自家移植併用大量化学療法を施行し,寛解を維持している
AIDS
関連リンパ腫
永 井 雄 也1, 森 美 奈 子1, 井 上 大 地1, 木 村 隆 治1,
下 地 園 子1, 戸 上 勝 仁1, 田 端 淑 恵1, 松 下 章 子1,
永 井 謙 一1, 今 井 幸 弘2, 高 蓋 寿 朗3, 高 橋 隆 幸1
62歳男性。帯状疱疹を発端として HIV 感染が判明(CD4: 16/ml , HIV-RNA 150,000 copies/ml)。多発性リン パ節腫大を認め,生検により t(8;14)を伴うびまん性大細胞性 B 細胞リンパ腫(StageIVB, IPI: high risk)と診断。 highly active anti-retrovirus therapy(HAART)併用で CHOP 療法を 2 コース,次いで rituximab 併用の R-CHOPを 4 コース施行し寛解となった。ARL における 1st CR での自家移植治療の適応は確立していないが, 再発時の病勢コントロールは困難な場合が少なくないため,MEAM(ranimustine, etoposide, cytarabine, mel-phalan)を前処置として自家移植治療を施行。治療終了後 24 ヶ月の時点でも寛解を維持している。本邦におい て ARL に対する,初寛解時での PBSCT の誌上発表はされていないため,その適応に関する若干の考察を加え, ここに報告する。(臨床血液 50(11):1641∼1646,2009)
Key words : AIDS-related malignant lymphoma, Autologous stem cell transplantation, HAART, rituximab
緒 言
Acquired immunodeficiency syndrome(AIDS)関連悪 性リンパ腫(AIDS-related lymphoma, ARL)は AIDS 指 標 疾 患 の 一 つ で あ る が,highly active anti-retrovirus therapy(HAART)の普及後,human immunodeficiency virus(HIV)-1 感染者の予後が著しく改善する中で悪性 リンパ腫の合併率はそれほど下がっておらず,HIV 感 染者の主な死因の一つとなっている1)。非ホジキンリン パ腫(NHL)の発症率は健常者の約 25∼100 倍,AIDS 患者の剖検例では 10∼30%に認められる2)。HAART 導 入後,ARL の治療成績の改善は目覚ましく,再発およ び治療抵抗性の症例には自家移植併用大量化学療法 (auto-PBSCT)を含めた強化療法が施行され,非 HIV 感染者リンパ腫とほぼ同等の治療成績が複数の施設から 報告されつつある3)。しかしながら,本邦においては ARLに対する化学療法の症例数は少なく4),特に rituxi-mab併用のタイミングは確立されていない。さらに自 家移植施行例は Kawabata らの報告(再発例)5)のみであ る。我々は,多発節外病変を有する ARL (International Prognosis Index; IPI: high risk)の症例に対して HAART を継続しながら化学療法を行い,初回寛解時に auto-PBSCTを施行し,HIV 感染の増悪なく寛解を維持して いる症例を経験したため,ここに報告する。 症 例 症例は 62 歳,男性,主訴は発熱,全身倦怠感。 既往歴として 59 歳時に帯状疱疹。家族歴には特記事項 なし。 現病歴:2006 年 5 月より微熱が持続,食欲が低下し, 2ヶ月間で体重が 10 kg 減少した。6 月から右上肢に帯 状疱疹を発症,他院で入院加療を受けた。この際に HIV感染が判明し,また左腋窩リンパ節腫大があり, HAART導入目的および悪性リンパ腫の疑いで 7 月より 当院へ転院となった。HIV 感染は異性間性交渉による と考えられた。 入院時現症:身 長 170.0 cm,体 重 55.0 kg,体 温 37.0℃,PS(ECOG) Grade 1,意識清明,心肺腹部に 異常を認めず。口腔内頬粘膜にカンジダと思われる白苔 が付着。左腋窩に母指頭大の無痛性リンパ節を複数触知 した。 入院時の検査結果を表 1 に示す。CRP 上昇,貧血, 受付:2009 年 1 月 26 日 受理:2009 年 7 月 2 日 1神戸市立医療センター中央市民病院 免疫血液内科 2神戸市立医療センター中央市民病院 臨床病理科 3西神戸医療センター免疫血液内科
症例報告
低アルブミン血症に加え,軽度の腎障害,アミラーゼ, リ パ ー ゼ の 軽 度 上 昇 を 認 め た。CD4 陽 性 リ ン パ 球 (CD4+)は 16 個/ ml, HIV-RNA は 150,000 copy/ ml で
あった。可溶性 IL-2 レセプター(sIL2R)は 4,090 U/ml と高値であった(正常 530 U/ml 以下)。血中 Epstein-Barrウイルスは 370,000 copy/ml と高値であった。髄液 の所見は正常であった。 CT では左鎖骨上窩,左腋窩, 腹部傍大動脈領域,左総腸骨,両側外腸骨領域のリンパ 節腫大に加えて膵腫大,小腸の壁肥厚を認めた。また positron emission tomography(PET)では上記病変に加 えて脊椎,肋骨,骨盤などの骨,肝,直腸にも集積亢進 を認め,浸潤が疑われた(図 1)。左腋窩リンパ節生検 を施行,HE 組織像では中型から大型の異常リンパ球の 密な増殖が認められ,さらに核塵を貪食しているマクロ ファージが散見され,starry sky pattern を呈していた (図 2)。免疫染色では UCHL-1 陰性,CD20 陽性,bcl-2 陰性,EBER 陰性,MIB- I 染色は 95%程度に陽性であっ た。フローサイトメトリーによる表面抗原は CD19, CD20陽性,CD10 陰性であり,PCR 法で IgH 遺伝子の 再構成を認めた。染色体分析では FISH で t(8;14)陽性, G-banding法で t(8;14)(q24;q32)を認めた。HE 染色所 見で細胞に大小不同があることと MIB-1 染色が 100%陽 性でなかったことより,病理診断は B 細胞性悪性リン パ腫,びまん性,大細胞型(DLBCL)であった。臨床 病期は StageIVB, IPI は high risk に分類された。胸骨で
の骨髄穿刺ではフローサイトメトリー,PCR 法で腫瘍 細胞を検出しなかった。 臨床経過:入院第 5 病日より HAART(tenofovir, em-tricitabine, nevirapine)を開始したが,化学療法と併用 するに当たり,未知の薬剤相互作用が懸念されたため, ARLの治療経験が多い本邦他施設の regimen を参考に し,第 50 病日より HAART を lamivudine, sanilvudine, nelfinavirに変更した。しかし変更後 10 日で薬疹が出現 したため,nelfinavir を atazanavir に変更し,その後は 有 害 事 象 な く HAART を 継 続 し た。第 51 病 日 よ り CHOP(cyclophosphamide 1, 200 mg, doxorubicin 80 mg, vincristine 2 mg, prednisolone 60 mg×5 日)療 法 を 2 コース施行し,腫大リンパ節の著明な縮小を認めた。 CD4+が 200/ml を越えた後に rituximab 600 mg を併用し た CHOP(R-CHOP)に変更して,さらに 4 コース施行。 また節外病変が多く,t(8;14)を伴うことから予防的に methotrexate 15 mg, cytarabine 40 mg, dexamethasone 4 mgの髄注を 3 回施行した。化学療法中は sulfamethoxa-zole/ trimethoprim, itraconazole を 予 防 的 に 併 用 し た。 MAC症(mycobacterium avium complex)に対する予防 薬は使用しなかったが,早期に CD4 は回復した。2007 年 1 月 の PET-CT で 完 全 寛 解(CR)を 確 認。ま た HAART開始後,早期に血中 Epstein-Barr ウイルスは消 失した。ARL における 1st CR での自家移植治療の適応 は確立していないが,再発時の病勢コントロールは困難 表 1 入院時検査所見 WBC RBC Hb Plt CD4+ APTT PTINR Fibrinogen D-dimer 4,000/ l 274×104/ l 8.2 g/dl 21.6×104/ l 16/ l 31.6 sec 1.01 463 mg/dl 14.7 g/ml TP Alb ChE AST ALT LDH CPK T-Bil AMY Lipase BUN Cr CRP UA Na K IgG IgA IgM 7.1 g/dl 2.4 g/dl 135 IU/l 18 IU/l 13 IU/l 217 IU/l 38 IU/l 0.1 mg/dl 490 IU/l 263 IU/l 26 mg/dl 1.2 mg/dl 7.4 mg/dl 6.8 mg/l 130 mEq/l 4.8 mEq/dl 3,690 mg/dl 291 mg/dl 230 mg/dl Fe UIBC Ferritin sIL2R 11 g/dl 116 g/dl 592 ng/ml 4,090 U/ml HIV EBV 150,000 copies/ml 370,000 copies/ml HSV VZV CMV HHV6 HHV7 HHV8 <100 copies/ml <100 copies/ml <100 copies/ml <100 copies/ml <100 copies/ml <100 copies/ml HBs-Ag HBs-Ab HBc-Ab HBe-Ag HBe-Ab HCV-Ab RPR TPHA D グルカン (−) (−) (−) (−) (−) (−) (−) 160 倍 <1.2 pg/ml EBV-VCA-IgG EBV-VCA-IgM EBV-EA-IgG EBNA 1,600 倍 <10 倍 <10 倍 160 倍
Abbreviations: EBV, Epstein-Barr virus; HSV, herpes simplex virus; VZV, varicella-zoster virus; CMV, cytomegalovirus; HHV6, human herpes virus 6.
な場合が多く6, 7),また高齢のため再発時での移植治療
のリスクが高いことを重視して,初回寛解時での auto-PBSCTを選択した。2007 年 3 月に etoposide 600 mg× 3 daysを前処置として末梢血幹細胞採取を行い,CD34 陽性細胞を 1.2×106/kg 採取した。また移植治療前の
CD4+は 215 個/ml,HIV-RNA は 50 copy 以下/ml と HIV
感染は良好にコントロールできていた。4 月に MEAM (ranimustine 450 mg,etoposide 300 mg×4 days,cytar-abine 300 mg×4 days,melphalan 200 mg)と rituximab 600 mgを前処置として auto-PBSCT を施行。輸注 CD34 陽性細胞数は少なめであったが,day 11 に白血球数は 1,000/ml 以上,day 17 に血小板数が 2 万以上と比較的早
図 1 Positron emission tomography (PET)-CT scanning. A:多数の異常集積亢進を認める B:膵腫大を認める(矢印) C:小腸の壁肥厚を認める(矢印) 図 2 リンパ節組織 A:タッチ標本 核異型と好塩基性細胞質を有する大型の腫瘍細胞を認める。空胞は認め ない。(ライトギムザ染色×1,000) B:HE 染色(×400) 腫瘍細胞の大きさは不均一で,核の異型性を認める。
期の血球回復を認めた。自家移植中を含め,全過程を通 じて HAART を継続し,CD4+は 200/ml 以上を推移し, 化学療法中の HIV-RNA の再上昇も認めていない(図 3)。移植治療後から 24 ヶ月経過後も寛解を維持してい る。 考 察 ARLは AIDS 指標悪性腫瘍の中で最も頻度が高く,ま た 死 亡 率 の 高 い 疾 患 で あ っ た が,HAART 導 入 後, CHOP, dose-adjusted EPOCHなどの化学療法による寛 解率の改善がみられている8, 9)。HAART で使用される各 薬剤と化学療法併用に関する十分なデータは存在しない ため,現時点では安全性が確認されている regimen を 選択することが望ましい。また HAART に伴う副作用の 評価のため,化学療法を同時に開始することはなるべく 避けたいが,化学療法を遅らせることの不利益を考慮す ると,筆者らは同時あるいは HAART を先行させ,有害 事象がないことを確認した後に速やかに化学療法を開始 するのが妥当と考えている。本症例では細菌感染症に対 する治療などのため,治療開始が遅れたことや化学療法 前に HAART の regimen を変更した点が反省すべき点で あった。 rituximabを組み込んだ治療では易感染性の問題があ り,その是非に関してはまだ確立していない。CHOP と R-CHOP の無作為比較試験において Kaplan らは rit-uximab併用により CR 率の向上を認める一方で細菌感 染症死亡率の上昇が,特に CD4+数が 50 未満の症例に
おいて顕著であることを示し,安易な併用に警鐘を鳴ら
した10)。その一方で感染症合併率の増加を認めず,CR,
progression-free survival, overall survivalの改善を認める 報告も複数ある11, 12)。Josep-Maria らは Kaplan らと同様 の感染症死亡率を示し,これらの相違の一因は各々の対 象患者の治療開始時の CD4+数が異なるためと指摘して いる13)。筆者らは少なくとも CD4+数が 50 未満の時は 使用を控え,回復後に併用を開始することが望ましいと 考えている。
ARLの治療成績は改善しつつあるが,IPI high risk で の予後は不良であり14),また ARL 再発例が 2nd CR に入 る確率は低く,通常化学療法における再発後の予後は 1 年以内と報告されている15)。この数年間で治療抵抗性・ 再発 ARL に対する自家移植治療の報告が累積され, Balsalobreらは,その有効性および安全性が非 HIV 悪 性リンパ腫と同等であり,ARL 群において細菌感染症 による死亡率が高い傾向があるものの,年齢(50 歳以 上)が唯一の NRM のリスク因子であると報告した16)。 本邦でも Kawabata らにより再発,治療抵抗性 ARL に 対して自家移植を施行し,良好な経過を示す症例が報告 された5)。しかし Re や Serrano らは再発/治療抵抗性 ARLの約半数は病勢増悪のため,移植治療の恩恵を受 けられないと報告している6, 7)。Serrano や Krishnan ら
は IPI high risk の 1st CR 症例も自家移植治療の適応に 含め,早期に自家移植を施行することで再発率の低下に 結びつく可能性を指摘した7, 17)。現在,Rituximab を含 めた化学療法の治療成績のデータは十分でない。Ribera らは R-CHOP で CR に至った ARL での再発率が低いこ とを報告しているが11),これらの群では全ての IPI の患 l l 図 3 臨床経過
者が含まれているため,high risk での再発リスクに関 しては評価できていない。Balsalobre らは自家移植後再 発のリスクに移植前の 3 種類以上の治療歴,移植時の非 寛解を指摘し,1st CR での自家移植が望ましい患者群 を同定することに関して言及しているが14),現時点では IPI以外の予後因子はなく,Rituximab を含めた化学療 法を施行した IPI high risk 症例の蓄積が期待される。 ARLにおける自家移植症例では血小板の生着が遅延す る傾向があり18),HAART, HIV 感染が影響している可能 性も指摘されている16)。本症例では採取した幹細胞数が 少なかった点や高齢であったことが懸念されたが,臓器 障害がなく PS も良好であり,同年齢での症例報告が あったこと,自験例で同程度の細胞数で生着の遅延なく 経過した自家移植症例があったことから,自家移植治療 を選択した。現時点では IPI high risk に対する upfront PBSCTの妥当性については検討の余地があるが,症例 毎に考慮されるべき治療法の一つであると考えられる。
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Successful treatment with autologous peripheral blood stem cell
transplantation for acquired immunodeficiency syndrome
(AIDS)
-related malignant lymphoma
Yuya NAGAI1, Minako MORI1, Daichi INOUE1, Takaharu KIMURA1, Sonoko SHIMOJI1, Katsuhiro TOGAMI1, Sumie TABATA1, Akiko MATSUSHITA1, Kenichi NAGAI1, Yukihiro IMAI2, Toshiro TAKAFUTA3, Takayuki TAKAHASHI1
1Departments of Hematology and Clinical Immunology, Kobe City Medical Center General Hospital 2Departments of Clinical Pathology, Kobe City Medical Center General Hospital
3Department of Hematology and Clinical Immunology, Nishi-Kobe Medical Center
Key words : AIDS-related malignant lymphoma, Autologous stem cell transplantation, HAART, rituximab
A 62-year-old man was diagnosed with human immunodeficiency virus(HIV) infection while suffering from recurrent herpes zoster infection. Laboratory examination revealed CD4+lymphocyte count 16 cells/ml and HIV loading 150, 000 copies/ml at presentation. In addition, he had multiple lymph node swelling. Histologic diagnosis of a biopsied lymph node was diffuse, large, B cell-type malignant lymphoma. The karyotype of the lymphoma cells was t(8;14)(q24;q32), which was confirmed by G-banding and fluorescent in situ hybridization. Positron emission tomography (PET) -combined CT scanning revealed systemic extranodal tumors involving the gastrointestinal tract, pancreas, and bone marrow. The clinical stage of the lymphoma was IV B and the international prognosis index was categorized as high. Complete remission(CR) of the lymphoma was obtained after 2 courses of CHOP (cyclophosphamide, adriamycin, vincristine, prednisolone) chemotherapy and 4 subsequent courses of rituximab-combined CHOP (R-CHOP). Highly active antiretroviral therapy(HAART) was started at the initiation of CHOP. Because of the poor prognosis of AIDS-related lymphoma, he received autologous peripheral blood stem cell transplantation with the MEAM protocol (ranimustine, etoposide, cytarabine, melphalan) as a conditioning procedure without a severe infectious episode. He remains in CR 24 months after the transplantation.