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米国における会計規制論の再検討

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九州大学学術情報リポジトリ

Kyushu University Institutional Repository

米国における会計規制論の再検討

大石, 桂一

Graduate School of Economics, Kyushu University

https://doi.org/10.11501/3150686

出版情報:Kyushu University, 1998, 博士(経済学), 課程博士 バージョン:

権利関係:

(2)

第4章 経営者の会計的選択行動

1.はじめに

第1章で述べたように、 会計的選択は、 まず会計規制機関による会計基準の社

会的選

択、

の下での個別企業

方法

私的選択と

て重層的に

行われている。 この会計的選択の「二重構造Jにおいて、 企業経営者には会計方 法選択権が与えられているが、 その際、 経営者はあくまでも規制の枠内で自らの 会計方法を選択するにすぎない。

しかしながら、 経営者の会計的選択行動を規定する会計ルールも所与ではないG それゆえ、 経営者を含む被規制者は何らかの動機をもって、 自らの行動が規定さ れることになる会計規制に影響を及ぼそうとする。 他方、 規制者も何らかの個人 的(あるいは集合的)な動機をもって規制を行おうとする「主体jであると考え られるので、 被規制者からの働きかけに影響されるであろう。 このように、 会計 基準設定過程における規制者と被規制者は「連動的・相互規定的関係J1)にある と言えるのである。

この会計規制過程における両者の相互作用は、 会計研究にとって重要な意味を

持っている。 会計ルールは様々な主体の利害の均衡の上に成り立っているのだと

考えたとき、 会計規制はその「背後にある利益集団の勢力関係に変化が生ずれば、

それに応じて均衡が崩れ、 新たな均衡点に向かうという絶えざる自己更新の過程 にある」へそれゆえ、 会計規制過程を動態的なものと捉えた上で、 会計規制過 程における各参加者の動機、 動機の発現に影響を及ぼす要因、 およびその動機が 規制の結果に及ぼす影響を明らかにする必要があるのである。 その意味で、 経営 者が持っている動機の発現形態の1つである会計的選択行動に関する研究を検討 することは、 会計規制過程を研究するためにも有益であろう。 なぜならば、 各主 体の反応行動の1つであるロビイングは、 「特定の会計方法に対する選好を顕示

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させるのでで、、 ロビイングのインセンテイブブ、は会計方針選択の基礎にあるインセン テイブブ、と同じでで、ある可能↑性生が高い」

の背後にある動機を明らかにすると考えられるからでで、あるO それはまた、 会計規 制過程の実証研究を行う上での仮説設定の基礎となっているという意味でも重要 である口

そこで本章では、 経営者の会計的選択 行動に関する実証研究の展開を概観し、

会計規制研究に対するそのインプリケーションを検討する。

2.会計研究の指向

第1章で指摘したように、 現在の米国では規制の枠内での経営者による会計的 選択一ーなぜある一連の会計手続が用いられるのか、 そしてその動機となってい るのは何か一ーを説明しようとするアプローチが1つの潮流を形成するに至って いる口 そこでまず、 このようなアプローチの変化をKelly-New白n[1980Jに基づ いて考察してみよう。 彼女は、 会計政策問題を解決するためのアプローチとして、

次の3つを挙げている九①経済的リアリティ指向(economic-reali匂orie nta- tion)、 ②利用者指向(user orientation) 、 および③作成者指向(supplier orien­

tation)。

経済的リアリティ指向の下では、 財務報告問題の解決は規範論的な考えに支配 されてきた。 利益や価値といった概念は経済学的なコンテクストで定義され、 会 計測定技術はこれらの概念にどれだけ近づくことができるかによって評価される。

そして、 会計測定値と企業の経済的実体との間の対応が重視され、 「真実の」利 益や企業の財政状態と営業成績の「公正な表示Jが問題となる。 ここでは、 「企 業の経済的リアリティを反映する会計システムは現在の利用者および将来に利用 者となる可能性のある者すべてに十分な情報を提供するであろうJ5)ということ が、 暗黙のうちに仮定されている。

利用者指向では、 「経済的リアリティの報告Jという考えは後退し、 会計政策 - 85 -

(3)

の形成にあたって情報の受け手の役割に重点が置かれる。 これはアメリ力会計学 会(American Accounting Associa tion : AAA) の『会計理論及び理論承認、� (AAA [1977]) において「意思決定有用性アプローチ」と呼ばれるもので、(a)意思決 定者の行動か、あるいは(b)意思決定モデルのどちらかが強調される口(a)の意思 決定者の行動を考察の中心に置く場 合、会計ディスクロージャーを利用者個人の 行動から研究する個々の利用者の観点と、会計ディスクロージャーに対する株式

市場の反応に焦点を当てた集合的市場レベノレの観点、 というこつの観点がある。

また、(b)の意思決定モデルからのアプローチは、意思決定者の情報ニーズを重 視し、 目的適合性、信頼性、適時性、および比較可能性といった財務情報が有用 であるための規範的規準が追求される。

作成者指向は、財務報告要件は会計情報提供者としての企業経営者にし1かなる インパクトを与えるのか、ということに焦点を当てる。 Kelly-N ewtonによれば、

この指向の理論的基礎はエージェンシ一理論にあるという。 エージェンシ一理論 に基づけば、経営者は自発的に会計情報を提供する動機を有しており、それゆえ 会計基準に関心を持つことになる。

Kelly-Newtonによれば、経済的リアリティ指向および利用者指向はどちらも、

「規範的な事柄、すなわち『よし寸財務報告はどう『あるべき』か、そして財務 諸表利用者の情報『ニーズ』をし1かに満たすかJ6)を追求してきた。 しかし、

AAA [1977]において指摘されているように、 現時点において承認された会計理

論のパラダイムは存在しておらず、 また、異なるパラダイムは異なる政策を支持 することになる。 それゆえ、パラダイム承認の欠如は、政策形成の指針を提供す るという会計理論の役割を限られたものにしており、 この点に規範的理論の弱点 がある7}D

このような規範理論の有効性の限界が認識された結果、会計環境(accounting

environment) を理解し、そこから得られた発見を政策形成に役立てようとする 試みが行われるようになった。 それには、会計政策が決定される環境全体を説明 するための記述的な研究が必要になる。 Kelly-Newtonによれば、会計政策決定

こ関わる人々の行動を説明するには、財務諸表利用者に近視眼的に焦点を当てる -86 -

のではなく財務諸表の作成者である経営者にも注目する必要があり、会計基準設 定の「現実的なフレームワークを構築するためには…作成者指向が有効J8)なの だという。

1970年代後半からの記述的 ・ 実証的な研究の急増は、このような研究上の指

向の変化を背景としていると言うことができるだろう。 以下で検討する経営者の 会計的選択行動に関する実証研究も、 このような指向の変化を反映して展開され てきた。

3.会計方針選択行動

(1)効率的資本市場と会計方針選択

資本市場が経済学でいう完全市場であれば、市場で形成される資本の価格に基 づいて、最適(効率的)な資源配分が自動的に達成できると考えられので、市場 は効率的である。 しかし、株式価格を決定するのは予想であるので、予想形成に あたっての「情報の効率性Jが確保されていれば、つまり投資家が入手できる投 資に有用な情報はすべて株価に即座に反映されるならば、事実上そのような資本 市場は効率的であるということができる九 このような意味において、効率的 な資本市場とは「利用可能な情報が常に『十分に反映される』ような市場」川

ということになる。

伝統的な会計理論は、会計報告書が企業活動に関する唯一の情報源であり、会 計方法の変更による報告利益の変動は投資家の意思決定をミスリードし、株価を 変動させる、 ということを広く仮定していた。 これは「機械的反応仮説」または

「ナイーブな投資家仮説Jと呼ばれる。 しかしながら、会計方法の変更を含むす べての情報に株式市場は不偏的に反応するという効率的市場仮説は、そのような 伝統的な会計理論が依拠してきた仮説と矛盾するものである。 それゆえ、 2つの 対立する仮説を「科学的方法に基づいて実証的に差別化しようとする試みが行わ

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れてきたのは自然の成り行きであったJ

効率的市場仮説に関して行われてきた研究を包括的に分析したFama[1970]に よれば、 j)弱度の効率性:株価は過去の価格と取引高に関する情報を反映する、

(乙半強度の効率性:株価は公表されたすべての情報を即座にかつ十分に反映する、

および③強度の効率性:株価はし1かなる情報をも反映する、 という3つのカテゴ リーに分類できるというo 3つのカテゴリーの境界は明確ではないが、 効率的市 場仮説に関する実証研究のほとんどは、 ②の半強度の効率性に関して行われてお り、 その半強度の効率的市場をさらに精微に細分化しようとするものであったと 言えよう凶。

初期の研究は「利益の予測誤差Jと「異常な投資収益Jとの聞に有意な相関が あるかを検討するものであったへ これはまず、 投資家が事前に期待した利益 数値と実際に公表された利益数値の聞の差異を求める。 次に、 市場が期待してい

る(つまり均衡価格からもたらされる)投資収益率と実際の投資収益率との差異 を求めるD そこで両者の間に有意な相関が見られるならば、 利益情報は情報内容 (information content)すなわち株価を変動させる新しい情報価値を持つことに なる。 この「異常期待収益アプローチjは正常期待収益との比較において実証を 行うのであるが、 その基礎として用いられたのがポートフォリオ理論と資本資産 評価モデノレ(Capital Asset Pricing Model : CAPM)であった。

1960年代後半から1970年代初めにかけて、 こういった枠組に基づいて多く

の研究者たちが実証を行ってきた口 Beaver[1968]は、 利益情報は情報内容を持 っているだけでなく、 株価は利益公表に即座に対応しているということを明らか

にした。 また、 Ball & Brown [1968]の実証結果は、 株価は公表前に利益情報を

織り込んでいるということを示している。 その他にも同様の実証結果が得られて し、る。

これらの研究は、 利益数値に対して資本市場が即座に反応しているということ を示すものであったが、 効率的市場仮説と従来の機械的反応仮説とを差別化する

ものではなかった。 利益数値の増大や減少に株価がどのような反応を示すのか、

たして本当に株価は上がるのか、 ということは検証されなかったのである。

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その後、 機械的反応仮説に対立するものとして「無効果仮説Jが提示された。

この仮説は「資本資産評価モデルを前提とし、 取引費用と契約費用と情報費用お よび税金がゼロであると仮定すれば、 効率的市場仮説に従い、 自発的な会計手続 変更と株価変動は関連していないと予測されるJ凶というものである。 つまり、

効率的な市場では会計方法の変更が開示されてさえいれば、 それを株価に織り込 むことができるため、 「企業の将来価値は期待キャッシュ ・ フローと期待収益卒

によって決まるとするCAPMの見方からすると、 それらに中立的な会計変更は

企業価値に影響を与えないj同と考えられるのである。

減価償却方法の変更と株価との関係を研究したKaplan& Roll [1972]は、 会計 手続の変更による利益操作は株価に影響を与えない、 という結論を得た。 税金が キャッシュ ・ フローへ及ぼす影響も考慮、したSunder[1973]の棚卸資産の評価方 法山の変更に関する実証研究は、 市場は先入先出法(FIFO)から後入先出法 (LIFO)への変更による直接キャッシュ ・ フロー効果(つまり節税によって企

業のキャッシュ ・ フローは増加するということ)を認識していると結論づけた。

これら初期の実証研究においては、 概して無効果仮説を支持する結論が支配的

であったと言えよう。 LIFOに変更しなかった場合の利益の変動を回帰モデルに 組み込むことによって、 初期の実証研究をさらに発展させたBiddle& Lindahl [1982]の実証は、 かなりのところサンプル抽出バイアスの制御に成功しており、

研究方法も洗練されたものとなっている。 このBiddle

& LindaWの研究は、 決定 的とはいえないまでも、 無効果仮説と一致する相対的に有効な証拠を提示してい るのである1九

異なる仮説を差別化しようとする試みが進められるにつれ、 重大な疑問、 つま り「費用をかけて会計手続を変更しても株価に何の有利な影響もないのならば なぜ業界全体で会計手続を変更するのだろうかJ 18)という疑問が提示されるよ

つになった。 キャッシュ ・ フローに影響を与えない会計手続の変更は企業価値を 変えることはなく、 資本市場が効率的である限りそのような変更に株価は反応し ない、 という無効果仮説に従えば、 会計手続の変更による利益操作は何の意味も かいことになる。 それでも多くの変更が行われている。 例えば、 Kaplan& Rol1

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[1972]が実証に用いたデータによれば、 APBが投資税額控除の会計処理方法と して一括法を認めた1964年には、 サンプル企業314社のうちの257社が繰延法 から一括法に変更しているのである。 このような事実はいかに説明されるのであ ろうカ。

初期の実証研究は「投資家の市場期待を推定するモデルの適合性と…株式市場 の効率性とを、 いわば同時に検証していた」ぺ前述したように、 無効果仮説 の検証は、 CAPMを前提にして、 情報コストや契約コストがゼロであると仮定 して行われてきたのであるが、 投資家の市場期待の推定に用いられたモデルが前 提にしているこの仮定自体が聞い直され始めた。 その結果、 情報コストや契約コ ストを実証に組み込んで、、 会計手続変更の動機を説明しようとする研究が現れて きたのである2九

前述したように、 1970年代中頃までの実証研究では、 直接キャッシュ・ フロ 一効果をもたない会計手続の変更は、 投資家の行動に影響を与えないと仮定され ていた。 しかしその後、 このような仮定は問い直され始め、 情報コストと契約コ ストがゼロでないと考えられるようになった。 つまり、 会社の契約過程と、 政府 が会社の活動を規制する政治過程との両方において、 会計手続は両過程での契約 コストと情報コストとに影響を与えるため、 会社のキャッシュ・ フローに影響を 及ぼす21)と考えられるようになったのである。 会計数値を用いた契約とそれに かかるコストの存在を明示的に認識し、 それらのコストと会計方法との関係を考 察しようとする「作成者指向Jに基づく実証的会計理論の研究は、 会計研究の新 たな道を切り開いた。

(2)エージェンシー問題と会計研究

契約過程における会計手続とキャッシュ・フローとの関係を明らかにするため に、 実証的会計学者たちはエージェンシー理論を適用した。 それは、 様々な利害 関係者は個人の富の最大化を追求して合理的に行動する、 という仮定のもとに、

企業を経営者、 株主、 および債権者の間の利害の対立を軽減する契約の連鎖

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(nexus)とみる。 そして、 経営者は自己の富を最大化するように会計方法を選 択すると考えられるのである。

エージェンシ一関係は「一人または複数の個人(プリンシパル)が意思決定の 権限を他の個人(エージェント)に委譲して、 自己の利益のために何らかのサー

ビスを行わせることを約定した契約を結ぶときに生じる関係であるJ 22)と定義 される。 企業においては、 経営者は、 プリンシパルである資本提供者(株主お び債権者)に対するエージェントとして行動する。 しかし、 プリンシパノレとエー ジェントの聞には情報の非対称性(iníormation asymme町)が存在するために、

逆選抜(adverse selection) 23)とモラル・ ハザード(moral hazard) 24)という2つ の重大な問題が引き起こされる。

プリンシパルは、 良い意思決定(good decision)を行うために一一すなわち逆 選抜問題を避けるために一一内部情報の外部化(ディスクロージャー)を要求す る。 その際に重要な役割を果たしているのが会計情報である。 つまり「財務会計 および財務報告は、 この逆選抜の問題をコントロールするために、 内部情報を信 頼できる外部情報に変換するメカニズムである」却と考えることができるので ある。 また、 モラル・ハザード問題がコントロールされないならば、 エージェン

卜が必ずしもプリンシパノレにとって最適な意思決定を行うとは限らない。 自己の 富の最大化を追求すると仮定される経営者は、 プリンシパルに対して情報優位に

あり、 しかも意思決定権限を保有しているので、 経営者は情報格差を利用して、

プリンシパノレに知られることなく、 プリンシパルの犠牲のもとに自己の利益を最 大化する行動をとることができるのである。 このような経営者の行動は機会主義 的行動(opportunistic behavior)と呼ばれる。 機会主義的行動がとられる可能性 があることから各主体の間で利害の対立が生じる。 主として次の2つのコンフリ クトが考えられる問。

①株主 vs 経営者のコンフリクト:この株主と経営者の聞のコンフリクトカ らもたらされる価値犠牲は株式のエージェンシー・コストと呼ばれる0 2債権者vs株主・経営者のコンフリクト:債権者と株主 ・経営者との聞の

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コンフリクトからもたらされる価値犠牲は負債のエージェンシー・コスト と呼ばれる。

このようなコンフリクトから生じるコストを総称してエージェンシー・コスト という。 機会主義的行動やシャーキング(shir恒ng)といったモラル・ハザード の問題から生じるエージェンシー・コストを最小化するために、 様々な契約が結 ばれることになる。

外部株主は合理的期待を形成すると仮定されるので、 経営者を自己の利益にそ って行動させるように合理的なインセンティブ・プランを設けるとともに、 それ を機能させる上で、 経営者の行動や業績を事後的に監視する情報システムを構築 しようとするべ そのための金銭的・非金銭的費用をモニタリング・コストと し1う。

他方、 エージェンシー・ コストは経営者の効用も低下させる。 投資家や債権者 は、 経営者とのコンフリクトを合理的に予測し、 証券の引き受け価格を予め割り 引くと考えられるため、 資本コストは増大し、 業績は悪化する。 これは経営者の 報酬(ボーナスの額およびストック・オプションの価値)を低下せるだけでなく、

経営者の能力の評価、 つまり経営者労働市場における「人的資本価値」も低下さ せることになる拘。 そのため、 経営者は、 自己の行動を規制し、 プリンシパル

の利益を阻害しないことを保証する契約を、 自らすすんで結ぼうとする。 このた

めにかかる種々の費用をボンディング・コストという。

モニタリング・コストとボンディング・コストはエージェンシー関係を維持す るために避けられないが、 それでも逸脱行動を完全になくすことはできない。 そ こから生じる価値犠牲を残余損失(residual loss)という。 したがって、 エージ ェンシー・コストは、 ①モニタリング・コスト、 ②ボンディング・コスト、 およ び③残余損失の合計となり、 「これらを最小化するように組織が編成されるとい うのがエージェンシ一理論の基本仮説である」ぺ

経営者と株主のコンフリクトは、 利益連動型報酬制度(ボーナス・プラン)に って調整されることが多く、 その場合、 会計数値(ふつうは利益額)が経営者

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の報酬を左右する。 このような経営者の報酬と会計数値との依存関係は、 経営者 に一種のインセンティブを与えると同時に、 機会主義的な会計行動をとる動機も 与えている。

このように会計情報は、 投資や与信の意思決定に役立つ一一逆選抜を避ける という役割と、 経営者を動機づける一一モラル・ ハザードを回避する一ーという 役割を果たしていると考えられる。 逆に言えば、 意思決定者はこれら2つの問題 に「同時に」直面するのであり、 それらをコントロールするという役割が会計に 求められるのである。 このように考えたとき、 逆選抜をコントロールするのに必 要な会計情報の特性は目的適合性(relevance)であり、 モラル ・ ハザードをコ ントロールするために求められる特性は信頼性(reliab凶匂)ということになろ

つD

意思決定に影響を与える「事前の情報Jとしては、 投資家や債権者は将来のリ スクとリターンに関する情報を必要としており、 例えば時価情報はその意味で目 的適合性が高いと言える。 しかしながら、 他方、 業績の評価や利益の分配に影響 を与える「事後的な情報」としては、 ある種の「硬度(hardness)J拘が要求さ れ、 歴史的原価はある程度の信頼性を持っている。 例えば、 経営者が市場価格と いう自らの努力水準に直結しない、 あるいはコントロールが及ばない要因によっ て報酬が決定されるのを嫌うのはそのためである。 それゆえ、 逆選抜のコントロ

モラ

ドの

ント

ルというí 2つの異なる会計情報の役割を

いかにして調和させるかが・・・根本問題となるJ 31)のである刻。

(3)経営者報酬と会計手続

前述のように、 会計利益は経営者の報酬と密接に関係している。 それゆえ、 利 己的な経営者を前提とすると、 経営者報酬制度は会計方法の選択を説明する要因 の1っと考えられる。 そこで「他の条件が等しいとすれば、 ボーナス ・ プランの ある会社の経営者は、 報告される利益を将来の期間から当期に移す会計手続を選 択する可能性が相対的に高いJ33)という経営者報酬制度仮説が設定されたc v

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のような仮説が導かれるのは、 ボーナス・プランが当面の間は不変であり、 また 他の事情も等しいと仮定すれば、 報酬を将来から現在へと移すことは、 経営者の 効用の現在価値を高めるからである。

Hagerman & Zmijewski [1979]は、 減価償却、 棚卸資産、 および過去勤務年金 原価の償却に関して、 ボーナス・プランのある企業の経営者は増益的な手続を選 択する傾向が強いという実証結果を得た。 しかしながら、 彼らの実証研究は具体

的な報酬制度の内容を考慮したものではなかった。 それゆえ、 その検定力には疑 問が残されている。 例えば、 米国企業では、 報告利益の上限額( rキャップ」

cap)と下限額( rボギーJ : b ogey)に対応してボーナスの上限額と下限額が

設定されることが多い。 その場合、 上限額を上回ってもさらに増益的な手続を選 択するインセンティブがあるとは考えられないのである。 この要素をコントロー ルした研究が、 後述するHealy[1985]以降に活発に行われている。

(4)負債契約と会計手続

報酬契約によって経営者の行動と株主の行動との不一致が軽減されると、 債権 者と株主・経営者との聞のコンフリクトが強まる。 つまり、 経営者は企業価値 (株式価値プラス負債価値)ではなく株式価値を最大化しようとするようになる のである。 こういった行動の主なものとしては、 資産代替(asset substituti on)、

過小投資、 および過大配当が挙げられる。 資産代替とは、 企業価値は小さくなる が株式価値は高める(したがって負債価値は小さくなる)ような相対的にリスク の大きい投資を行うことである。 逆に、 企業価値は高めるが株式価値は小さくな る(したがって負債価値は大きくなる)ような投資を採択しないこともある。 こ れが過小投資の問題である。 また、 新規投資の圧縮や資産の売却、 あるいは負債 の発行によって配当を増額すると負債のリスクは大きくなる。 このように過大配 当はリスクを債権者に移転することになる。 こうした債権者と株主・経営者との 問のコンフリクトを軽減するために、 会計数値を用いた各種の負債契約制カミ締 結されるのである。

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負債契約にともなう制限条項で維持しなければならない業績指標や財務指標は GAAPに基づいて決定されるのが通例である。 したがって、 これらの指標は会 計手続の選択によって変化する。 契約に違反すると、 債務不履行のコスト、 不履 行になる前に再交渉するコスト、 負債契約を打ち切って債務を償還するコスト、

または契約を現行通り維持するために生産・販売活動や財務・投資活動を縮小す ることから生じるコスト(機会費用)が発生するため、 契約違反に陥りそうなと きに経営者は手続を変更すると考えられるだろう。 以上のことから「他の条件が 等しいとすれば、 会社の負債比率が大きくなるほど、 その会社の経営者は報告す る利益を将来の期間から当期へ移す会計手続を選択する傾向があるJ 35)という 負債比率仮説が導かれる。

負債比率仮説は石油・ガス会計に関して一致する証拠が多く提示されている。

前章で見たように、 FASBは石油・ ガス会社の会計処理方法として成功原価法 (SE法)を義務づけるSFAS第19号を1977年に公表したD これによって、 全 部原価法(FC法)を採用していた会社がSE法に変更すれば、 利益数値や株主 持分数値が低下することになり、 契約コスト(報酬・債務契約)にも影響が及ぶ と考えらる。 この点に関してDeakin [1979]、 Dbaliwal [1980]、 およびLilien &

Pastena [1982]は、 負債比率が大きな企業ほどSE法を選択する傾向が強いとい う実証結果を報告している。 また、 SFAS第四号が契約コストに影響を及ぼす

ならば株価も変動するであろう。 SFAS第19号で規定されたSE法は一部修正

されていたので、 FC法から変更した会社ほど大きくはないが、 以前からSE法 を採用していた会社も報告利益額が減少する。 そこでCo凶nset a1. [1981]は石 油・ ガス会社57社を対象に調査を行い、 債務契約および報酬制度は異常投資収 益率と有意な相関を持っているということを実証している。

石油・ガス会計基準の他にも、 借入金利子の資産計上についてはBowen et al.

[1981]およびZimmer [1986]が、 減価償却方法についてはDhaliwal et al. [1982]

が、 さらに研究開発費についてはDaley& Vigeland [1983]が負債比率仮説と一 致する証拠を提示している。 また、 APB意見書第16号によるプーリング法の 適用制限が株価に及ぼす影響を研究したLeftwicb[1981]によって、 負債比率が

ー95 -

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大きな会社ほど会計基準の変更による株価の下落は大きいということも明らかさ れている。

(5)政治コストと会計手続

企業のキャッシュ ・ フローに影響を及ぼすのは契約コストだけではない。 会計 数値は、 しばしば、 例えば、 課税、 公共料金、 価格統制、 補助金、 企業の分割や 固有化、 および行政指導などのような公共政策の基礎データとして用いられる。

さらには「過劇な利益Jは潜在的競争企業の市場への新規参入、 政治団体や消費 者の反発、 取引業者の値上げ(値下げ)要求、 あるいは労働組合の賃上げ要求な どを招くおそれもあるお)。 こうして、 会計数値の変化は公共政策の変更や市場 圧力の増大をもたらし、 その結果として「企業をめぐる利害関係集団の問で富の 移転(再分配)が生じる可能性がある」ぺ このように強制的に移転される富 (価値犠牲)を政治コスト(political cost)といい、 この政治コストも企業のキ

ャッシュ ・ フローに影響を与えることになる3へそれゆえ、 企業経営者は自己 の富に不利な影響が及ばないように、 様々な手段を用いて対抗するのである。

行政機関によって規制されている公益的な企業や、 政治的圧力にさらされやす い市場支配力の大きな企業ほど、 政治コストは大きくなると考えられる。 例えば、

オイル・ ショック時に巨額の利益を得た石油 ・ ガス会社は、 社会的な批判の矢面 に立たされ、 そのような批判が国家的なエネルギー政策の観点からの主張とも結 びついて、 臨時利得税(windfall profit tax)制度が導入されることになった。 さ らに、 小規模会社よりも大規模会社の方がこのような政治的サンクションを受け

すいので、 両者は会計手続の選択に関して異なる動機を持っていると考えられ る制。 したがって「他の事情が等しければ、 規模の大きい会社の経営者ほど、

当期から将来の期間に報告利益を繰延べる会計手続を選択する傾向があるJ叫 とし1う規模仮説が導かれる。

この規模仮説については、 負債比率仮説と同様に、 Dealån [1979]、 Lilien &

Pastena [1982]、 Dhaliwal et al. [1982]、 およびDaley & Vigeland [1983] など、 多く - 96 -

の研究によって仮説と一致する実証結果が得られている。

4.最適ポートフォリオ戦略と報告利益管理

報酬制度仮説および負債比率仮説に従えば、 経営者は増益的な会計手続を選択

するインセンティブを持っており、 規模仮説に従えば、 経営者は減益的な手続を

選択する可能性が高い。 しかしながら、 政治上の理由で報告利益額を減少させる 会計手続を選択することは、 経営者報酬や債務契約の観点からは最適とはならな い場合がある。 このように政治コストと契約コストとの聞にはトレード・ オフが 存在するので、 会計手続の選択についての諸仮説を検証するには、 単一の会計手 続の選択 ・変更を対象にした研究の検定力は小さい。 それゆえ、 複数の会計手続 の選択を同時に扱った実証研究が必要になるのである。

この点を強く認識したZmijewski& Hagerman [1981]は、 証券価格研究所のデ ータから300社を無作為抽出し、 棚卸資産評価、 減価償却、 投資税額控除、 お よび過去勤務の年金原価に関する償却期間、 の4つの会計手続の組み合わせを同 時に調査して、 報酬制度仮説、 負債比率仮説、 および規模仮説を検証した。 その 実証結果はこれらの仮説とおおむね一致しており、 またその研究方法は現在でも

洗練されたものとして高く評価されている口 それゆえ、 経営者は自らの効用を最

大化するために、 契約コストと政治コストの合計を最小化するような「会計手続 の最適ポートフォリオJ 41)を選択すると解釈されている。

しかしながら、 経営者が「目標利益」を達成する手段は会計方法の選択だけで はない。 それは経営者の怒、意的な判断に基づく様々な調整、 すなわち裁量行動

(discretionary behavior)を通じて行われる。 裁量行動には、 実際の資源配分を

変更することによって会計数値を動かす実体的裁量(realdiscretion)と、 会計 記録の上だけで会計数値を動かす会計的裁量(accountingdiscretion)の2種類 があるぺ この2つの裁量行動を通じて発生項目(accruals)を操作し、 目標利 益を達成することを報告利益管理(earnings management)といい、 利用可能な

- 97 -

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実体的および会計的裁量行動を組み合わせる「裁量行動の最適ポートフォリオ」

という観点から、 近年その研究が活発に行われているぺ以下、 報告利益管理 に関する実証研究を概観してみようへ

(1)経営者報酬制度と報告利益管理

報告利益管理に関する実証研究の鳴矢はHealy[1985]である。 前述したよう

に、 報酬制度でボーナスのキャップとボギーが設定されている場合、 経営者はそ の範囲内で報酬の現在価値が最大となるよう報告利益を決定するインセンティブ があると考えられる。 つまり、 利益が上限額を上回りそうなときは利益額を減ら すような裁量行動が選択され、 下限額を若干下回りそうなときは極力ボーナス支 給の範囲内に収めようとして増益的な裁量行動を選択し、 さらに大幅に下限額を 下回りそうなときは減益的な裁量行動を選択するのである。 というのも、 利益を 大きくしても報酬の増額につながらないのであれば、 経営者は利益を過小に計上 して将来の報酬増に備える( 利益をプールする)と考えられるからである。 この 仮説は「ビッグ・ パス(big ba也) Jとも呼ばれる。

この仮説の検証を試みたHealy[1985]は、 報告純利益を管理する方法として、

会計方法変更の他にも、 前述した裁量的発生項目の操作があると考えた。 ここで 言う発生項目とは、 キャッシュ ・フロー計算書には表されない損益計算書上の費 用 ・収益項目であり、 その額は報告純利益とキャッシュ ・ フローとの差である。

そこでHealyは、 総発生額(totalaccruals : ACC)を次のように推定した。

ACC t = -DEP -t XI D 1 + t.. AR t + t.. INV tームAP t 一{t.. TP t + DEF t} D 2

ただし、

DEP t = t期における減価償却費 XI -t期における特別損益

ムARt =t-1期からt期にかけての売掛金純額の変動額 - 98 -

t.. INV t = t -1期からt期にかけての棚卸資産の変動額 t..A Pt=t-1期からt期にかけての未払債務等の変動額

ムTPt= t -1期からt期にかけての未払税金の変動額

DEF t = t期における繰延税金費用

Dl=報酬制度に用いられる利益が特別損益項目を含んでいれば1、

含んでいなければ0

D 2ニ報酬制度に用いられる利益が所得税項目を含んでいれば1、

含んでいなければ0

Healyは94社の大企業を対象に、 1930年から1980年にかけて経営者報酬制

度にボギーとキャップを設定している企業を選び出した。 同一企業でも年度が異 なれば別のものとして扱うことにし、 その結果447のサンプルが得られた。 次 にこれらのサンプルを、 報告利益がボギーを下回っているものをLOW、 ボギー とキャップの間にあるものをh但D、 キャップを上回っているものをUPPに分類 し、 それぞれの発生総額を総資産で除した数値に関して平均差の検定を行ったこ の結果は表4.1 に示されている口

この結果から明らかなように、 阻Dに分類される企業の経営者は利益増加型 の発生項目操作を行い、 LOWおよびUPPに分類される企業の経営者は利益減 少型の発生項目操作を行っている。 これは前述のビッグ・ パス仮説と整合する。

表4.1 報告利益の分類と発生項目

\

発生項目の符号とその割合 観察数

LOW 0.09 0.91 22

:MID 0.46 0.54 281

UPP 0.10 0.90 144

χ 2 61.3930本(df=2 )

* : 0.5 %水準で有意

(出所: Healy [1985]p. 96より作成)

- 99 -

平均発生額 平均差のt値

-0.0671

4.2926琢

+ 0.0021

8.3434淑 -0.0536

(10)

る結果がおおむね得られていると言えよう。

ここで注意しなければならないのは、 発生総額の中には経営者が自由 しかし、

(2)負債契約と報告利益管理

1980年代に行われた多くの実証研究は、 負債比率の高い企業は財務制限条項 という仮説と整合す

しかし、

の代理変数として負債比率を用いることに疑問が提示されるようになった。 確か

より現実説明 (あるいは?丘角虫してし しかしながら、 1990年代に入ると、 財務制限条項違反

それらのぺアとして財務制限条項に違反していない同 に、 Duke& Hunt [1990]は、 財務制限条項の制限値に対する接近度は負債比率

Sweeneyは、 財務制限条項 そこでSweeney[1994]は、 1980年から1990年の聞に実際に財務制限条項に まった)企業に焦点を当てる必要があると認識されるようになったのである。

に抵触する可能性が高いので増益的な会計政策を選択する、

力を持つ検定を行うには、 実際に制限条項に抵触しそうな の高さと有意に相関しているということを実証している。

業種同規模のサンプル130社を抽出して研究した。

る結果を報告している。

抵触した企業130社と、

に操作することができない非裁量的な部分が含まれている点である。 例えば、 売

したがって、 前

これは、 総発生額に占める裁量的発生額と非裁量的発生額の割

指摘しているように、 利益がボギーを下回ったりキャップを上回る場合には、 予

それゆえ、 非裁量的な売掛金や棚卸資産の増減が起こり、 総発生額の中の非裁量 この両者が総発生額の中に混在し

このような裁量的な発生額と非裁量的な発生額の混在という総発生額アプロー 掛金純額の変動額には、 貸倒引当金の設定やその償却を操作することによっても

チの欠陥を補うためにMcNichols& Wilson [1988]は、 裁量的発生項目と考えら れる1つの変数のみ一一貸倒引当金の設定額と実際の貸倒償却との差額ーを用 期せぬ経済環境の変化や企業の活動水準の変化が起こっている可能性があるぺ

しかしながら、 Kaplanが たらされた部分と、 単に売上の増大に伴って生じた部分がある。

合が不変であれば、 分析上問題とはならないだろう。

的な部分が増大しているかもしれないのである。

者は裁量的、 後者は非裁量的な発生額となり、

ているのである。

合計8年

し彼女は、 制限条項に違反しているにも関わらず増益的な会計方法へ変更しない

そのような企

とし1うことが

このように、 負債比率仮説は r負債 限条項に違反する前年に報告利益を増加させるように裁量的発生項目を操作して

として再構築され、 それと整合的な実証結果が報告されているのであ あるいは違

Jones [1991Jのモデルを援用したDeFond & Jiambalvo [1994Jは、 経営者は財務制 しか

会計方法を変更しなくても利益を操作できる発生項目に焦点を当て、

契約仮説J

の間で増益的な会計方法に変更する傾向が有意に高いことを発見したぺ 違反前 の5年と違反後の3年、

を採用しているか、

その原因を探ろうと試みた結果、

反のコストが小さい(担保の追加や新規借入の制限が行われない) 業はすでに増益的な会計政策( FIFOや定額法)

いるということを示す証拠を提示している。

に違反した企業はぺア企業に比べて、

企業もかなりあることに気付き、

明らかになった。

また、

いてビッグ・ パス仮説の検証を行った州D 彼らは1967年から1986年の間でデ ータが入手可能な289 のサンプルを抽出し、 以下の2つの変数それぞれについ

この10段階分類されたサンプノレに関して裁量的発生額の平均とメジアンを求め

とし、うこと

キャップのケースに関して同様の実証結果を報告し このように、 近年行われている実証研究ではビッグ・ パス仮説と整合す ときにはキャップ(ボ た結果、 ①および②のケースのいずれも、 ROAが異常に高し1か異常に低いとき てサンプルを10段階に分類した。 ①観察期間における当該企業のROAのメジ

また、 Holtbausen et al. [1995Jも後述するJones[1991]モデルを用いて報告利 可能性が高いとすれば、 Healyの実証結果と一致す

益管理戦略を分析した結果、

アンと当該年度のROAとの差異、 および②前年度と当該年度のROAの差異。

には発生額は有意に大きい(すなわち減益的な操作が行われている) これは、 ROAが異常に高い(低し\)

(下回る) が明らかになった。

を上回る るのである。

ているむ ギー)

- 101 - -100 -

(11)

(3)政治コストと報告利益管理

一般的には、 政治コストは企業の規模に比例すると考えられる。前述したよう に、 規模仮説と整合する実証結果が多く得られているということは、 規模と政治 コストの聞には何らかの関係があると解することができょう。 しかしながら、 そ れが直接的な因果関係なのかどうかは疑問である。 また、 これまで政治コストの 代理変数として用いられてきた企業規模(資産、 売上、 利益など )には多くのノ イズが含まれているのも事実である。それゆえ、 Lindahl[1987]が指摘している ように、 政治コストが発生する状況に焦点を当てて研究する必要があるというこ とが次第に認識されるようになってきた。

そのような研究としてJones [1991]を挙げることができる。Jonesは、 国際貿

易委員会(I n民mationalTrade Commission : ITC)がダンピングに対して関税の 引き上げ(ダンピング課税)をを行う際に、 会計情報を用いて決定を下している ことに注目した。そこで、 ITCの調査が行われるとき、 その対象となっている

企業は園内産業保護政策の適用を受けるために減益的な会計政策(発生項目の操 作)を採用するという仮説を立て、 裁量的発生項目を用いた利益管理が行われて いるかどうかを検証している。

彼女はまず、 1980年から1985年にかけて ITCが輸入制限に関する調査を行

った6つの事例(産業 )を選択し、 その対象となった23社をサンプルとして抽 出した。 そして、 調査が行われる年以前の期間叫について以下の回帰式を設定

したぺ

TA j t = Q, J + ß I t 6. REV j t + ß 2 j PPE J t + é J t

ただし、

TA J t : t期における企業jの総発生額

6. REV J t :_ t 1期からt期にかけての企業jの収益の増減

- 102 -

PPE j t 二t期における企業jの減価償却累計額控除前の償却性固定資産総額

é J t 残差項

ここで、 ムREV j tとPPEj tは非裁量的な発生額を表しており、 残差項é J t は6. REV J tおよびPPEj t以外のTAjに影響を及ぼすすべての要因を反映して いることに注意しよう。次に、 ここで推定された係数を用いて、 年度pにおけ る企業jの裁量的発生額(U i p)を次のように推定した。

U j p = TA j p一[αJ 十 日1 P 6. REV j p + ß 2 j PPE j p]

この U J PをITCの調査が終了した年とその前後1年に関して算定し、 Z統計 量によって検定を行った結果、 調査終了年には有意な負の値になったのに対し、

その前後1年についてはいずれも有意な値とはならなかった。 これは前述の政治 コストに関する仮説と整合している。

Jonesの研究は実証的に意義深いものであるが、 それ以上に重要なのはその

モデルのインプリケーションである。 つまり、 総発生項目における経済状況の変 化や企業活動の水準の変化による非裁量的な部分を切り分けることにある程度成 功しているのである。 このJonesモデノレはその後の実証研究において頻繁に応

用されており叫またいくつかの点で、修正が加えられている5九政治コスト仮

説は、 司法省およびITCによる独占禁止法違反の調査を受けている企業につい てJonesモデノレを適用したCahan [1992]によっても検証されている。

5.おわりに

本章では、 経営者の会計的選択行動に関する実証研究の展開を見てきた。 そこ では、 個人的な効用を最大化する合理的な主体として経営者を捉えた上で、 ①経 営者報酬、 ②負債契約、 および③政治コスト、 の3つが経営者による会計的選択

- 103 -

(12)

に影響を及ぼす主要な要 因となっていることが明らかにされた。

会計規制過程の分析に先立って経営者の会計的選択行動を検討したのは、 その 動機は、 会計規制過程に参加する際の動機と同ーである可能性が高いと考えられ るからである。 近年展開されている会計規制過程におけるロピイング行動の分析 は、 経営者の行動に影響を与える要因として、 これらの動機に関して仮説を設定 し、 それらを検証するという形で進められており、 本論文でも同様に、 経営者報 酬仮説、 負債比率仮説(負債契約仮説)、 および規模仮説(政治コスト仮説)を ロビイング行動の検定仮説として用いることにする。

本章の議論を会計規制との関連で要約すると以下のようになる。 会計手続の変 更は、 強制的なものであれ自由裁量のものであれ、 会計数値を変化させる。 それ は、 直接キャッシュ ・フロー効果をもたなくても契約コストと政治コストに影響 を与えるため、 行動の変更と会計数値の変化それ自体を通じて、 資源配分および 富の分配に影響を及ぼすことになる。 それゆえ、 私益の最大化を追求する経営者 は、 会計手続をGAAPの枠内で選択したり(会計的裁量行動)、 実際の経済活 動を変更したり(実体的裁量行動)、 会計基準の設定に関与したり(ロビイン グ)する動機を持つのである。 Kelly [1983Jはこれを図4.1のようにモデル化し ている。

図4.1 会計数値が経営者の富へ及ぼす影響と経営者の反応

(出所: Kelly [1983J, p.113) - 104 -

経営者は会計手続および裁量行動の最適ポートフォリオを選択していると考え られる。 しかし、 インフレーションなどの経済事象の変化と会計基準の変更とい う2つの外的要因によって、 会計報告書の数値は変化する。 そのため、 経営者l 新しいポートフォリオを作り直さなければならなくなる。 そのプロセスは以下の 通りだと考えられる。

変化した財務諸表数値が情報内容を有しているならば株価は反応する。 また、

報告利益の変化が税額に影響を及ぼす場合、 それは直接キャッシュ ・ フロー効果 を持っているので株価は変動する。 その他にも、 会計数値の変化の影響は契約コ ストおよび政治コストにも及び、 それらは将来キャッシュ ・ フローを変えるので 株価は反応を示す。 以上4つが、 会計数値の変化によって引き起こされる、 株価 に影響を与える変化である。 なお、 ボーナス額の変動によるキャッシュ ・ フロー の変化は、 株価に影響を及ぼすほど大きなものではないと考えられる。

こうした株価の変動は、 経営者の持株やストック ・オプションの価値を変化さ せる。 それと同時に、 労働市場における経営者の能力の評価、 すなわち「人的資 本価値Jも変化させる。 これらにボーナス額の変化を加えたものが経営者の富の 変動になり、 これに基づいて、 私益に動機づけられた経営者は反応モードを意思 決定する。 その反応としては、 会計的裁量行動によって最適ポートフォリオを再

構成する、 ロピイングによって会計基準の変更を訴える、 および、 実際の経済活

動を変更する、 の3つが考えられる。

これらの反応行動はすべて、 会計規制が経営者個人の経済的厚生に与えるイン ノ々クトを経営者がどのように知覚するかによって決定されると考えられているO Kelly [1983]のモデルは、 井上[1995]が指摘するように、 直接的な因果関係を 示したものではないが、 ここではこれを議論の 「フレームワーク」として用いる

ことにしたい。 では、 ロビイングがこのような経営者の動機の発現形態であると いう仮説は支持されるのか、 そしてロビイングは会計規制にいかなる影響を及ぼ すのかを、 次章以降で検討していく。

- 105 -

(13)

[第4章注]

1)小野[1996],3頁。

2)浜本 [1988(3)],127頁。

3)Francis [198η, p. 37.

川Kelly-Newton [1980], pp. 13-24.

S)Kelly-Newton [1980], p. 14.

吋\elly-Newton[1980], p. 20.

l)Kelly同Newton[1980], p. 20.

8)Kelly-Newton [1980], p. 158.

9若杉[1988],51・53頁。

10)Fama [1970], p. 383.

II)Watts & Zimmerman [1986], p. 108.

12)効率的市場仮説の検証については Beaver[1981]も参照せよ。

13)斎藤[1988],171頁。

l叫Watts& Zimmerman [1986], p. 72.

1.)佐藤[1988],491・492頁。

16)米国において、 財務報告目的と税務目的で会計方法の一致が求められるのは、 唯一 LIFOの選択に関してのみである。

lηこれら初期の実証研究に関する包括的なリビューとしてはLev& Ohlson [1982]および Watts & Zimmerman [1986]を参照せよ。

181Watts & Zimmerman [1986], p. 109.

19)斎藤[1988],171頁。

20そのような流れを決定的にしたのがLev[1979]だと言われている(Scott[1997]を参 照) 0 Lev [1979]は石油・ ガス会計基準に関して無効果仮説と矛盾する実証結果を報告

しているのだが、 その理由として会計方法の変更が負債契約、 配当政策、 および経営者 報酬に影響を及ぼすということ が示唆されている。

- 106 -

21)Watts & Zimmerman [1986], p. 179.

22'Jensen & Meckling [1976], p. 308.

m逆選抜とは、 内部情報が外部化されないとき、 買い手は商品の良し悪しを見分けられ ず、 その結果として悪い商品だけが市場に残ることをいう。 このような事態が起こるの は、 買い手が意思決定を行う上で十分な情報が入手できないときには、 良い商品と悪い 商品に「平均的な」同一の価格をつけなければならず、 その結果として、 良い商品の生 産者は市場から撤退してしまうためである。

24)モラル・ ハザードとは、 自分の行動が相手に知られないということを前提に、 エージ

ェントがプリンシパルの利益に反する行動をとってもペナルティが課されることなく、

自己の利益を最大化するように行動する可能性がある、 ということである。

拘Scott[1997], p. 3.

26)Kelly [1983], p. 116.

2η斎藤[1988],178頁。

28)Kelly [1983], p. 115.

29)岡部[1985],99頁。

30)会計情報の「硬度」という点に関してはIjiri[1975]を参照。

3i)Scott [1997], p. 4.

32)これはFASB[1980]で示されている会計情報の質的特徴という点からは、 目的適合性

と信頼性のトレード・ オフと捉えられる。

33)Watts & Zimmerman [1986], p. 208.

34)Watts & Zimmerman [1986]は、 負債契約で会計数値を用いた条項として次の6つを挙げ ている。 ①配当および自己株式取得の制限、 ②運転資本の維持、 ③合併活動の制限、 @ 他社への投資の制限、 ⑤資産処分の制限、 および⑥社債追加発行の制限。

3S)Watts & Zimmerman [1986], p. 216.

36)岡部[1994],48頁。

37)浜本[1989(10)],114頁。

381政治コストの性質については、 例えばWatts& Zimmerman [1986], chap. 10 を参照。

円高寺[1980],86頁。

- 107 -

(14)

はWatts& Zimme口nan [1986], p. 235.

1,この用語法はWatts& Zimmermanによるものである。 詳しくはWatts& Zimmennan

r1986], chap. 11を参照。

山実体的裁量の例としては、 研究開発費や設備投資などの裁量的支出の増減、 製品の出 荷のタイミング操作、 および含み 益(損)のある資 産の オン(オフ)バランス化なが挙

げら れる。 他方、 会計的裁量の例としては、 会計手続の選択以外に 、 貸し倒れや製品保 証の発生額および償却性資産の耐用年数に関する見積もりの変更などがある。 詳しくは 阿部[1994]を参照。

り}例えばWatts& Zimmennan [1990]を参照。 また、 岡部[1994]はこれを「最適ミック スJと呼んでいる。

44)報告利益管理に関する研究の動向と概要、 およびその 方法論上の問題点については、

Schipper [1989]、 Dechow et al. [1995]、 奥村[1996]、 およびScott[1997]を参照せよ。

45lKaplan [1985], p. 111.

州このように単一の代理変数を用いる方法は「代表アプローチJ (McNichols & Wilson

[1988], p. 2)と呼ばれ、 非裁量的なノイズをコントロールするのに適しているとされて いる。 しかし、 この代表アプローチは、 その項目が裁量的発生項目の合理 的な代理変数 であり、 しか もその金額 的な重要性が大きいということを仮定している、 ということに 注意しなければならない。 ちなみに McNichols& Wilson [1988]で は、 売上債権の重要性 が大きい産業(出版・印刷、 サービス、 および小売)からサンフ。ルが抽出されている。

川々らに Sweeneyは、 新しい会計基準が公表されたとき、 それが増益的な効果を持つ も のであれば違反企業は早期に 採用し、 減益的なものであれば採用をできるだけ先送りし ようとするということ も明ら かにしている(通常は1年の猶予期聞があり、 その企業の

決算日によっては猶予期間は最大2年になること もある)。

川この期間 の長さはデータ の入手可能性で企業ごとに異なるが 、 14年から 32年の問であ る。

柑'Jonesは非等分散性(he仕oscedasticy )の問題を回避するために式の両辺を 1期前の総資

産額で除し ているが (それが撹乱項の分散と正の関 係があると仮定している)、 ここで は説明を簡略化するために割愛している。 以下も同様。

- 108 -

5吻jえば、 Cahan[1992]、 DeFond& Jiamba1vo [1994]、 Dechow et al. [1995]、 および Holthausen et a1. [1995]などが挙げら れる。

61)DeFond & Jiamba1vo [1994]は、 U J pを算定する際に用いる係数 (日1 Pおよびß 2 J)を分 析対象企業が属する産業の データを用いてクロスセクショナルに推定している。 これに よって、 推定に時系列データを用いること から生じる経済構造の変化 の影響を回避する

こと ができる。 またDechow et a1. [1995]は、 収益の増減額 から売上債権の増減額を控除 することを提案している。 なぜならば、Jones自身が指摘しているように収益の増減に

は裁量的な部分も少なからず含まれてお り、 特に 経営者の裁量の余地が大きいと思われ るのは信用販売だからである。

- 109 -

(15)

第5章 会計規制過程の構造と各主体のロビイング行動

1.はじめに

実証的会計理論の理論的基盤はエージェンシ一理論と規制の経済理論にある。

この規制の経済理論もまた、 その基盤をDowns日957]の投票行動モデルと

Olson [1965Jの集合行為モデルに置いている。 それゆえ、 実証的会計理論に基 づく会計規制研究が、 経営者の会計的選択行動だけでなく、 会計規制過程におけ るロピイング活動にも焦点を当ててきたのは当然のことであったと言えよう。

そこで本章では、 会計規制研究において重要な役割を果たしているロビイング 分析に関する理解を得るために、 Downsの理論を初めて本格的に会計研究に導 入したSutton [1984]、 およびOlsonの理論を援用したLindahl [1987]の先駆的業

績に依拠しつつ、 ロピイング分析の基礎理論にまで遡って考察し、 その理論的枠 組と会計研究への適用のされ方を再検討してみたい。

まず「ロビイング」という言葉の意味を明らかにしておこう。 ロピイングとは、

政治学における本来の意味では「議会に直接働きかけて立法を促す活動J 1)のこ とを指す。 また特に、 政策過程論においては「利益団体の利益を直接政策決定と

りわけ法案作成過程に伝達する活動J

2)としづ意味で用いられている。 しかしな がら、 会計学の文献では、 その本来の定義を拡張して、 会計基準によって影響を 受ける者が新しい「会計規則の設定を推進あるいは阻止しようとする個人的およ び組織的な努力のことを総称してロビイングと呼んでいる」九

会計学の文献においてロビイングがこのように定義されていることの背後には、

会計基準設定過程が政策決定過程として広く認識されているという事実がある。

とりわけ、 米国においては、 単に会計基準設定は政治的な活動であるという意味 だけでなく、 プライベート・セクターの会計基準設定団体(FASB)が、 正式な 基準設定権限を待つパブリック・セクターの規制主体(SEC)、 ひいては議会

- 110 -

からの権限移譲によって実質上の政策決定主体すなわち「公共機関Jとして機能 しており4)、 さらにその過程にはデュー・プロセスを通じてロピイングが正エ1 にピルト・インされているという意味においても、 まさに政策決定過程なのであ る。 したがって、 会計規制過程を解明する有効なツールとしてロピイング分析を 用いるためには、 まずこのデュー・プロセスの性質を検討する必要があると考え られる。

2.デュー・ プロセスの役割

行政手続における事前手続の重要性は、 英米のようなコモン・ロー諸国では古 くから認識されており、 米国では1789年の合衆国憲法修正15条にデュー ・ プ ロセス条項が取り入れられて以来、 判例の中で定着・発展してきた。 その後、

1946年に連邦行政手続法が制定され、 また各州も行政手続法を持つようになっ た。 この行政手続法が制定された背景には、 デュー・ プロセスを確保することに よって、 委任立法に対する批判を回避し、 独立規制委員会の正統性を確立すると いう企図もあったと言われているお。

周知のように、 FASBの基準設定過程にもこのデュー・プロセスが制度的に 組み込まれている。 FASBの手続規則は「連邦規制機関の規則作成プロセスを 統括している連邦行政手続法の規定に従って作成されておりJへその目的は、

連邦行政手続法と同様に、 規則制定によって影響を受けるすべての利害関係者に、

規則決定に先だ、って告知し、 その過程に参加させることである九

Foga向1 et al. [1992]は、 会計基準の設定がデュー・プロセスに員IJって行われ るということは、 財産収奪の脅威が存在するということを含意している8)と指 摘する。 収奪される集団は、 それについて知らされなければならないし、 反対す る機会が与えられなければならない。 すなわち、 デュー・プロセスの存在は、 会

計基準によって影響を受ける可能性のある集団が、 望ましくない影響を回避した り、 変えさせたり、 あるいは最小化したりするために、 私益的にロピイングする

- 111 -

(16)

機会が制度的に認められているということを意味する。

一般的には、 FASBのデュー・ プロセスは、 会計基準の影響を受ける集団を

基準設定過程に参加させることによって、 プライベート・ セクターの基準設定団 体が規制の正統性を確保するための手段として機能していると言われている九 しかしFoga向Tet al.が指摘するように、 デュー ・ プロセスの性質をさらに深く 検討してみると、 FASBは、 すべての構成団体の見解が等しく考慮されるとい

う公式的なポジションを打ち立て、 採用された特定の基準に対する利害関係者か らの支持の私益性を公式的には隠匿することによって、 制度的正統性を獲得しよ

うとしているのだと考えることもできるへだとすれば デュー ・ プロセスが

「決定の中立性Jを保証しているのだ、 と参加者に知覚させることが重要になる

だろうD たとえそれが「結果の中立性Jを保証しないとしても、 プロセスに対す る信頼があれば、 基準への不満はFASBにとってさほど大きな脅威とはならな いのである。

また、 ある会計基準に関して規制獲得競争に敗れた者でも、 自分に有利な別の 会計基準を獲得しようと試みるだろう。 í自らは好ましくないと知覚している方 法を『耐えがたきを耐えて受け入れる』ことを要求される集団にとって、 基準に は最終決定はなく、 それぞれの基準はこれからも続く戦いにおける局地戦にすぎ ないのだという信念が、 彼らの心の拠り所となっている」山のである。 それゆ

え、 デュー ・ プロセスのもとでは、 私的利益に動機づけられたロピイング活動が 際限なく繰り広げられるのである。

3.ロピイング研究の基礎理論

会計研究におけるロビイング分析の理論的基盤は、 Downs [1957]の投票行動 モデルとそれを一般化した0130n[1965]の集合行為モデ、ルにある。 そこで本節

ぺ、は、 まず2人の理論を要約した上で、 Sut白n [1984]およびLindahl [1987]に依 拠して、 それらを会計規制論に応用するための基礎的な分析を行うことにする。

- 112 -

(1) Downsの理論

市民の選好を政治家が把握しており、 また市民も政治家の行動の帰結を知って いるという確実性の世界のもとでは、 政治家は、 多数の市民が望む政策を提供す ることによって得票を最大化することができる。 しかし、 不確実性の世界のもと では、 政治家は市民の選好を完全には把握することはできない。 このような不確 実性に直面した政策決定者は、 市民の選好を特定化するには情報コストがかかる ため、 市民の欲求の中でも明確化されたものに関心を払わざるを得なくなるへ

他方、 市民も政策の中に自らの要求を反映させるためには、 政治家の活動に関 する情報を収集し、 自らの選好を伝達しなければならない。 しかし、 その際に、

市民は二重の不確実性にさらされることになるへすなわち、 政治家の選好に 関する知識の欠如と、 自らの投票の影響力の強さに関する知識の欠如である。 情 報はこの不確実性を減少させるのに役立つが、 そのような情報の収集活動には当

然のことながらコストがかかる。

ここで、 2人の政治家(AおよびB)がおり、 それぞれが当選したときに得 られる投票者個人の期待効用を、 それぞれUAおよびUBとする。 また、 彼の投 票が選挙の結果に影響を及ぼす確率をP 、 投票にかかるコスト(情報コストも これに含まれる)をCとすると、 次の条件が満たされたときに、 個人は政治家 Aに投票するだろうへ

制約条件1 :P(UA -UB )- C>O

このことは「投票Jを「政策決定者に対する働きかけJに置き換え、 「政治家 A (またはB)の当選」を「政策A(またはB)の実施」に置き換えても成り立

てコ

通常、 一般市民(消費者)は、 利益集団(生産者)よりも情報コストは大きく、

政策から得れるベネフィット(あるいはベネフィットが得られる可能性)は小さ

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