熱伝導問題の数値解における
Implicit型とExplicit型の比較
藤 田 士♂じ、 郎
1) 序 論
熱伝導問題の数値解法は一般にExplicit型とImplicit型 に分けられる。Implicit型の利点とされているのは時間軸方 向のきざみが大きくとりうるということである。これに対 してExplicit型はこのきざみの大きさに制限があり,それ によって,必要なある時間までの数値解を求めるためには time stepの数が大きくなり,計算時間が長くなるといわれ ている。しかし,Implicit型の解法は連立型であるので時間 軸のOne stepに必要な計算時間は前進型の解法であるEx−
plicit型に比べて非常に長くなる。従って時間軸のきざみを 大きくしうるという理由のみで計算時間が短くなると必ずし も結論しえない。このことはすでにDusinberrei) によっ て指摘されている。これに対してImplicit型の方が時間軸 のきざみを大きくしうること,精度がよいこと等によって 数値解法として有利であるという報告もなされている。2・3)4)
数値解は勿論電子計算機を用いるのだが,計算機を用いた解 法においてはいつもComputer timeが一つの大きな要因と なる。特に時間軸のきざみを大きくするとImplicit型にお いても精度は悪くなる。そこで,両者の比較においては全体 のComputer timeと精度の両方を検討する必要がある。上 記文献はこの点について必ずしも十分比較検討なされたもの ではない。ここではその点について考慮した数値実験の結果 を報告する。
2)熱伝導方程式
数値実験例として次の如き問題を考える。
∂U ∂2U
(0<x<1) (1)
ニんへ
∂t ∂X2
u=0 (xニO,x=1) (2)
u=Vo (t=0) (3)
ただし,π:温度,お時刻,κ:一次元座標,κ:熱拡散
係数
ここで変換
・講・一・一多
を行うと無次元式として oe 02e
6T−642 e==o e==1 をうる。
(O〈4〈1)
(g 一一 o, 4 == 1)
(T == O)
(4)
(5)
(6)
この方程式の解は明らかに オ
・一門麟、) 伽+Dπτs・・(・・+・)・・(・)
で与えられる。5)
3) 数 値 解 法
ξ方向のきざみをli 9,τ方向のきざみを4τとする。この ときExplicit型差分近似式で(4)を表わすと
em,n+i = 7(em+i,n十em一!. n) 十 (1−2r) em.n (8)
となり,lmplicit型(特にCrank−Nicholson型を用いる)
差分近似式は
・m・・+・・=、(r{.;?){・m・1・n+・m・1・n・・+(3一・)・m・n
+Om−Ln+em−1,n+1} (9)
となる。
ここでθm,n=θ(mdξ, ndT)(n ・= 1, 2, 3……, m=1,2,3…・一,
M−1,ただしMはξ方向の分割数でdξ=1/Mである○)
rは7=」∀(Aξ)2で与えられるパラメーターである。Ex−
Plicit型ではr〈1/2の制限が必要でるが, Implicit型では 解の安定性に関する限りその制限はない。
(8),(9)式をξ軸及びγ軸のアミ目により図式化する
*第28回応用物理学会講演会q967.10.金沢大学)に発表.
一 369 一
(n+1)dr
ndT
(m一ユ)4ξ
md8
Fig.1. Sche皿atic Representation of Explicit Difference Method
津山高専紀要(第1巻 第5号)
値と(n+1)dT線上の値を用いて△印の格子点の値を求める ことを反復する。第k回目と第(k+1)回目の値の差の絶対 値がすべての格子点についてある値(これをεとする)よ り小さくなったとき収敏したものとしてこれらを@+1)tiT における値とする。この反復法は手順としては計算機に適し ているが,Mの値が大きくなると収解するまでの反復回数
(m +1) 4e
が非常に大きくなり,one stepを求める時間が前進型に比 べてずっと長くなる。
4) 数値解の結果と検討
(n+1)dτ
ndT
(m−1)ds mlie (m十1)ti,e
Fig. 2. Schematic Representation of lmplicit
Difference Method とFig.1, Fig.2の如くなる。
Fig.1で分るようにExplicit型ではn∠7線上の○印の格 子点の値を用いて@+1)∠τ線上の△印の格子点の値を求め るから,初期条件と境界条件が存在すれば前進的に順次数値 解をうる。rの値は%, Y2等が用いられるが,%では精度 が悪くなり,この実験例の如く境界条件が不連続のときは解 が不安定になることがある♂)r=%は精度はよいが,時間 軸のきざみAfの値が小さくなるので必要な時間までの解を
うるにはstep数が多くなる欠点を持っている。
Implicit型ではFig.2にある如く,加7線上の○印の格子 点の値と(n+1)∠7線上の●印の格子点の値を用いて(n+
1)dτ線上の△印の格子点の値を求めるので,初期条件と境 界条件のみでは●印の格子点が未知となり,前進的に解をう
ることはできない。即ち,m=1からm=M−1までの式を
連立させて解くことになる。したがって,例えば,行列式を 用いて連立方程式を解く場合と同じようにして解を求めう る。このときは手順は前進型と同じであるが計算時間は長く なる。Mが大きくなると計算機によってはこの方法が使え ない場合ができるが,このときは反復法を用いる。普通はこ の反復法がImplicit型の解法にはよく用いられる。このと きは明らかに,前進的には数値解は求まらない。反復法は例 えば次のような手順で行う。まず最初に,ndγ線上の値を第 0近似として(n+1)盃線上の値に用い,これより第1近似 としての(n+1)dτ線上の値を求める。以下はndア線上のこの数値解におけるImplicit型の解法は反復法を用いた。
その理由は,行列式を用いて連立方程式を解く方法はMが 大きくなると計算機の機種により不可能となり,もし可能な 場合でもone stepの計算時間は非常に長くなる。一次元の 問題においてもξ方向の小さいきざみでの解を必要とすると
きはMの値を大きくしなければならない。特に,二,三次 元の問題を取扱う場合には当然格子点の数が多くなりMは 大きくなるので連立方程式の方法は一般的でないためであ
る。
この実験例においてはM=20とした。数値解は小数第5 位まで求め,四捨五入して第4位までをその解としている。
従って,反復の際のεの値は10一5を用いた。
従来の報告ではExplicit型とImplicit型の両者を比較す る際に7の値を固定して行っているが,問題となるのは精度 と全体の計算時間であるから当然rの値を変えた場合も考え るべきである。
まず,Explicit型ではr=1/2は非常に大きい誤差(不安 定性のため)の結果をえたのでr・=1/6についてのみFig.3 にその誤差を示した。Implicit型についてはr==1はやはり 誤差が非常に大きい結果をえた。従って,r=1/2,1/4の場 合について誤差をFig.3に示した。
Fig.3におけるATはr=1/6の場合についてのものであ
る。
Fig.31t *り精度の面のみではImplicit型の方がよい結 果であることが分る。しかし,このような例の場合にはr>
1では精度がずっと悪くなるので利用しえないことが分っ た。即ち,Implicit型では精度をある程度保つためにはrの 値をExplicit型の場合と同様に小さくしなければいけない ので,rを大きくしうるという利点はあくまでも精度を犠牲 にした場合に存在するものといいうる。
計算時聞は,Explicit型とImplicit型ではone stepに ついて約1:6であった。従って,Explicit型のr;1/6と,
一 370 一
藤田 志郎 熱伝導問題の数値解におけ る重1np1三。三t型とExplic三t型の比較
10
︵訳︶ 5
﹄o旨畠Φb︒£g8お山
o
K
1 Explicit Method (r−1/6)Il lmplicit Method (r=一1/2)
III lmpllcit Method (r 一一 1/4)
た計算機のプログラミングもImplicit型に比べずっと簡単 であり,二,三次元問題のように格子点が多くなった場合は 十分役立つ方法といいうる。
なお,計算機は岡山大学理学部電子計算室のNEAC 2203
を使用した。
Table 1. r一一1/2 8一=As
Time
Exact@ Solution
E。pli。it iM・・h・dl Ilnplicit
@ Method EIM
∠τ 0.6827 0.5000 0.6569 0.6528
247
0.5205 0.50QO 0.5157 0.506534τ 0.4363 0.3750 0.4350 0.4274
4」γ 0.3829 0.3750 0.3830 0.3767
54τ 0.3453 0.3125 Q.3458 G.3407
5) 結
n=一5
Fig. 3. Dimensionless time ndT (dr:r==1/6)
Implicit型のr=1とが丁度全体の計算時間が同じになる。
故にこの両者の比較の場合にはExplicit型の方がよりよい 方法といいうる。精度をあまり要求しない場合の数値解法と
してはExplicit型で十分である。しかし,精度を必要とす るときは,Implicit型を用いるべきである。この場合rの 値は小さいほど精度はよいが,実際の計算結果ではr=1/4
とr=1/6ではその誤差はほとんど同じであった。Implicit 型を用いると当然計算時間は増してくる。そこでlmpllcit型 の反復法におけるone stepの計算時間を短くするために次 のような計算法を導入した。
この方法は収敏するまで反復するというこれまでの方法と 違って,第1近似としての(n+1)∠7線上の値をExplicit型 の方法で求める。次に,上に求めた値を用いてlmplicit型 の手法により@+1)zlT線上の△印の格子点の値を求めて行
くものである。即ち,one step進むために, Explicit型と Implicit型の両者の手法を用いるものである。(これをEIM
と甜)も・,・4の条件・・存在すれば…pl・…型によ り求める第1回目の結果がすでによい近似を与えているか ら,反復をしなくて十分よい結果をうることが期待される。
Tab]e 1にその数値解の一部を示す。これで明らかな如く Implicit型の解法とほとんど誤差は変らない。計算時間は one stepについてExplicit型の場合の約2倍強である。ま
論
熱伝導問題の数値解法におけるlmplicit型とExplicit型 を数値実験例によって比較検討した。その結果,次の事柄を 結論しうることが分った。
(1)Implicit型の解法においてもパラメーターrの値が 1以上の場合は誤差が大きくなり実際の数値解に利用しえな いQ
(2).Implicit型ではone stepの計算時間が長くかかる のでrの値を小さくすると全体のComputer timeも長くな
り,この点においてExplicit型より有利とはいえない。
(3)rの値が小さいときは,精度の面のみではImplicit 型の方がExplicit型よりも,よりよい数値解を求めうる。
なお補足的ではあるが,Implicit型の計算時間を短くする ためにExplicit型とImplicit型の計算手法を交互に用いて 前進的に解を求める方法を導入し,十分解法として利用しう
る結:果をえた。
文 献
1) G.M. Dusinberre: J. Heat Transfer, Trans. ASME,
83, p. 94 (1961).
2) 」. T. Anderson, J. M. Botje and W. K. Koffel : 」. Heat Transfer, Trans. ASME, 83, p. 516 (1961).
3)L.L. Lynn and J. E。. Meyer:丁. Heat Transfer, Trans.
ASME, 85, p. 280 (1963).
4) R. C. Campbell, B. Kaplan, A. H. Moore: J. Heat Transfer, Trans. ASME, 88, p. 324 (1966).
s) Carslaw and Jaeger: Conduction of Heat in Solid p. 96 (1959, Oxford).
6)森口・高田: 数値計算法且 p.120〜ユ2ユ(1958,岩波現代 応数).
(昭和42年10月10日受理)
nt Q71 一 り. L