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「キー・コンピテンシー」に基づく学習指導法の モデル開発に関する研究

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平成20年度 科学研究費補助金基盤研究(B) 初等中等教育研究 (課題番号:19330208)

研究成果中間報告書(第2次)

「キー・コンピテンシー」に基づく学習指導法の モデル開発に関する研究

-「言語活動の充実」と思考力・判断力・表現力の育成を中心として-

平成 21 年(2009 年)3月

研究代表者 下田 好行

(国立教育政策研究所 総括研究官)

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ま え が き

この研究は平成 20 年度科学研究費補助金基盤研究B「キー・コンピテンシーに基づく 学習指導法のモデル開発に関する研究―「言語活動の充実」と思考力・判断力・表現力の 育成を中心として―」(課題番号:19330208、研究代表:下田好行、国立教育政策研究所)

の中間報告書(第二次)である。

中央教育審議会答申(「幼稚園、小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校の学習指導 要領等の改善について」平成20 1月)では、知識基盤社会における学力を「課題解決 のための思考力・判断力・表現力」と捉え、「生きる力」の論拠ともなっている。このよう な知識基盤社会における学力観は、経済協力開発機構(OECD)の「キー・コンピテンシー

(鍵となる能力)」のうえにも表れている。この能力観は、個人の人生の成功と社会の持 続的発展に貢献するもので、その定義は次のようである。

相互作用的に道具を用いる

A 言語・記号・文書を相互作用的に用いる B 知識や情報を相互作用的に用いる C 技術を相互作用的に用いる

異質な集団で交流する

自律的に活動する

この能力観は知識・技能の習得だけが目的となっていない。知識・技能はあくまでも道 具として使用されることが目的となっている。「相互作用的に道具を用いる」とは、自ら 考えたことを表現し、コミュニケーションの中で、知識・技能を使用していくということ である。このことをが「知識・技能を実生活に活用する力」であり、知識基盤社会におけ る学力である。現在、この「活用」の考え方をめぐって活発な議論が交わされている。「活 用」を学習の転移としての「応用」と捉えるか、「表現・コミュニケーション」として捉 えるか、の議論である。この研究では、キー・コンピテンシーに基づき、「活用」を知識・

技能を道具として使用し表現しコミュニケーションすることと捉えることにした。この視 点に基づきキー・コンピテンシーに基づく学習指導のあり方を追究した。ところで、この

「活用」は、中教審答申では「課題解決のための思考力・判断力・表現力」と捉えられ、

教育内容の改善としては「言語活動の充実」につながっていく。そこでこの研究では、キ ー・コンピテンシーに基づく学習指導の枠組みを「言語活動の充実」と思考力・判断力・

表現力の育成の視点から作成することにした。このことを算数・数学と理科(平成 20 年度)

を中心に行った(第1章)。

(国立教育政策研究所 下田 好行)

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1

概 要

第 2 章においては、算数・数学において、どのような「言語活動の充実」を図った学習 指導が考えられるかを追究した。ここでは「関連する学力観・能力観」「読解力を中心とし た学習」「グループによる課題解決のための活動的・協同的・表現的な学び」という学習指 導の枠組みを作成した。「関連する学力観・能力観」では、授業のねらいを作るうえでの参 考となる視点を設定した。関連する能力観・学力観として、OECD の「キー・コンピテンシ ー」との関連、「全国学力・学習状況調査」の「活用問題作成の枠組み」との関連、中教審 答申の「思考力・判断力・表現力」と「言語活動の充実」との関連、中教審答申の算数の

「改善の基本方針」との関連、「研究独自の能力観・学力観」との関連、を考えた。まず、

「読解力を中心とした学習」は、今解決を求められている課題は何か、それを解決するた めに必要な条件とそうでない条件は何か、を選り分ける学習を行う。この学習を行ってか ら、課題解決に必要な条件を関連づけて式を作り、答えを導き出す学習に入ることとした。

一般に、数字や式を操作して答えを導き出すことはできるが、文章題になると分からなく なってしまう児童生徒がいる。これは式や数字の操作以前に文章題の構造を読みとること ができないからである。このテキストの構造を読解する学習を行うためには、あらかじめ 文章題のテキストを作っておく必要がある。テキストの作成には、PISA 数学的リテラシー の「状況・文脈」の考え方、全国学力・学習状況調査のB問題の作問方法を参考にするこ とにした。児童生徒が日常現実社会でしばしば出会う場面、現実的で実際にありえる事柄 をテキストの内容とした。次に、「グループによる課題解決のための活動的・協同的・表現 的な学び」を行うことにした。この学習は、既習した学習内容を道具として使用し、他の 児童生徒(教師を含む)とコミュニケーションしていくものである。児童生徒はグループ ごとに課題解決のテーマを設定し、話し合い、伝えあいながら、課題解決に向かって思考 していく。そして、追究の成果としての表現を創りあげていく。この表現は論述であり、

プレゼンテーションであったりする。他にはポスターセッション、クイズなども考えられ る。こうした学習を通して、児童生徒の主体的で協同的な参加型の学びが成立していく。

これは市民性、社会参加をめざす、OECDのキー・コンピテンシシーの趣旨にもそうもの である。

第 3 章、第 4 章では、この学習指導の枠組みにそって、教材開発を行い、授業実践を通 して、この枠組みの授業実践場面への適用可能性を追究した。このことを小学校算数と中 学校数学で試みた。その結果、適用できることを確認した。このことは授業への質問紙調 査でも確認された(第 5 章)。特に、児童生徒の価値観(学ぶことの意味について)の変容 に有意な傾向がみられた。

第6章では、現在の日本の理科教育の課題について、PISA2006、TIMSSS2007、「特定課題 に関する調査(理科)」から明らかにした。日本の児童生徒は証拠(データ)に基づき結論 を導き出すこと、見通しをもって観察・実験の方法を考案すること、などに課題が見られ た。また、ディベートや対話などコミュニケーションのある授業がなされておらず、理科 に対する興味・関心もなく、理科を学ぶことの意味が将来の自分の職業とのつながりの中 で捉えられていないことも分かった。

第7章においては、前章を踏まえ、理科における「言語活動の充実」と思考力・判断力・

表現力を育成する学習指導の枠組みを作成した。まず、授業のねらいとなる「関連する能 力観・学力観」では、OECD の「キー・コンピテンシー」との関連、中教審答申の「思考力・

判断力・表現力」と「言語活動の充実」との関連、中教審答申の理科の「改善の基本方針」

との関連、「研究独自の能力観・学力観」との関連、を考えた。次に、PISA の科学的リテ

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2

ラシーがキー・コンピテンシーの「知識・情報を相互作用的に用いる」に相当することか ら、「知識・情報を相互作用的に用いる学習」の枠組みを作成した。この枠組みとして、理 科における「調べ学習」と「グループによる課題解決のための活動的・協同的・表現的な 学び」を考えた。ここで重要となるのは、理科における調べ方の方法と証拠(データ)の 考え方の整理である。まず、自然科学の方法論を、疑問を認識する→仮説を作る→調べる 目的・方法、計画を作る→実験・観察など調べた結果(証拠・データ)を整理する→証拠

(データ)から推論し結論を導き出す考察を行う→結論、とした。次に、証拠(データ)

に関する考え方も、インターネットや資料文献(図鑑・事典・白書・官公庁や研究所など が出すデータ)なども含めて証拠(データ)と考えることにした。また、調べ学習の方法 として、「領域→メインタイトル→サブタイトルと絞り込むテーマ設定」「教師の指導と児 童生徒の自発性のバランスをとるテーマ設定」「児童生徒の学習意欲を喚起するテーマ設定」

「要約と引用の区別の指導」「思考を整理するための図表・グラフ・モデル図の作成」「レ ポートの構成の指導」を特色として打ち出した。さらに、キー・コンピテンシーの「相互 作用的に道具を用いる」意味を出すために、「グループによる活動的・協同的・表現的な学 び」を学習指導の枠組みの中に位置づけた。「相互作用的に用いる」とは、コミュニケーシ ョンの中で使用するという意味である。理科の場合で言えば、「理科の学習内容を道具とし て使用し表現しコミュニケーションする」ということである。この学習では、新しい課題 解決の場面で、既習した学習内容を道具として使用していく。児童生徒はグループごとに 課題解決のテーマを設定し、話し合い・伝えあいながら、課題解決に向かって思考してい く。そして、追究の成果としての表現を創りあげていく。この表現はレポート・論述であ り、プレゼンテーションであったりする。他にポスターセッション、パネルディスカッシ ョン、クイズ、新聞作りなどが考えられる。こうした学習を通して、児童生徒の主体的で 協同的で参加型の学びが成立していく。これは市民性、社会参加をめざすOEDEのキー・

コンピテンシーの趣旨にもそうものである。

第9章では、「活用」のもう一つの解釈である「学習の転移」を利用した学習指導のあり 方について述べた。「活用」は、認知心理学の「学習の転移」でも説明できる。一方、キー・

コンピテンシーの「活用」は、「適応」という概念で説明されている。現在、この「活用」

の解釈をめぐって活発な議論が交わされている。ここでは、「学習の転移」に基づく、活用 力を育成する学習指導のあり方を提案した。「学習内容と日常現実社会とのつながりを図る 学習」である。この学習では、今行っている学習の内容が「日常現実社会とどのようにつ ながっているか、職業の中にどのように活かされているか、自分の将来とどのようにつな がっているのか」という教材開発を行っていく。このことによって児童生徒は、今行って いる学習の意味を理解することができるのである。PISA2006 と TIMSS2007 で指摘された日 本の児童生徒の学習意欲の低さは、この学ぶことの意味を理解できないことがその理由の 一つである。

(国立教育政策研究所 下田 好行)

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研究組織

研究代表者

下田 好行 (国立教育政策研究所初等中等教育研究部・総括研究官)

研究連携者

四方 義啓 (名古屋大学・名誉教授)

岩田 修一 (東京大学大学院新領域創成科学研究科・教授)

山崎 良雄 (千葉大学教育学部・教授)

吉田 俊久 (埼玉工業大学先端科学研究所・特別客員教授)

榊原 保志 (信州大学教育学部・教授)

研究協力者

神谷 為義 (埼玉大学・講師)

岸 正博 (藤岡市立神流小学校・校長)

岡島 伸行 (行田市立北小学校・主幹)

長谷川 純子 (館林市立第五小学校・教諭)

百瀬 光一 (上田市立川辺小学校・教諭)

小林 徹 (滑川町立宮前小学校・教諭)

富田 陽一 (寄居町立男衾小学校・教諭)

中里 こず恵 (熊谷市立三尻小学校・教諭)

森 洋子 (熊谷市立熊谷東小学校・教諭)

今泉 達也 (上尾市立原市南小学校・教諭)

寳迫 芳人 (所沢市立荒幡小学校・教諭)

石井 雅江 (春日部市立牛島小学校・主幹)

杉井 みどり (三郷市立彦郷小学校・教諭)

増田 勝弘 (行田市立西小学校・教諭)

新井 靖 (熊谷市立富士見中学校・教諭)

中村 幸一 (埼玉県立総合教育センター・総合企画長)

野口 千津子 (伊奈町立伊奈中学校・教諭)

志田 隆之 (滑川町立滑川中学校・教諭)

濱田 和彦 (白岡町立白岡中学校・教諭)

石原 博之 (坂戸市立北坂戸中学校・教諭)

吉岡 武志 (小川町立東中学校・教諭)

小池 信晃 (吉井町立馬庭小学校・教諭)

熊木 徹 (魚沼市立東湯之谷小学校・教頭)

長谷川 成生 (魚沼・小千谷地域理科センター)

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近藤 裕 (みどり市立笠懸小学校・教諭)

前田 善仁 (座間市立入谷小学校・教諭)

坂井 康良 (高崎市立寺尾小学校・教諭)

増田 和明 (中之条町立中之条小学校・教諭)

山口 貴久 (小鹿野町立両神小学校・教諭)

浅見 幸世 (寄居町立桜沢小学校・教諭)

梯 直人 (藤岡市立神流小学校・教諭)

薦田 敏 (国分寺市立第一中学校・主幹)

依田 哲夫 (高崎市立矢中中学校・教諭)

丹羽 孝良 (桐生市立川内中学校・教諭)

保坂 修 (上越教育大学附属中学校・教諭)

堀口 博行 (私立東京高等学校非常勤講師)

和田 麻衣子 (大妻女子大学大学院)

満嶌 夏実 (東京大学大学院)

大河内 かおり (玉川大学通信教育部)

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目 次

第 1 章 知識基盤社会における学力とは何か

1節 知識基盤社会における学力とは何か

-OECDの「キー・コンピテンシー」を手がかりとして-

(下田 好行)

2 OECDのキー・コンピテンシーと「活用」の捉え方 -思考力・判断力・表現力の育成を手がかりとして-

(下田 好行)

第 2 章 算数・数学におけるキー・コンピテンシーに基づく学習指導のあり方

1節 キー・コンピテンシーに基づく学習指導の枠組み

-算数・数学における思考力・判断力・表現力の育成を中心として-

(下田 好行)

2節 算数・数学における読解と表現

(四方 義啓)

3節 学問の原点-ホリスティックなアプローチ

(岩田 修一)

4節 「言語活動の充実」を図った算数・数学の学習指導

(下田 好行)

第 3 章 算数における「思考力・判断力・表現力」を育成する授業実践

1節 思考力・判断力・表現力を育成する割合の指導

-「崖の上のポニョ」の映画を利用した割合の指導-

(岡島 伸行)

2節 読解力と表現力を高めるために絵図を取り入れるわり算の指導

-どうやって絵図にかこう? 何を説明すれば分かりやすい?-

(長谷川 純子)

3節 「比」や「単位量あたりの大きさ」を利用した思考力・判断力・表現力を育成 する授業

-グループごとに焼きそば作りをする算数的活動を中心として-

(百瀬 光一)

4節 思考力・判断力・表現力を育成するかけ算の指導

-友だちにおみやげを買っていこう!-

(小林 徹)

5節 資料を活用して、思考力・判断力・表現力を育成する授業

-どの選手を選びますか?-

(富田 陽一)

6節 式と図を関連付け、数についての感覚を豊かにし、表現力を高める指導

-形をデザインしよう-

(中里 こず恵)

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7節 学習したことを活用し、思考力を高めるかけ算の指導

-観覧車に乗ろう!-

(森 洋子)

8節 「単位量あたりの大きさ」を利用した思考力・判断力・表現力を育成する授業

-ドライブしよう・何時何分に到着するの?-

(今泉 達也)

9節 表を活用して思考力・判断力・表現力を育てる指導

-「子どもたちを救え!」募金の有効活用について考える-

(寳迫 芳人)

10節 さらに実感をともなって理解するための表現力を育てる授業

-速さの目安づくり-

(石井 雅江)

11節 「折れ線グラフ」や「がい数」を利用して思考力・判断力・表現力を育成する 授業

-三郷市の人口はなぜこんなに増えたの?-

(杉井 みどり)

12節 2つの棒グラフを比べて思考力・判断力・表現力を育成する授業 -棒グラフからわかるようにするためには-

(増田 勝弘)

第 4 章 数学における「思考力・判断力・表現力」を育成する授業実践

1節 「円周角と弧」の関係を用いた読解力と表現力を育成する授業

-弧の長さは円周のどれくらい-

(新井 靖)

2節 相似の考えを活用した思考力・判断力・表現力の授業

-直接測れない高さや距離をお互い工夫して求めよう!-

(中村 幸一)

3節 活用力と表現力を高めるために実生活との関連を取り入れた比例の指導

-リサイクルについて考えよう「アルミ缶で数学しよう」-

(野口 千津子)

4節 「連立方程式」や「一次関数」を利用した読解力と表現力を育成する授業

-大統領の決断で発電所を作ろう-

(志田 隆之)

5節 1次関数の利用は線分図を活用して解決しよう

-文章問題でも簡単! 筋道を立てて考える-

(濵田 和彦)

6節 思考力・判断力・表現力を育成する関数y=axの授業

-周期と糸の長さの関係から、1秒・2秒時計を作ろう-

(石原 博之)

7節 一次方程式を活用し、思考力・判断力・表現力を育成する授業

-どの買い方が一番、お得かな?-

(吉岡 武志)

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第 5 章 算数における「思考力・判断力・表現力」を育成する授業実践の解釈

(堀口 博行)

第 6 章 理科におけるキーコンピテンシーに基づく学習指導のあり方

1節 今求められる理科の学力とは何か

-国際調査からみた日本の理科教育の課題-

(下田 好行)

2節 キー・コンピテンシーにおける学習指導の枠組み

-理科における「言語活動の充実」と思考力・判断力・表現力の育成-

(下田 好行)

3節 科学的思考力、表現力を高めることと科学的理解

(吉田 俊久)

4節 科学的な疑問の認識と理科学習 -子ども達の学習意欲を引き起こす-

(山崎 良雄)

5節 理科教育における思考力・判断力・表現力の育成

(榊原 保志)

6節 思考力・判断力・表現力を育む理科の学習指導 -理科における書くことの新しい位置付け-

(神谷 爲義)

7節 「言語活動の充実」を図った理科の学習指導

(下田 好行)

第 7 章 小学校理科における「思考力・判断力・表現力」を育成する授業実践

1節 思考力・判断力・表現力を高める5年「てこのはたらき」の授業

-ドライバーを使うと、楽にネジをしめたり、ゆるめたりできるのはなぜ?-

(小池 信晃)

2節 思考力・判断力・表現力を育成する5年「人の誕生」の授業

-赤ちゃんの不思議を追究し、妊娠中の先生に分かりやすく紹介しよう!-

(熊木 徹)

3節 思考力・判断力・表現力を育成する4年「水の3つのすがた」の授業

-ポニョのポンポン船の動くひみつを探ろう!!-

(長谷川 成生)

4節 思考力や表現力を高める6年「からだのつくりと働き」の授業

-清涼飲料水はほとんど酸性・・・歯は大丈夫?-

(近藤 裕)

5節 思考力・判断力・表現力を育成する5年「水中の小さな生物」から

-小さな植物プランクトンの大きな能力(パワー)を紹介しよう!-

(前田 善仁)

6節 5年生で身につけた思考力・判断力・表現力をためす授業

-洗たく・比べてみたらこうなった!-

(坂井 康良)

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7節 思考力や表現力を高める3年「光を当てよう」の授業

-日光で温めた水でぞうきんを洗おう!-

(増田 和明)

8節 思考力・判断力・表現力を育成する6年「水溶液の性質」の授業

-学級討論会で健康を維持していくための食品について考えよう-

(百瀬 光一)

9節 思考力・判断力・表現力を育成する6年「大地のつくりと変化」の授業

-地層のモデルをつくって地下水脈掘り当てクイズをしよう-

(山口 貴久)

10節 思考力・判断力・表現力を育てる降水量の学習(5年)

-実感して考える授業の工夫-

(浅見 幸世)

11節 思考力・判断力・表現力を育成する3年「植物」の授業 -秋に種を蒔く植物で、クラスの花壇をつくろう-

(岡島 伸行)

第 8 章 中学校理科における「思考力・判断力・表現力」を育成する授業実践

1節 思考力・判断力・表現力を育成する「日本の気象」の授業(中2)

-日本の最高気温は沖縄?山形?…フェーン現象と私たちの生活-

(薦田 敏)

2節 水圧と健康について、思考力・判断力・表現力を育成する授業

-水中ウォーキングで脱メタボリックシンドローム-

(依田 哲夫)

3節 思考力・判断力・表現力を育成する3年「天体」の授業

-太陽系の天体への人類移住計画をたてて、みんなに発表しよう-

(丹羽 孝良)

4節 思考力・判断力・表現力を育成する3年「天体」の授業

-現象から宇宙の広がりを納得して、説得しよう-

(保坂 修)

第 9 章 「活用」を「学習の転移」と考えた学習指導のあり方

1節 「活用」を「学習の転移」と考えた学習指導のあり方

-学習内容と日常現実社会とのつながりを図る学習を手がかりとして-

(下田 好行)

2節 体積と表面積の「活用」の授業

-ホリスティックな視点に立つ教材開発を通して-

(四方 義啓)

3節 体積と表面積の「活用」の授業とその解釈 -四方義啓氏の授業実践を通して-

(満嶌 夏実)

4節 ホリスティックな視点に立つ科学の授業とその解釈 -岩田修一氏の授業実践を通して-

(満嶌 夏実)

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第 10 章 高等学校地理学習における思考力・判断力・表現力の育成

(堀口 博行)

第 11 章 表現力を育成する学校の教育活動の取組

(岸 正博)

付章 新学習指導要領との関連

(和田 麻衣子)

(12)

第1章

知識基盤社会における学力とは何か

(13)

1 第1章 第1節

知識基盤社会における学力とは何か

―OECD の「キー・コンピテンシー」を手がかりとして―

1 知識基盤社会における学力

今という時代に必要な「知」をどのように定義するか、難しい問題である。現在の社会 は知識・情報の量が膨大である。しかも、その知識・情報は日に日に新しくなっていく。

新しい考え方や方法、システムが生まれ、かつて正しいとされていた知識・情報がすぐ古 くなっていく。こうなると人々は膨大な情報の前で何を選択したらよいか迷ってしまう。

今はまさに「知識基盤社会」である。このような社会では自らの問題を解決するために、

知識・情報を収集し選択し意志決定を行っていく能力が求められてくる。こうしたニーズ に応えるためにアメリカの図書館では、自らの病気や民事上トラブルに対応する医療・法 律の資料、自分が会社をおこすために必要なビジネスの資料まで豊富に準備されている。

まさしく知識基盤社会に対応した課題解決型図書館となっている。知識基盤社会は、一般 的に「知識が社会・経済の発展を駆動する基本的な要素となる社会を指す」意味で使用さ れている。平成17 1月の中教審答申(「我が国の高等教育の将来像」)では、知識基盤 社会の特質として次のようなことをあげている 。(1)

知識には国境がなく、グローバル化が一層進む

知識は日進月歩であり、競争と技術革新が絶え間なく生まれる

知識の進展は旧来のパラダイム転換を伴うことが多く、幅広い知識と柔軟な思考力 に基づく判断が一層重要となる

性別や年齢を問わず参画することが促進される

この「知識基盤社会」は平成201月の中教審答申(「幼稚園、小学校、中学校、高等 学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善について」)でも使用され、「生きる力をは ぐくむ」ことの論拠の一つともなっている。

このような知識基盤社会における学力観は、国際的にも共有されるものとなっている。

経済協力開発機構(OECD)では、知識基盤社会を担う子どもたちに必要な能力を「キー・

コンピテンシー(鍵となる能力)」として定義している。これは個人の人生の成功と社会 の持続的発展に貢献できる能力観となっている。定義は次のようなカテゴリーで表現され ている 。(2)

相互作用的に道具を用いる

A 言語・記号・文書を相互作用的に用いる B 知識や情報を相互作用的に用いる C 技術を相互作用的に用いる

異質な集団で交流する

自律的に活動する

この能力観は知識・技能の習得だけが目的となっていない。知識・技能はあくまでも道 具として使用されることが目的となっている。「相互作用的」とは、人と人との相互交流、

コミュニケーションの中で知識・技能を使用していくことをさしている。つまり、「相互

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2

作用的に道具を用いる」とは、自ら考えたことを表現し、コミュニケーションの中で、知 識・技能を使用していくということである。このことをが「知識・技能を実生活に活用す る力」であり、知識基盤社会における学力であると考える。

2 課題解決のための思考力・判断力・表現力

現在「活用」の定義をめぐって活発な議論が交わされている。「活用」を学習の転移とし ての「応用」と捉えるか、「表現・コミュニケーション」として捉えるか、の議論である。

中教審答申では「①基礎的・基本的な知識・技能の習得、②知識・技能を活用して課題を 解決するために必要な思考力・判断力・表現力、③学習意欲」を学力の要素と位置づけて いる 。(3)「課題解決のための思考力・判断力・表現力」が「活用」であり、知識基盤社会に おける学力であると考える。

(1)中央教育審議会「我が国の高等教育の将来像(答申)」平成171月、p.1

(2) ドミニク・S・ライチェン、ローラ・H・サルガニク『キー・コンピテンシー国際標 準の学力をめざして』立田慶裕監訳、明石書房、2006 年 p.p.200-218

(3) 中央教育審議会「幼稚園、小学校、高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改 善について(答申)」2008 年 1 月 17 日、p.10

(国立教育政策研究所 下田 好行)

(15)

1 第1章 第2節

OECD のキー・コンピテンシーと「活用」の捉え方

―思考力・判断力・表現力の育成を手がかりとして―

1 OECD のキー・コンピテンシーと「活用」

(1) OECD のキー・コンピテンシーと「活用」

OECD が提起して多くの加盟国が参加した「コンピテンシーの定義と選択(Definition and Selection of Competencies)」のプロジェクトは、1997 年より始められ、個人の人生の成 功と社会の持続的発展に貢献できる価値ある能力(「鍵となる能力(Key Competencies)」)

ついて定義しようとするものである。立田慶裕はこの能力を「『生きていくことができる』

とは、職場や家庭、地域の現実生活と離れた知識・技能ではなく、現実の生活状況に転換 できるような知識・技能 」(1)と説明している。

このプロジェクトでは「鍵となる能力」を次のようなカテゴリーに分けている 。(2)

互作用的に道具を用いる

A 言語・記号・文書を相互作用的に用いる B 知識や情報を相互作用的に用いる C 技術を相互作用的に用いる

異質な集団で交流する

自律的に活動する

ここでは将来社会で生きていくため、主体的に社会に参加していく能力が定義されてい る。「相互に活用する能力」とは、人間が相互交流、言わばコミュニケーションのなかで使 用できるという意味である。このことをもって「活用」と捉えているのである。

(2) PISA 調査のリテラシーと「活用」

PISA 調査は国際的比較が可能となるためにキー・コンピテンシーに基づいて調査の枠組 みが作成されている。読解力と数学的リテラシーはキー・コンピテンシーの「A言語・記 号・文書を相互に活用する能力」、科学的リテラシーと問題解決能力は「B知識や情報を相 互に活用する能力」に相当する。PISA 調査の数学的リテラシー、科学的リテラシー、読解 力の定義は次の通りである 。(3)

「数学が世界で果たす役割を見つけ、理解し、現在及び将来の個人の生活、職業生活、

友人や家族や親族との社会生活、建設的で関心を持った思慮深い市民としての生活にお いて確実な数学的根拠に基づき判断を行い、数学に携わる能力」

「自然の世界および人間の活動を通してその世界に加えられる変化についての理解と 意思決定を助けるために、科学的知識を活用し、科学的な疑問を明らかにし、証拠に基 づく結論を導く能力、思慮深い一市民として、科学的な考えを持ち、科学が関連する諸 問題に、自ら進んで関わること」

「自らの目標を達成し、自らの知識と可能性を発達させ、効果的に社会に参加するた めに、書かれたテキストを理解し、利用し、熟考する能力」

(16)

2

ここからは、PISA 調査が市民性や社会参加の能力を重視していることが伺える。一般に PISA 調査は「知識・技能を実生活に活用する力」を測定していると言われている。「知識・

技能を実生活に活用する力」とは、社会に参加していくために、知識・技能を道具として 使用し、表現し、コミュニケーションしていく能力であると解釈することができる。

2 「活用」をめぐる捉え方 (1)「転移」

「活用」を考えるとき、「転移」という概念が想起される。森敏昭は「学習心理学では、

ある文脈で学習したことを別の文脈で活用することを『学習の転移』」(4)とし、文脈を越え た転移を生じさせるためには、「学習の際に複数の文脈を用いたり、他の文脈での適用例示 すことが有効である。そうすることによって、一般的で抽象的な概念を抽出することが可 能となり、獲得した知識を柔軟に新しい文脈へ転移できるのである」としている。いわゆ る「応用」である。この「転移」の概念をもって「活用」と捉えることもできる。現在、

一般的に「活用」としてイメージされているのはこれである。

(2)「適応」

「キー・コンピテンシー」の「活用」は「適応」という概念が根底にある。「適応」とは

「人生の異なる領域のなかでコンピテンシーが適用されるようなケースにおいて、適用と は、積極的にある社会的分野において発達した知識、技能、戦略を用いること、新しい分 野を分析すること、そして新たな状況の需要に応じて、もとの知識、技能、戦略を翻訳し 適応させることを含んでいる 」(5)とある。この「適応」という概念から、主体的に社会に参 加するために、表現し、コミュニケーションしていくという「活用」の考え方が生まれて くる。

この「適応」はピアジェの理論に近いと説明されている 。(6)ピアジェの理論とは「同化と 調節」である。今仮のことを PISA 調査の問題で説明してみよう。PISA 調査の作問は、「内 容」「文脈」「思考プロセス」で構成されている。「思考プロセス」とは能力のレベルのこと である。読解力では「情報の取り出し」「テキストの解釈」「熟考・評価」、数学的リテラシ ーでは「再現」「関連づけ」「熟考」の「思考プロセス」があげられている。このうち、能 力レベルが高い「熟考・評価」「熟考」は、考えたことを表現する記述式問題となっている。

ところで、ピアジェの理論である「同化」は、外界の新しい環境を自己の内部に取り入れ ることであり、これは模倣である。しかし、外界の環境が自己のスキーマに合わない場合、

自己のスキーマ自体を修正する「調節」が行われる。「調節」の結果、スキーマが新しく修 正されて「均衡化」の状態になる。これは学習である。「均衡化」の状態の時は、能力が完 全に自分のものとなっている。知識・技能が完全に自分のものとなっていれば、それを表 現することができないからである。「熟考・評価(読解力)」「熟考(数学的リテラシー)」

は、知識・技能が知識・技能が完全に自分のものとなっていることを意味する。ここに既 に習得した知識・技能を道具として使用し、それを表現することが「活用」であり、「知識・

技能を実生活に活用する力」になってくると考えられる。

3 「活用」としての「思考力・判断力・表現力」の育成 (1)中教審答申における「活用」

今回、中教審答申では、「習得型の教育」「活用型の教育」「探求型の教育」という言葉が 使用されるようになった。このうち「習得」は基礎的・基本的な知識・技能の習得である。

(17)

3

「探求」も総合的な学習の時間をイメージすることができる。よく分からないのが「活用」

である。この「活用」の定義も曖昧である。何をもって「活用」と考えるかも明確でない。

現在この「活用」の定義をめぐって教育界は揺れている。それは「活用」を学習の転移と して捉えるか、表現・コミュニケーションと捉えるかの問題である。中教審答申では「活 用」「探求」について次のように述べている 。(6)

「教科では、基礎的・基本的な知識・技能を習得しつつ、観察・実験をし、その結果 をもとにレポートを作成する。文章や資料を読んだ上で、知識や経験に照らして自分の 考えをまとめて論述するといったそれぞれの教科の知識・技能を活用する学習活動を行 い、それを総合的な学習の時間における教科等を横断した課題解決的な学習や探求活動 へと発展させることが意図された。これらの活動は相互に関連し合っており、截然と分 類されるものではないが、知識・技能を活用する学習活動やこれらの成果を踏まえた探 求活動を通して、思考力・判断力・表現力等がはぐくまれる。」

この記述からは「活用」と「探求」のニュアンスの違いが分かる。教科では「習得」を 行い、総合的な学習の時間では「探求」を行う。「活用」は教科で培った知識・技能を活用 して、レポート作成、論述などの学習を行うこととされている。

(2) 活用としての「思考力・判断力・表現力」

中教審答申が言う「思考力・判断力・表現力」とはどのようなものだろうか。中教審答 申には、具体的な「活用」の学習として、次のような説明がある 。(7)

「現在の各教科の内容、PISA 調査の読解力や数学的リテラシー、科学的リテラシーの 評価の枠組みなどを参考にしつつ、言語に関する専門家などの知見も得て検討した結果、

知識・技能の活用など思考力・判断力・判断力・表現力等をはぐくむためには、例えば 以下のような学習活動が重要であると考えた。

① 体験から感じ取ったことを表現する

事実を正確に理解し伝達する

概念・法則・意図などを解釈し、説明したり活用したりする

情報を分析・評価し、論述する

課題について、構想を立て実践し、評価・改善する

互いの考えを伝え合い、自らの考えや集団の考えを発展させる」

ここからは、PISA 調査のリテラシーと思考力・判断力・表現力を育成する学習とが重な って見える。また、思考力・判断力・表現力を育成する学習活動は、考えたり感じたりす ることを表現する活動であることが分かる。

(3) 活用としての「言語活動の充実」

思考力・判断力・表現力の育成は、中教審答申の「言語活動の充実」につながっていく。

「言語活動の充実」は、「子どもたちの思考力・判断力・表現力等をはぐくむためには、レ ポートの作成や論述といった知識・技能を活用する学習活動を各教科で行い、言語の能力 を高める必要がある 」(8)というものである。「言語活動の充実」は学習指導要領改訂におい て各教科等を貫く重要な改善の視点とされている。各教科ではどのような学習活動が考え られるか、次の説明が参考になる 。(9)

「各教科においては、このような国語科で培った能力を基本に、知的活動の基盤とい う言語の役割という観点からは、例えば、

・ 観察や実験や社会見学のレポートにおいて、視点を明確にして、観察したり見学し

(18)

4

たりした事象の差異点や共通点をとらえて記録・報告する(理科・社会等)

・ 比較や分類、関連づけといった考えるための技法、帰納的な考え方や演繹的な考え 方などを活用して説明する(算数・数学、理科等)

・ 仮説を立てて観察・実験を行い、その結果を評価し、まとめて表現する(理科等)

など、それぞれの教科等の知識・技能を活用する学習活動を充実することが重要であ る。

・ 体験活動を振り返り、そこから学んだことを記述する(生活、特別活動等)

・ 体験したことや調べたことをまとめ、発表し合う(家庭、技術・家庭、特別活動、

総合的な学習の時間等)

・ 討論・討議などにより意見の異なる人を説得したり、協同的に議論して集団として の意見をまとめたりする(道徳、特別活動等などを重視する必要がある。)」

ここからは、「言語活動の充実」を行う学習は、考えたことを表現する学習であり、思考 力・判断力・表現力の育成を具体化する学習であることが分かる。

(4) コミュニケーションとしての「表現」の意味

思考力・判断力・表現力の育成は、各教科・領域では「言語活動の充実」として具体化 される。「言語活動の充実」とは、考えたことを表現する学習活動である。ここで問題とな るのが「表現」の意味である。表現は人間の内なるものを外に向かって表現する。表出さ れた表現は、第三者が受け止め、第三者の内面を通して評価された内容がまた表現者に返 ってくる。一般に日常現実社会における表現活動は、このサイクルを繰り返す。第三者か らのフィードバックがないと「表現」は完結しない。したがって、考えたことを表現する 学習の「表現」とは、他との相互交流、コミュニケーションであると捉えることができる。

OECD の「キー・コンピテンシー」でも「相互作用的に道具を用いる」と定義されている。

このことをもって「活用」と捉えるのである。

(1) 立田慶裕「教科を越えた人生の『鍵となる能力』の学習」『教育展望』2005 年 6 月、

p.30

(2)ドミニク・S・ライチェン、ローラ・H・サルガニク『キー・コンピテンシー国際標準 の学力をめざして』立田慶裕監訳、明石書房、2006 年 p.p.200-218

(3)国立教育政策研究所『生きるための知識と技能3 OECD 生徒の学習到達度調査 (PISA)2006 年度調査国際結果報告書』ぎょうせい、2007 年、p.14

(4)森敏昭「活用力のメカニズム-認知・学習理論から-」安彦忠彦編『「活用力」を育て る授業の考え方と実践』図書文化、2008 年、pp.17-22、に詳しい。

(5) ドミニク・S・ライチェン、ローラ・H・サルガニク『キー・コンピテンシー国際標 準の学力をめざして』立田慶裕監訳、明石書房、2006 年、p.70

(6) 中央教育審議会「幼稚園、小学校、高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改 善について(答申)」2008 年 1 月 17 日、p.18

(7) (6)の文献、p.25 (8) (6)の文献、p.52 (9) (1)の文献、p.p.53-54

(国立教育政策研究所 下田 好行)

(19)

第2章

算数・数学における

キー・コンピテンシーに基づく学習指導のあり方

(20)

1 第2章 第1節

「キー・コンピテンシー」に基づく学習指導の枠組み

-算数・数学における「言語活動の充実」と思考力・判断力・表現力の育成-

はじめに

「キー・コンピテンシー」に基づく学習指導の枠組みの開発を追究する。このことを算 数・数学における思考力・判断力・表現力の育成を中心として行っていく。算数の学習内 容を道具として使用し表現しコミュニケーションしていくことを「活用」と捉え、算数・

数学における「言語活動の充実」を具体化する学習指導の枠組みを作成することにする。

知識・技能を道具として使用し表現しコミュニケーションしていく、という「活用」を 考えるとき、「キー・コンピテンシー」の「適応」の考え方とそれをPISA調査で具体化し た「文脈」「関係する能力」を考慮に入れた学習指導の枠組みを作る必要がある。PISA 学的リテラシーの「関係する能力」は「再現」「関連づけ」「熟考」の認知レベルに分けら れている。「読解を中心とした学習」では「再現」と「関連づけ」を、「思考力・判断力・

表現力を育成する学習」では「熟考」を育成する学習指導の枠組みを作成することにする。

1 関連する能力観・学力観

算数における「言語活動の充実」と思考力・判断力・表現力を育成する授業の枠組みを 作るにあたって、授業のねらいを明確にしておく必要がある。そこで、授業のねらいを作 るうえでの参考となる視点を設定した。これを「関連する能力観・学力観」とした。関連 する能力観・学力観として、OECD の「キー・コンピテンシー」との関連、「全国学力・学 習状況調査」の「活用問題作成の枠組み」との関連、中教審答申の「思考力・判断力・表 現力」と「言語活動の充実」との関連、中教審答申の算数の「改善の基本方針」との関連、

「研究独自の能力観・学力観」との関連、を考えた。ここで設定した視点を参考にしなが ら、算数における思考力・判断力・表現力を育成する授業のねらいを作成することにした。

OECD の「キー・コンピテンシー」との関連では、「相互作用的に道具を用いる」の「A 言語、記号、文書を相互作用的に用いる」のコンピテンシーを設定した。

「全国学力・学習状況調査」の「活用問題作成の枠組み」との関連では、B問題が「活 用力」を問う問題であることから、B問題の問題作成の枠組みを参考にした。小学校算数 の場合は、次のような視点を設定した 。(1)

物事を数・量・図形などに着目して観察し的確にとらえること

与えられた情報を分類整理したり必要なものを適切に選択したりすること

筋道を立てて考えたり振り返って考えたりすること

事象を数学的に解釈したり自分の考えを数学的に表現したりすること」とした また、中学校数学の場合は、次のような視点を設定した 。(2)

α1:日常的な事象を数学化すること α2:情報を活用すること

α3:数学的に解釈することや表現すること β1:課題解決のための構想を立てること

(21)

2 β2:結果を評価し改善すること

γ1:他の事象との関係をとらえること γ2:複数の事象を統合すること γ3:多面的にものを見ること

中教審答申の「思考力・判断力・表現力」と「言語活動の充実」との関連では、次のよ うな視点を設定した 。(3)

・ 概念・法則・意図などを解釈し、説明したり活用したりする

・ 互いの考えを伝え合い、自らの考えや集団の考えを発展させる

・ 比較や分類、関連づけといった考えるための技法、演繹的な考え方などを活用して 説明する。

中教審答申の算数・数学の教育内容の「改善の基本方針」も参考にした。「改善の基本 方針」との関連には、次のような記述がある 。(4)

「数学的な思考力・表現力は、合理的、論理的に考えを進めるとともに、互いの知的 なコミュニケーションを図るために重要な役割を果たすものである。このため、数学的 な思考力・表現力を育成するための指導内容や活動を具体的に示すようにする。特に、

根拠を明らかにし筋道を立てて体系的に考えることや、言葉や数、式、図、表、グラフ などの相互の関連を理解し、それらを適切に用いて問題を解決したり、自分の考えを分 かりやすく説明したり、互いに自分の考えを表現し伝えあったりすることなどの指導を 充実する」

ここから、次のような視点を設定した。

根拠を明らかにし筋道を立てて体系的に考える

言葉や数・式・図・表・グラフなどを用いて問題を解決したり、自分の考えを分か りやすく説明したり、互いに自分の考えを表現し伝えあったりすること

また、この「改善の基本方針」の記述からは、数学的な思考力・表現力は「知的なコミ ュニケーション」であることも記されている。

この他に、「研究独自の能力観・学力観」として称して、次のような視点を設定した。

算数・数学の学習内容を道具として使用し、表現しコミュニケーションを行うこと

算数・数学の考え方が、日常現実社会で活用されること、人間とのつながりがある ことを理解すること

言語では明確に表現できない直感などの「暗黙知」を使用すること

は、「キー・コンピテンシー」や PISA 調査が主体性や市民性、社会参加をめざして いることから設定した視点である。先に述べた中教審答申の算数・数学の「改善の基本 方針」にも、数学的な思考力・表現力は「知的なコミュニケーション」であることが記述 されている。さらに、中学校学習指導要領解説数学編では、この数学的な「表現」に関し て次のような記述がある 。(5)

「表現することにより互いに自分の思いや考えを伝え合うことが可能となり、それら を共有したり質的に高めたりすることができる。表現することは知的なコミュニケーシ ョンを支え、また、知的なコミュニケーションを通して表現の質が高められ、相互にか かわりあいながら学習を充実させることにつながることに留意する必要がある。」

ここからは表現は「コミュニケーション」であることが分かる。このように、算数・数 学における思考力・判断力・表現力は、児童生徒が考えたことを表現するとともに、他の 児童生徒や教師との相互交流、コミュニケーションを行っていくことであることが分かる。

つまり、知識・技能を道具として使用し表現しコミュニケーションしていくことをもって

(22)

3

「活用」と捉えるのである。算数・数学における「活用」としての思考力・判断力・表現 力を育成していくためには、こうした活動を学習指導の場面に組み込んでいく必要がある。

②は児童生徒の学習意欲の喚起という視点から設定したものである。2003 年の PISA 調 査では、日本の生徒の数学の学習に対する学習意欲の低さが指摘された。「現在の学習と自 らの将来の可能性」という調査項目では、PISA 調査参加国の中で最下位であった 。(6)日本 の生徒は現在の学習の意義を将来の展望の中で捉えていない。中教審答申の算数・数学の

「改善の基本方針」にも次のようにある 。(7)

「子どもたちが算数・数学を学ぶ意欲を高めたり、学ぶことの意義や有用性を実感し たりできるようにすることが重要である。そのために、学習して身に付けたものを日常 生活や他教科等の学習、より進んだ算数・数学への学習へと活用していくことを重視す る。」

学習内容が日常現実社会で活用され、人間とのつながりがあることを理解できれば、児 童生徒は今行っている学習の意味を実感することができる。このことは児童生徒の学習意 欲を喚起していくことにつながっていくと考える。

③の暗黙知は、図形の証明問題の補助線の書き入れることなど、論理的思考を越えた能 力を使用する場合を想定して設定した。「暗黙知 」(8)とは、マイケル・ポラニーの概念で、

言語で明確に表現することが困難な直観知、身体知、体得知、技能知などを言う。

2 読解力の育成を中心とした学習

思考力・判断力・表現力は「言語活動の充実」によって具体化されることから、算数・

数学における「言語活動の充実」を図った学習指導を構想した。その一つが「読解力を中 心とした学習」である。小学生は数字や式を操作して答えを導き出すことはできる。しか し、これが文章題になると分からなくなってしまう。文章というテキストの中で、今解決 を求められている課題とそれを解決するために必要な条件を選び出し、算数・数学の舞台 に載せることができない。式や数字の操作以前にテキストの構造を読みとることができな いのである。ここから算数・数学における読解力の指導の必要性が浮かび上がってくる。

この読解力の指導をまず初めに行い、それから算数・数学の思考力を育成する学習へと入 っていくことにした。

(1)日常現実社会の文脈に即した文章題

読解力の授業を行うためには、文章題を作る必要がある。この文章題は PISA 調査数学 的リテラシーの問題、全国学力・学習状況調査のB問題の出題形式にそって作成した。PISA 数学的リテラシーの問題や全国学力・学習状況調査のB問題は、比較的長文の連続型テキ ストで構成されており、そのテキストの読解から入る形式になっている。また、PISA 調査 では知識・技能を実生活に活用する力を測定することから、日常現実社会の「状況・文脈」

に即したテキストを採用している。この研究では、「活用」とは日常現実社会の「状況・文 脈」で使用できるという意味であるということから、文章題のテキストを日常現実社会の 文脈に入るように工夫した。具体的には、児童生徒が日常現実社会しばしば出会う場面、

現実的で実際に日常現実社会の中でありえる事柄を文章題の内容とした。そうしないとそ の学習を行う必然性が児童生徒に伝わらないからである。これを「内的必然性」と呼ぶこ とにした。現実的にあり得ない場面設定だと児童生徒の学習意欲も喚起しないし、日常現 実社会で算数を道具として使用し表現しコミュニケーションしていく可能性もなくなるか らである。

より現実的で実際に日常現実社会の中にある場面設定をするために、文章題のテキスト

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