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補論 基準設定機関内部の行動に関する実証研究

ドキュメント内 米国における会計規制論の再検討 (ページ 34-43)

この補論では、APBおよびFASBといった会計基準設定機関の内部における 委員の投票行動に関する主要な研究として、第6章本論で取り上げた、Meyer [1974]、Rockness & Nikol訂[1977]、 Newman [1981]、およびSelto& Grove [1982;

1983Jの分析内容とその結果を検討する九

1.APB委員の独立性の検証(Meyer[1974])

Metcalf委員会報告書が公表される以前から、APB委員は独立性が欠如してい るのではなし1かという懸念が抱かれていたへそこでMeyer[1974] は、APB委 員の外部集団 (つまり勤務先別集団)からの独立性一一特定集団によるAPBの 支配の有無ーーを検証している。 彼は、総勢57人のAPB委員を(1)ビッグ・エ イト会計事務所、(2)その他の会計事務所、(3)産業界、および(4)学界という4つ

の勤務先別集団に分類し、APB意見書が公表される際にこれら4つのグ、ループ に属するそれぞれの委員がどのような投票行動をとったかを分析した九これ は表6.2.1に集計されている。

表6.2.1勤務先別の投票パターン〈すべてのAPB意見書)

よ寸と

ピッグ・ エイト 票数258 76.8 % その他の会計事務所 263 87.4

産業界 83 79.8

学界 69 74.2

ßコ 圭ロt 646 80.5

(出所: Meyer [1974J. p. 191)

限定付賛成

票数 % 39 11.6 19 7.1 13 12.5 15 16.1 86 10.7

148

-反 対 総 数

票数 % 票数 % 39 11.6 336 100 15 5.5 270 100 8 7.7 104 100

9 9.7 93 100

71 8.8 803 100

Meyerは、表6.2.1のデータに関して、各委員の勤務先別集団と投票との聞に は関連性はない (つまり独立性がある )という帰無仮説を設定して、カイ2乗検 定を行った結果、これは2 0/0水準で、棄却された ) 。 したがって、各委員の投票 と勤務先別集団の間には依存関係があったことになる九そこで、このような 依存関係があることを仮定した場合に、同質なメンバーからなる特定のグ、ループ がAPBの決定を支配しているかどうかを検討した。

特にMeyerが注目したのはビッグ・エイトによる支配である。 表6.2.1から 分かる ように、ビッグ・エイト代表の委員が反対の投票を行った頻度は11 .6%

で最も高い口 また、その他すべての委員を1つのグ、ループとすると、反対票を投 じた相対頻度は7.0 %で、ビッグ・エイトよりも小さい。 また、ビッグ・ エイ トの無限定賛成の頻度は76.8 %で非ビッグ・エイトの83.0 0/0よりも小さくなっ ている。 これらのことは、他のグループと比べてビッグ・エイトの見解は公表さ れた意見書に反映されていないということを示しており、それゆえ、 「明らかに 大会計事務所の代表者が採っている見解とは無関係に、その他のAPBのメンバ ーは投票を行っていたJ 5)という結論が得られる。

次いで、特に重要と思われる7つの意見書勺こついて、同様の分析を加えた。

これらを選定した規準は、(1 )その基準を適用すると財務諸表全体に影響が及ぶ こと、(2)様々な産業に一般適用されること、および(3)公表前に大きな論争があ

って、 それを解決したこと、 の3つである。 これら7つの意見書に関する投票パ

ターンは表6.2.2に要約されている。

表6.2.2 勤務先別の投票パターン(7つのAPB意見書)

よケh

ビッグ・ エイト 票数37 賛 成66.0 % 票数限定付賛成8 14.2 % 票数11 反 対19.8 % 票数56 総 数100 % その他の会計事務所 34 77.3 3 6.8 7 15.9 44 100

産業界 10 62.5 2 12.5 4 25.0 16 100

学界 6 42.9 3 21.4 5 35.7 14 100

合 計 87 66.9 16 12.3 27 20.8 130

(出所:Meyer [1974J. p. 1-93)

149

-ここでも、表6.2 .1の場合と同様の帰無仮説を設定して、カイ2乗検定を行っ た結果、この独立性についての帰無仮説は棄却されなかった。 つまり、これら7 つの意見書に関しては、各委員の投票パターンは 勤務先分類とは関連性がないと いう仮説を否定する合理的な根拠はないことになる。 また、ビッグ・ エイトと非 ビッグ ・ エイトの投票パターンとの聞にはほとんど差が見られず、それゆえビッ

グ ・ エイトによる支配は認められなかった。

さらにMeyerは、ビッグ・エイトの委員の間で2/3の賛成を得られなかった

意見書が4つあったηと指摘している。 これは、 ビッグ・ エイト以外の会計事 務所の委員の間で2βの賛成が得られなかったのは1つ(第16号)、またビッ グ・ エイトを含む全会計士の間でも1つ(第20号)であったということと比較

してみれば、r 8大会計事務所聞の対立の状況が意外と大きかったことを示して いるJ S)と考えられよう。

2.投票ブロックの検証(Rockness & Nikol泊[1977])

Meyer [1974]では、勤務先別集団内の同質性を仮定して、委員の 勤務先別集 団からの独立性が検証された。 しかし、それ以外の同質な集団が形成されている

可能性もある。 この点を補完するような形でAPB委員の投票行動を研究した

Rockness & Nikolむ[1977 ]は、(1)勤務先集団別の投票パターンの有無、(2)時系

列的な投票パターンの変化、(3)顧客の圧力からの委員の独立性、および(4)勤務 先月リ以外の投票ブロックの有無、という4つの課題を検証している。

彼らの研究の特徴は、多次元尺度構成法(mu1tidimensional sωling : l'vIDS)を

用いて、APB委員による投票の類似性を多次元空間に表現した点にある。1\⑪S とは、 簡単に言えば、 対象聞の類似性をもとに、対象をなるべく少数次元のユー クリッド空間に布置する方法のことである9)。 その中でもRockness& Nikolaiは、

ノンメトリックh⑪Sと呼ばれる手法を用いているヘ

Rockness & Nikolaiはノンメトリックb⑪Sの分析を行うにあたって、まず31 150

-すべての意見書について、57人のAPB委員の投票を1対1で対応させ、それ ぞれの組の類似性を表4のように分類した(括弧内はダミー値)。 ただし、投票 数が2票以下の7名の委員は除外されている。 それゆえ、31個の50x 50の類 似性行列が作成された)。

表6.2.3 APB委員XiとXjの投票類似性の組み合わせ

云----ミl

賛 成 限定付賛成

賛 成 非常に類似(1) 中程度に類似(5) 限定付賛成 中程度に類似(5) 非常に類似(1) 反 対 非常に異質問 中程度に類似(5) (出所:Rockness & Nikolai [1977J, p. 157)

反 対 非常に異質問 中程度に類似(5) 非常に類似(1)

次に、31個の類似性行列を1つの行列に変換し、MDSアルゴリズムにイン プットする。 ここで使用されたアルゴリズムは、Young, Ta.kane, & deLeeuwの ALSCALである。 そして、31の意見書に関する50人の委員の各投票が、図

6.2 .1のように3次元空間に布置された(この場合、 第3次元は鉛直方向という ことになる)。 各委員の識別番号および勤務先分類等については表 6.2 .4 を参照 されたい(除外された7人の委員には識別番号が付されていなし\)。

l'vIDSマップにおいては、座標軸(すなわち類似性を示す固有ベクトル)を特

徴づける外的基準はない。 それゆえ、 それぞれの軸が何を表しているのかについ

ての事後的解釈が必要になる。 Rockness& Nikolむの図6.2.1についての解釈は

次の通りである。 まず、初期の委員が第2象限に、そして後期の委員が第4象限 に集まっていることから、第1次元(横軸)は時間軸を表していると考えられる。

だとすれば、このことは時間の経過に伴うAPBの構造変化(目的と求められる 役割の変化)があったことを示しているはずである。 すなわち、APBの初期に

はGAAP確立のための理論的研究が指向され、中期にはいくつかの切迫した問 題に取り組まねばならなかったために問題解決が指向され、 そして後期には APBが会計士業界の「家政婦」になってしまった、という変化を反映している

というのであるヘ

151

-⑫Spacek

(出所:Rockness & Nikolai [1977]. p. 158)

第2次元(縦軸)については、 会計事務所代表などの実務派が上方の極に位置 し、 学界代表の概念派が比較的下方に位置していることから、 この軸は緩やかで はあるが「概念的.実務的J次元を表していると考えられる。 ただし、 勤務先別 のクラスターは見られない。 また、 第3次元には大きな特徴はない。

さて、 上述のような時系列的な変化があったとすれば、 委員の同質性に基づい

て期間を区切って分析を行う必要がある。 そこでRockness & Nikolむは、 委員 を3つのグループに分け、 特定の意見書集合についてALSCAL解を求めた。 各 グループごとの結果は、 それぞれ、 図6.2ム図6.2.3、 および図6.2.4と図6.2.5 に示されている(図6.2.2および図6.2.3 については第3次元は省略している)。

図6.2.2に示される初期の委員グ、ループ1(委員1-21)について、 次のような 解釈をRockness& Nikol出は与えているロ まず、 図6.2.1 で見られた時間軸はな

くなり、 その代わりに強い「概念的ー実務的J次元を表す軸(第1次元)が現れ た。 また、 第1次元と第2次元の中央部周辺に比較的大きな集団があり、 その中 でさらに2つの集団が形成されている。 これは、 概念派と実務派の均衡を保って

152

-いる、 あるいはそれらの聞の妥協を容易にして-いる、 と考えられる。 第3次元に ついては、 明確な特徴は見られなかった。

表6.2.4 APB委員一覧表 議別 氏 名 勤務先分類

番号

1 Herman W. Bevis Big 8 2 Carman G. Blough

3 Arthur M. Cannon Industry 4 W. Allen Crichley Industry 5 Walter F. Frese Academic 6 Ira N. Frisbee Local CPA 7 Thomas G. Higgins Big 8 8 Alvin R. Jennings Big 8 9 John W. McEachren Big 8 10 C. A. .Moyer Academic 11 Ira A. Schur National 12 LHWeaiosIbnseeal

rrt d TAiSp.pp Wa it ceak lk Big 8

13 Hassel Tiooit Bi

14 er Indgu8 strCy PA

15 Marshall S. Armstrong Local 16 LMEaruo ry i Layton National

17 Maurice Moonitz Academic 18 Louis H. Penny Local CPA 19 John Peoples Big 8 20 J ohn W. Queenan Big 8 21 Robert E. Witschey Local CPA 22 Oral L LVu. peer irn H IndustrCy PA 23 Clifford V. Heim bucher Local 24 George R. Catlett Big 8 25 Sidney Davidson Academic 26 Philip L. Deflese Big 8 27 Robert J. Murphey Local CPA 28 Frank T. Weston Big 8 29 Donald J. Bevis Big 8 30 John C. BiCeg11lmer m Big 8 31 Joseph P. Cummings Big 8 32 Newman T. Halvorson Big 8 33 John K. McClare National 34 Milton M. Brocker Local CPA 35 Kenneth S. Axelson Industry 36 Emmett S. Harrington Big 8 37 Charles B. Hellerson National 38 Charles T. Horngren Academic 39 Louis M . Kessler National 40 J. S. Seidman National 41 George C. Watt Big 8

勤務先

Price-Waterhouse AICPA-SEC

Standard Insurance Co.

Diamond Alkali Co.

Harvard Business School Ira N. Frisbee & Co.

Arthur ,YR Looyusns brg a &Co.

Coopers, Lybrand Touche Ross

Univ. of Illinois S. Leidesdorf & Co.

Arth ur Andersen & Co.

Ernst & Ernst U.S. Steel C0 o1irvpf ration George S. Olive & Co.

Main, Lafrentz & Co.

Univ. of Califomia, Berkeley L. H.MPeanr nwy i &Co.

Peat, Marwick Haskins & Sells

Witschey, Harman, & White Standard Oil Co. of N.Y.

Farquhar & Heimbucher Arth ur Anderen & Co.

hCU4on1o1irvpp.ehroesf y.-CLJhyeibrc lraralgeno

,d &Jones Arthur Young & Co.

Touche Ross

Price, Waterhouse & Co.

Peat, Marwick Ernst & Ernst

S. Leidesdorf & Co.

Brocker, Hendrickson & Co.

J. C. Penney Co.

Haskins & Sells Hurdman & Cranstoun Star1ford Universi& ty Alexander Grant & Co.

Seidman & Seidman Price, Waterhouse & Co.

投票した意 見書の号数

1-7 1- 5 1- 3 1-12 1-12 1- 5 1-5 1-5 1- 3 1-5 1-7 1- 5 1- 7 1-12 3-15 3-17 3- 7 3-12 3- 7 3-12 4-10 5-21 6-12 6 -21 6-17 6-31 6-12 6-21 1- 2 8-12 8-31 8-31 8 -12 11-31 13-17 13-21 13-31 13一一31 13ー15,時一31 13-17 13-31 42 Led E. Burger Local CPA McGladrey, Hansen, Dunn & Co. 16-ー31 43 Robert Hampton m

44 Robert L. Ferst 45 David Norr 46 Glenn A. Welsch 47 Albert J. Bows 48 Oscar S. Gellein 49 Donald J. Hayes 50 Allan Wear

Gordon S. Battelle William M. Black Joseph Campbel I

Herbert E. Miller Weldon Powell

Robert M. Trueblood John H. Zebley. Jr

National National AIncdaudsetmry ic Big 8 Big 8 Big 8

Industry Big 8

S. Leidcsdorf & Co.

Laventhol, Horwath First Manhattan CLu osrtpIn . Univ. of Texas, A Arth ur Andersen & Co.

Haskins & Sells Arth ur Young & Co.

Ford Motor Co.

Battellee & Battellee Peat, Marwick

Government Comptroller General of the U.S.

Academic Michiyan State University Big 8 Haskins & Sells

Big 8 Touch Ross

Turner, Crook, Zebley & Parry

(出所:Rockness & Nikolai [1977J. p. 158 ;細田[1979J, 115頁)

- 153

-16-31 18-31 18-31 18-31 22-31 22-31 22-31 22ー29 1- 2 1- 2 1- 2 1 - 2 1- 2 4-5 1- 2

図6.2.2委員1-21についてのALSCAL解:第l次元(横軸)対第2次元(縦軸)

�lQ�gh (?) CSEC-:_AICPA) \!:.I

ry10yer CAéademic)

。S氾acek CBig 8-AA)

。Moonitz CAcadernic)

(出所 Rockness & Nikolai [1977], p. 159)

③Cannon (Insur. Ind.)

⑪Witsch_ey CLocal) .

図6.2.3委員13-33についてのALSCAL解:第l 次元(横軸〉対第2次元〈縦軸) Bie2'ler

(Big 8-PW

Walker CSteel Ind.)

154

-次に、 中期の委員グループ(委員13-33)を示す 図6.2.3については、 以下の

ように解釈されている。 図6.2.3において、 学界代表を含む概念派の集団、 産業 界やビッグ・ エイト代表を含む集団、 および多くのAICPA会長を含む集団の3 つにクラスター分けできる。 これは3つの集団の聞に意見の対立があったことを 示しており、 この時期、 合併会計などの困難な問題に直面していたAPBの問題 解決能力が批判されていたことと符合している。 また、 もう1つの注目すべき点

は、 鉄鋼業界代表(14)と同業界の監査シェア1位・ 2位の会計事務所代表

(30および32)とがかなり近くに位置していることである。

後期の委員ク守ループ(委員 26-50)を示す図6.2.4および図6.2.5においては 明確な特徴を持つ集団は存在せず、 むしろ委員は一様に拡散して分布している。

ただし、 図6.2.4において、 Homgrenを極として学界代表らが比較的上方に位 置し、 ビッグ・ エイト代表者たちは比較的下方に位置していることから、 第2次 元は概念的一実務的次元を表していると考えることもできょう。 また、 図6.2.5 において、 自動車業界代表(48)と最も近接した場所に位置しているのが開業 界の監査シェア1位の会計事務所代表( 50)である点も注目に値する。

以上の分析結果から、 Rockness& Nikolaiは、 前述の4つの課題に対して次の

ような結論を下している。(1)勤務先別集団に基づく投票パターンを示す証拠は ほとんどなし1。 ただし、 学界代表とArthurAndersen事務所代表は、 常に他と比

べてそれぞれ異質な投票パターンを持っていた。(2)時系列的に見ると、 明らか

にシステマティックな投票パターンの変化があった。 つまり、 初期には中心的な 投票ブロック、 中期には3つに分割された投票ブロックが存在したが、 後期には 明確な投票ブロックは存在せず、 比較的不規則な投票パターンになった。(3)委 員の顧客からの独立性の欠如を示す弱い証拠がある。 つまり、 産業界代表とその

業界の監査において大きなシェアを占める会計事務所の代表との聞にきわめて強 い投票類似性が見られるケースが2つあった。(の勤務先に基づく集団というよ りも、 むしろ「概念的ー実務的J次元で対立する集団形成が見られたが、 これら

の概念派一実務派という両極端の中間に、 より大きな支配的集団が存在すること が確認された。

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ドキュメント内 米国における会計規制論の再検討 (ページ 34-43)

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