Al−Ge合金の析出の透過電子顕微鏡による観察
藤木俊介*柴田政勝*佐藤彰矩*
(昭和46年9月30日受理)
Direct Observation of Precipitation in Al−Ge Alloy.
Shunsuke FuJiKI, Masakatsu SHiBATA and Akinori SAT6.
(Received September 30, 1971)
The size, density and shape of Ge precipitates in AレGe binary supersaturated solid solution containing 40r 2wt% Ge was investigated by meam of a transmission electron microscopy as a function of ageing time.
The specimens were quenched into ice water from 4000C and aged at 1300C or 2300C.
Needle−like (or rod−like) precipitates along〈110>directions and triangular or hexagonal plate−like precipitates parallel to {111}M plane were observed in Al−4wt% Ge aged at 13eOC and 2300C and Al−2wt% Ge aged at 1300C. Lump−like or column−like precipitates were observed in an Al−2wt% Ge aged at 2300C.
The density of plate−like Ge precipitates increased gradually with increasing ageing time and reached a maximurn and the size of them continued to increase.
The highest value of density measured in Al−4wt% Ge aged at 1300C, Al−2wt% Ge aged at 1300C or A]一4wt% Ge aged at 2300C were estimated to be 2×10i5/cm3, 4.5×10iVcm3 or 7×10i3/cm3 respectively.
The relation between volume of precipitates and hardness showed that dislocations cut through the precipitates at the stage to maximum hardness.
1 緒 言
アルミニウムの引張り強さは,99.6%Alの焼なまし状 態で7kg〆mm2,%硬質で13・4kg/Mm2程度であるが,析 出硬化形アルミニムウ合金,たとえばジュラルミン(17S)
では焼なまし状態で19kg/mm2のものが焼入れ後常温時 効により48k9/mm2,75 Sでは焼なまし状態で23.2kg/
mm2のものが,焼入れ酒焼もどしにより58・3kg/Mm2に 達する。1)このように析出硬化形合金は,適当な熱処理に より非常にすぐれた機械的性質を有するようになるため,
現在では,ただアルミニウム合金だけでなく,多くの合金 で有用な金属材料として使用されている。
一方金属材料の強度は結晶中の転位の動き易さによっ てきまり,析出形合金の硬化機構は析出物と転位の相互 作用によって説明される。しかし析出物と転位の相互作用 は析出物の形状,大きさ,密度(単位体積当りの析出物の
*金属工学科
数),母相との方位関係,整合の度合および析出物自体の 強度などにより異なるため,それにもとつく理論もまた数 多く提出されている。2)また析出形合金の硬化機構は降伏 強度と加工硬化に分けて考えることができ,この両者が説 明されて始めて硬化機構が明らかにされたといわれるべき であるが,加工硬化を論ずるには,まず降伏強度を明らか にすることが必要である。
根本,幸田3)・4)はAl−1・42 wt.%Si合金を用いて,その 初期時効段階および最高強度以後の時効段階における析出 物と転位の相互作用を引張試験とともに,透過電子顕微鏡 により直接観察し,時効の初期毅階では転位は析出物Si を切って運動すること。また最高強度以後の過時効段階で は,いわゆるOrowanのby−Pass機構によることを明ら かにしている。
転位が析出物を切って進む場合降伏応力は,転位の運動 に対して同時に作用する抵抗力をすべて加え合わせたもの できめられる。これらの抵抗は上記論文3)によると,たと
えば,母相中を転位が動くときの摩擦力Tf,転位が析出物 の内部を運動するときの抵抗丁・,析出物がヒり面の上下で bだけ互いに変位するたあに,外周にそって生ずる結合の 変化による7i,析出物と母相の格子定数や,ヒり方向が一 致していないとき形成される不整合転位に基づく抵抗Tm,
析出物の周囲にひずみ場がある場合には,それらと転位と の相互作用による抵抗Ts,さらに析出物と母相とのたり 面が平行でない場合には,ジョグや転位対を形成しなけれ ばならないから,これらのそれぞれによる抵抗7j,および τdなどが考えられる。したがって,これらのすべてが同 時に抵抗となる場合の降伏応力Tyは,
Ty==Tf十Tp十Tm十Ti十Ts+Tj十Td
となる。このように種種の抵抗が同時に働くときは,一つ の理論のみで説明づけることはできないのはもちろん,そ れら個個の値を定めることも困難な場合が多い。この点 Al−Ge合金はAl−Si合金と同じく現在までのところG−P zoneが見出されていないこと。5)析出相はGe単体であり,
その形状および母相との方位関係は前報6)に示したよう に,Al−4wt.%Ge 130。C時効の場合{111}Ge//{111}A1の 三角形または六角形の板状および<110>の線分状の析出 物であることなどにより上記抵抗のうちT」およびTdの項 が省略できる期待がもてる。
今転位の線張力をT,析出物の強さをF・とすれば,F・
<2Tの場合に転位は析出物を切って進み, F・>2Tの場 合には転位は析出物を切って進むことはできず,by−pass 過程を取る。転位が析出物を切らずに,そのまわりにルー プを残して,析出物の間を通り抜けるOrowan7)の機構に より降伏応力が定まる場合,降伏応力Tは
2T r=Tf十 1,・b
で与えられる。こxでTfは郵相の臨界せん断応力,bは転 位のバーガス・ベクトルの大きさである。lpはたり面上の 析出物間距離で,析出物が球状のときは,析出物の半径を r,たり面上の単位面積当りの析出物をn・,単位体積中の 析出物の数をn・とすれば,n・=2rn・
1 1p2.,÷
na
の剛性率である。非球状析出物の場合には1pのとりかたが 聞題であるが,母船との方位関係が明らかであれば,密度 から計算することができる。以上のようにある種の析出形 合金に対しては,その硬化機構を解明し,あるいは逆に,
析出物の状態から降伏応力の推定も可能となる。こNでは AレGe合金の硬化機構を明らかにするために必要な析出物
の大きさ,形状,密度および整合状態等について調べた結 果を報告する。
2 実 験 方 法
実験に用いた試料の合金組成は秤量成分がAl−4wt.(1.5 at.)%GeおよびA1−2wt.(0.75at.)%Geのものである。
合金を作るに用いた純金属は99,995%Alおよび99,999%
Geで,2種類の合金は,これらの純金属をMgOでライニ ングした黒鉛ルツボを用いて大気中で溶解して作った。溶 解中は酸化膜が混入しないように注意しながら撹附し,
Geが完全に溶解した後は800。Cで60分以上保持しできる だけ成分の均一をはかった。脱ガスは六塩化エタンで行な い,インゴットは金型に鋳込んで20×20×100mmのもの を作成した。これを400。Cで48時間均質化処理した後熱 間鍛造で4mm厚とし,その後は冷間圧延により硬さ測定 用試料は2mm厚,電子顕微鏡用試料は0.05 mm厚とし
た。
A1−Geの共晶温度は424。 Cであるから,溶体化処理温 度は400。Cとし,保持時間は3時間とした。焼入れはすべ て氷水中に行なった。時効はそれぞれの温度に保った油野 中で行ない。時効温度は130。Cおよび230。Cとした。なお 焼入れから時効までには2〜3分を要したが,実験では Al−Ge合金の場合常温での析出はほとんど認められない。
硬さの測定は微小硬さ計を用い,荷重は500g,荷重保 持時間は45secとした。
電子顕微鏡試料はリン酸400cc,硫酸200cc,無水クロ ム酸25gの溶液中で電解研磨を行ない,薄膜として直接 観察を行なった。使用した電子顕微鏡は日立11Ds形で加 速電圧は100kvである。
3 実験結果および考察 したがって
1,=1ん/2rn・
で与えられる。4)またTは近似的に
T ==iib2/2.
で与えられるから8)ほぼ一定とみなすと,降伏応力と1/1,
の間には直線関係が成り立つはずである。ただしμは母相
4wt%Geならびに2wt% Geのそれぞれ130。Cおよび 230。Cにおける時効実験を行ない,その結果を時効時間に 対する硬さ,析出物の大きさおよびその密度の変化として まとめたものが,Figs.1〜3である。ただし2wt%Ge 230。C 時効のものは硬度および析出物の状態にばらつきが大きく 信頼できる測定値が得られなかったので図の作成は行なわ なかった。従ってFig.1は4wt.%Geの130。C時効におけ
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Fig.1 The density and size change with time during ageing Al−4wt.% Ge alloy at 1300C after quenching from 4000C.
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Fig,2 The density and size change with time during ageing Al−4wt.% Ge alloy at 2300C.
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Fig.3 The density and size change with time during ageing Al一一2wt,. %Ge alloy at 1300C.
るものであり,Fig.2およびFig,3はそれぞれ4 wt.% Ge の230。Cおよび2wt%Geの130。C時効のものである。
これら測定ならびに観察結果をもとにして以下考察を行な うこととする。
3.1 硬さの変化
Figs・1〜3の最下毅の図より明らかなように,硬さは時 効時間の増加につれて増加し,ある時効時間で最高硬さを 示した後時効時間の増大につれて軟化の傾向をたどる単一 ピーク形の曲線を示している。なお最高硬さに達する時間 と溶質原子の含有量との関係,時効温度と最高硬さに達す る時間ならびに最高硬さとの関係などは,他の析出硬化形 合金の場合の関係と同一傾向を示す。
3.2析出物の大きさおよび密度について
Figs.1〜3の申殺および最上段の図によ6て,析出物の 大きさおよび密度の推移を考察することにする。なお析出 物の形状については後で述べる。
まず,本研究において,析出物の測定にあたってはつぎ のような長さを大きさの測定基準とした。すなわち,析出 物の形状が三角形の場合はその最:長辺の長さ,多角形の場 合はその最長対角線の長さ,さらに円あるいは,だ円状の 場合はその直径あるいは長径の長さである。
また,析出物の密度の測定にあたっては,線分状析出物 の数が板状析出物の数に比して少ないこと,および線分状 析出物は板状析出物に比して硬化に与える影響が少ないこ
とより,線分状析出物は無視することとした。
なお,大きさおよび密度は同一資料の異なった数隠所に おける測定値の平均値を採用した。したがって,本研究に 採用した合金の考慮する条件における一般的な値を示して いるものとみることができる。
4wt・% Ge 130。C時効の場合(Fig.1参照),析出物は 時効時間5時間の近傍から認められ,その大きさは40A 程度であった。密度はきわめて大きく7〜10時間程度の時 効で最高値2x1015/cm3に達している。この時期は前述の 硬さが増大し始める時期とほぼ一致しているようである。
さらに,析出物の大きさについてみると,析出初期に急 速に成長し,析出物の密度が最高値になる時期からその成 長の度合はゆるやかとなり,後期の段階では時効時間と析 出物の大きさの間に指数関係が成り立つようである。
つぎに,4wt.% Ge 23,。C時効の場合についてみるに
(Fig.2参照),傾向としては130。C時効の場合とほぼ同 様であるが,析出物の急速な成長時期と密度の増加時期に 少しずれが認められる。
最後に2wt.%Ge 130。C時効の場合について述べると
(Fi9.3参照),4wt.%Ge 130。C時効の場合(Fi9.1)と 明らかに異なった現象がみとめられる。すなわち,4wt.%
Geの場合は密度は析出の初期に最高値に達し,硬さが最:
高値を示す以前において,すでに減少し始めているが,
2wt・%Geの場合は密度と硬さの増加時期にその増加傾向 がほぼ一致していることである。
一般に析出相の大きさの増大につれて自由エネルギーの 減少が容易になるため,9)ある数の核が生成されてからは,
新しい核の生成よりもすでに生成された核の成長によって 析出が進行する方がエネルギー的に有利であるが,2wt.%
Ge 130。C時効の場合はすでに析出物が多数存在している 状態にあるにもかかわらず,新しい核の生成される過程が 徐々に進行しているとみられる。
3・3 電子顕微鏡観察結果と硬化機構について
前述の時効時間の増大につれて硬化から軟化の現象がみ とめられること,あるいは析出物の密度・大きさが変化す る現象について,電子顕微鏡による観察結果によって析出 物がどのように変化しているか考察することにする。
まず,2wt・%Ge 130。C時効の場合の析出物の形状およ び方位関係は前述の通りであるが,Fig.4に示すように,
時効時間が103時間に達する時期において板状析出物の形 状がくずれてくる。このくずれ始める時期は明らかでない が,早くとも軟化の傾向が始まった以後であり,時効時間 7×102時間以後であった。
つぎに,4wt・%Ge 230。C時効の場合の析出物の形状お よび方位関係は,Fig.5に示す通り,130。c時効の場合と 同様であり,硬さとの関係も同一の傾向を示した。
Fig.4 Electron micrograph of a thin foil of Al−4wt.% Ge aged at 1300C tor 792hr.
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Fig.5 Electton micrograph of a thin foil of Al−4wt.% Ge aged at 2300C for 30min.
The foil surface is nearly parallel to (110)M plane.
つぎに,2wt.% Ge 130。C時効の場合の析出物の形状お よび方位関係であるが,この場合も4%Geの場合と同様 であった。しかし4wt.%Geより同一時効温度で硬さとの 関係において早い時期に形状のくずれが見られた。すなわ ち,Fig・6は時効時間5e4時間の写真であり,最高硬さを 示す時期のものであるが,形状の不明確な析出物が認めら れる。
一190一
最後に2 Wt.% Ge 230。C時効の場合についてであるが,
この場合の析出物の形状はFig.7に示すごとく塊状または 柱状であった。なお,写真の地質中に析出物に付着して転 位線がみられるが,これは析出物の急速な成長に伴う応力 によって,析出物から放出されたすべり面上の転位と思わ
れる。10)
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Fig.7 Electron micrograph of a thin foil of Al−2Wt.%Ge aged at 230。C for 45min.
これらの透過電子顕微鏡による薄膜の観察の間,Ashby and Brownli)が時効したCu−Co合金にみいだしたような,
地質とCoherentな球状析出物によって作られる弾性ひず みによって生ずるコントラスト効果は見られなかったが,
Fig.8に示すようなひずみ場によるコントラスト効果があ る場合に見られた。
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Fig.8 Electron micrograph of a thin foil of A1−2wt.%Ge aged af 230。C for 10m血.
♂肇箋膨
つぎに硬化機構について少し検討を加えることにする。
共有結合結晶であるSiやGeはパイエルス応力12)が非常 に大きく,常温ではほとんど塑性変形を示さない。したが ってA1−Ge合金の硬化機構をOrowanの理論で考えてみ ると降伏応力は前述の如く
2T
T == Tt 十
Jp b
で与えられる。また,Tは近似的に
・一思
で与えられるから,
pb
T=刊+T
となる。析出物は(111)Al面上の三角形の板状析出物であ るから,1を一辺の長さ,ρを密度とすると,
2 1p= ゾゾ百 ρ
と考えられるから,
7=ゐ・ゾ ρ
となる。但しk・は比例常数である。また,
を一定とみなすと,析出量fは f=le212p
析出物の厚さ
で表わされる。但しk2は比例常数である。いま析出量が 一定の場合には
千一・・ ,
となり1が大になると1日頃小さくなるから, Tもゾ1ρに 比例して小さくなる。
いま,析出量fを求めてみると,4wt.% Ge 130。Cの場 合40時間前後で一定となる。したがってOrowanの理論に よると,この時期以後では軟化しなくてはならないはずで あるから,Fig.1の結果と矛盾することになる。もちろん 以上の理論は降伏応力との関係であり,硬度に対してその まS適用することはできないが,大きな違いはないものと 考える。なお,このことについては引き続き研究中である からいずれ明らかにできるものと思う。
4 結 言
Al−4wt.%GeおよびA1−2wt.%Ge合金をそれぞれ130
。Cおよび230。Cで時効し,その析出過程を硬さの測定お よび透過電子顕微鏡による観察により研究し次の結果を得
た。
(1)析出物の密度は4 Wt.% Ge 130。C時効,2wt.% Ge 130。C時効,および,4wt.%Ge 230。C時効の順に高く最 高値がそれぞれ2×1015/cm3,4.5×10i4/cm3および7×1013
/cm3程度であった。
(2)析出物の大きさはいずれも析出の初期に急速に増大 し,以後は析出物の大きさと時効時間との間にほぼ指数関 係が成り立つ。
硬さが最高を示す時期の大きさは,4wt.% Ge 130。C時 効で約240A,2wt.% Ge 130。C時効で約4∞A,4wt.%
Ge 230。C時効で約1600Aであった。
(3)析出物の分布および大きさの均一性は密度の高いも のほど.良好であった。
(4)析出物の母相との方位関係および形状は,2wt.%Ge 230。C時効の析出物が塊状および柱状であった以外はすべ て{111}G・//{111}Alの三角形および六角形の板状ならびに
〈110>方向の線分状であった。
(5)最高硬さに達するまでの硬化機構は,析出物の大き さ,密度および硬さの変化から考えてOrowanの機構によ るとは考えられない。
参 考 文 献
1)椙山:非鉄金属材料,コmナ社,昭42・
2)根本:金属学会報,5(1966),671 3)根本,幸田:金属学会誌,29(1865),399.
4)同上 29(1965),406.
5)太田,橋本1金属学会誌,34(1970),700.
6)藤木,柴田,佐藤=津山工業高等専門学校紀要,
3 (1970) ,51.
7) E. Orowan:Symposium on lntermal Stress in Metals and Alloys lnst. Metals, London, (1948),
P451.
8)幸田:金属物理学序論,コロナ社,昭40・
9)平野:合金の時効過程とその解釈,日本金属学会,
(1968),Pl.
10) K.Matuura and S.Koda : J.phys.Soc.Japan,
20,(1965),251.
11) M.F.Ashby and L.M.Broun:Phil.Mag.,
8 (1963),1083.
12)例えば 日本金属学会編:格子欠陥と金属の機械的性 質,丸善,昭42.