博士(工学)関根一光 学位論文題名
連続流型血液ポンプ用磁性流体シールの研究 学位論文内容の要旨
日本 にお いて 、心 疾患 は死 因の 第2位 とな って いる 。心 疾患 の治 療として 心 臓移 植も 行わ れて いる が、 提供 心不 足は、深刻な問題である。そこで、提 供 に問 題の 無い 人工 心臓 の開 発が 望ま れている。近年の人工心臓研究は目覚 ま しい 成果 が報 告さ れて おり 、4年 を超 える 生存 も記 録し てい るデ バイスも ある。ただし、欧米、で広く臨床応用されている人工心臓は拍動型血液ポンプ で 大型 であ るた め、 日本 人の よう な小 柄な患者には適していない。そこで小 型化に有利な連続流ポンプの開発が行われている。
連 続流 ポン プで は血 液チ ャン バ内 の羽根車とチャンバ外の駆動装置を結 合 する 方式 とし てメ カニ カル シー ルを 用いる直結方式、シールを必要としな い 磁気 結合 方式 及び 磁気 浮上 方式 があ る。直結方式ではメカニカルシールの 耐 久性 の問 題が ある 。ま た、 磁気 結合 では羽根支持機構の耐久性の問題があ る 。磁 気浮 上方 式は 装置 の大 型化 、消 費電カの増加などの問題がある。とこ ろ で、 磁性 流体 シー ルは 固体 同士 の接 触が無いため、耐久性に優れているな ど の特 徴が ある 。そ こで 磁性 流体 シー ルが人工心臓用の直結式連続流ポンプ ヘ 応用 でき れば 、メ カニ カル シー ルの 問題を解決できる可能性がある。しか し 、磁 性流 体シ ール を人 工心 臓用 血液 ポンプへの応用するには、高いシール 耐 圧、 耐久 性、 生体 適合 性が 要求 され るが、従来これらについて満足できる シ ール の研 究・ 開発 が行 われ てい ない 。 そこで、本論文においては磁性流 体 シー ルの 磁気 圧性 能、 シー ル構 造の 耐久性能、生体適合性に主眼をおいた 研 究を おこ ない 、連 続流 型血 液ポ ンプ への応用を可能な磁性流体シールを開 発することを目的とした。
磁 性 流 体 シ ー ル 構 造 は ド ー ナ ツ 状2枚 の ポ ー ル ピ ー ス( 直径8 mm、内 径 3.1 mm)と ド ー ナ ツ 状1枚 の 永 久 磁 石 ( 直 径8mm、内 径3.6 mm,Nd‑Fe‑B, Br:ニ12.6 kG,Hc=ニ1.14 MA/m)から成る構造とした磁性流体シール構造の検 討 とし て、 当研 究室 で開 発中 の軸 流型 血液ポンプのポンプ特性を基準とした 必要特性を設定した(必要耐圧: 300 mmHg)。これに対し、上記デフォルトモ デ ルを 基に 磁石 の種 類、 磁性 流体 の種 類、ポールピース及び永久磁石の形状 等 それ ぞれ を変 更し た際 の理 論上 磁気 圧を磁気回路計算により算出し、連続 流 型血 液ポ ンプ への 使用 に適 した 構成 を検討した。その結果、磁性流体の高
磁化及びポールピースと回転軸ギャップを小さくすることにより、ポンプ内 血圧に耐えうる構造を持ち、かつ小型な磁性流体シール構造が決定された。
決定された構造はシールギャップ50 ym、磁性流体に飽和磁化値67.9 kA/m のものを使用するものであった。
また、上記構造の検討の妥当性評価として磁性流体シールの耐圧測定試験 をおこなった。磁性流体の種類の変更については実験による耐圧性能を評価 し、磁気回路計算の妥当性も評価した。その結果、回転数7,OOOrpmでシー ル耐 圧560mmHgを得た。シール構造の検討から得た値と同程度の実験耐圧 を確 認し、現時 点で血液ポ ンプ用シー ルとして最 適な構造を確認した。
次に、耐久性能の確認には磁性流体シールを液体中で保持し、シャフト高 速回転状態での耐久試験をおこなった。また、シール構造の維持に関して磁 性流 体の液体中 ーの流出量を測定した。シャフト静止状態かつlOOmmHg加 圧下で700日以上シール漏れが無いことを確認し、シャフト回転7,000 rpm において366日の耐久を確認した。また、磁性流体の液体中への流出は注入 量の10%程度で飽和し、注入量の制御により最大でO.l piLまで減少するこ とを確認した。
生体適合性に関しては、生体材料試験法に則り、磁性流体自身及び磁性流 体抽出液による細胞毒性試験により評価した。試験細胞にはマウス線維芽由 来細胞L929を使用し、細胞浮遊液中に磁性流体自身もしくは磁性流体から 作成した抽出液を混合することとした。培養時間は48hもしくは96hとした。
培養終了後、細胞増殖能の確認をおこなったところ磁性流体自身及び抽出液 の混合いずれにおいても細胞増殖能に統計的有意差は確認されず、細胞毒性 試験による生体材料としての安全性が確認できた。
以上より、磁性流体シールの磁気圧性能、耐久性能、生体適合性にっいて、
連続流型血液ポンプに応用可能な磁性流体シールを作成し、充分な性能を確 認した。 これらの成果を基に、当研究室で開発中の軸流型血液ポンプにお いて、4例のヤギ急性動物実験をおこなった。磁性流体シール構造にっいて は問題無く機能し、抗凝固処理無くおこなったこれらの動物実験において、
血 栓 形 成 は 確 認 さ れ な か っ た 。 ま た 、 独国MEDOS社のDELTASTREAM ポンプへの応用を目的とした磁性流体シール構造内蔵ポンプを作成し、現在、
慢性動物実験を準備中である。
以上より、本論文は磁性流体シール構造の連続流型血液ポンプへの応用の 有効性を示すものである。
学位論文審査の要旨 主査 教授 三田村好矩 副査 教授 栗城眞也 副査 教授 山本克之
学 位 論 文 題 名
連続流型血液ポンプ用磁性流体シールの研究
重 症 心 疾 患 患 者 へ の 有 効 な 治 療 法 と し て 、 心 移 植 が あ る 。 し か し 、 移 植 ド ナ ー が 少 な い こ と も あ り . 、 医 療 先 進 国 に お い て も 十 分 な 患 者 の 救 命 と 成 ら ない 状 況 に あ る 。 と こ ろ で 、 現 在 臨 床 応 用 可 能 な ポ ン プ は 拍 動 型 人 工 心 臓 が 主 で あり 、 日 本 人 の よ う な 小 柄 な 体 型 に は 適 合 が 困 難 で あ る 。 そ こ で 、 小 型 化 の 容 易 な 連 続 流 型 人 工 心 臓 の 開 発、 カミ 進め られ てい る。 連続 流型 人工 心 臓の イン ペラ 回転 の 動 力 伝 達 に は 直 結 方 式 や 磁 気 結 合 方 式 、 磁 気 浮 上 方 式 が 挙 げ ら れ る が 、 直 結 方 式 は 簡 単 な 構 造 、 及 び 省 エ ネ ル ギ ー の 点 か ら 体 内 埋 込 み 可 能 な 人 工 心 臓 と し て 有 効 で あ る 。 し か し 、 機 械 チ ャ ン バ と 血 液 チ ャ ン バ を 隔 て る シ ー ル 構 造 問 題 の 解 決 が 不 可 欠 で あ る 。
そ こ で 、 連 続 流 型 人 工 心 臓 の シ ー ル 構 造 と し て 、 磁 性 流 体 シ ー ル の 応 用 を 検 討 し た 。 磁 性 流 体 シ ー ル は 従 来 、 気 体 環 境 で の シ ー ル 構 造 と し て 使 用 さ れ て お り 、 ま た 工 業 的 な 用 途 の み に お い て 使 用 さ れ て き た 。 そ の た め 、 潜 在 的 な 問 題 点 と し て ポ ン プ 内 血 圧 に 抗 す る 十 分 な シ ー ル 圧 と 長 期 耐 久 性 、 生 体 適 合 性 が あ る 。 本 論 文 に お い て は3次 元 有 限 要 素 磁 場 解 析 に よ る 理 論 的 な シ ー ル 圧 の 検 討 と 血 液 中 で の シ ー ル 圧 の 実 測 、 及 び 長 期 耐 久 性 試 験 、 生 体 適 合 性 に 関 す る 試 験 を お こ な っ た 。
は じ め に3次 元 有 限 要 素 磁 場 解 析 に よ り 、 磁 性 流 体 シ ー ル 構 造 に お け る 磁 気 回 路 の 計 算 を お こ な い 、 目 標 シ ー ル 圧 値(300 mmHg) を 実 現 す る た め に 適 切 と さ れ る 形 状 と 、1種 類 の 商 用 磁 性 流 体 に っ い て 理 論 的 な シ ー ル 圧 値 を 算 出 し た 。 ま た 、 こ の 磁 性 流 体 シ ー ル 構 造 に っ い て 実 際 の シ ー ル を 作 成 し 、 血 液 中 駆 動 に お け る 実 験 で シ ー ル 圧 値 を 測 定 し た 。 し か し 、 商 用 の 磁 性 流 体 の 使 用 に お い て は 目 標 シ ー ル 圧 に 対 し て 十 分 な シ ー ル 圧 を 得 る こ と が で き な か っ た 。 そ こ で 、 よ り 高 い 磁 化 特 性 を 持 つ 磁 性 流 体 を 作 成 し 、 同 様 の 手 法 に よ り 評 価 し た 。 そ の 結 果 、 目 標 値 を 超 え る シ ー ル 圧 値 を 理 論 的 及 び 実 験 的 に 得 た (550mmHg) 。 本 論 文 で は 、 理 論 計 算 に 基 づ い て 目 標 シ ー ル 圧 を 得 る シ ー ル 形 状 の 設 計 を お こ ない 、 血 液 中 駆 動 実 験 で 理 論 値 と 非 常 に 良 い 一 致 を 得 た 。 血 液 中 で の シ ー ル 圧 の 計 測
は 従 来 に お い て 報 告 の 無 い 結 果 で あ り 、 評 価 に 値 す る 報 告 で あ る 。 次に、磁性流体シールのシャフ卜回転時かつ液体中、加圧環境における長期 耐久試験をおこなった。人工心臓の耐久性としては、心移植へのBridge‑Useと しては3ケ月以上の耐久性が必要条件であり、1年以上の耐久性が望ましい。試 験結果より、1年以上の耐久性を得た(商用磁性流体使用)。これまでの報告で は、非加圧条件での液体中駆動について、数日程度の耐久性が報告されている のみであり、本論文における評価は非常に目新しく、かつ磁性流体シールの液 体中での耐久性について評価に値する結果であった。
また、液体中において駆動する磁性流体シール構造での磁性流体の流出につ いて検討をおこなった。磁性流体の液体中への流出は耐久性の低下、及び血液 との混合による悪影響が懸念される問題である。流出量に関して定性的な結果 と注入量を制御した際での定量的な結果を得た。その結果、流出磁性流体量は 極めて少量であることを明らかにした。外部液体と混合した磁性流体の定量に ついては磁性流体の性質上、困難とされてきたが、本論文においては磁性流体 の構造によって異なる定量法を採用した。その手法は独自性に優れており、液 体 中 駆 動 の 磁 性 流 体 シ ー ル に 関 し て 有 意 義 な 検 討 で あ る 。 最後に、磁性流体シールの毒性について、細胞毒性試験をおこなった。本論 文で採用した磁性流体はいずれも工業使用としての磁性流体であり、生体への 使用に関しては検討が必要である。細胞毒性試験では磁性流体自身及び磁性流 体からの抽出液により評価した。その結果、十分量の磁性流体について細胞毒 性を示さなかった。工業的な材料として使用されてきた磁性流体についての新 しい見解を示す結果であり、新たな磁性流体開発への指針ともなる有用な検討 であった。
以上の結果を踏まえ、本論文で決定された磁性流体シール構造を、開発中の 連続流型血液ポンプに対して使用し、長期使用を目的として応用するため、動 物実験を準備中である。
これを要するに、著者は新たな磁性流体シール構造の開発及びそのシール耐 圧、耐久性、生体適合性を明らかにし、磁性流体シールを連続流型血液ポンプ への応用を可能にしたもので、生体医工学に貢献するところ大なるものがある。
よって著者は、北海道大学博士(工学)の学位を授与される資格あるものと認 める。