奈良教育大学学術リポジトリNEAR
灌漑用貯水池の水質に関する調査研究(第一報)
著者 太田 頼敏, 橋本 揚之助
雑誌名 奈良学芸大学紀要
巻 7
号 2
ページ 95‑103
発行年 1957‑12‑15
その他のタイトル Studies on the Physical & Chemical Analysis of Irrigational Reserved Water (I)
URL http://hdl.handle.net/10105/4886
(95)
港漑用貯水池の水質に関する調査研究(第一報)
太田頼敏・橋本揚之助 (農業工学教室)
(昭和32年10月1日受理)
Yorit:05i OTA and Y6nosuke HASIMOTO
Studies on the Physical&Chemical Analysis ofIrrigational ReSerVd Water(丁)
l 緒 論
水は有力な溶媒であるから自然界に於て純水は存在しないが,比較的含有物の少ない雨水が地 上に降ってから河水となって流れている問には,岩石や土壌を溶解する所謂風化作用を営む。従
って各河川の水質がその通過する地域の地質,都市下水,工場靡水等に依って異なることは当然 である。依って之等河川の水を直接,或は一旦貯消して後溝漑用に供する我国の水稲作に於て,
其の水質を充分考慮の上施肥設計を樹立すべきであることを確信するものである。
更に又現今人口の増加と産業の発展に伴って需要の急増したこの貴重な水資源について,質,畳 の両面から検討がなさるべきである。
筆者等ほ本年夏に奈良市並に高田市附近の潅漑用貯水池約30箇所を選定し,之を都市近接のも のから遠隔渓流を締切ったダム形式のもの迄一応分類的に調査して見たので之をここに報告する ものである。
今回は主として化学的組成の詭査であり,程々御援助を賜った本学高橋教官に厚く感謝する。
韮 諷 査 方 法 1.採水方法と実験法
含有物質が微量であるから次の点に留意して採水した。
(1)採水容器は透明な硝子瓶を使用した。
(2)瓶は洗源後温水,次に冷水で充分洗源しておく。
β)採集に当っては採集瓶を供試水で以て洗源する。
軸 試料は瓶に充満せしめる,又栓にはパッキングを施し,ゴム栓は用いない。
(5)採水場所は人家,通路等水質が特に汚染されると思われる所を避ける。
(6)採水位置は水面下30cmと定める。
(7)潅漑のため放水中のものは東に樋の出口の水流中心部を採水して比較検討することにした。
本年度は特に夏期を選んで調査したので採水後ホルマリンを滴下し冷暗所に置き順次試験に供し た。試験法は主として比色分析法に依ったのである。
(96) 太田頼敏・橋本揚之助 2.調査溜池の概要
奈良市西北部
番号(池 名i 所在地(受益面積!型 式l 貯 水 量I 堤 高[堤 長
(1)[ウ ワ ナ ベ 池 コ ナ ベ 池 水 上 池 乾 池 も み 池 大 池 南 新 池 カ ゴ 池 仏 池 入 道 池 新 池
奈良市東部及び南部
45町歩1一万堤 210,000m3
100,000 180,000 70,000 7,000 75,000 13,500 5,000 6,000 51,000
5.0m 4.5 3.0 4.5 3.0 10㌧0 4.0 5.0 10.0 10.0 30,000 1 8.0
番可 池 名l所在地[受益面積l型式l貯 水 量
福 寺 池 垣 添 池 丸 上 池 冨 池 新 池 平 尾 池 藤原射撃場用水 広 大 寺 池
高田市西部
京終町
永 井
北永井 南永井 藤原町 古市町 藤原町 帯解町
12町歩(四方堤
20 23 20 8 63
不明
95
91,000立方米
43,000 29,000 44,000 4,500 175,000
180.000
米54 4
.
4
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2
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一
米
0
0
0
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8
3
0
一
6 5 A T 5 2
尚漕池の所在については別に添付の図面を参照されたい。
潅漑用貯水池の水質に関する調査研究(第一報)
Ⅲ 調 査 結 果 1.奈良市附近
離日地 名l採取月日
(1〕j ウワナベ池 コ ナ ベ 池
水上池盈
乾 池
(5):モ ミ 池
(6);大 池
(7):南 新 池
(8)jカ ゴ 池
(9)i仏 池 ClO宮入 遺 池
(11〕l新 池
(12)「福
垣丸富藤 平 寺 池
癖 池 上 池 池 原 新 地
池
尾
射撃場用水 広大寺池上
出口
ク ク ク ク
恒U中略牒恒051lK20
4 3
3 4 3
4 4 4
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ワ シ 3 4
0 0 n U O O O O O O n U n U O O n U O O n U O n U n U O O O O O O O O O O O O n U O O O O O n U O O O n U 0
0 0 4 0 3 9 5 9 5 6 1 7 0 0 U O O O 5 8 C U O O n U 7
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2.高田市附近
0.34 0.06 0.09 0.32 0.08 0.02 0.08 0.12 0.04 0.12 0.10 0.18 0.04 0.4011.89 0.40 0.20 1).18 0.02 0.04
6.31 6.32 1.58 3.78 2.53 0.04】1.89
番可池 名l採朋中略−NiNO。−中っ205
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− ノ ヽ
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尺
万歳池(上)
ク ク
木 木 酉
(申)
(下)
戸代戸 池 新 池 上 池
下池 勝 根 池 鎌 田 池 鎌田池樋出口
4
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4 仁 U 8 8 8 9 0 0 7 7 n J 0 0 8 0
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Ⅳ 考
単位==p.p.m
CaO匝03ls叫SOA巨l
1;:鵠;;
n U O O O 7 4 0 5 2 2 3 3 2 2 2 2
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. ク ク ク ク ク 5
. 5
. ク ク ク
45ク ク 5.5.ク ク クク ク ク ク
単位こ=p.p.m
Feゴ03lsiO2lsOl
4 4 5 A T 0 0 0 0 0 0 0 0
19.8010.11
寮
6 2 n U O l l T
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仁 U 2 1
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ハ U O と U O 4 3 4 2 3 4 3 5
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4 3 3 65.ク ク ク ク ク ク ク ク ク ク
0 5 5 5
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水素イオン濃度 は全体にPII5・5〜5・6で微酸性であり,稲作上は適当と考えられる。参考迄 に大阪府下の35河川平均は6.9である。
石灰(CaO)は奈良市附近で3.78〜18.1p.p.m,平均9.07p.p.mである。押熊附近の山地で
(98) 太田精敏・橋本揚之助 はCa含量が非常に少なく奈良市近辺で多くなる傾向がある。
又高田市附近で13.6〜23.5p.p.m,平均19.73p.p.mで全体的に見て高田市附近が多量なのが注 目される。これは上流の二上山附近の地質の影響を受けるものと考えて良い。
参考迄に奈良県吉野川は24.8p.p.mで全国的に見ても上位になる。含有塩類濃度と石灰含有量と は大体正比例している様に考えられる。大阪府下35河川の平均は17.8p.p.mである。
加盟(K20)は肥料三要素中,水に最も多く溶存する養分である。
奈良附近で1.58〜7.58p.p.m,平均4.01p.p.lnで二,三の池を除いては大体3〜5位である。
高田市附近では0.614〜3.67p.p.m,平均2.35p.p.mである。
我国の河川の平均は1.28p.p.mであり,かんがい水中に1.5p.p.m以上の加壁を含有する場合は 永田に加里肥料をはどこす必要がないといわれていることから考えても,これらの溜池の水質は 大部分良質といってよい。
硫酸(SO4)は奈良市附近で0〜34.6p.p.rn平均7.38p.p.mであり山池では殆んど含有され ていないが京終附近では大量含有されて居り,これは工場による汚染と見て良い。
高田市附近では更に大量となり34〜60.6p.p.m,平均10.95p.p.mという大なる値を示している。
これはこの上流に染料工場が多く存在していることに深い関係がノある。大壷の値になると稲の根 腐れ等が発生する原因となり,重大問題である。
参考迄に大阪府下の河川は2.4〜24.7p.pmであり,相当これの被害が問題視され,充分な対策が 樹立すべきであると提唱されている。思うに工業の発達は反面沃野の荒廃を来す恐れなしとしな
い0
塩素(Cl)は奈良市附近で5.2〜16.5p.p.m,平均11.6p.p.mであり矢張り京終附近は大量で ある。但しクワナべ池は自衛隊の浄化装置があるためこの池が汚染され特に高い情を示すものと 考られる。
高田市附近では更に大量となり12.85〜工9.Op.p.m,平均i6.58p.p.mであり,当然工場及び下 水による汚染と考えて良い。
大阪府下の河川は3.9〜30.5p.p.mの問にあり,光明池は28.2p.p.mの多量を溶存するという。
勿論之は都市下水及び工場廃水の影響であるのだろう。但し塩害は0.1%位から起るというから 農業上差支えはないが,勿論柑橘類の場合は潅漑水中に0.02%以上含んではならないとされてい
るので考慮すべきである。
珪酸(SiO2)穀類には珪酸の含量が多く根から菜や籾殻に移行して表皮細胞の磋質化が行なわ れて病菌の侵入が阻止されるから,稲熱病や胡麻菓枯病の予防に大なる関係があるといわれてい るので珪酸含量の多い程良いわけであるが,全国平均値に比し少ない,但し火山岩地帯では特に 珪酸塩が多いのでこれら特定の地方を除いた我国潅漑水の平均値とは余り差がないことが知られ
る。すなわち奈良市附近では1.0〜7.4p.p.m,平均1.9p.p.mであり,特に射撃場用水は多量溶 存し良質といって良い。
高田市附近では1.0〜5.6p.p.mであり奈良市附近と大差はない。
本邦の夏期潅漑水中の珪酸の平均含量は20p.p.m内外であり1反歩当りの濃漑水量を1夏8000石
(約14450000 と仮定して計算すると,1皮歩当り濯漑水による珪酸の平均供給量は28.4kgと なり,之を可溶性珪敢20%の珪酸カルレクムで施用するとすれば実に143kgの多量に匹敵する。
大阪府下の河川の平均は16.Op.p.mであり,奈良県吉野川で6.4p.p.mであるから本県は比較的 に恵まれていない結果になる。
港漑用貯水池の水質に関する諏査研究(第一報) (99)
淀川は7.2p.p.mでこれは菟琶湖に珪酸が沈積する結果流下が減るものと考えられている。
鉄(Fe203)の土壌中に於ける欠乏は秋藩等の患い徴候が現われるから近時肥鉄土の客土等が 全国各地で行なわれているd反面河水を利用する水道では鉄分の増加は汚染を示す指標とみなし ている様である。
奈良市附近では0.09〜0.80p.p.m,平均0.22p.p.mで,後述の地獄谷池は多量溶存し,特に水底 附近には多量沈積している。これは地質の影響を受け易く,奈良県吉野川は6.02p.p.mで全国的 にも屈指であり今後の大和平野導水工事に伴って水質は石灰分と鉄分に関し相当変革が来たされ
るものと考える。高田市附近では0.04〜0.10p.p.m平均0.06p.p.mで少量である。
燐酸(P205)は奈良市附近で0.02〜0.40p.p.m,平均0.14p.p.mである。
広大寺池では表層水が0.04p.p.m,樋の出口の流水は0.38p.p.mで,その比率は実に10倍にも なるが,これは高出市附近の鎌田池も同様で野池の特性と見撤してよかろう。
高田市附近では0.05〜0.45p.p.mで平均0.12p.p.mである。
大阪府下の河川では0.01〜0.16p.p.mで平均0.04p.p.mと更に微量である。
硝酸態窒素(NO3−N)は奈良市附近で0.21〜0.88p.p.m,平均0.62p.p.mである。高田市 附近では0.67〜0.92p.p.m,平均0.84p.p.汀㍉であり,大阪府の河川が0.11〜0.67p.p.mの問 にあることと比較しやゝ溜池の方が多量である。
アンモニヤ態窒素(NH4−N)は奈良市附近では0.02〜0.04p.p.mであり,平均0.03p.p.m である。高田市附近ほ0.04〜0.10p.p.m,平均0.07p.p.mで奈良市附近と大差はない。次にこ れら無機塩類が水深と共に変化を受け易い点も考慮し,今夏の実験計画の一つとして舟の庚のあ
る地獄谷池に於て自製採水器に依り各水深毎の採水を行いこれを分析し叉水温を観測したが,次 の様な結果を得たので之を報告し参考に供したい。
地獄谷池概要
池 名 所在地 受益面積 型式 貯水量 堤高 堤長 地獄谷池 奈良市春日山 7.0町歩 一方堤 40,000立方米 12米 200来 採水目時 8月22日午後0時30分一午後1時30分
表層水温度 280C 最大水深10m弱 採水場所 堤防の中心部より20m上流(取水装置附近)
上記の如く水温は水深と共に低下し水深9mの点に於てほ実に表層水より14。C低くなってい る。又鉄,硫酸については深層に於て急増している。
鉄については池底の影響が大であり相当上流地帯が鉄分を多く含んだ土質であり,この様な結 果を生んだものと考えてよい。
(100) 太田頼敏・橋本揚之助
本池は完全なるダム形式の山池であり,既述の野池と比しこの点特異点が見出されるのである。
水温分布,及び鉄,硫酸含量が水深と共に変化する状況を示せばそれぞれ第1図,第2図の如く である。
Fig.1 水 温 分 布
ll
1 2 3 4 5 (I 7 8 9 10
水深(m)
Fig.2 化学組成の変化
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3 0
)4 m ・)
2 0 18 1 6 14 ノ2 1 0
I
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F e2 0 3
/
0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 1 0
水深(m)
鋤 1・︒霊桐の0
窒素,燐酸,PF,石灰,珪酸,塩素についてに水深による変化は僅少であり,加里については やゝ減少の傾向を認める。
このことは既述の野池に於てほ広大寺,鎌田両地に見られる様に燐酸が急増し他の要素は余り 差がない点と比し対照的と思われる。
以上極く狭い範囲のしかも一季節に限った観測結果であるが,今後更に深く且つ広く探究して 行きたいと思っている。大方の御批判を得れば幸甚と思う。
大島幸吉.佐々木衛,里舘健吉 古賀正三
富士平工業株式会社 農林省農地局 大阪府耕地謀 奈良県農業試験場
参、考 文 献
水産化学実験法. 水の分析法 PII概説
澤漑水質試験器説明書
土地改良事業設計基準,第2部 計画,第1貨かんがい 大阪府下河川水質について 農業土木学会京都支部報1955年 施肥改善事業の調査研究成蹄 B,渾漑水調査の部1955年