貯蓄の不均衡と不安定性原理 篠
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(2) OLIVE 香川大学学術情報リポジトリ 3 4 8. 第5 5 巻 第 3・4号. ‑ 2ー. I I. r 勤学理論における一論」での貯蓄の不均衡と不安. 定性原理 ハロッドの「不安定性原理」または「不安定性の理論」は,周知のように, 彼の基本方程式に基礎を置いている。そしてこの基本方程式の着想は,彼の回 想によると, 1 938 年 7月のことであざ:このようにして, 1 939 年に公表された. AnEssayinDynamicThorp「動学理論における一論J(以下単に An E s ‑ s a y . "と呼ぶ〉において,この基本方程式に基づいて. r 不安定性原理」が始め. て展開されたのである。ここではとくに,基本方程式に含まれている貯蓄率概. s s a y . "における「不安定性原理」において,どのように取り扱わ 念が, AnE れていたかについて検討する。 ところもハロッドがここで基本方程式と呼ぶものは,保証成長率を含む次 の方程式である。 S Gw=一一 C, 凹. よく知られているように. (1). G叩は保証成長率であり , C.は必要資本係数くま ,. たは必要資本産出比率〉であり ,sは事後的な現実の貯蓄率である。保証成長 率は. r 不安定性原理」においてその不安定性が問題とされる,動学的均衡概. 念である。 この基本方程式に対して他方では,現実の成長率を含む次の方程式が示され る 。. G = ÷. (2). (1) RoyHarrod,Ee onomicDyn αm i c s,1 9 7 3,p .4 1(宮崎義一訳, Irハロッド経済動 学 . l I , 64ベージ。 (2) R .F . .Harrod ,. " A nE s s a yi nDynamic T h e o r y,EconomicJ o u 1 ' n a l ,M a r c h . . 1 9 3 9 . (3) AnE s s a y . "では,〆 C,のかわりに C という記号を用いているが,後には C γ を用 いているので,統一のため G とした。 (4) これらの呼称は,後に用いられたものである。 (5) ハロッドは後に,この方程式をも基本方程式と呼ぶようになる。 した。 く6 ) AnE s s a y . "では Cのかわりに C p を用いているが,統一ーのため Cと.
(3) OLIVE 香川大学学術情報リポジトリ 3 4 9. 貯蓄の不均衡と不安定性原理. この式で,Gは現実の成長率, Cは現実の資本係数. ‑3‑. sは 現 実 の 貯 蓄 率 で あ. る 。 ところで,. (1)式と (2)式に現われている貯蓄率 s の概念についてこつの. 問題点がある。一つは. (l)式の貯蓄率概念は,本来「望ましい貯蓄率j の概 念であって, (2)式の現実の貯蓄率とは区別すべきものであるということであ る。もう一つは,貯蓄率は可変であり,景気変動の過程で変化するということ である。 ハロ. y. ドは, AnE s s a y . "で ,. 事前的貯蓄からの事後的貯蓄の事離について. 述べ,それと「不安定性原理」との関係について論じている。ところが,この. αmics" 1経済動学J (1973) 事前的貯蓄は,ハロットーが後に, EconomicDyn などで取り扱っている「望ましい貯蓄J (貯蓄率について言えば「望ましい貯 、蓄率」または「希望される貯蓄率」. t h ed e s i r e dsavingr a t i o " ) にあたるも. のである。それでは,なぜハロッドが保証成長率を含む基本方程式において, 現実貯蓄率 sを用いたのか。このことについては,彼自身が説明を行なって いる。次に,それについて述べてみよう。 乙の問題に関連して,ハロッドは,G が G却に等しくない場合,そのくい違 いが C,からの C の事離によるのではなく,. 事前的貯蓄からの事後的貯蓄の. 恭離による可能性について述べている。ここでの「事前的貯蓄」の概念につい ては,きちんとした定義をしているわけではない。しかしその例示による と,この「事前的」というのは,この同じ論文における「事前的投資」の場合 と同じく「事前に意図され計画された」と L、う普通の意味ののュルダールに よって定義されたような意味の) I 事前的」とは違うのである。むしろ,事後 的な所得に対応して望まれる貯蓄と L、う意味である。そこで,この「事前的貯 蓄」を含む貯蓄率概念は,後に E conomicD仰 αm i c s "( 1 9 7 3 ) において取り. 。 (7) 庇 E' , c o 弛仰 0例 1 ? 犯 ucD 抑 品m 犯 t i c 叫 , s 久 p.3 叩o ( 邦 訳 , 必 4 6ぺ一ジ〉λ (8) AnE s s a 払 y . ぺp . . 2 0 . (9) ハ官ッドは J AnE s s a y . . "において事前的投資と呼んだものを,後には「正当化 された投資J' j u s t i f i e di n v e s t m e n t ' と呼んでいる。 C f .R .F .Harrod,E c o n o m i c E s s α y s1 9 5 2 ,p . .2 7 8 ..
(4) OLIVE 香川大学学術情報リポジトリ 3 5 0. 第 56 巻 第 3・4号. ‑ 4ー. 扱われている,. 前述の「望ましい貯蓄率」ねと,. 基本的に等しいものと考え. られる。また,、 cの事前的貯蓄からの事後的貯蓄の君主離の問題は,景気循環の いろいろな段階における sの変動の問題と,はっきり区別すべきことについて も述べている。 ところで, この事前的貯蓄率と事後的貯蓄率の事離は,成長に対して,必要 資本係数からの現実の資本係数の事離と,同じ効果を持っと考えている。この ことを考えるために,. ここで言う事前的貯蓄率を計という記号で表わすこと. にする。)そうすると,現実成長率を含む方程式と保証成長率を含む基本方程式 は,それぞれ次のようになる。. を. G=. (1). * ‑ Gw" , = ‑ J 一 万 7. (3). もし G>G 却の場合には, (1)式と (3)式から次の関係が得られる。. s. s *. 一、‑. C /Cr. したがって 言う。. s=ポ で あ れ ば,C<C r となる。そこで,ハロッドは次のように. Iもしこの効果の全体が C において見出されるならば, それは Cr よ. りも小さいであろうしこのことは拡大に対する刺戟である。それら自身在庫 または設備が不足していることを見出す企業は,その注文を増加するであろ う。」また, C=C rとすれば. s>許 と な る 。 そ こ で 次 の よ う に 言 う 。. I 他. 方,もしこの効果の全体が事後的 sの 事 前 的 8 からのヨj e離に見出されるなら ば,事後的 sは事前的 s よりも大きいであろう。. 貯蓄者達は,その所得の水. 準または物価の水準を正確に予知したならぱなしたで町あろうよりも, より多く く 1 0 ) Cf . , AnEssay"p.21 . ( 1 1 ) 前述のように, こ の 併 は しておく。 ( 1 2 ) 原文では C ある。 p で ( 1 3 ) 原文では C である。 ( 1 4 ) AnE s s a y, "p "2 1 .. 3 d. と実質的に同じ内容であるが,. ここでは一応区別.
(5) OLIVE 香川大学学術情報リポジトリ 3 5 1. 貯蓄の不均衡と不安定性原理. ‑ 5ー. を貯蓄したことを見出すであろう。その結果,彼らは購入を拡大するよう刺戟 されるであろうしまた財に対する注文は,その結果増加するであろう。」 このようにして,. 不均衡. C GミGw) をもたらす原因として , C~Cr. s . 主計のニつの場合を考えている。 て同じ効果を持つので,. しかしハロッドは,これらは成長に対し. c~ Cr で以て s<主計の部分を代用し土うとしたので. i 以下の諸頁. ある。そこでハロットは, このところを次のように絡んでいる。 を通じて,読者は,. および. t e 〉と比較して 8 弘過剰または不足に対する言及を見出す. 時にはいつでも, もし好むならば,議論の過程に影響することなしに,事前的 貯蓄と比較しての事後的貯蓄の想定された不足または過剰弘代りに用いるこ とが出来ょう。このようにして,. ここで言う事前的 s くすなわち. s * )からの. 事後的 sの講離が,不安定性原理にとって関係を持つことを認識しながらも, 必要資本係数と現実資本係数との講離に比べれば,第二義的なものとして,不 安定性原理において,明示的には取り扱っていないのである。言いかえれば, 投資者についての不均衡が不安定性原理にとって第一義的に重要なものと考 貯蓄者についての不均衡は第二義的なものと考えているのである。そこ. む. で,事前的 s と事後的 sの値の違いを無視し, におし、て,事前的 sの代りに事後的 事前的. S. 保証成長率を含む基本方程式. S を用いているのである。. と事後的 sの恭離の問題は,. しかしこの. 後の諸文献においては,不安定性原理. との関連で,明示的に取り扱われるようになる。 ところでハロッドは,貯蓄率についてのこのような議論を前提として,投資 者の不均衡に焦点を合わ住て, 理を展開するのであるが, う 。. 1 5 ) O i t .,p .2 1 . P .c く ( 1 6 ) 原文では Cである。 ( 1 7 ) 原文では Cp である。. (1)式と (2)式の関係から周知の不安定性原. このことは第一‑次接近としては認められるであろ.
(6) OLIVE 香川大学学術情報リポジトリ 3 5 2. 第5 5 巻 第 3・ 4号. ‑6‑. I I I. ~動学的経済学序説』以後における貯蓄の不均衡と. 不安定性原理の取り扱い. AnEssayi nDynamicTheory" ( 1 9 3 9 ) においてその基礎が築かれたノ、 ロッドの動学理論は,. Towα γdsαDyn αmicEconomics"( 1 9 4 8 )において. 拡充発展させられた。そして. I 不安定性原理」も再び展開されている。しか. し望ましい貯蓄(均衡貯蓄〉からの現実の貯蓄の恭離という,貯蓄の不均衡 の取り扱いについては,新しい展開はない。というよりも,. Tow αr d s . "にお. いては,貯蓄の不均衡の取り扱いは省略されて,これについてはとくに何も述. s s a y . " の取り扱 ベていないと言ってよ L、。貯蓄の不均衡の取り扱L、は, AnE いを, そのまま踏襲するということと解される。そこで,保証成長率を含む基 本方程式においても,周知のように,現実成長率を含む基本方程式と同じく, 現実貯蓄率概念が用いられている。それは,前のように,均衡貯蓄率からの現 e離の影響の中 実貯蓄率の恭離の影響は,必要資本係数からの現実資本係数のヨj. に含めて扱おうとしているものと考えられる。. . N . ウォルフ Wolfe によって編集された J . ヒックス その後ハロッドは, J の記念論文集. V αl u e,G αp i t αl ,αndGrowth" ( 1 9 6 8 ) において,. What i s. モデルとは何か ? J という論文を載せている。ここでは,:'f:"デル a model?" I の概念との関連で,ハロッドの三種の基本方程式についても,見解を述べてい る。保証成長率を含む基本方程式については,現実の貯蓄率でなく,均衡貯蓄 率である望ましい貯蓄率ぬが用いられ,. それからの現実貯蓄率の不離の問題. も論じられている。 保証成長率を含む基本方程式は次の形となっている。,. G'IJ'=~ι c r. (4). 柑 一. ここで. Sdは. ( 2 0 ). r 人々が貯蓄することを望む所得の割合」を表わすのである。. ( 1 8 ) C f ., AnE s s a y . "p . 2 2 . ( 1 9 ) R .F .Harrod, Whati saModel?"i nVα ,l u e ,, Cα p i t a la n dG r oωt h :pα ,p e r s i nh o 托O郡ro . fS i rJ o h 叫 H i c k s ,e d "J .N "W o l f e,1 9 6 8 ,p p "1 7 3 ‑ 1 91 ..
(7) OLIVE 香川大学学術情報リポジトリ ‑ 7. ̲ .. 貯蓄の不均衡と不安定性原理. 3 5 3. r 人々が貯蓄することを望むもの」が意味のある概念であ. ハロッドはまず. るかどうかを問題とする。すなわち,. r 人々がとくにある額. a n y t h i n gを貯蓄. する望みを持っているかどうか」という問題である。人々は,ものごとが生ず るにつれて,それらをただ受け取るのかも知れないのである。そこでこのこと につき,ある心理的な種類の研究が必要とされるかも知れないとしている。こ. r Sd は,その範囲内では,人. のむの性格については次のように述べている。 々が無差別. i n d i f f e r e n tであるような集合体 bandであることが判明するか. も知れない。人は暫定的に,次のように仮定したし、だろう。人々はある確定し た貯蓄性向を持ち,. もし現実の sがむから事離するならば,. 行為の調整を. 引き起すであろう。その調整たるや人々の消費す刷る額による調整であり,. ま. た配当の分配における,または資本支出における,法人企業による調整であ る。」すなわち,. ハロッドはまず,人々(個人や法人企業〕が明確なある一定. の望ましい貯蓄額というものを持つかどうかには,まだ研究の余地があり,望 ましい貯蓄率にもある一定の幅があるかも知れないとしている。その上で,暫 定的に,人々はある確定した貯蓄性向を持ち, 率向の値を持つものとし. したがって一定の望ましい貯蓄. もしそれから現実の貯蓄率 sが離れるならば,. S>S r i . ) の時には 調整作用が行われると仮定する。そして,貯蓄過剰である ( 個人は消費支出を拡大し,法人企業は配当や投資支出を増やそうとすると考え るのである。この場合,配当の増大はそれを受け取った者の消費支出の増大を 伴うものと考えなければならなし、。ハロッドはここでは特に述べていないが, これらのことは有効需要の増大を通じて,所得の成長率を高めるものと考えら れる。また,逆に貯蓄不足で. Sくむの場合には,. 以上の逆のことが生じ,. 成. 長率は抑えられるであろう。このようにして,貯蓄の不均衡は,明示的に, 「不安定性原理」に一つの役割を演じることになる。 また,望ましい貯蓄率むの概念を,. 明示的に基本方程式で用いることによ. り,保証成長率 G叩の概念も変って来る。 ( 2 0 ) Op.c i t .,p .1 8 5 . ( 21 ) OP.c i , . tp .1 8 6 ..
(8) OLIVE 香川大学学術情報リポジトリ 第5 6 巻 第 3・ 4号. ‑ 8ー. c. ところで . .. An臥 Es s 鵠a y . "( ο 1 偲 93め 9〉や. 成長率の概念は, ば ,. ζ. 3 5 4. 8 . 8 .アレクザンダーによって重要な批判を受けた。彼によれ. の保証成長率概念にはこつの異なる要素が含まれている。その一つは,. 基本方程式において貯蓄率と必要資本係数の値によって定まるものとしてであ , り もう一つは均衡成長率としての概念である。そして,後者にはハロットの 考えていたような一般性はないとするのである。ハロッド自身もこれを認めて いる。 そこで,保証成長率の第一の方の概念は, 入により,次のとおりとなる。. r G 加は,. 望ましい貯蓄率むの明示的な導. もしそれが生ずれば,人々が貯蓄す. ることを望んだものを貯蓄することと両立し. また必要な額に一致して供給さ. れる追加の資本と両立するであろうところの,成長率として定義されるでであ ろう。J また,保証成長率のもう一つの概念は, 現では,次のとおりである。 足であると判明するが故に,. r G , wは. Whati sa model?"における表. もし達せられれば企業家達にとって満. e l f ‑ s u s t a i n i n g な成長率である。 自己維持的 s. … べその考え方というのは次のようなものであった。もしあらゆることが,企 t. 業家連の在庫の大きさと設備の利用度とに関し,満足な結果となったならば, 企業家達は満足し, 3d. その成長経路で楽しく続けるであろうむすなわち. ということを前提とした上で,. の場合企業家は,. もし. s=. c=c ,であれば G=G 叩となるが,そ. その一定の G を維持するような行動をとるということであ. る。この概念は「不安定性原理」の基礎となる動学的均衡概念で、ある。ここに 望ましい貯蓄率ぬとし、う概念を明示的に導入しても,. その本質は変らない。. そして, このことが代表的な企業家の行動と一致するかどうかは,実証的研究 ( 2 2 ) S .S . ,A l e x a n d e r, M r "H a r r o d ' sDynamic M o d e l ",Eco拍 omicJ o u r n a l,D e c ., 1 9 5 0 ,pp.724‑39. .F .Harrod, N o t e so n, TradeC y c l eT h e o r y ",Economie J o u r n a l ,J u n e, ( 2 3 ) R 1 9 5 1,p .2 7 1 . ( 2 4 ) Whati saModel? " , p1 8 6 .. ( 2 5 ) O p "c i t "p "1 8 7 ".
(9) OLIVE 香川大学学術情報リポジトリ 3 5 5. ‑ 9ー. 貯蓄の不均衡と不安定性原理. を心要とすることなのであり,始めからその一般的な妥当性を主張することは 出来ないのである。 ハログドは, L、貯蓄率. 翌年出版した. Moncy" ~貨幣~. Sd からの現実貯蓄率. ( 1 9 6 9 ) においても,. s の不離について,. 望まし. より改善された見解を述. べている。そしてさらに,そのことを明示的に考慮に入れた「不安定性原理」 をも展開している。 まず. Sd の概念については次のように述べているが,. そこには,一年間の聞. I われわれは人々がしようと欲する貯蓄の一定水準. に若干の進歩が見られる。. が存在す由ると L、う観念を受け入れ,それを彼らの所得のある割合として示す。 それをむと呼ぼう。. これは企業貯蓄を含むものとするが,ぞれはケインズの. 3 れた企業貯蓄,すなわち,. I 正常」企業貯蓄の. みであるとする。企業向は企業利潤と結合しているが,. 意外の利潤によって. 『貸幣論』の線に沿って分類. ふくらんだ貯蓄は除外されるものとする。. 川!いゆ望ましし、貯蓄額を所得の割合. として表現するのは説明の便宜のためであって,. 望ましい貯蓄額が所得のー. 定不変の割合であることを意味しない。」ここでは,. 明Thati s a Model ? ". で問題にしていた「人々がしようと欲する貯蓄の一定水準が存在する」とし、う 考え方を受け入れている。また望ましい貯蓄額は必ずしも所得の一定割合では ないが,. 説明の便宜上,. 所得の割合として示すことについても念を押してい. る。さらにそこに含まれる企業貯蓄 company savingの概念についても厳密 な規定を与えている。なお. 3d は. C,とともに,. 純概念であることについて. も , 明言己している。 個人の場合について,望ましい貯蓄が現実の貯蓄から不離する理由について も,若干の事例を示している。. I 個人の場合望ましい貯蓄の現実貯蓄からの離. ( 2 6 ) 原訳では breakdownを分離としていたが,ここでは分類と改めた。 ( 2 7 ) 原訳では「欲求貯蓄額」となっていたが,ここでは統ーのためこのように改めた。. 以下においても同様である。 ( 2 8 ) R .F .Harrod,Money,1 9 6 9,p . . 1 9 1 (塩野谷九十九訳, w貨幣ー歴史・理論・政 策 . J l2 2 8 ベージ〉。なお,ここで「企業」とあるのは companyの訳である。 ( 2 9 ) O p .c i t . .,p .1 9 2(邦訳, 2 2 9ページ〉.
(10) OLIVE 香川大学学術情報リポジトリ 第5 5 巻 第 3・ 4号. ‑ 1 0‑. 3 5 6. 反がさまざまな理由のために起りうるであろう。たとえば,物価が騰貴しつつ あるのに彼の所得がそれよりも低い割合で増加している時に彼は年末になって 保険料支払いのために,銀行から借りなければならないことを発見することも あるだろう。その時には彼はおそらく生活水準を切り下げなければならないと 決心するであろう。あるいは彼の所得が物価騰貴以上に増加することもあるだ ろう。その場合には彼は,. おそらく時の遅れの後においてであろうが,. 彼の. 生活水準の改善に役立つなんらかの楽しみのために支出しでよいと決意するで あろう。」ハロッドの言おうとすることを簡単に表わせば, 得の上昇を上回り実質所得が下落する時には. 物価騰貴が貨幣所. Sく S d となり,. 逆の場合には. S>Sd となるということである。企業貯蓄についても同様のことを述べてい. る。すなわち,. I 言葉を換えていえば, 平均企業. S. (すなわち,. 事後的に〉. は,全体としての経済におけるインフレ的過程またはデフレ的過程の結果とし て,むを上回るか下回るかするであろう。」前述のように,. ハロ. γ. ドは, An. E s s a yi nDynamicT h e o r y "( 1 9 3 9 ) において,事前的貯蓄からの事後的貯蓄 e離(望ましい貯蓄からの現実の貯蓄の事離〉の問題は,景気循環のいろい の ヨj. ろな段階における s の変動の問題とはっきり区別することについて述べてい るヵ?ここにおいて,望ましい貯蓄と現実の貯蓄の事離の具体的内容の例を示 しているのである。 以上のように. S d くおよび. C, ) について,. 前より明確な見解を述べた後,. 例の G ω を含む次の基本方程式すなわち (4)式と同じものを掲げている。. ‑ C, G,,,=~ 叩ー. ところが,今回は,この方程式におけるおの値について, ように明示的に与えている。. 特殊な解釈を次の. I 上記の方程式では新資本のすべてが経常産出高. 増加のために要求されるということが暗黙裡に意味されている。しかし,一部 の資本は即時には収穫をもたらさない長期計画に関係づけられているであろ く 3 0 ) O p . .c i t . .,p .1 9 2(邦訳, 2 2 9ページ〉 3 1 ) Op c i t .,p . .1 9 1(邦訳, 2 2 8 ベージ〉 く. ( 3 2 ) AnE s s a y . . "p .2 1 ..
(11) OLIVE 香川大学学術情報リポジトリ 3 5 7. ‑11ー. 貯蓄の不均衡と不安定性原理. う。凶・…ーこれは技術的な点である。われわれはこの類型の資本形成の値を示 す数字を方程式の分子のむから差し引くことによってこの問題を処理する ことができる。」新資本のうち,. AnE s s a y . "(1939) に お い て も 式の中で明確に示されてい. 長期計画に関係づけられる部分については,. Toω αr d s . "( 1 9 4 8 ) においても,基本方程. 4 1 }しかし,. ここでは以上のような処理によって,. 方程式の中では消えている。ただ単に無視したのではないのである。なお, こ. conomicDyn αm i c s "( 1 9 7 3 ) においても踏襲されてし、 の処理方法は,後の E る 。. 1 9 6 9 ) においては,望ましい貯蓄と現実の貯蓄との 次に, この Money"( 不離の問題を明示的に組みこんだ不安定性原理を展開している。これは以前に はなかったことである。ハロッドは次のように言う。 の不確実性のために う。さらに て sが. G (現実戒長率〉がたまたま. r 発注者の当面する多く. G聞から離反したと想定しよ. G>G 叩であると想定しよれそうすると同義重複的方程式f v iょっ. Sd を上回るか,. あるだろう。もし. あるいは C が C,を下回るか,あるいはその両者で. S>Sd であるならば,. 個々人が彼らの消費計画を増加させ. るように修正するか,企業が配当の分配をふやすか,そうでなかったらやらな ,であるならば, かったであろう資本拡張を企てるかするであろう。もし C<C 生産者は固定資本または在庫の不足を感じ,その結果追加注文を発するであろ う。いずれにしても均衡の G叩に比して G の値が大であれば,上方へのいっ そうの離反,すなわち,. Gの値のし、っそうの増大がひき起こされるであろう。. ……・・たまたま G の G叩からの下方への離反が起った場合には,すべては逆 に 当 て は ま る で あ ろ ぬ こ の 不 安 定 性 原 理 の 骨 子 の 説 明 は , 匂 か ら の sの 講離を明示的に考慮、に入れた点で,. An E s s a y . "や. 以前の説明くたとば. Tow αr d s . " におけるもの〉とは異なっている。しかしこの原理の内容がハ ロッドのすぐれた直覚に頼っており,. とくに数学を使った精密な定式化を欠. 3 3 ) Mo 叫e y ,p . 1 9 3( 邦 訳 , 2 3 0ベージ〉 く ( 3 4 ) AnE s s a y,," pω27;C f . .,T o ωa r d sαD仰 a m i cE c o n o m i c s ,p 7 9 . ( 3 5 ) G=sjCのことである。 ( 3 6 う M o n e y,pp.193‑4(邦訳, 231ベ}ジ〉 刷.
(12) OLIVE 香川大学学術情報リポジトリ ‑12ー. 3 5 8. 第5 6 巻 第 3・ 4号. いている点では,従来と同じである。またねからの sの不離を考慮に入れる という考え方は,前に述べたように,. すでに. AnE s s a y . " において始めから. 現われており,それをとくに明示的に原理の中に組みこんだという点が異なる のみである。 ただハロッドは,この時点において新しい形で不安定性原理を展開するに当 り,この原理はし、ろいろな著作家達によって論じられて来たが「私は賛否両論 のうち賛成のほうが優勢で、あると信じている」として, 自信のほどを示してい る点は注目すべきである。 また,ハロッドは「一不安定性原理」の説明やその他のところで,望ましい貯. e s i r e ds avingや必要な投資 requiredinvestment とし、ぅ概念を使い, 蓄 d ミュルダールの定義するような「事前的」とし、う諸概念を使わなかったことに ついても次のように釈明している。. r 事前的諸概念はきわめて貴重な概念であ. って,私はそれらが完成された動態経済学の理論の中で川演じるべき重要な役割 をもっていることに疑いをもってはいなし、。 Lかし,それらは私の中心的な命 題には関係がないのである。」. IV 1経済動学』における貯蓄の不均衡と不安定性原理 の取り扱い 1973 年に出版されたノ、ロッドの EconomicDyn αmic$"は ,. の決定版とも言うべきものである。. 彼の勤学理論. r 不安定性原理」についても,一応彼の最. 終的な見解が述べられている。ここにおいても,当然のことながら,望ましい 貯蓄率向の概念が用いられ,. これからの現実貯蓄率 S の軍離とし、う貯蓄の不. 均衡の効果が,不安定性原理に組み込まれている。. く 3 7 ) O p . .c i t .,Pυ193 ( 邦 訳 , 、2 3 1ページ〉 ( 3 8 ) ハロッド自身が,他のところで「正当化された投資J' j u s t i f i e di n v e s t m e n t ' と , . fR .F . .H arrod,&0叫omicE 8 8 仰 8,1 9 5 2 ,p .2 7 8 . . . 呼んだものに当る。 C ( 3 9 ) An E s s a y . " における「事前的」 という表現は, ここで言う d e s i r e d ' とか ' r e q u i r e d 'の意味である。 ( 4 0 ) Money ,pp.194‑5 (邦訳, 2 3 2 ‑ 3ベージ〉.
(13) OLIVE 香川大学学術情報リポジトリ 3 5 9. ‑1 3ー. 貯蓄の不均衡と不安定性原理. 望ましい貯蓄率(希望される貯蓄率) t h ed e s i r e ds a v i n gr a t i oの概念は, 前述のような. Whati samodel1" ( 1 9 6 8 ) 以来基本的には同じである。し. かし今回は,政府の貯蓄の一部もこの中に含められるようになり, より精密化 されている。 定義している。. EeonomieDyn αm i e s " においてハロッドは I S d は所得のうち,. 3d を次のように. ; i :. 各主体 p e o p l e その時点で町行なおうと. 希望する貯蓄の割合である。各主体というのは,諸個人 p e r s o n sと諸法人企. ompanies から成り立ってい 業 c. 2 1 」ハロッドは. 3d. に含まれる貯蓄の主. 体としては政府をも考えている。しかし,彼は政府の行なう貯蓄もごつの部分 に分ける。一つは,経済を統御するためになされる正負の貯蓄であり,もう一 つは,それとは無関係に政府が行なうことを希望する貯蓄部分である。そして 後者のみをおの中に含めるのである。. また,必要資本産出比率(必要資本係. 数) c,の概念については, とくに新 Lい進展はない。 このようにして,基本方程式 Gw=3d/C,における G加は, される。. r われわれは,. G加を. 3d に等しい S. 次のように定義. および C,に等しい Cに bょ. うど見合う G の儲として定義すねこれは,貯蓄者と投資者がともに満足し ている状態である。ところが,これを一般的な勤学的均衡概念を表わす均衡成 長率であるとすることには,前にも触れたように, 8 . 8 .アレクザンダーからの 批判があり,ハロッドは今回もこれを認めている。. Gw は特殊な場合にのみ当. てはまる特殊均衡成長率なのである。 ハロッドによれば「均衡は,諸過程に対するいろいろな当事者が進行してい る事に満足し,同じ仕方で処理を続ける, ということを意味する Jのである。 そこで,. この「同じ仕方で処理する」. c a r r yoni nt h esameway" という. ことの定義の仕方が問題となる。代表的な注文者(投資者としての企業家〉 が,前l になした注文が満足なものであったと分かった時,次にとる行動にはい. 4 1 ) これは前に「人々」と訳したものと同じで,貯筈を行なう経済主体である。 く ( 4 2 ) R o yH a r r o d,&0拍o m i cD抑 αm i c s,1 9 7 3,p . .1 7(宮崎義一訳, 1ハロッド経済動 7 ページ〉 学 J l2 ( 4 3 ) O p .c i t .,p . 1 9(邦訳, 2 9ベージ〉 ( 4 4 ) O p .c i t .,p :1 9(邦訳, 3 0 ページ参照〉.
(14) OLIVE 香川大学学術情報リポジトリ 第5 5 巻 第 3・ 4号. ‑14ー. 3 6 0. ろいろなものを考えることが出来る。たとえば, (1)以前の成長率を継続す る 。 (2)同じ絶対水準の注文をするに留まる。 (3)その増加率を加速させる。 代表的企業家がこれらのどの型の行動をとるかということは,ケインズの言う. nimals p i r i t s " の強さで定まるのである。そこでハロッドが,G 「血気」 a 柑. を均衡成長率であると考えることは,代表的企業家の行動が(じである ιとを 前提にしていることになる。この意味では,. ハロッドの保証成長率 G叩は,特. 殊な場合にのみ当てはまる均衡成長率ということになる。しかしハロ このことを条件としながらも. γ. ド は ,. G叩を均衡成長率として考え,不安定性原理を. 展開する。. conomicDyn αm i c s "において注意す制べきことは, I 不安定性原理」 また, E に対し「ハロッドのナイフの刃」と L、う表現が与えられて来たことに対して, 彼がとくに批判をしていることである。ハロットは,この表現が表わすものと は違った, もっとゆっくりした反応時聞を持つ,勤学的均衡のゆるやかな不安 定性を考えていたのである。 ところでハロッドはまず,経済が実際に,ある期間保証成長率で成長してお , り (すなわち. G=G 加であり),そこで G叩からの G の車離が生じたとする。. 彼によればこのようなことは,以下のような理由で容易に生ずるのである。現 , 実の成長率 G は. 需要の面から,集計された投資の量の成長率に依存してい. るが,この投資の量は,製造業のみならず,あらゆる段階の流通に従事してい る,非常に多くの企業家達の決意の結果である。そして,その決意はまた,大 きな不確実性に直面しながら行なう,投資の有利性についての評価に依存して , いる。このようにして,多数の企業家の決意から定まるところの G が. 保証. 成長率 G却にちょうど一致す刷ることは奇跡に近く , Gは常に G叩から講離しそ e離もかなり大きなものでな うなのである。しかし,ハロッドによれば,このヨj. いと,不安定性原理は作用しないのである。このことが,彼が「ナイフの刃」 という表現を批判した理由なのである。 く 4 5 )J "M .K e y n e s ,TheGeωf見~er仰叫. 1 臼9 3 羽6 ,p "1 6 侃1(塩野谷九十九訳,. Ii"雇傭・利子及び貨幣の一般理論J11 8 0ページ〉.
(15) OLIVE 香川大学学術情報リポジトリ 3 6 1. ‑15ー. 貯蓄の不均衡と不安定性原理. いま, Gが G切から上方に講離し G>G 加の状態になっているものとする。 現実成長率を含む基本方程式 G=s/Cと ,. このことは,. ω=Sd/C 本方程式 G 1 との関係から分るように. 保証成長率を含む基. S>3d であるか. CくC であ 1. るか,またはその双方の状態が同時に生じているかによっているのである。こ れらのうち,いずれの場合'でも需要の増大が生じこのことが Gを G聞からさ らに離れて上昇させるというのである。ハロッドは, 合と,. このことを, S >3dの場. CくC の場合と二つに分けて説明している。. まず. 1. S>3dに関連した不安定性原理の説明から始めている。 3 dが一定で. S>ぬとな、ったとすると, 現実の貯蓄率 sは増大している。. この増大は,個. 人に生ずるかまたは法人企業に生ずるか,その双方に生す。るかである。もしこ のことが個人の部門に生じたのであれば,現実の貯蓄が望ましい貯蓄を越えて おり,そこで消費財の購入を増大させようとするであろう。このことは社会全 むの状態が法人企業の部門 体にとって,生産物需要の増大となる。他方 s> で生じているのであれば,そのことは法人企業の貯蓄が過剰であるということ であり,法人企業はそれを減らそうとするであろう。その一つの方向は,利潤 のうち株主の配当に当てる額を増やす!という決意であり,このことはやはり消 費需要の増大をもたらすであろう。もう一つの方向は,今まで利潤不足のため 差し控えていた投資の増大を決意するということであり,これも社会全体の生 悼の結果 S >3d という状 このようにし!て ,G>G. 産物需要の増大をもたらす。. 態が生ずれば,個人部門でも法人企業部門でも,需要の増大が生じ,このこと が Gをさらに上方に第離させるのである。ところで,逆に,最初iGが Gw か ら下方に寧離し,Sくねの状態が生じたのであるならば,. 今述べたこととは全. く逆向きの力が作用する。この結果, Gはますます G叩を離れて,下方に講離 して行くのである。. c rの場合の不安定性原理の説明は,. 第二の場合,すなわち Cく. 従来からの. あれば, これは投資不足というこ ものと基本的に同じである。 もし C<C 1 で とであり , (過去に蓄積された資本に過不足が無かったとすれば)明らかに投 資需要の増大を生じさせる。すなわち,手持ちの固定資本や在庫品が,必要に.
(16) OLIVE 香川大学学術情報リポジトリ ‑16 ‑. 第 56巻 第 3・4号. 362. 対して不十分であるので,投資需要の増大率はそれだけ加速され,そのことは. G の値をさらに高めることになる。逆に,最初,G<G 却のため C>C ,という 状態が生じているのであれば,手持ちの設備や在庫品が過剰となっているので あり,投資需要の増大率は減少することになる。このようにして ,Gは G仰を 離れてますます下方に講離を続けることになる。この場合,ハロッドはとくに 言っていないが,すでに存在している資本部分に,過不足がないということが 前提になっていることは, 以上が,ハ口. γ. もちろんのことで危る。. ドの E conomicD抑 αm i c s "における,貯蓄の不均衡を考慮. に入れた「不安定性原理」の大要である。. 4年前に出版されたアMoneyぺ1 9 6 9 ). と比較して異なっていることは1"ハロットのナイフの刃」という表現を批判 していること,. ねという概念の説明が精微になり,. それを使つての不安定性. の説明が詳しくなり,さらに「不安定性原理」を使って景気循環現象の一貫し た説明を行なったことなどである。しかし説明が直覚に頼り,数学を使つて の明確な定式化を行なっていない点は前と同様である。また, もう一つ注意す べき点は,貯蓄や投資についての不均衡が問題とされ,生産についての不均衡 がとくに問題とされて、ないことである。したがって,不均衡に対する調整の行 動も,貯蓄や投資の調整が行なわれ,それを通じて需要の面から現実成長率 G が影響を受けると考えている。生産物市場における不均衡から,生産の調整が' 行なわれ,供給の面から G が影響を受けることについては,とくに述べてい ないのである。 最後に,問題点について考えてみよう。上述したように,ハロッドは G>G w の場合,S >Sdであるか ,C<C ,であるか,またはその双方で、あるとしている。 しかし,それ以外の場合もあり得るが,彼はそのことについては何も述べてい ないのである。 G>G wは S /C>ね/C ,であり,. / S d>C/C ,となる。 には S. それ故,. したがって C>O ,S d>Oの時. この条件をみたす場合として. S>お で. r の場合のほか ,S C<C / S dが相対的に大きければ,S > S d、 で C>C ,ということ. も ,. 逆に S < S dで C<C ,ということもあり得る。要は S / S d と C/C ,との. 聞の大小関係が問題なのである。. 叩の場合には , S /C<Sd/C そして G<G rで.
(17) tititti‑‑t. OLIVE 香川大学学術情報リポジトリ 3 6 3. ‑ 17. ̲ ‑. 貯蓄の不均衡と不安定性原理. あるから , C>O ,Sd>O の時に S / S dくC;C , となる。. したがって,. S<'Sd で. C=C" S=Sd で C>C" SくSd で C>C ,の場合のほか, C/C ,が相対的に大 >Sdで C>C きければ,S rということも 叩の場合, 得る。さらには G=G. S<'Sd. S/C=Sd/C r. で. C くC rということもあり. / S d = であるから ,SdキO の時,S. C / C r となる。したがっ十て, この条件をみたす場合として, 場合のほか. で C>C rや. S>Sd. S<'Sd. S=Sd で C=C rの. で C<C rのこともあり得る。. この. ようないろいろな可能性について,ハロッドはとくに述べていないのである。 ,や このようにして,たとえば G>G w の場合でも , S>Sd で C>C. SくSd. で CくCrの場合に,. なぜ G のG叩からの上方講離が生ずるかを論証するた. めには, もう少し詳. u、説明が必要なのである。これらの場合を含め,一般的. な説明が必要であろう。 上述したように , G=G 叩の場合でも. ま ず こ ,. S<Sdで C< ,C rの場合もあり得る。 そこで,. S>Sd で C>C ,の場合や, この場合でも動学的均衡の状態. と言えるかどうかと L、う問題がある。貯蓄者も投資者も満足してはいなし、。し かし,. 現実成長率 Gが ,. 均衡成長率である G叩に一致しているのである。. し こ の よ う な G叩をも均衡成長率と呼ぶためには,. も. 均衡成長率の拡大解釈が. 必要である。このようなことはあまり重要なことではないのかも知れないが, 首尾一貫させるためには考慮すべきである。. V 貯蓄の不均衡を含む不安定性原理の再定式化 前節の終りで,述べた問題点の一つは,たとえば G>G w の時. >C ,や. Sく ね で. S>Sd で C. C<.C ,の場合があり得るが,ハロッドがこれについて何も. 述べていないということであった。ハロッドの説明を改善し,このような場合" も含めるような不安定性原理を再定式化する試みがある。和田貞夫教授は「不 安定性原理と景気循前 ( 1 9 百〉という論文やその. dも,この試みを示してい. く 4 6 ) 和田貞夫 i 不安定性原理と景気循環J ,大阪府立大学経済研究, 2 4巻 2号,昭和 5 4 年 1月 , 1 ‑ 1 6ベ}ジ。 ( 4 7 ) 和田貞夫 i 保証成長率と「不安定性原理J J,大阪府立大学経済研究, 1 8巻 4号 , 8 年1 0月 , 1 ‑ 1 8ページ。『経済成長と資本の理論J],昭和5 0年 8月 , 東洋経済新 昭和4 報社, 2 5 ‑ 3 5ページ。『経済成長理論J],昭和5 4 年9 月,東洋経済新報社, 8 8 ‑ 9 3ベージ.
(18) OLIVE 香川大学学術情報リポジトリ 3 6 4. 第5 5 巻 第 3・4号. ‑.18 ー. るので,その骨子を紹介し,問題点を指摘してみよう。 和田教授はまず,ハロッドによる不安定性原理の説明を紹介した後,次のよ!. r このような. うに批判している。. Harrodの説明について, それが. 8>8d か. っ C>C ,および s く ね か っ C<C , の場合について全くふれられていないこ とに注意すべきである。現実にはこのようなことがありえて,その場合に が G叩より大きくまたは小さくなることがあるであろう。. G. このようなとき,需. 要を刺戟する要因とそれを抑制する要因が働き,上のような説明では,結局,. Gがどのような動向を示すかが明らかでなし、。また,たとえば. 8キ 8d,Cキ C,. であって G=G 加であることも可能である。このとき,どのような理由で Gが L、うるのであろうか。このことも, H arrodの説明では明瞭で 変化しないと L、. ない。」この和田教授の批判はもっともなことと思われる。. しかしハロッド. がこのことに気付かなかったとは考えられないので,彼は重要で分り易い場合 だけについてとくに説明したのだと解される。それでも,ハロッドの説明を改 善すべき余地が残っていることには間違いない。 和田教授は,ハロッドの不安定性、原理を,とたの式で表示する。. sgn L 1G=sgn(G‑G w) すなわち. (5). GミGw にしたがって, L 1GミOなのである。 そこで,. これを導き. 出すための必要条件を求める。和田教授は,人々がその実現を望む貯蓄すなわ ち望ましい貯蓄を Sdで示し,必要資本産出比率の分子になっている必要な純 投資(和田教授は純投資需要と呼ぶ〉を Iで示し,. 所得を. Y で示す。すると. 次のニ式が得られる。. Sd. (6). y =句 T. ( 5 0 ). 十 =C, G. (7). ( 4 8 ) 和田["不安定性原理と景気循環J ,3‑4ベージ。 ( 4 9 ) これは事前的な純投資ではないので,必ずしも良い表現とは思われない。 1 . 6Y ( 5 0 ) CrG= . 一一一一一 ‑ . 6Y Y.
(19) OLIVE 香川大学学術情報リポジトリ 3 6 5. ;‑19..ー. 貯蓄の不均衡と不安定性原理. E S. 次 : に , これらのニ式を第 I 企図示する。横軸には現実成長率 G をはかる。 ,1 ' 2 .0の場合を前提としている。 OAは t, Gミ0 ここで L. 8d. に等しく,半直. 線 ABは (6)式を表わしている。半直線 OC は (7)式を表わし その勾配 は C,である。 この場合,8d と C,は一定としているのである。二勺の半直線 の交点を P とし, それから横軸に下した垂線の足を D とすると, ODは G叩 の値を示す。それは, DPは そこで,. 8d に等しく,. ODは 8d/C,となるからである。. 何らかの理由で. G>G 却となった場合を考え る 。 この時の G の値を G1 で. c (C,G=長 ). Sd/Y I/Y. 示す。 この場合, 図から明ら. I/Y>Sd/Yで. る 。 同様にして,. A. O三 Gく G. 叩. 場合) I<Sd となる。. この. O. ようにして次の関係がなり立. eム ー. D. ↑ 白. の場合(たとえば G=G 2 の. P 哨4. Bfi‑ら. あり,したがって I>Sdであ. aeTae‑‑tlit‑. かなように,. B (=乎 ) Sd. G. 第 1図. ザ コ 。 sgn(G‑Gw)=sgη( I‑Sd). (8). それゆえく 5)式と (8)式とを比較すると, (5)式が成立するためには, 次式が 成立しなければならないことが分る。. sgnL 1G=sgn ( I‑Sd) そしてこれが成り立てば,. (9). 三 O とL、う正常な状態では, 2 .0 ,G二 少くとも 1'. 不. 安定性原理が成り立つのである。 そこで,和田教授は, この (9)式をみたすような一つの経済的前提を考えて みる。 また, そのために,. 「事後的にみて未充足の需要J とL、う概念を考え,. ( 5 1 ) 「不安定性原理と景気循環J ,5ページ参照。 ( 5 2 ) 和田教授は G>O ,I>Oとしているが,この方が良いと思う。 . .( 5 3 ) 和国教授は O<G<G w としているが,この方が良いと 思う。 d.
(20) OLIVE 香川大学学術情報リポジトリ 第5 6 巻 第 3・4号. ‑ 20‑. 次のように言う。. 3 6 6. r これは事後的にみてみたされなかった投資需要. ( I ‑ L 1 K ). と同様の貯蓄者の需要 ( S ‑ S d ) とからなって L、る。前者が正(負〉であると き,結果的に,企業は求めた大きさより小さい(大きし、〉資本トックを保有す ることになり,投資需要を増そう(減じよう〉とするであろう。後者が正(負〉 であれば,ひとびとは所望の大きさより大きい(小さしう貯蓄をしたことにな 弘前述のように,それが個人貯蓄であれ,法人貯蓄であれ,財の購入の増加 (減少〉をひきおこす。そこで,企業がこのような事後的にみて未充足の需要 の総計が正(負〉であるとき,生産の成長率を高める(低める〉ような行動を とるとしよう。この場合, ( 1 1 )式によって明らかなように,事後的にみて未充 足の需要は. (I‑L1 K)+(S‑Sd)=I‑Sd. ( 1 0 ). であるから,企業の行動についてのこの仮定は ( 9)式 を 意 味 す る じ た だ し この文中の ( 1 1 )式とは,事後の貯蓄と投資とが等しいとする,次のようなもの である。. S=JK. ( 1 1 ). この和田教授の定式化は,ハロッドの貯蓄の不均衡を含む不安定性原理のよ り一般的な再定式化のーっとして,非常に興味深いものである。ただ,ここに はこつの問題点が含まれている。それについて述べてみよう。 一つは,. r 事後的にみて未充足の需要J ,すなわち「事後的にみてみたされな. I ‑ L 1 K ) と同様の貯蓄者の需要 ( S ‑ S d ) J とL、う概念について かった投資需要 ( である。和田教授は前述のように,1を純投資需要と呼んで九、る b また,たと えば同教授著の『経済成長理論Jl ( 1 9 7 9 ) とし、う書物において,同じ Iを「企 業の投資についての計画量」と呼んでいる。このことから彼は, 1を事前的投 資と考えでいると解される。しかし,この Iは必要資本産出比率〈必要資本係 数〉の分子となるものであり. r 必要な投資」. r e q u i r e di n v e s t m e n t " また. く 5 4 ) r 不安定性原理と景気循環 J , 5‑6ベージ。ただし,この引用文中の式の番号は, 本稿での統一のため,変更してある。 く5 5 ) r 向上J , 2ページ。 く 5 6 ) 和田貞夫, ~経済成長理論.J], 9 1ページ。.
(21) OLIVE 香川大学学術情報リポジトリ 貯蓄の不均衡と不安定性原理. 367. ‑ 2 1ー. は「正当化された投資 j j u s t i f i e di n v e s m e n t "であると考えるべきである。. I I節でふれたように,ハロッドはこれを,いわゆる〈ミュルダールが 本稿の第 I 定義したような〉事前的投資と,はっきりと区別している。)もしこの区別を明 確にしていないようでは,ハロッドの不安定性原理を正しく理解しているとは 言えないのではないだろう か。このようにして ,1は事後的に生じた L 1Yに対 p. し て ,. (以前からの資本の過不足をも考慮、に入れた上で〉定まる必要な投資額. ‑L 1 K は,事後にお である。そういう意味では事後的な概念である。そして ,I ける投資の必要額と現実額との差であり,和田教授が『経済成長理論』で述べ ているような, 1"企業の投資についての計画量と実現量との差異」ではないので. ‑ L 1 K はむしろ, ある。したがって ,I. 1"事後的にみての投資不足額」とでも表. ‑Sdにつし、ても同様のことが言える。 S‑Sdv , : l : 現すべきものである。 S. 1 " 事 後. 的にみてみたされなかった貯蓄者の需要」ではなく,むしろ「事後的にみての 貯蓄者の需要不足額」とでも言うべきものである。そこで , ( J ‑ L 1 K)+CS‑'Sd) は1"事後的にみて未充足の需要」ではなく, 1"事後的にみての需要の不足額」 であると考えられる。結局和田教授は,ハロッドの考えている投資と貯蓄につ いての不均衡を,生産物市場の不均衡と混同しているのではないかと考えられ る。両者は異なるものである。このことはまた,次に述べる第二の問題点とも 結びついている。 第二の問題点は,現実の成長率 G の調整の仕方である。和田教授は前掲の 引用文のように,. 1"そこで,企業がこのような事後的にみて未充足の需要の総. 計が正〔負〉であるとき,生産の成長率を高める(低める〉ような行動をとる としよう」と言っておられる。これは前後の関係から,生産物市場において需要 超過〈または供給に対しての需要不足〉がある時,企業が生産(すなわち供給〉 の成長率を調整すると L、う仮定と解される。. しかし,ハロッドが〈少くとも. EconomicDyn αmics"で〉言っているこどは,t . : : . . とえば投資不足や貯蓄過剰 で「事後的にみて需要の不足」がある時,投資者や貯蓄者はそれに対応して支 ( 5 7 ) C f . .,Hariod,Eco n o m i cE s s a y s,p p . .2 7 8,‑ 9 ( 5 8 ) 和田, Ii経済成長理論J], 9 1ベ}ジ。.
(22) OLIVE 香川大学学術情報リポジトリ 第5 5 巻 第 3・4号. ‑ 22ー. 368. 出を増やしそれが需要の増大率を高め,その結果受動的に生産の成長率が高 くなるということである。言 L、かえれば,不均衡は投資や貯蓄について起り, それに対する調整は投資者や貯蓄者によって行なわれ,それが間接的に G に影 響を与えるということである。 このような問題点を改善すれば,和田教授の定式化は一般的で,分り易く, 有益であると思われる。また,これを数学を用いて精級化することも可能であ ろう。. VI 結 び 以上のように,貯蓄の不均衡と不安定性原理の関係についての,ハロッドの 主要な著作を検討し最後に,貯蓄の不均衡を考慮に入れたハロッドの不安定 性原理を再定式化した,和田貞夫教授の学説について検討をした。. 1 9 3 9 年V こ発表されたハロッドの ' AnE s s α u伽 D Y 1 協 m i eT h e o r y "において, 始めて経済動学の基本方程式が示され,. それを基礎に不安定性原理が展開さ. れた。その際,彼は事前的な貯蓄〈望ましい貯蓄〉からの事後的な貯蓄(現実 の貯蓄〉の第離が不安定性原理に関係があるとしながらも,不安定性原理の展 開に当ってはこれを明示的に組入れず,必要資本係数からの現実資本係数の事. 9 4 8 年に出版された,かの有 離の効果の中にその効果を吸収して取り扱った。 1. o ω αr d 8α D仰 αmieE e o n m i e s "においても,同じ取り扱いを続けてし、 名な T ると解される。しかしその後ハロッドは, この貯蓄の不均衡の問題を重視する ようになった。そして,望ましい貯蓄率〈均衡貯蓄率〉ねを保証成長率を含む 基本方程式において明示し,それからの現実貯蓄率の君離を考慮に入れた,不. e o n o m i eD抑 αm i c s "(1973) 安定性原理を形作って行った。晩年の代表作 E においては,この形の不安定性原理がより整った形で、展開されている。しかし そこには,なお問題点が多く,和田貞夫教授によって,改善のための再定式化 が行なわれた。その着想は優れていると思われるが,和田教授は,ハロ. γ. ドの. ( 5 9 ) なお和田教授は,前掲の論文の付録で , G<Oの場合や I く Oの場合についても 論じて L、 る 一.
(23) OLIVE 香川大学学術情報リポジトリ 3 6 9. 貯蓄の不均衡と不安定性原理. 一 色. 2 3 . ̲ '. 用いた概念や考え方について一部誤解があるのではなし、かと思われる。このこ とは,ハロッドの以前からの著作をよく見れば明らかなことである。 この点を是正しさらに数学も用いて,貯蓄の不均衡を考慮に入れたより精 綴な不安定性原理を完成することが,次の課題である。 星雲考文献. [1J A l e x a n d e r,S .S . Mr.H a r r o d ' s,Dynami 巴 M odel, "E conomicJ o叫r n a l ,D e c ., 1 9 5 0 . (2] H arrod,R .F, AnE s s a yi nDynamicTheory, "E conomicJ o u r n a l ,March ,. 1 9 3 9 . (3) 一一一一 ,T owardsaD抑 仰ucE c o 叫o m i c s,1 9 4 8 .. (4) 一一一一, N o t e sonTradeC y c l eTheory, "E c o 叫o micJ o u r 削 l ,J une ,1 9 51 . (5) 一一一一一 ,E c o 叫o micE s s a y s,1 9 5 2 .. samodel? "~in Vα ,l u e,C a p i t a lα叫 dGrowth: Pαp e r s仰 (6J 一一一一一, Whati. h o n o u r01S i rJohnH i c k s,ed,J .N .Wolfe,1 9 6 8 . [7) 一一一一 ,Money ,1 9 6 9 . conomicD抑 αm i c s ,1 9 7 3 . (8] 一一一一一 ,E (9) Keynes,J .M.,The G e n e r 叫 T h e o r ・ y01Employment 1 n t e r e s t αnd Money, 1 9 3 6 . .. は0 ) 和田貞夫,. r 保証成長率と「不安定性原理J J,大阪府立大学経済研究,. 1 8巻 4号 ,. 年1 0月 。 昭和48 ( 1 1 ) 一一一一fi'経済成長と資本の理論Jj,昭和5 0 年 8月,東洋経済新報社。. ( 1 2 ) 一一一一. r 不安定性原理と景気循環J ,大阪府立大学経済研究, 2 4 巻 2号,昭和. 5 4 年 1月 。 ( 1 3 ) 一一一一fi'経済成長理論Jj,昭和5 4 年 9月,東洋経済新報社。.
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