Entamoeba histolyticaの琥珀酸脱水素作用の
細胞化学的観察*′
長崎大学風土病研究所病理部(主任・:登倉教授〕
詫摩一郎・川満恵光・井上千代子
ナこく ま いち ろう かわ みつ けい こう いの うえ ち よ こ
(本編の概要に就いては,昭和33年10月24日(鹿児島)日本寄生虫学会第11回南日本支部大会 時於いて口演発表した・)
縮
赤痢アモエバ(Entamoeba histolytica) の細胞化学的研究は,原虫研究者にとって未 開拓の一分野の観を呈していたが,近年,核 酸〔Kara et a】 1955; ‖滞1957),グリコ ゲーソ(Kara et a11955),オキシダ‑ゼ (Hara et a1 1955)等についての観察に関 する幾多の業績が見られるに至った・しか し,還元酵素としての脱水素酵素に関する細 胞化学的研究は,今日迄報告さたていない・
寄生嬬虫に於ける組織化学的研究は,負 近,岡村&徳永(1958)の姐虫の琥珀酸脱 水葉酸素に関する報告があり,佐藤(1958)
の犬鈎虫成虫由琥珀酸脱水素とチトタロ‑ム 酸化酵素についての報告がある・また,育 生原虫に就いては, Seaman (1953)ほ,蘇 痢アモエバ虫体より琥珀酸脱水素酵素劃分 (succinic dehydrogenas弓fraction)を生 化学的に分離し得たが,細胞化学的迫刺ま伴 われていない・著者等ほ,赤痢7モエバの細 胞化学的研究に当たり,まづ,原虫生体の物 質代謝に重要な役割を演ずると考えられる琥 珀酸脱水素酵素を対象にとりあげた・番酵素 に関する知見については,細胞酸化の磯序の 酸素活性化説(0. Warburg)と基質水素活 性化説(Wieland)との論争が行われた費明 期まで湖るが,就中, ThuDberg (1909)紘
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*長崎大学風土病研究所業績第288号
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有名な排気管を使用して,メチレン青(met‑
hylene blue)の還元槌色を基質の水素を脱 離する酵素の作用に帰し, Wielandの基質 水素活性化説に生化学的に重要な実験的基盤 を与え,また,後述するSemenoff (1935) の脱水素酵素証明法にも大きな示唆をもたら している・ Szent‑Go古rgyi (1937)ほ,生体 内酸化に於ける本酵素の重要性を強調した が,爾来,動物,植物の他,酵母,徴菌,細 菌等の微生物中に於いても本酵素の広汎な分 布が順次知られるに至り,現在でほ, .)ポイ ド,炭水化物,蛋白質の酸化に関連する反応 鎖を形成する作用が認められ Krebs's trica‑
rboxylic acid cycle (TCA cycle)を回転 させる重要な酵素の一つとして,生体内/櫞末 呼吸系に必須の役割を演じていることが考え られている・本酵素ほ,脱水素酵素中最も古 くから知られているにもかゝわちず,従来, 可溶性酵素として抽出することができなく て,不溶性粒子を結合した状態で研究されて 来たために,その本態に就いては殆ど知ら れる所がない・しかし,最近, Hogeboom (1946), Morton (1950), Scott (1950)等ほ 心筋よりこの酵素の抽出化に成功し,更に, Stotz et al (1954)ほ若干精製を行って, cytochrome を含まない本酵素の標晶を分
106 詫摩・川 満・井上 離し得た.従?て,近い将来,この酵素の
蛋白質としての性質,括性団の本態,.及び cytochrome との反応機構等に関して,正 確な押識が得られるであろうことが期待され る.著者等ほ, Entamoeba histolytica虫 体内にも本酵素が存在して生酒細胞の酸素吸
収(呼吸)に重要な関連を有する事を予想
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し, Semenoff (1935)のmethylene blue 法,並びに, Wachstein et Meisel (1954〕
由neotetrazolium法を用い,生鮮標本に 於いて,琉珀酸脱水素酵素の晴性を細胞化学 的に追求した.
実験村料並びに方法 供試原虫株 ‑ Enlarnoeba histolytica Y株,
大阪大学微生物病研究所より一分与され,田辺・千 莱(5%人血清リソゲル液使用)培地に継代培養し
ているものであるi
I Semenoff法(1953) :‑ 0.05#メチレン 育(meihylene I‑!ue) 2cc, 10#項珀酸ソーダ2cc, pH 7.6の叫15燐酸塩緩衝液6ccを混合して染 色液とする. 37‑C/48時間サ. ffl辺・千葉培地培養の 虫体を37‑C加温の滅菌リソゲル液を以って,.600rp 皿5分間づつ3回遠心洗淋して'随伴細菌を可及的 に洗い去った虫体浮沸液をピペットでスライドグラ ス上に一滴おき,これに上記染色液数滴を加えてよ く混和し,大型カバニグラス(24x24)で覆い,メ ラフィソで周囲を封じて標本の乾燥を防いで鏡換し' 10分間を1期間として,虫体内の紳胞化学的所見を 描画し,通計2時間の観察を行った.また,対照実 験として,上記染色液から基質である和白酸ソーダ
を取除いた液を調製して用いた.
II Wa亡hstein 州eisel法(1954〕: ‑0.2 1 実 験
I. Semenoff法による所見: ‑
〔1)対照実験では,最初の10分‑20分間に'虫 体内形質(endoplasm〕中に,宛も砂を播いたよう 症,青染する微細な額粒が10個程度出萬し(Fig.1
‑3).,時間の経過と共に増加し,青色の濃度を増し て鮮明になり, 40分‑50分間で額粒の数は最高の状 港(20‑30個程度)に達し(Fig. 4),また'微細 青染顎粒の他に,中等大の波音染の額粒と円形粗大 の淡青色の聴粒も出現する(Fig. 5).これ等の額 粒は,虫体の運動に従って'内形質物質と共に流動 転々して止どまることがない.爾後,青染状態を保 って推移し(Fig. 6‑7〕, 2時間後にも脱色するこ とがなかった(Fig. 8).外形質(ectoplas皿)には 青染聴粒の出現は見られず,また'核の所在は判然
†
としなかった.
neoletrazolium (p, p'‑diphenolen亡bis 2‑ (3,5
‑ diphenyl) ‑ telrazolium chloride〕水溶液IOcc, 0.2M琉珀酸ソーダ水溶液IOcc, pH7.4のM/10燐 酸塩鮭衝液IOcc, 0.33M塩化カルシュウム水溶液 0.2cc, Q.6M重炭酸ソーダ水溶液2cc,蒸溜水6.8cc を混和して染色液とする.また,対照実験として, 上記染色液より基質璃噂酸ソ‑ダを除いたものを調 製して用いた.
元来,新鮮乗回定の凍結切片を染色した後; lo序 フォルマリンで12時間固定する方法であって,染色 操作中に崩壊しないような組織では最有用であると されているが,著者等は, Entamoeba nistolytica の生鮮標本に於げる染色所見を時間的に追求するた め,前記の如く遠心沈澱洗源によって随伴細菌を可 及的に除去した虫体浮遊液と37‑C加温の上記液数 滴とをスライドグラス上で混和し, 15分間を1期間 として,虫体内の細胞化学的所見を鏡換・描画しつ つ,通計2時間の観察を行った.
成 績
(2)基質琉珀酸ソーダ混合液の場合では,最初 の30分間は'1大体に於いて,対照例と同様に青染類 粒が 草して現われるが〔Fig.9‑12), 40分‑50分
間頃より青染額粒群の.脱色が始まり(Fig. 13),時 間力経つに連れて,青色の禎色は次第に廟著とな り,円形粗大淡染顎粒,中等大波染額粒も脱色して 見られなくなり(Fig. 14‑15), 2時間後には大 体微細な青染額粒が5‑8個程度残るだ叶となる (Fig. 16〕.これはアモ‑J1.の琉珀酸脱水素作用 (su亡cinic dehydrogenation)によって離脱した水素の ためにメチレン青が還元された結果と‑解釈される.
また,実験当初から死んでいたと思われる虫体に於 いては,メチレン青で全体が青染されたまゝで,舵 色作用が見られなかった.
II. Wachstein &州eisel法(=よる所見: ‑
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108 詫摩・川 満・井上 (1〕対照実験では,本法の陽性所見である藍染
額粒の出現は, 2時間の観察を通じて全然見られな かった.ただ,時間の経過と共に'虫体の運動が鈍 麻し,次第に円形となり,内形質に額粒が充満し' 静止状態に陥ることは,基質混合液使用の場合と同 様であって,これほ璃珀酸ソーダ以外の組成物質の ために細胞全体が退行変化を起こしつつあるのでは ないかと思われた(Fig. 17‑20).
(2)基質琉珀酸ソーダ混合液の場合では'最初
の15分‑30分間に藍色に淡染する微細な額粒が内形 質中に現われ始め(Fig. 21‑22),時間の経過に従 い,次第に濃藍色の明瞭な額粒が増加し(Fig. 2 3), 2時間で10‑10数個程度の数に達し'其後は増 減が見られない(Fig. 24).この藍染額粒の出現は' neotetrazolimnが還元されて, diformazanと呼ぶ物 質になったためで, Entamoeba histolyticaのsuccinic dehydrogenalionの活性を示したものと解釈して良 いと思われる.
考 察 及 び 著者等の実験に用いたneotetrazolmm法 に於ける陽性額撰と細胞呼吸の形態学的中心 といわれるミトコンドリアとの関係,或い 紘,それが脱水素酵素の存在部位そのものを 示すのであるかどうかに就いてほ,幾多の論 議が行われている. Militzer et al 〔1949〕
ほ, ‑程の好熱性細菌‑ Bacillus stea‑
rothermophilus 2181株のミトコソドリア
額似の細胞質聴粒をtriphenyl tetrazohum chlorideそれで(TTC)で染色し,それを菌 体から訴離させ,遠心沈澱して集め, ‖red fraction"と呼んだが,これは大体1.5/1位の 直径の球状体のリビド性の嚢であって,著明 な呼吸酵素の晴性を有し,電子顕微鏡の観察 では,それが更に直径850A‑位の"粒子l)
〔=particle"〕を包蔵し,また,そのparticle がDNA を含むと考えられる小さな"sub‑
paticle"に分かれているとされる複合体で ある.しかし,これが細菌のミトコンドリア そのものであるか,また,それと如何なる関 連をもつものであるか,決定的追求はなされ
ていない. Muddlet al (1953)によると, 緑膿菌,溶連菌,変形乱 枯草菌,大腸菌, 且megateriumなどの晴穣に増殖している、
細胞は TTCを赤色のformazanに還元 し,光学顕微鏡で観ると細胞質に額担が着色 して出現するのが明らかに認められると報告 している.
最近, Weibull (1953)ほ TTC染色を 根本的虹検討し,一定時間毎に細胞質顎粒の 染色状態を調べたが,最初,細胞内全体に無
結 語
数の小さな点が徴に赤く染まって現われ, それが次鄭こ統合され,.数が少なくなると共 に大きさを増し,遂に,細胞内に1個又は 2個の大きな聴粒が生ずる.この過程は大体 10分位であるという.同様なことは,松代 (1957)も B. cerus で認めていて,この 次的に生じた巨大額粒ほ,その後変化しない のであって,これは決して細胞内の脱水素酵 素の存在部位そのものを示したことにほなら ないと述べている.
Semenoff 法ほ,琉珀酸脱水素酵素‑
succinic dehydrogenseの作用によって琉 珀酸を脱した2つの水素原子がmethylene blueを還元して,無色の誘道体‑ leuco‑
methylene blue 〔methylene white)と
する原理に基づいているものであって,細胞1 要素と密接に結合して不溶解のdesmoenzy‑
meであるところの琉珀酸脱水素酵素を証明 するためにほ,この染色法ほ興味ある完全な 術式であろうとLison (1953〕も述べてい る.就中, methylene blueの濃度が極めて 低いために, Entamoeba histolyticaのよ うな敏感な原虫の虚足運動も障害されない し,生体観察には極めて適している.このよ うに生鮮検査に於いて酵素の活性を簡明に示 す方法ほ,他に余り類がないのではなかろう
かと思われる.著者等の経験によれば,アモ ェバの乾燥固定標本に於いては,内形質は凝 縮し,額粒が累積して,青染所見が判明しな い.昇兼,オスミウム等による漸開国宝割ま試 みなかったが,要するに,生鮮検査の簡便・
適確に如くほない.また,形態上死んだと思 われるアモエバが,全体的にメチレン青に染 色されて,脱色作用を全く現わさなかったこ とも,虫体の生死の鑑別の観点より興味ある 萬宋と思われる.
Wachstein & Meisel法は terazolium 塩化物が還元されて着色性の強いdiforma‑
†
zanとなる特性を応用したもので,近年,級 織化学的研究によれば, Seligman & Rute‑
nberg (1951)がblue tetrazolium (BT〕
を組織化学に利用して以来,この方面の研究 が進展し,現在, neotetrazolium (NT〕,
2, 3, 5, triphenyl tetrazolium choride
〔TTC〕, tetrazolium‑violet (TV)等が使 用されているが, Shelton & Schneider (1952〕によれば,以上4種の中, NTが最 もすぐれているという.著者等も Entamo‑
eba.histolyticaに於いて TTCとNTと を用いて比較検討したが, NTでほTTCよ
り陽性物質の色も明瞭であって,やはり, NTの優れていることが知られた. NT法で
ほ,対照実験に見られない藍色微細額粒を観 察して陽性と判定したのであるが‑Semenoff 法に比して,虫体の運動が不晴滞であり,細 胞内物質の流動も鈍り, 2時間後でほ退行性 変化と思われる円形化した虫体は静止状態に 陥り,原形質内の藍色額粒も10個程度点在す るのを認める場合が多い.
要するに Semenoff法によれば,虫体原 形質内肉に青染する額粒の出現と一定時間後 の明瞭な脱色とが判然と観察されるので,班 珀酸野水作用を検べるにほ, (それがミトコ ンドリアとの関係ほ別として,簡便な推 奨するに足りる良法と考えられる.しかし, Wachstein & Meisel法に於ける藍色微細 胞粒出現をも確認して,実験成績の判断を確 実にするがよいと思われる.
結 語: ‑Semeno坪法並びにWach‑
stein & Meisel法によって Entamaeba histolyticaの琉珀酸脱水素作用〔succimc dehydrogenation)を著者等は初めて証明し た.
摘筆するにあたり,御懇篤なる御指導並びに御校閲を賜わった恩師茸倉教授に対して,衷心 感謝の意を表する.
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