音楽インターフェイスの分散ネットワーク化に関する研究 A Study on Distributed Networking of Music Interface
1W070400-4 中島 武三志 指導教員 菅野 由弘 教授 NAKAJIMA Musashi Prof. KANNO Yoshihiro
概要: 本研究は、コンピュータ技術とともに発展してきたネットワーク技術が電子楽器の演奏に応用されるようにな っていることに着目し、音楽を演奏する人間が楽曲の一部として空間内に存在する音を即時的にデザインするための作 業をよりおこないやすくする音楽インターフェイスのあり方を提案するものである。この研究では音楽インターフェイ スを改めて定義し、特に複数のスピーカーを用いた空間的音楽表現や、複数の演奏者による音楽を通じたコミュニケー ションに目を向け音楽インターフェイスの分散ネットワークモデルを構想し、これを実現する携帯端末用ソフトウェア を制作した。
キーワード:音楽インターフェイス、分散ネットワーク、空間的音楽表現
Keywords: music interface, distributed network, spatial expression of music
1.はじめに
現在様々な電子楽器が使われているが、演奏者の 操作が空気の振動としての音に変換されるまでには いくつかのプロセスが存在し、電子楽器によってそ の担当する範囲は変動する。ここでは、楽曲の一部 として空間内に存在する音を即時的にデザインする ための行為全てを“演奏”と定義し、楽曲の演奏と しての行為が最終的に聴衆または演奏者自身の耳に 空気の振動として届くまでのプロセスを媒介する機 器の総体を“音楽インターフェイス”と定義する。
ここで定義した“演奏”(特に楽曲の空間的表現)の 幅を広げる音楽インターフェイスのあり方として、
分散ネットワークモデルを提案する。
2.音楽インターフェイスの分散ネットワーク モデル
まず音楽インターフェイスの役割を、操作モジュ ール、音源モジュール、信号処理モジュール、再生 モジュールの4つに分類する。操作モジュールは演 奏者の操作と直接関わる部分である。この部分で後 に述べる各モジュールの動作を制御する。各モジュ ール用の操作モジュールは、必要に応じて複数用意 される。音源モジュールは操作モジュールから演奏 データを受け取り、それをもとにオーディオデータ
(リニア PCM データ)を生成する部分である。信号処 理モジュールは音源モジュールで生成したオーディ オデータに音響信号処理を施す部分である。再生モ ジュールは音源モジュールまたは信号処理モジュー ルからオーディオデータを受け取り、実際にスピー カーから再生する部分である。
図1 各モジュールの関係図
これらのモジュールを必要に応じて複数の機器に 分散化し、ネットワークを通じて機器同士の通信を おこなう。これにより演奏者の意図を反映した、よ り柔軟な音楽インターフェイスが構築できると考え られる。また複数人による演奏の幅を広げ、音楽に よるコミュニケーションといった新しい音楽表現の
操作モジュール
演奏データ
音源モジュール
オーディオデータ
信号処理モジュール
再生モジュール
可能性を生み出すとも考えられる。また無線 LAN を 用いることでケーブルの使用による空間的制約も小 さくなる。欠点としてはまず、安定したネットワー ク環境が必要となることである。また演奏データや オーディオデータが経由する機器の増加に伴って、
演奏者の操作が音になるまでの遅延も大きくなるこ とが考えられる。
3.携帯端末用ソフトウェアの制作
このモデルに基づいたモジュールを、Apple 社の iPhone および iPod touch 向けのソフトウェアとし て制作した。このソフトウェアは音源モジュールと これに対応した操作モジュール、そして再生のみを おこなう再生モジュールからなる。音源モジュール は単純な PCM 音源の方式を用いており、画面に配置 されたボタンをタッチするとそれに対応したエレク トリックピアノの音が生成されるしくみとなってい る。またこの音源モジュールは複数の音の再生に対 応させるために再生中のオーディオデータをミキシ ングし、モノラルのオーディオデータとして最大3 つの再生モジュールに送信するしくみとなっている。
操作モジュールはメイン画面と設定画面の2つから なり、メイン画面では実際の演奏をおこなう。また 設定画面では音源モジュールに対して各種設定をお こなえるようになっている。再生モジュールは複数 台の端末からオーディオデータが送信されることを 考慮し、定期的に送信されるオーディオデータ
(16bit 44.1kHz モノラルのリニア PCM)を受信し たのち送信元端末の IP アドレスをもとにオーディ オデータを識別して最大4つのチャンネルに振りわ け、逐次再生するしくみとなっている。
図2 操作モジュール メイン画面
再生モジュールについては、3台の端末からのオ ーディオデータが正しく識別・再生された。操作モ ジュールについては、音源モジュールに対して正し く操作することができた。音源モジュールについて は、複数の音が適切にミキシングされ、自身とほか 2台の端末に正しく送信された。全体としては概ね うまくいったが、鍵盤ボタンをタッチする頻度が高 くなるとタッチの瞬間にノイズがいくらか入ること が確認された。また無線 LAN の状況によってもいく らかノイズが入ることが確認された。今回はオーデ ィオデータのサンプリング周波数を44.1 kHz として いたが、以上のようなノイズが発生したため 22.05 kHz にしたところ安定性が向上した。
また鍵盤ボタンをタッチしてからの遅延が少々気 になった。この遅延は再生モジュール部分だけで理 論上 46ms 程度である。
4.まとめ
今回、様々な音楽表現のなかでも特に複数のスピ ーカーを用いた空間的な音楽表現に着目し、これを 容易にする音楽インターフェイスを実現するための アイディアとして、音楽インターフェイスの分散ネ ットワークモデルを提案した。そしてこのモデルを もとに iPhone アプリを制作したが、結果的には空間 的音楽表現のみならず、音楽を通じたコミュニケー ションの幅も広がったのではないかと感じている。
今後の課題としては、操作モジュールからの演奏 データ送受信、再生モジュールの安定性向上、信号 処理モジュールの制作などが挙げられる。
参考文献
赤松正行『iPhone SDKの教科書 Cocoa Touchプログラ ミング、最初の一歩』秀和システム、2009
あきみち『Linux ネットワークプログラミング』ソフトバ ンククリエイティブ、2010
永野哲久『iPhone Core Audio プログラミング』ソフトバ ンククリエイティブ、2009
Apple「iOS Dev Center」
http://developer.apple.com/devcenter/ios/index.action