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Kyushu University Institutional Repository
臨床心理面接における関係性の捉え方に関する一考 察 : 28人の心理臨床家へのインタビューから
佐竹, 圭介
九州大学大学院人間環境学府
https://doi.org/10.15017/15693
出版情報:九州大学心理学研究. 6, pp.167-174, 2005-03-31. 九州大学大学院人間環境学研究院 バージョン:
権利関係:
臨床心理面接における関係性の捉え方に関する 一考察
一28人の心理臨床家へのインタビューから一
佐竹 圭介1)九州大学大学院人間環境学府
Astu{1y on views of the nat皿re of relationships in clinica1 psychother叩y 一
erom interviews with 28 psychotherapists−
Keisuke Satake (Graduate sehool of human−environment studies, Kyztshu aniversity)
The importance of paying attention to the nature of client−therapist relationships in clinical psychotherapy is argued regardless of theory or school. However, such descriptions about the natu−re of relationships often are based on山at particulars author s orientation. In this paper, from the viewpoint that the uniqueness of psychotherapy lies in the specificity of the nature of its relationships, its aspects are examined based on the hypothesis that the essence of the namre of relationships in clinical psychotherapy is net dependent on山eory or school of thought. As a ・result of analyzing an 28 interviews with psychotherapists, it was suggested that the following three aspects are involved in understanding the nature of relationships in clinical psychotherapy: 1)the stance of interviewing using relation−
ships as a topic, 2)the stance of interviewing using relationships as a medium of communication, and 3)the stance of interviewing using relationships as a foundation. Regarding actual psychotherapy, it was suggested that each stance is not be fixed and be allowed to alternate fluidly, thus advancing the interview process,
Keywords: client−therapist relationship, three aspects of the view of nature of relationships, interview
1 はじめに
臨床心理面接において,クライエントとセラピストの 関係性は,理論・流派にかかわらず重要な要因ととらえ られている。しかしながら,その重要性はあらゆる場面 で論じられている一方,それがどのような性質のものか,
あるいは心理臨床場面においてそれがどのように扱われ るべきであるかということに関しては,それぞれの論者 のもつ理論や臨床観,あるいは記述の仕方にゆだねられ ており,その見解は一貫していない。しかしながら,心 理療法の独自性はそこで生じる関係性の特異性にあり
(滝川,1998),そこには何らかの.共通した性質があるの ではないかと筆者は考える。
このような問題意識から,佐竹(2004)は,心理臨床 家へのインタビューというかたちで臨床心理面接におけ る関係性,特に初期の関係性について検討をおこなった。
その結果,臨床心理面接において関係が取りづらくなる ような要因について,また初期の関係性を築くためにど のようなかかわりがおこなわれているかということにつ
1){研究をまとめるにあたり,御指導いただきました九州大学
大学院教授 吉良安之先生ならびに野島一彦先生に心よりお礼 を申し上げます。また,本研究の調査に快く御協力いただいた 先生方に厚く御礼申し上げます。
いて,などいくつかの示唆が得られた。また,心理臨床 家は関係性というものをどのようにとらえているか,と いうことについても検討をおこなったが,わずか28人の 心理臨床家のなかでも実に多様な捉え方が表れており,
「どのような状態にあるときに関係がとれていると感じ るか」という視点での検討にとどまった。しかしながら,
インタビューのプロトコルを検討するなかで,それぞれ の心理臨床家の関係性の捉え方の多様性・多面性が認め られる一方,いくつかの共通の捉え方もうかがえた。そ こで本稿では,佐竹(2004)においておこなったインタ ビュー調査を「心理臨床家の関係性の捉え方」という視 点で検討しなおし,そこから得られた知見を示し,さら にそれを既存の理論の関係性の捉え方と関連づけて論じ ることを試みる。
2 インタビュー調査の方法
佐竹(2004)でおこなったインタビュー調査は以下の 通りである。調査の目的は臨床心理面接において,心理 臨床家が初期の関係性についてどのようにとらえている かを検討するためであった。対象者はA大学の心理教 育相談室において,相談員の指導員として登録している 心理臨床家であった。調査協力者の内訳は,男性17名,
168 九州大学心理学研究 第6巻 2005
Table 1:
インタビi一協力者の情報
平均年齢(才) 44.04 理論・学派 精神分析
13
年齢の標準偏差 6.45 (のべ人数) 来談者中心療法
9
平均臨床経験年数(才) !9.48 行動療法
2
臨床経験年数の標準偏差 6.80 体験過程療法
2
男性性別内訳(人) 女性
17
P1
システム論など ユ床動作法
42
一一
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17
P1
特になし
5
一一 一一
Table 2
調査協力者の概要と3つの様相の利用
管 主によって立つ理論・学派 3つの様相の利用
理 臨床現場NQ
精神分析
二二認纏動体土州二二ム轟
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○:プロトコルで言及 ムニプロトコルから推測
女性11名であり,平均年齢は44.04才,平均臨床経験年 数は19.48年であった(Table 1)。調査協力者の概要に ついてはTable 2に示す。インタビュー期間は2003年10 月から11月中旬までの約1ヶ月半であった。
インタビューは質問1と質問2に分けられた。質問1 では調査協力者である心理臨床家が初.期の関係性をどの ようにとらえているか,ということについて質問をおこ なった。質問2は,遠藤(1997)を参考にし,主に経営 学の分野で発展してきた臨界事象法を用いておこなわれ
た。また,フェイスシートを用意し,調査協力者の氏名,
年齢,性別,所属,臨床経験年数,業務内容,主によっ て立つ理論・学派について尋ねた。
質問1は,「先生が心理臨床をやっていくなかで,関 係がとれる,関係がとれないということについて,.どの ようなことを考えられながらやっていらっしゃいますか」
という質問に対し,自由に語ってもらうというかたちで おこなった。そのなかでは,調査協力者が具体的な内容 を記述できるように,語りのきっかけとして「日常生活 での人間関係との違い」「どのようなときに関係がとれ たと感じるか」などの質問を随時入れていった。
質問2は,「これまでにお会いになった事例のなかで
『初期に関係のとりづらかった事例』を思い浮かべてく ださい」という教示のもと,2つの事例を想起してもらっ
た。ひとつは,「最初,関係がとりづらいと先生が感じ,
.それに対して何らかの工夫や配慮をおこなったが,あ.ま り関係がとれないまま,終結・中断となった事例」につ いて,もうひとつは「最初,関係がとりづらいと先生が 感じ,それに対して何らかの工夫や配慮をおこなったお かげで,関係がとれるようになり,面接過程が進んでいっ た事例」について話を伺った。それぞれの事例について は,用意したフェイスシートに簡単な概略を記述しても らった。それぞれの事例についての質問は「関係がとり づらいと思った点」について確認をし,その後,「その とりづらさに対しておこなった工夫や配慮」「それに対 するクライエントの反応」「そのやりとりのときのセラ
ピストの体験」「そのやりとりのときのクライエントの 体験の推測」を反復して聞いていくということをおこな い,最後に「関係がとれなかった事例」に関しては,
「どのようにしていたら良かったか」,また「関係がうま くとれた事例」に関しては「どのような点が良かったか」
ということについて尋ねた。インタビューの構造をまと めたものをTable 3に示す。
以上のようなインタビュ 一一調査の結果得られたデータ をプロトコルとして記述した記録を再度,「心理臨床家 の関係性の捉え方」という視点で再検討をおこなった。
具体的な方法としては,まずプロトコルのなかから「心
Table 3
インタビューの構成質問1 「先生が心理臨床をやっていくなかで,関係がとれる,関係がとれないということにつ いて,どのようなことを考えられながらやっていらっしゃいますか」
最初,関係がとりづらいと先生が感じ,それに対して何らかの工事や配慮をおこなった が,あまり関係がとれないまま,終結・中断となった事例について
「関係がとりづらいと思った点」
「そ.のとりづらさに対しておこなった工夫や配慮」
「それに対するクライエントの反応」
「そのやりとりのときのセラピストの体験」
「そのやりとりのときのクライエントの体験の推測」
「どのようにしていたら良かったか」
質問2
最初,関係がとりづらいと先生が感じ,それに対して何らかの工夫や配慮をおこなった おかげで,関係がとれるようになり,面接過程が進んでいった事例について
「関係がとりづらいと思った点」
「そのとりづらさに対しておこなった工夫や配慮」
「それに対するクライエントの反応」
「そのやりとりのときのセラピストの体験」
「そのやりとりのときのクライエントの体験の推測」
「どの.ような点が良かったか」
170
九州大学心理学研究 第6巻 2005理臨床家はクライエント一一ラピスト関係というものを 臨床心理面接のなかでどのように位置づけているか」に ついての言及を抽出した。その上でそれらをまとめうる 視点を検討していき,ある程度の視点ができたところで プロトコルに戻り,その仮の視点に沿った言及を再度抽 出していった。この過程は数回繰り返された。これらの 作業はすべて筆者ひとり.でおこなった。
3 関係性の捉え方の3つの様相
検討の結果,臨床心理面接において関係性の捉え方は 大きく3つの様相から捉えられることが示唆された。以 下にそれぞれについて説明を加える。
1)関係を題材と.して面接をおこなう立場
臨床心理面接における関係性の捉え方の様相の第1の ものは,臨床心理面接で生じているクライエントとセラ ピスト関係そのものを面接の題材として面接をすすめて いこうとする立場である。例えば,面接のなかでクライ エントはこれまでの生活史で培ってきた人間関係のパター
ンをセラピストとの問でも演じており,さらにそれは持 ち込まれた問題の要因となっていると考えられた場合,
セラピストはその人間関係のパターンを見立てたり,あ るいはそれに対する自身に起こる感情を内省したりする ことによってそれに気づき,そこに介入していくような 面接が挙げられる。これは古典的精神分析理論における 転移・逆転移の概念をふまえて,その分析をおこなう面 接に見られる構造であると思われる。
ここで,どのくらいの心理臨床家がこのような関係性 の捉え方に立ち面接をおこなっているかを検討するた e)
に,プロトコルのなかでこのような立場について言及し ている部分を抽出していった。検討は筆者ひとりでおこ なった。その結果,28二野8名が関係を題材とする面接 をおこなっていることを述べており,また,明確には述・
べていないが,質問2の回答として提示された事例を検 討した結果,このような立場に立って面接をおこなって いると推測される心理臨床家は5名いた。この検討の結 果はTable 2に示す。表門ではこの立場に立っているこ
とについてプロトコルのなかで言及している場合は○,
プロトコルのなかでは明確に言及していないがこのよう な立場に立っていると推測できる場合は△として示して いる。このような考え方が示されている典型的な発言と しては,「面接とか治療の題材だったり媒介だったりと しての関係みたいなものもある」(S9),「関係がとれるっ ていうのを聞いて,まず思い浮かぶのは,ふたりの間で 転移関係・逆転移関係っていうのが生じてきて(中略),
それがふたりの間で起こってくるというようなことをま ず思い浮かべます」(S13),などがあった(カッコ内は
Table 2における調査協力者の管理番号)。
また,「主によって立つ理論・学派」として精神分析 理論の諸学派を挙げた13名のうち,この立場に立った面 接をおこなっていると考えられたのは9名であり,上述 のようにこの立場が精神分析理論と関連があることも示
唆された。
さらに,調査協力者の臨床現場ごとに検討していくと,
この立場で面接をおこなうと考えられた12名のうち,8 名が病院を臨床現場としているこ.とが示された。このこ
とからこのような立場で面接がおこなわれるのは,ある 程度の病理性をもったクライエントを対象とした面接で
あると考えられる。また,インタビューのなかで,こど もとのプレイセラピーのなかでこのような立場をとると いうことも述べられている(S24)ことから,情緒的,
あるいは発達的困難から問題行動を示すこどもとのプレ イセラピーにおいてもこのような立場でのかかわりがお こなわれることも示唆された。
2)関係を媒介として面接をおこなう立場
臨床心理面接における関係性の捉え方の第2のものは,
面接のなかで生じる関係性の治療的な性質を前提とし,
それを媒介として問題解決をもたらそうとする考え方で ある。例えば,青年期的な悩みを抱えたクライエントが,
面接のなかでセラピストに共感されたり,複雑な感情を 理解・整理してもらったりするような,これまでにあま り体験してこ なかったような関係性のなかで安心感を感 じたり,自己理解を深めたりするような面接である。こ れに関連する理論として1は,Moustakasの主張した「関 係療法」(佐野,1998),Proutyのプリ・セラピー(岡村・
保坂,2000)などがあると思われるが,多くはRog。rs,
C.R.の来談者中心療法やGendlin, E. T.の体験過程療法
などの理論をふまえた面接に見られる構造であると考えられる。
この立場についてもどのくらいの心理臨床家がこのよ うな立場に立った面接をおこなっているかについてプロ トコルを検討した結果,28二丁18名がクライエントーセ ラピスト問に生じる関係性の積極的意味について言及し ており,さらに6名が明確には言及はしていないが提示 された事例などからこの立場に立って面接をおこなって いることが推測された。プロトコルのなかでこのような 考え方に言及しているものとして,「関係を活用したも のが,心理療法っていう,心理面接だと思うからね」
(S16),「関係をつくること自体の方が,セラピーの目 的になつとるような節はあるよね」(S17)といったも のがあった。
また,「主によって立つ理論・学派」ごとに検討をお こなったが,調査協力者のほとんど(28名中24名)がこ の立場に立った面接をしていると考えられたため,上述
したような既存の理論との関連は検討できなかった。し かし,この結果からはほとんどの臨床心理面接において 第2の様相が用いられていることが示唆される。
同様の理由で調査協力者の臨床現場との関連の検:討も できなかったが,他の様相については言及せず,この様
相のみについて言及した心理臨床家(S1, S2, S10, S.14,
S21, S27)はいずれも大学,あるいは学生相談を臨床現 場として持っているため,この立場のみでおこなわれる 面接は主に青年期的な問題を抱えたクライエントに対し て有効であるということが推察される。また,本論で扱っ たインタビューでは事例として提示されることはなかっ たが,精神病水準のクライエントに対して,自然に振る 舞いながらそばにいることで治療的な効果をもたらすと いう考え方(大石,2000)もこの立場の一例であると筆 者は考える。
(S23),といったものがあった。
また,この立場に立った面接をおこなっていると考え られた4名はいずれも「主によって立つ理論・学派」と して認知行動療法,臨床動作法を挙げており,この立場 がこれらの理論と関連があることも示唆された。
さらに調査協力者の臨床現場との関連を検討すると,
「主によって立つ理論・学派」を認知行動療法とした2 名(S6, S26)は病院を臨床現場としており,臨床動作 法を挙げた2名(S23,S28)は大学を臨床現場としてい た。このことから理論や技法と対象者との関連はあるが,
この立場と面接の対象者の関連は見いだせなかった。し かしながら,このような立場は面接でおこなうことにつ いて合意を取れることを関係がとれることと同義に捉え る立場であるため,対象者が特に疎通性が損なわれてい ないことが前提であると筆者は考える。
3)関係を土台として面接をおこなう立場
臨床心理面接における関係性の捉え方の第3の様相は,
まずセラピストに方法論・技法があり,クライエントが その方法に抵抗なくのってくるための土台として関係を 築くことを狙う立場である。これは例えば,クライエン トの問題を解決するためにはなんらかのトレーニングが 必要であるとセラピストが見立てた場合,そのトレー一r一面
ングに意欲的に参加できるようにまず自由に話せる雰囲 気をクライエントーセラピスト間で築こうとしたり,あ るいはトレーニング内容をしっかり説明したりその効果 の見通しを提示したりするかかわりをするような面接の 構造である。これは,関係性の存在を前提とする点では 他の様相と同じであるが,問題改善の要因をその関係性 ではなく技法に帰属するという点で他の様相と区別でき る。このような面接の構造は,認知行動療法やブリーフ セラピーとまとめられるさまざまな技法・理論のもとで おこなわれる面接で見られるものと思われる(ただし,
これらはあくまで個々の理論・技法がもつ治療如上の話 であり,これらの技法が実際の面接で関係性の積極的意 味を無視しているということではない)。
どのくらいの心理臨床家がこの立場に立った面接をお こなっているかについて検討した結果,28名中3名が何 らかの技法やワークの前提条件として関係性を捉えてい るということについて言及し,さらに1名がこのような 立場で面接をおこなっていることが推測された。プロト コルのなかで,このような考え方に言及しているものと して,「嫌なことでもちょっと信頼してやっていただく ための関係づくり」(S26>,「僕らはやっぱり動作の有 効性みたいなものを,直接的な有効性っていうか,それ をやっぱり,体験的なことをやってるものですから,ど うしても,関係だけじゃなく,そのことによる直接効果っ ていうか,そういうものもね,考えながらやってるけど」
4 3つの関係性の捉え方の様相の
それぞれの関連以上,28人の心理臨床家へのインタビューのプロトコ ルを詳細に検:期した結果得られた関係性の捉え方の3つ の様相について述べたが,Table 2に示されているよう に,これらはひとりの心理臨床家はいつも同じ捉え方で 面接をおこなう,とか,ひとつの事例において一貫して 同じ立場で関係性が捉えられる,といったことではない。
提示された事例を検討すると,事例によって関係性をど う扱っていくかは柔軟に変えられており,ひとつの事例 でも事例の経過によって扱い方が変化することもあり得 るようなものであることが示唆された。つまり,それぞ れの様相ははっきりと区別できるものではなく,常にお 互いを移行するような流動性をもち続けているものであ ろう。そこで,この仮説を明確にする意味も含め,それ ぞれの様相がどのように関連しあっているかについて以 下,考察する。
まず,前述の通り,それぞれの様相は独立したもので はなく,部分的には重なるところがあるようなものであ.
るが,「関係を題材として面接をおこなう立場(第1の 様相)」と「関係を媒介として面接をおこなう立場(第
2の様相)」,あるいは第2の様相と「関係を土台として 面接をおこなう立場(第3の様相)」はそれぞれ重なる 部分はあるが,第1の様相と第3の様相は重なる部分が
ないと言える。この構造を図に示すとFig.1のようにな
るであろう。
また,それぞれの様相はその立場ひとつでおこなう心 理臨床家は多くなかった(28人中8人)。つまり,実際 の臨床場面では,ふたつ(第1の様相と第2の様相,あ るいは第2の様相と第3の様相)の様相を同時に用いな がらの面接がほとんどである。例えば,第1の様相のみ
172 九州大学心理学研究 第6巻 2005
でおこなわれる面接では,面接関係を転移現象の現れと 考えるため,セラピストは自分をあくまで「分析の隠れ 身」のうちにおいて,クライエントの転移感情を十分に 投映できるf白紙のスクリーン」(Kahn,1991)として 存在するような構造になると思われる。しかしながら,
今日,このような構造での面接がおこなわれるとは考え にくく,本論の検討結果を見ても,第1の様相のみで面 接をおこなっていると思われる心理臨床家はひとりもい
なかった。つまり,関係の捉え方の様相としては第1の 様相は示暖されるものであるが,.実際の面接では第2の 様相が同時に生じていることがほとんどであると思われ
る。
同様に,第2の様相と第3の様相の両方を意識しなが らおこなわれる面接,すなわち,クライエントとセラピ ストの人間的な関係を土台として,その雰囲気とセラピ ストの専門的な方法論・技法との相互作用によって面接 過程を進めていくような面接も少なくない。Fig.1では 便宜的に認知行動療法やブリーフセラピーを第3の様相 の領域に配置しているが,一認知行動療法でも患者一治導 者関係の間.で生じる雰囲気は重要な治療効果の操作要因 であると言われる(山上,1993)。本論における検討に おいても,つまり,第1の様相と同様に,第3の様相に ついても第2の様相が含まれないような技法中心の面接 は実際の面接ではごく少数であると思われる。
5 3つの様相の視点から見た 心理臨床の理論・学派
今回のインタビュー調査の対象者によって回答された
:「主によって立つ理論・学派」は大きく6種に分類され た。ここで,それぞれの理論・学派をベースに面接をお こなっている心理臨床家がどの様相を主に用いているか,
ということを本論の検討結果をもとに考察する。
まず,精神分析理論をベースに面接をおこなっている 心理臨床家についてである が,「主によって立つ理論・
学派」としてこれを挙げた対象者は28早早13名であり,
そのうち7名が第1の様相の視点から関係性を捉えてい ると述べている(Table 2)。また,第2の:様相の視点か ら関係性を捉えているのは6名おり,インタビューにお ける質問2の回答から推測できる場合(Table 2中の△)
も含めれば,10名が該当する。第3の様相から関係性を 捉えている心理臨床家はいなかった。このことから,精 神分析理論を臨床実践のベースとしている心理臨床家は 主に第1の様相と第2の様相を用いながら面接をおこなっ ていることが示唆される。このことを図示するとFig.1 のように第1の様相と第2の様相にそれぞれ同程度にか かわるということになるだろう。
次に来談者中心療法についてであるが,「主によって
立つ理論・学派」としてこれを挙げた対象者は28名中9 名であり,そのうち第2の様相の視点から関係性を捉え ていると回答したのは7固いた。そのうち,3名につい ては第1の様相の視点から関係性を捉える場合があるこ とがプロトコルから推測された。すなわち,来談者中心 療法をベースに実践をおこなっている心理臨床家は,第
2の様相を中心にしながら,ときに第1の様相を利用し ていることが示唆された。このことを図示すると,Fig.1 のように,大部分は第2の様相にかかわりながら,第1 の様相にも部分的にかかわるというかたちになるだろう。
認知行動療法を「主によって立つ理論・学派」として 挙げた心理臨床家は,28名中2名であった。そしてその
どちらもが第3の様相によって関係性を捉えていると回 答,もしくは推測された。さらにそのうち!名は第2の 様相からも関係性を捉えていると推測された。サンプル
数が少ないため実証性に乏しいが,本論の検討において は,認知行動療法をベースに実践をおこなっている心理 臨床家は第3の様相を中心にしながら,第2の様相も利 用する場合があるということが示唆される。このことを 図示すると,Fig.1のように第3の様相に大部分かかわ りながら,第2の様相にも部分的にかかわるということ になるであろう。
「主によって立つ理論・学派」として体験過程療法を 回答した心理臨床家は,28名中2名であった。そして,
そのどちらもが第2の様相のみで関係性を捉えていると 回答した。サンプル数が少ないため,実証性は乏しいが,
本論の検討においては,体験過程療法をベースに実践を おこなう心理臨床家は第2の様相で関係性を捉えている と言える。このことを図示すると,Fig.1のように,第 1・3の様相にはかからずに第2の様相の領域のみに位 置するというかたちになるだろう。
「システム論など」とまとめられた理論・学派は主に 家族療法,コミュニティアプローチなど,システム論を 基盤においたものである。これを「主によって立つ理論・
学派」として挙げた心理臨床家は28名中4名であった。
そしてそのうちの3名は第2の様相によって関係性を捉 え.ていると回答した。さらにそのうちの1名は第1の様 相からも関係性を捉えていると推測された。サンプル数 がやや少ないため,明確には言えないが,システム論を 基盤においた理論をベースに実践をおこなっている心理 臨床家は第2の様相を中心にしながら,ときに第1の様 相を用いる場合があるということが示唆される。このこ とを図示すると,Fig.1のように第2の様相に大部分か かわりながら,.第1の様相にも部分的にかかわるという ことなるだろう。加えて,ここで出てきた4名はいずれ も「主によって立つ理論・学派」として「システム論な ど」とともに「来談者中心療法」も挙げているζとから,
両理論がお互いに親和性を持っていることも示唆された。
関係を媒介として面接をおこなう立場
/
@欄
精M.析理論
}体坐法
来談者中心療法
ノ
システム論など
関係を土台として面接をおこなう立場
臨感法
法 療 働
Fig.1 関係性の捉え方り3つの様相の関連
最後に,「主によって立つ理論・学派」として臨床動 作法を挙げた心理臨床家は,28名中2名であった。この
2名はいずれも第2の様相と第3の様相で関係性を捉え ると回答していた。サンプル数が少ないため,実証性に 乏しいが,本論の検討においては,臨床動作法の考え方 をベースに実践をおこなう心理臨床家は第2の様相と第 3の様相の視点で関係性を捉えているということが示唆 された。このことを図示すると,Fig.1のように第2の 様相と第3の様相,それぞれに同程度かかわるかたちで 配置されると思われる。
以上,既存の理論と本論で検討された3つの様相との 関連を考察したが,これはあくまで概念上のものであり,
実際の臨床心理面接においておこなわれる臨床心理行為 がこのようにはっきり分かれるという訳ではない。また,
本論では6つの理論について検討したが,ここで扱われ なかった理論が,この3つの様相の観点からはどのよう に捉えられるかを検討することも意味のあることと思わ
れる。
6 おわりに:本論文の意義と今後の展望
心理臨床に携わるものにとって,クライエントと関係をもつことの重要性は自明のことであり,今更論ずるこ とではないかもしれない。にもかかわらず,心理臨床の 分野ではあらゆる書籍,論文,講演,事例検討などにお いて,関係性の問題についてはさまざまな視点から論じ られている。これは,すでに述べたような,心理臨床の 独自性はその関係性の特異性にあるという主張のひとつ
の表れではないだろうか。数ある理論・学派を統合して いくという,心理臨床の現在の流れがあるが,関係性の 本質を明らかにしていくことはその流れの一助となりう るものである。特に心理臨床の独自性がその特異性にあ るという視点から見ると,このような作業は決して意味 のないことではなく,むしろ必要不可欠であると思われ
る。
本論は実際に心理臨床をおこなっている心理臨床家へ のインタビューを検討して得られたデータを用いている.
ため,ある程度,実際の臨床場面に即した視点が示され ていると思われるが,検討については筆者ひとりでおこ なったものであるため,あくまで主観的な検討となって いる。そのため本論の示す知見は仮説の域を出るもので は決.してない。今後はこの仮説に一般性をもたせるよう に,グラウンデッドセオリーアプローチやKJ法などの 質的研究において用いられる方法論によって多数の評定 者とともに検討をおこなった上で,この仮説をざらに精 錬する必要があるだろう。そして,得ちれた知見を再度,
心理臨床家を対象にしたインタビューをおこない,実際 の心理臨床場面の構造と照合させることによって,より 現場に即した知見となると思われる。あるいは,得られ
た知見をもとに質問紙を作成し,理論・学派や臨床実践 現場の異同といった要因との関連を見るような数量的研 究をおこなうことで,より客観的な結果を導くことも必 要であろう。また,本研究で用いたようなインタビュー 法は研究者の意図するデータが得られる利点がある反面,
対象者の回答は過去のことを想起したものになっている ため,さまざまなバイアスが生じやすいと思われる。そ
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九州大学心理学研究 第6巻 2005のため,さらに臨床場面に即した検討をおこなうために,
ロールプレイングを援用した実験的方法を用いたり,実.
際の面接過程のなかで生じた関係性の変遷を事例研究的 に検討したりするなどの方法論を適用することが考えら れる。いずれにしても,本論で得られた仮説は実証的研 究においてその妥当性を検討することが必要不可欠であ
り,さらにその仮説を再度,臨床場面に戻していくため の方法論の工夫は今後の課題であろう。
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