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2018年度日本数学会賞秋季賞 長田博文 ‘長距離相互作用を持つ無限粒子系の確率力学とその剛性の研究’

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Academic year: 2021

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(1)201. 2018 年度日本数学会賞秋季賞. 長田博文(九州大学大学院数理学研究院) ‘長距離相互作用を持つ無限粒子系の確率力学とその剛性の研究’ ランダム行列の研究には長い歴史があり,特に行列の サイズが大きくなるときの挙動から法則性を見出すこと が重要です.固有値の極限分布に関する Wigner の半円 則は,その典型例と言えます.これに関連して,Dyson は固有値の時間発展を記述する確率微分方程式の研究を 提唱しました.行列のサイズが大きい場合をカバーする ためには,無限個の固有値の時間発展を考える必要があ りますが,これは独立なブラウン運動に,絶対収束しな い極めてデリケートな級数として表される長距離相互作 用の項が加わった無限次元確率微分方程式の系になりま す. 長田博文氏は,このような長距離相互作用を持つ無限 粒子系を含む,極めて一般的な設定の下で確率力学の研 究を推進し,際立った成果を次々に挙げています.これ までの無限粒子系の研究対象は,Ruelle クラスとよば 2018 年 9 月 25 日 (於 岡山大学) 総合講演での長田氏. れる遠方で可積分な相互作用から決まるモデルが中心で. した.自然界で最も基本的な相互作用であるクーロンポテンシャルは遠方での可積分性は持ちません ので,従来の Gibbs 分布の理論ではカバーできません.長田氏は,準 Gibbs 分布という Gibbs 分布の 拡張となる概念を新たに導入し,この分布に基づく設定の下で無限粒子系を記述する確率過程のディ リクレ形式による構成を行い,その対数微分を用いることで,無限次元確率微分方程式を解くための一 般論を構築しました.準 Gibbs 分布は,ランダム行列理論で代表的な分布である Dyson 点過程,Airy 点過程,Bessel 点過程,Ginibre 点過程といった対数ポテンシャルを含むため,氏の理論によりこれ まで扱いが困難であった長距離相互作用を持つ無限粒子系について,確率解析を展開することが可能 となりました. ついで長田氏は,種村秀紀氏らとともに,無限次元確率微分方程式の解の一意性の問題に取り組み ました.氏は,無限次元確率微分方程式に末尾事象の概念を持ち込み,末尾自明性から解の一意性を 導き出すという極めて独創性の高い方法により,このような確率微分方程式の強解の存在と,路ごと の一意性に関する理論を構築しました.いくつかの具体的な点過程を平衡分布に持つ無限粒子系につ いては,Spohn, Johansson, 永尾–Forrester らがランダム行列理論の立場から時空相関関数を用いる ことで構成した確率力学が知られていますが,長田氏の一意性理論により,これらが長田氏の構成し たものと一致することが分かります. 長田氏は,準 Gibbs 分布の中に通常の Gibbs 分布と全く異なる性質を持つクラスの分布があること. 数学 71 巻 2 号 2019 年 4 月. 89.

(2) 202. 長田博文氏の業績. も明らかにしています.点過程が Gibbs 分布である場合,点過程とその Palm 測度 (配置の中に特定 の点が含まれるという条件をつけた測度) は互いに絶対連続になることが知られていますが,長田氏 は白井朋之氏との共同研究で,Ginibre 点過程はその Palm 測度と互いに特異であり,さらに異なる 点に対する 2 つの Palm 測度は互いに絶対連続であることを示しました.この結果はさらに一般化さ れ,領域の外部配置を決めると内部配置の粒子数が一意に定まるという,結晶と似通った性質 (剛性) も示されています.相互作用を持つ無限粒子系の状態空間を無限次元の部分領域と見たとき,剛性は その自由度に対応する幾何学的性質です.氏の最近の研究では,関連した長距離相互作用を持つモデ ルにおいて,1 粒子に着目したときスケール極限が退化する,つまり粒子の動きが極端に遅くなるこ とが示されており,これも粒子系が剛性を持つことの現れと言えます. 以上のように,長田博文氏の業績は日本数学会賞秋季賞に誠に相応しいものであります.. 日 本 数 学 会 理事長 小薗 英雄. 長田博文氏の業績 − − −長距離相互作用を持つ無限粒子系の確率解析− − −. 舟 木 直 久 1 はじめに 長田博文氏は,これまで一貫して統計物理学に動機づけられた確率論の諸問題を研究してきた.均 質化 (homogenization),カオスの伝播1) ,フラクタル上の拡散過程,自己拡散2) 等に続き,その研 究は今回の授賞対象となった 2 体間長距離相互作用を持つ無限粒子系の解析へと一層の深化をみせて いる.長距離相互作用を持つ無限粒子系は,Dyson の干渉ブラウン運動に代表されるランダム行列 の固有値の時間発展において自然に現れるものである.長田氏の手法の基礎には,確率解析,特に無 限次元確率解析があるが,そこにポテンシャル論とも関わりの深いディリクレ形式の理論や,拡散方 程式の基本解に対する Nash 型の評価といった実解析の手法を巧妙に組み合わせることが特徴である. ([10]). 長田氏が扱う無限粒子系の時間発展を確率微分方程式によって記述すると,絶対収束しないが条件 収束するデリケートな項がドリフトに現れる.このように,長田氏の対象物は極めてもろいバランス の上に成り立ち,そのバランスは少しの揺動で崩れ去るように見えるのであるが,実際にはその逆の 現象が起きている.すなわち,系は剛性と呼ばれる性質を持ち,結晶構造に少しのランダムな揺動が 加わったかのような様相を呈する.この結晶構造は時間発展の下でも保たれるという不思議な現象が 起きる,というのが長田氏の主張である. 剛性を持たないという意味で対極にあるのが,独立に粒子 (点) をばら撒いて得られる Poisson 点 場3) である.これは相互作用を持たない非干渉ブラウン運動の平衡状態でもある.直感とは反するか. 数学 71 巻 2 号. 2019 年 4 月. 90.

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