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博 士 学 位 請 求 論 文 企業結合における持分投資会計に関する研究 ( 要 約 )

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(1)

博 士 学 位 請 求 論 文

企業結合における持分投資会計に関する研究

( 要 約 )

中央大学大学院商学研究科商学専攻博士課程後期課程 小 阪 敬 志

(2)

要約版目次

1 本論文の課題と意義

2 企業結合における持分投資会計の論点 3 本論文のアプローチ

4 本論文の構成

(1) 子会社投資会計の論点と課題

(2) 関連会社投資会計の論点と課題

(3) 段階取得の論点と課題

5 企業結合における持分投資会計の課題

(3)

1 1 本論文の課題と意義

近年,会計基準の国際的なコンバージェンスないしアドプションが推し進められている。

すなわち,

IASB

が公表する

IFRS

を軸として,米国における

FASB

が公表する

SFAS

1 よび我が国における

ASBJ

が公表する企業会計基準の規定の統一化が進められている。特 に,

2000

年以降,企業結合に関する会計基準の収斂が図られた。係る改訂によって,企業 結合の会計処理手続にはいくつかの重要な変化が生じた。たとえば,全部のれんの計上や 段階取得における持分投資の取扱いの変化などが該当する。背景には連結基礎概念の変化 が生じているとの指摘もみられる。

段階取得とは,ある企業が他の企業に対する支配(control)を複数回の取引によって獲 得する,企業集団の形成方法である。換言すれば,段階取得も企業結合の

1

類型である。

たとえば,ある企業(以下,投資企業)が他の企業(以下,被投資企業)の発行する持分 証券の一部を現金購入したとする。投資企業が被投資企業の支配を獲得しない場合,投資 企業は当該持分投資を公正価値で測定したり,持分法によって測定する。その後,投資企 業がさらに追加で持分証券を購入して,被投資企業に対する支配を獲得するに至る場合が ある。このような一連の取引が段階取得である。段階取得の会計処理は,企業結合会計に おける主要論点の

1

つであるが,上述のとおり持分投資会計にも密接に関わる論点でもあ る。

これまで,会計処理規定とその背後にある基礎的な考え方や,それら同士の間における 整合性を検討したり,ある会計処理やその根拠となる考え方についての理念型を示した上 で,これと整合的な会計処理を想定したり,実務で行われている処理の問題点を明らかに するといった,整合性の分析に関する研究が数多く行われてきた。

本論文では,このような研究アプローチに倣って,企業結合をめぐる近年の国際的な会 計基準の変遷の中で,企業結合の会計処理の根底にある基本的な考え方を整理し,整合性 の観点からそれらを持分投資会計と関連させつつ考察し,現行の各会計基準に含まれる不 整合点を明らかにすることを課題とする。係る検討には,IFRS とのコンバージェンスを 図る日本基準に特有の不整合点(部分的に

IFRS

規定を採用することによって引き起こさ れる,日本基準内部における不整合)の検討も含む。また,これに関連して会計規定の変

1 今日の米国基準の表記に当たっては,

Accounting Standards Codification

に準拠するの が一般的だが,本論文では会計基準における規定の変化を明瞭に示す観点から,従来の

SFAS

に準拠した表記を行っている。

(4)

2

化が実務等にどのような影響をおよぼすかについて,実態を調査分析することで検討する。

2 企業結合における持分投資会計の論点

企業結合という取引ないし事象を会計処理する際には,通常,被投資企業の持分投資に 付される測定値が用いられるため,企業結合会計2と持分投資会計3との間には密接な関係 があるといえる。したがって企業結合の会計処理に際しては,企業結合会計および持分投 資会計双方の側面から検討を加える必要がある。そこで本論文では,企業結合における持 分投資会計の論点を,子会社投資の会計処理をめぐる論点,関連会社投資の会計処理をめ ぐる論点として整理し,前者を主として企業結合会計の観点から,後者を主として持分投 資会計の観点から,それぞれ検討する。

他方,段階取得では,投資企業が持分投資に対する投資成果等を報告するに過ぎない状 態から,支配の獲得を経て,被投資企業の業績や財政状態を投資企業のそれらに含めるよ うになるという,持分投資会計から企業結合会計への大きな転換がある。従来,段階取得 は企業結合会計上の論点の

1

つとして,連結基礎概念の検討の中で議論されてきた。しか し,近年のコンバージェンス作業における段階取得の議論では,支配の獲得による持分投 資の性質の変化に重点が置かれ,持分投資会計の観点から処理の根拠が述べられることが 多い。そこで段階取得については,上記とは別に章を設けて,主として持分投資会計の観 点から考察を加える。

以上より,本論文では企業結合における持分投資会計の論点を,以下のとおり

3

つに大 別している。

1

に,子会社投資の会計処理では,通常,投資企業が被投資企業の支配を獲得するこ とで,企業集団が形成されることから,連結財務諸表の作成が必要となる。連結財務諸表 の作成手続は複数の手順を経て行われ,単一の財務諸表項目であった子会社投資は,複数 の財務諸表項目に置き換えられることとなる。その際,いかなる測定値を用いるべきかと いう問題についてこれまで一定の示唆を与えてきたのが,連結基礎概念である。近年の企

2 本論文において,企業結合会計とは複数の企業や企業を構成する事業を単一の報告体に 統合するための会計処理方法や測定値について,議論・検討を行う領域として定義する。

3 本論文において,持分投資会計とは持分投資の会計処理方法や測定値について,議論・

検討を行う領域として定義する。特に,主として子会社に対する持分投資(子会社投資)

と関連会社に対する持分投資(関連会社投資)が,本論文における中心的な検討対象であ る。

(5)

3

業結合会計に関する諸会計基準の改訂の背後には,連結基礎概念の変化が生じており,係 る変化が子会社投資の会計処理にも影響をおよぼしている可能性がある。

さらに,企業結合の会計処理においては,複数の局面で公正価値という測定値が用いら れている。公正価値は従来の企業結合会計から用いられ続けているが,近年,公正価値の 概念が出口価格として整理された。係る概念は,

SFAS157

において採用されたもので,現 在では,IFRS でも導入され,日本基準にも導入が予定されている。しかし,企業結合の 会計処理方法の変化に加えて測定値としての公正価値についても変化が生じている状況下 で,両者の変化がどのような関係にあるのかについては,必ずしも明らかにされていない。

2

に,関連会社投資の会計処理に関する中心的な論点として,持分法をめぐる諸問題 が挙げられる。従来,持分法は一行連結などと称され,全部連結の簡便的な方法,すなわ ち準連結として位置付けられてきた。しかし,近年の持分法には必ずしも全部連結の簡便 法とはいえない部分もあることから,持分法と全部連結の関係について検討を行う必要が ある。さらに,持分法は関連会社投資の会計処理方法であるから,持分投資測定の方法と しても位置付けられうる。投資測定については,従来より一定の性質に基づいて投資を分 類する枠組みを設け,その枠組みに照らして会計処理を検討するというアプローチが行わ れてきた。特に近年では,資産を事業投資と金融投資に分類する枠組みが日本基準の基礎 的前提として想定されている。事業投資は原価,金融投資は公正価値で測定するというこ の枠組みに照らして,投資測定方法としての持分法はいかなる関係にあるのかについて明 らかにする必要がある。

3

に,段階取得では,その基礎に置く考え方の相違が,会計処理に大きな相違をもた らしうる。すなわち支配の獲得および喪失をどのように捉えるかが問題であり,これらを 重要な経済事象とみる

IFRS

に対して,日本基準(の公開草案)は事業投資の継続性とい う観点から捉えようとした。また,支配と類似する概念に重要な影響力があるが,その段 階的な獲得や喪失について,IFRS では支配とは区別した処理を想定するのに対して,日 本基準では明確な区別がなされていない。このように,日本基準においては段階取得に関 連する会計規定について,整合性の観点から検討を行う必要がある。

3 本論文のアプローチ

本論文の課題を達成すべく,概念的な整理と諸会計基準の規定の分析を行い,それらの 整合性や実務への影響を調査する。概念的な整理は,先行研究のレビューを中心に展開し,

(6)

4

諸会計基準の整合性に関する検討は,実際の会計基準の規定やその背景にある考え方を調 査することで進める。なお,本論文では企業結合における持分投資会計の問題を複数の側 面から検討している関係上,概念整理や制度比較といった必要な作業を検討対象の論点ご とに実施する。段階取得のように先行研究が限られ,かつ近年になって問題となった分野 については,論点を明確化するために制度比較を議論の出発点とする。

4 本論文の構成

本論文の全体の章構成は次のとおりである。

1

章 本論文の課題と方法

2

章 子会社投資の会計処理

3

章 関連会社投資と持分法

4

章 段階取得の特質と会計処理

5

章 会計基準の影響に関する実態調査

6

章 要約と展望

第1章は本論文の導入にあたる部分であり,研究課題や研究アプローチ,論点の概要な どを述べている。これらは本要約にも示している。

2

章以降については,以下で具体的に各章の検討内容とその結果の概要を示す。なお,

5

章は第

2

章から第

4

章までで検討を加えた各会計基準がもたらす経済的影響について の実態調査を行っている。このため,以下では関連する章ごとに,要所で第

5

章の内容に ついても言及している。

(1) 子会社投資会計の論点と課題

まず第

2

章では,連結基礎概念の展開を整理した。連結基礎概念については

Moonitz

(1951)が提唱した実体理論をはじめとして,連結の目的とそこから導き出される連結会 計手続という形で議論が進められてきた。特に,

Baxter and Spinney

(1975)によって行 われた,所有主概念,親会社概念,拡張親会社概念および実体概念の

4

分類が良く知られ ている。そして

Baxter and Spinney

による分類を土台とした

FASB(1991)によって,

今日では連結基礎概念は経済的単一体概念,親会社概念,比例連結概念の

3

者に分類され るのが一般的である。このように連結基礎概念は

90

年代までで大方の整理が行われ,以 降は新たな連結基礎概念の提案というよりは,会計基準上いずれの連結基礎概念,特に親

(7)

5

会社概念と経済的単一体概念のいずれに依拠するべきか,あるいは基準の採用する方法が いずれの連結基礎概念と整合的であるかといった議論が中心的になされてきた。このため,

2

章では

FASB

(1991)によって整理された親会社概念と経済的単一体概念の相違点を 明らかにしつつ,両基礎概念の考え方を概観した。FASB(1991)では,連結基礎概念の 相違が主として連結資本および連結利益の範囲の相違として整理されていたといえ,子会 社の資産や負債,のれんについては,係る範囲の相違を前提として議論されていたといえ る。

企業結合に関連する会計基準のコンバージェンスが行われたことにより,それまで親会 社概念と整合的とされた多くの規定が,経済的単一体概念と整合的なものに変更された。

このような変化を受けて,IFRS や米国基準においては,親会社概念から経済的単一体概 念へと変化が生じたとの指摘がなされることがある。この点について,第

5

章において米 国基準の採用する連結基礎概念の変化が生じている旨を指摘している。一方で,

2013

9

月に公表された,企業会計基準第

22

号(2013)によれば,支配獲得後において子会社株 式の追加取得や支配を喪失しない範囲での一部売却を行った場合に,追加取得持分額と追 加投資額の差額や売却持分額と売却価額との差額を,資本剰余金として処理することとさ れた。この取扱いは,少数株主(非支配株主)を企業集団の資本主とみる経済的単一体概 念と整合的な処理である。このように,日本基準も

IFRS

や米国基準に合わせるように経 済的単一体概念と整合的な処理規定を導入しているが,その一方で全部のれんの計上を見 送るなど,いまだ親会社概念と整合的な処理規定も多く残されている。

この点に関して,第

5

章では,実態調査を行った。FASB(1991)における連結基礎概 念は,主として連結資本と連結利益の範囲をめぐる議論であり,その範囲の相違は,連結 財務諸表の会計数値を大きく異ならせる可能性がある。近年,米国基準では国際的な会計 基準とのコンバージェンスの観点から,その前提となる連結基礎概念に変化が生じた。か

つて

Moonitz(1951)によって提唱され,40

年後に

FASB(1991)において整理された

経済的単一体概念に基づく処理や表示は,さらに

20

年あまりの期間を経て,制度として 採用されたことになる。そこで,第

5

章において米国基準の展開を整理しつつ,連結基礎 概念の変化が企業の財務指標にいかなる影響をもたらすのかについて,わが国における米 国基準適用企業を対象とした調査を実施した。

調査の結果,経済的単一体概念の下では,支配持分と非支配持分をいずれも連結資本と して捉えるため,企業集団の資本構成をどのように編成するかによって

ROE

が左右され

(8)

6

る可能性が明らかとなった。特に,非支配持分は連結利益を吸収し連結損失を負担するた め,連結資本に占める割合が大きくなるほど,親会社概念と比べて

ROE

のボラティリテ ィは小さくなっていく。経済的単一体概念の下で長期的に安定した

ROE

を達成しようと 考えた場合,非支配持分の割合を増やしていくといった資本戦略も考えられ,資本構成そ のものが企業集団経営における戦略の一つとして位置付けられる可能性がある。また,

ASBJ

2013

年に行った基準改訂によって,連結資本と連結利益の範囲に不一致が生じ た。上述の追加取得時の処理や一部売却の処理に加えて,このような表示上の不整合も生 じており,現行の日本基準は,IFRS や米国基準,あるいは

FASB(1991)で整理された

いずれの連結基礎概念とも整合的とはいえない不安定な状況にある。今日,わが国の連結 会計制度では,

IFRS,米国基準または日本基準のいずれに依拠して開示することも可能と

なっているが,依拠する基準によって,連結資本や連結利益の範囲が異なっている可能性 がある。

次に第

2

章では,公正価値概念の変化に伴って,従来の企業結合とその会計処理,さら には用いられる測定値である公正価値の位置付けについても検討を加えた。企業結合会計 と測定値の関係を検討した先行研究は多数存在するが,その一方で公正価値が出口価格と して整理されたいま,企業結合の処理方法やそこで用いられる測定値である公正価値との 関係性について,必ずしも十分な検討は行われていない。

この点,企業結合の捉え方は,従来の「交換取引」から「支配の獲得」へと変化してお り,対象物の価値の交換としての交換取引を前提としたパーチェス法においては,公正価 値に入口価格と出口価格の双方が含まれたが,取得法の下では,支配の獲得という重要な 経済事象が公正価値測定の契機とされ,その公正価値は出口価格であるとされる。すなわ ち,「交換取引―パーチェス法―入口価格と出口価格」という関係から「支配の獲得―取得 法―出口価格」という関係へと,捉え方―処理方法―測定値という

3

者の関係性が変化し ている可能性がある。ただし,後者は現行規定の組み合わせにすぎないともいえ,理論的 には「支配の獲得―取得法」,「出口価格―資産概念との整合性」という,異なる関係性が 存在している。無論,取得法と出口価格とを統一的に結び付ける概念の可能性も否定でき ないが,この点についてはさらなる検討が必要であるといえる。またこのような状況下で,

パーチェス法を維持する日本基準では,出口価格としての公正価値の導入を試みている。

しかし,交換取引を前提とするパーチェス法の下で出口価格のみを意味する公正価値を用 いるのは,重大な概念上の矛盾を生じさせる。これを解消するには,取得法の採用を含め

(9)

7

た企業結合の会計処理方法の検討が必要といえる。

そして第

2

章では,のれんの会計処理と公正価値測定についても検討を加えた。IFRS と日本基準とでは,計上されるのれんの範囲だけでなく,償却の有無や減損処理における 取扱いなど,今なお多くの相違点が残されている。特に,償却不要とする

IFRS

の規定は 米国基準とも整合的であるが,減損したときのみ一時に多額の損失が計上されることにな るため,連結利益のボラティリティを大きく高める可能性がある。企業が模倣困難性等に よって持続的な競争優位を確保しうる現状においては,時が経過し,競争が進展したとし ても,のれんが減価するとは限らない。とすれば,のれんの減価を適切に反映する方法と して,償却せずに減損処理のみを行うという方法は,我が国でも採用される可能性がある。

この点については今日的な企業の経営環境も踏まえた上で慎重に検討する必要があろう。

なお,のれん償却の要否と減損処理をめぐって,ASBJ はコストベネフィットを勘案しつ つ,償却の要否をめぐって継続的な研究を続けていく必要性を認識している。

全部のれん法の採用によって企業結合を行う企業は,追加取得を行ってものれんの追加 計上が不要であるため,完全子会社化へのインセンティブを積極的に持つことになると考 えられ,上場子会社の存在という日本企業特有の状況にも少なからず影響を与えることと なろう。そこで,第

5

章では全部のれん法採用の影響について,複数の事例調査を実施し た。結果,のれんが減損処理された場合に連結業績におよぼす影響を考慮すれば,のれん を支配持分に帰属する部分と非支配持分に帰属する部分とに分割して開示する必要性を指 摘した。加えて,経済的単一体概念と整合的な全部のれん法の下では,追加取得は資本取 引として処理され,追加取得によって生じた差額はのれんではなく資本剰余金の減少とし て扱われる。すなわち経済的単一体概念と整合的な全部のれん法が採用されることで

ROE

が好転する可能性があり,この観点からも連結子会社の完全子会社化が促進されると考え られる。

(2) 関連会社投資会計の論点と課題

3

章では,関連会社および関連会社投資の会計処理方法の

1

つである持分法について 検討した。Nobes(2002)は持分法の国際的展開を整理した上で,持分法を準連結として 位置付けたが,それから

10

年あまりが経過した現在,全部連結の基礎にある連結基礎概 念の変化に伴って必ずしも全部連結と整合的な処理が要求されているわけではない。すな わち持分法の位置付けは変化している。

(10)

8

持分法を準連結として位置付けたのは,関連会社が企業集団の活動の一部を構成すると いう点で,投資企業との間に特別な関係を有していると考えられたためであった。他方で

IASB

では,子会社と関連会社の類似性を認識しつつも,「支配」の有無によって両者を明 確に区別する。すなわち支配の範疇にある企業は子会社として全部連結の対象とし,支配 がおよばず重要な影響力をおよぼすにとどまる企業は関連会社として持分法の対象とする。

このような位置付けの違いは,のれん相当額の減損処理における取扱いの違いとして表れ ている。一方,日本基準では,持分法を適用する場合,全部連結で計上されたのれんとの 整合性を重視した会計処理が実施されることを根拠に,のれん相当額の減損の兆候の把握 においても同様に取り扱うこととされている。この取扱いは関連会社投資を単一の資産と みて,全部連結におけるのれんの減損処理と区別した

IFRS

の考え方とは異なっている。

また,持分法は投資測定方法の

1

つとして検討する余地がある。川本(1992)や中野(1997)

など,個別上での持分法の適用可能性を検討した先行研究があるが,本論文では近年日本 基準の基礎的前提として想定されている,資産を事業投資と金融投資に区分して会計処理 などについて検討を加える枠組みに依拠した検討を行った。この枠組みは,斎藤(2009)

や辻山(2005)などで整理されている。その際,持分法による利益が,リスクから解放さ れたものとみなしうるかどうかが問題となった。たとえば関連会社が機械設備等に直接的 に実施した個別の投資案件について,その成果がリスクから解放されたとしても,投資企 業にとって,関連会社に対する事業投資の成果がリスクから解放されるのは,関連会社の 事業活動のリスクに拘束されない現金等を獲得した時点となる。このため,持分法によっ て認識された投資利益がリスクから解放されているとはいい難い。また,関連会社で計上 された利益に,単に持分比率を乗じることで投資企業の利益計算に取り込む持分法は,事 業投資・金融投資の分類に基づく資産測定の枠組みとは一線を画した方法といえる。この ように,事業投資・金融投資という資産測定の枠組みにおいて,持分法を資産測定方法の

1

つと位置付けるのは難しい。

持分法は全部連結との整合性を欠くために準連結としての位置付けを従来どおりに維持 することが難しいだけでなく,その処理方法の特異性から投資の測定方法として位置付け ることも困難である。しかしながら,関連会社投資に関する報告を行うために長らく用い られてきた持分法には,現状これに代わるような方法もない。持分法が今後も用いられ続 けるとするならば,従来とは異なり,必ずしも全部連結とは整合しないという意味での「準 連結」としての位置付けが必要かもしれない。

(11)

9

その一方で,2013

12

月に公表された

IASB(2013)によれば,関連会社投資および

子会社投資に対して,親会社の個別財務諸表上で持分法が適用される可能性がある。ただ,

その場合子会社投資に含まれるのれんは,連結財務諸表上では独立の資産として減損テス トの対象とされるのに対して,個別財務諸表上では独立の資産として区別されることなく,

子会社投資全体として減損テストが実施されることとなる。IASB(2013)では,このよ うな不整合を排除するための追加的なガイダンスを設けることは不適切との認識が示され ているが,同一の子会社投資について連結財務諸表と個別財務諸表とで異なる処理結果が もたらされるのは妥当でなく,連結上と個別上の不整合を解消するための対策をとるべき であろう。

(3) 段階取得の論点と課題

企業結合や連結に関する先行研究は多数存在しているが,段階取得に焦点を当てた研究 は,小阪(2009)や,山下(2009)や菊谷(2011)など,限られている。そこで第

4

では,段階取得に代表される支配や重要な影響力の段階的な獲得や,それらの喪失の性質 を捉えつつ,数値例を用いて会計処理規定の検討を行った。

投資企業が被投資企業に対する支配や重要な影響力を獲得していない場合,投資企業が 保有する非支配持分投資は期末において公正価値測定の対象となる。

IFRS9

では,測定差 額を純損益に含めるか,その他の包括利益とする選択が認められている。このため,公正 価値測定によって生じる差額は純損益またはその他の包括利益のいずれかにおいて認識さ れる。その後に支配の獲得が行われた際には,改めて公正価値測定が行われる。

2008

年に 改訂される以前の

IFRS3

では,過去に生じた帳簿価額の変化は元に戻される,すなわち取 得原価に修正することが求められた。これは企業結合を交換取引とみるパーチェス法の下 で,段階的な交換取引によって取得した買入のれんの計上を適切に行うためであったとい える。

一方,改訂後の

IFRS3(R)では,取得企業が被取得企業に対する支配を獲得した日の

直前まで保有していた被取得企業に対する非支配持分投資は,支配獲得日における公正価 値で測定され ,利得または損失が生じれば,それらは純損益またはその他の包括利益とし て認識することとされる。このような処理が求められる根拠は,支配の獲得がその投資の 性質およびその投資を取り巻く経済的な環境の重要な変化であると考えられることによる。

すなわち,支配の獲得は,非支配持分投資を単一の持分投資として会計処理していた状況

(12)

10

から,投資対象である被投資企業を全部連結するという方法で会計処理する状況へと,投 資企業の会計処理に変化をもたらす。

段階取得にはこのような特質があり,IFRS3(R)では,支配の獲得がもたらす持分投 資の性質の変化に着目して,公正価値測定を根拠付けている。この考え方は,関連会社に 対する支配を獲得した場合でも同じである。他方,公開草案の段階における日本基準では,

事業投資の継続性,すなわち清算と再投資の擬制によって会計処理を区別する枠組みを想 定していた。特に関連会社に対する支配を獲得した場合,その後支配を獲得するに至って も事業投資という性格は変わらず,当該被取得企業に対する投資は継続しているものと考 える。したがって,関連会社投資は公正価値測定の対象ではなかった。なお,確定基準と して公表された企業会計基準第

21

号(2008)では,コンバージェンスの観点からこの考 え方は採用されず,

IFRS

と同様の処理が採用された。すなわち関連会社投資についても,

支配獲得時点まで持分法を適用した上で,支配獲得日の公正価値で測定され,測定差額は 純損益として処理される。

支配の獲得を重要な経済事象とみる

IFRS3(R)の考え方は,支配の喪失時においても

採用されている。その一方でかつては重要な経済事象とされていた重要な影響力の喪失は,

支配の喪失とは異なって企業集団の構成が影響を受けないことから,重要な経済事象とは 位置付けられなくなった。しかしながら,重要な影響力を喪失した後に残存する持分投資 には,その後に

IFRS9

にしたがった処理を行うべく,当初測定値として公正価値が付され る。このように

IFRS

では企業集団を構成しうるか否かという観点から,支配の獲得や喪 失と重要な影響力の獲得や喪失とを区別しているが,それらが行われた際に要求される処 理(公正価値測定)については,共通する点が多い。

これに対して,日本基準では子会社に対する支配を喪失した場合,残存する持分投資は 個別貸借対照表上の帳簿価額で測定され,また重要な影響力の段階的獲得時や喪失時にも,

公正価値測定は要求されない。投資の継続性に着目すれば,子会社に対する支配から関連 会社に対する重要な影響力へと変化しても,事業投資の継続性が認められる。したがって 残存する持分投資についての公正価値測定は不要と考えられ,現行の日本基準の取扱いは この結論と整合的である。その一方で,重要な影響力の段階的獲得や喪失については,獲 得前あるいは喪失後の投資の性質が金融投資であるか事業投資であるかによって投資の継 続性が断たれるか否かが異なりうる。このため一律に公正価値測定を不要とする取扱いは この考え方とは整合的でない。現行の日本基準の取扱いは

IASB

の採用する重要な経済事

(13)

11

象に公正価値測定の基礎を求めるアプローチを部分的に採用している状況であり,一部に は公開草案で示された事業投資の継続性に基づいて処理を行うアプローチと整合的な規定 も残されている。日本基準では支配や重要な影響力の段階的獲得や喪失の処理を行う際に,

一貫した考え方が用いられていないという点を指摘できる。

以上のように,第

4

章では関連会社投資や単なる金融資産であった持分投資の追加的な 取得による,段階取得についての検討を行った。基準改訂によって支配の獲得が持分投資 の新たな公正価値測定の機会をもたらすことが明らかとなったが,この取扱いが実務や企 業評価にどのように影響するのかは重要な検討課題といえる。他方,段階取得に関わる事 例分析については,ほとんど行われていないのが現状である。また,

2013

年に公表された 企業会計基準第

21

号(2013)においても,現行規定における段階取得の適用状況の調査 が課題として認識されている。そこで第

5

章において,段階取得の事例および近年の段階 取得に関する規定の適用状況を調査することで,実務への影響を検討した。

過去から資本関係のあった出資先に対する支配を獲得すれば,過去から保有し続けてい る非支配持分投資の公正価値測定が行われる。持分投資の帳簿価額と公正価値との差が大 きいほど連結純損益に対する影響は大きくなり,調査の結果,連結純損失が段階取得に係 る差益によって連結純利益へと転換するケースが確認できた。他方で,連結純利益が段階 取得に係る差損によって連結純損失へと転換することもありうる。このように段階取得が 企業集団の経営成績におよぼす影響は決して小さいものではなく,むしろそれ自体が段階 取得を行う目的になりかねないという可能性を孕んでいる。

5 企業結合における持分投資会計の課題

以上,本論文では企業結合における持分投資会計に関する様々な論点について理論的・

実務的側面から検討・調査を行った。企業結合における持分投資の会計処理は,企業結合 をどのような事象として捉えるのかによって異なりうる。今日の

IFRS

および米国基準で は,企業結合が支配の獲得であることに重点をおいて取得法を採用している。他方,測定 値として用いられる公正価値は,資産概念との整合性から出口価格であるとされる。段階 取得のような企業結合に対して,いかなる時点で公正価値測定を行うべきかを考える場合,

支配の獲得や喪失といった重要な経済事象に着目することは,有効といえる。その一方で,

支配の獲得や喪失のみに着目しても,用いられる公正価値が出口価格であるべきという結 論には直結し難く,また測定差額の取扱いについても,必ずしも支配の獲得や喪失によっ

(14)

12

て説明できるわけではない。このように一貫した考え方に基づいた統一的説明が困難にな ってしまった背景には,基準開発をピースミールに行ってきたという経緯が窺える。概念 フレームワークを中心に一貫した考えのもとに新たな基準開発を演繹的に行うという,基 本的姿勢が堅持されていれば,このような問題は生じなかったのではないかと考えられる。

これに対して,日本基準では一部で従来の考え方や処理を維持したまま,他方で

IFRS

や米国基準と同様の規定を採用している。基準開発の過程でコンバージェンスが達成でき なかった項目が残されている結果なのであろうが,そのために大きな矛盾が各所に生じて しまっている。日本基準はこれまで自らの体系の中で培ってきた理論的枠組みとは必ずし も相容れない枠組みを持つ,国際的な会計基準統一を図る大きな潮流にさらされていると いえる。伝統的な考え方を放棄してしまえば,国際的な枠組みを受け入れることも容易い であろう。しかし,それならば日本基準として独自の基準体系を維持する必要はない。

IFRS

や米国基準との間にいまもなお残る相違点を解消しつつ,日本基準としての独自性を維持 しようとしているのが現在の

ASBJ

の姿勢であると考えられるが,実務的事情も加味すれ ば,IFRS や米国基準の規定にさらに歩み寄る基準改訂が,今後必要となろう。少なくと も現状のような重大な矛盾を孕んでいる状態からは一刻も早く脱するべきであるが,その 一方で,足並みを合わせようとする

IFRS

や米国基準にも,本論文で明らかとなった問題 があることを念頭に置き,慎重に判断しなければならない。

企業結合に関する会計基準がもたらす経済的影響は大きいだけに,今後の動向にも注目 する必要がある。

以上

(15)

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公表年 本文中の略称 正式名称

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2008

年 IFRS3(R)

International Financial Reporting Standard 3,Business Combinations

2008

年 IAS1(2008)

International Accounting Standard 1,Presentation of Financial Statements

2008

年 IAS27(2008)

International Accounting Standard 27,Consolidated and Separate Financial Statements

2008

年 IAS28

International Accounting Standard 28,Investments in Associates

2008

年 IAS32

International Accounting Standard 32,Financial

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(21)

19

2008

年 IAS36

International Accounting Standard 36,Impairment of Assets

2008

年 IAS39

Revised International Accounting Standard 39,Financial Instruments : Recognition and Measurement

2009

年 IFRS9

International Financial Reporting Standard 9,Financial Instruments

2009

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Revised International Accounting Standard 38,Intangible Assets

2010

年 IASB(2010)

Exposure Draft

,Conceptual Framework for Financial

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2011

IFRS10 International Financial Reporting Standard 10,Consolidated Financial Statements

2011

IFRS13 International Financial Reporting Standard 13,Fair Value Measurements

2011

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2012

年 IAS1(R)

International Accounting Standard 1,Presentation of Financial Statements

2012

年 IAS27(R)

International Accounting Standard 27,Separate Financial Statements

2013

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邦訳については,以下の文献を参考にした。

企業会計基準委員会・財務会計基準機構監訳(2005)『国際財務報告基準書(IFRSsTM

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中央経済社。

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企業会計基準委員会・財務会計基準機構監訳(2013)『国際財務報告基準(IFRS®

2013』

中央経済社。

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公表年 本文中の略称 正式名称

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年 FRS9

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CAP

公表年 本文中の略称 正式名称

1959

年 ARB51

Accounting Research Bulletin 51.Consolidated Financial Statements

APB

公表年 本文中の略称 正式名称

1970

年 APBO16

Accounting Principles Board Opinion 16.Business Combinations

1970

年 APBO17

Accounting Principles Board Opinion 17.Intangible Assets 1971

年 APBO18

Accounting Principles Board Opinion 18.The Equity

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FASB

公表年 本文中の略称 正式名称

1985

年 SFAC6

Statement of Financial Accounting Concepts 6.Elements of Financial Statements

1993

年 SFAS115

Statement of Financial Accounting Standard

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1995

年 FASB(1995)

Exposure Draft Proposed SFAS Consolidated Financial Statements:Policy and Procedures

1997

年 SFAS130

Statement of Financial Accounting Standard 130.Reporting Comprehensive Income

2001

年 SFAS141

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2001

年 SFAS142

Goodwill and Other Intangible Assets 2006

年 SFAS157

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2007

年 SFAS141(R)

Revised Statement of Financial Accounting Standard 141.Business Combinations

2007

年 SFAS160

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SFAC6

の邦訳については,以下の文献を参考にした。

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1975

「連結意見書」(1975) 連結財務諸表の制度化に関する意見書

1975

「連結原則」(1975) 連結財務諸表原則・同注解

1997

「連結原則」(1997) 連結財務諸表原則・同注解

2002

「減損意見書」 固定資産の減損に係る会計基準の設定に関する意見書

2002

「減損基準」 固定資産の減損に係る会計基準

2003

「企業結合意見書」 企業結合に係る会計基準の設定に関する意見書

2003

「企業結合基準」 企業結合に係る会計基準

参照

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