁整理施行地区内ノ土地及其ノ上二存スル建 物ノ登記二付テハ勅令ヲ以テ特例ヲ設クルコトヲ得﹂トノ規定ノ委任二依リ勅令ヲ以テ不動産登記法ト異ル規定 ヲ設クル場合二於テモ登記二関スル一般法タル不動産登記法ヲ全面的二廃止スルコトハ事ノ性質上当然不可能ニ シテ専ラ耕地整理施行地区内ノ土地、建物二関シ整理施行二伴フ登記ヲ為ス場合二関シテノミ例外又ハ特例的登 99

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台湾総督府審議室「律令制定権ノ解釈二就テ」 記手続ヲ規定シ得ルニ過キサルコトハ敢ヘテ説明ノ要ナシ  即チ通常ノ委任立法ハ其ノ本質上当然他ノ一般法普通法タル法律二対シ例外法特別法タル規定ヲ定メ得ルト錐 モ又其ノ本質上当然他ノ法律二対シ全面的ナル後法ノ地位二立チ又ハ之ヲ廃止スルコト能ハサルモノト謂フヘシ 然ルニ律令制定権ノ如キ一般的委任立法ハ之トハ梢々趣ヲ異ニス律令ハ台湾二於テ法律ヲ要スル事項ヲ規定シ得 ル命令ナリ法律ヲ要スル事項トハ何ソヤ。憲法上何々ノ事項ハ法律ヲ以テ定ムヘシト為シタル事項ハ其ノ一ナリ 法律ヲ以テ定メラレタル規定ノ例外又ハ特例ヲ設クルハ其ノニナリ現二実施セラレタル法律ヲ改廃スルコトハ其 ノ三ナリ以上ノ中其ノ一及其ノニハ通常ノ委任立法ト錐モ之ヲ規定シ得ル所ナルモ其ノ三二付テハ通常ノ委任立 法ノ性質上之ヲ規定スルコトノ有リ得サルコト前述ノ如シ而シテ︼般的委任立法タル律令モ固ヨリ其ノ一及其ノ ニニ付テハ之ヲ規定シ得サルヘカラス加之若シ他ノ規定ノ制限ナキ場合二於テハ其ノ三即チ他ノ法律ヲ改廃スル コトモ亦理論上ハ之ヲ為シ得ルモノト解セラル六三法時代ノ律令ハ将二此ノ場合二該当スルモノナリ一般的委任 立法ハ其ノ性質上通常ノ委任立法二比シ規定シ得ル範囲ノ大ナルコト前述ノ如シ然ルニ一般的委任立法二付右其 ノ三ノ事項ヲモ規定シ得ルコトヲ認ムルハ法律ト命令トノ地位ノ差異二鑑ミ妥当ナラス依テ三一法以来律令制定 権ハ通常ノ委任立法ノ規定シ得ル範囲二止マラシムルヘキモノナリトシテ特二其ノ三ノ事項二迄亘ルヲ得サラシ ムル為﹁律令ハ法律二違反スルコトヲ得ス﹂トノ明文ヲ設ケタルモノト解スルノ外ナク斯ク解スルコトニ於テノ ミ此ノ規定ノ真意義ヲ理解スルヲ得ヘシ  然ルニ﹁律令ハ法律二違反スルコトヲ得ス﹂トノ字句二拘泥シテ律令ヲ以テシテハ其ノニノ事項即チ法律ノ規

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東洋法学

定二対シ例外規定又ハ特別規定ヲモ設クルヲ得スト為スハ不当ナリ何トナレハ斯ノ如ク解スルトキハ通常ノ委任 命令力当然為シ得ルコトヲモ律令ノミカ為シ得サルコトトナルノミナラス律令ハ単二憲法上ノ立法事項ニシテ法 律力未タ全然規定セサル分野ノミニ付規定シ得ルニ過キサルコトト為シ筍モ既二施行セラレタル法律力相当件数 存スル場合二於テ之等既存ノ法律ト全然無関係二即チ例外規定特別規定ヲ設クルコトナクシテ別個ノ法規ヲ設ク ルコトヲ得ルヤ否ヤ社会現象ノ複雑多岐ニシテ人類ノ生活目的ノ千差万別ナル更二目的手段ノ連鎖ノ無限ナルニ 於テハ一ノ目的観念ハ必ス他ノ目的観念ト何レカノ部面又ハ点線二於テ相交錯シ相接触スヘキコトハ前述セルカ 如シ従テ既存ノ法規ノ規定セサル分野二於テ全然既存ノモノト無関係二体系付ケラレタル法規ヲ制定セントスル モソレハ全ク不可能ノコトニ属ス由是観之律令ハ憲法上ノ立法事項及他ノ法律ノ例外及特例ヲ規定シ得ルモノナ レトモ他ノ法律ヲ改廃シ又ハ其ノ実質的効力ヲ奪フコトヲ得スト解スルヲ最モ妥当ナリト云フヲ得ヘタ而モ通常 ノ委任命令ノ為シタル所ト同一ノ範囲ヲ認ムルニ過キサルモノナルヲ以テ依リテ何等ノ弊害ヲモ生スル虞ナキコ トハ当然ナリ 第三案 特例勅令二依ル解決案  ︵A案︶  大正十一年勅令第四百七号中左ノ通改正ス  第四条ノニ中﹁従前ノ律令﹂ヲ﹁明治二十九年法律第六十三号、明治三十九年法律第三十一号又ハ大正十年法 律第三号二依リ台湾総督ノ発シタル命令﹂二﹁当該律令﹂ヲ﹁当該命令﹂二改ム 101

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台湾総督府審議室「律令制定権ノ解釈二就テ」  ︵参照︶  大正十一年勅令第四百七号抄 第一条︵第一項︶台湾二施行スル民事又ハ刑事二関スル法律中裁判所構成法トアルハ台湾総督府法院条例、執達 ハママロ 史手数料規則トアルハ台湾総督府法院執達規則トス 第四条ノニ 別二定ムルモノヲ除クノ外従前ノ﹁律令﹂中台湾特殊ノ事情二因リ規定セラレタル事項二関シテハ 第一条第一項ノ法律トノ関係二於テハ当分ノ内当該﹁律令﹂ノ規定二依ル  ︵B案︶  将来立法事項中法律ノ特例タル事項ハ総テ大正十年法第三号第︼条第二項ノ規定二依ル特例勅令ヲ以テ規定シ 其ノ他ノ事項ハ律令ヲ以テ規定スル特例勅令律令並行主義ノ方針ヲ決スル案  ︵説明︶  ω民事及刑事二関スル法律ノ特例勅令ノ改正ノ当否 ω 大正十一年勅令第四百七号第四条ノニノ意義  大正十一年勅令第四百七号第四条ノニノ規定ト法律第三号付則第二項ノ規定トノ関係ハ充分考究ヲ要スル問題 ナリ  法律第三号付則第二項ノ規定ノ意義ハ従来ノ解釈二依レハ広義二解セントスル者ハ  第一ニハ六三法及三一法ハ廃止セラレタルモ之二其キテ発シタル律令ハ直ニハ其ノ効力ヲ消滅セサルモノナル

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東洋法学

コトヲ注意的二規定シタルカ又ハ創設的二規定シタルモノナリトシ  第ニニハ法律第三号ハ従来ノ律令原則主義ヲ改メテ法律施行ノ原則ヲ採リ律令ヲ制定シ得ルハ特別ノ場合二限 ルモノトシテ其ノ制定二条件ヲ加ヘタルモ従前六三法又ハ三一法二基キテ発シタル既存ノ律令ノ改正二付テハ当 分ノ内右制限二依ラスシテ律令ヲ制定シ得ルコトヲ定メタルモノナリトシ  第三ニハ六三法、一三法及法律第三号二基ク律令ハ法律トノ関係二於テ各其ノ効力ヲ異ニスル所本規定二依リ 前二者ノ効力ヲ各其ノ儘存続スヘキコトヲ規定シタルモノナリトス即チ六三法二基ク律令ハ法律二代ル命令トシ テ実質的形式的効力共二法律ト対等ナユ三法二基ク律令ハ現行法律第三号ト同様二法律二違反スルコトヲ得サ ルモノ即チ形式的効力二於テハ法律ノ下位二在ルモノナリ然レトモ当時二於テハ台湾二施行セラレタル法律ハ極 メテ少ク殊二民事及刑事二関スル一連ノ法規ハ何レモ律令ヲ以テ規定セラレタル時代ナリシヲ以テ殆ント右規定 ノ実益ナク六三法時代ト同様事実上ハ法律二代ル命令タルノ効力ヲ実質的ニモ形式的ニモ有シタルナリ法律第三 号ノ時代二入リテ法律施行ノ原則ヲ採リテ民事及刑事二関スル法律行政諸法等施行セラレタルヲ以テ其ノ後発ス ル律令ハ之二違反スルコトヲ得サル現実ノ拘束ヲ受クルニ至レリ斯ノ如ク三者其ノ効力ヲ異ニスルモ旧法時代ノ 発布二属スル前二者二対シテハ従前ノ儘ノ効力ヲ持続セシムルコトヲ宣言シタルモノナリトス  第四ニハ斯クテ効力ノ存続ヲ認メラレタル旧法二基ク律令ハ旧態ノ儘二於テ各其ノ特有ノ効力ヲ持続スルノミ ナラス新法時代二入リテ後改正ノ必要ヲ生シタル場合二於テ改正ヲ加ヘラレタル部分二付テモ伽従前ト同一ノ効 力ヲ有スル旨ヲ宣言シタルモノト解セラル 103

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台湾総督府審議室「律令制定権ノ解釈二就テ」  大正十一年勅令第四百七号第四条ノニノ規定ハ民事及刑事二関スル法律施行以前六三法又ハ三一法二基キ発シ タル律令ノ規定中右法律二抵触スルモノノ効力ヲ救済シタル特例勅令ナル所以上ノ如ク法律第三号付則第二項ノ 規定ヲ広義二解スルトキハ第四条ノニノ規定ハ不要ノモノ少クトモ注意的規定二過キサルモノトノ結論ト為ルヘ シ其ノ故ハ従前ノ律令ノ効力ヲ全面的二継続救済スル法律ノ規定即チ法律第三号付則第二項力存スル場合二於テ 特二民事及刑事二関スル法律二対スル効力ノミヲ同様ノ立場二於テ救済スル規定ヲ設クルコトハ何等ノ意義ナキ コトニ属スレハナリ  然ルニ法律第三号付則第二項ノ規定ノ意義ヲ狭義二解シ前掲第一及第ニノ場合ノミヲ救済シタルモノトシ単二 従前ノ律令トシテノ存続ヲ認メ且ツ之力改正ノ場合ノ法律上ノ制限的条件ヲ解除シタルニ過キスシテ台湾二施行 セラレタル法律トノ効力関係ハ新法ノ原則二従フヘキモノト解スレハ大正十一年勅令第四百七号第四条ノニノ規 定ハ従前ノ律令ト新二施行セラレタル民事及刑事二関スル法律トノ関係ヲ規定シテ従前ノ律令ノ効力ヲ之等法律 ト対等ナラシムルノ意味二於テ特別ノ創設的意義アルモノト謂フヘシ而シテ右ノ内後者即チ狭義ノ解釈二従フ前 提ノ下二於テ大正十一年勅令第四百七号第四条ノニノ規定ヲA案ノ如タ改正シ従前ノ律令ノミナラス法律第三号 二基ク将来ノ律令モ亦民事及刑事二関スル法律トノ関係二於テ当分ノ内効力上対等ノ地位二立ツヘキコトヲ定ム レハ律令制定権ノ今日ノ如キ梗塞状態ハ相当緩和セラルルモノトス @ 第四条ノニノ改正ノ効果  純理論的ニハ各法規ハ必ス他ノ法規ト接触衝突スルノ部面又ハ点線ヲ有スル筈ナルモ現実ノ問題トシテハ現在

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東洋法学

ノ法制上ハ之等ノ微妙ナル抵触ノ総テカ問題視セラルルモノニ非ス主トシテ問題ト為ルハ民法商法ノ如キ社会活 動ノ全面三旦リ規定スル法規ノ存スル場合二於テ之等一般法二対シ特殊ノ場合二於ケル特殊ノ目的ノ為ノ法規ヲ 制定実施スル場合二於テ最モ明瞭二抵触衝突関係ヲ生シ従テ之等ノ関係ヲ秩序付ケテ処理スル為或ハ一般法特別 法ノ関係、或ハ原則法例外法ノ関係或ハ前法後法ノ関係更二或ハ法規ノ上位下属ノ関係トシテ理論付ケラルルモ ノトス  依テ法律第三号ノ規定ヲ現行ノ儘トシ而モ其ノ解釈二付テモ従来通リ厳格ナル解釈二従フトスルモ若シ仮リニ 台湾二民法商法等ノ如キ一般法力法律トシテ施行セラレサリセハ恐ラク今日ノ如キ律令制定権ノ不自由ハ生セサ リシナルヘシ股鑑遠カラス朝鮮二於ケル制令モ亦律令同様法律二違反スルコトヲ得サルモノナレトモ朝鮮二於テ ハ未タ民法商法等ハ法律二非スシテ制令タル朝鮮民事令ノ内容タルヲ以テ此ノ不都合ヲ生セス無用ノ拘束ヲ受ケ スシテ制令ヲ発布シ得ルナリ台湾二於テモ大正十年以前即チ三一法時代ニハ朝鮮ノ現在ト全ク同様ノ状態ナリシ ナリ結局民商法等ノ全面的施行力一種ノ禍根ト為リタルモノト謂ヒ得ヘキモ之モ亦法律第三号ノ精神タル法律原 則主義ヲ忠実二遵奉シタルニ因ルモノナルヲ以テ必スシモ過ト謂フヘカラス  依テ此ノ際大局的立場二於テ将来モ律令ヲ以テ民事諸法二対スル特例ヲ定メ得ルコトニ右勅令ヲ改正シ施政二 便ナラシムルコトハ極メテ有意義ノコトタルト共二手段トシテモ簡易直載ニシテ疑義ヲ残ササル好手段ト謂ヒ得 ヘシ の 第四条ノニ改正ノ可能性 105

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台湾総督府審議室「律令制定権ノ解釈二就テ」  本案二依ル解決策ハ法律全体二対スル関係二非スシテ民事及刑事二関スル法律ノミニ対スルモノナルヲ以テ解 決策トシテハ理論上十全ノモノニ非ス然レトモ具体的二発生スヘキ支障ハ概ネ取除クコトヲ得ルト共二朝鮮ト同 様ノ程度ト為ルモノナルヲ以テ採用実現ノ可能性相当大ナルモノト認メラル  ⑭律令及特例勅令並行主義ノ当否  次二第三条ノB案即チ律令及特例勅令併行主義ノ方針二付検討スルニ律令ヲ以テ規定セントスル事項ノ内他ノ 法律二抵触スル部分ハ之ヲ律令ノ規定外ト為シ別二違反関係ヲ生スル法律ノ特例勅令トシテ法律第三号第一条第 二項ノ規定二依リテ勅令ヲ制定スルノ方法ハ昭和十一年律令第二号台湾都市計画令制定ノ際同時二制定セラレタ ル昭和十一年勅令第二百七十三号台湾都市計画関係民法等特例力採用シタル所ナリ律令制定権二伴フ法律的障碍 ハ右ノ方法二依リ一応救済セラレサルニ非ス然レトモ今後ノ律令ハ総テ斯ノ如キ律令特例勅令ノニ本建併行主義 ヲ以テ進マントノ方針ヲ決定セントスルニ当リテハ予メ其ノ当否利害ヲ究メサルヘカラス此ノ方針二依ルトキハ 或ハ特例勅令力累積シテ遂ニハ法体系ハ収拾スヘカラサル混乱二陥ルコトナキヲ保シ難ク又成文法ノ制定二当リ テハ其ノ通読解ノ容易ナルコトヲ期スヘキハ当然ナルモ右ノ方法ハ少クトモ之二背馳スルモノナルコト明ナリ然 レトモ之等ハ忍ハントスレハ忍ヒ得ル支障二過キストスルモ右方針ハ冊左二述フルカ如キ致命的ナル理論的欠陥 ヲ有ス ←り  特例勅令ノ意義  法律第三号第一条第二項ノ規定ハ内地二於テ現二存スル法律ヲ成ルヘク多ク台湾二施行セシムル便宜ノ為二設

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東洋法学

       パママレ ケラレタルモノナリ即チ台湾ハ内地トハ民度風俗翌慣ヲ異ニシ又行政組織裁判所ノ構成等モ大イニ異ナルモノア ルヲ以テ内地ヲ対照トシテ設ケラレタル法律ハ大部分ハ到底其ノ儘台湾二施行スルモ適用シ難キコトト為ル而モ 法律ノ明文ハ縦令一字一句ト錐モ之ヲ変更スルハ更二法律ノ規定ヲ必要トス斯タテハ既存ノ法律ハ到底台湾二施 行シ難キヲ以テ便宜ノ手段トシテ之等法律ノ規定中其ノ儘台湾二適用シ難キモノニ付テハ台湾限リノ特例ヲ設ク ルコトヲ法律力勅令二委任シタルモノニ外ナラス従テ特例勅令ノ本質ハ法律ノ委任命令ニシテ其ノ内容ハ事ノ台 湾二関スル限リ勅令ヲ以テ施行セラルル法律ノ実質二対シ部分的乍ラモ変更ヲ加へ得ル能力即チ法律ト同等ノ効 力ヲ付与セラレタル勅令ナリ @ 特例勅令制度ノ難点  勅令二右ノ効果ヲ付与シタルコトハ続テ各種ノ難問題ヲ提供セリ勅令ハ憲法又ハ法律ノ根拠二基キ各種ノ事項 ヲ規定スト錐モ其ノ形式ハ常二一個ノ勅令ナリ官制モ勅令ナレハ法律ノ委任又ハ執行ノ為ノ施行令、施行規則モ 亦勅令二依ルコトヲ得何レノ根拠二基キテ制定スルカハ必スシモ之ヲ明示スヘキコトノ拘束モナク形式モ一定セ ラレタリトハ謂フヲ得ス例ヘハ法律ノ施行令タル勅令中二官制大権二基ク官制規定ヲ挿入セラルルコトモ屡々見 ル所ナリ而シテ台湾二於テハ右法律第三号第一条ノ委任二依リ勅令二対シ法律ノ実質ヲ変更スル能力ヲ付与シタ ル以上勅令ノ規定中二他ノ法律ト衝突抵触スル規定アル場合ニハ仮リニ当該規定ヲ設ケタル動機ハ法律ノ例外ヲ 設クルノ趣旨二非サリシトスルモ実際ノ運用解釈上二於テ法律ノ特例トシテ之ヲ理解シ適用セラレストハ断言ス ルヲ得ス斯テ推論ヲ進ムレハ結局台湾二於テハ全面的二勅令力法律二優先スルノ不当ノ結果ト為ルヘシ斯ル不当 107

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台湾総督府審議室「律令制定権ノ解釈二就テ」 ノ結果ヲ防止スル為法律ハ如何ナル用意ヲ為シタルカヲ探索スルニ従来ノ解釈ハ法律第三号第一条第二項冒頭ノ ﹁前項ノ場合二於テ﹂ナル字句力此ノ点ノ疑義ヲ解決シタルモノト解シ居レリ即チ勅令ヲ以テ法律ノ特例ヲ設ケ 得ル場合ハ専ラ法律第三号第一条第一項ノ規定二依リ﹁勅令ヲ以テ法律ヲ台湾二施行スルコトヲ定ムルトキ﹂ノ ミニシテ一旦法律ヲ台湾二施行シタル以上ハ其ノ後二於テハ之二対シ特例ヲ設クルヲ得ストノ意味ヲ表シタルモ ノナリト為シ以テ前述ノ如キ全面的二勅令力法律二優先スル不当ナル結果ノ発生ヲ防止セントシタルモノナリト 解ス @ 特例勅令ノ制定時期ヲ限定スルコトノ不当  然レトモ右ノ解釈ハ他面二於テ甚シキ不都合ヲ生スルモノトス其ノ所以ハ一度台湾二施行セラレ内地台湾力同 一法域ト為リタル法律二付其後内地二於ケル事情ノ変化又ハ社会ノ進運二応スル為改正ヲ加ヘラレタリトセンカ 当該改正規定ハ台湾二於ケル事情ノ如何二拘ラス当然台湾ニモ適用セラルルコトト為リ其ノ特殊事情二因リ適用 困難ナルカ如キ場合二於テモ最早勅令ヲ以テシテハ特例ヲ規定シ得サルナリ改正法律力台湾ノ事情ヲ充分斜酌シ テ法律自体二於テ台湾二関スル特例ヲ設クレハ固ヨリ支障ヲ生セサルヘキモ内地二於ケル改正ノ際ニハ概ネ斯ル 点迄モ考慮スルノ余裕ナク専ラ内地ノ事情ノミヲ考慮シテ改正ヲ行フヲ常トスルヲ以テ台湾二於テハ実情ト懸ケ 離レタル法律ヲ適用セサルヲ得サルノ結果ト為ルヘシ更二右トハ反対二内地ノ事情ニハ何等変化ナキモ台湾ノ事 情力何等カノ原因ニョリ変化ヲ生シタルカ如キ場合二於テモ勅令ヲ以テ特例ヲ追加スルコトヲ得ストスレハ勢ヒ 台湾ノミノ事情ノ為二法律ノ改正ヲ要スルコトト為ルヘシ斯テハ何力為二特例勅令制度乃至ハ律令制度ヲ設ケラ

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東洋法学

レタルモノナリヤモ疑ハルルニ至ルヘク薙二於テモ亦法律第三号ハ一個ノ自家撞着二逢着ス ⑭ 特例勅令制定時期二関スル公定解釈ノ変遷  特例勅令ハ法律ヲ初メテ台湾二施行スル場合ニノミ制定シ得ルモノニシテ施行後二於テハ改正追加ヲ為スコト ヲ得ストノ解釈ハ矛盾ト不便トヲ生スルノ結果実際ノ必要力漸次解釈ヲ改メシメ今日二於テハ法律ノ施行後二於 テモ特例勅令ノ改正又ハ追加ハ可能ナリトセラルルニ至レリ  其ノ立法前例ノ最初ノモノハ﹁昭和六年勅令第百四十九号台湾二於ケル電気事業法ノ特例二関スル件﹂ニシテ 昭和二年勅令第三百七十八号ヲ以テ台湾二施行セラレタル旧電気事業法二対スル特例勅令ノ追加ノ規定ナリ次テ 昭和七年勅令第三百六十号ハ民法ノ特例ヲ追加シ同年勅令第三百六十号ハ更二改正電気事業法二対スル特例ヲ追 加セリ斯クシテ昭和十一年ニハ前述ノ如ク律令タル台湾都市計画令ヲ成立セシムル為相当大量ノ民法二関スル特 例タル台湾都市計画関係民法等特例ヲ勅令ヲ以テ規定スル迄二発展シテ薙二所謂律令特例勅令併行主義ノ前例ヲ 拓クニ至レリ ㈹ 特例勅令制度濫用ノ弊  依テ問題ハ再度出発点二還元シ台湾二於テハ法律二対シ勅令力全面的二優位ノ地位二立ツノ原則力行ハルルニ 非スヤトノ疑問ヲ生スヘシ唯従来ノ之等前例ハ必ス其ノ勅令ノ何レカノ部分二於テ特定法律ノ特例勅令ナルコト ヲ明示シ其ノ明示アルモノノミカ特例勅令ニシテ明示ナキモノハ単ナル勅令ナルコトノ判別二資シタリ然レトモ 今後律令制定ノ場合特例勅令トノ併行主義ヲ採リテ進ム場合ニハ果シテ常二斯ノ如キ判別ヲ容易ナラシメ得ル途 109

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台湾総督府審議室「律令制定権ノ解釈二就テ」 アリヤ純理上ヨリスルモ遂ニハ法律二対スル勅令ノ全面的優位ノ原則力行ハルルニ至ルヘシ一例ヲ示スニ左ノ如 シ  台湾二於テ特設会社ヲ設ケントスル場合二於テ之二必要ナル規定ハ法律第三号第二条ノ規定二所謂﹁台湾二於 テ法律ヲ要スル事項ニシテ施行スヘキ法律ナキモノニ関シ台湾特殊ノ事情二因リ必要アル場合﹂二該当スルヲ以 テ一応律令ヲ以テ定ムルコトヲ得ルモノト解セラル然ルニ他面之等特設会社二関スル規定ハ主トシテ商法ノ特例 二属スルヲ以テ前述ノ如キ律令特例勅令併行ノ方針二依ルトキハ之等ハ主トシテ特例勅令ヲ以テ規定スルヲ要ス ルコトト為ル而モ特殊会社二関スル規定中商法ノ特例二非ルモノハ恐ラクハ取締上必要ナル罰則其ノ他極メテ小 範囲二止マルヘキヲ以テ略全面的二特殊会社力勅令二依リテ設立シ得ルコトト為ルヘシ斯ノ如キハ其ノ基ク理論 力奈辺二在リトスルモ結局勅令力全面的二法律二優先スルモノト考ヘサルヲ得サルヘシ  以上二依リ明瞭ニシ得タル如ク特例勅令ノ制度ヲ広範囲二活用スルコトハサナキダニ法律ト律令トノ併立二基 キ複雑ナル台湾ノ法制二更二特例勅令ヲ加ヘテ、法律、勅令及律令ノ三者力殆ント同等ノ効力ト規定分野トヲ占 メテ巴状二存在スルコトト為リ法制ハ複雑化シテ殆ント収拾スヘカラサルノ結果ト為ルヘシ 六 結   語  以上各案ノ長短ヲ彼此考究シ且実現ノ難易ヲモ併セ考フルトキハ結局第二案即チ大正十年法律第三号第五条ノ 解釈ノ変更二依ル解決案ヲ最モ適切妥当ノモノトシ次テ採ルヘキハ第三案ノA即チ民事及刑事二関スル法律ノ特 例勅令ノ改正二依ル解決案トス以上二案ノ中何レカ一方ヲ採用セラレテ速二之力実現ヲ期スルハ制定改廃ヲ要ス

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ル律令案件相当集積ノ折柄統治上最モ喫緊ノ要務トス        ママレ  大正十年法律第三号ハ其ノ以前二於テ律令制定権制度力期限付漸定法ナリシ為之力継続更新ノ度毎二所謂六三 問題トシテ政論ノ対象タリシヲ解決シテ遂二恒久的制度ト為シタルモノナルヲ以テ同法ノ立案制定二当レル当時 ノ当局者ノ苦心ト統治二対スル功績ハ多大ナルモノアリト謂フヘシ唯当時二於テハ政治的解決力急務ナリシ為自 然法律自体ノ内容ハ折衷的妥協的ト為リ其ノ中二理論的欠陥ヲ包蔵セルハ当時二於テハ已ムヲ得サル所ナリシナ ランモ其後約二十年間ノ実施ノ結果其ノ内蔵スル矛盾欠陥ヲ次第二台湾法制上ノ現実ノ問題トシテ顕現シ遂二今 日ノ如キ立法ノ行詰リヲ見ルニ至レル念是二遺憾二堪ヘサル所ナリ  今ヤ国家内外ノ情勢ハ一大転機二遭遇シ台湾力負フヘキ使命ハ更二重大ヲ加ヘツツアリテ今後ノ立法事務モ亦 愈繁劇ト為ルヘキヤ必セリ依テ此ノ機二際会シ往年ノ六三問題解決ノ経緯ヲ回顧シ今日二於テ其ノ行詰リ状態ノ 打開ノ途ヲ講スルニ非サレハ蓋シ将来ノ施政二影響スル所亦多大ナルモノアルヘシ

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