厚 生 労 働 科 学 研 究 費 補 助 金 ( が ん 臨 床 研 究 事 業 ) 平 成 25年 度 総 括 研 究 報 告 書
若年がん患者を取り巻くがん診療・緩和治療 支援の政策提言に資する研究
研究代表者:米盛 勧
国立がん研究センター中央病院 乳腺・腫瘍内科 医員
研究要旨:40歳未満の若年世代の悪性腫瘍(以下、若年がん患者)に罹患している患者は、
悪性腫瘍に罹患している全患者の中では少ない割合であるが、多様な社会・経済・家族背景 を有している世代であると想定される。
本研究は、①若年がん患者とそれ以外の世代のがん診療や緩和治療の実態の比較について カルテ調査を中心とした研究で検討すること、②若年がん患者個別の社会・経済・家族背景 等の違いと社会支援の需要や支援内容との関係を前向き臨床研究でアンケートや医療面接 を行い調査する。これらを通じ、本研究は、若年のがん患者が、がん診療や緩和治療を受け ていく上での社会支援の需要や支援内容について明らかにし、必要な支援・対策・情報提供 や共有のあり方等を具体的に考察することを目的としている。そして、本研究の成果が、最 終的に厚生労働省を中心とした医療政策の検討に資することを期待している。
研究分担者
米盛 勧 国立がん研究センター中央病院 乳腺・腫瘍内科
平川 晃弘 名古屋大学医学部付属病院 先端医療・臨床研究支援センター 大松 尚子 大阪市立大学医学部付属病院 がん相談支援センター
小松 美智子 武蔵野大学人間科学部社会福祉学科
清水 千佳子 国立がん研究センター中央病院 乳腺・腫瘍内科 温泉川 真由 国立がん研究センター中央病院 乳腺・腫瘍内科 清水 研 国立がん研究センター中央病院 精神腫瘍科
A.研究目的
悪性腫瘍(癌や肉腫:以下、がん)は、
我が国における死因のなかで第一位である。
そして、がんは様々な臓器に発生し一般的 には50歳代くらいから増加し高齢者が患者 数として多いが、若年から高齢者まで幅広 い年齢層に分布する疾患群である。
早期のがんは集学的治療を駆使し『治癒』
を目標とした治療方針をすすめていくが、
一方で再発・転移をおこしたがんでは、治 癒不能の病態であり最終的な転帰として死 亡は避けられない現実となる。がんによる 生命の危機を避けるためのがんそのものに 対する治療や辛い症状の緩和治療を行いつ つ『がんとの共存』を目標とした治療方針 が立てられる。
がん診療においては、手術療法・化学療 法・放射線療法・緩和治療と様々な治療が、
病院やクリニックの外来通院診療・訪問診 療・入院診療として展開され、がん患者が 終末期(通常、余命約6ヶ月程度〜死亡)を 過ごす場も在宅緩和ケア・急性期病院ケ ア・緩和ケア病棟等で実施される。我が国 では、社会におけるがんやがん診療に対す る関心の高まりから、2006年にはがん対策 基本法が成立し、がん対策推進基本計画に おける「がん患者を含めた国民が、がんを 知り、がんと向き合い、がんに負けること のない社会の実現」を目標に、国民の視点 に立ったがん対策の実施が進められている。
そして、我が国ではこのようながん患者に 対する公的社会支援は、高額療養費制度や 介護保険制度(在宅緩和診療・介護につい て40歳以上の終末期患者を対象)などによ り行われている。
一般的に、がん患者のがん診療・終末期
医療及び福祉サービスの実施や選択には、
患者及びその家族の生活背景(年齢、家族 構成、経済状況など)が強く関連している と考えられる。そのため、患者及びその家 族の生活背景に応じたがん診療・終末期医 療及び福祉サービスの利用実態を調査・分 析し、個々の生活背景に応じたがん診療・
終末期医療及び福祉サービスのあり方を検 討することが重要であると考える。特に、
若年のがん患者(40歳未満)は、年齢、家 族環境、社会的役割と多様な患者・社会背 景を有していたり、緩和治療に専念する場 合も介護保険の対象となりえず、他世代の がん患者と異なるがん診療や緩和治療の実 態にあったりすると考えられる。このよう な若年のがん患者を取り巻くがん診療や緩 和診療の患者背景や実態は不明でかつ、そ れらの支援要望や終末期をどこで迎えるか、
など社会背景との関連、その他の年代との 違いについても不明である。
本研究班では、乳がん・婦人科がん・肉 腫・胚細胞腫疾患の若年層(40歳未満)患 者を対象とし、患者目線に立ったがん診 療・終末期医療・医療福祉サービスを実態 とニーズについて検討することとした。こ の年代は多様なライフステージ(親の保護 下にある未成年、成人しているが独身、雇 用の不安定・業務負担が大きい職種(非正 規雇用・管理職等)、子育て期間である女 性など)が存在している。個々のライフス テージに応じたがん診療・終末期医療の実 態・生活背景を調査した事例はなく、保障 される医療・終末期医療福祉サービスを質 の高いものとするためには、ニーズと現状 を調査するとともに、他の年代のデータと 比較検討し特徴を明確にすることが重要で
ある。また、患者・家族(遺族含む)の医 療及び福祉サービスに対する要望を聞き取 り、これらの結果を分析することで多様な 医療福祉のサービスの提示を図ることがで きる。
本研究では、国立がん研究センターで後 ろ向き臨床研究を実施し、患者背景・社会 背景の検討を行う。また、多施設共同前向 き臨床研究を行い、患者が置かれている社 会背景や現行の問題点を探る。また、診療 に携わる医師だけではなく、多くのがん患 者およびその家族と日頃コミュニケーショ ンをはかり、患者の要求・要望をいち早く 情報収集することができる「ソーシャルワ ーカー」の人材を活用し、現在のニーズ・
要望、要求をダイレクトに収集する。これ は、ソーシャルワーカーの人材活用の場と もなり、臨床心理士、心理カウンセラーな ど治療には直接携わらないが、患者、及び 家族の社会支援・心のケアの充実をはかる 人材活用、質の向上につながりうる。
がん対策基本計画の実現をはかるうえで、
患者・医療者間、国民全体で議論される機 会の乏しいがん診療への支援要望、がん患 者が最期を迎える場所、終末期ケア最期に おける患者・家族支援の実態・あり方など を現場の声を掬い上げ情報を分析すること は、我が国における「がん診療、緩和ケア の充実」を全ての世代に広げる流れを作る 上で極めて重要であると考えられ、多大の 貢献が可能と考える。
本研究課題で得られた成果は、支援や情 報提供等のあり方を検討し、質の高い支援 サービスの還元となりうる。また、がん対 策基本法において、すべてのがん患者及び その家族の苦痛の軽減並びに療養生活の質
の向上につながり、わが国のがん医療・終 末期医療政策において有用な情報に資する と考えられる。
B.研究方法
本研究は、大きく二つの研究からなる。
研究においては、研究者らにより研究計画 書が作成され、研究実施施設の倫理審査委 員会で承認されてから実施する。研究実施 施設で患者からの研究情報の収集が実施さ れ匿名化された情報に変換される。また、
統計解析については、名古屋大学医学部付 属病院先端医療・臨床研究支援センターで 実施される。得られた研究成果は適宜、学 会や論文で研究成果の公表を行う。
A:若年の悪性腫瘍患者のがん診療の実態、
家族を取り巻く環境の情報収集・検討する 臨床研究
研究デザイン:カルテ調査による後ろ向き 研究
実 施 施 設 :国立がん研究センター中央 病院
目 標 症 例 数 :疾患ごとに50例以上を目標 とする
症例集積期間:平成24〜25年度 解 析 ・ 分 析 :平成25年度
3種類の悪性腫瘍の患者(乳がん・婦人 科がん・その他稀な腫瘍)を対象に実施す る。乳がんについては、予備調査として実 施したものの症例数を1999年から2011年ま でのものにデータベースを拡大して平成24 年度に収集したうえで平成25年度に統計解 析し、研究班で分析する。また、婦人科癌
(卵巣がん・子宮体がん・子宮頸がん)や
その他稀な腫瘍(肉腫・胚細胞腫・原発不 明癌)について、1999年から2011年までの 患者を対象にデータベースを構築し、若年 世代とその他の年代の比較ができるように 研究計画書を平成24年度に立案し、平成25 年度初めにかけて情報収集を行い、平成25 年度に統計解析を実施し研究班で分析する。
B:若年の悪性腫瘍患者自身・家族からの 癌診療・緩和治療に関する要望を分析する 多施設共同臨床研究
研究デザイン:面談・書面による前向き研 究
実 施 施 設 :国立がん研究センター中央 病院、大阪市立大学医学部附属病院、埼玉 医科大学国際医療センター
目 標 症 例 数 :50例以上 症例集積期間:平成24〜25年度 解 析 ・ 分 析 :平成25年度
平成24年度に研究計画書を作成し、平成 25年度に各研究実施施設を受診した40歳未 満で同意を得られた全ての悪性腫瘍患者お よびその家族を対象とする。対面面談・書 面調査に同意頂いた患者から直接、患者情 報、社会環境等、支援に対する要望を書面 調査と医療面接を行い情報収集する。また、
若年がん患者における精神心理的苦痛につ いて同定する検討を行う。そして得られた 情報について、統計解析を実施し研究班で 分析を行う。また、若年がん患者や家族へ の情報提供のあり方についても、平成25年 度に前向き研究を踏まえて検討する。
AとBで得られた研究成果について平成 25年度に研究班内で検討を行い、研究報告 書をもとにがん対策協議会へ対して要望作
成を取りまとめる予定である。がん対策協 議会で、現在のがん診療・緩和治療を更に 推進させるための政策提言を働きかけ、厚 生労働行政で活用されることを期待してい る。
C.研究結果
【平成 25 年度の研究実績】
若年の悪性腫瘍患者における癌診療・
緩和診療における更なる支援が必要な部 分を明確にし、それに対する支援・対策 について具体的に検討するために、A. 後 ろ向き臨床研究の実施とB. 前向き臨床 研究を実施した。
(A)後ろ向き研究
『癌診療・固形悪性腫瘍患者の終末期 ケアおよび福祉サービスの利用実態調査』
として、研究計画書を国立がん研究セン ター中央病院研究倫理審査委員会へ提出 した。承認を受けた後、国立がん研究セ ンター中央病院 乳腺・腫瘍内科で診療を 担当している複数の悪性腫瘍領域(乳が ん・婦人科がん・肉腫・胚細胞腫など)
の診療録より情報を収集する方法で研究 を実施した。乳がん・婦人科がんについ ては昨年度(平成24年度)に解析を実施 した。肉腫・胚細胞腫・原発不明癌につ いては平成25年度に収集が完了し解析を 実施した。
① 肉腫
肉腫はまれな疾患であり、組織学的 に多彩な形態を認め、組織型より好発 年齢・発生部位・治療反応性・予後等 が異なることから治療体系が複雑な領
域である。また、小児から高齢者まで 幅広い年齢層で発生し、それゆえ患者 背景も多様である。患者背景の多様さ が、最期を迎える場所とその選択に影 響を与えていることが予想され、肉腫 患者の患者背景を明らかにすることに よって、日本の肉腫患者の終末期ケア の実態の一端が把握できるものと考え、
実態調査を行った。
1998年から2013年2月までに、国立が ん研究センター中央病院で診断・治療 を行った肉腫患者について、診療録よ り情報収集を行った。全例199例、年齢 中央値48歳(範囲:17‑73歳)であり、
40歳未満は62例、年齢中央値は32歳、
男性38例/女性24例、既婚者30例(48%)、
未成年の子供がいる患者23例(37%)、
要介護家族がいる患者2例(3%)、東京 都23区内在住18例(29%)、死亡数29 例(47%)、死亡した場所は在宅:4例
(14%)、他院緩和ケア病棟:6例(21%)、
国立がん研究センター中央病院:14例
(48%)、他院:5例(17%)であった。
40歳以上は、年齢中央値は55歳、男性 55例/女性82例、既婚者110例(80%)、
未成年の子供がいる患者22例(16%)、
要介護家族がいる患者6例(4%)、東京 都23区内在住39例(28%)、死亡数65 例(47%)、死亡した場所は在宅:11 例(17%)、他院緩和ケア病棟:21例(32%)、
国立がん研究センター中央病院:21例
(32%)、他院:9例(14%)、不明:3 例(5%)であった。
65歳以上の肉腫患者に関する後方視 的研究結果は、2013年International Society of Geriatric Oncologyで発表
し、65歳以下の肉腫患者と比べ全生存 期間中央値に有意差はなく(65歳以上 20カ月、65歳未満 29か月、P=0.141)、
ECOG performance status 0/1の高齢者 では、化学療法施行により65歳以下と 同等の生存期間を得ることが可能であ ることが示唆された。
② 胚細胞腫瘍
胚細胞腫瘍は悪性腫瘍全体からみる とまれだが、若年者の悪性腫瘍の中では 頻度が高い癌腫である。主に若年男性に 好発し、治療によって治癒が見込めるが んであることが知られているが、中には 予後不良な一群が存在する。患者背景が 比較的均一であることから、胚細胞腫瘍 患者の終末期医療・ケアの実態に、若年 悪性腫瘍患者の抱える終末期医療・ケア の問題点が集約されているものと考え、
今回調査を行った。
1998 年から 2011 年 12 月までに、国 立がん研究センター中央病院で診断お よび胚細胞腫瘍に対する初回治療を行 った患者について、診療録より後ろ向き 調査を行っている。現在、100 例につい て、診療録からの情報収集を終え、解析 中である。
③ 原発不明癌
原発不明癌は原発部位が特定されな い癌腫で、発症年齢や部位、組織型は多 岐にわたり、治療経過や患者背景も多種 多様である。まれな疾患であり、腫瘍内 科をはじめとした科で診療されること が多い。当院での原発不明癌患者の終末 期医療・ケアの実態を把握することで、
日本における実態の一端が把握できる ものと考え、調査を行った。
1999 年から 2011 年 12 月までに、国 立がん研究センター中央病院で診断・治 療を行った原発不明癌患者について、診 療録より情報収集を行った。症例数 197 例のうち、40 歳未満は 12 例(6.1%)と 少数であり、記述的な結果ではあるが以 下に要旨を示す。
男性 6 例(50%)、女性 6 例(50%)、配 偶者ありが 3 例(25%)、未成年の子供あ りが 4 例(33%)、同居家族ありが 11 例
(92%)であった。care giver(重複あ り)は配偶者・パートナー:6 例(50%)、 親:5 例(42%)、兄弟 1 例(8.3%)であ った。診断時には、正規雇用:7 例(58%)、 非正規雇用:1 例(8.3%)、主婦・無職:
4 例(33%)であったが、BCS 移行時に就 業状況を確認しえた例では、正規雇用 7 例のうち 4 例は休職中、1 例は無職、非 正規雇用の 1 例は無職となっていた。死 亡した場所は、国立がん研究センター中 央病院:4 例(33%)、他院緩和ケア病棟:
3 例(25%)、他院一般病棟:2 例(17%)、 在宅:1 例(8.3%)、生存中:1 例(8.3%)、 不明:1 例(8.3%)であった。
40 歳以上の 185 例については、現在 のところ診療録の調査中であるため、今 後 40 歳未満の症例との比較を行うこと を検討している。
(B)前向き研究の計画と実施
前向き研究のプロトコール・説明同意 文書・調査票を研究班内で検討のうえ作 成した(添付資料:研究計画書と説明同 意文書)。
前向き研究は、国立がん研究センター 中央病院・大阪市立大学 医学部付属病 院・埼玉医科大学 国際医療研究センター を研究の実施する場とした多施設共同研 究の形式となる。研究の目的は、若年固 形悪性腫瘍(20歳以上40歳未満)の患者 に提供する医療・終末期医療福祉サービ スを質の高いものとするために、患者・
家族・社会背景とがん診療・緩和ケアお よび福祉サービス利用の実態とニーズを 調査する。また、標準治療中または標準 治療が終了し終末期・緩和ケアを受けて いる病態が異なる20歳以上40歳未満のが ん患者や、40歳以上のがん患者のデータ と比較することで、患者が置かれている 状態や現在の問題点が、病態の違いによ るものか、若年であることで生じるもの なのか、それとも年齢に関係なくがん患 者が抱えている問題なのかを検証し明確 にすることとした。また、若年がん患者 における精神心理学的な苦痛の同定につ いての検討も行うこととした。
(●)前向き調査研究の症例集積と解析結 果
2012 年 11 月 2 日に大阪市立大学医学部附 属病院研究倫理審査委員会にて承認(番 号:2429)され研究を実施した(40 歳未満 の患者登録に限定した研究実施施設)。
2013 年 1 月 31 日に国立がん研究センター 中央病院研究倫理審査委員会にて承認(番 号:2012‑165)され研究を実施した。(40 歳未満の患者登録と 40 歳以上の世代別の乳 がん患者の登録する研究実施施設)。
2013年6月5日に埼玉医科大学国際医療 センター研究倫理審査委員会において承
認(番号:13‑033)され研究を実施した(40 歳未満の患者登録に限定した研究実施施 設)。
前向き研究に参加した119例の患者にお ける中間解析を実施した。40歳未満の患者 は59例と全体の49.6%(乳がん以外19.3%、
乳がん30.3%)であった。他の世代につい ては40歳代〜80歳代と10歳区切りで、各世 代約10%の乳がん患者が参加した。
40歳未満の59例の主要な患者背景は、男 性:20.3%、女性79.7%、世帯主が25.4%、
キーパーソン有が88.1%、がん家族歴有が 78%、既婚者55.9%・離婚が3.4%・未婚 40.7%、子供有が32.2%、要介護家族有が 15.3%、両親との同居が28.8%であった。
職業は、無職・学生・専業主婦・常勤職員 等多様であり、世帯の収入は300‑599万が 最多であった。がん罹患により減収が61%
に生じ、100‑300万未満の収入減少が最多 であった。生活保護を受けている患者は 3.4%であった。
相談支援センターの認知度は、知らないが 28.8%で利用歴有は、25.4%、今後の利用 予定なしが64.4%を占めた。
終末期を過ごしたい場所は、自宅が10.2%
と最多で、ホスピス6.8%、がん急性期病 院が3.4%であったが、22%がまだ決めら れない・45.8%はまだわからないとイメー ジを持っていなかった。将来的に緩和ケア 希望ありは30.5%が希望していた。精神科 受診歴は18.6%の患者にあり、今後の精神 科受診の希望は25.4%に認められた。
患者の医療に関する情報源は、医療者が 40.7%と最多で、インターネットが33.9%、
本・新聞が6.8%であった。患者の抱く不 安については、仕事の不安あり・経済面の
不安あり・家族への不安あり・精神的不安 ありが、それぞれ32.2%、40.7%、49.2%、
40.7%であった。死後の不安がある患者は 16.9%で、治療費の負担を感じている患者 は44.1%に上った。最終解析として、追加 症例分と40歳以上の乳がん患者60例の比 較データについては、今後実施し発表予定 である。
(●)若年がん患者における精神心理的 苦痛についての検討
若年がん患者は健常人と比べて身体 的・精神的QOLが低いことが指摘されてい るが(Health Qual Life Outcomes 2010;8:
25)、うつ病をはじめとした専門的支援が 必要な問題をどの程度抱えているかにつ いては十分に調査されていないため、これ らを明らかにすることも重要である。標準 的に使用されている抑うつの評価尺度で あるPHQ‑9を実施することによって、専門 的支援が必要な抑うつ状態を有している 患者の割合が明らかにされ、精神心理的苦 痛に対する専門的支援の必要性に関する 基礎資料が得られることが期待される。
PHQ‑9(こころとからだの質問票)は、
プライマリ・ケアで一般的にみられるうつ 病などの精神障害の診断補助ツールとし て開発された。うつ病において良く認めら れる症状である、気分、睡眠、倦怠感、食 欲など9つの質問について、この2週間で全 くない(0点)、数日(1点)、半分以上(2 点)、ほとんど毎日(3点)の4段階により 評価を行い、合計27点満点である。Patient Health Questionnaireの妥当性は、8ヶ所 のプライマリ・ケア医療機関で3000人を対 象に実施された研究と、7ヶ所の産婦人科
医院で3000人を対象に行なわれた研究の 2つで報告されており、10点以上が介入が 必要な抑うつ状態を示唆する。
前向き調査研究に参加した40歳未満の がん患者においてPHQ‑9の実施について同 意された患者に対して実施した。42例の患 者を予定し38例の患者について解析を実 施した。PHQ‑9の平均得点は4.1±3.8点で あった。介入が必要とされる抑うつ状態と される10点以上である患者は10.5%(4例)
であり、精神科受診希望は、有:24%(8 例)、無:77%(25例)であった。2週間の うち睡眠の問題を数日以上感じている患 者は71.1%、倦怠感・気力低下を感じる患 者は65.8%、無価値感・罪悪感のある患者 が34.2%でありこれらの項目が精神的苦 痛として高い傾向を認めた。抑うつ症状に よる困難度は、極端〜困難が2.6%(1例)、
やや困難が26.3%(10例)を占めた。
(●)調査の実施や研究の中間解析結果を 踏まえた研究班の検討会
本研究は、医療面接(インタービュー)
を方法として取り入れており得られた質 問紙の研究結果のみではなく、調査の実施 におけるヒアリングも班会議の検討とし て活用した。検討会では以下の意見が出た。
・告知をされた時の対応や妊孕性の対応 の仕方など信頼のおける情報を若年がん 患者は求めており、がん患者のインタビュ ーが実際に聞けるディペックスジャパン
(http://www.dipex‑j.org/)のようなイ ンターネットでの情報提供が、有効ではな いか。このような情報提供のホームページ が他の厚生労働省科学研究費班(九州がん センター:大野真司先生)で作成されたが、
研究費の継続がないために公開に至って いない。このような研究における成果物と して形成された情報提供のリソースを関 連学会が共同して運営する・がん対策情報 センターが事業として実施するなど工夫 が必要だろう。
・相談支援センターのがん専門相談員が、
若年がん患者と特徴や背景をがん専門相 談員の研修のプログラムに組み込むこと などを実施し啓発することが重要である。
また、その対応の質を向上するために個別 対応事例集を収集して全国のがん専門相 談員で知識の共有をすることも重要だろ う。
・医療機関の外来において医療者からカー ドなどを渡すことで相談支援センターの認 知を上げ、様々な相談をできる場を利用し てもらう工夫が必要である。相談支援セン ターへの相談は、直接医療機関にかかって いなくても相談可能であることや、本研究 の実施施設のように大学病院やがん専門病 院では既にがんと告知を受けて受診する患 者がほとんどであることから施設内のみの 広報では不十分であり、地域の医療機関や 保健所などの機関も含め、一般全体にむけ て自治体と連携して啓発を行っていくこと が必要だろう。
・がん患者の中心世代は高齢者であり、
若年がん患者が持つ問題や不安があると きに、具体的に同じ世代の話を聴いたりで きる相手として若年がん患者があまりい ない。患者は、信頼できる情報や普遍的な 経験談を必要としていることもあるので、
安心して利用できるネットや案内のある ツール・若年がん患者のピアサポートグル ープがあればいいのではないか。
・幼い子供への情報提供対応として緩和 ケアや精神科がプロジェクトを展開して いる。
・若年がん患者の診療中の保育・育児に おける負担や不安について詳細な検討を 行っていくこと必要性がありそうである。
・医師のがん専門医教育や医学生に対す る教育において、患者の社会支援体制・介 護福祉体制・相談支援体制等の教育を実施 することが必要であろう。
・大学病院と国立がん研究センターのデー タであることも施設や地域の偏りがデー タバイアスとして存在する可能性がある ことから、施設を広げて実施する必要があ る。
D.考察
後ろ向き研究においては、全世代の固形 がんの患者さんは緩和ケア適応と判断され た場合は、緩和ケアへ紹介され死亡すると いう転帰が多く、がん急性期病院での死亡 や自宅での死亡は相対的に少ない割合であ った。乳がんや婦人科がんにおける若年が ん患者の傾向と同様に、肉腫・胚細胞腫瘍・
原発不明癌の調査においても約 10%程度の 患者が在宅死亡しており、これは、40 歳以 上の集団においても同様の傾向であること から、世代に関係ない頻度で在宅死亡が発 生していることになる。したがって、若年 がん患者の終末期の選択として在宅死亡で は、40 歳以上の終末期癌患者へ適用される 介護保険の対象とならないことが一種の
『世代間格差』という問題点として示唆さ れる。受益者負担という概念から、40 歳未 満が対象となっていないと推察されるが本 邦におけるセーフティーネットに欠落部分
があるとも考えられるため、政治・行政に おける検討が必要と考える。
前向き研究は、前向き研究計画が策定さ れ各研究実施医療機関の研究倫理審査委員 会で承認され開始に至った。
前向き研究の結果から、家族面・経済面・
精神面・仕事面等の不安の要素は、一貫し た傾向は明らかでないものの子供の有無・
収入・要介護家族の有無等が上がってきた。
相談支援センターの認知度については、若 年がん患者において『がん家族歴あり』だ と認知度が高い傾向があり利用歴も高く、
自らの経験が相談センターの認知・利用に 関わっていると考えられる。したがって、
がん家族歴の有無に関係なく一般に対する 相談支援センターの認知上昇を目指した啓 発や直接紹介元となる医療従事者(医師・
看護師等)への啓発を行うことが重要であ ると考える。特に若年がん患者におけるニ ーズとして、相談支援センターの相談希望 は『患者が世帯主である』ことが関連が示 唆され、緩和ケアの希望については『女性』
の患者に関連があった。多項目の調査研究 では検討する因子によって結果が変わって くる・世代(40 歳未満と 40 歳以上)の区 別による結果の一貫性が必ずしも成立しな いことがあり研究の限界も存在するので、
結果の解釈は慎重に行う必要性がある。
精神心理的苦痛に関する検討では、若年 がん患者においてうつ病が疑われる患者は、
こ れ ま で 報 告 さ れ て い る 本 邦 の 有 病 率
(4‑7%:小川ら 2009)に比べて高い水準 にあると推測される。また、約 4 人に1人 が精神科受診を希望していることも精神心 理的な支援について高いニーズがあり、特 に抑うつに対する専門的な介入の必要性が
あると考える。精神心理的苦痛の項目につ いては、不眠や倦怠感の訴えが多く認めら れており、これまで不眠に介入することで 抑うつが改善するという報告(Watanabe et al. 2011)から、十分に治療介入が奏効す る可能性があると考える。一方、今回、若 年がん患者の約 10%は無価値感・罪悪感を 毎日認めており、これは高齢者の研究にお ける割合より高い(Rooney et al., 2013;
Randall et al.,2013)ことが特徴的である。
うつ病の現象学として、相対的若年者のう つ病は無価値感が生じやすいことが指摘さ れており(Hegeman et al., 2012)、がん患 者においてもこれがあてはまることが示唆 された。さらに、若年がん患者は罹患によ り仕事や家庭などでの役割を喪失する機会 が多く、そのことが無価値感・罪悪感を生 じさせている可能性も考えられた。
したがって、不眠など具体的な問題の支 援だけではなく、喪失感に焦点を当てたカ ウンセリング的な関わりや生活全体の支援 を行うことが若年がん患者に対しては有用 である可能性が示唆される。
E.結論
本研究における後ろ向き研究と前向き研 究を平成25年度に実施した。後ろ向き研究 では、癌腫に関係なくかつ若年・それ以外 に関係なく約10%のがん患者が在宅死亡し ていることから、介護保険の対象外となっ ている40歳未満の若年がん患者の在宅緩和 ケアを支援する制度の検討が政治・行政に おける課題であると考えた。また、前向き 研究における緩和ケアを受けたい希望場所 についても同様の頻度であることから患者 ニーズの存在が十分にあると考える。
本研究では、若年がん患者における経済 的ダメージや家族(子供)を抱えるがん患 者の将来に対する不安が明らかとなった。
これら経済的支援や就労支援について充実 することで、誰でも安心して治療を受けら れる環境を整備する事も重要である。
また、若年がん患者の相談支援において は、若年がん患者の相談支援センターの認 知度や相談割合は低く、一般・がん患者・
医療従事者に対する啓発や教育を行い、認 知度の改善や相談件数の上昇(アクセスの 向上)を目指す必要があると考える。支援 制度の整備が行われても、アクセス向上が なされないと制度の活用に繋がらないため、
並行して取り組む課題であると考える。
若年がん患者ではうつ病の割合が高い可 能性が示唆され、特に若年特有とも考えら れる罪悪感・無価値観といった精神的苦痛 については、新たな精神・心理領域の専門 職による介入研究の必要性があると考える。
これら研究班の研究で明らかになった成果 や報告書に基づき医療機関でがん診療・支 援に関わる者・厚生労働省や自治体など行 政で政策立案に関わるものが、若年がん患 者に焦点を当てた政策や診療・研究を充実 させ、様々な社会背景・経済背景を抱える あらゆる世代が安心してがん診療・緩和治 療を受けていける社会となるように期待す る。
F.研究発表 1.論文
清水 研.韓国心身医学会学術総会に参加 して.総合病院精神医学.25(3):301‑302,
2013
清水 研,中原理佳,大島俊夫,高橋知実,
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2.学会発表
PHASE II STUDY OF IRINOTECAN IN PATIENTS WITH CHEMOTHERAPY PRETREATED ANGIOSARCOMA; THE ANGIRI STUDY
第 18 回 CTOS、アメリカ(ニューヨーク)
2013 年 11 月 1 日
G.知的財産権の出願・登録状況 1.特許取得 なし
2.実用新案登録 なし 3.その他 なし