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博 士 学 位 論 文 審 査 要 旨

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Academic year: 2021

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[博士-審査要旨]

博 士 学 位 論 文 審 査 要 旨

学位申請者氏名 西 達也

論 文 題 目 ジホスフィンジオキシド配位子を有する発光性銅一価錯体の合成 審査委員(職名・氏名・印)

主 査 教 授 坪村 太郎 審査委員 教 授 山崎 章弘

教 授 横山 明弘

教 授 芳賀 正明 (中央大学理工学部) 論文審査結果(合 否) 合格

論文審査の要旨

本論文は、ジホスフィンジオキシドと呼ばれる有機物が一価銅(銅(I))に結合した化合物(錯体) の合成を行い、その構造や発光特性について研究を行った結果をまとめた論文である。なおジホス フィンオキシドは、リン原子を2個含む有機化合物の一群であるジホスフィンに酸素が2つ結合し た化合物のことである。

本論文は5章からなっている。

第1章は序論であり、本論文で取り扱っている事項に関連する用語の説明や、本研究の背景、そ して研究目的が述べられている。申請者の所属する研究室では、以前ジホスフィンにイオウ原子が 接続した有機物が一価銅に結合した錯体について研究を行っており、一部の化合物が銅錯体として は極めて長寿命の発光を示すことを見いだしていた。申請者はそれに着目し、様々な実験を繰り返 すうちに、偶然ジホスフィンオキシドが結合した錯体が青色の強発光を示すことを見いだしたこと からこの研究につながったことが述べられている。そもそも銅(I)は、一般によく見られる銅化合物 に含まれる二価の銅すなわち銅(II)と異なり、ジホスフィンジオキシドのように酸素原子が金属と結 合する様式の化合物には結合しにくいとされていた。これは錯体化学でしばしば用いられ、金属と 結合しやすいかどうかを判定する経験則に基づく考え方から導き出される結論であった。実際ジホ スフィンジオキシドを含む銅(I)錯体はごく少数しか報告されていないこともこの序論に記述され ている。しかし、本論文では、ジホスフィンジオキシドともう一つの化合物を一分子ずつ銅(I)に反 応させることで両者を含む錯体が容易に合成できることを示したのみならず、極めて興味深い発光 特性を有することが明らかとなった経緯が記されている。また次章以下の論文の構成が簡単に記述 されている。

以下、ジホスフィンジオキシドを有する錯体について、もう一分子の配位子(錯体中において金 属に結合する分子を指す)としてモノホスフィン(リンが1つの配位子)を用いた場合、リンが2 つのジホスフィンを用いた場合、さらにジホスフィンのうちdppmとよばれる特殊なジホスフィン を用いた場合に分けて章立てがなされ、論文が構成されている。

(2)

[博士-審査要旨]

論文審査の要旨(続)

第2章は「モノホスフィン配位子を用いた銅一価錯体」に関する研究結果が述べられている。

まず、2章の冒頭 2-1ではモノホスフィンを用いた経緯が述べられる。実験項 2-2がそれに引き 続き、実験に用いた試薬、測定方法、合成方法、単結晶X線構造解析、分光測定方法、そして量子 化学計算法であるDFT計算法のそれぞれが詳細に記述されている。

2-3 は結果と考察である。実は本研究で用いているジホスフィンジオキシドと典型的なモノホス フィンであるトリフェニルホスフィンが2分子結合した錯体は文献既知であった。しかし構造が知 られているのみで分光特性などは全く知られていなかった。申請者がこの錯体を合成したところ紫 外線照射下で青色の発光を示すことが示されたこと、そしてその詳細な結果が記されている。さら に申請者はジホスフィンジオキシドに対応するイオウを含む化合物ジホスフィンジスルフィドとト リフェニルホスフィンを含む化合物を合成したところ、こちらはほとんど発光を示さなかった。そ こで申請者はまず単結晶X線構造解析というエックス線を用いて分子構造を詳細に解き明かす手法 によってジホスフィンジスルフィドを含む化合物の構造を明らかにし、ジホスフィンジオキシドの 化合物との比較を行った。その結果ジホスフィンオキシド錯体とジホスフィンスルフィド錯体では 酸素がイオウに変化した以外、目立った構造上の変化は見られなかった。さらに DFT 法(密度汎 関数法)とTD-DFT法(時間依存密度汎関数法)と呼ばれる方法によって両錯体の電子状態を比較 し、なぜ両者で発光特性が異なるのかを詳しく考察を行っている。考察の結果光照射によって錯体 は高エネルギーを有する励起状態と呼ばれる状態となるが、その励起状態の特性が両錯体で若干異 なるという結論が2-4でまとめられている。

第3章はジホスフィン配位子を用いた銅一価錯体に関する結果の章である。前章ではジホスフィ ンジオキシド配位子と組み合わせる配位子として、モノホスフィンを選んだが、ここではジホスフ ィンが選択される。ジホスフィンには様々なものが知られており、申請者も多くのジホスフィンを 用いて実験を行っているが、本章では主に3種類のジホスフィンを用いた場合に得られる錯体の結 果が述べられている。

3-1 では、ジホスフィンとジホスフィンスルフィドの錯体を含む本章の研究背景が簡単に述べら れる。3-2は実験項でこれは2-2と同様な内容である。3-3が結果と考察である。まず合成と同定法 に関しての記述があり、錯体の構造の結果が述べられる。本章でも1つの化合物が単結晶X線構造 解析によって構造の詳細が明らかとなっている。それによれば、この錯体は予想通りジホスフィン ジオキシド配位子が2つの酸素原子を介して銅(I)に結合し、さらに1分子のジホスフィン配位子が 2つのリン原子を介してその銅(I) に結合していることが分かった。つまり銅には4つの原子が結合 していることになる。それら4つの原子は四面体を形成していたが、その構造が錯体中の原子間の 結合距離や結合角と共に詳細に議論されている。他の三種の化合物は元素の組成や、核磁気共鳴と いった手法により同様の構造であることが推論されている。これらの推論は妥当なものである。さ らにこれらの化合物の分光学的な特性が述べられる。この部分がこの論文中で最も重要な部分とい えよう。ただし、4 種の化合物が同定されているが、1 つの化合物はさほど安定ではなかったとの ことから分光が詳細に議論さているのは3種類の化合物である。これらの錯体はいずれも固体状態

(3)

[博士-審査要旨]

または溶液状態で紫外線照射により発光を示すことが明らかとなった。これらは溶液中においては

490 nmから580 nmに極大波長を持つ発光を示し、発光の量子効率は4-9%とそれほど高い値では

ないが、レーザー分光によって求められる値である発光寿命はマイクロ秒のオーダーであり、銅(I) 錯体としてはよく見られる値であったと報告されている。特筆すべきは固体での発光であり、これ らのうち2つの化合物は青色の強い発光を示したことである。量子効率は最大で76%と記されてい る。これは青色発光としてはかなり大きな値といえる。錯体の発光は有機ELなどのディスプレイ デバイスに用いられているが、青色発光を強く出すものは依然として少なく、これらが産業界から も強く求められているからである。興味深いことは、特に1つの錯体の固体状態での発光の強度が まわりの気体の種類で大きく変化することである。酸素の存在下では発光強度が顕著に弱くなるこ とが述べられており、センサへの応用が期待できる。

さらに2章と同じくホスフィンスルフィドの系との比較もなされている。一般にホスフィンオキ シドの錯体の方が強発光であること、青色発光はホスフィンオキシドでのみ観測されたことが示さ れているが、その理由についてやはり量子化学計算によって明らかにしようとしている。その結果 第2章のモノホスフィンの場合と同じく、ホスフィンオキシド錯体とホスフィンスルフィド錯体で は、励起状態の特性が異なることが分かりこれが発光の特性の差にも表れていると結論づけている。

第4章は架橋型ホスフィン配位子を用いた二核銅一価錯体に関する結果の章である。第3章で用 いたジホスフィンは2つのリン原子が同じ銅原子に結合する性質を持っていたが、本章で扱うジホ スフィン配位子dppmは2つのリン原子が別々の銅原子に結合しやすい特性を持っている。この場 合ジホスフィン配位子が2つの銅原子間に橋を架けているように見えるので架橋型と呼んでいる。

本章も4-1では研究背景が述べられ、4-2では実験方法が記載されている。4-3が結果と考察であ る。2章、3章では錯体一分子中に銅原子は1つであり、それにジホスフィンジオキシドとジホス フィンまたはモノホスフィンが結合していたが、今回は錯体中に銅原子は2つ有り、それらをジホ スフィンdppmが2分子とジホスフィンジオキシド1分子がいずれも2つの銅原子を架橋する形の 構造であることが判明した。この錯体とdppmのみ3分子が架橋した錯体(こちらも新規化合物)を 比較検討している。いずれも固体状態で青色発光を示すことが明らかにされているが、特に前者は 発光量子効率が73%とこれも非常に高い値であったと報告されており、これらの発光メカニズムも やはり量子化学計算によって考察がなされている。

5章は総括であり、これまでの結果が簡単にまとめられている。

以上のように本論文は、従来の経験則からはその安定性が予想しにくいジホスフィンジオキシド が銅(I)に結合した錯体が容易に合成でき、しかも青色強発光を示すことを示した。その発光メカニ ズムを様々な分光学データや量子化学計算の結果も用いて議論を行っており、またセンサとしても 応用可能な化合物を発見し、それらの性質を詳細に議論したものである。本論文の内容は既に3つ の論文として申請者が筆頭著者となって公開されている。以上のことから、本論文は博士(理工学) を与えるに十分な内容であると認めるものである。 (以 上)

参照

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