博士(医学)得地史郎 学位論文題名
T 細胞クローンを用いた実験的アレルギー性脳脊髄炎(EAE) における抗原反応性と脳炎誘発性解離現象の解析 学位論文内容の要旨
Ilま じ め に
実 験的ア レルギー 性脳脊 髄炎(experimental allergic encephalomyelitis
;EAE)は中枢 神経系の 自己免 疫性の脱 髄疾患 であり、 多発性硬 化症の動物モ デ ルとし て知られ ている。EAEは 中枢神経 髄輔構成蛋白であるミエリン塩基性 蛋 白(myelin basic protein;MBP)を 感受性の ある動物 に感作 するか、MBP反 応 性T細 胞ライ ン(多種 反応細 胞の混合 )やT細胞ク ローン( 単一細 胞由来)
を 移入す ることで 引き起こ すこと ができる 。しかも、MBPの脳炎活性を有する 部 分(起 炎決定基 )に反応 するT細胞ラ インやクローンのみが起炎性を示す。
SJL/Jマウ スのMBPの起炎 決定基は モルモッ トMBPのアミノ 酸89番か ら101番ま で の部位 (以下MBP 89―101と 略)に存 在することが判明しており、この部位 と 反 応 す るT細 胞 が 脱 髄 性 脳 炎 を 誘 発 す る こ と も 実 証 さ れ て い る 。 と こ ろが 、 我 々が 樹 立 し たT細 胞 クロ ー ン の中 に 抗 原に 対 す る反 応 性 は 保 ちなが ら起炎性 が喪失し たT細胞クロ ーンが存在することが見いだされた。
こ の 起 炎性 の 喪 失を 解 析するこ とにより 抗原反 応性T細胞が どのよう な機構 で 脳内に 違し脳炎 と脱髄を 生ずる かを明確 にする ことが可 能と考 えられる。
そ こ で 、我 々 は 起炎 性 喪 失 機序 と し て抑 制 因 子、リ ンホカ インなど 種々の 因 子の解 析を行い 、細胞接 着分子 の発現に 差異を 見いだし たので 報告する。
II研 究 方 法
1.T細 胞 と 起 炎 性 :SJL/Jマ ウ ス 由 来 のrdIBP特 異 反 応 性T細 胞 ク ロ ー ン 4b. 14aを 長期間in vitroで継代 するうち に、起 炎性を喪 失したも のが見いだ され、 これを4b. 14a/nと名 付けた 。新たにMBPをSJL/Jマウ スに免 疫後、合成 ペプチドlrIBP 89−101を抗原とし継代培養してT細胞ライン(YT−2)を得、それ を限界 希釈して 樹立し た起炎性 クロー ン(TNT−1)をも研究対象とした。各種T 細胞の抗原特異反応jま[3H]Thymidine uptakeにより測定し、脳炎誘発活性は,
抗 原刺 激 後 の幼 若化 したT細胞を マウスの 腹腔内 に移入し 、脳症(EAE)の発 症 の程度を6段階評価で判定した。
2.病 理 学 的 検 索 :T細 胞 ク ロ ー ン 移 入 後8日 目 と12日 目 と の 脊髄 標 本 にて 検討し た。今回 新たに 作製した 抗MBP 89−101モノク口ーナル抗体(mAb)を用い た Avidin− Biotin法 に よ る 免 疫 組 織 学 的 染 色 標 本 も 検 索 し た 。 3,抑制因 子測定 :4b. 14 a/n(非起炎 性T細 胞)に よる起炎 性T細 胞抑制因子 産生の 有無を調 べるため、4b. 14aのMBP 89−101に対する増殖反応に4b. 14a/n の 培 養 上 清 を 加 え た 。Controlと し て 、4b. 14aの 培 養 上 清 を 用 い た 。 4. リンホ カイン 活性:TNF‑a,lymphotoxin (LT),Interferon(IFN),IL―2 活性測 定は各種T細 胞の抗原 刺激後24,48時間細 胞の培 養上清を 用いていずれ もbioassayで 求めた。 最初に総TNF (TNF‑ロ とLTの総 量)活性 をL929細胞を用 いたcytotoxicity assayで調ぺ 、次にLT活 性を抗mouse TNFーa抗体をcoating し たproteinAーSepharoseでTNF‑aを吸着 除去した サンプ ルを用い て同様に 測 定した 。TNF‑ロ活 性は総TNF活性 値とLT活性値との差から求めた。IFN活性;ま L929細 胞とvesicular stomatitis virusを 用いたcytopathic effect (CPE) reduction assayで測定した。IL−2活性|まCTLL−2細胞(IL−2dependent)ならび にHT−2細胞(ILー2and IL−4dependent)の[3H]Thymidine uptakeにより求めた。
5. 接 着 分 子 の 解 析 : リ ン パ 球の 接 着 分 子で あ るCD2とLFA−1ぱ(CDlla)と LFA−1ロ(CD18)の発現の程度は抗原刺激後72時間の4b. 14a/nと4b. 14aとを、そ れ ぞ れ の 抗 マ ウ ス 特 異 抗 体 を 用い てFACScanサ イ ト メー タ ー で解 析 し た。
11I結 果
4b. 14aは腹 腔内 投与 後7日 から、TNT−1は9日か`ら重 症EAEを発症したが 4b. 14a/nは全くEAEを発症せず 、また大量投与しても発症しなかった。EAEの 病理像では、4b. 14a移入後の脊髄には血管周囲性に著明な 単核細胞浸潤と抗 MBP 89−101 mAbによる免疫染色で炎症病巣のMBP陽性myelinの消失(脱髄)が 見られたが、4b. 14a/nでは細胞浸潤は全く見られず,MBP陽性の髄鞘も保たれ ていた。また、起炎決定基であるMBP 89ー101に対する4b. 14 a/nの抗原特異反 応は4b.14aやTNT−1と同程度保たれていた。非起炎性細胞による抑制因子につ いては、4b. 14 a/n培養上清はdose dependentに4b. 14aのMBP 89−101に対する 増殖反応を抑制したが、4b. 14a培養上清にも同様の抑制活 性を認め、抑制因 子は関与していないと考えられ た。リンホカイン活性では4b. 14a/nの培養上 清中のTNF‑a活性は高値を示したが、これは4b.14 a/n由来 ではなく抗原刺激 時にフイーダー細胞として加え た脾細胞由来と考えられた。LT,IFN,IL―2活 性で は 両者 に明 らか な差はな かった。接着分子発現の程度では、LFAー1ぱと CD2の発現量に差;まなかったが、4b.14 a/nのLFA−1ロの発現量は4b. 14aより明 ら か に 低 下 し て お り 、 こ の 低 下 傾 向 は コ ン ス タ ン ト に 再 現 さ れ た 。
1V考 察
T細 胞 性 組 織 障 害 の 中 で 、 起 炎 決 定 基 に 反 応 す るT細 胞 ク ロ ーン が必 ず し も起 炎性 を有 して いな いという現譲に遭遇した。抑 制因子や検索した範囲 の り ン ホカ イン 活性 など には 差異 がな かっ たが 、T細 胞上 の接 着分 子(LFA‑
1ロ)の発現量には常に低下が観察された 。EAEを発症するためには、エフェク タ ーT細 胞が 中枢 神経 に侵 入しなければならない。EAEは免疫系の様々な複雑 な 細胞 相互 作用 や繊 細な 調節機構の総和として誘起さ れ、多方面からの解析 が 重要 と考 えら れる が、 今回の解析で接着分子低発現 によるhoming能や血液 脳 関門 の透 過性 の欠 如が 脳 炎誘 発能 の障 害の1つ の要 因になっていると推測 された。
Vま と め
実験的ア レルギー 性脳脊 髄炎(EAE)におけ る抗原決定基に反応するT細胞ク 口 ー ン の 起 炎 性 喪 失 機 序 を 解 析 し て 次 の 結 果 が 得 ら れ た 。
1. ミ エ リン 塩 基 性 蛋白 お よ びそ の 起 炎決 定 基 に反 応 するT細 胞クロー ン (4b. 14a/n)は臨 床 的 にも 病理 学的に も脳炎誘 発能カを 喪失し ていた。
2.起 炎 性 保 持 T細 胞 ク 口 ー ン と 比 較 し て 起 炎 性 喪 失T細 胞 ク 口 ー ン (4b. 14a/n)には抑制因子の存在や検索した範囲のりンホカインに差が無か っ た が 、 接 着 分 子(LFAー1B) に お い て 発現 量 の 低下 が 観 察さ れ た 。 3. EAE発 症 に はT細 胞 ク 口ー ン が 起 炎決 定 基 に反 応 し 、か つ 細 胞接 着 分 子を保持していることが重要と考えられた。
学位論文審査の要旨
学位論文題名
T細 胞クロー ンを用 いた実験 的アレ ルギ一性 脳脊髄炎 (EAE) に お け る 抗 原 反 応 性 と 脳 炎 誘 発 性 解 離 現 象 の 解 析
は じ め に
実験 的アレル ギ一性 脳脊髄炎(experimental allergic encephalomyelitis
;EAE)は 中枢神経 系の自 己免疫性 の脱髄疾患である。EAEは中枢神経髄鞘構成 蛋白 であるミ エリン塩 基性蛋 白(MBP)を 感受性 のある動 物に感作するか、MBP 反応 性T細 胞ライン やT細胞クロ ーンを移 入する ことで引 き起こすことができ る。 しかも、MBPの脳炎活性を有する部分(起炎決定基)に反応するT細胞ライ ンやクローンのみが起炎性を示す。SルノJマウスの起炎決定基はモルモットMBP のアミノ酸89番から101番までの部位(MBP 89−101)に存在することが判明して おり 、この部 位と反応 するT細胞が 脱髄性脳炎を誘発する。ところが、我々が 樹立 したT細胞クロ ーンの 中に抗原 に対する反応性は保ちながら起炎性が喪失 したT細胞 クローン が存在 すること が見いだされた。そこで、この起炎性喪失 機序として抑制因子の関与、、リンホカイン産生の欠失、細胞接着分子の発現の 変化に基づくと仮定し、この3点について解析を行った。
方 法
Sル ノJマ ウス由来 のMBP特異反応 性T細胞ク口 一ン4b.14aと、 このク口一ン を長期間in vitroで継代するうちに、起炎性を喪失したもの4b. 14 a/nと、新た に樹立 した起炎 性クロ ーンTNT―1と の3クローンを研究対象とした。各種T細胞 の抗原特異反応は[3H]Thymidine uptakeにより測定し、脳炎誘発活性は,抗原刺 激後の 幼若化T細胞を マウス の腹腔内 に移入し、脳症(EAE)の臨床的重症度の判 定を行い脊髄H.E標本ならびに新たに作製した抗MBP 89―101モノクローナル抗体 (mAb)を 用いたABC法に よる免疫 組織学 的染色標本にて病理学的検索も行った。
抑制因子産生の有無は、4b. 14a/nの培養上清を4b. 14aのMBP 89―101に対する増殖 反応に加えて調べた。 TNF‑ゼ,lymphotoxin (LT),Interferon(IFN),IL−2活性測 定は各種T細胞の培養上清を用いて、最初に総TNF活性をL929細胞を用いたcytoー
郎敬 彦 和 邦 嶋木 林 長吉 小 授授 授 教 教教 助 査査 査 主副 副
toxicity assayで、次にLT活性を抗mouse TNF‑a抗体を用いてTNF‑ロを吸着除去 して同様に測 定した。TNF‑a活性は総TNF活性値とLT活性値との差から求めた。
IFN活性はL929細胞とvesicular stomatitis virusを用いたcytopathic effect reduction assayで測定した。IL―2活性はCTLL−2細胞ならびにHTー2細胞のCsH]
Thymidine uptakeにより求めた。接 着分子の解析では、CD2とLFA−1a(CDlla) とLFA−1ロ(CD18)の発現の程度を抗原刺激後72時間の4b. 14 a/nと4b. 14aとを、そ れ ぞ れ の 抗 マ ウ ス 特 異 抗 体 を 用 い てFACScanサ イ ト メー 夕― で解 析し た。
結 果
4b. 14aとTNT―1は重症EAEを発症したが、4b. 14 a/nは全くEAEを発症せず、また 大量投与して も発症しなかった。病理学的検索では、4b. 14aでは著明な単核細胞 浸潤と抗MBP 89―101 mAbによる免疫染色で炎症病巣のMBP陽性myelinの消失(脱 髄)が見られ たが、4b. 14a/nでは細胞浸 潤は全く見られず,髄鞘も保たれてい た。また、MBP 89−101に対する4b. 14 a/nの抗原特異反応は4b. 14aやTNT−1と同程 度保たれてい た。非起炎性細胞による抑制因子にっいては、4b. 14 a/n培養上清 中にはdose dependentの抑制活性を認めたが、4b. 14a培養上清にも同様の抑制 活性を認めた 。リンホカイン活性では4b. 14 a/nの培養上清中の牌細胞由来と考 えられるTNF‑ば活性は高値を示したが、LT,IFN.IL−2活性では両者に明らかな 差 はな かっ た。接着分子発現の程度では、LFA−laとCD2の発現量に差はなかっ たが、4b. 14a/nのLFA−1Bの発現量は4b. 14aより明らかに低下しており、この低 下傾向はコンスタントに再現された。
考察と結語
起 炎 決 定 基 に 反 応す るT細胞 クロ ―ン が 必ず しも 起炎 性を 有し てい ない と い う現 象に 遭遇した。抑制因子や検索した範囲 のりンホカイン活性などには差 異がぬかった が、T細胞上の接着分子(LFA−1B)の発現量には常に低下が観察さ れ た。EAEを発症す るためには、エフェクタ−T細胞が中枢神経に侵入しなけれ ばならない。EAEは免疫系の様々な複雑な 細胞相互作用や繊細な調節機構の総和 と して 誘起 され、多方面からの解析が重要と考 えられるが、今回の解析で接着 分 子低 発現 によるhoming能や血液脳関門の透過 性の欠如が脳炎誘発能の障害の 1つ の 要 因 に ナ ょ って いる と推 測さ れ、EAE発 症に はT細 胞ク ロ― ンが 起炎 決 定 基に 反応 し、 かっ 細胞 接 着分 子を 保持 して いる こと が重 要と 考えられた。
口頭 発表 に当たり、吉木教授、小林教授、上 出教授より脱髄性脳炎発症機構 に おけ る細 胞接着装置の役割、リンパ球、血管 内皮に介在する他の細胞接着因 子、LFA―1声 反応性低下の解釈とその意義、非起炎性T細胞クローンの生体内局 在 、投 与部 位による検討などの質問がなされた が、発表者は概ね適切ぬ回答を な した もの と思われた。また、吉木教授、小林 教授には個別に審査を頂き、そ れ ぞれ 合格 と判定された。以上、本研究は免疫 反応性を有しているが起炎性を 失 ったT細胞 クロ ーン を多 方面 から 解析し、脱 髄性脳炎発症機構に関するーつ の 要 因 を 示 し た も の で あ り 、 学 位 論 文 に 値 す る も の と 判 断 さ れ た 。