紫外線が生物に及ぼす影響を示す教材の有効性の検 証
著者 森本 弘一, 松村 佳子, 江藤 芳彰
雑誌名 教育実践研究指導センター研究紀要
巻 9
ページ 65‑74
発行年 2000‑03‑31
その他のタイトル An examination of the potency of the teaching material that shows the effect of UV radiation on living things
URL http://hdl.handle.net/10105/4178
森本 弘一・松村 佳子 (奈良教育大学)
江藤 芳彰
(奈良県立信貴ケ丘高等学校)
An examination of the potency of the teaching material that shows the effect of UV radiation on living things
Kouichi MORIMOTO, Keiko MATSUMURA
(Department of Science Education, Nara University of Edcation) Yoshiaki ETHO
(Shigigaoka high school)
要旨:森本らがこれまでに開発した紫外線が生物に及ぼす影響を示す教材の有効性を検証するた めに、高等学校3年生を対象として、紫外線が生物に及ぼす影響を確かめる授業を行ったD有効 性の検証は、授業観察、実験レポート、アンケート、コンセプトマップを用いて行った。検証の 結果、これらの教材は、高等学校において充分実践利用できるものであり、生徒達の紫外線に対 する概念の変容をもたらすことが明らかとなった。以上のことから、本教材の生物IB 「生物と 環境に関する探求活動」への有効性を検証することが出来た。
キーワード:紫外線と生物、教材
Synopsis : In order to examine the potency of our teaching material that shows the effect of UV radiation on living things, we had a lesson with high school 3 graders. The methods are observation, experiment report, questionaire and concept map, It has been clarified that this material is useful for students and encourages change of their ideas.
Keywords : UV irradiation and living things, teaching material 1.はじめに
オゾン層破壊の原因がフロンガスであることは、 1986年10月28日の朝日新聞の夕刊に見ること が出来る。この頃から世界的にオゾン層破壊に対する関心が高まり、 1987年には、 「オゾン層を 破壊する物質に関するモントリオ‑ル議定書」が、 1998年には、 「オゾン層保護のためのウィー ン条約」が締結された1)。そして、オゾン層破壊のメカニズムが1995年のノーベル賞受賞者、ポー ランド.クルッツェン「窒素酸化物によるオゾン層破壊の可能性を提唱」、及びシャーウッド.
ローランドとモリオ.モリナ「冷蔵庫の冷媒用などのフロンによる破壊の可能性を指摘」により
明らかとなった。
日本の中学校、高等学校の社会、理科の現在使われている教科書でも、オゾン層破壊とそれに よって生じる紫外線量の増加、紫外線が生物に及ぼす影響について簡単ではあるが、触れられる ようになった。しかし、その記述は短く、具体例を載せるまでに至っていない。
我々の身の回りの紫外線は、今問題となっている太陽紫外線のみでなく殺菌灯や健康紫外線ラ ンプ、ブラックライトなどの人工紫外線も存在する。一般に殺菌灯は、短波長の紫外線254nm を放射することで知られている。これは、UVCと言われる波長280nm以下の紫外線である。名 前の通り、殺菌力が強く、病院などで雑菌が繁殖しないように用いられており、取り扱いに注意
を要するものである2)。発ガン性があることも知られている。健康紫外線ランプは、中波長の紫 外線280nmから320nm(UVB)を放射するものであり、従来はE]焼けを目的とするものとして 使われてきた3)。しかし、近年、UVBにも発ガン性があることが分かってきて、使われること
が少なくなってきた。ブラックライトは、長波長の紫外線320nmから380nm(UVA)を放射す るものであり、日焼けサロンやディスプレイ、宝石鑑定などで使われている3)。人体への影響は 少ないと言われているが、サンタンと呼ばれる日焼けをおこし、目の網膜付近まで到達する1)こ
とから何らかの影響があるものと推察される。
健康で快適な生活を送るためには、紫外線が生物に及ぼす影響について実験を通して認識する ことが必要である。子供達の紫外線に対する認識を調べた報告によると、学年が上がるにつれて、
認識の度合いは高くなるものの、曖昧であったり、誤まった認識があるとのことである4)。
紫外線が生物に及ぼす影響を学習内容として取り入れる必要性については、オズポーン5)、メ ンマー6)が主張している。内容としては、太陽紫外線が皮膚ガンの原因になることや免疫力を弱 めること、紫外線は、目に大きな影響を及ぼすこと、戸外では、雪や水面での紫外線の反射を考 慮すべきである、といったものである。
異体的な教材例としては、コケ類に対する殺菌灯(UVC)の影響を調べたもの7)、酵母を用 いて殺菌灯の影響を調べたもの8)、ショウジョウバェを用いて殺菌灯と健康紫外線ランプ(UV B)の影響を調べたもの9)、アサガオ、ナス、アオウキクサ葉状体、ダイコンの芽生え、バナナ 果実を用いて殺菌灯と健康紫外線ランプの影響を調べたものがある10)。
これらの教材例は、多くが実験室で行われたものであり、実際に生徒が実験を行ったものは少 ない。そこで、これまで開発された教材が、高校生に実施できるものであるのか、実施した結果、
どのような変容が起こるのかを調査し、これらの教材の有効性を検証することとした。この教材 は、生物IB「(3)生物と環境 ウ生物と環境に関する探求活動」で実施される単元を想定してい
る。
2.授業実践
2.1.実施期日と実施対象者 1999年9月20日〜10月8日
奈良県立信貴ケ丘高等学校 3年5組、3年6組 生物選択者 男子15名女子24名 2.2.学習指導案
2.2.1.目標
紫外線に対する知識を、具体的な実験を通して得ることにより、日常生活の中での問題に適切 に対処しようとする態度を育てる。
2.2.2.指導計画 第1時
①紫外線に関する概念地図(コンセプトマップ)を描く。
第2時
①TV会議により、専門家(奈良教育大学の先生)の話を聞く。
②各個人もしくはグループで、紫外線に関して疑問に思ったことをコンピュータを用いて調べる。
・教師が作成したソフトウェアを用いて紫外線に関して疑問に思ったことを検索する。
第3時
①紫外線が生物に及ぼす影響を調べる実験例を知り、各グループで実験計画を立てる。
③各グループの実験計画を発表する。
・バナナの果皮、ショウジョウバエの3令幼虫、アサガオの葉に紫外線(UVB、UVC)を照射 する。UVBの照射には、健康紫外線を用い、UVCの照射には、殺菌灯を用いる。
紫外線照射は暗箱の中で行う。
・バナナについては、日焼け止めクリームの効果も調べる。
・照射線量は2000J/ポまでとする。照射線量は、照射距離と照射時間により求める。
第4時
①各グループが立てた実験計画に沿って、実験を行う。
第5、6時
①照射した生物の変化を観察し、記録する。
第7時
①実験結果の分析を行い、レポートを書く。
第8時
①実験結果を各グループごとに発表して、討論する。
②教師の話(内容の補足)を聞く。
③紫外線に関する概要地図を描く。
3.結果と考察
3.1.生徒実験の結果から 3.1.1.アサガオ
鉢植えのアサガオに紫外線(UVC)を照射し、その影響を見た。結果を表1に示している。
これを見ると、500J/誠では、3枚のうち1枚の柔が黄色くなり、1000J/誠と1500J/誠で は、1枚の葉が枯れ、2000J/道では、3枚中2枚が枯れ、1枚が枯れ始めたことが分かる。こ れは森本ら10)の結果と同様な結果であり、高校生が実験可能であることが分かった。また、これ らの結果から紫外線の線量が大きくなるほど、アサガオの損傷が大きくなることが分かる。生徒 のレポートにおいても「紫外線(UVC)を長い間照射する程、植物の成長が抑制される。」とい
表1 アサガオの葉に対する紫外線(UVC)の影響(3枚の菓)
照射後の 日数 O J!m 2 500〟m 2 1000J/m 2 150仕丁/m 2 2008 〃m 2 2 日目
変化な し 変 化な し 3 枚 の 乗 の うち 2 枚 が黄 色 くなった
3 枚 中 2 枚 の 集 が ま だ ら
になった
全 体 的 に 少 し 枯 れ て き た
5 日目
変化 な し 1 枚 の薬の先 1 枚 の 乗 が 1 枚 の 葉 が 3 枚 中 2 枚 が 黄 色 く な
った
枯れ た 枯れ た が枯れ 、 1 枚 が 枯 れ 始 め た
7 日目
変化な し 5 日目と変 わ 5 日目 と変 わ 5 日 目 と あ 残 りの 1 枚 の らない らない ま り 変 わ ら
な い
薬 の 1 部 が枯 れ ていた ここで、J/m2は、kg・m2/(秒2・m2)で、単位面積当たりの照射エネルギーを示す。
う考察が見られた。このことから、この実験は、高校生が実施可能であり、結果の考察も可能で あることが分かった。
3.1.2.ショウジョウバエの3令幼虫
ペトリ皿にショウジョウバエの3令幼虫を置き、紫外線(UVC)を照射し、その影響を見た。
結果を表2に示している。これを見ると、紫外線を照射していないOJ/dにおいても7日目の 生存率が10匹中5匹、50%となっている。森本らの結果では、紫外線を照射していないOJ/d の生存率は100%であり、大きく異なっている。この原因の1つば、ショウジョウバェの培養瓶、
ふたの滅菌、恒温器の状態等の実験条件の違いによるものだと推察される。もう1つは、培養瓶 から3令幼虫をペトリ皿に移して、紫外線を照射し、その後、新しい培養瓶に3令幼虫を移すと いった操作を柄付き針を用いて行うが、その際に、ショウジョウバェに傷をつけたことが考えら れる。また、紫外線(UVC)250J/が、500J/壷、750J/が、1000J/崩の照射では、生存 率がはば0%となった。これらの結果は、森本ら9)の結果とほぼ同じである。しかし、この実験 では、線量が大きくなるほど生存率が下がるという線量依存性の関係は見られなかった。この原 因は、当初、この実験の照射線量は、UVBを照射する予定で計画したものだからである。実験 を実施する過程で、UVBを照射する健康紫外線ランプの数が不足し、急遽、UVCを照射する殺
表2 ショウジョウバェの3令幼虫に対する紫外線(UVC)の影響(総数10匹)
照 射 後 の 目数 O J / m 2 2 5 0J /m 2 5 0 0 J / m 2 7 5 0 J / m 2 1 0 0 0〟 m 2 2 日 目
蛸 4 匹 蛸 0 匹 蛸 1 匹 蛸 6 甲 蛸 2 匹
5 日 目
婦 3 匹 成 虫 1 匹
蛸 0 匹 輔 1 匹 蠣 6 匹 蛸 5 匹
7 日 目
成 虫 5 匹 成 虫 0 匹 成 虫 0 匹 成 虫 0 匹 成 虫 1 匹
ここで、J/m2は、kg・m2/(秒2・m2)で、単位面積当たりの照射エネルギーを示す。
菌灯に変更したためである。この時に、生存率の変化が見られる照射線量を300J/ポ以下に変 更すべきであった。そうすれば、線量依存性が見られたはずである。生徒のレポートにも「実験 前の予想では、線量が上がるごとに生存率が下がることを予想したが、実際は異なった。この原 因は、紫外線がきっすぎたことである。」と書かれている。このように、生徒が原因を的確に分 析したことは成果としてあげられるが、全体としては、この実験は、高校生にとっては実験はや や困難であると思われる。
3.1.3.バナナの果皮
バナナの果皮に紫外線(UVB)を照射した結果を表3と表4に示している。表3は、バナナ を3つの部分に分け照射した結果である。3つの部分は、何も覆っていない部分、アルミニウム 箔で覆った部分、サランラップで覆った部分である。これを見ると、500J/誼と1000J/崩で は、紫外線の影響が見られず、バナナの成熟による変化が見られる。1500J/崩と2000J/崩で は、何も覆っていない部分は、紫外線による損傷が見られ、果皮の色が茶色に変わっている。ア ルミニウム箔で覆われた部分は、紫外線照射後2日目までは、変化が見られなかったが、5日目 からは、バナナの成熟による変色が観察されている。サランラップで覆われた部分は、紫外線照 射後2日目から変色が観察されている。以上の結果から、バナナの果皮に対する紫外線の影響を 見ることが出来た。また紫外線の線量が高いほど障害が大きいことも示された。生徒のレポート には、「アルミホイルを巻いた所は、紫外線が反射して影響を受けなかった。サランラップを巻 いた所は、紫外線がサランラップを透過して茶色に変わったことが分かった。」と的確な考察が 述べられていた。
表3 バナナの果皮に対する紫外線(UVB)の影響
照 射 後 の 日数 5 0 0 J / m 2 10 0 0 〟m 2 15 00 〟 m 2 2 0 0 仇丁/ m 2 2 日 目
変 化 な し 変 化 な し 直 接 … 茶 色 ア ル ミ… 変 化 な し
ラ ッ プ ・ ‥黄 色
直接 … 茶 色 アル ミ… 変 化 な し ラ ップ ‥・ 黄 色 5 日 目
全 体 的 に 黄 色 、 全 体 的 に黄 色 、 直 接 … 茶 色 直 接 … 茶 色 斑 点 が 見 え て き 斑 点 が 見 え て き ア ル ミ…黄 色 、斑 点 アル ミ・ ‥黄 色 、斑 点
た た ラ ッ プ ・ ‥黄 色 ラ ップ … 黄 色
7 日 目
全 体 的 に 同 じ色 全 体 的 に 同 じ色 直 接 … 濃 い茶 色 直 接 … 濃 い 茶 色 で あ り、 アル ミ で あ り、 アル ミ ア ル ミ…黄 色 、軋 点 ア ル ミ… 黄 色 、斑 点 の部 分 だ け斑 点 の 部 分 だ け斑 点 ラ ップ …黄 色 ラ ッ プ …黄 色
あ り あ り ア ル ミ と ラ ッ プ の
境 界線 が 分 か る
ア ル ミ と ラ ッ プ の 境 界 線 が 分 か る
ここで、〟m2は、kg・m2!(秒2・m2)で、単位面積当たりの照射エネルギーを示す。直接…何も覆っていない部分 アルミ…アルミニウム箔で覆った部分 ラップ…サランラ ップで覆った部分
表4は、日焼け止めクリームの効果を調べたものである。これを見ると、500J/崩と1000J
/誠では、紫外線照射後7日目に、日焼け止めクリームを塗った部分は、成熟した黄色に変わっ ており、塗っていない部分は、濃い黄色に変わっている。1500J/崩と2000J/誠では、紫外線 照射後7日目に、日焼け止めクリームを塗った部分は、成熟した黄色に変わっている。それに対
表4 バナナの果皮に対する紫外線(UVB)の影響
照射後 の 日数 G 〃m 2 500J/m こ 1000〟m 2 150仏〃m 2 200(灯/m 2 2 日目 直接 変化 な し 変化な し 変化 な し 黄色 黄色
クリーム 変化 な し 変化 な し 変化 な し 変化 な し 変化 な し 7 日目 直接 黄色 濃 い黄色 濃い黄色 茶色 茶色
クリーム 黄色 黄色 黄色 黄色 黄色
ここで、J/m2は、kg・m2!(秒2・m2)で、単位面積当たりの照射エネルギーを示す。
直接‥・何も処理していない部分クリーム…日焼け止めクリームを塗った部分
して、塗っていない部分は、茶色に変わっている。以上の結果から、バナナの果皮に対する紫外 線の影響を見ることが出来、日焼け止めクリームの効果も確かめることが出来た。生徒のレポー
トの考察には、「紫外線の量が多いほど、バナナの皮への影響が大きく、その変化の表れも早い。
紫外線の量が少なくても、時間が経つにつれ変化が表れる。日焼け止めクリームを塗ると、紫外 線がバナナの皮に通らないことが分かった。」と述べられていた。以上のことから、本実験は、
高校生にとっても実験可能であり、対照実験との比較や損傷の線量依存に関する考察もできるこ とが分かった。
3.2.授業前と授業後の問いの比較から
授業の前後に、「陽射しの強い日に外に出かける場合、どのようなことに気をっけますか。」と いう問いに対して、生徒に回答してもらった。これは、授業で学習した成果が、日常生活でどの ように反映されるかを調べるために行ったものである。
図1は、授業前と授業後の回答の比較をしたものである。これを見ると、授業の前には、「気 をつけない」という回答をした者が17%いた。授業後には、「気をっけない」と書いた者は、皆 無であった。それだけ、紫外線に対する意識が向上したものと考えてよいだろう。「サングラス をかける」という回答は、授業前は皆無であったが、授業後は36%に増えた。テレビやラジオな どのマスコミは肌への影響を知らせているが、目への影響を知らせていないと恩われ、生徒は意 識していなかった。この学習で、目への影響を意識するようになったため、このように変化した ものと推察される。「日焼け止めクリームを塗る」という回答は、43%から69%と向上した。こ れは、サングラスとは異なり、日常的にコマーシャルなどでも宣伝されているので、元々意識し ていたものが、紫外線が生物に及ぼす影響を具体的な実験を通して学習したことで、より強く意 識されるようになったものと思われる。「日陰を歩く」「日傘をさす」は、授業前は、13%だった のが授業後は3%に減った。「服装に気をつける」という回答が23%から13%に減少したことも 同じ原因かもしれない。日陰を歩いたり、日傘をさしても地面からなどの反射を防ぐことは出来 ないことも考えての回答かもしれない。だが、日焼け止めクリームを過信することは、望ましい ことではない。クリームの成分の中には、皮膚に害を及ぼすものが含まれている可能性があるか らである。その点では、「帽子をかぶる」という回答が、40%から59%に向上したことは、望ま しいと言える。ややもすると、髪型を気にして帽子をかぶることに抵抗がある人がいるが、髪型 より体の方が大切である。帽子をかぶることは、紫外線を防御する上で、大きな効果があるので、
帽子 服装 日傘 日陰 クリーム サングラス 気をつけない その他 図1 陽射しの強い目に出かけるときに気をっけること
是非実施してもらいたいものである。
このアンケートの結果を総合的に分析するために、適切な対応が書かれているものを1項目1 点として集計を行った。例えば、「帽子をかぶる」と書かれていれば、1点であり、「帽子やサン
グラスを着用したり、日焼け止めクリームを塗る」と書かれていれば、3点とする。その結果、
授業前は、平均値が1.40、標準偏差が1.14であった。授業後は、平均値が2.03、標準偏差が0.81 であった。この平均値の差が有意であるかどうかZ検定を行ったところ、2.48となり、5%水準 で有意であることが認められた。つまり、授業後は、生徒たちが陽射し(紫外線)に対する防御 を意識するようになったということである。このように、この結果から、授業の効果が認められ た。
3,3.概念地図から
指導計画に示したように、授業の初めと終わりに生徒に概念地図を書いてもらった。概念地図 とは、ノヴァックらが頑の中の概念を視覚化する方法として開発したものであり、概念ラベル同 士を線で結び、線の横に概念同士の関係がわかるような文や語句を書いたものである11)。ここで 用いられた概念ラベルは、「太陽光」「紫外線」「可視光線」「赤外線」「UVAJ「UVBJ「UVCJ
「オゾン層」「日焼け」「白内障」「皮膚ガン」「肌の黒色化」「日焼け止めクリーム」「帽子」「サン グラス」「殺菌灯」「日焼けサロン」「ブラックライト」「動植物」の19個であった。これらの概念 ラベルをどう結び付け、その関係をどう述べるかによって、紫外線が生物に及ぼす影響について どの程度把握しており、それを表現できるかを見ようというものである。
図2 授業前のN男の概念地図
図2には、N男が授業前に措いた概念 地図を示している。これを見ると、使わ れている概念ラベルは、7個であり、概 念同士を結び付けている線は5つであり、
いずれの線にも説明が述べられている。
使われている概念ラベルの数が少ないも のの、概念同士の関係を説明する表現は どれも的確なものとなっている。このこ とから、日常生活の情報からでもある程 度紫外線に関する知識を得ているものと 推察される。
図3は、同じN男が授業後に描いた概 念地図を示している。これを見ると、使 われている概念ラベルは、20個と提示さ れた概念ラベルの数を越えている。これ は、概念地図を描く際に必要であれば、自分で考えた概念ラベルを付け加えてもよいというルー ルがあるからである。授業前と比べるとかなり増えている。授業前は、知らない概念ラベルがあ り、使うことが出来なかったのが、授業後は、使えるようになったものと思われる。概念同士を つなぐ線の数も15個と授業前よりかなり増えている。線の説明は、3つと少ないものの、いずれ
図3 授業後のN男の概念地図
ラベル数
図4 授業前と授業後の概念地図の違い
も的確なものであり、授業前の説明より高度であり、授業の内容を反映したものとなっている。
このように、N男に関しては、授業の効果を見ることが出来た。
この中で、太陽光は、紫外線、可視光線、赤外線を含んでおり、紫外線は、UVA、UVB、U VCを含んでいるとしている。これらは、いずれも波長の違いにより分類されるものであり、教 師が開発したソフトウェアにはそのように説明しているが、N男がそれをェネルギーの違いとし て把握しているかどうかは不明である。即ち、E=hレから、振動数が多いほどェネルギーは高 い、波長が短いほどェネルギーは高いということが導き出される。紫外線は赤外線に比べれば、
波長が短い電磁波であるからエネルギーが高く、生物に損傷を及ぼす、UVCは、紫外線の中で も波長が短い電磁波であるからェネルギーが高く、生物に大きな損傷を及ぼすというように考え ているかどうかである。E=hレは物理Ⅱの学習内容であり、N男は物理Ⅱを学習していないの で、おそらく、このようには捉えていないだろう。カリキュラム上、物理の履修が困難であれば、
このことを分かりやすく記した啓蒙書12)を紹介することなどが必要である。
次に、概念地図による評価を(全体的に)行うために、概念地図で使われているラベルの数と リンクの数を集計した。そのグラフが図4である。ラベル数は、概念地図で使われているラベル 数であり、その平均の個数を示している。リンク数は、概念同士を線で結ぶだけでなく、的確な 説明をされているものを1とし、線で結ぶだけのものは0.5として数値化した。例えば、図2の 場合、ラベル数は7、リンク数は5であり、図3の場合、ラベル数は20、リンク数は20.5である。
図4を見ると、ラベル数、リンク数いずれも授業前と比べて授業後は1.5倍に増えている。概念 ラベルの数は、授業前は、提示されたラベル数の全体の半分程度であったものが、授業後は、約
16とあと少しで提示された概念ラベル全てを使うような形となっている。
以上のように、概念ラベルを用いた評価においても本授業の有効性が認められた。
4.終わりに
森本らが開発した教材9)10)の有効性を検証するために、高校3年生を対象として授業を行った 結果、生徒のレポートに見られた実験結果と考察から、高校生にとって実験可能な教材であり、
結果の解釈も可能であることが分かった。ただし、ショウジョウバェの実験は、配慮を要するこ とも分かった。[]常生活での過ごし方を問うた回答に関しては、授業の前後で変容が見られ、授 業後は紫外線をより意識した生活を過ごすものと推察される。生徒が描いた概念地図を見ても、
授業の前後で変容が見られ、本授業が生徒達の概念の変容をもたらしていることが分かった。以 上のことから、森本らが開発した教材9)10)は生物IB「(3)生物と環境 り生物と環境に関する探 求活動」で実施可能であり、有効性が検証されたものと考える。
参考文献
1)環境庁地球環境部:「オゾン層破壊」、中央法規出版、1995
2)東芝ライテック株式会社:「TOSHIBA技術資料STD東芝殺菌ランプ、No.F−35C」、p.
3、1980
3)東芝ライテック株式会社:「TOSHIBA技術資料STD東芝健康線用蛍光ランプ、No.F−125」、
pp.1−5、1992
4)森本弘一:「紫外線の認識について」、『日本教科教育学会誌』、22(1)、pp19−29、1999 5)Osborne,J.andYoungAntony,R.:The biologicaleffects ofultra〜Violetradiation:a
modelforcontemporaryscienceeducation?,JournalBiologyofEducation,33(1),PP,
10−15、1998
6)Memmer,M.K.:Preventingeye damage from the sun sultravioletlight:Whathealth
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7)小笠原昇一:「胞子発芽で測る紫外線の影響」、『遺伝』、53、pp45−49、1999
8)MayoL.T.andFriedrichsenP.J.:Usingyeast and ultravioletradiation tointroduce
thescientificmethod.AmericanBiolo幻ノ7bacher,55(1),pp42−43、1993
9)森本弘一・中沢達也:「ショウジョウバェの幼虫に及ぼす紫外線の影響」、『生物教育』、37
(3・4)、pp98−105、1997
10)森本弘一・中道知子・二宮理恵:「植物に及ぼす紫外線の影響」、『生物教育』、39(3・4)、
pp122−128、1999
11)日本理科教育学会編:「キーワードから探るこれからの理科教育」、東洋館、1998 12)都築卓司:「10歳からの量子論」、講談社、1987