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(1)

層昼望 l

交渉過程の決定分析( I ) *

藤 田 忠

I  はじめに

交渉問題についての経営科学的接近としては Nash に始まるゲームの 理論的研究がある。この接近は若干の公理系の下での交渉の均衡条件の

市平明にある。

また, S i e g e l・  Fourake~',の実験ゲーム的接近がある。これは当事者

間の情報量の差異が交渉結果に及ぼす影響の検証であった。

さらに, Cros~',の交渉過程の研究がある。これは交渉時間をモデルに

導入した研究であり,こ之での筆者の研究も Cross の研究に触発されて

いる。最近のこの領域での研究に, Rao ・ Shaku~'のモテソレがある。これ

の実践的対象は Consortium を含む多国籍企業と受入側との交渉過程で ある。接近方法としては動的計画法により種々の決定基準の交渉成立時 間に与える影響の解明である。

本論文は Cross 及び Rao ・ Shakun モデ J レを念頭におきながらの論述 である。

I

I   交渉過程のモデル化 モデル 1

交渉過程の数理モデルを次のような年金計算的モデルによって構築す

キ 本論文に基づく研究報告会カ司 9 7 4 年1 2 月 1 7 日本学社会科学流究所主催で行なわ

れた。その際,故藤田若雄教授もお出で下さり,激励のお言葉を頂いた。本論文

は B a r g a i n i n g に関する筆者の最初の研究であり,筆者が現在持っているこれに

関する研究計画の第一弾であります。団体交渉に関する研究も含む予定でありま

すので,そのときは故藤田教授の研究とも関係を持つことになるだろうと思いま

す 。 故藤田若雄先生の慈顔を思い浮べ在がら一言付記いたします。

(2)

62 特集経済学

図 1 交渉過程

↓↓ 

/ 

C − ー ム

v

c

1 4 v  

e g

−占

v

第 1 回 第 2 回 1 回 第 n

1 p 

る(図 1参照)。

記号を次のように定める。

c:  l回毎の交渉費用。( c  >  0) 

n :交渉成立あるいは決裂までの交渉会合の回数。

A :交渉成立による利得。( A >o) 

T:  交渉決裂による利得。佃唱あるいは脅し( Threat )である。

P :交渉成立の確率。したがって,( 1  ‑P )が交渉決裂の確率。

i  時間調整係数。

G ( n ) :   n 回で交渉の決着のついた当該交渉の期待正味現在価値。

交渉会合のための交渉費用の支出は各会合毎とし,この会合は定期的 に一定時間間隔でもたらされるものとしている。このときの交渉の期待 正味現在価値 G(n )は次のように主る。

G(n )~ {P ×A+(l‑P ) × T} ( 1  +i) "‑c  ・  a l i l i   ただし, d 司 iは年金現倒率である。

G(n )の差分 l > G ( n )は次のようになる。

︶  1  ︵ 

︶ 

+ 

 v 

− v  e

− −  

− −

i  +  n  v  E  ︶  − 

v  =  ︶  n  ︵ 

n U  

A  (  2  ) 

ただし

v~(l + i l ・ 一 (  3) 

(3)

E~P × A+(I-P)xT

式( 2  )で第 2 因子 Ev"+~一一・ v""

i −

交渉過程の決定分析 (1) 6 3   (  4) 

の第 2 項は正値であるが,第 1 項は E すなわち,式( 4 )の変動に依存 している。いま,交渉に入る以上, E は正値と考えるならば,式( 2)  の第 2 因子は正 f 直である。また,第 l 因子 v 1 は負 f 直をとるから,こ れらの条件から L > . G (n )は負値となり,結局, G(n ) は n の減少関数である ことが知られる。これを図示すれば図 2 となるだろう。ただし, n は本 論文では離散変数としていることに注意しなければならない。

G

図 2 期待正味現在価値関数

.  n 

この状況では交渉会合の回数が多くなるにつれて Gが減少し,遂には 負値になってしまう。実際には G が希望水準( a s p i r a t i o n l e v e l )  G 殺に対 応するポまで会合は持つだろうが,それを越えてまで忍耐強〈会合を続

けることはないだろう。

もし妥協が成立しなければ,物わかれとと I り,その結果 T をあまんピ

て受けなければならない。

(4)

臼 特 集 経 済 学 モデル 2

交渉成立の結果が交渉会合と共に増加する場合,すなわち A(n ) が n の 単調増加関数の場合。

このモデルの Gは次のようになる。

G(n)~{ P A(n)+(l‑P)T}v " 宇 1‑v") 5) 

L l . G ( n ‑ 1 )   ~G(n)ー G(n-1)

= 〔 { P ( 持 ト − A(n l)+(l P)T(v ー 1) }  

(  6  )  L l . G ( n )   ~G(n+l) ー G(n)

= 〔 { P ( 当 型 i A ( 心 ) +(l 叩( v ー叫

c , 、 z

l+i  'v  (  7)  G(n )が最大になる最適会合回数♂は次の条件を満たすものであるロ

L l . G ( n   l)>o  (8)  L l . G ( n )   <o  (9)  これら両条件( 8 )と( 9 )の経済的意味は式( 6 )及び( 7 )の第 1因子から読み取る事が可能である。

モデル 3

期待効用仮説( ExpectedU t i l i t y   Maxim )の場合。

交渉妥結か決裂かという危険性がある。モデル 1 も 2 も危険に対し,

中立的であることを暗黙の中に前提していた。モデル 3 では危険に対す る態度を明示的に導入して考える。

このときの Gは次のようになる。

G~ 〔 P ・  u  { A ( n ) }  +(1‑p ) ・ u{T 〕 } v"‑u { c } 詞 1 ( 1 0 )  

(5)

交渉過程の決定分析 CI) 6 5   式(1 0 )によって,式( 8 )と( 9  )の条件に対応する最適交渉委合 回数の条件を求めることは可能である。

ここでは交渉会合回数と効用関数との関係を検討してみる。

A(n ) に 2 つの場合を考える。 l つは A(n ) が n の増加関数の場合一これ を攻勢型と言おう と A(n ) が n の減少関数の場合 これを守勢型と言お う とである。

攻勢型は交渉力によって,相手の譲歩をかちとり,交渉会合の度毎に 取り分が地加している場合である。これに対し,守勢型は譲歩せざるを

得ない~;1(1兄に:·,'r_ つでも、る。

決定分析では行動主体は次の 3 類型に分かれる。

危険回避者( r i s k a v e r t e r )   危険申立者( r i s k n e u t r a l )   危険愛好者( r i s k seeker) 

これらの効用関数は夫々凹型( concave ),線型 ( l i n e a r )及ひ 凸型( c o n ‑ vex )である。図 3 で,曲線 a , , a , .   a ,が凹型であり,危険回避者の効用 関数である。また,直線 n i . n , .   n 3 が危険に対し中立な者の効用関数で ある。最後に曲線 s , , s , ,   s ,が凸型であり,危険愛好者の効用関数であ る。(これについての文献は多くあるが,拙 ‑ i ' もその 1つである。)

効 用

s ,  

図 3

a ,  

種身の効用関数

s ,   a ,  

A l o i   金額

(6)

6 6 特集経済学

筒単のため,式(1 0 )の第 l 項の第 1 因子の期待効用 E

E~P ・  u { A ( n ) }  +(1  P) ・  u ( T )   ︵  1 1  ︶  について考察を進める。この結論は式(1 0 )についても妥当する。何故 なれば,式(1 0 )は次のようになるからである。

G 何)=〔P・ ( u { A ( n ) }  4J+(l‑P ) ・ ( u(T )+半)〕 v " ~ ( 1 2 )  

すなわち, G は E の l つの線型変換と考えられるからである。

モデル 3 (攻勢型)

図 4 期待効用

"• .

,  

T  E ( o )   A l o )  

点 E ( n )は線分 T 五百了を P :  ( 1   P )に内分する点である。すなわち,

E ' ( n )は期待金額であり,

E’( n) ~P ・  A(n)+(l‑P ) ・ T したがってE(n )は期待効用で次式である。

E(n) ~P ・  u { A ( n ) }  +(1‑P ・ ) u ( T ) これまでの Eである。

今問題にしているモデルは攻勢型であるから,これを図 4 に加えると 図 5 のようになる。

攻勢型であるから A(n ) く A(n+1 )であり,交渉会合r i +1 回のときの,

( 1 3 )  

( 1 4 )  

(7)

町 " )

, ,  

"•

交渉過程の決定分析( I) 6 7  

図 5 攻勢型期待効用

E ' ( " ) ↓ A ( " )   E'I"+ I  l 

n

a ,  

A("+l) 

危険回避者,中主者及び愛好者の期待効用 E(n+1 )を夫々 A,N 及び S とする。明らかに

E(n+ 1 )   ~s ;>E(n )及ひ E(n+I )   ~N>E(n)

ただし,〉は>よりもさらに強度の大小関係を表示するものとする。

状況によるがE(n+1 )   ~Aく E(n)の可能性が高い。これをふまえて,

G(n )の差分t : . G (n )をとる。

t:.G(n) ~G(n+l) ー G(n)

~{-rt-γ〔P u{A(n+l)}+(l  P )   u(T 〕 )

〔 P u{A(n)+(l‑P )ぱ T )〕一持ト} v "   同

=トムァ・ E(n+l) E ( n )   ̲ l ァ ・ u (c ) }  v   π ( 1 6 )  

1 十 1 1 十 I I 

(8)

6 8 特集経済学

式( 1 6 )は容易に次のよう在意味であることを知る。すなわち,

第 n+ 1 期末の期待効用を第 n 期に割引き,また,第 n+ 1 期の交渉賀 用を同様に第 n 期に割引き,これらと第 n 期の期待効用との差の現在価

値が·~G(n )である。

図 5 の関係を考慮に入れると,他の事情が等しい限り,危険愛好者の

~G(n )が危険回避者のそれよりも大きい値をとる。このことは危険愛好 者が危険回避者よりも遅い妥結を好むといえる。

モデル 3 (守勢型)

攻勢型の図 5 に対応する図は図 6 のようになる。

図 6 から明らかなように守勢に立っと攻勢のときとは逆になる。

すなわち,守勢に立っと危険愛好者の期待効用は妥結がながびくこと

図 6 守勢型期待効用

T  E , 町 J E ( n+ll  A(n+l)  A ( n )  

(9)

69  その度合は危険回避者のそれよりもなお一層顕著であ したがって,守勢のときの危険愛好者は速やかな交渉成立を求める といってよいだろう。

交渉過程の決定分析( I) によって減少し,

る 。

以上モデル 3 での交渉会合の回数についての推論をー表にまとめると

危険霊好者

交渉妥結時間

i  i 

警 喜

表 I

守勢型 表 l に f l る ロ

表 1 は,たとえば,危 険回避者が攻勢に立ち,

攻撃型

とき,これらの当事者は

(早,早)すなわち早い妥 結を求めている。

危険霊好者 中は遅速の中間を意味する。

(早,早)

(中,早)

(遅,早)

(早,中)

(中,中)

(遅,中)

(早,遅)

(中,遅)

(遅,遅)

危険回避者 危険中主者 危険愛好者が守勢に立つ

m  フリードマン・サベジの仮説と交渉時間

フリードマン・サベジは所得と効用関数との関係について図 7を用い て次のような仮説を述べている。

すなわち,低所得層 A では危険回避型であるが,中間階級 B では危険 さらに高額所得者になると再び危険回避者になる。わが

所得

図 7

A  B 

愛好者となり,

(10)

7 0 特集経済字

国の一般勤労階級は B に入ってきている。 B に属する勤労階級と C に属 する経営者階級の交渉は表 lからながびくであろうことが予想される。

N  結びにかえて

本論文の効用関数は一次元空間の効用関数であった。本来,交渉行動 は多次元空間の行動である。ある点では譲歩するが,他の点では相手か ら譲歩をかちとるということが交渉過程の重要な側面である。したがっ て,多属性効用関数の交渉過程の決定分析がなされなければならない。

また,本論文では交渉会合のパラメータは一定とみなされた。しかし,

たとえば,交渉成立の可能性 P は会合と共に変化すると考えられる。す なわち,そこに 1つの学習行動がみられる。この現象に対してはベイジ アン・アプローチが試みられてしかるべきだろう。

このように本論文のパラメータの変化を導入した研究が今後なされな ければならないだろう。 ( 1 9 7 4 年 1 2 月1 7 日 )

参考文献

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y , L  V I ,  1 9 4 8 ,  p p .  

279‑304. 

(11)

7 1  

DECISION ANALYSIS OF  THE  BARGAINING PROCESS 任 )

く Summary;>

T a d a s h i  F u j i t a   Our o b j e c t i v e  i s   t o  a n a l y s e  t h e  b e h a v i o r s  o f   口 s ka v e r t e r ,  r i s k   n e u t r a l  a n d   r i s k   s e e k e r  o o  t h e  o f f e n s i v e  a n d  d e f e n S 1 v e  s i d e s  o f   t h e   b a r g a i n i n g  p r o c e s s 、

r e s p e c t i v e l y   One o f  t h e  r e s u l t s  i s   shown i n   T a b l e  b e l o w .   T h i s  shows t h e   t i m e  o f   1 g r e e m e n t  r e a c h e d  d e p e n d e n t  on t h e  a t t i t u d e s  t o w a r d s  r i s k .  

d e f e n s i v e  

\ 

R ! S k   R i s k   o f f e n s i v 巴 \ | a v e r t e r   n e u t r a l   R i s k  a v e r t e r   ( S ,  L )   ( S ,  M)  R i s k  n e u t r a l   (M, L )   (M, M)  R i s k  s 田 k e r ( L ,  L )   ( L ,  M) 

where S  = s h o r t  t i m e  t o  r e a c h  t h e  a g r e e m e n t   M =middle t i m e  t o  r e a c h  i t  

L  =long t i m e  t o  r e a c h  1 t  

R i s k   s e e k e r   ( S

S )

(M, S )   ( L ,  S )  

We  h a v e  t o  t a k e  m u l t i a t t r i b u t e  u t i l i t y  i n t o  c o n s i d e r a t i o n  i n   t h e  a n a l y s i s  o f  

t h e  b a r 呂 a i n i n gp r o c e s s . 九 l i ec o u l d  a p p l y   B a y e s i a n   Approach t o   s t u d y  t h e  

l e a r n m g  a s p e c t s  on t h i s  p r o c e s s .  

参照

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