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栃木県産アカギツネVulpes vulpesの形態および生 態学的研究

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(1)

栃木県産アカギツネVulpes vulpesの形態および生 態学的研究

著者 竹内 正彦

発行年 1995‑03‑25

URL http://hdl.handle.net/2297/30559

(2)

・舳 、.灘 揮.  ・

藁,

、1制

純 ・・一酸麟      師 葦審琴」 @・構   I河  整・

苗・舳   燃鱗@   鰯

    。弗     垂       灘一諦

(3)

博 士 論 文

栃木県産アカキツネ山

形態および生態学的研究 Vuし凶Sの

Morpho1ogica1 and eco1ogica1 study of the red fox 山 山

in Tochigi, centra1 JaPan: A bio1ogica1 monograPh in morPho1ogy,

age structure,sex ratio,morta1ity,popu1ation density,diet,

     dai1y activity pattern and home range use.

金沢大学大学院目然科学研究科

学 籍 番 号 氏     名 主任指導教官名

 生命科学専攻 環境生物学講座

  91−2108

  竹 内 正 彦   大 串 龍 一

(4)

目 次

第1章 序説

 !.緒言

 2.研究史

 3.生活史の概略  4.自然環境の概略

1 5

!0

!2

第2章 アカキツネ栃木個体群の形態的特性

 1.はじめに  2.材料と方法

  2−1.材料   2−2.外部計測   2−3.頭蓋骨計測   2−4.計算

 3、結果

  3−!.外部言十測

  (!)記述統計値

  (2)相対成長・季節変化   (3)性的二型

  3−2.頭蓋骨計測   (!)記述統計値   (2)成長

  (3)相対成長   (4)性的二型

 4.考察

4−!

4−2 4−3 4−4 4−5 4−6

外部計測値の評価 成長・相対成長

性的二型 季節変化

地理的変異

日本産アカギッネにおけるベルクマンの法則

23

29 29 30 32 32 35 36

第3章 博物館標本から推定

 !.はじめに

 2.材料と方法

  2−1 分布調査   2−2 博物館標本   2−3 年齢査定   (1)査定基準   (2)齢査定の処理

  2−4.資料観察による情報

 3 結果

  3−1.分布

  (!)既存調査のまとめ   (2)追加調査

  (3)生息状況   3−2、齢構成

  3−3, f生上ヒ

  3−4.死亡様式

 4 考察

  4−1、分布   4−2.齢構成

  4−3. f生上ヒ

  4−4.死亡様式

した個体群組成 3939

41 41 42 43

44 45 45

46 47 48 49 49 50 51 52

(5)

第4章野外個体群の生態的特性

 1、はじめに  2.材料と方法   2−1.調査地

  2−2.フンによる食性分析   2−3.餌資源分布調査

  2−4.マーク・再発見法による生息密度の算出   2−5.捕獲と追跡

  2−6.生活史周期   2−7.活動性の解析

  2−8.行動圏の算出と解析   2−9.ハビタット利用の解析  3、結果

  3−1.食性

    (1)フンに関する情報     (2)食性

  3−2.餌資源の分布   3−3.捕獲個体の履歴   3−4.生息密度

  3−5.活動性

    (1)活動性の基準

    (2)日周性の生活史周期変化

  3−6.行動圏利用様式

    (!)行動圏サイズの生活史周期変化

    (2)行動圏の形とコアエリアからみた空間利用様式     (3)行動圏の配置

  3−7.ハビタット利用様式

    (1)植生・地形

    (2)傾斜

    (3)斜面の向き  4.考察

  4−1 食性   4−2 生息密度   4−3 活動性

  4−4 行動圏サイズ

  4−5 空間配置と個体間関係   4−6 繁殖と行動圏利用様式   4−7 ハビタット利用様式

第5章 総合考察

 1.栃木県産アカキツネの形態的・生態的特徴

 2.栃木県(本州)のアカキツネの現状

 3.博物館標本の利用と限界

 4.普通種狩猟獣の保護と管理に関する提言 要旨

英文要旨

謝辞文献

54 54 57 57 60

6ユ

62 64 65 66 67 68 70 70

72 73 75 76

78

83

86 86 91 93 95 97 99 101 104 104 109

!12

114 116 124 125

!27

(6)

第1章 序説 1.緒言

 最近の教科書,岩波書店の生物科学入門コース金8巻の構成から見ると,

生物学は遺伝,生化学,生理,発生,行動,生態,系統,分類の基礎領域 からなる(丸山,1992).そしてこれらの研究を組み合わせたり各々から派 生することで応用領域に発展するのが一般的な学問の進み方であろう.し かし哺乳類の生物学は,基礎領域からの発展を待たずして,応用領域へ着 手することが多いと思われる.それは哺乳類が我々人間が含む分類群であ り,共通する面が多いため,人間を研究する材料とされるためかもしれな い.医学とつながる哺乳類の病理学や生理学では,実験動物として扱われ るサル,ウサギ,ネズミ,コウモリそしてスンクス(ジャコウネズミ)など の基礎・応用の両研究領域で多くの知見を得てきている.しかし直接医学 に関係のない生態・行動など,一部の基礎領域は取り残されている.その ため実験に使われるコウモリの中には,生息状況等がほとんど把握されな いまま絶滅に瀕しているものもある(朝比奈ら,1992).ヒトとの比較に利 用しやすいためであろうか,霊長類の形態学は基礎領域だけで結論される

ことは少なく,機能面での比較形態に持ち込まれたり,行動学や心理学と

結び付いて様々な応用領域の結論に落ち着くことが多い(江原,!985).

 これに加え哺乳類を資源として見る時,その生物学は基礎領域の欠如が 非常に目につく.いわゆるビッグ・ゲームの対象となる大型哺乳類はその 経済的価値が興味の対象となるため,一部の社会的要請が特定の研究へ資 金を持込む.獲物の経済価値は資源管理の目的の下,一部ではあるが基礎 領域である生理(主に繁殖)や生態研究を促進させた.これらは野生動物管 理学といった新しい分野を作り出し,個体群の管理に見るような行政・民

間を取り込む大きな活動に発展している(古林,199!).しかし日本での野

生動物管理学には,向かう方向の異なる自然保護や動物愛護という活動が 圧力を加え,学問領域から外れてしまったり,野生動物保護管理と言う言

葉が表すような複雑な様相を呈す.

 こうして見ると哺乳類の研究は,ヒト研究の材料として飼育で十分な個

(7)

体数得られ取扱いがやさしい種と,資源として重要な種に重点がおかれて いる.もちろん冬眠や着床遅延など特殊な性質を持つものや,地域固有種 など希少なものは研究対象となっているが,それらの知見は決して多くな い.概して経済効果が研究対象として選ばれる基準となっており,それ以 外が対象となることは極端に少ない.そして経済的価値がなく生存の脅威

にさらされていない種を人間は普通種と呼ぶ.

 アカキツネ(Vu1pesvu1pesL.1758:以下単にキツネと称する場合ア カギッネをさす)は普通種の代表的な動物である.しかしまったく価値が ないという訳でもないため,時代や状況によって変化する価値基準によっ て極端な取扱いを受け,翻弄されてきた.キツネを研究対象としている者 にとって人問はキツネをどういう目で見ており,どう扱ってきたか,それ によってキツネはどうなってきたか,さらにこれからどうなっていくのか は見極めたい課題である.比較的人間の身近にいる動物として寓話によく 現れるキツネは,民族によって様々な見られ方をしている動物であり,ヨ

ーロッパなどではずるい動物として今でも嫌悪の対象とされる(Macdona1d,

1987).これに家畜を襲うものという固定観念が加わり,キツネはしたこ と以上の迫害を受けてきた.一方日本では稲荷信仰や変化謂からみてかな

り優遇されている(中村,!978).キツネの幅広いとらえられ方は,人間と

のかかわりの深さを感じさせる.このような感情的な価値基準が動物に対 する扱いを決定する基になる可能性があれば,動物の生存に大きな影響を 与えるかもしれない.しかし実際の人間の動物に対する選択には,もっと

現実的な判断基準が働いている.

 キツネは決してビック・ゲームではなく,食用とされることもフランス など一部でしかないので,これに対する興味は一般に薄い.その中で毛皮

獣としての商品価値が唯一興味を引くものだった.Seton(!9!0)やE1ton

(!924)以来有名になった北極圏やカナダでの毛皮取り引き量は年間数万頭 の膨大な捕獲数を描き出している(伊藤,!978).飼育下ではイヌと同等に

人慣れするキツネは,養孤業によって大量の毛皮を供給する動物となった.

一部のキツネは銀白色の毛皮や背に十文字(クロス)が出るため高価な商品

として取り引きされた.

(8)

 E1ton(1927)によってまとめられた,捕食者と被食者の個体数変動の関 係は新たな応用分野を生んだ.野鼠や野兎など森林資源に対する害獣の駆 除を捕食者にさせるという林業施行である.この役割はキツネとイタチに 課せられ,多くの放獣が行われたようだ.このような行為が土着の個体群 を損乱したことは大きな問題を残すことになるのだが,この時期のキツネ は人間にとって益獣として扱われていた.しかし狂人病やその他の病気の 媒介者という意味での害獣の側面も持っているため,毛皮の価値が下がり 害獣駆除を農薬が行うようになると,キツネの害獣的側面が相対的に高く なってしまった.そして今,そのことがヨーロッパでは大きな問題となっ

ている.

 感情的には違うとらえられ方をしている日本のキツネも,実際の取扱わ れかたは西洋とあまり変わらなかった.猟師の中には信仰上の畏怖の念か

らキツネは撃たないという者もあるが,普通はニワトリを襲われた憎しみ をキツネの駆除で晴らしていた.また肉を食べるための処理方法も伝えら れていることから,一部では食用にしていたと思われる.口にしたことの ある猟師の話では,綿を噛んでいるようでまずいらしく,まずいがために

現在は食用とされないのであろう.

 このような野生個体と住民の関係が似ているだけでなく,大規模利用,

特に林業施業の面では西洋の方法をそのまま取り入れたようである.これ に関して,どの地域でどの位の規模で行われたかは,ほとんど資料が残っ ておらず,行政が保管していると思われる資料の開示もない.放獣に関す

る資料は,石川(向本,1968)と長野(今泉,!994)の両県に文献が,茨城と

福島および和歌山に聞き取り情報が得られたのみである.農林省のキツネ の繁殖場が岡山県にあったという事実は,林業上の措置として令国的に行 われたと思われる傍証となる.その後林業の衰退によってキツネの導入は 行われなくなり,現在では過去の行為によって個体群の遺伝的撹乱が起こ

ったことだけが想像できるのみである.

 毛皮の生産を目的とした養狐業は軍服の需要があった!940年代まで日本 各地で営まれていたと思われる.そして飼育されていたキツネの一部は逃 走もしくは放逐されたとの情報を得ている.茨城の元春孤業者は空襲時に

(9)

逃がしたと言っている.飼育されていたキツネの産地ははっきりしないが,

本州のものより毛皮の質が良いものを購入していたと元業者は言う.その 購入先は根室の業者で,産地はクリルやサハリンそしてアラスカ産ではな いかとの話がある.時代といってしまえばそれまでだが,十着個体群への 配慮がないまま撹乱されてきた歴史の中で,やはり基礎領域の研究はほと んど行われなかった.欧州では狂犬病防除の要請から,研究が継続的に行 われている.日本には幸福なことに今のところ狂犬病の流行はない.次項 で触れるが伝染病の存在は研究対象としてのふるい分けに使われ,本州以

南のキツネはこれにあたらなかった.

 序を終わるに際し,このように研究の対象から外れた動物は本当にその ままでよいのか私は疑問に思うのである.個体数の激減は普通予測できな い事態から起こるもので,伝染病が見つかる時も普通は突然である.その 動物に対する知識の蓄積がないため不測の事態に対策が遅れ,動物と人間 双方への悲劇が繰り返されてきたのではなかろうか.この意味ではできる だけ早い時期に調査は開始されるべきである.現在のところ表面上問題に ならない動物の研究は他の問題動物に隠れてしまって興味が薄い.しかし 問題が起きていない時でないと見られない側面もあるだろう.したがって 今は我々の身近に生活する動物のことを,もっと知りたいという個人的な 好奇心から発進することとする.アカギッネは広い適応力の反映で広い生

息域を持っ(Fig.!).そのため形態の地理的変異を研究する上では格好の

材料といえる.一方キツネに関する近年の生態,行動研究の成果は,環境 によって生活を変える幅広い適応を我々に教えてくれる.適応を考える上 では,形態的特徴の生物学的意味も重要な鍵となり,両面からの総合的な 研究が必要と考えられる.しかし日本では形態,生態,行動との面に関し ても情報が欠如している.そこで本論では栃木県のアカキツネの生物的特 性を把握する目的で,基礎領域である形態と生態の研究を試みる.

 形態と個体群組成に関する情報は栃木県立博物館の標本から得る.これ らの情報は国内の基礎資料となる.またそれと同時に齢構成,性比や死亡 様式など地域個体群の管理に必要と認識されているものの欠如しがちな科 学的情報を提供する.また野外調査から生活史,食性,生息密度など基礎

(10)

生態情報を明らかにするとともに,環境解析から餌や営巣,休息など生沽 に必要な資源の分布様式を明らかにする.キツネはテレメトリ法により長 期の個体追跡し,活動様式,行動圏サイズ,行動圏内部利円様式,ハビタ

。ソト利用様式などについて,生活史や個体関係との関係を検討する.

 本論の結果はこれまで日本で顧みられることのなかった,普通種の現状 を認識する材料となるだろう.その認識に基づき方向の定まらない日本の 野生動物管理と保護について一考し,今後の対策についての指針を提言し

たいと思う.

2.研究史

 アリストテレスに遡るまでもなく,キツネは身近な動物としてそれ以前 の吉代から認識されていただろう.キツネは!758年にリンネが初めに命名

した動物の一つである.Vu1pes vu1pesと名付けられて以来,ユ900年まで のキツネ研究はほとんど資料が得られないので分類・評価ができないが,

ヨーロッパや北アメリカで行われたこれらの研究は主に博物学・自然史的

なものと想像される.Mivart(1890)やTa1bot(1906)のモノグラフはその代

表的なものである.この時点で西欧での生活史の概略や事例報告的な形態 計測値はかなり蓄積されていた.ここではキツネ研究の全てを見ていく訳 にはいかないので主に本論と関係する形態と生態について概観するが,こ の他には繁殖生理や歯学(口腔解剖学)などに加え様々な応用領域でも材料 として用いられている.また寄生虫の宿主としても研究の対象となってい

る.

 キツネの近代科学的研究としては,Seton(1910)がひとつの始まりと位 置づけられる.この研究では北極圏の動物個体群の周期変動と相互関係を 明らかにしており,キツネはホッキョクギツネ(A1oPex1agoPus)とともに

ガワリタビネズミ(Dicrostonyx groen1andicus)の捕食者として機能し,

また個体数の増減を繰り返していた.この説はE1ton(1924)によってカナ ダ・ツンドラのハドソン湾会社の統計から裏付けられ,彼の本によって広

まる(E1ton,1927).MacLu1ich(1937)によるデータの補追後,Lack(!954)

によって相互関係による個体数変動機構の例としてまとめられた.その後

(11)

この説はKrebs(!964)により反証され,キツネの捕食はレミングの個体数

変動には影響が少なく,植生との関係が個体数変動の主要因とされる(伊

藤(!978)を要約).このあたりからキツネは個体群動態の研究対象から外

されるのであるが,E1ton(1927)が広く教科書とされたためか,キツネが ネズミ類駆除に有益な動物であるという考えは早くから定着し,別の動き を見せる.日本でもE1ton(1927)は渋谷寿夫によって1955年に 動物の生 態学 として訳され広く読まれてきた.これがヰツネ導入の理論的根拠と

なっていると想像される.

 個体群研究の流れは寒帯から温帯に広く生息するハタ系スミ(y1CrOtu至 agreSt1S)とキツネの関係に置き換えられ,特にスウェ テンで発展する.

これはE1ton(!942)がノルウェーでアカキツネ・ホッキョクギツネとタイ リクタビネズミ(Lemmus1emmus)やカラフトライチョウ(LagoPus1agoPus)

の研究をしたことが少なからずも関係しているだろう.スウェ テンでの 長期にわたる両種および群集を構成する数多くの種に関する個体群動態追 跡と相互関係の解析は継続中であり,総合的な研究が新たな知見を与えて 続けている.現在この研究の中心にはイタチ研究で著名なEr1ingeが居り,

彼の指導でSchantzやLindstromがキツネの研究で博士号を取得している

(Schantz,1981a;Lindstrom,1982a).Schantzが行動生態(Schantz,198 1b,!984)で,Lindstromが個体群生態(Lindstrom,1982b,ユ988)を}心課

題として今も活躍している.これらの研究に用いられている餌動物の密度

などはハタネズミ研究の第一人者たちが同じ調査地で研究していることが 大きな力となっているだろう(Hansson,1978,My11imakieta1.,1971,

My11imaki, 1977).

 その他の地域では1920年から1940年代まではファウナの研究が多かった のではないかと思われる.キツネはリンネの命名以来ヨーロッパでの分類 を起点とし,1930年までにはアジア,アフリカでもほとんどの亜種が確認

された(E!1erman&Morrison−Scott,195!,Tab1e1).そのなかには良い

毛皮の産地や毛皮の価値を上げるための研究と思われるものが見られる

(Ashbrook,1937;Bassett&L1ewe11yn,1947).毛皮産業・養孤業との 結び付きから出てくる傾向かもしれない.このような研究は1960年まで続

(12)

き,その成果として北アメリカ土着の別種とされてきたy.工。μ⊥y亘をシノ

ニムとすることで一応決着した(Churcher,1959.1960).この動きは毛皮 のことを除けば,純粋に生物分類を進めるためのものである.しかし毛皮 産業が斜陽になったころからこの分野の研究は少なくなり,その後は単発

的な形態研究としての地域間比較が行われた(Fichter&Wi11iams,ユg67).

またイギリスではスコットランドとイングランドおよびアイルランド間の 地域差を焦点に研究が継続された(Tet1ey,1941;Fair1ey,!970;Kolb&

Hewson,1974).Huson&Page(1979)はウエールズと南東イングランド間 の地域差を判別分析を用いた多変量解析の手法によって解析した.しかし 現在は置き去られている分野と言え,種間比較に用いられることはあるも のの(Jas1ow,1986),他の動物では主流となった多変量解析を駆使した形

態計測学的研究は立ち遅れている.

 !940年から1950年代の生態調査は,食性について北アメリカ,ヨーロッ パで成果を挙げはじめた(Errington,1937;Lever,1959).主にフンと胃 内容物の分析を行いているが,分析法はこの時代に改良が加えられ,現在 用いられる手法の基礎(Lockie,1959)ができあがったと言える.Cook&

Hami1ton(1944)の研究は詳細で,餌リストには18種の哺乳類と7種の鳥類 が掲載されている.利用可能なものを利用するオポチュニスト像が形成さ れたのはこの研究からである.利用できる餌の幅は広く主に生息環境が反 映すること,そして最も基礎的な生態研究であるため,その後も研究蓄積

が続く(Macdona1d,1977;Doncaster et辿.,1990)最も充実した研究分 野と言える.

 1965年になって初めてテレメトリ法を用いた哺乳類の研究が発表された.

同年アメリカクロクマ(Craighead&Craighead,1965)とともに,初めて 適用を受けた動物の1つにアメリカのアカキツネがあたる(Storm,1965).

以後この調査法は世界中で様々な成果を挙げている(Am1aner&Macdona1d,

1980;White&Garrott,!990).夜行性のキツネ研究にとってこの技術革 新は行動や生態の研究に大変有効な手段であった.北アメリカでのテレメ

トリを使った仕事は順調に成果を挙げ,Storm etれ.(1976)によって形

態・個体群組成を含めたキツネのモノグラフがまとめられた.わずか10年

(13)

でこれだけの成果をまとめあげてしまう研究体制はまさにアメリカ的であ り他に類を見ない.その後はSargeantが,カモ類への捕食をテ マに研究 が続けており,幾つかの報告がなされた(Sargeantギギ.,1984,1987).

しかし同じ食肉目でも害獣的側面の強いコヨーテに比べればその数は少な く,アメリカでのキツネ研究は下火になったといえる.

 Storm et2ユ、(!976)の後,Macdona1d(!979)が不イチャ 誌に載せた論

文はこれまでのキツネ像を変えるものであった キツネにヘルパ が存在 するというこの報告は,これまで単独・一夫一妻制とされてきたキツネ社 会の解釈を大きく変えた.彼はその後も飼育下の実験(Macdona1d,1980a)

や,飼育個体の野外実験(Macdona1d,!981)という順で,新たに現れる仮

説を検証していった.このような研究姿勢は大いに参考になるところであ

るが,彼の最大の特長はグループ研究として発展させる能力であると私は 考える.Oxford大学に集まる層の厚い陣営のなせる技で,キツネの行動生 態学を発展させ続けている(Macdona1d&Newdick,1982;Doncaster&

Macdona1d, 1991).

 イギリスにはもう一っ大きな成果を上げているキツネ研究クル プがあ る.Bristo1大学のHarrisを中心とするこのグループは,LondonやBristo1 の都市に生活するアーバン・フォックスの個体群生態を明らかにしている

(Harris,1981.1986).彼らの手法はユニークであり,時には小学生によ るセンサスに発展する(Harris,1977).またモデルによる個体群生態の理 論作りもここが本家的存在である(Harris&Rayner,1986a,1986b;Harris

&Smith,1987).

 ヨーロッパでキツネに研究が盛んな理由は自然史研究の歴史的背景ばか りではなく,深刻な狂犬病問題のためであろう(Macdona1d,1980b).最も 汚染度が高いと言われるフランスをはじめ,ヨーロッパの大陸部のほとん

どはこの問題を抱えている(Wachendorfer&Frost,1980).効果的な対策 はまだなく,研究者の多くが多少ともこの問題に携わっている(Zimen,!9 80).唯一イギリスだけがまだ狂犬病にさらされておらず水際作戦を行っ ているが,ユーロトンネルでフランスとつながったことで,汚染は時間の 問題かも知れない.大都市にノラネコのようにいるイギリスのアーバン・

(14)

フォックスが,狂犬病に冒される状況は想像を絶する悲劇と対処不可能な

事態を招く恐れがある、

 こうして見てみるとヨーロッパと北アメリカを除く地域ではほとんどキ ツネ研究の成果が上がっておらず,日本も例外ではない.日本に生息する キツネは研究対象として全く違った2つのものに分けられる.それには寄 生虫エキノコックス(Echinococcusmu1ti1ocu1aris)が深く関与している.

北海道に生息するキタキツネ(V.v.Scherencki)はエキノコックスの宿主 として,社会的要請のもとに普通種から害獣となった.キタキツネの研究 はエキノコックスとの直接的な部分すなわち疫学,寄生虫学はもちろん,

キツネ自身の問題,すなわち生息分布,個体数,個体群組成,行動,繁殖

等いずれの面についても研究が着手され,幾つかの成果をあげている(Abe,

1975;Yoneda,1979.1982.1983;Yoneda&Maekawa,1982;鈴木ら,19

84;Uraguchi et a1.,199!).これには北海道(行政)や大学を中心とした 研究体制が不可欠であった.また形態研究として笹川ら(1980)と笹川(!98

4)があり,特に歯牙交換様式や齢査定法で日本唯一の貴重なテ タをもた

らした.最近では行動学的見地から塚田(1994)の知床におけるファミリー 追跡が報告された.

 一方本州以南に生息するキツネに関しては,これまで寄生の報告がなか ったため,個人レベルの研究しか行なわなかった.その中で中園は熊本県 阿蘇地方のキツネについて1965年頃から観察を始め,テレメトリ法を用い た先駆的研究を行った(中園,1970a,1970b,1989;Nakazono&Ono,198 7).これによって九州のキツネにもヘルパー性が確認されるなど生活様式 の解明に貢献した.しかし先駆的研究であるがため行動圏面積の算出に用 いたデータの質に問題となる部分もある.中園はこれら長年の研究を昨年

学位論文にまとめた(Nakazono,1994).本州では花村(1973),安部(1984)

の形態研究と大畑(1988)の鳥取砂丘での巣穴研究がある.その後Takeuchi

&Koganezawa(1991.1992)が本州で初めてキツネの行動圏データを提示 した.またTakeuchi&Koganezawa(1994)は個体群構造を博物館試料から 推定した.このように日本の研究は西欧を追従するものであり,形態分野

の研究進度は遅く,生態研究はいくつかの成果を上げてきている.近年は

(15)

また報告がだされ始め,1984年のビークに以来の活発さがあるが,まだ世 界からは取り残されている.そして1993年に津軽半島でエキノコックス感 染キツネが発見され(神谷,私信),これから本州でも集中的な研究体制が

必要となると思われる.

3.生活史の概略

 栃木県足尾でのキツネの生活史は本テレメトリ調査によって詳細を解明 するのであるが,その概要は先行研究(竹内,1991)によって示されてい

る.また広い分布をもつ本種はヨーロッパをはじめとした各地で生活史の 報告があり,既存の情報からも概略をつかむことができる.北海道では阿 部(1971)が生活史をとらえており,足尾との違いはほとんどの生活史事象 が約1ヵ月遅いだけである.Harris(1986)は啓蒙書 アーバン・フォック の中で,生活史を非常に分かりやすいカレンダー形式で紹介している

(Fig,2).詳細で異なるところもあるが,出産時期などは足尾とイギリス で一致する.このように北区全域に生息するキツネの生活史は各生活史事 象の発現時期が少し違うだけで,周期はほとんど同じと考えられる.足尾 に生息するアカキツネは3月中旬に出産し5月には仔が巣外活動を開始す る(竹内,1991;Takeuchi&Koganezawa,1992).9月には分散が始まり,

定着できる個体の多くは12月までに行動圏を確立する.1月には交尾期に 入り,ほとんどの雌は2月までに妊娠する.

 キツネは生後約6ヵ月で永久歯の崩出を終える(笹川ら,!980).この間 外部形態は色や体型の著しい変化を起こし急速に成長する.ここまでが幼

獣(cub)の時期で,次は亜成獣(sub−adu1t)段階になる.亜成獣になると成

長は緩やかになり,大きさでは成獣(adu1t)と見分けがつかなくなる.亜 成獣は生後10ヵ月ぐらいで雄,雄とも性成熟する.しかし個体の生理状況 に左右される亜成獣と成獣の区分はつかみづらく,利用しにくい.このた

め便宜的に生後1年をもって成獣とするStorm et a1.(!976)の区分を用い ることを本研究でも支持したい.

 繁殖に参加できる成獣の割合には地域で大きな違いがあり,主に生息密

度の違いが原因である (Macdona1d,1984).雌の交尾許容期間はイヌ科に

(16)

共通の特徴として3週間と短く,3 4日の間しか受精可能な日はないと

考えられている(Tembrock,ユ957) 一方雄は3 4ヵ月受精能がある(Mc−

lntosh,!963).タイミングよく交尾できたものしか子孫を残せないため,

普通発情期間の前後雄は雌の後追いを常に行っている.また交尾時には2

−3時間の交尾結合が見られることがある.低密度の時は1対1でペアを 組んでいるように見え,ペア雄に威嚇されあぶれた雄がその周辺で隙を狙

っている.妊娠期間はおよお52日間である(Burrows,1968).

 低密度生息地は一般に餌環境がよくないが,広い面積を利用することに よってそれを補い(Voigt&Macdona!d,1984),一部の雄を除いてほとん

どの個体が繁殖に参加する(Storm et a1.,!976).一方,高密度下では個

体間の優劣関係が顕著に現れるため,繁殖個体は全体の3割にまで減少す

る(Macdona1d,1984).劣位雌で出産するものもあるが,優位雌によって

仔を持ち去られ,自身で授乳することは優位雌から妨害される(Macdona1d,

1980a).劣位雌の仔は早く生まれた優位雌の仔と同じ巣穴に連れていかれ るが,競争力で劣るため結果的には死亡することが多い.ただし任の生存 率は餌や気温等の環境に大きく左右され,劣位雌の全ての仔が死亡する訳 ではない.育児に雄がどの程度関与するのかは直接観察で明らかにされて きた.最も顕著な行動は仔に対してでなく母親に対する出産直後の給餌で ある(Macdona1d,1980a).またGubernick&K1opfer(1981)は雄が仔と遊

ぶことが重要な育児行動であると主張する.

 繁殖行動や分散様式などの生活様式も密度依存し,変異に富む.近年は 高密度下での詳細な研究が多く,集団生活するキツネの生態が明らかにな

ってきた.集団生活は極端な高密度下だけではなく,中密度下でも起こる

(例えば阿蘇地域:中園,1989).ただしこれは局所的な餌の配置による高 密度とも言える.低密度でもナワバリが十分確保できる場合はつがい,ま

たは単独での生活様式をもつことが,北アメリカ(Storm etギ.,1976)や

足尾(Takeuchi&Koganezawa,1992)で確認されている.

(17)

4.目、然環境の概略

 博物館資料の収集や野外調査は本州の東央部,栃木県(宇都宮:37o N,

139.E)で行った.栃木県は面積約6,400㎞2で,その中央部の丘陵地は鬼 怒川,那珂川の段丘や沖積平野で構成され関東平野につづく.残りの6割

は山地で,東部県境に阿武隈山地の南端である八溝山地(八溝山:1022m),

北部に那須山地(那須岳:1917m),北西部に日光山地(白根山:2578m),

そして南西部に足尾山地(皇海山:2!43m)が取り囲む(Fi9.3A).

 気候区分としては暖温帯の北限にあたり,宇都宮の年平均気温は!3度で ある(Fig.3B).高地は亜寒r寒冷帯にあたり,白根山頂付近は森林限界を

越えている (Fig.3A).年平均降水量は1400mm程度である(Fig.3C).こ

のような環境でアカキツネは森林地帯,農耕地および市街地の広い範囲に

分布している.

 野外調査を行った日光・足尾地域の環境については第4章で詳述する.

(18)

第2章 アカキツネ栃木個体群の形態的特性

1.はじめに

 外部形態や頭蓋骨形態の計測値は地理,性そして齢に関する種内変異の 基礎テ タを提供する.ヨーロソバや北アメリカではアカキツネの形態に

関する言己録がふんだんにある.L1oyd(1980a)はイギリスの4地方で外部形

態にベルクマンの法則が成り立つことを示した.しかし同じ本で彼がまと めた世界!6地域の体重では必ずしもこの法則に一致しているとはいえない

(Tab1e2).頭蓋骨の大きさではスコットランド(Kolb&Hewson,1974),

ウエールズと南東イングランド(Huson&Page,1979)に生息する個体の地 域変異や性差が検討されている.また北アメリカでもFichter&Wi11iams

(1967)やStorm et a1.(1976)によって量的にも十分な計測値が提示されて

いる.

 加齢変化を伴う動物における動物の成長や発育の問題を扱う時,個体の 年齢を考慮すること,そして成長による齢変異と性的,地理的変異は分け て考えなければならないが(阿部,1991),キツネではこの意味でのしっか

りした研究は少ない.またヨーロッパや北アメリカ以外での外部計測や頭 蓋骨計測についての報告は僅かで,北区全域に広く分布するアカキツネの 種内変異の全容は明らかになっていない.1980年代になってからは西欧で も新たな研究は少なく,近年主流となっている多変量解析を用いた変異の

解析は本格的になされていない.

 金子之史氏が指摘するように,日本の哺乳類に関する標本の研究は無秩 序な収集のα段階にしかなく(仲谷,1992),アカキツネ形態の研究も乏し

く,本種に限らず中型哺乳類の計測値は事例報告がほとんどである.これ はもっぱら個人収集に頼ってきた研究の歴史と,中型哺乳類は比較的収集 が困難なこと,そして研究の至急性順位が低いと考えられている普通種が 多いことの反映であろう.本来収集の最重要拠点であるはずの自然史系博 物館には,資料収集が博物学の基盤であるという考えが未熟であったため,

積極的に収集する博物館が現れはじめたのはここ!0年ぐらいのことである

(小金沢,1986).

(19)

 日本のキツネ形態研究史はおおよそ以下のようである.外部計測値につ

いては1950−60年代に出版された動物図鑑(黒田,!953;岡田,1965)に見

られるように,頭胴700mm内外といったおおまかな記述データしかない時

代が続いた.その中で今泉(!960)の図鑑において本州産5個体(性による

区別なし)の平均値と範囲が示され,今日まで本州以南の個体群の代表値 とされてきた(Tab1e3).しかし体重の記述がないことと例数があまりに も少ないため,個体群の平均像を示す計測値としては疑問が残る.本州以

南に生息する亜種ホンドギツネ(y エ Japon1Ca)の外部計測値は,事例報

告としてでも言己録しようとする努力があり,国内の哺乳類を知る上で貴重

な資料となっている(花村,1973;両角,!974;中園,!973:Tab1e4)・

その後,安部(1984)が満足できる例数(雄:37,雌:27)で兵庫個体群の計測

値を報告した.しかし剥皮個体の計測のため体重は参考値であり,頭胴長 の言十側部位が小型哺乳類の方法に準拠している等,海外の既存資料と比較 できる計測部位は一つもない.様々な点で本州よりもキツネの研究が進ん

でいる北海道でも,外部言十測値については今泉(1960)の段階で止まってお

り(Tab1e3),阿部(!974)も頭胴長60−80cm,尾長37−44cmと記録してい るにすぎない.

 頭蓋骨計測値も外部同様に動物図鑑の概算の時代を経て,今泉(1960)に よる雌雄各1例の記載が代表値となる.また花村(1973)によって1例の報

告がある(Tab1e5).安部(!984)が報告した兵庫個体群の雄39,雌31個体

の計測値は齢査定されていないが,回収時期から亜成獣以上のものと考え

られる.計測値の記述統計や重回帰等を求めており有用なデータであるが,

これも一部通常とは異なる計測部位を用いており,特に最も重要な基底骨

全長が比較できない(Tab1e5).一方同じ年に笹川(1984)は,十分な例数

(n・880)による北海道個体群の計測値を発表し,頭蓋骨の成長様式や性

差(雄50,雌32個体)について検討した(Tab1e5).

 安部(1984)と笹川(1984)の研究は日本に生息するアカキツネの頭蓋骨言十

測値を代表するものであるが,安部(1984)は考古学的興味から現生キツネ の言十測を行っているため,生物学的な検討はほとんど見られない.また笹 川(1984)は口腔解剖学の興味から検討しており,主眼は成長過程の解析に

(20)

向けられ性差の検討は十分でない.形態計測が研究の視点によって様々な

使われ方や解析をされることは普通に見られることであるが(三中・1994)・

生物の形態をとらえる上で最も基本的な解析法としては計測形態学的手法 に削るべきであろう.著者の興味は形態の性的分化の適応的意味と生態や 行動との関係にあり,その意味では本報告も形態学の主流とは外れる・し かし生物学の基礎ともいえる形態資料がいまだ不完全な日本の哺乳類学に とって,形態の基礎資料を残しておくことは有用である.また地理的変異 を検討するためにも信用に耐える計測値は不可欠である・

 このような現状を踏まえ,本研究では栃木県立博物館の標本に著者の独 自収集分を加え,以下のことを目的とした解析を行った.

!.今泉(1960)に代わる日本産アカキツネの代表値として,栃木個体群の外  部計測値,頭蓋骨計測値を示す.

2.記述統計および多変量解析を用いた計測形態学的解析を行い,形態学の

 基礎的項目である成長様式(相対成長)と齢変異,性的二型を解析する.

3.地理的変異における栃木個体群の相対的位置を確定するために,2.を考  慮した上で日本国内の他地域個体群(兵庫,北海道)や外国産亜種と比較

 する.

2.材料と方法

2−1. 木オ*斗

 外部計測に供した資料は,計測時や解剖時に性の判定と永久歯の崩凸状 態による齢判定を行った.齢判定の基準には下顎第3臼歯の永久歯の崩凸 状態を用いた(笹川,1984).これにより完全崩出しているものは亜成獣以 上,まだ乳歯が残る個体や崩出途中の個体は幼獣とした.幼獣は初期成長 中であり,個体変異が大きく平均等を求めることはあまり意味がない.ま た今回は十分な個体数が得られなかったため,幼獣に関する統計解析は行 わず,亜成獣以上の成長様式を把握する資料として9個体分の計測値を利

用した.

 したがって外部計測値の統計解析は,性別既知で亜成獣以上と査定され たものを対象とした.対象となったアカキツネ標本は,栃木県立博物館が

(21)

!981年から!993年までに収集した雄53,雌46の計!01個体と著者が独自に

収集した標本雄8,雌5の計13個体の合計!1!個体である.独自に収集し た個体にはテレメ追跡のため生け捕りされた個体を麻酔下で計測したもの

も含まれる.また追跡期間中に死亡し,回収できたものは標本にして博物

館に収蔵した.

 頭蓋骨計測は亜成獣以上の博物館標本,雄34,雌27の計61個体と,独白 に収集した亜成獣以上の標本雄1,雌2の言十64個体について行った.独自 収集の個体にはテレメ追跡個体を死亡後回収したものもある.全標本につ

いて,犬歯セメント質層板による年齢査定(第3章3−2(3)を参照)を施した.

その内訳は亜成獣雄21,雌17,成獣雄!4,雌12個体であった.

2−2.外部計測

 博物館で外部計測に供した試料(死体)の状態は,その搬入経路によって 完全・剥皮状態・内蔵なしと異なる(Fig.4).剥製業者搬入のものには四 肢の足指部が切断されているものもあり,後足長等が計測できなかった.

また計測が行われた状況も死亡直後,冷凍保管後の解凍,麻酔下生体(テ レメ装着のため生け捕りし捕獲時に計測)と異なる.試料の状態の違いに より計測値に違いが出る可能性もあるが,今回は試料の状態を問わず検討

ヰオ米斗とした.

 計測部位のうち体重・全長・頭胴長・尾長・後足長および耳長は基本的 な計測部位であり,基礎資料として示すとともに外国産亜種との比較にも 用いた.それ以外の計測値は栃木県立博物館の哺乳類計測マニュアル(今

泉,1986)に従い,栃木産アカキツネの形態計測値として言己録した.なお 言十側部位によってはヨー口・ソバ・アメリカで異なる基準点を用いるが,今

回はできる限り両方の計測を行った.体重は竿秤(10k9)または上皿ばね 秤(20k9)を用い109まで秤った.長さは金尺(1m,30cm)またはメジャー

(3m)を用い,1mmまで計った.計測の基準点および計測部位を次のぺ一

ジに示す.

(22)

計測の基準点:(Fig 5A−C)

1〕k)鼻鏡      7)耳介先端

2)尾端       8)耳珠と迎珠間のへこみ 3)仙尾椎関節    9)耳後端

4)飛櫛       10)耳幅両端 5)後肢指先端    11)肩甲骨 6)後肢指爪先端

 *Fig.5の計測点を示す数字に対応

12)前∫月支指先立需

!3)前肢指つめ先端 14)肩甲骨前端 15)寛骨後端

 計測部位 (Fig.5A−C)

1. 体重[Bodyweight;BW氷コ

2. 剥皮後体重[Body weight,no fur;BWf]

3. 内臓なし体重[Bodyweight,no furand gutBWg]

4. 全長[Tota11ength;TLコ:1−2

5. 頭胴長[Head−body1ength;H−B]:1−3

6. 尾長[Tai11ength;TaLコ:2−3(尾と体を直角に上方に曲げた出端)

7. っめなし後足長[Hind foot1ength,excIudingnai1;HFo]:4−5 8. つめあり後足長[Hind foot1ength,inc1udingnai1:HFl]:4−6 9. 耳長(内側)[Ear1ength,frommeatus;EC]:7−8

10. 耳長(外側)[Ear1ength,from crown:EMコ:8−9

!1. 耳幅[Ear width;EW]:10

!2. っめなし肩高[Shou1der height,exc1udingnai1;SHo]:11−12 13. つめあり肩高[Shou1der height,inc1udingnai1;SHi]:11−13 14. 体長[Body1ength;BL]:14−!5

15, 首囲[Neckcircumference;NC]

16. 胸囲[Chestcircumference;CC]

17. 胴囲[Trunkcircumference;TCコ

!8. 腰回[Waistcircumference;WC]

 *以下および図表での形質名は主にこの略号を使用する.

(23)

2−3、頭蓋骨言十測

 計測点と言十側部位はDriesch(1976)等を改変した笹川(1984)を,さらに

一部改変して次の箇所で行った.計測部位が左右にあるものは両方を30㎝

ノギス(読み取り精度0.05mm)で計測し,左を優先し解析に供した.

 計測の基準点:(Figs.6A−E)

1)lnion(1):外後頭結節の最後方端

2)prosthion(P):左右の上顎第1切歯最前端を結ぶ線と正中線との交点

3)Zygion(Zy):頬弓最外測点

4)Nasion(Na):鼻骨前頭突起の後端

5)Rhinion(Rh):右鼻骨の鼻突起と正中線の交点*

6)Orbitoora1e(oo):眼窩下縁の最前点

7)Entorbita1e(Ent):眼窩上縁の最内側点

8)otion(0t):側頭骨乳様突起の最外端 9)Staphy1ion(St):口蓋骨後身棟の後尖端 10)Euryon(Eu):側頭骨外壁膨隆の最外測点

11)Sphenion(Sph):前頭骨・頭頂骨・蝶形骨の三骨合点

12)Condy1ion media1e(Cm):下顎骨関節突起後面の中央点

13)lnfradenta1e(ld):左右第1切歯槽間中隔の前上端

計測部位:(Figs.6A−E)

  全長[Tota11ength;TL水]:1−P

  基底全長[Condy1o−basa11ength;CBL]:後頭穎の両側最後端と正       線との交点[Fig.6Aの1]一P

  頬弓部幅[Zygomatic width;ZW]:Zy−Zy

  鼻骨長〕い上[Nasa11ength;NL]:Na−Rh

  吻長[Rostrum1ength;RL]:P−0o

  吻幅[Rostrum width;RW]:左右の犬歯歯槽隆起(Fi9.6Aの2)の最大

      幅径

7 眼間部幅[lnterorbita1width;IOW]:Ent■Ent

(24)

8 乳様突起間幅[Mastoid width;MW]:Ot−Ot

9 硬口蓋最大長[Pa1ata11ength;pL]:p−St

lO 上頬歯列全長[Length of upper cheek tooth row;UCTR]:C前縁よ

       りM2後縁までの長径

11 頭蓋幅[Crania1width;W]:Eu−Eu

!2 スヘニオン幅[SPhenionwidth;sPhW]:SPh−SPh

13 下顎骨全長[Mandibu1ar1ength;ML]:Cm−ld

!4 下顎歯列長[Mandibu1ar tooth row;MTRコ:ld−M3の後縁   *以下および図表での形質名は主にこの略号を使用する.

 **鼻骨は左右で長さが違うことが多いので,計測点をより明確にする

  ため笹川(1984)を改変した.

2−4.計算

 すべての解析は分散の影響を避けるため,自然対数値に変換してから行 った.ただし外部形態,頭蓋骨の各計測部位については,整数で示すのが 一般的でわかりやすいため,性ごとの平均,標準偏差,標準誤差そして範

囲(最小一最大)の各記述統計値の表書己は整数で行った.

 相対成長を回帰分析(Regression ana1isys)で求めたアロメトリ係数か ら解析し,成長様式を図示した.外部では成長様式の概要をつかむため幼 獣の計測値についても解析した.頭蓋骨では雌雄それぞれを亜成獣(グル

ープSA)と成獣(AD)に分け解析した.

 外部計測値の部位ごとの齢変異と性変異をWi1coxsonの順位和検定法に よって検定した.また比較する両グループで試料数が25を越えるものは,

正規分布を仮定できるものとしt一検定でも解析した.検定は亜成獣以上 をまとめたグループ(0SA)について行った.頭蓋骨計測も同様に性差を検

討したが,比較するグループはまず亜成獣以上(OSA)について行い, 亜成 獣(SA)と成獣(AD)に分けたものについても行った.

 性差の検出には判別分析(Discriminant ana1ysis)および正準判別分析

(Canonica1discriminant ana1ysis)を用いた.判別分析では両性間の差 をマハラノビスの距離で示した.距離の計算式と判別式を次へ一ジに示す.

(25)

   2      −1 _  _

   D(ilj)・(X−XジCOV (X−X)

         i j      i j

     −1         2      2

F(X1j)・・ SUM・xP(一〇.5D(X,Y )/R)

     ji      ji

P。(j1X)・PR10R F(xlj)/sUMPR10R F(xlk)

       j         k   k

また判別係数(共分散),分散(F)に対する統計量(Wi1ksの△,Pi11aiの跡,

Hote11ing−Law1eyの跡,Royの根)と判別結果からグループ間の重複度を検

討した.

 正準判別分析では正準変量に対する各形質の標準化係数(Standardlized

co−efficient)によって性差や年齢差に対する各形質の寄与度を比較した.

正準判別の結果は正準判別変量(CAN)によって表される各個体の位置を図 示した.また頭蓋骨については亜成獣一成獣間の性差を検討するため4つ

のグループに対して言十算した.

 多変量解析に用いた計測部位は,線形計測部位を用い,外部計測部位で は全長,頭胴長,尾長,後足長の4部位,頭蓋骨では全計測部位の14形質 を用いた.しかし試料中には計測部位が欠損しているものあり,言十算に用 いることができるデータ数が少なくなってしまう.このためデータ数を増 やし精度を上げる目的から,外部では3,頭蓋骨では6形質での解析も行

った.形質の選択基準と計算に用いた部位はそれぞれ結果ごとに示す.

 計算プログラムはSAS(Statistica1Ana1ysis System,ver.6.03;SAS

lnstitute川C,NC,U.S.A.)を,計算機は茨城大学情報処理センターのM−

660(日立製作所,東京)を用いた.

3.結果

3一ユ.外部計測

(1)言己述統計値

 亜成獣以上で性別既知の個体について,外部計測の記述統計値を求めた

(Tab1e6).平均体重は雄51099(n・!7),雌439!g(n・17)であった.

狩猟副産物として収集されるた標本の多くは毛皮がないため,剥皮後体重

(26)

も測定した(M:n・29,F:n・22).剥皮後標本の平均体重はも皮付きよ り雄で約2609,雌で約4709軽かった.

 雄の最小体重は40009で平均より約11009軽かった・雌の最小体重は 19009と平均より約25009軽い.この個体はテレメ タ装着個体で・死亡 20日前の捕獲時(1993年ユ0月12日)の体重は23009であった.死亡(1993年

!0月23日)後の剖検では,消化管内の未消化物は昆虫のみで少量であった

ため,この個体は餓死と判断した.

 最大体重は雄で66009であるが,剥皮個体に67009が確認されている・

剥皮個体の平均体重は雄で約2609少ないため,この個体は少なく見積も っても69509以上と推定される.雌の最人個体は60509で剥皮後体重の最 大は58009であった.この剥皮個体は毛皮込みで62509以上と推定される.

 全長,頭胴長,尾長,後足長,耳長(内側)の基礎線形部位とその他の線 形部位の言己述統計値をTab1e6に示す.全長,頭胴長は雄で57,雌で44以 上の十分な試料数を確保できたが,その他の部位で25を越えるものはわず かであった.耳を除く線形計測値の分散は小さく,体重や田の部位の分散

は大きかった.

(2)相対成長・季節変化

 体型は成長および季節によって変化すると考えられる.しかし全試料の 齢査定をしていないため,齢に対する成長様式は見ることができなかった.

また夏期に収集された標本が少ないため,年間を通じての季節変化も追う ことはできなかった.このような断片的なデータから成長と季節変化につ

いて得られた知見を以下に示す.

 頭胴長に対する7線形計測形質9部位の相対成長様式をアロメトリ式に よって求めた(Tab1e7).尾長・後足長等の長さに関する形質は相関が高 く,幼獣時は顕著であったが亜成獣以上になると成長が頭打ちになる相対 成長様式が確認された(Fi9.7a).また後足長と肩高の四肢を反映する形 質のアロメトリ係数が雌で雄より大きく,部位によって異なる成長様式が

認められた(Fi9.7b).耳(長,幅)は試料数不足のため十分な検討はでき

なかったが他の線形部位より相関が極端に低く,特に雌の外側耳長は係数

(27)

が負になるなど異なる成長様式が示唆された(Fi9・7c)・

 胸囲,腹囲,腰回等の部位は個体差(分散)が大きかった.周囲を測るこ れらの部位と体重は,脂肪が蓄積される冬期に大きくなると予想される.

そこで死亡時期の分かっている個体について秋から春までの体重の変化を 追跡したところ,季節変化が認められた(F19s 8A&B) 秋(9 11月)は 冬に向けて大きくなり,冬(!2−2月)は大きな値を保ち,春(3−5月)は

小さくなる傾向を示した.

(3)性的二型

  っめあり肩高 以外のすべての言十側部位で雄の方が雌より大きかった

(Tab1e6).雄/雌体重比(L1oyd,!980a)は1,164であった(M:n・17・F:

n・17).剥皮後体重での比を参考値として求めたところ1,237とさらに大 きな比を得られた(M:31,F:22).線形計測部位では雄の方が5−6%(体 長と耳幅は10%超)大きかった(Tab1e6).性差をWi1coxon順位和検定とt

一検定を用いて検討したところ剥皮後体重・全長・頭胴長・っめなし後足

長(PくO.00!),尾長,体長(P〈O.01),つめあり後足長(P〈O.05)に差 が認められた(Tab1e6).

 線形部位の全長,頭胴長,尾長,後足長の4形質(M:n・17,F:n・15)

を用いた多変量解析の共分散行列,分散分析統計量をTab1e8aに示す.分 散分析の結果からは雌雄差が検出された(p〈0,001).剥皮個体では剥皮 時に足指を切断され後足長を計測できない個体が多いため,全長,頭胴長,

尾長の3形質(M:n・29,F:n・21)でも検討した.3形質の共分散行列,

分散分析統書十量を示す(Tab1e8a).この解析でもすべての統計量で有意差

(pく0,001)が認められ,性差が確認できた.

 形質の判別中央値の雌雄差を用い判別における形質の寄与度を示した..

4形質での分析からは頭胴長が最も大きな差を示し全長が続いた(Tab1e8 b).3形質でも頭胴長,全長が大きな差を示した.いずも尾長の寄与度が

一番低かった(Tab1e8b).雌雄間のマハラノビスの汎距離は4形質でO.97,

3形質は0.88で判別式の正診率は双方とも100%であった(Tab1e8c).

 正準変数(CAN)に対する相関・固有値等の統計値および正準判別係数

(28)

(StandardizedCanonica1Coefficients)をTable8dに示す.集団間は幼 獣との成長差を反映している第1正準判別の結果では黄なりが4形質で22・

9%,3形質で24.3%と判別することができたが(P<0・O01),性差を反映 する第2判別では高い類似性を示した.正準判別係数からみた形態の相違

に対する各形質の寄与度は,第1,2係数いずれも頭胴長と全長が大きく 寄与していた.全長に対して尾長は逆の方向に後足長は同方向に寄与して おり,その傾向は第2係数でより顕著であった.これは相対成長様式での 傾向と同じであった.各個体の正準変数の分布をFigs・9a&bに示した・

雌雄の判別は困難で,特に3形質での雄はちらばりが大きかった.幼獣と

の判別は明確であった.

3−2.頭蓋骨言十測

(1)記述統計値

 標本の一部に欠損がある場合,当該形質の計測値は除外した.また変形 や異常が認められる個体は検討対象から除外した.例えば博物館標本ラベ

ル番号P5399(査定齢2才,雄)は鼻骨から前顎骨に異常が認められたため,

言十算から除外した.

 亜成獣以上としてまとめることができる全試料の(以下OSAと表すことが ある),14形質の記述統計値をTab1e9に示す.雄のCBLの平均は!45.Omm で上下7%の個体差が認められた.雌は平均135.9mmで上6%,下18%の

個体差があり分散が大きかった.

(2)成長

 亜成獣(以下SA)と成獣(以下AD)の形質の大きさの差をWi1coxonの順位和

検定により雄(SA:n・19,AD:n・14;Tab1e10a),雌(SA:n・13,AD  n=10;Tab1e10b)それぞれについて検討した.ほとんどの形質で成獣

の方が大きいが,その差はTLで雌雄とも1−2%とわずかであった.その

なかで,雄ではZW(4.4%:P〈O.02),10W(4.6%),RW(3.2%)(P<O.05)

の3形質で,雌はlOW(4.8%;P〈O.02)とZW(2.9%;P〈O.05)のいずれ

も幅の形質で亜成獣と成獣の間に差が見られた.また反対にsPhWは雌雄と

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