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イタリア国際私法における当事者自治の原則 (1)

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(1)

イタ リア国際私法における当事者 自治の原則

(1)

桑 原 康 行

契約債務の準拠法 については,

2

つの立法主義すなわち客観主義 と主観主義 がある。 この うち,今 日諸国の国際私法上広 く採用 されているのは,主観主義 の原則すなわち当事者 自治の原則である。当事者 自治の原則 は,契約の成立お よび効力の準拠法決定を当事者の意思にゆだね るものであるが, これまでさま ざまな批判 にさ らされて きた

1)。

そ して最近 の国際私法立法 において は,当 事者 自治の原則を何 らかの形で制限 してい こうとす る傾向がみ られ る。

その第一 は,特定の種類の契約を当事者 自治の原則か ら除外 しようとす る立 法であ り, その第二 は,強行法規の特別連結理論 を採用す る立法であ る

2)。

これ らの立法 は,わが国の国際私法の立法論 にとって特 に参考 となるのであろ

う 。

ところで,16 世紀 フラ ンスのデ ュムーラ ンによ って初めて提唱 された3 )当

本稿 は,平成

4

年度科学研究費奨励研究

(A)

「イタ リア国際私法 における当事者 自 治の原則」による研究成果の一部である。

1

)当事者 自治の原則一般については,折茂豊 『当事者 自治の原則

』(昭和45

年)参 照。本原則に対す る批判 については,特に同書53 頁以下参照。

2)

これ らの立法例 については,例えば溜池良夫 『国際私法講義』( 平成

5

年)338 貢 以下参照。なお,笠原俊宏編 『国際私法立法総覧』( 平成元年) も参照。

3

)溜池 ・同上331 頁,山田錬‑ 『 国際私法』( 平成

4

年)281 貢。 もっとも折茂教授 はデ ュムーランではな く

MANCINI

が本原則の提唱者であるとされ る。折茂 ・前

掲注 1)1

1 頁。

263

(2)

264

商 学 討 究 第

44

巻 第

1・2

事者 自治の原則 は,1

9

世紀 に至 り,イタ リアの

MANCINI

によって,新たに 理論づ け られ ることとな った

イタ リアでは,MANCI

NI

の強 い影響の もと に, 旧民法典前加編 ( 以下,

1865

年法 と略称)の第

9

条 で,契約債務 の準拠 法 に閲 し,当事者 自治の原則が採用 された。 この規定 は,実質的 に,新民法典 前加編 ( 以下,現行法 と略称)第

25

条に受 け継がれた。

このよ うに,MANCI

NI

の母国であるイタ リアにおいては, ドイツ ・フラ ンス等の諸国 とは異 な り

, 4)

古 くか ら,成文法を有 し, これに関す る学説 ・判 例 も少な くない。 したが って,同様 に古 くか ら成文法上当事者 自治の原則が承 認 されているわが国の法例第 7条の解釈論 にとって参考 となるところが存在 し えよ う

本稿 は,イタ リア国際私法上 の当事者 自治 の原則 を現行法規定 を中心 とし て,紹介 ・検討す ることを 目的 とす る。まず,本原則のその後の展開に著 しい 影響 を与えた

MANCINI

の学説を紹介 し

(

Ⅱ( 1 ) ) ,続 いて,MANCI

NI

の強 い影響の もとに成立 した1

865

年法が どのよ うな議論 を経て改正 され るに至 っ たかを, 改正草案および改正理 由書を中心 として概観す る(

Ⅱ(2))

。その後で, 現行法第

25

条第

1

項 に関す る主 として解釈論上の問題をい くつか紹介 ・検討す

ることとす る (Ⅲ) 0

旧法下の状況

( 1 )

MANCINI

の学説

当事者 自治の原則 は,イタ リアにおいては,MANCI

NI

によ って理論づけ られた

5) MANCINI

によれば, 自由の原則が,国籍の原則 とな らんで,国 際私法上 の基本原則の一つ とされ る

6) 。

この ことは,彼の次の叙述か らも理 解す ることがで きよ う

4)

現在 で は, ドイツにお いて は, ドイ ツ民法施行 法 の改正

(1986)

によ りその第

27

条 で当事者 自治 の原則 を明定 して い る。 また ドイツ ・フラ ンス等 を含 む

EC諸

国 において は,当事者 自治 の原則を承認 す る契約債務 の準拠法 に関す る条約

(198

0)

が既 に発効 している。

(3)

イ タ リア国際私 法 にお け る当事者 自治 の原則( 1 )

265

法的秩序》は 《 私的および個人的 自由》 と 《 社会的権力の行使〉 との調 和,いいかえれば,《国家の法律》 と 《 個人の特権》 との間の,また政治的秩 序 と家族的および私的関係の民事的秩序 との間の関係の中に存する。社会的権 力の作用は,個人の無害な, したが って,正当な自由と衝突す る所においてそ の機能を停止す る。したが って, 社会的権力は, 過度の不正を犯す ことな しに, この無害な自由の支配す る不可侵の領域 に踏みいることはで きないのである。 」

「およそ,個人の自由は同一の社会的権力の下に社会生活を営む同様な他の 個人の権利の承認による不当な制限を受 けえないもの とすれば,同様 に, この 自由は,その社会の外に出て他の民族または国民の下 に及ぶ ときといえども, その活動を中止す ることはない。まさに,かか る私的秩序の法律 は,政治的社 会の一員 としてでな く人類 としての人間に属す るものであり,すべての人間は 生来,当然に,国,領土的限界および政治痴態の如何 にかかわ りな く,平等で

あ る‑ ‑

7)。」

当事者 自治の原則は, この自由の原則か ら導 き出される。

ところで,

MANCINI

によれば,外国人の私権 は,必要的な もの と任意的

5)MANCINI,UTILITA DIRENDERE OBBLIGATORIE PER TUTTI GLI STATI SOTTO LA FORMA DI UNO 0 PIU TRATTATI, ALCUNE REGOLE DI DIRITTO INTERNAZIONALE PRIVATO PER ASSICURARE LA LEGISLAZIONE UNIFORME TRA LE DIFFERENTILEGISLAZIONICIVILIE CRIMINALI,inDI12(1959)

Ⅰ.p.367

この論文 は,当初 フラ ンス語で発表 された論文のイタ リア語版であ る。

フランス語版か らの翻訳 として,早 田芳郎訳 『 種 々の民事および刑事立法間の抵触 の統一的解決を確保す るため,若干の一般的国際私法規定を,一個 または数個の国 際条約の形式の もとに,すべての国家 に対 して拘束力あ る もの とす ることの有用 性』バスクァレ ・スタニスロ ・マ ンチーニ」比較法第

4

号 ( 昭和41 年)45 頁以下, 第

5

号 ( 昭和42 年)68 頁以下。

6)MANCINI

3

つの原則すなわち国籍の原則, 自由の原則,主権および政治的 独立の原則については,折茂豊 『 国際私法の統一性』( 昭和30 年)345 貢以下。 この うち国 籍 の 原 則 につ い て は, 特 に桑 田三 郎

Mancini,Della nazionalita comefondamentodeldirittodellegenti

の研究」中央大学八十周年記念論文 隻 ( 昭和40 年) 所収263 頁以下, 自由の原則 について は,特 に折茂 ・前掲注

1)22

亘以下参照。

7)MANCINI

,前掲注

5)p.387

;早 田 ・前掲注

5

)第

5

79

。MANCINI

文の訳 は,早 田訳 によっている。

(4)

266 44巻 第 1・2

な ものに分 け られ る。必要的部分 は、人の身分すなわち家族的秩序 および関係 を規律す るものである。かか る必要的部分 は,その人の本国の法律 によること

になる。 これに対 して,私権の任意的部分 においては,当事者 自治の原則が承 認 され る

この点 について,

MANCINI

は次のように論 じている。

「‑‑外国人の私権部分 として,財産,その享有,契約の形成,債務その他 に関す るものが ある。 これを私権の任意的部分 と呼ぶ ことがで きる。‑ また 実際にそ う呼ばれてい る‑ 。 これ らの関係の領域 においては,人 はみずか ら それを欲す るな らば,その本国の法律 に したが うことがで きる。また,人 は, なん ら公序 に関 しない これ らの事実に関 しては,その行為をその本国法の定め るところと異なる他の法律 によ らしめることもで きる

これ らの規則 は当事者の沈黙を補充す るにす ぎない ものである。当事者 はま た外国法の定める規定 にもよることがで きる。 この場合 には,国際私法 は, き わめて しば しば当事者の意思を補充 し,時 として これを推定す るにとどまるの である。

しか らば,外国人に対 して,何故,その本国法のかかる私権部分 に服す る権 能を認めなければな らないのか。その理 由は,外国人 について も,それが無害 に してかつ国家 としてその行使を妨げるべ きなん らの利益を有 しない限 り,そ の 自由を尊重 しなければな らないか らである

8)。」

MANCINI

は,当事者 自治の原則が イタ リア民法典のために

1865

年立法委 員会 によって作成 された前加編第 9条第 3項

9)

に法文化 されているとし,吹 の コメ ン トを残 している

「同様 に,《契約》および 《すべての生前行為〉 について も,イタ リアの立 法者 は外国人の 自由を尊重 し,契約者 に債務の内部的実質 とその効力を選択 し た立法的規定によ らしめる全権を与えている。

これについて契約者が沈黙をまもっている場合にのみ,当事者の意思 は 《 契 約がなされた国の法律》 に したが うことにあったと推定 され,また契約者がす

8)MANCINI

,同上

p.389

;早田 ・同上

84

貢。

9

)本項については,

Ⅱ(2)

参照。

(5)

イタリア国際私法における当事者自治の原則( 1 )

267

ベて同一の国に属す るときは,反対に,当事者 はその本国の法律に服する意思 を有 した ものと法律上推定 され る

10)。」

このように,

MANCINI

は当事者 自治の原則 に絶対的価値を付与 したので あるが,彼以降の論者 は,概 して,本原則に対 して制限を加える傾向にあると 言われ る

11)0

(2) 1865

年法改正の経緯

契約債務の準拠法について,イタ リア国際私法は

2

つの規定を設 けていた。

一つは

, 1865

年法第

9

条であ り, もう一つは商法典

(1882)

58

条である。

1865

年法第

9

条はその第

3

項で次のように規定 していた。

「 その他の債務 ( 贈与および終意処分以外の一 筆者注)の 《 実質および効力》

は行為地の法律によるものとみなされる。また,契約者たる外国人が同一の国籍 に属するときは,その本国法によるものとみなされ る。いかなる場合にも,当事 者 が文書 によ りこれ と異 な る意思を明 らか に した ときは,その意思 に した

12)。」

本条 は,契約債務の準拠法 として,

3

つの法すなわち行為地法,本国法 とな らんで当事者が指定 した法を規定 していたのである。

ところが, これに対 して,商法典第

58

条が,商事債務の準拠法 として行為地 法および本国法を認めているにす ぎなかったことか ら両規定の関係をどのよう

に解すべ きか という困難な問題が生 じた

13)。

商法典の廃止,現行法の制定 は, この問題を解決することを も目的としていたのである

14)

0

1931

年 にイタ リア政府が公表 した改正草案 は,契約債務の準拠法 について, 第

13

条で次のように規定 していた。

10)MANCINI

,前掲注

5)p.394

;早田 ・前掲注

5)93

頁。

ll)MANCINI

以 降 の学説 の展 開 につ いて は,

VITTA

,

DIRITTO INTER‑

NAZIONALEPRIVATOⅢ (1975)p.234ss. 12)

早田 ・前掲注

5)90

頁訳 による。

13)

この問題 に関 しては,さしあた り

DE NOVA,Obbligazioni(dirittointer‑

nazionaleprivato),Enc.dir.XXIX (1979)p.456

S.参照。

14)DE NOVA

,同上

p.456.

(6)

268

商 学 討 究 第

44

巻 第

1・2

「 契約二因ル債権ハ嘗事者 ノ選揮 シタル法律二依ル

富事者 ノ意思力明示セラレサル場合ニ‑契約 ノ約款並二凡テノ状況 ヨリ嘗事 者力暗黙二依ラン トシタル法律 ヲ適用ス

契約 ノ成立二必要ナル要件‑契約締結地法二依 リテ之 ヲ定ム

15)

改正草案 も,契約債務の準拠法 について,

1865

年法 と同 じように,当事者 自治の原則を採用 している。 しか し,本草案 は,当事者の意思が不分明な場合 の準拠法如何については,

1865

年法 とは著 しい差異を示 している

。1865

年 は,

この場合,推定意思主義をとり,当事者の意思を推定 して,行為地法または本 国法を適用すべ きもの としている。 これに対 して,本草案は,絶対意思主義を とり,あ くまで当事者の意思を探究 して準拠法を決定すべきものとしている

では,本草案において,なぜ このような規定が設 けられたのであろうか。 こ の点 につ き草案理 由書 は,次のように述べている。「 債務 に関す る問題 は,内 容的には,現行法

(1865

年法 一 筆者注)によって既 に規制 されてお り, この ことは通説 も認めているところである。最近の立法 も, この分野において当事 者 自治の原則を尊重 している。すなわち,私法上の契約関係が問題 とされるの であり,当事者 は,自分たちが望ま しいと考えるように契約関係を規律するこ とができるのである。公序による制限は,当然のことである

それゆえ,その ことを明 らかにするために,形式を変更する必要がある。

当事者が契約のなかでいずれかの国の規定 に準拠す ることを明示的に表示す ることもありえよう

この場合 には,疑問は全 く存在 しない。 とい うのは,明 示的意思が問題 とされてお り,当事者 自治の原則がただちに適用 されねばな ら ないか らである

さらに,当事者の意思が明示的には表示 されな くとも,諸規 定の全体か ら明 らかとなることもありえよう。 この場合には黙示的意思が問題 とされるのであ り,かか る意思が立証 された場合には,明示的意思 と同 じ効力 を有すべきものなのである。さらに,次のような場合 もありえよう

すなわち, 当事者が何 ら意思表示 しなか ったとはいえ,ある行為がなされた事情,契約の

15)

この訳 は斎藤武生 「 伊 園新 国際私法草案」法学論叢第

28

巻第

4

号 ( 昭和

7

年)

166

亘以下によっている。

(7)

イタリア国際私法における当事者 自治の原則( 1 )

269

性質,契約 目的物の所在地,当事者の相互関係等か ら,当事者が特定国法に準 拠する意思を有 していたと合理的に推定 される場合である。 この場合には,推 定的意思が問題 とされるのであり,かか る意思 も効力を有すべ きである。

例えば,当事者の意思は以下の如 く推定 され るべきである。市または公開市 場で締結 される契約にあっては契約地法,請負契約にあっては契約履行地法, 無償契約 にあっては給付提供者国法,生命保険契約 または損害保険契約 にあっ ては保険会社の所在地法による等 と推定 される。

若干名の委員 は,い くっかの外国立法例にな らい,法律に若干のケースを例 示的に規定す る方が適当であろうとの見解であったが,大多数 は一般規定を設 けるにとどめた方がよいとの考えであった。ケースごとに検討 されるべき状況 が問題 とされるわけであ り,ち ょっとした事情の違いによって類似のケースと

は異なる解決が もた らされることもあ りうるので,裁判官に完全な自由を与え る方が適当であろう

さらに,若干名の委員 は,明示的意思,黙示的意思,推定的意思のいずれ も 認定することがで きない場合には,法律が準拠法を決定する方が適当であろう との意見を表明 した。例えば,当事者の共通本国法,共通住所地法,契約地法 である。 しか し多 くの委員 は異なる意見であった。その理由は,採用 された条 文が適用範囲のきわめて広いものであるので,当事者が少な くとも推定上準拠

した法律を,裁判官がつねに決定 しうるというにある

16)。」

改正草案 は,次 に,契約の成立要件 について

‑ 1865

年法が この点 に関 し特 に規定を置いていなか ったのとは異な り一 第 2項で特別な規定に置いている。

本項 によれば,契約の成立要件 は契約締結地法によることとなる。

本草案に, このような規定を設 けた理 由を,草案理由書は次のように述べて いる。

「 契約の存在 自体について争いが生 じた場合には,当事者の意思に基づいて 準拠法を決定することはできない。 とい うのは,その存在 自体が検討の対象 と

16)VITTA,前掲注11)p.548.

(8)

270

商 学 討 究 第

44

巻 第

1 ・2

なっているか らである。 この場合には,準拠法を決定 しなければな らない。契 約締結地法が適当と思われた。副次的に,当事者が同一国籍を有す る場合 に, 共通本国法を指定することも可能であったであろうが,きわめてまれなケースで あろうと思われたので,立法規定を単純化する方が適当であると考えられた

17)。」

1931

年草案 は,活発な議論の対象 とな った。本草案 には賛否両論存在 して いたが

18)

,反対論者 は,特 に契約の有効性およびその内容を別個の準拠法に よ らしめる点 に批判を向けていた。かか る議論を踏 まえて,イタ リア政府 は

1936

年 に最終草案を発表 した。契約債務 の準拠法 につ いて,本草案第

18

条第

1 項は,次のとお り規定 していた。

「( 債権 ノ依ルヘキ法律)

契約二因ル債権‑嘗事者 力同国人ナル トキ‑其 ノ本図法二依 り然ラサル トキ

‑契約地 ノ法律二依ル但 シ何 レノ場合二於テモ苫事者 ノ意思之二反 スル トキ‑

此 ノ限二在ラス

19)

本項 は

,1931

年草案第

13

条第

1

項第 2 項 とは大 き く異 な り

,1865

年法第

9

条第

2

項 とほぼ同 じ内容 とな っている。その理 由を,Guardas

igilli

は,辛 案理由書のなかで次のように記 している。「 王立委員会が作成 した第

13

条の規 定 は,特定立法に準拠す る契約当事者の具体的意思を認定す ることはいずれに せよ可能であると考えて,当事者 自治の原則のみを承認 していた。

当事者が明示的または黙示的に自らの意思を表示 した場合 には,本原則の適 切 さについて全 く疑問は存 しない。 しか し,‑ たとえ黙示的 とはいえ 一 意思 表示が欠 けている場合 に,推定的意思を探究す ることは,結局,当事者に多少 とも懇意的に不存在の意思を押 しっけることを意味す るように私には思われ た。かかる場合には,意思の探究は全 く不 自然なものであろう。 というのは, 実務上,当事者がまさに締結 しようとする契約の準拠法に関す る問題を検討す

17)

同上。

18)

かかる議論については

,VITTA

,同上

p.231S.

参照。

19)

この訳 は粛藤武生 「 伊太利国際私法確定草案」法学論叢第

37

巻第

2

号 ( 昭和

12

年)

146

貢以下によっている。

(9)

イタ リア国際私法 におけ る当事者 自治 の原則( 1 )

271

ることはまれであるか らである。

それゆえ,若干の人 々の見解に従 って,当事者の異なる意思が明 らかでない 場合 に適用すべ き法律を決定す る方が適当であると,私には思われた。必要で あったので,私 は,現行法第

9

条 によって定め られている原則を援用 した。そ して,( 第1 8 条で)当事者の共通本国法,共通本国法が存在 しない場合 には契約 締結地法が適用 され るべ きことを規定 した。新条文 は,契約の効力のみな らず その有効性 の要件 に も関係 している。但 し,‑ もちろん‑ 第

9

条 によって規 律 され る能力および第

18

条 によって規律 される方式 は除外 され ることになる。

本条第 1項が修正 されたので,絶対意思主義が惹起 しうる困難を回避す るた めに,一度採用 した第 1項の規定を私 は削除 した 却

)。」

現行法 は,その第25 条において,契約債務の準拠法につ き次の如 く規定す る 至 った。

「 第25 条 ( 債務関係を規律す る法律)

契約か ら生 じた債務関係 は,それが共通である場合 は,契約者の本国法によ り,そ うでない場合 にはその契約が締結 された場所 の法律 によ って規律 され る。そのすべての場合 において当事者の これ と異 なる意思を妨 げない2 1 )。」

現 行 法 第

25

条 第

1

項 は, 最 終 草 案 第

18

条 第

1

項 と全 く同 じで あ る。

Guardasigilli

は,立法理 由書 のなかで,第

25

条 につ いて次のよ うに述べて いる。「同様 に,契約債務の準拠法決定にあた り,当事者の異 なる意思が明示 的な もので も黙示的な もので もよいとい うことを第25 条 に明示 しよ うとす る提 案は,承認 されなか った。かか る明示 は不要であるように思われ る。一般原則 によれば,法律が意思表示 について特定の方式を定めていない場合 には,いか なる方式 も認 め られ ると考えるべ きである。他方, ここで要求 された明示を付 加す ることにす ると,解釈上の疑義を避 けるため,意思表示を指示す る全ての 場合 に,類似の明示が不可欠 とされよう

しか し,立法規定上 よ り明 らか とす

20)VITTA

,同上

p.556.

2 1 ) この訳 は,風間鶴寿訳 『 全訳イタ リア民法典 〔 追補版

』(昭和

52 年) 5貢によっ

ている。

(10)

272 44巻 第 1・2

るために,「当事者の これ と異なる意思を妨 げない」を独立 した一文 とす るこ とに留意 した.その理 由は, この一文に含 まれる規則が第

25

条第 1項に規定 さ れているすべてのケースに関係 していることを示すためであった2 2 ).」

1865

年法第

9

条 は,以上 のよ うな経過をたどって改正 され,現行法第25 条 にとって代わ られたのである。

現行法上の諸問題

( 1) 3 連結点の相互関係

現行法第

25

条第

1

項は,契約債務の準拠法を決定す るために,

3

つの連結点 すなわち当事者の共通国籍,契約締結地 な らびに当事者の意思を採用 してい る。 これ ら3 連結点の相互関係について,学説 ・判例は対立 している。 この う ち,共通国籍 と契約締結地 との関係 については,争 いは存 しない。本規定の文 言か ら明 らかなように, この両者のなかでは共通国籍が主たる基準であ り,契 約締結地が従たる基準であるとされ る。

これに対 して, これ ら

2

つの連結点 と当事者の意思 との関係については,学 説 ・ 判 例は対立 している。

第 1説は,当事者の意思が主たる基準であ り,共通国籍,契約締結地 は従た る基準 にす ぎないとする2 3 )。例えば,MONACO教授 は,第25 条第

1

項の沿 革 2 4 )および当事者の意思が連結点であることか ら, この説を根拠づけている。

しか し第

1

説 に対 しては有力な異説が対立 している。 この第

2

説 は,共通国

22)VITTA

,同上

p.558S.

23)BALLALINO,DIRITTO INTERNAZIONALE PRIVATO (1982) p.

853ss.1,MONACO,L'EFFICACIA DELLA LEGGE NELLO SPAZIO (DIRITTO INTERNAZIONALE PRIVATO)(1954)p.234S.;MOREL LI,ELEMENTIDIDIRITTO INTERNAZIONALE PRIVATO ITAL IANO (1986)p.163.

24)

この点については,

Ⅱ(2)

参照。

25)BALLADORE PALLIERI,L'AUTONOMIA DEICONTRAENTI NEL ]⊃IRITTO INTERNAZIONALE PRIVATO,DI18(1963),p.178 ss.;Id.DirittolnternazionalePrivatoltaliano (1974)p.323ss.;VEN‑

TURINI,DIRITTOINTERNAZIONALE PRIVATO (1956)p.120ss.

(11)

イタリア国際私法における当事者 自治の原則( 1 )

273

籍,契約締結地が主たる基準であ り,当事者の意思は従 たる基準 にす ぎない と す る

25) 0

この説を主張す る

BALLADORE PALLIERI

教授 は,

2

つの論拠を挙 げ ている2 6 )O まず第 1に,教授 は,当事者の意思が連結点であ ることを否定 し て,次のように言 う。第25 条 は,準拠法を直接 に指示す る

2

つの連結点 一 共 通国籍および契約締結地 ‑ の他 に,第

3

の基準 一 当事者 の意忠 一 を も定 め ているが, この基準 は実 は連結点で はない。法律が,準拠法決定を放棄 し一 当事者が 自らの契約 に適切な連結点を決定す ることがで きるよ う一 彼 らの意 思 に委付 したのである。それゆえ立法者が直接定めた

2

つの連結点が主たる基 準であることは当然である, と

BALLADORE PALLIERI

教授 は,第 2に,次のように論 じている

25

条第

1

項がまず第 1に共通本国法,第

2

に契約締結地法,第

3

に当事者の意 思を掲 げていることに加 えて,第

1

項の文言 (

占salva‑・・ ・‑・

を妨 げな い)は,立法者が任意規定を設 けるために通常使用す る文言であることか ら, 本項 は任意規定 に他な らないと考え られ る。 この任意規定 というのは,特定の 問題 について例外を許容す る規定である

本項で言えば,かかる例外 に該当す るのは,共通本国法または契約締結地法以外の法によるとの当事者の意思が存 在す る場合であることになるとされる。

ところで,第25 条第

1

項が採用 している

3

連結点がそれぞれ相異なるケース を対象 としていることか ら,相互 に独立 しているとの説 も最近有力に提唱され ている2 7 )。 この説 を支持す る

VITTA

教授 は次の よ うに述べて いる2 8

) 。

25

条の

3

つの連結点 は

3

つの異なるケースを対象 としている。換言すれば,共 通本国法 は同一国籍を有す る当事者が準拠法 につ き意思表示を しなか ったケー スを,契約締結地法 は異なる国籍を有す る当事者が意思表示を しなか ったケI

26)BALLADORE PALLIERI

,

L'AUTONOMIA‑pp.153, 178;Id

,

Diritto・‑‑pp.245,252.

27)UDINA,OBBLIGAZIONI(DIRITTO INTERNAZIONAIJE PRIV

A

I TO),Noviss.Dig.it.,Ⅹ(1955)p.617.

28)VITTA

,前掲注

11)pp.243,252.

(12)

274

商 学 討 究 第

44

巻 第

1 ・2

スを,当事者が指定 した法 は当事者の国籍 ・契約締結地の如何を問わず,当事 者が準拠法につ き意思表示を したケースをそれぞれ対象 している。それゆえ,

3

者の相互関係を検討 して も,実際的重要性 は少ない, と。

25

条 に定め られている

3

連結点の相互関係 に言及 している判例 は必ず しも 多 くはない。破穀院は,当初共通国籍および契約締結地が主 たる基準であると す る説を支持す るかのようであ った。例えば

1948

6

28

日判決第

758

番 2 9 )に おいて,破穀院は,異 なる国籍を有す る当事者間で外国で締結 された契約 に関 して,契約当事者 は契約締結地法以外の法を指定す る権限を有す ると判示 し た。同様 に

1957

9

12

日判決第

3474

番 3 0 )で破穀院 は,第

25

条 に定 め られて いる規則 は任意的性質を有す るにす ぎず,当事者の異なる意思によって有効 に 変更 され うると判示 している。

しか し,破穀院 はその後態度を改め るに至 ったよ うに思われ る

。 1968

8

3

日判決第

2795

31

)において,破穀院は次のよ うに判示 してい る

契約債 務の準拠法決定の連結点 として第

25

条 によって採用 されている国籍 は,当事者 が 自らの関係を異なる規律 に服せ しめる意思を表示 した場合 には,重要でない

とみなされ るべ きである, と。

本判決の評価をめ ぐっては,学説の対立がみ られ る

。CARBONE

教授 は, 本判決が当事者の意思を主たる基準 とし,他

2

者が従たる基準 とす るとの考え を とっていると主張 してい る3 2 )。 これ に対 して,

VITTA

教授 は,本判決が 最近提唱 された説 に類似す る考えを とっていると主張 している

33) 。

下級審判例においては,当事者の意思が主 たる基準であって,共通国籍,契 約締結地 は従 た る基準 にす ぎない とす る第 1説 を とる ものが多 い よ うで あ

29)Cass.28giugno1946,a.758(VITTA

,同上

p.244

による) .

30)Cass.12settembre1957,n.3474

,

RDI1958,p.25

1 .

31)Cass.3agosto1968,n.2795,R])IPR1969,p.777.

32)CARBONE

,

L'AUTONOMIA PRIVATA NEL DIRITTO INTER‑

NAZIONALE PRIVATO DELLE OBBLIGAZIONI

,

Dir.comunit.e scambiinternaz.21(1982)p.17.

33)VITTA

,前掲注

11)p.244.

34)

下級審判例の概観として,

VITTA

,同上

p.245

S.参照。

(13)

イ タ リア国際私法 にお け る当事者 自治 の原 則( 1 )

275

る3 4 )0

ところで これまで検討 してきた

3

連結点の相互関係 という問題 は,実際には 重要性を有 しないであろ う

35) 。

とい うの は,第 2説 を とると して も,当事者 の意思が表示 された場合 にはいずれにせよ第

25

条が定める

2

つの一般的連結点 に優先す ることになるか らである。さ らに,立証責任 について も,第 1 説を と るか第

2

説を とるかで,その転換がなされ るとは思われない。意思表示がなさ れたことを主張する者が,その立証責任を負担 しなければな らないか らである。

(2)

契約 ( 債務)の渉外性

25

条第

1

項の当事者 自治の原則に関す る第

2

の問題 は,契約 ( 債務)の渉 外性 に関す る問題である。換言すれば,当事者 自治の原則が適用 され,当事者 が契約準拠法を指定す ることがで きるのは,国際契約の場合 に限定 され るの か,それ とも国内契約の場合を も包含す るのか という問題である。

少数説 は,当事者 自治の原則が適用 され るのは,国際契約の場合に限 らない と主張 している。その根拠 は本原則を採用す る第

25

条第 1項が 一 海上労働契 約の準拠法 に関す る航行法典第

9

条 3 6 )とは異な り‑ その文言上何 ら制限を加 えていないことにある3 7

) 。

しか し多数説 は,当事者 自治の原則 は国際契約にのみ適用 され るものである と主張 している認)。その理 由は次のように要約 されよう3 9 )。 もしイタ リア法 上契約 当事者が国内契約をいずれかの外国法 に服せ しめ ることがで きるな ら

35)

2

説 を とる

BALLADORE PALLIERI

教授 も以下 に述べ る理 由で この問 題 の実 際的重要性 を否定 して い る。前掲注

25)L'AUTONOMIA

‑p.178;

Diritto

‑・

‑p.324.

36)

航行法典第

9

条 は次のよ うに規定 している。「 海員 ・内水航行の乗組員および搭 乗員に関す る労働契約 は,船舶 または航空機の旗国法 によって規律 され る。但 し船 舶 または航空機が外国籍である場合 には,当事者の異 なる意思を妨 げない。 」

37)MORELLI

,前掲注

23)p.62S.

38)DENOVA

,前 掲 注 13)

p.463;Id. QUANDO UN CONTRATTO 丘

《INTERNAZIONALE》?RDIPP1978,p.665ss.;BALLARINO

,前掲注

23)p.862S.;CARBONE

,前掲注

32)p.20S.;MENGOZZI,Dirittolnter‑

nazionalePrivatoltaliano(1987)p.153ss

39)

特 に

DE NOVA

教授の

2

論文参照

。QUAND0

‑‑・

,p.666ss.;Obbligazioni

‑‑・

,p.463.

(14)

276

商 学 討 究 第

44

巻 第

1・2

ば,イタ リア法上強行法規性を有 Lかつ名宛人によって変更 されえない もの と されている契約 に関す る法律規定が,同様の性質 ・内容を有す る法律規定を含 まない外国法を契約準拠法 として当事者が指定す ることによって,潜脱 され る

ことになって しまう

このような結果を避 けるためには,契約がイタ リアの契約 ( イタ リアとのみ 関連性を有す る契約)である場合 には,当事者 による外国法指定 は認め られな いと考えるべ きことになる。 さらに,イタ リア国際私法上,法廷地法 も外国法 も平等 に取 り扱われていることか ら,契約がいわば フランスの契約, ドイツの 契約であると言える場合 にも,外国法指定 は認め られないと考え るべ きことに

なる。

それでは,国際契約 とは何であろ うか。 どのよ うな要素が存在す る場合 に, 契約 に渉外性が備わ っていると言え るのであろうか。

国際契約概念を詳細 に検討 している

DENOVA

教授 は次のよ うに論 じてい る4 0 )。国際私法 に関す る成文法を有 しない諸国においては,実際的考慮すな わち経済的 ・商業的考慮に基づいて国際契約概念を決定す ることもできよ う

フラ ンスでは判例が国際的支払概念を これ らの考慮 に基づ きつつ

adhoc

に定 義 し金約款 の有効性 を肯定 している

41

)。 また ドイツにおいて も実際的考慮 に 基づいて国際契約概念を決定すべ きことを主張す る論者が存在 している。

これに対 して,国際私法に関す る成文法を有す るわが国において は,国際契 約概念を経済的 ・商業的考慮 に基づいて決定す るのではな く,わが国の実定国 際私法の検討か ら導 き出さなければな らない。

契約 に渉外性を付与 しうる要素は,まず現行法の契約に関連す る諸規定か ら 得 られ る。契約債務の準拠法 に関す る第25 条第

1

項 は,

3

つの要素すなわち国 籍,契約締結地,当事者の意思を定 めている。 この うち,当事者の意思を契約

40)DENOVA

,同上

QUAND0‑‑,p.665ss.;Obbligazioni‑‑p.463S.

4

1 ) これ らの フ ラ ンス判 例 につ いて簡単 に は,拙 稿 「 国 際取 引法 にお け る

Lex Mercatoria

の理論(

1)‑ Bonel

l氏の所説を対象 と して ‑ 」商学討究第38 巻第

1

号 ( 昭和

63年)131

頁,参照。

(15)

イタ リア国際私法 におけ る当事者 自治 の原則( 1 )

277

の渉外性決定の要素であるとす ると,循環論 に陥 って しまうことになる。

2

人 のイタ リア人がイタ リアで外国法を準拠法 として指定せず に契約を締結 した と す ると, この契約 は国内契約であることになるが,

2

人のイタ リア人がイタ リ アで外国法を準拠法 として指定 した契約を締結 したとすれば, この契約 は国際 契約であることにな って しまう

すなわち,契約の渉外性 ・外国法指定の正当 性が,当事者が外国法を準拠法 として指定 したか否か とい う事実 によ らしめ ら れることにな って しまう

しか し当事者の意思によって契約の渉外性を決定 さ せ ることは,当事者 による内国強行法の潜脱を容認す ることにな るので,妥当 でない。それゆえ当事者の意思をかか る要素の一つであるとみなす ことはで き ない

42) 。

25

条第

1

項で採用 されている他の

2

つの要素すなわち国籍および契約締結 地 は,契約の渉外性決定の要素であると考え られ る。それゆえ以下の契約 は国 際契約であることになる。外国でイタ リア人間に締結 された契約,イタ リアで 外国人問に締結 された契約,イタ リアでイタ リア人 ・外国人間に締結 された契 約,同様 に A 国で非 A 国人問に締結 された契約, A 国以外で A 国人間に締結 さ れた契約, A 国で A 国人 ・非 A 国人間に締結 された契約。 これ らの契約 は,当 事者 による準拠法指定が可能である。

ところで,現行法第

29

条 は,無国籍者の場合には本国法に代えて居所地法が 適用 され ると定めている。 この ことか ら以下のよ うに結論づけ られよう。イタ リアに居所を有す る無国籍者同士が締結す る契約 は,国内契約であるが,その 他の無国籍者が締結す るすべての契約 は国際契約である。 さ らに現行法が無国 籍者 についてだけであるとは言え,居所を も連結点 としていることか ら,契約 の渉外性決定 にあた って居所地法 によ り大 きな重要性 を付与 しえよ う

そ こ で,契約当事者たるイタ リア人がイタ リア国外 に居所を有す ることも契約 に渉

42)

イタ リアが締約国 となっている以下の条約 において も,当事者の意思 は契約に渉 外性を付与す る要素た りえないことが明示 されている。 「国際的物品売買契約の準 拠法 に関す る条 約

(1985)

」第

1

条 第

1

,

「 契 約債 務 の準拠法 に関す る条約

(1980)

」第 1条第

1

項。

(16)

278 商 学 討 究 第44巻 第 1 ・2

外性を付与 させ るし,逆に契約が国内契約であるためには,イタ リアでイタ リ アに居所を有す る者 ( イタ リア国籍を有する者か無国籍者)が締結 した契約で なければな らないことになる。居所 という要素が実際上重要であることおよび 国際契約概念をあまり限定すべ きでないことか ら, この要素を渉外性決定の一 要素 とす ることは正当であろうとされ る。

さらに,契約 に関連す る第

17

条 ( 人の能力を規律す る法律),第

26

条 ( 行為 の方式を規律す る法律)の規定を考慮 して も,契約 に渉外性を付与 しうる要素 は,結局のところ契約当事者の国籍,契約当事者 ( 無国籍者)の居所および契 約締結地の 3 つの要素であるにす ぎない。

その実際的重要性 および国際契約概念をあま り限定すべ きではないことか ら,考慮 されるべ き要素が他 にも存在 している。かか る要素は契約に関連す る 規定以外の規定か ら導 き出され る。第

22

条 は物権の準拠法 としての 目的物の所 在地法を定めている。また本条 は動産 ・不動産を対象 とす る契約につき履行地 法を重視 している4 3 )。 したが って 目的物の所在地および履行地 も契約渉外性 決定の一要素 とされよう

ところで,

DENOVA

教授 によれば, これ らの要素の他 にも考慮すべ き要 素がある

それは,立法者が他の要素を優先す るために現行法上採用 しなか っ

た要素である‑ 4 4 )。具体的 には, まず第

1

に住所

(domicilio)

であ り,次 に 履行地である。住所 は,国籍の原則が国際私法上の基本原則の一つであるとの

MANCINI

学説の影響ゆえに立法上採用されなかった。また,履行地法 も, 現行法上契約締結地法が優先 されたため,履行の態様を規律すべ き役割を付与

されるにとどまっている

住所および履行地を も契約渉外性の決定にあたって考慮すべ き根拠 は次の通

43)DE NOVA

教授によれば,履行地法がかかる要素であることは,す ぐ次 に述べ る理由によって も正当化 されると言 う。

44)

これに対 し

VITTA

教授 はかか る要素を も契約渉外性判断の一要素 とす ること

に疑問を呈 している

VITTA

,

Memorialeeprogettodilegge,inPROBLB MI DI RIFORMA DEI. DIRITTO INTERNAZIONALE PRIVATO ITALIANO (1986)p.255nota (256).

(17)

イタ リア国際私法 におけ る当事者 自治 の原則( 1 )

279

りである。 ここで検討 しているのは,契約に渉外性を付与す る要素を決定す る ことであって,立法者が採用 した要素を探究す ることではない。それゆえ立法 者が特に採用 しなか った要素 も, ここで検討 している問題を解決するために役 立ちうるのである, と。

DENOVA

教授 は,結論 として,イタ リア法上国際契約概念決定 にあたっ て考慮すべ き要素 は, 以下の通 りであるとす る。すなわち契約締結地, 履行地, 国籍,住所,契約の目的物の所在地である。 この うち一つの要素で も外国に関 係 していれば契約 に渉外性が付与 されることになる。

しか し, この結論 は,

DENOVA

教授 自身 も認めているように,必ず しも 満足できるものではない。契約締結地は偶然決 まったということもあれば,逆

に契約に渉外性を備えさせ るために決定 されることもありえよう

また,国籍 は契約関係の成立 にあたって重要性を全 く有 しないこともある

さらに他の要 素 も必ず しも妥 当であるとは言えない。そこで,

DENOVA

教授 は,一般論 にとどめ,国際契約概念 ・国内契約概念を今後の判例の展開にゆだねた方がよ いとしている。

これに対 して,

CARBONE

教授は,契約の渉外性 は準拠法指定が有効であ るための形式的要件にす ぎず, この他にその実質的要件を も考察 しなければな らないと主張す る4 5 )。同教授 によれば,かか る実質的要件 は準拠法指定が善 意でなされたことにあるとされ る。

DENOVA

教授 も準拠法指定の有効性を 判断す るためには,契約の渉外性以外の問題を も検討す る必要性があることを 指摘 している。そ こで,次にかかる問題 について検討 しよう

( 3) 当事者 自治の原則に対す る制限

それでは,契約当事者 による準拠法指定が有効であるためには,契約の渉外 性以外の要件を も充足す ることが必要なのであろうか。契約当事者はいかなる 国の法を も準拠法 として指定で きるのであろうか,それとも当該契約 と何 らか の関連性のある国の法のなかか らしか準拠法を指定す ることができるにす ぎな

45)CARBONE,前掲注32)p.21S.

(18)

280

商 学 討 究 第

44

巻 第

1・2

いのであろうか。 この問題 は既 に検討 した問題すなわち当事者 は契約 に外国的 要素が存在 しない場合に も準拠法を指定す ることがで きるか とい う問題 と類似 している。後者のケースにおいては,当事者が法廷地法の適用を回避す ること がで きるか否かが問題 とされ るとも言え るのに対 し,前者 のケースにおいて

は,当事者が契約 と関連性を有す る国の法の適用を回避す ることがで きるか否 かが問題 とされ るとも言えるか らである

47)

0

多数説 は一 契約が渉外性を備えている限 り一 当事者 は

かなる国の法を も 準拠法 として指定で きるとしている。ところで, 契約 の渉外性を不要 として も, 当事者 は契約 と何 らかの関連性のある法 しか準拠法 として指定す ることがで き

るにす ぎない との説 を とるな らば,多数説 と実質 的 に同一 の結論 に達 し

う 48)0

BALLADOREPALLIERI

教授 はかか る立場を とっている

同教授 によ れば,当事者がいかなる法を も指定で きるとす ると,不 当な結果を もた らす こ とになる。イタ リア国際私法上,イタ リア法の適用範囲 と外国法のそれ との間 に差異 はな く,全体 として一つの規定が設 け られているにす ぎない。第

25

条の 規定 は,すべての契約すなわちイタ リア法によって規律 され る契約に も外国法 によって規律 され る契約 にも適用 される。第

25

条が適用 されない契約 は存在 し ない。イタ リアでイタ リアに居住す るイタ リア人間にイタ リアで履行 さるべ き 契約が締結 された場合 に も,この契約 は第

25

条 によって規律 され ることになる。

イタ リア法‑の服従 は契約がイタ リアでイタ リア人の間に締結 された ことか ら 導 き出され る。 もし当事者が契約を全 く関連性のない法 に‑ 無制限かつ例外 な しに一 服せ しめ ることがで きるとす るな らば,イタ リア法 と関連性 を有す るにす ぎない契約 にあって も,当事者 は外国法を指定 しうるとの結論を引き出 す必要があろう

この ことは不当である。

46)DE NOVA,前掲注13)p.465.

47) LUCA RADICATI DI BROZOLO, OPERAZIONI BANCARIE INTERNAZIONALIE CONFLITTIDILEGGE (1984)p.99nota(46). 48)DE NOVA,前掲注13)p.465.

(19)

イタリア国際私法における当事者 自治の原則( 1 )

281

これに対 して,かか る場合 に外国法の指定 は無効であるとす ると, この結論 は以下の論法 によって正当化 されよ う

すなわち,問題の契約 はイタ リア法以 外の法 とは関連性を有 していないこと,当事者 は契約 と何 らかの関連性を有す る法 しか指定で きないこと, したが ってかか る場合 にはこの前提が欠 けている すなわち契約 と複数の法 との関連性が欠 けているので,当事者の意思 はいかに して も表示 されえない ことである。 しか し, このよ うに言 うと,異なる複数の 法 との関連性が存在す る場合で も,当事者の指定 は関連性のある法のなかか ら

しかで きない と言 うことにな らざるを得ない。かか る結論 は,外国の学説 ・判 例において も多 くの支持を得ているところであるが,わが破穀院によって否定

されたが,イタ リア法上 も承認 さるべ きよ うに思われる, と

49) 。

BALLADOREPALLIERI

教授 は, 自説 を根拠づ けるためさ らに次のよ うに論 じている

契約の法的効力が生ず るためには当該契約を規律す る法が必 要である。当事者が私法上享受す る自治 は,準拠法指定権限 と全 く関連性を有 しない。 もしある国の国際私法が当事者 にかか る権限を付与 していて も, この ことが意味す るのは当該国際私法が契約 に関する一般規範を設けることをあき らめ,一 当事者が契約 とよ り関連 している法 をよ りよ く決定す ることがで き ると期待 して ‑ ケースバ イケースに当事者の定め るところにまかせたのであ る。 これ らの ことを前提 とす るな らば,当事者 自治 は窓意的かつ気 ま ぐれな行 使にあたる場合 には認め られないと考えざるをえない。複数の法 と関連性を有 す る契約 に関 しては,ある法を優先す る当事者による選択 には異議を唱え るこ

とはで きない。 とい うのは, イタ リア国際私法規範が この問題を彼 らの意思 に ゆだねているか らである。

これに対 し, フランスに居住 しているフラ ンス人 とイタ リアに居住 している イタ リア人が ミラノで履行地をスイスとす る契約を締結 した場合に,た とえ当 事者が トルコ法を準拠法 として合意 した として も,彼 らの意思は考慮 されえな

い。

49)BALLADORE PALLIERI,前掲注25)L'AUTONOMIA‑p.174S.;

Diritt0‑‑p.318S.

(20)

282

商 学 討 究 第

44

巻 第

1・2

国際私法上の問題を解決す るために,当事者の意思 に効力が付与 されている のである。国際私法上の問題 とい うのは,準拠法を決定す ることである。準拠 法を決定す ることは,当該の関係 に何 らかの関連性のある法のなかか ら最 も適 切な法を決定す ることである

当事者 は,かかる関連性のある法のなかか ら契 約 に適切な法を決定す ることがで きるにす ぎない。かか る制限の範囲内で当事 者の意思に決定がゆだね られているのである。その範囲外では,当事者の意思

は機能せず,あたか も表示 されなか ったかの如 くである5 0

) o

BALLADOREPALl.IERI

教授の説 は,まず第

1

に契約の渉外性の問題 を も当事者 自治の原則 に対す る制限一般の問題 に包含 させて検討 していること に特色が存す る。教授の説 は,さ らに一 既 に述べたよ うに一 当事者の意思が 連結点であることを否定す る点 に も特色が存す る。

しか し,多数説 は,契約 当事者 はい

なる法を もー た とえその法 と契約 と の間に関連性がな くとも‑ 準拠法 として指定で きるとす る

51

)。

下級審判例のなかには,当事者が指定で きるのは当該契約 と何 らかの関連性 のある法に限定 され るとす るもの もある5 2 ). しか しこれに対 して,破穀院 は,

1960

12

2

日判決第

3173

番で,次のよ うに判示 し,間接 的に このよ うな説 を否定する。「 当事者の意思 という連結点が国際私法規定で定め られている他の客 観的連結点の存在す る場合にのみ機能 しうる ( ・ ‑‑) とす ることは,解釈者 に は認 め られて いない付加 的要件 を 当該規定 ( 航行法典第

10

条,現行法第

25

条 一筆者注) に加重す ることになる 5 2 )。」

契約当事者が契約 と何 らかの関連性を有す る国の法 しか選択す ることがで き

50)Id,L'AUTONOMIA‑‑p.173S.;Diritt0‑‑・p.318S.

5

1

)DE NOVA

,前掲注

13)p.466;CARBONE

,前掲注

32)p.22S.MORE工.LI,

前掲注

23)p.62ss.

もっとも,

MORELLI

氏 は一 既 に指摘 したよ うに一 契約 の 渉外性の要件を も不要 としている。 この他契約の渉外性の問題を特 に検討 していな いが,渉外性の必要性を当然の前提 とした上で契約 と当事者が指定 した法 との関連 性 を否 定 して い る と思 わ れ る論 者 と して,

VITTA

,前 掲 注

11)p.261ss.;

MONACO

,前掲注

23)p.2320

5

1 )下級審判例の概観 については,

VITTA

,同上

p.264

参照。

52)Cass.,2dicembre1960,n.3173

,

Giust.civ.,1961 i p.643.

参照

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