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米国における会計規制論の再検討

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九州大学学術情報リポジトリ

Kyushu University Institutional Repository

米国における会計規制論の再検討

大石, 桂一

Graduate School of Economics, Kyushu University

https://doi.org/10.11501/3150686

出版情報:Kyushu University, 1998, 博士(経済学), 課程博士 バージョン:

権利関係:

(2)

第7章 会計規制の経済理論

1 .はじめに

前章で見たように、 公共の利益理論および捕囚理論は、 会計規制がなぜ、 どの ように行われているのかについて十分な説明を提示できなかった。 しかしながら、

私的利益を促進するために規制を利用している者がいるという捕囚理論の視点が、

エージェンシ一理論という分析ツールを得たとき、 規制を獲得しようと する被規 制者行動の解明に向けての研究は大きく前進した。 ここではそのような研究を、

経済規制研究における「規制の経済理論Jに倣って「会計規制の経済理論」と呼 ぶことにしよう。

そこで本章では、 これまで行われてきた数々の実証研究を会計規制の経済理論 の観点から検討することによって、 規制を獲得するためのロビイング活動のイン センティブを考察する。 規制の経済理論を会計規制に適用した場合、 会計規制は 様々な利益集団(経営者、 監査人、 および財務諸表利用者)による規制の獲得競 争の産物と捉えられる九会計基準は富の再分配機能を持っているので、 私益 (富の最大化)に動機づけられたこれらの利害関係者は、 自らに最も有利な規制

を獲得するために、 あるいは不利な規制を回避・緩和するために、 会計規制過程 に関与するインセンティブを持っていると考えられる。 その際には、 合理的な行 動を仮定する限り、 会計基準設定機関を捕囚する上でのコストとベネフィットが 比較されはずである。

第5章で見たように、 Downsの政策決定モデルを会計基準に対するロビイン グに応用したSu仕onは「合理的な個人は、 ロビイングから得られる期待ベネフ

ィットがコストを上回るときにのみ、 ロビイングに資源を配分するだろうJ 2)と 述べ、 会計情報の「生産者」が「消費者jよりも政策決定過程に関与するインセ ンティブが強いことを示唆した。 これは、 企業あるいは経営者の会計基準設定過

- 168 -

程への参加が他の集団に比べて圧倒的に多いという事実3)を説明している。 し

かしながら、 規制を獲得することによってどのようなベネフィットが得られてい るのか、 あるいはし1かなるコストが回避されているのかが問われなければならな い。 なぜならば、 それがロピイングの 動機となっていると考えられるからである。

2,経営者のロビイング行動

第4章で見たように、 実証的会計理論は、 会計手続が経営者の富に与える影響 を明らかにしてきた。 その結果、 経営者が自らの富を最大化するために、 会計基 準設定過程に影響を及ぼし、 認められた代替的会計方法の中から選択し、 そして 企業の資金調達、 生産、 または投資活動を変更しようとする(つまり様々な裁量 行動をとる)インセンティブが解明されてきている。

他方、 経営者のロピイング活動のインセンティブに関しても、 これまで多くの 研究者が実証的にそれを明らかにしようと試みてきた。 会計基準に対するロピイ ングに関しては、 会計規制の遵守コストおよび会計数値に基づく契約コストと、

経営者の富との関係がとりわけ重要になると考えられる。 Watts& Zimmerman [1978]は、 会計基準案に対するロピイング活動に関する経営者の意思決定要因

は、 経営者報酬、 情報コスト、 規制(料金規制)コスト、 税金、 および政治コス トであることを示唆している。 これらは会計的選択の背後にある動機と同一であ る。 企業の規模は政治コストに影響を及ぼし、 報告利益にインパクトを与える会 計基準は経営者報酬、 規制コスト、 および税金に影響を及ぼ すと考えられる。

Wa仕.s & Zimmermanは、 このような視点から一般物価水準会計の討議資料に対

する経営者のロピイング行動を研究した結果、 企業の規模(政治コストの代理変 数)と当該基準案が報告利益に対するインパクトに依存している、 としづ規模仮 説と一致する実証的証拠を得ている。

Dhaliwal [1980]は、 石油・ ガス会計基準(SFAS第四号)に対するロピイン

グを検討し、 資本構成(負債比率)が経営者のロビイングを動機づける要因にな - 169 -

(3)

っているということを実証した。 つまり、 負債比率の高い企業の経営者は、 報告 利益を減少させる(それゆえ負債制限条項に抵触するリスクを高める)ような会 計基準に対しては反対のロピイングをするのである。 同様に、 外貨換算会計基準 (SFAS第8号、 およびその改訂基準の第52号)に対するロビイングを研究し たGri匝n [1982; 1983Jも、 大規模で負債比率の高い企業の経営者は積極的にロ

ビイングする傾向にある、 という実証結果を報告している。

その後、 ロビイングする企業とロピイングしない企業の動機の差別化を図るた めに、 さらに洗練された分析が行われるようになったD 新しい会計基準が契約コ スト(経営者報酬契約、 負債契約、 および料金規制に関わるコスト)に及ぼす影 響とロピイングとの関係に焦点を絞ったDeakin [1989]は、 税金や政治コスト の影響を受けにくい石油・ ガス会計基準的に対するロピイングを検討した結果、

契約コストに及ぼす影響とロピイングには正の相関があり、 経営者は経済合理的 にロピイングしている、 という結論に達した。 また石油・ ガス会計基準について は、 Q'Keefe& Soloman [1985Jによって、 小規模企業が大多数を占めるFC法採

用企業の間でも規模仮説が成り立つこと、 および負債比率も説明力を持っている ことが明らかにされている。

貯蓄貸付組合(S&L)および商業銀行の会計方法に関する基準(SFAS第92 号)に対するロピイング活動を分析したMoyer & Kelly [1992Jは、 予想される 富への影経 営 者FASB ピ イ する傾 向 が強 い う実証結果を報告しているD また、 商業銀行およびS&Lに関して、 ロピイス

トの規模および規制資本比率(資本充実率および規制純資産)はノンロビイスト よりも小さく、 当該基準の採用によって利益にかなりのマイナスの影響を受けた と報告しているのはノンロビイストよりもロビイストの方が多い、 ということも

明らかになっている。

これらの研究を要約した表7.1.1から分かるように、 経営者が自己の富を最大 化するために特定の会計基準に対してロピイングするという仮説を支持する実証 結果がおおむね得られていると言えるだろう。 経営者が弾力的な財務報告基準を 選好してロビイングするという点に注目すれば、 財務報告が怒意的で、 複雑かつ

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ミスリーディングなものになっているという現状は、 規制者が判断を誤った結果 ( I規制の失敗」の結果)なのではなく、 被規制者およびその他の関係者によっ て捕囚された基準設定者が弾力的な財務報告規則を制定してきた結果であるω と考えることができるかもしれない。

しかしながら、 これらの実証研究にはいくつかの問題点があることも事実であ る。 まず第1に「規模仮説」の暖昧さが挙げられる。 これまでの単独ロビイング に関する実証研究はいずれも、 ロビイングした企業はロビイングしなかった企業 よりも規模が大きいということを発見し、 その原因を大企業に課せられる「政治 コスト」に求めている。 しかしながら、 単独ロビイストの企業特性として規模を 取り上げた実証研究の解釈には疑問点が残る。 すなわち、 いつ政治コストが発生 するのかは特定されないままで分析が進められているのである。 Lindぬ1によれ ば、 企業の規模が大きいほど政治コストも大きい、 という仮説からは検証可能な 命題を導き出すのは困難であり、 それゆえ、 その存在は依然として推測にすぎ、な し\とし1う九

これまで提示されてきたロピイングに関する「規模仮説」はいくつかの要因が 含まれた複合的な性質のものであり7)、 政治コストの代理変数として企業規模 を用いることには疑問が残る。 それゆえ、 むしろ大企業は第5章で検討したロピ イングの条件1 (B i> C)を満たす可能性が高いために単独でロピイングする 傾向が強 い、 というLind油l説明の方が理論的な基礎を持って いると言えるのか もしれない。 このような代替的な解釈の可能性は、 政治コストに関する実証研究 の再検討を迫るものであるD 今後は、 例えば第4章で検討したJones [1991]の ような研究がロビイング研究に関しても必要になろう。

次に、 第2の問題はフリー・ ライダーが考慮、されていないことである。 多くの 論者が「負債比率仮説Jを検証してきた。 それらの研究は、 高い負債比率などの 特性を持つ企業は、 報告利益を低くする会計基準が提案されると、 ①負債制限条 項に抵触する可能性が高くなり、 それゆえ②その経済的なダメージを回避するた めにロビイングを行う、 という連鎖的な反応行動を想定することで、 ロピイング 行動の実証分析の結果を解釈しようとしているへ この説明のリンク①は妥当

- 171 -

(4)

だと思われるが、 リンク②については不十分な点がある。 むろん、 そのような動 機はあると考えられるが、 動機がロピイングという行動に直結しないケースもあ り得るのである。

例えば、 新しい会計基準によって経済的に不利益を被る企業でさえ、 他の企業 がロビイングするであろうと信じているならば、 自らロピイングすることはない かもしれない。 結局はより大きな不利益を被る企業がロビイングすると予想され

るので \ 結果的には、 フリー・ ライダー問題を認識していないということが 負債比率仮説に関するリサーチ ・デザインの妥当性を損なっているわけではない。

しかしながら、 負債比率仮説の検証にあたってロピイングしなかった企業を分析 対象にする場合には、 フリー・ ライダー問題が重要になってくるという点に注意 しなければならない。

第3に、 これまでの研究がもっぱら単独ロピイングにのみ焦点を当てているこ とには大きな問題がある。 ある特定の状況の下では、 企業は単独ではなく集合的 にロビイングすることを選択するかもしれない。 なぜなら、 企業が個別の行動を とるための条件を満たしている場合でさえも、 より効果的なロビイング主体が存 在すれば、 そのような企業は当該主体のロピイングに貢献することを選好するか もしれなし1からである。 これは集合行為であって、 決してフリー・ ライドではな いD これまでの研究では、 このような企業は非ロピイストに分類されている。 確 かに、 そのような分類ミスによって非ロビイストに分類されていた企業をサンプ

ルに取り込み直せば、 むしろ、 発見された関係についての説得力は逆に増大する 場合の方が多いだろうとは思われるD その意味で、 これまでの実証結果は支持さ れると言うことはできる。 しかしながら、 分類ミスの可能性があるということは、

分析結果の統計的な有意性は何かほかの原因によってもたらされた恐れがある、

ということも意味している。 もちろん、 集合的ロビイングが行われているという 証拠を入手するのは非常に困難であるが、 少なくとも、 単独のロピイングに焦点 を当てる場合には、 実証結果の解釈には注意を要するのである。

- 172 -

L_

表7.1.1 経営者によるロビイング活動の実証分析の要約(1)

文献 基準および年代 研究方法および主要な実証結果

Watts & GPLAのDM GPLAのDMに回答した52 の企業に関して企業特性とロピイン

Zimmerman (1974) ポジションとの聞の関係、を分析。 報告利益が減少する大企

[1978] 業は質成する。 この傾向は特に公益事業で顕著だった。 規模仮

説とも整合。

Dhaliwal日980] SFAS19号のED他 負債比率の高い企業の経営者は反対のロピイングをする傾向が

(1976-78) 顕著に現れている。 当核基準が報告利益を減少させ、 負債制限

条項に抵触するリスクを高めることが主要な理由。

Watts & 4の基準のEDと 新基準が契約コストに及ぼす影響と経営者によるロピイングの

Zimmerman GPLAのDM 関係を分析。 経営者は負債契約および報酬契約で用いられる手

[1981] (1962-1974) 続の数を減少させる基準実に対しては反対のロピイングをする

傾向が強い。 報酬制度仮説とも整合。

Kelly (1982) SFAS8号のED他 企業特性とロピイング活動の関連性を分析した結果、 負債比率

(1974-7η 仮説、 規模仮説および報酬制度仮説と整合。 基準に反対する企

業は資金調達活動および営業活動を変更するという仮説は棄 却。

Gri血且[1982] SFAS8号のED他 外貨換算会計基準が多国籍企業の利益に及ぼす影響とロイン

(1974ー7η グの有無の関連性を分析。 報告利益の変動性は、 ロピイングし

た企業がロビイングしなかった多国籍企業よりも大きい。 大規 模で負債比率の高い企業は積極的にロピイングする傾向にあ る。

Gri血n [1983] SFAS8号と52号 Gri血n [1982]の拡張。 SFAS8号のときよりも大規模企業および

のED(1976ー79) 利益率が低い企業が積極的にロビイングする傾向が顕著。 負債 比率の説明力は SFAS8号の時よりも低下(利益の変動性がtJ、さ

くなったことが原因と思われる )。

Kelly [1985] SFAS8号のED他 KeUy [1982]の鉱張。 海外売上高の多い大企業は実施の困難性を

(1974-77> を理由に当該基準に反対する傾向が強い。 利益の変動性をもた

らすという理由で反対する傾向が強いのは、 経営者による妹式 所有割合が小さい企業。

O'Keefe & SFAS19号のED他 ロビイングした全部原価法(FC法) 採用企業のみに関する分

Soloman [1985] (1976 -78) 析。 これら企業はすべて基準に反対している。 規模仮説および

負債比率仮説と整合。 報酬制度仮説とは不整合 ( 原因は不 明)。

King & SFAS19号のED他 反対のロピイングをしたFC法採用企業のインサイダーはED公

O'Keefe [1986] (1976-78 ) 表後に自社棟を売却する傾向がロピJングしなかったFC法採

用企業のインサイダーよりも強い。 賛成でロピイングした成功 原価法(SEi法)採用企業のインサイダーは自社妹を瞬入する傾 向が強い。

- 173 -

(5)

表7.1.1 経営者によるロピイング活動の実証分析の要約(2)

文献 基準および年代 研究方法および主要な実証結果

Francis [198η SFAS87号のPV 年金会計基準が財務諸表に及ぼす影響とロビイングとの関連性

(1982) を分析。 規模の大きな企業は反対する。 総資産に占める年金負

債の割合および税引前利益に対する年金費用の割合が 高い企業 は反対のロピイングをする傾向が強い。

Feroz [198η 2のGPLAのDM 大規模企業、 競争が激しくない産業に属する企業、 および利益

(1974-78) 率の高い企業はGPLAを支持してロピイングする傾向が強い。

産業グループの規模とロピイングには負の相関がある。

Deakin [1989] SFAS19号のED他 石油・ ガス会計基準が経営者報酬契約および負債契約に及ぼす

(1976-78) 影響とロピイングには正の相闘がある。 規制を受ける企業は積

極的にロピイングする。

Moyer & Kelly SFAS91号のED 商業銀行をロピイングした集団とロビイングしなかった集団に

[1992] (1985-86) 分け、 それぞれの企業特性とロピイングとの相関を分析。 企業

価値への影響が大きい企業はロピイングする傾向が強い。 ロピ イストの規模および規制資本比率はノンロビイストよりも小さ い。 報告利益に大きな負の影響を受けたのはロピイストの方が 多い。

Ndubizu et aI. SFAS87号のED 年金会計基準に対する反対のロピイングは、 規模、 負債比率、

[1993] (1981- 85) 利益に対する年金費用の割合、 および利益の変動性と相闘を持

つ。 特に利益の変動性の説明力が強い。

Schalow [1995) SFASI06号のED 退職者健康保険会計基準の影響を受ける企業の特性とロピイン

(1990) グとの関連性の分析。 売上高が大きく退職者の数が多い企業は

反対する。 賛成者はロピイングしない。 D/Eレシオを用いた負 {責比率仮説は支持されなかった。

注)DM:酎融資料(d.isαlssion memorandum) ED:公開草案(exposure命説)

PV:予備的見解(p花畑山町view)

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3.監査人のロピイング行動

会計基準の設定・変更は監査手続の変更をもたらし、 その結果として富の移転 が行われる可能性があるので、 監査人も積極的に会計規制過程に参加する動機を 持っている。 Revsine [1991] によれば、 弾力的な会計基準によってもたらされる

「忠実でない表現(misrepresentation) J聞から恩恵を受けるのは経営者だけで はなく、 監査人もベネフィットを得ているという。

監査人のロビイングに関するインセンティブとしては、 以下のことが考えられ る。 ①新しい会計基準は監査業務を増大させ、 監査人の報酬を増加させる (Watts & Zimmerman [1986]) ;②クライアントが選好する基準に対する「ロピ イング活動サービス」を提供することによって、 クライアントとの調和関係を維 持し、 引き続き監査業務を遂行できるようにする(Watts & Zimmerman [1986])

;③認められていた複数の会計方法の中から自らが特化(specialized)していた 方法が除去されることになると、 除去されない方法を採用していた監査人に比べ てコスト が上昇する(Puro [1994]) ;④厳格な基準を設定させることによって、

問題の多い( それゆえ監査リスクが高まる)方法を採用した がるクライアントと の摩擦を回避する(Revsine [1991])ロ しかし、 監査人によるロビイング活動に 関する実証研究はさほど活発に行われているわけではない。

初期の研究では、 監査人のロピイングと顧客の富との間には正の相関があると いう仮説が立てられ、 これはWatts & Zimmerman [1981]によって検討された。

彼らの実証結果を見る限り、 監査人のロビイングとその顧客の富の加重総和の聞 には、 明確ではないが何らかの正の相関があり、 顧客の 富に会計基準が及ぼす影 響は契約過程を通じて発現すると考えられる。 つまり、 新しい会計基準の制定に よって負債契約および経営者報酬契約 に用いられる会計手続の数が減少するとき、

その監査人も当該基準の導入に反対してロビイング する傾向が見られるのである。

しかしながら、 顧客の富の増加が監査報酬の増加に直接つながるわけではないの で、 果た して直接的な因果関係があるかのかどうかは分からない。 そのため、 さ

らに条件を特定化した研究が行れるようになった。

- 175 -

(6)

DeAngelo [1982]は、 顧客と監査人のロピイング・ポジションが一致しない場

合に関して、 監査人は自らの立場と一致しない顧客を失っても、 立場が一致する 顧客を新たに獲得できる一一つまり監査人は自らの立場と一致する顧客を創造す るーーという「顧客層仮説」を検討し、 それを棄却した。 また、 監査人はその顧 客の立場を支持してロピイングすることによって顧客との調和関係を維持し、 継 続して監査業務を受注できるようにしようとするという「ロビイング活動サービ 只仮説JもPuro[1984]によって棄却されている。

ではなぜ、 監査人のロピイングと顧客の富との聞には相関が見られるのだろう か。 Puro [1984]によれば、 会計方法が統一化されるような基準が公表されると きに、 監査人と顧客の利害が一致し、 ともに基準に反対するのだという。 会計方 法の統一化によって契約に利用できる会計手続が制限され、 契約効率性が減少す るために企業は反対し、 原則として監査報酬は増大しないので除去される方法に コスト効率性を有していた監査人も反対する。 会計方法を統一化する基準の制定 に際してはこのような監査人と顧客の間の利害の一致が起こりやすく、 監査人は 顧客の立場を支持する傾向が強くなるのである。

他方、 監査人と顧客のロビイング・ポジションが一致しない場合について、 こ の不一致は「顧客層仮説Jによって説明することはできないということが明らか になっているので、 別の説明が求められた。 監査人は常に顧客の富を増大させる ように(あるいは富の減少を回避させるように)ロピイングするわけではない。

監査人は、 監査報酬が増加する(富を顧客から自分に移転する)ような基準に対 しては顧客と異なる立場で賛成のロビイングをすることがある。 このような関係 が生じるのは新規のディスクロージャー基準が提案される場合である。 このとき、

監査人と顧客の利害が一致せず、 ロビイング・ポジションが対立する。 新規ディ スクロージャー基準は、 企業にとってはモニタリング・コストが増大し、 監査費 用が増大するので反対するが、 監査人にとっては監査報酬が増加することになる ので賛成するのであるヘさらに、 まったく新しい測定基準が義務づけられる

とき、 それは監査リスクを増大させるので監査人は反対する可能性が高いという こともMeier et a1. [1993]によって実証されているぺ

- 176 -

これらの研究を要約した表7.1.2から分かるように、 会計基準案に対する監査 人のロピイング・ ポジションに関する実証結果から判断すれば、 当該基準が顧客 の富に及ぼす影響と、 監査リスクおよび監査人の富に及ぼす影響との関数である と考えられるだろう。

しかしながら、 経営者のロピイングに関する研究と同様に、 これらの実証研究 にもリサーチ・デザイン上の問題点があり、 そのために、 依然として未解決の問 題も残されている。 例えば、 ロピイング活動を分析するにあたって、 監査人は企 業に比べて相対的に数が少ないために、 十分なサンプノレ数を確保するには複数の 会計基準について観察を行わなければならないが、 このことは実証結果の信頼性 に疑問を投げかけかねない。 つまり、 これらの観測値は、 相互に独立していなし おそれがあり、 検証結果の有意性が過大に評価されている可能性は否定できなし のであるヘ

また、 これらの研究では、 実際にロピイングした企業とその監査人との見解の 一致/不一致にしか焦点を当てていない。 それゆえ、 ロビイングしなかった企業 は、 既に監査人が自分と同じ意見を表明しているので敢えてロビイングする必要

がないと判断した、 ということも考えられる。 もしそうだとすれば、 これはフリ ー ・ ライドなのかもしれず、 あるいは「ロビイング活動サービス」なのかもしれ ない。 したがって、 ロピイング・ ポジションの不一致に関するPuro[1984]の実 証結果は、 過大に有意性が評価されている可能性もある。

また、 大会計事務所は小会計事務所よりも、 新規ディスクロージャー基準を支 持する傾向が強いという証拠がPuroによって提示されている。 彼女は、 大会計 事務所の方が小会計事務所よりもコスト優位にあるということにその原因を求め ようとしているように思われる。 つまり、 新しいディスクロージャー基準の導入 に要する監査コストの大部分は固定費用なので、 顧客数の少ない小監査事務所に とっては、 1顧客あたりの費用増加が大事務所よりも大きくなり、 それゆえ、 こ のような会計事務所聞の費用関数の相違を考慮すると、 大事務所は相対的にコス ト優位にあり、 監査報酬増加の効果が大きいと考えられるのである。 しかし、 前 述のように、 それはロビイングの規模効果が働いているためなのかもしれない。

- 177 -

(7)

表7.1.2 監査人によるロピイング活動の実証分析の要約

文献 基準および年代 研究方法および主要な実証結果

Watt & 4の基準のEDと 監査人のロビイングと顧客の企業価値および契約コストとの関

Zimmerman GPLAのDM 速を分析。 監査人のロピイングはその顧客の企業価値の加重総

[1981] (1962-1974) 和と正の相闘がある。 契約で用いられる会計数値に影響を及ぼ

す基準に関して、 監査人と顧客のロピイングは有意に相開。

DeA且gelo SFAS19号のED他 監査人と顧客のロピイングの不一致に関する研究。 石油・ ガス

[1982] (1976-1978) 会計基準によって報告利益に負の影響を受ける企業は監査人を

変更する傾向が強い。 監査人とロピイング・ ポジションが対立 する企業は監査人を変更する傾向が強い。 顧客層仮説は棄却。

Puro (1984) 5の基準のEDと 監査人のロピイングインセンティブと顧客との立場の一致を

GPLAのDM 分析。 会計方法を統一化する基準が公表されるときには、 両者

(1975-7η の立場は「反対」で一致する。 新規ディスクロージャー基準が

公表されるときには、 両者の立場は不一致。 ロビイング活動サ ーピス仮説は棄却。

Meier et al. 4の基準のED、 金融機関の会計基準に対するその監査人のロピイング ・ インセ

[1993] 2のTB、 lのITC ンティプの分析。 顧客の立場の加重総和、 顧客の負債比率、

(1976-85) 査リスク、 および顧客の報告利益に及ぼす影響と監査人のロビ

イングには相闘がある。 小規模の顧客をもっ監査人は大規模の 顧客を持つ監査人よりも糟益的な基準を支持する。

注)DM:討議資料(discussion memorandum) ED:公開草案(exposuredra食)

TB:適用指針(technical bulle凶)

ITC:コメント招詩書(invitation to comment )

4.財務諸表利用者のロピイング行動

財務諸表利用者も、 会計基準の設定によって直接的な富の移転は受けないにせ よ、 開示される会計情報は様々な意思決定に影響を及ぼすので、 会計基準設定過 程に参加する動機を持っている。 しかし、 財務諸表利用者のロピイング活動が実 証研究の対象となることは、 これまでほとんどなかった。 その理由は、 利用者の ロピイングが極端に少ないからである。 確かに、 第5章における分析からも明ら かなように、 利用者のロビイングのベネフィットがコストを上回る可能性は非常 に小さいので、 インセンティブはさほど強くないと考えられるが、 この沈黙が基 準に対する合意を意味するのか、 それとも合意はしていないがロビイングの条件

ー178 -

が満たされなかったのか、 あるいはフリー ・ ライダーになろうとしたのかは明ら かではない。

この点を調査するためにTutticci et al. [1994Jの分析方法を応用したWee凶an et al. [1996Jは、 非常に興味深い結果を報告しているヘ彼らは、 英国の会計基 準審議会(Accounting Standards Board : ASB)のディスカッション ・ ペーパーに 回答しなかったが十分な経験と当該問題に関する知識のあるアナリストおよびフ

ァンド・ マネージャーにインタビAーを行い、 そのディスカッション ・ ペーパー の論点と同じ質問を試みた。 その結果、 論点によってはかなりの反対意見がある ことを発見した。 すなわち、 沈黙が合意を意味していたわけではないのである。

さらに、 財務諸表作成者が自らの意見を正当化するために、 コメント ・ レター の中で利用者のニーズを強調する戦略をとっているにも関わらず、 その見解は実 際の利用者の見解とは異なっている場合が多くあるということが明らかになった。

これは、 再三指摘されてきた「口実」としての公益がロピイングに用いられてい るということを示す、 今後の実証研究にとって大きな意味を持つ発見で、ある。

このようにWee凶組etal.は、 財務諸表利用者は会計基準案に対してかなり の反対意見を持っていることを発見した。 では、 なぜ彼らはASBにロピイング

しなかったのだろうか。 Wee回an et al.は、 その理由を示唆するものとして、 次 のようなアナリストの意見を紹介している。 rアナリストは、 自らがロピイング 過程において影響力を持ちうるとは期待していないだろう。 なぜならば、 コンセ ンサスの鍵を握っているのは財務諸表の作成者だからである。 一-もし作成者が反 対するのであれば、 アナリストにはその反対を覆すだけの十分な説得力はないだ ろうJ向。 これは、 Sutton [1984]が示したように、 財務諸表利用者が、 基準案が 変更されることによって得られる期待効用をその決定に影響を及ぼすことのでき る確率で「割りヲ|し1たJ結果だと解釈できょう。 しかし、 逆に言えば、 論点によ っては作成者の見解と利用者の見解が一致しているケースもあるということは、

利用者は作成者のロビイング( およびそのホジション)を予想してフリー・ ライ ドしようとした、 という可能性も依然として残されている。

-179 -

(8)

5.おわりに

章では、 経営者、 監査人、 および財務諸表利用者のロピイング行動に関する 実証研究を検討し、 その意義と問題点を指摘した。 このような会計規制の経済理 論は、 実証の頑健性と解釈の妥当性には若干の疑問が残されてはいるが、 会計基 準設定機関を捕囚しようとする経営者と監査人の行動要因をかなりの程度明らか にしていると言えるだろう。 その意味で、 規制の経済理論は被規制者の行動に関 する限り説明力を持っている。

しかしながら、 会計基準設定機関が捕囚される要件とそのメカニズムに関して は、 依然として明らかにされていない。 つまり、 捕囚される側、 すなわち規制機 関の行動インセンティブに関する実証研究はほとんど行われておらず、 基準設定 者にとっての効用最大化という肝心の問題に関しては明らかにされていないのが 現状である。 これまでの研究は、 作成者指向に基づいた経営者の動機に関する実 証研究に集中する傾向が強く、 会計基準設定者の動機はあまり重視されてこなか った。 あるいは、 基準設定者の動機を所与としたまま、 「捕囚される規制者Jと

いう考えを無批判的に受け入れて研究を進めてきたとも言える。 そこで次章では、

基準設定者は捕囚されるか、 捕囚される(されなしっとすればなぜなのかを、 検 討してみたい。

{第7章注]

1)例えば、 石川[1992]を参照。

つSutton [1984], p. 93.

3)Tandy & Wilburn [1992]は、 SFAS第l号から100号の公開草案に対するコメント ・ レタ

ーの70 %以とが企業または経営者からのものであったということを示している。

4なぜなら、 当該基準によって会計方法を変更しなければならなかったのは、 税制上の優 遇措置が認められており、 政治的サンクションがほとんどない独立系の小規模会社だけ

- 180 -

であったため、 税金と政治コストがロビイングに関する経営者の意思決定に及ぼす影響 を回避できるからである。

5'Revsine [1991], p.16.

61Lindahl [1987], p. 69.

1JWatts & Zimmennan [1986], p. 239.

B)この点に関する包括的な説明としてはKelly [1983]を参照。

9)つまり、 より深刻な影響を受ける企業にとっては基準案を覆すことのB iが大きくな り、 それゆえ、 彼らは条件1を満たす可能性がかなり高くなると考えられるのである。

10) í忠実でない表現Jという言葉の背後には「忠実な表現(faithful representation ) Jが 想定されている。 この概念に関しては様々な問題点が指摘されているが(例えば、 Hines [1988; 1989])、 ここではとりあえず問題にしない。

11)ただし、 監査人それぞれの費用関数が異なり、 監査業務の増大がもたらす効果は一様

ではないので、 自らが優位性を持たない会計方法が義務づけられ、 競争上不利になる監 査人は、 新規ディスクロージャー基準に対して反対のロピイングをするということも Puro [1984]によって実証されている。

12)しかし、 監査リスク(固有リスクおよび監査人のビジネスリスク )は監査報酬と正

の相関があるので(Firth [1985]およびThornton & Moore [1993]を参照) 、 厳密には監査 リスクの増大が監査報酬の増大効果を上回るときにのみ監査人は反対するはずである。

この要因がMeier et al. [1993]ではコントローノレされていないので、 その説明力は弱し、と

言わざるを得ない。

13lWatts & Zimmerman [1986]を参照。

14lWeetman et al. [1996Jは英国のケースに関する研究だが、 財務諸表利用者のロピイング

を考察するにあたっては、 英米の制度的環境の相違はさほど大きな障害にならないと思 われるので、 そのインセンティブは同ーであると考えても差し支えがないだろう。

15lWeetman et al. [1996J, p. 74.

- 181 -

(9)

第7章補論 監査人のロビイングに関する実証研究

APOS , . s = C 0 + C 1 (VF A V i. s ーVOPPi・,)+ C 2 TV ,. s

(?) (+) (?)

+ C 3 BDUM TV i. + C 4恥侶DUMs TV , . s + U i・ 2

この補論では、 Watts& Zimmerman [1981]、 DeAngelo [1982]、 およびP�

(一) (一)

[1984] を取り上げ、 その実証の概要とその結果を説明する。 なぜならば、 監査 人によるロピイング活動を実証的に研究したものの数は少ないという点を考える と、 これらの研究は貴重であり、 詳しく検討する意義があると考えられるからで ある。

1.契約理論に基づく監査人行動の実証研究(Watts & Zinunerman [1981])

監査人のロピイング行動の研究にエージェンシ一理論と規制の経済理論を初め て適用したのはWatts& Zimmerman [1981] である九彼らの提示した仮説とそ のアプローチ方法は、 後続の研究に大きな影響を与えた。

彼らは、 監査人によるロビイングの行動誘因も自己の富の最大化であると考え、

監査人のロビイング・ ポジションは被監査企業の富と正の相関があるという仮説 を立て、 その検証を行っている。 このような仮説を立てた理由として、 Watts&

Zimmermanは次の2つを挙げている。 第1に、 監査人はその顧客の富を増大さ せるような基準を支持してロビイングすることによって、 顧客との調和関係、を維

持し、 継続して監査業務を受注できるようにしようとすると考えられるからであ る。 これは「ロピイング活動サービス仮説Jと呼ばれる。 もう1つの理由は、 監 査報酬は顧客の富の大きさに依存しているということである。 これについては、

顧客の富の減少は監査報酬の減少や顧客の喪失につながる可能性がある、 という 点をWatts& Zimmermanは指摘している。

エこで、 次のような回帰モデルが設定された。 括弧内は予想、される符号を示し ている。

- 182 -

ここで、 変数の定義は以下の通りである。

APOS i・

VFAV i・s

監査人iが基準sに賛成すれば1 監査人iが基準sに反対すれば0

監査人iの顧客が基準sに賛成した場合のその企業価値の 総和

VOPP i. s -監査人iの顧客が基準sに反対した場合のその企業価値の 総和

TV '. s 二監査人iの顧客で基準sにロピイングした企業の価値の総和

- VFAVi.s + VOPPi.s

BDUM, = 基準sが社債条項で使用されている手続だけを制約するなら ば1、 その他の場合は0

:MBDUM s =基準sが社債条項および経営者報酬制度で使用されている

手続の両方を制約するならばl、 その他の場合はO

そして、 41の監査人と 645の顧客についてプロビット分析aを行い、 その結

果は次のようになった(括弧内は漸近t値)。

APOS i. s = 0.42 + 21.0 (VFAV�.- VOPPi..) (1.33) (1.69)

十26.8 TV,. s - 39.5 BDUMsTVi. s -29.4恥侶DUMsTVi..

(1.34) (1.80) (1.53)

調査対象となった基準は、 1962年投資税額控除、 1971年投資税額控除、 リー - 183 -

(10)

ス会計、 中間財務報告、 および一般物価水準会計(GPLA)である。 これらの 基準はいずれも、 監査業務を増大させるが、 平均的に利益額を増加させることは ない。

この分析に関してWatts & Zimmermanが下した結論は、 彼らが提示した仮説 と実証結果は整合している、 というものである。 つまり4つの係数のうちし、

C λ、 およびC 4が10 %水準で、有意(片側検定)であり、 C 1が有意だったという ことは、 監査人のロビイングとその顧客の富の加重総和との聞には正の相関があ るということを示している、 というのである。

しかしながら、 この結果には彼らの仮説と整合しない部分も含まれている。

Watts & Zimmermanの仮説では、 契約に適用可能な会計手続の数を制限する基 準の制定は、 エージェンシー・ コストを増大させ、 契約効率性を損うと同時に、

契約過程における監査の需要も減少させるはずでありへそれゆえ、 債務契約 と報酬制度の両方で用いられる会計数値を算定する会計方法を制限する基準の係 数(C 4)は債務契約と報酬契約という2つの契約を制限する分、 債務契約で用 いられる会計数値のみに影響を及ぼす基準の係数(C 3)よりも大きいという予 想が立てられていた口 それにも関わらず、 得られた結果(C 4がC 3よりも小さ しつは、 契約効率性と監査の需要に関する仮説と矛盾しているのである。

もちろん、 Watts & Zimmermanはこの点を認識してはし1た。 しかし、 彼らは

その矛盾点を重視しておらず、 両者が負の値で有意であったということは会計基 準が契約に及ぼす影響と監査人のロビイングとの聞の関連を示している、 と述べ るにとどまっている。 確かに、 両者の聞には何らかの関連性が存在することは認 められよう。 しかしながら、 顧客の富の増加が監査報酬の増加に直接つながるわ けではないので、 果たして直接的な因果関係があるかどうかはかなり不明確であ ると言わざるを得ない。 これは、 上述の「監査報酬は顧客の富の大きさに依存し

「川るJという仮定にさらに条件を追加して実証を行う必要があるということを 示していると考えられる。

- 184 -

2.顧客層仮説の検証(DeAngelo [1982])

Watts & Zimmerman [1981Jは、 監査人と顧客とのロビイング・ポジションの 一致に焦点を当てて分析していたが、 それと同時に、 両者のロピイング・ポジシ

ョンの不一致は「顧客層仮説」によって説明できる可能性がある、 ということも

示唆していた。 これは、 前述の「ロビイング活動サービス仮説」を保管するもの であり、 監査人は自らの立場と一致しない顧客を失っても、 立場が一致する顧客 を新たに獲得できる一つまり監査人は自らの立場と一致する顧客を創造するー という仮説である。

もし、 顧客層仮説が正しいならば、 ある基準に関するロビイング・ポジション が監査人のそれと異なる企業は、 自らの立場と一致する監査人に変更するはずで ある。 そこで DeAngelo[1982]は、 Watts & Zimmerman [1981Jのアプローチを継 承して、 石油・ガス会計基準についてこの仮説の妥当性を検証した。 調査対象は、

246社の石油・ガス企業とその12 の監査事務所である。

前述したように、 1977年に公表されたSFAS第19号は石油・ ガスの試掘・探

索費の会計処理方法として、 全部原価法(FC法)を禁止し、 成功原価法(SE 法)を義務づけた。 これによって、 FC法を採用していた企業はすべて、 報告利 益にマイナスの影響を受けることになった。 また第19号は、 成功原価の認定規 準を厳しくしたので、 以前からSE法を採用していた企業の中にもマイナスの 影響を受ける企業が出てきた。 その内訳は次の通りであった。

FC法採用企業...129社

影響を受けたSE法採用企業・・・37社 影響を受けなかったSE法採用企業・・・80社

まずDeAngeloは、 マイナスの影響を受ける企業はさほど影響を受けない企業 よりも監査人を変更する、 という仮説を検証した。 このような監査人の交代が行 われるのは、 石油・ガス会計基準による影響を緩和するためには、 石油 ・ ガス会

- 185 -

(11)

計以外の他の会計手続を変更しなければならず、 現職の監査人との間で対立が生 ずるからである、 とDeAngeloは説明する。 そして分析の結果、 1977年におい て、 第19号の影響を受けた石油・ ガス企業の監査人変更率(10.80/0)は、 影響 を受けなかった石油・ ガス企業の変更率(2.5%)およびSEC登録の非石油・

ガス企業の変更率(4.6%)よりも大きいということが分かつた(表7.2.1参 照)。 この差は 5 0/0水準で、有意だ、った。

表7.2.1 会計方法別の監査人変更率(%)

企業 すべての 影響を 影響を受 影響を 石油・ ガ 全SEC

\ FC法採 受けた けた企業 受 けない ス企業の 登録の非 年度 用企業 SE企業 の小計 SE企業 小計 石油企業

1973 0.8 0.6 2.5 1.2 5.3

1974 3.9 2.7 3.6 1.3 2.8 6.3

1975 5.4 5.4 5.4 2.5 4.5 4.8

1976 6.2 5.4 6.0 3.8 5.3 4.2

1977 7.8 2 1.6 1 0.8 2.5 8. 1 4.6

1978 2.3 2.7 2.4 2.5 2.5 4.1

1979 0.8 2.7 1.2 2.5 1.7 3.7

1980 5.4 4.2 2.5 3.9 3.1

一ーーーーー」ーーーーー一 一ーー」戸『ー

(山所: DeAngelo [1982], p. 182,表2およびp.188,表3より作成)

表7.2.2 ロピイング・ ポジションと監査人変更のパターン(1976-77)

経営者と監査人の立場 合計 変更なし 変更 変更パターン 変更数 A→A 5 一致(A) 140 129 11

A→D 6

D→A 7 不一致(D) 73 59 14

D→D 7 (出所:DeAngelo [1982], pp. 193-198 より作成)

-186 -

次に彼女は、 これらの監査人を変更した企業がその監査人のロビイング・ ホジ ションと一致していたかどうかを調査した(表7.2.2参照)。 その結果、 監査人 と一致した企業のうちの 7.9 0/0が監査人を変更し、 一致しなかった企業のうち の19.2 %が変更した(関連企業は除外)。 この差は1 0/0水準で、有意だ、った。 次 に、 顧客層仮説では、 立場が一致しなかった企業は一致する監査人に変更するは ずなので、 この点を調査した。 しかしその結果は、 1976年から77年にかけて、

立場が一致しなかった企業が一致する監査人に変更した割合は50 %であったO

また、 特定の監査法人が集中的に顧客を獲得したわけでもなく、 SE法あるいは FC法を支持する監査法人が一貫して顧客を獲得するといった傾向もなかった。

つまり、 顧客層仮説は棄却されるのである。

3. 監査人側のコストを考慮した研究(Puro [1984])

新基準の導入に伴うコストをある程度明示的に考慮して実証研究を行ったのが Puro [1984]である。 監査業務を増大させるような基準に対しては、 企業にとっ

てはそニタリング ・ コストが増大するので、 他の条件が等しいならば企業経営者 はそれに反対するだろう。 他方、 そのような基準は監査報酬を増加させるので、

それがコストを上回る限りにおいて監査人は賛成のロピイングをすると考えられ る。 この点はWatts & Zimmennan [1981]も認識してはいたが、 それを実証する

ことはできなかった。 彼らのモデルでは監査人の費用関数はすべて同ーであると いう仮定が暗黙のうちに置かれており、 その相違は考慮されていなかったのであ

る。 Puroの研究の意義はこのことを組み込んだモデルを設定して実証を行って

し\る点にある。

まずPuroは、 監査人とその顧客のロビイング活動について、 規制の経済理論 から導かれる仮説(Rl, R2、 およびR3)とエージェンシ一理論から導かれ る仮説(E1, E2、 およびE3)を設定した。 [J内は代理変数を示している (仮説の要約、 代理変数、 およびその測定方法については表7.2.3を参照)。 以

-187 -

(12)

下、 Puroの仮説導出過程を簡単に見てみよう。

まず第1に、 会計規制の経済理論では、 監査人も他者を犠牲にして自己の富を 最大化するようにロビイングすると考えられる。 それゆえ、 以下の仮説が設定さ れた。

R 1 [NEWAUD] :監査人は、 監査業務を増大させる(監査報酬を増加させ

る)ような新しいディスクロージャー基準の採用を支持する。

しかし、 監査人は、 監査業務の増大から得られるべネフィットとそれに伴うコス トとを比較考量するはずである。 その際、 ベネフィットを所与とすれば、 費用関 数は監査人ごとに異なるので、 基準に対する反応も異なってくると考えられる。

つまり、 もし、 それまでは認められていた特定の会計方法が新基準で除去される ことになり、 監査人がその方法の監査を専門的に行っていたならば、 あるいは新 基準の導入に伴う固定費用の増加があまりにも大きすぎて、 他の監査事務所に比 べて競争上不利になるならば、 監査人はそのような基準を支持しないだろう。 そ

こで、 次の仮説が導かれる。

R 2 [SPEC] :会計方法を統一化する基準が導入される場合、 FASBが除去し ようとしている会計方法に特化している監査人は、 そうでない監査人に比べて、

その基準に反対する傾向が強い。

また、 新しいディスクロージャー基準の導入に要する監査コストの大部分は固定 費用なので、 顧客数の少ない小監査事務所にとっては、 1顧客あたりの費用増加 が大事務所よりも大きくなる。 それゆえ、 このような会計事務所聞の費用関数の 相違を考慮すると、 大事務所は相対的にコスト優位にあり、 監査報酬増加の効果 が大きいと言える。 したがって、 次のように予想される。

R 3 [SIZE] :大監査事務所は小事務所よりも、 ディスクロージャー要件の増

直188 -

大を支持する傾向が強い。

他方、 監査報酬が顧客の富に依存しているとすれば、 監査人は顧客の立場を支 持するようにロビイングすると考えられる。 したがって、 以下の 2 つの仮説が導 かれる。

E 1 [INC] :会計基準の変更によって報告利益に影響を受ける顧客を多く抱え

ているほど、 監査人はその基準に反対する傾向が強い。

E 2 [BIG] :会計基準の変更から生ずる顧客の財務諸表への影響が大きいほ

ど、 監査人はその基準に反対する傾向が強い。

しかしながら、 監査人はすべての顧客の立場を平等に考慮するわけではない。 顧 客が合理的に判断して、 ロピイングのベネフィットがコストを上回るときにのみ ロビイングしているとすれば、 監査人はより明確に選好を顕示している顧客の影 響を反映して「ロビイング活動サービス」を提供すると考えられる。 したがって、

次の仮説が設定された。

E 3 [LOBBY] : 監査人は、 自ら の顧客の中で新しい会計基準を支持してロビ

イングする企業の割合が大きいほど、 その基準を支持する傾向が強い。

監査報酬は顧客の富の大きさに依存しているというWatts & Zimmerman

[1981]の仮定が正しければ、 監査人とその顧客の利害は一致するはずなので、

E 1、 E 2 、 およびE3は、 すべての基準に一貫して有意な結果が得られるだ、ろ う。 つまり、 Watts & Zimmermanの仮説は両者の利害が一致する状況を強調し ているのに対し、 規制の経済理論に基づく仮説は利害の対立を問題にしているの である。

ー189 -

(13)

表7.2.3 仮説と変数の説明および予想、される符号

R1 :新しい開示基準によ って監査業務が増大する 場合、 監査人はその基準 を支持する

R2 : FASBが除去しようと している会計方法に特化 している監査人はその提 案に反対する

R3 :大監査事務所は小事 務所より新しい開示基準 を支持する

E1 :新しい基準によって 報告利益に影響を受ける 顧客が多いほど監査人は その基準に反対する傾向 が強し、

E2 :基準の変更が顧客の 財務諸に及ぼす影響が大 きくな るほど、 監査人は その基準を支持しない傾

向がある

E3 :新基準を支持してロ ピイングする顧客の割合 が大きいほど監査人はそ の基準を支持する

変数 | 方 法

NEWAUD I市場性のある有価証券 ・監査人jの顧 客が保有している有価証券のうちで 市場性のあるものの%

セグメント:監査 人jの顧客が報告し ているセグメン トの平均数

SPEC リース:監査人jの顧客のうちで SFAS 13号公表以前にまったくリースを資 産化していなかった企業の数 石油 ・ ガス:監査人jの顧客のうち FC

f去を採用している企業の数 SIZE I すべての基準:監査人jが監査してい

る株式公開企業の総数

INC I市場性のある有価証券とリース:監査 人jの顧客のうちで当該基準によっ て報告利益に影響を受けた企業の数 外貨換算:監査人jの顧客のうちで外

貨建債務を有する企業の数

GPLA:監査人jの顧客がGPLAを使用 した結果生じる利益の変動額 BIG リース:監査人jの顧客のうちで将来

のリース支払額がサンプル中の上位 ν4に入っている企業の数

市場性のある有価証券:監査人jの顧 客のうちで保有有価証券の総額がサ ンプル中の上位ν4に入る企業の数 GPLA:監査人jの顧客のうちGPLAに

よる利益の変動額の大きさがサン プノレ中の上位ν4に入る企業の数 セグメント:監査人jの顧客で総セグ

メント数がサンプノレ中の上位ν4に 入る企業の数

石油・ ガス:監査人jの顧客で石油・

ガス関連資産の総額がサンプル中の 上位ν4に入る企業の数

外貨換算:監査人jの顧客で海外子会 社の総数がサンプル中の上位ν4に 入る企業の数

LOBBY I すべての基準:監査人jの顧客のうち で基準に対して支持/反対のロピイ ングをした企業の数

(出所: Puro口984], pp. 630-631)

- 190 -

予想符号 b > 0

b < 0

b> 0

b < 0

b < 0

b > 0

そこで彼女は、 市場性のある有価証券、 リース、 セグメント報告、 GPLA、

石油 ・ ガス会計、 外貨換算の6つの基準について、 次のような多項プロビット回 帰モデルを用いて、 上記6つの仮説を検証した。 調査対象は41の監査人と 2,145 の顧客である。

Pr (P=l) = F (b 0 + b 1 X 1 + b 2 X 2 …bkXk) +U

この式において、 被説明変数(Pr)は監査人のロピイング・ ポジションを表

しており、 それは賛成、 反対、 および中立という3つ立場に分類された。 そして、

この中から監査人がある基準に対していずれかの立場を選択する確率を説明する のである。 説明変数(X 1 …X k)には、 目的に応じて6つの代理変数のうちの いくつかあるいはすべてが用いられた。 また、 6つの調査対象の会計基準は、 監 査業務の増大を意味する新規ディスクロージャー基準(市場性のある有価証券、

リース会計、 セグメント報告、 およびGPLA)と、 必ずしも監査業務を増大さ せるわけではない会計方法を統一化する基準(石油・ ガス会計、 および外貨換算 会計)とに分類された。

彼女は、 複数のモデルの説明力を比較するために、 規制変数(NEWAUD、

SPEC、 およびSIZE)だけを組み込んだモデル、 エージェンシ一変数(INC、

BIG、 およびLOBBY)だけを組み込んだ、モデノレ、 およびすべての変数を組み込 んだ結合モデルについて回帰分析を行った。 その結果はそれぞれ表7.2.4、 表

7.2.5、 および表7.2.6に示されている。 その結果に関してPuroが指摘している

点は以下の通りである。

新規のディスクロージャー問題に関しては、 概してエージェンシー ・ モデルよ りも規制モデルのほうが説明力を持っている。 表7.2.6において、 規制変数の符 号はすべて予想通りで有意な結果も多く得られているのに対し、 エージェンシ一 変数の符号の一致率はかなり低く有意な結果が得られていない。 この結果が示し ているのは、 新規のディスクロージャー基準に関しては両者の利害は一致しにく いということである。

- 191 -

(14)

表7.2.4 r規制J変数モデルによるフロピット回帰分析

基準\変数(符号) NEWAUD(+) 市場性のある 1.6

有価証券 (0.27)

リース SIZE

とのMC

刀Z セグメント 0.45 (1.66) GPLA SIZE とのMC 石油 ・ ガス NA

0内はt値

MC:多重共線性のために除外 ト5%水準で有意

1%水準で有意

(出所: Puro [1984], pp. 637-638)

SPEC(ー) SIZE(+) χ2 (p <)

NA O.∞7 2.8

(0.6) (insig.)

-2.6 0.14 20.6

ホ* (2.6)件 (0.01)

NA O.∞1 8.45

(1. 79)* (0.025)

NA 0.0027 18.3

(4.2)叫 (0.01)

-0.12 NA 4.45

* (0.05)

表7.2.5 エージェンシ一変数モデノレによるプロビット回帰分析

基準\変数(符号) INC(ー) 市場性のある 0.04

有価証券 (1.1)

リース -0.04

(ー0.3)

刀て セグメント NA

GPLA -0.0003 (-1.0) 石油 ・ ガス data not

available

外貨換算 1.25

(3.4)村

0内はt11直

'lC:多重共線性のために除外

* : 5 %水準で有意

1%水準で有意

(出所: Puro [1984], pp. 637-638)

BIG(ー) LOBBY(+) χ2 (p <)

-0.10 0.6 3.3

(ー0.9) (0.5) (insig.)

0.11 -0.55 8.43

(1.3) (-0.5) (0.025)

0.07 -1.3 9.8

α 7)件 (-1.0) (0.01)

0.03 -0.98 21.2

(3.3)** (-0.33) (0.01)

ー0.28 3.8 13.01

(2.0)* (3.1)料 (0.01)

-121 4.48 20.8

(-3.4)** (2.23)* (0.01)

- 192 -

2 r

0.08

0.74

0.23

0.24

0.16

2 r

0.09

0.23

0.28

0.31

0.28

0.58

表7.2.6 結合モデルによるプロビット回帰分析

基準\変数 NEWAUD SPEC

有価 140.3

証券 (2.9)料

り一λ SIZE ー0.32

とのMC (-1.2)

刀t セクーメント 0.52 (1η GPLA SIZE とのMC

石油 -0.76

ガス (2.3)料

イヒ 外貨

換算

o内はt値

MC:多重共線性のために除外

* 50/0水準で有意 1%水準で有意 (出所: Puro [1984], p.639)

SIZE 0.016 (2.6)**

0.022 (2.1)本*

-0.007

。.0) 0.0005

(0.2)*

INC BIG LOBBY ー0.299 -0.10 ー0.06 (-2.1)** (-0.9) (-0.5)

SPEC -0.04 -2.14

とのMC (0.112) (-1. 7)車

0.29 -1.3

α.4)草本 (-0.15) ー0.0003 0.04 ー0.98

(-1.0) (1.2)* (-0.33)

0.69 1.96

(1.5) (1.15)

1.25 -1.21 4.48

(3.4) (-3.4)事事 (2.3)事

.

χ r

23.8 0.69

23.8 0.86

18.2 0.56

21.3 0.31

19.3 0.64 5 20.8 0.58

他方、 会計方法統一化問題に関しては、 比較的、 エージェンシー ・ モデルの方 が説明力を持っており、 特にLOBBYの説明力が大きい。 これは、 会計方法を 統一化する基準の制定に際しては監査人と顧客の問で利害の一致が起こりやすい ということを示している。 ただし、 ここで重要なのは、 INCが説明力を持たな いということである。 このことが意味するのは、 両者の利害の一致は、 Watts &

Zimmermanの仮説一一監査報酬が顧客の富の大きさに依存しているので監査人 とその顧客のロビイング・ ポジションは一致する一ーでは説明できないというこ とである。

[第7章補論注]

I}監査人とその顧客のロビイング ポジションの関連性については第6章でふれたよう

- 193 -

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