博士(水産学)板倉信明 学位論文題名
北海道 沖合底びき網漁業における経営諸形態と そ の 展 開 の 規 定 要 因 に 関 す る 研 究
学位論文内容の要旨
本 研究 では 、北海道沖合底びき網漁業における個別経営体の存立形態を類型的に 把 握 し 、 そ の 展 開 過 程 と 形 成 要 因 に つ い て 明 ら かに す る こ と を 課 題 と し た 。 主′こる対象は、北海道の稚内根拠の沖合底びき網漁業とした。稚内は北海道沖合 底び き網 漁業 の主要産地であること、また沖合底びき網漁業経営を主体として経営 展開を図ってきナこ地域であって、経営展開の規定要因を考える際の因果関係を容易 にするからである。
第1章では、課題設定のためにこれまでの研究について確認した。それによれぱ、
中小 漁業 にお ける蓄積過程に関する研究では、総体としての検討はあるが、個別経 営自体の展開の解明が不足していることが指摘された。個別経営を対象とするのは、
中小 漁業 の蓄 積条件、形態的特徴と展開の特質、存立要因と存続の展望等にっいて 総体としての考察からでは解明が難しいからである。したがって、本研究で Iま個別 経営の展開に注目した検討の意義が指摘されている。
第2章 では 、北海 道底 びき 網漁 業の 国内 漁業生産における位置づけを行った。か つて1976年の ピ―ク時には、海面漁業漁獲量の約15%を担っていた漁種であるが、
近年 漁獲 量の 減少によりそれがもつ意義が重きを失いつっある。しかし、中小漁業 層の 典型 的業 種といえる沖合底びき網漁業経営は、確かに全国的には減少の著しい 階層 であ るが 、他漁種と比較すると近年相対的に減少率が低下しており、当該階層 にお ける ウェ イトを高めつつある。地域との関係が相対的に強い中小漁業にあって は 今 後 再 編 方 向 を 検 討 す る こ と が 必 要 と な っ て い る こ と を 指 摘 し た 。 第3章 では 、稚内 沖合 底び き網 漁業 にお ける 「200カイ リ以 前」 、す なわち生産 拡大局面における経営展開にっいて検討した.。考察にあたり、戦後から200カイり までの期間を3其日に分けた。これは、経営展開の基盤となる生産条件、基本的には 漁船 規模 の変 化を基準として区分した。その結果、この期は全体としては、生産拡 大と 経営 規模 の拡大期として特徴づけられるのであるが、この間、個別経営は一様 に経 営規 模を 拡大したのではなく、経営間格差を拡大しながら展開した。この個別 経営 にお ける 経営問格差の発生は、未利用資源の存在や沖合化が図られて漁船大型 化が促されていた1950年代半ぱの投資動向が、その後の沖底経営の展開を方向付け、
結果的に経営問格差を増幅させたことが明かとなった。
第4章 では 、 「200カ イ リ以 後 」、 す な わち生産 縮小局面 における稚 内沖合底 び き 網 漁 業の 経営 展開にお いて検討 を行った 。200カイリ 規制の始ま りによる 沖合底 ぴ き 網 漁業 の構 造変化は 、各階層 ごとに異 なる意味 をもたらし た。すな わち、200 カ イリ規制 以前に存 在した個別 経営がも つ内的蓄 積状況に よって、上層では沖合底 び き網漁業 での生産 縮小が、新 たな漁種 、新たな 業種へ進 出させる契機となり、結 果 的に資本 蓄積を促 進させるよ うに機能 したのに 対し、下 層経営体にとっては存立 基 盤そのも のの喪失 となり、漁 業からの 撤退を迫 るものと して機能したことがわか った。
以 上の検討 から、個 別経営にと って経営 展開を規 定する要 因は、時間的、規模的 に 同一の事 象であっ ても、個別 経営にと ってもた らされる 影響は必ずしも一致しな いことがわかっ′こ。
す なわち、 戦後展開 の中で沖底 以外にも 他漁種及 び陸上部 門をも兼営する上層経 営 体 (A夕イ プ) となった 経営体の 展開過程 は、その 創草期にお いて沖底 生産が拡 大 する前に 沖底への 投資を終え 、沖底生 産が拡大 する時に は、他漁種或いは他業種 へ の進出をtまかり、 より一層の 資本蓄積 基盤を形 成し得た 。そして、200カイリ規 制 に よ り 沖 底 生 産 が 縮 小 に向 か うと 、 そ の他 漁 種 への 進 出を 再 び 図っ て いる 。 沖 底船 の 複船経 営体で上 層経営体 の一角を なしてい た経営群(B夕イブ) は、投 資 時期が沖底生産の低迷其且にあたり、漁業投資が生産拡大に結びっかなかった。そ の ため、上 層経営の 一部を占め ながら、 その優位 性を発揮 できなかった経営群であ る。
単 船経営体 から複船 経営体に上 向化してきた経営群(Cタイプ)は、生産拡大其月 に おいても 、200カイリ 以後の生産 縮小其且においても、積極的な投資が特徴的であ る。第1期(1950年代後半)には、沖底船の大型化を積極的に行い(短其月間で行う)、
生 産 拡 大を 図っ ている。 また、200カ イリ以後 ではそれ まで兼営し ていた北 転船の 滅 船を機に 遠洋マグ □延縄への 進出をは かり、現 在ではマ グ口船の隻数・船型を大 型 化 し てい る。 特に特徴 的なのは 、専業型 の進出で あった。後 述するD夕 イプのマ グ ロ は え 縄 へ の 進 出 が 兼 業タ イ プで 、 廃 業や 撤 退 を示 し たの と 対 象的 で ある 。 最 後に 、 戦後か ら現在ま でほぱ沖 底のみの 経営で展 開してきた 経営群がDタイプ で あ る 。こ のタ イブは、 第2次減船 時に半数 以上が廃 業したが、 その遠因 はやはり そ れ 以 上 の 経 営 展 開 が 図 れ な い こ と が 大 き な 要 因 で あ っ た と 思 わ れ る 。 稚 内の沖底経営体において近年の再編動向のなかでみられる残存経営体の性格は、
漁 業のみを 経営する 経営体より も他漁種 ないしは 他業種と の組み合わせをもつ経営 体 が多くな っている 。このことtま、今後の北海道における沖合底ぴき網漁業の経営 展 開を規定 すること になるもの と思われる。すなわち、他漁種ないしtま他業種を持 っ ことで、 沖底への 依存度合い を弱めつつ(:経営の主柱的漁種としてtま地位を低 下 させるこ と)も、 しかし生産 の安定し た漁種と して、経 営体のなかで位置づけら れる漁種としての性格が強まってゆくものと洞察している。
学位論文審査の要旨
学 位 論 文 題 名
北海 道沖合 底びき網漁業における経営諸形態と そ の 展 開 の 規 定 要 因 に 関 す る 研 究
沖合底 びき網漁業 (沖底) は、資源 の賦存状 況、地域 漁業展開の歴史的経緯に規定 されっ っも、絶え ず近代的 な生産力 形成への 再編を遂 げ、様々 な規模と形態をとりな がら、 わが園漁業 生産を中 心的に担 う中小漁 業の重要 業種とし て全国的に経営の分布 が見ら れるもので ある。主 論文は重 要な再編 成期にあ る今日の 沖底の経営的特質と展 望につ いて個別経 営段階で 分析・考 察してい るところ に独創性 があり、学問的、政策 的示唆 において裨 益すると ころ大で ある。
本研究 は、全国の 沖底の中 でも最大 規模の漁 労体(事 業体)として発達した北海道 の事例 を一特に稚 内根拠の 個別経営 体を対象 に一構造 論的な視 点から分析・考察を行 っ てい る。 具体的に は、@第1章では、 これまで の研究史の 整理を通 じて研究 の課題 を 明確 化し 、@第2章 では、沖 底の中小 漁業全体 における生 産力的位 置づけと その変 化、並 びに対象に した沖底 根拠地の 比較考察 により経 営体の位 置を明らかにし、◎第 3章 と 第4章 で は 、 い わ ゆ る 「200カ イ リ 問 題 」の 発 現を 挟 ん で沖 底 経 営の 拡 大発 展と縮 小再編の展 開過程を 構造論的 に検討し ている。
研究対 象とした沖 底経営の 多くは経 営環境の 激変を契 機に縮減と崩壊の危機に直面 する。 しかし、安 易に規模 拡大を続 けてきた 多くの経 営体が淘 汰される中で、経営の 分化・ 選別・選好 を図りな がら発展 的に存続 を図った 経営体が 少なからず存在する。
本研究 は、そうし た経営体 の行動の へだたり と格差構 造につい て投資動向、異業種・
他漁種 兼営、経営 体の出自 等に遡り 、個別経 営の諸関 係におい て検証したところに検 討 の着 眼点 の独創性 がある。 そこで個 別経営対 応のへだた りをもた らす4つの 経営類 型が在 ることに着 目し、こ の経営タ イプごと に経営史 の段階を 追って存在諸形態、存 在諸要 因の検討を 行ったも のである 。その際 、経営存 在を規定 要因として市場、労働 力 、 漁 場 、 資 源 管 理 、 経 営 コ ス ト 等 を 措 定 し た 点 に つ い て む 首 肯 で き る . 結諭と して、他の 業種、漁 種展開を 図りつつ 生き残り を模索しようとする経営が少
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なくない今日の沖底において、沖底を経営の主柱のひとっとしながら企業経営の展望 を見出そうとする構造にこそ、安定的な沖底生産を確保する要因があることを明らか に し て い る と い う 点 で 、 本 研 究 Iま 価 値 が あ る と 評 価 で き る 。
以上により、申言青者の研究成果は水産経営の分野において学問的、政策的貢献度が 高く、審査員一同は本研究の申言育者は博士(水産学)の学位を授与される十分な資格 を有すると判定した。
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