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ランダム行列に関する無限粒子系の確率解析

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Academic year: 2021

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九州大学学術情報リポジトリ

Kyushu University Institutional Repository

ランダム行列に関する無限粒子系の確率解析

河本, 陽介

https://doi.org/10.15017/1931725

出版情報:Kyushu University, 2017, 博士(数理学), 課程博士 バージョン:

権利関係:

(2)

(様式3)

氏 名 :河本 陽介

論 文 名 : Stochastic analysis for infinite particle systems related to random matrices

(ランダム行列に関する無限粒子系の確率解析)

区 分 :甲

論 文 内 容 の 要 旨

本論文は、著者が博士課程在学中に行ったランダム行列に関係する無限粒子系の力学についての 研究成果を纏めたものである。

ランダム行列とは成分が確率変数である行列のことを言う。考察対象はランダム行列の固有値分 布である。これは有限次元のランダム行列の各固有値を粒子とみなすことにより、有限粒子系の点 過程(ランダムな粒子配置)と見なせる。さらに、この点過程の粒子数無限大のスケーリング極限 は、対数ポテンシャルで相互作用する無限粒子系であるサイン点過程や Airy 点過程に収束する。

このようなランダム行列の極限分布は様々な強相関系で現れる普遍的な分布であり、確率論や量 子・統計物理において重要な役割を果たしている。加えて数論・表現論・組合せ論・可積分系など 多くの分野でもランダム行列の極限分布が出現することが知られており、ランダム行列の研究の動 機を与えてきた。

Gauss分布の力学版である Brown 運動が確率論において重要な役割を果たしているように、確

率論の指導原理の1つは、重要な分布に対応する自然な力学の構成・解析である。サイン点過程や Airy点過程に対応する力学は対数ポテンシャルで相互作用する無限粒子系の確率力学であり、無限 次元確率微分方程式(ISDE)で記述される。しかしこの力学は、対数ポテンシャルが長距離相互 作用ポテンシャルであるため、無限系ではISDEのドリフト項が絶対収束しないどころか、モデル によっては見かけ上は発散することもある。そのため従来の手法では取り扱いが困難であったが、

近年いくつかの方法によりサイン点過程やAiry 点過程に対応する ISDE が構成されている。著者 はこのようなISDEを解析する一般論を構成するとともに、実際にいくつかの具体例に対して適用 した。著者の方法は、相互作用ポテンシャルや可積分構造、各粒子が動く空間の次元などに依らな い。モデル依存でないISDEの一般論は本方法のみであり、この点が著者の研究の最大の特徴であ る。本論文の主結果について、以下ⅠとⅡに分けて述べる。

【Ⅰ】 先行研究において、無限粒子系の確率力学を表すISDEは、サイン点過程やAiry点過程に 対応するISDEも含めた広い範囲で構成されていた。しかし無限系と有限系の確率力学の関係は不 明であった。そこで確率力学の有限粒子系を構築し、ISDE が適切な有限粒子系の力学で近似でき ることを示した。著者は有限粒子系近似の一般定理を2種類構成した。これらにはそれぞれ長所が あり、適用範囲が異なる。以下この2つの手法の特徴を述べる。

(1) 1つ目はSDE(確率微分方程式)のドリフト項を評価する方法である。つまり、有限次元SDE

(3)

のドリフト項の係数が良い収束をしているとき、有限次元 SDE の解は対応する ISDE の解に収束 することを示した。長距離相互作用ポテンシャルを扱う場合、この手法では難しい計算を必要とす るものの、非対称な力学にも使えるなどの長所がある。さらにこの手法の具体例として、ランダム 行列に付随する典型的な力学であるDysonモデルの有限粒子系近似を示した。Dysonモデルの有限 粒子系近似は繊細な問題であり、有限次元 SDE の形式的な極限と実際の極限は異なる。この現象 は粒子間の相互作用が長距離相互作用ポテンシャルで与えられるということに起因しており、強相 関系に特有の現象である。

(2) 2つ目の方法ではSDEを直接扱うのではなく、SDEに対応する2次形式であるDirichlet形式 を用いた。まずISDE が一意的な解を持つとき、そのISDE に対応する Dirichlet 形式が一意に決 まることを示した。この一意性定理を使うことにより、Dirichlet 形式の収束概念である Mosco 収 束に帰着させることで有限粒子系近似を証明した。この手法は対称な力学に限られるものの、定理 の仮定を確認することが簡単である。特に、前節(1)での有限粒子系近似で要求されていた、モデル 依存の難しい計算は必要無い。

この手法によって、ランダム行列の普遍性の力学的対応物を確立することができた。これは

Donsker の不変原理のランダム行列版とみなすことができる。ランダム行列の普遍性とは、サイン

点過程や Airy 点過程が無限粒子系における普遍的な点過程であることを主張する。つまり、ラン ダム行列の固有値である有限粒子系の点過程はそのランダム行列のモデルごとに異なるが、適切な 無限粒子系へのスケーリング極限を取るとサイン点過程や Airy 点過程に収束する。ここで極限の 点過程は有限系のモデルによらない普遍的な対象である。ランダム行列の普遍性はランダム行列理 論の中心的課題として精力的に研究されているが、著者の結果はさらにそれらを力学版へと持ち上 げることができる。実際、様々な有限系の点過程にはそれぞれ有限系の力学が対応するが、そのモ デルに依存する有限次元 SDE は粒子数無限大の極限で普遍的なISDE に自動的に収束することを 導ける。

【Ⅱ】エルゴード分解定理のように、粒子系がその時間発展でどういう空間を運動するかを調べる ことは、力学に関する自然な問題である。しかし無限粒子系の場合、その状態空間は無限次元であ り巨大なため、運動する空間を特徴付けることは難しい。この問題の第一歩として、著者は密度不 変性の結果を得て、無限粒子系の力学に対する、ある不変集合を特定した。つまり、密度一定の粒 子配置全体は不変集合であり、出発点の無限個の粒子の配置がある平均密度を持つとすると、時間 発展してもその平均密度は変わらない。

この結果は、ISDE の強解の存在と一意性にとって本質的に重要である。点過程が末尾事象自明 ならば、対応するISDE は一意的な強解を持つ。また、点過程が末尾事象自明でない場合には、末 尾事象保存性が一意的な強解を持つことの十分条件であることが知られている。末尾事象保存性と は、無限粒子系の確率力学が時間発展において大域的な情報を表す末尾事象を変えないことをいう。

つまり、粒子配置の大域的な情報が時間発展で不変であることが、ISDE の強解の一意性の十分条 件である。しかし、実際に末尾事象保存性が成立するかどうかは未解決であった。著者の結果は、

この問題の部分的解決を与える。つまり、末尾事象が密度で特徴付けられる場合には、末尾事象自 明でない点過程に対応するISDEの強解の一意性は密度保存性より導くことができる。よって、密 度不変性は状態空間の特徴付けを与えるのみならず、強解の一意性が保証されるISDEの範囲を広 げることができる。

参照

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