氏 名 おおつ ゆき
大津 友紀
学 位 の 種 類
博士(医学)
報 告 番 号
甲第
1870号
学位授与の日付
令和
3年
3月
16日
学位授与の要件
学位規則第
4条第
1項該当(課程博士)
学 位 論 文 題 目
Assessment of inter-rater agreement between physicians and their patients regarding medication adherence in a clinical questionnaire study
(医師と患者間の服薬アドヒアランスにおける認識不一致の要 因分析に関する研究)
論 文 審 査 委 員 (主 査) 福岡大学 教授
川嵜 弘詔
(副 査) 福岡大学 教授
田代 忠
福岡大学 講師
前田 俊樹
内 容 の 要 旨
【目的】
慢性疾患の治療において、薬物治療は重要な役割を占めているが、服薬アドヒアラ ンスは不良なケースが多い。ノンアドヒアランスは医療資源の浪費、病状の悪化、薬剤 費の増加、入院リスクの上昇に繋がる。また、ノンアドヒアランスの要因として、治療 の長期化、服薬回数の多さ、用法の煩雑さ、認知機能の低下、病識や予防的服用に対す る理解の低さ、治療実感の希薄さ、他者からのサポート不足などが報告されているが、
医療従事者と患者間の服薬アドヒアランスに対する認識の乖離も要因の一つと考えられ る。本邦での調査では、医療従事者と患者間で服薬アドヒアランスに対する認識にギャ ップが存在することが報告されているが、主治医とその患者間で直接調査した研究は殆 どない。そこで、本研究では循環器疾患患者とその主治医を対象とした服薬アンケート 調査を実施し、主治医‐患者間の服薬アドヒアランスの認識の違いについて検討を行っ た。
【対象と方法】
2017 年 1 月から 2017 年 5 月までに、福岡大学病院循環器内科で慢性疾患に対し 6 カ
月以上かつ 1 種類以上の薬を処方されている 20 歳以上の外来患者 300 名を登録した。薬
剤師がスクリーニングを行い、電子カルテから無作為に対象患者を抽出した。選択バイ
アスを避けるために、主治医は患者の選択には関与せず,診察を実施後に患者と同じ内 容の自記式質問紙に回答した。なお、全ての患者及び主治医にインフォームド・コンセ ントを行い、書面による同意を得た。
アンケートは、継続可能な 1 日の服薬数や服薬回数、自宅での服薬管理者、直近 6 か 月での服薬忘れ、自己減量・中断、自己増量、残薬の取り扱いに関する内容とした。服 薬遵守の項目においては、“全くない”“殆どない”を「なし」、“たまにある”“よくあ る”を「あり」とした。許容可能な1日の薬剤数は「0~5 個」「6~9 個」「10 個以上」の 3 カテゴリーに、許容可能な1日の服薬回数は「1 日 1 回」 「1 日 2 回」 「1 日 3 回」 「1 日 4 回以上」の 4 カテゴリーに分類し解析を行った。主治医と患者間の回答の一致度は名義 尺度をκ係数、順序尺度を重み付きκ係数で評価し、Landis and Koch の基準に基づき判 定した。回答一致群と不一致群に分け、患者背景因子等を用いて単変量ロジスティック 回帰分析を行い、危険率(P)<0.05 となった因子について多重ロジスティック回帰分析 を行った。P<0.05 を有意とした。
【結果】
患者 300 名とその主治医 23 名がアンケートに回答した。患者の年齢は 70.6±12.3 歳、
61.0%(n=183)が男性であった。高血圧、脂質異常症、心不全の割合が高く(各 91.3%、
76.0%、62.3%) 、併用薬は、ARB、β遮断薬、高脂血症用薬が多かった(各 57.3%、51.3%、
66.3%) 。当科からの処方薬剤数は 1 日あたり 9.0 錠(6.0-12.0 錠) 、1 日の服薬回数は 2.0 回(2.0-3.0 回)、一包化は 84 例(28.0%)であった。主治医の平均年齢は 45.6±8.5 歳、91.3%が男性(n=21)であった。各主治医は 13±2.8 名の患者について質問紙を記入 した。
1 日の許容できる薬剤数は、患者側回答者 269 名中、0~5 錠が最も多かったが(183 名,68%) 、主治医は 132 例(49.1%)の患者に対し、1 日 10 錠以上が許容されると考えてい た。許容可能な薬剤数について、医師-患者間で有意な一致があったが、その一致度はわ ずかであった(重み付きκ係数 0.12、95%CI 0.04-0.19、P<0.01) 。
服薬回数においては、患者 137 名(46.3%)、医師 153 例(51.7%)で 1 日 2 回なら許 容できると考えていたが、許容可能な服薬回数に関する両者間の一致はなかった(重み付 きκ係数 0.09、95%CI 0.02-0.20、P=0.09) 。
自宅での薬剤管理については、患者、主治医共に患者自身が管理していると回答した 割合が高く(各 89.1%、88.5%) 、医師-患者間で中等度の一致がみられた(κ係数 0.44、95%CI 0.27-0.62、P<0.01) 。
残薬の取り扱いについては、自宅で保管しておくと回答した患者が多く(195 名、
65%) 、次いで自宅で廃棄が多かった(30 名、10%)。医師においては、自宅で保管(227
例、77.5%) 、薬局へ持参(31 例、10.3%)の順で多かった。残薬の取り扱いに対する、医
師-患者間で認識の一致はみられなかった。
意図的に自己中断・減量したことがあると回答した患者は 16 名であったが、医師は 19 例を推測していた。自己中断・減量に対する医師-患者間の回答一致度はわずかであった
(κ係数 0.18、95%CI -0.01-0.37、P<0.01)。一方、自己増量したことがあると回答 した患者はいなかったが、主治医は 8 例の患者が自己増量していると予測した。
また、直近 6 ヶ月で薬の飲み忘れがあると回答した患者は 95 人(31.7%)であったの に対し、主治医は 40 例(13.3%)の患者が飲み忘れありと予測していた。主治医は、服 薬し忘れた 95 例の患者のうち、76 例(80%)を特定できなかった。患者と主治医の回答 が一致していたのは 203 組(67.7%)、不一致は 97 組(32.3%)であった。服薬忘れに関 して、両者間の回答は一致していたが、その一致度はわずかであった(κ係数 0.12、
95%CI 0.01-0.22、P=0.02) 。
服薬忘れの有無において、回答不一致群は一致群と比べ、患者の年齢が低く、高血圧 の合併が少なく、ビグアナイド系薬及びβ遮断薬の使用率が有意に高かった。多重ロジ スティック回帰分析により、医師側は、高血圧症患者の服薬忘れは把握し易いが、ビグ アナイド系薬やβ-blocker を使用している患者の服薬忘れは把握し難いことが判明し た。
【結論】
医師と患者で服薬アドヒアランスの認識にはある程度の一貫性はあったが、その程度 はわずかであった。多重ロジスティック回帰分析では、高血圧症の欠如、β-blocker 及び ビグアナイド系薬剤の使用は、医師と患者の間の服薬忘れに関する回答不一致の独立した 予測因子であった。これらの結果を踏まえ、両者の服薬アドヒアランスに対する認識の違 いを明らかにし改善することは、治療を遂行するために重要である。
※捕捉
【Strength of agreement ( Landis and Koch(1977) 】
【選択基準】
患者:①20 歳以上
②性別不問
③心血管疾患の患者
Value of Kappa Strength of agreement
< 0.00 Poor
0.00-0.20 Slight
0.21-0.40 Fair
0.41-0.60 Moderate
0.61-0.80
Substantial0.81-1.00
Almost perfect④当科外来を 6 カ月以上定期受診している患者
⑤当科の処方薬(自己調節薬を除く)を 6 ヶ月以上継続服用している患者
⑥本研究に関する説明文書を用いた説明を受けて、自由意思により文書で研 究参加に同意した患者
医師:①福岡大学病院循環器内科外来にて診察を行っている医師 ②性別不問
③本研究に関する説明文書を用いた説明を受けて、自由意思により文書で研究 参加に同意した医師
【除外基準】
患者:①認知症等により本人からの同意取得が困難な患者
②日本語の理解が困難な患者
③研究担当者が研究対象者として不適切と判断した患者
審査の結果の要旨