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2-1 生物がつくる奇数脂肪酸

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Academic year: 2021

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20 第 2 章 奇数脂肪酸の生成と代謝

 炭素数が奇数個の脂肪酸を奇数脂肪酸と呼ぶ。ウシやヒツジなどの反芻動物の肉 や乳の脂肪には、奇数脂肪酸が他の動物のものより多く含まれている。一方、穀物 や野菜などの植物には奇数脂肪酸は含まれていない。動物や微生物には偶数脂肪酸 を奇数脂肪酸に変える代謝系がある。ヒトでは脳細胞に奇数脂肪酸とその前駆体が、

他の臓器より多く含まれている。

2-1-1 反芻動物がつくる奇数脂肪酸

 ウシやヒツジ、ヤギ、ラクダなどは反芻動物と呼ばれ、第一胃に共生する多 種多様な微生物によって植物の繊維質などを分解して消化している。反芻動物 の脂肪には奇数脂肪酸が多く含まれており、例えば牛乳には表 2-1 に示した 脂肪酸が、多いもので数 % も含まれる。奇数脂肪酸の炭素数は 11~17 の脂 肪酸がほとんどで、最も多い成分は炭素数 15 のペンタデカン酸(pentadecanoic acid)である。

第 2 章 奇数脂肪酸の生成と代謝

2-1 生物がつくる奇数脂肪酸

S U M M A R Y

S U M M A R Y

脂肪酸名

(炭素数:二重結合数) 構造式

トリデカン酸 (C 13:0)

ペンタデカン酸 (C 15:0)

ヘプタデカン酸

(C 17:0) COOH

COOH COOH 表 2-1 牛乳中の主な奇数脂肪酸

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 なぜ牛乳には奇数脂肪酸が多く含まれるのだろうか。これはウシが草を食べ て消化するメカニズムによる。ウシが食べた草は第一胃(ルーメンとも呼ばれ る)で分解される。ところで、実際に分解するのはウシ自身ではなく、第一胃 にたくさん共生している微生物群であり、細菌や原生動物が主役となる。一般 に微生物は、餌となる牧草の種類によって作る脂肪酸が多少異なるが、奇数脂 肪酸も生産する。また、ビタミン類も合成している。ルーメンで微生物によっ て発酵・消化された栄養分や分解成分が胃壁から吸収され、吸収されなかった 部分は第二胃に送られて、さらに分解される。第二、第三、第四胃を経由して、

ヒトでは消化されないセルロースまで、栄養分として吸収する。胃壁から吸収 された奇数脂肪酸は血液を通って、筋肉成分や乳腺細胞で乳脂肪の成分となっ て、牛乳中に分泌される。

 ヒトは牛乳やチーズなどの乳製品を通しても微量の奇数脂肪酸を摂取してい る。ペンタデカン酸(C15:0)の平均的な含有量は、牛乳中の最も多い脂肪酸 であるパルミチン酸(C16:0)(牛乳 100 g 中に 1100~1500 mg)の 3~4 %(38

~46 mg)程度である。また、魚や卵などにも微量の奇数脂肪酸が含まれてい るが、米などの穀類や野菜類には含まれていない。

2-1-2 ヒトがつくる奇数脂肪酸

 ヒトの体内にある脂肪酸のほとんどは偶数の炭素鎖(偶数脂肪酸)で構成さ れている。もちろん、魚や肉にある脂肪酸もほとんどが偶数脂肪酸である。

 脂肪酸の合成は、アセチル︲CoA から炭素 2 個ずつ縮合されて C16:0 のパル ミチン酸や C18:0 のステアリン酸が作られる(第 1 章 1︲2 節参照)。しかし、

この経路では偶数脂肪酸しか作ることができない。

 それでは、奇数脂肪酸はどのようにして作られるのであろうか。脂質の酸化 にはカルボキシ基の炭素を 1 個だけ切り出す反応がある。これを α 酸化(α

︲oxidation)と呼んでいる(第 1 章 1︲3︲1 項参照)。したがって、偶数脂肪酸を

α 酸化すると、炭素数が 1 個減るため、奇数脂肪酸ができるのである( 図

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22 第 2 章 奇数脂肪酸の生成と代謝

偶数炭素の脂肪酸

奇数炭素の脂肪酸 偶数炭素のα-ヒドロキシアシル-CoA

O OH

O

O O

HO

CoA

S S O

S CoA O

OH

CoA

図 2-1 奇数脂肪酸の生合成(1) α酸化

炭酸水素イオン アセチル-CoA

プロピオニル-CoA マロニル-CoA

奇数炭素のアシル-CoA

奇数炭素の脂肪酸 O

S CoA O

S CoA O

O

S CoA

-CO2

HCO3

O OH

HO

O S CoA

O S CoA HO

CH O O

S CoA 分枝アミノ酸

図 2-2 奇数脂肪酸の生合成(2) プロピオニル-CoA

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2-1)。また、バリンやロイシンなどのアミノ酸の代謝でできるメチルマロニ ル︲CoA から炭素数 3 個のプロピオニル︲CoA を経由して、奇数脂肪酸のエネ ルギー代謝(2︲2︲2 項参照)の逆反応でも奇数脂肪酸ができる(図 2-2)。

 いずれにしても、奇数脂肪酸は特定の役目を担って合成されているのであろ う。特に、ヒトを含む動物の脳には、奇数脂肪酸や、奇数脂肪酸になる前躯体 である 2(または α)︲ヒドロキシ脂肪酸(2︲hydroxy fatty acid)がかなりある。

 奇数脂肪酸の代謝産物であるプロピオニル-CoA が、細胞のエネルギー生産系

(TCA サイクル)が疲弊した時に、補充的にエネルギー生産と細胞の機能回復のため に働く。

2-2-1 消費反応と補充反応

 細胞の代謝やエネルギー産生に関与する中心はミトコンドリアの TCA サイ クルである。TCA サイクルで作られる低分子有機酸は細胞に必要な物質の重 要なパーツであり、必要に応じてアミノ酸や核酸を作る代謝系に引き抜かれ る。この引き抜き反応を消費反応 (cataplerosis)という。

 一方、TCA サイクルの代謝中間物質が引き抜かれると代謝が滞るので、必 要な物質を供給しなければならなくなる。この供給する反応を補充反応

(anaplerosis)という。TCA サイクルの補充反応として、α︲ケトグルタル酸、

オキサロ酢酸およびスクシニル︲CoA を供給するルートがある。オキサロ酢酸 の供給ルートは 3 系統あり、合計 5 つの補充反応系がある。この 5 つの反応系 のうち、スクシニル︲CoA を供給するルートでは奇数脂肪酸が供給源となって おり、重要な役割を果たしている。

2-2 奇数脂肪酸による細胞の活性化

S U M M A R Y

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24 第 2 章 奇数脂肪酸の生成と代謝

2-2-2 奇数脂肪酸の代謝と補充反応

 奇数脂肪酸は β 酸化を受けて最後には炭素数 3 個のプロピオニル︲CoA にな る。プロピオニル︲CoA の 2 位(α 位)の炭素に炭酸が付加して、メチルマロ

図 2-3 奇数脂肪酸と分枝アミノ酸の代謝における接点     (図中の 1 ~ 5 は補充反応の経路を示す)

ピルビン酸 アスパラギン酸

ホスホエノール ピルビン酸

グルタミン酸 1

2 3

4

5 オキサロ酢酸

スクシニル-CoA

酵素:メチルマロニル-CoA ムターゼ 補酵素:ビタミン B12

α-ケトグルタル酸 クエン酸

イソクエン酸

オキサロコハク酸 リンゴ酸

GDP+Pi

cis-アコニット酸

フマル酸

コハク酸 GTP+CoA TCAサイクル

バリン ロイシン イソロイシン

※ 分枝アミノ酸

※ 分枝アミノ酸 奇数脂肪酸

HO CH

プロピオニル-CoA

O O

S CoA

C NH2

O O

S CoA

C

OH OH

O

CHNH2

C

OH O CH

CH

NH2

メチルマロニル-CoA HCO3

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ニル︲CoA になり、酵素(メチルマロニル︲CoA ムターゼ)で、スクシニル

︲CoA に変換されて TCA サイクルのメンバーとして代謝される(図 2-3)。奇 数脂肪酸の他に、分枝アミノ酸からもメチルマロニル︲CoA が生成し、TCA サイクルに関与する(詳しくは 2︲4 節参照)。TCA サイクルでスクシニル

︲CoA がサクシネート(コハク酸)に変換される時、GTP が産生する。GTP(グ アノシン三リン酸)は、細胞内のシグナル伝達やタンパク質の機能調節に関与 する重要なシグナル伝達物質である。

 TCA サイクルはエネルギー生産と生合成という生命活動で最も重要な回路 なのである。この回路で各中間体の濃度を一定になるように調節するために、

補充反応と消費反応のバランスをとる必要がある。この機能を恒常性維持機能

(ホメオスタシス)という。5 系統ある補充反応の中で、オキサロ酢酸が生成す る反応が最も重要であろうと考えられている。

 偶数脂肪酸は炭素 2 個ずつ代謝され、エネルギー生産や細胞構成成分になる。奇 数脂肪酸は偶数脂肪酸の機能の他、メチルマロニル-CoA が細胞機能を復活させる。

 アセチル︲CoA は、偶数脂肪酸の β 酸化(図 1︲8 参照)やグルコースの分解

(解糖系、glycolysis)によって生成される。アセチル︲CoA は TCA サイクル において、オキサロ酢酸をクエン酸に変換するパーツであり、また、糖を脂肪 酸に変換する物質でもある。生体の反応は可逆的反応で、作られる物質には必 ず分解する系も存在する。偶数脂肪酸は代謝されてアセチル︲CoA となり(図 2-4)、TCA サイクルに入って 1 回転すると、電子伝達媒体である NADH 3 分 子と GTP 1 分子を産生する。この NADH が ADP を高エネルギーリン酸化結

2-3 偶数脂肪酸と奇数脂肪酸の代謝の違い

S U M M A R Y

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参照

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