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物質科学研究における分光法の実際

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物質科学研究における分光法の実際

山 本   宏 ・ 吉 沢    (1986年11月5日受理)

ぱ じ め に

 広い意味での光(マイクロ波からX線まで)を用いた機器分析法が進歩し,ごく微量の試料から迅速 に種々のスペクトルが得られる。物質科学における研究方法は,一つの実験操作が終ると取り扱った物 質のスペクトルを複数種類得て,それらを解析して実験結果を吟味し次の実験に進むことの繰り返しで ある。そこでいかに有効なスペクトルを多数短時間に得ることができるかが研究を進める大きなポイン トとなる。スペクトルを得る個々の分光法の専門書は多数出版されているが,初歩的な問題を説明した ものは以外に少ないのが実情である。

 本報告は,これから卒業研究に取り掛かろうとする学生諸君が取り扱う機器について知る手始めとし て,また卒業研究も半ばまで進んだ者が常法として利用している機器以外にさらに実験を進める上で有 用となる機器を考える参考として,各スペクトル法を簡潔にまとめたものである。ここでは主として,

「何がわかるか,どんな試料なら測定できるか」を記した。スペクトルから何がわかるかは,著者らが 取り扱っている物質の例で説明し,詳細な内容については参考書を紹介するにとどめた。今回まとめた のは,マイクロ波を用いる核磁気共鳴スペクトル法,赤外線を用いる赤外吸収スペクトル法,可視光か ら紫外線を用いる可視紫外吸収スペクトル法と原子吸光分析法,X線を用いるX線結晶解析法,そして 電子流を用いる電子顕微鏡と質量分析法である。

型.核磁気共鳴スペクトル法

 原子核は核スピンという重要な特性により,磁場の中に置かれると異なったエネルギー準位に配向す るものがある。このようなものとして水素,フッ素,リンの普通の同位体,1H・19F・31Pや,炭素・

窒素の少ないほうの同位体王3C(天然存在比 1.1%),15N(天然存在比 O. 37 %)がある。これら核種を 磁気中で二つのエネルギー準位に分布させておき,そこにエネルギー準位差に相当する周波数の電磁波 を照射すると吸収がおこる。このエネルギー吸収を検知し磁場の強さとともに記録計で描かせたのが,

NMRスペクトルである。磁場の中におかれても炭素・酸素・ケイ素・硫黄の普通の同位体12C・ユ6 0

28ri・32SはNMR的性質を示さないし,ハwゲン原子や2H・11Bは有用なスペクトルを与えない。 iH N MRスペクトルについて,吸収がおこる周波数は,同じHでも周囲の化学的環境によって微妙に変化す る。(磁場14100ガウスでは60MHz,磁場23500ガウスなら100 MHz)。これは核の周辺にある電子や隣 接核による小磁場が主磁場を遮閉してその強度を増減するからである。こうしておこる共鳴周波数のず れをケミカルシフトといいスペクトルの横軸となる。テトラメチルシラン(TMS.Me4Si)のメチル基 を基準として右端におき,この値からのシフト差を10 6単位(ppm)で表す。 T M Sから3ppm反遮閉 された位置(低磁場シフト)に吸収がある時 δ= 3.0という。一般に有機化合物はδ ・一 O.5〜15の範囲

(2)

に吸収を持つ,NMRスペクトルから読みとれるのは,ケミカルシフト,スピンーースピン結合,積分値 の3つである。ケミカルシフトから化合物の各水素の結合形式がわかる。すなわち図1において,A・

B・C・Dのシグナルはメチル,メチレン,メチンの領域に出ている。E・F・Gは酸素や窒素の電気 陰性度の大きい原子に結合した炭素の水素,または二重結合の炭素に結合した水素の領域に出てくる。

       そしてHは芳香族環の水素領域に出て        いることがわかる。スピーンスピン結        合はシグナルの分裂としてあらわれ,

       各水素の位置関係がわかる。近くの水        素と水素はスピンの相互作用をしめす        :隣接する炭素に結合した水素は互い        に相手のシグナルを分裂させる。分裂        の間隔はスピン結合定数(」)といい,

       Hzで示す(100MH zで測定すると        1ppmはIOO Hz,60 MHzで測定する        と 1ppmは60Hz)。 B。Cのシグナ        ルは3つの等価な水素に相互作用をす

A

 C幽\2㍉ CB

㌔㌔二爾一一噛.、㌔.一一〇

H     H

GF

E        D

       る水素がないので一回線(singlet)に,

  8 6 4 2 pprn O

  図1.アリ_ルアミノトリオキサンのNMRスペクトル     A・E・F・Gは隣の原子に相互作用       (chlo「ofo「m 一d)  をする水素が1個あるので二重線(dou−

blet)になっている。 EとFはともに同じJ値(分裂幅)であり,隣り合って結合し相互作用している 部分であることがわかる。積分値は図の左下から右上に行く階段線で求め,各シグナルの水素の(相対 的)数がわかる。シグナルBをメチル基3水素分とすると,H:G+F:E:D+C:B:A:7:2:1

:、4:3:6水素であることがわかる。1HNMRで何がわかるか。既知物質のスペクトルと比較して,

化合物の同定,確認ができる。分子構造全体が推定できる。混合物の定量分析ができる。その他,低温 での反応中間体の測定など,他の手段では得がたい情報が得られる。試料は30〜40mgをα4 m1のNM

R溶媒に溶かし,5㎜×180mmのパイレックス試料管で浸回する。 NMR鱒としては,四塩化炭素 や重水素化溶媒のクロmホルムー一・d,メタノールーd4,重水などが用いられる。天然存在比1.1%と少 ない13CのNMRのスペクトルは積算型のFT−NMRで測定し,炭素骨格の情報が得られる。参考書

:柿沢 寛,  J・R・Dyer有機化合物の吸収スペクトルの応用, 東京化学同人(1968);竹内・友田,

Wehli and Wirthlin C−13NMRスペクトルの解釈, 広川書店(1980)。スペクトル集:C. J.

Pouchert and J・R・Campbell, The Aidrich Library of NMR Spectra, Vol・1−4,

Aldrich Chem・Co・(1975)o

2.赤外吸収スペクトル法

 各原子がスプリングで結ばれた分子模型を考えると理解しやすい。原子と原子の結合距離や結合角は,

かたく固定されずばねでむすばれているように振動している。分子に赤外線を照射すると,この振動エ ネルギーに合ったとき,分子の振動は共鳴し光を吸収する。赤外吸収スペクトル(lRスペクトル)は,

縦軸を透過率(T%)横軸を波数(crゴ1)であらわし,下にさがった先端の波数を吸収として読み取る。

(3)

 i

 I

 8 o

静1  t

2]O

 i A

r

覧B

3eoo 2000 1500 1000 Cm−1   図2.アリールアミノトリオキサンのIRスペクトル(KBr)

わかる。IRスペクトルで何がわかるか。 1.データ集の(または測定して得た)ある物質のスペクト ルと比較して全ての吸収が一致すれば,二つは同じ物質であると確認ができる。2.どのような多重結 合や官能基があるか,部分構造がわかる。試料は,1回の測定に10−20mg必要で,赤外線が透過する 0.02〜0.05mmの薄膜となる必要がある。液膜法:液体試料1〜2滴を2枚のNaCl板(赤外線領域で 吸収がない)にはさみ液膜を作り測定する。流動パラフィン法:個体試料は小さな乳鉢で細かくすりつ ぶし,流動パラフィンを!滴加えよく練り液状の試料としてNaC1板に臨み測定する。 KBr法1流動パ

ラフィン法だとパラフィンのC−H結合に由来する吸収が3カ所に出てこれが邪魔になるときは,個体 試料とKBrの微粉末を混合プレスして透明な錠剤を作り心する。最近1mg以下の微量な試料でもスペ クトルの得られる,積算型の機種(FT−IR)も普及しだしている。参考書1申西香爾,  赤外線吸 収スペクトル(定性と演習), 南江堂(1966);荒木・益子, R.M。Silverstei捻有機化合物のスペ

クトルによる同定法(第2版), 東京化学同人(1969)。スペクトル集C.」・Pouchert,喝くThe Aldri−

chLibrary of lnfrared Spec℃ra ,Aldrich Chemical Co.,lnc.(1970);日本赤外デー タ委員会, IRDカード ,南江堂(1977)。

(図2)吸収は,単結合,二重結合,

三重結合と結合のばねが強くなるほ ど高波数(高エネルギー)側に,質 量の大きい原子が結合しているほど 低波数側に現れる。種々の結合の吸 収位置は詳しく調べられていて,例

えば図2のAはN−Hの,BはC−O の,Cは(ほかに3000 cm iより高 波数側に弱い吸収,1600〜1450 cm−2 の吸収もあることから)芳香族環の

1一ナフタレンの吸収であることが

3.可視紫外吸収スペクトル法

 物質による可視紫外線の吸収は,その分子の基底状態にある電子が光エネルギーを吸収して励起状態 に遷移することによって起こる。可視紫外吸収スペクトルは,縦軸が吸光度横軸が波長(nm)で,200

一 800 nmの波長領域に吸収の山となって現れる。極大吸収波長( λmax)は分子構造により変化する

:飽和化合物く200nm,不飽和化合物エチレン(C・・一 C)190 nm,共役ジエン(C ・・ C−C ・一 C)220 nm,ベンゼン化合物205−270㎜と255−309㎜,カルボニル化合物(C・==・O)280−290nm,そし て 共役ケトン(C=C−C−0)230nmなどである。試料はほんの小量でよく,1・on×1・cm×5・enの石 英セルに濃度10『 mo 1/1程度のエタノール溶液4m1があればよい。溶媒,容器に遠紫外にしか吸収 のないエタノールと石英を用いるので,使用できる波長領域は200 nmより長い波長となる。そこで対象 となるのは,共役化合物・芳香族 化合物にしぼられる。UVスペクトルで何がわかるか。 1。吸光 度は物質の濃度と比例し,精度のよい定性分析ができる。 2.吸収の位置,強度,形から部分構造が わかる。広い波長領域をカバーするため光源には次の2種類を必要な波長に応じ切り換えて使用する

(重水素ランプ190〜400nm,タングステンランプ350〜1000 nm)。光源からの光は回折格子によって

(4)

O.8

O,2

膨◇拷

fc,;t・tl.L.) M,

250 300 (nm) 350

 図3 アi] 一ルアミノトリオキサンのUVスペクトル      (2.33 ×10−5 mol/1, ethanol)

tral Data and Physical Constant$,  Vol

分光され単色光となる。この光がそのまま試料溶 液のセルを透過するシングルビーム方式と,セク ター鏡で時間的に二分され,溶液のセルと溶媒の セルを交互に透過するダブルビーム方式とがある。

前方式は特定波長の吸収を測定した定量分析をす るのに適し,後方式はスペクトルをレコーダーに 出力できる。2波長分光光度計では半透明試料の 測定,ショルダーピークを明瞭にとらえる微分ス ペクトルの測定ができる。参考書:大倉・財津・

山口・tt吸光光度法有機編, 共立出版(1984)。

スペクトル集:Grasselli, Atlas of Spec−

1−Vl, CRC Press (1975).

4.原子吸光法

 横に長いバーナー(5 mm × 10 cm)を用いてアセチレンー空気の板を立てたようなフv一ムを得る。

ここに試料溶液を噴霧し続け原子蒸気をつくる。このフレームに分析する元素の励起波長の光を透過さ せると,原子蒸気中の原子の数に応じて吸光が起こる。Cuなら324.8 nm, Naなら589.0 nmと1つの 元素に対して1つの陰極ランプを光源として用意する。吸光度から試料濃度を求め,分析値の求め方に は検量線法と標準添加法がある。前法には数種類の濃度の標準試料溶液を用いて検量線を作成するし,

後法は数個の分析試料溶液に標準溶液を添加して,標準物質が異なった濃度として含まれる溶液系から 検量線を作成する。試料はすべて溶液(水溶液,有機溶液いずれも可)にする必要があり,測定溶液量 は濃度ppm〜ppbオーダーのものを数ml程度である。原子吸光分析で何ができるか。試料中の特定元素 の定性と定量ができ,感度が高い。他元素の影響が少ない。前処理を必要としないなどの優れた点があ る。参考書:鈴木・武内・田村・不破・武者, 原子吸光分析の実際, 南江堂(1973);鈴木正巳, 子吸光分析法, 共立出版(1984)。

5. X線結晶解析        

 X線は光と同じく電磁波で,波長領域がIOO 一〇.IAのものをいう。光が回折格子によって回折される と同じようにX線も結晶格子によって回折をおこす。この様な回折現象を利用することによって原子レ ベルでの構造解明が可能である。X線回折法の利用の中で単結晶の方位解析に用いるラウエ法と粉末法 の応用であるデフラクトメーター法を記述する。

 通常X線源として封入タイプのクーりッジ管球を用いる。管電圧によって白色X線と対陰極(陽極)

の物質に特有な特性X線が発生する。ラウエ法では前者を,デフラクトメーター法では後者を用いる。

一般的に白色X線にはW対陰極を,また特性X一三としてはFe,Co,Ni,Cu, Mo,Ag等が用いられる。

      このうちCuのK:ce、は波長が1.54054 Aである。

 Braggは波長λのX線が面間隔, dをもつ結晶に入射角θで入射するとき,λ, d,θの問に nλ一2dsinθなる式を満たすとき回折現象が起こることを示した。ここでnは反射の次数で正の整数。

(5)

θを測定し,dを知ることができれば結晶構造が判る。また, dの既知の試料を用いてθを測定しλを 求めることもできる。これは蛍光X線分析法となる。

 ラウエ法:背面反射法と透過法がある。前者はX線の透過が困難な厚い試料により,また後者はX線 が透過可能な薄片,例えば雲母,薄膜単結晶に好適,結晶の配向が知れる。図4はMo単結晶の表面を 軽くエメリーで研磨した試料の背面反射ラウエ写真の例で3回対称性がひと目でわかる。また多少回折 環状になっているのは研磨によって表面層にできたMoの多結晶による。単結晶を用いた結晶解析には 回転結晶法,ワイゼンベルグ法,コッセル法などがあるが詳しくは参考書を参照のこと。

 X線デフラクトメ一難ー: この装置の詳細は下記の文献を参照。デフラクトメーターはデバイ・シ ェラーカメラで撮影されるフィルム面上の回折線強度と回折角をX線検出器で直接観測するものである。

試料は粉末状にしてA1製の試料ホルダー又はガラス製のものにしっかりつめこんで落ちないように充て んする。粉末状の試料はできれば熱処理して歪を取ることが大切である。 この装置を用いてTic粉末 を測定した例を図5に示す。横軸の角度を読み取り,既出のブラックの式に代入して各回折指数に対応 した面間隔dを求める。これからもし格子定数aを求めるときは文献により,a, dおよびhklの 関係式を知り計算により算出する。aから物質名を知るにはデータ・ファイルが有効である。特にASTM 社からのX−ray Diffraction Date Fileは非常に便利である。 dの測定値は高角回折ほど精度 が高いのでaを求めるときはsin2θ一aの関係をプロットし,θ ・gooへの外そう値を取るとよい。な お,単結晶解析用デフラクトメーターもある。

 参考書lW. L.Bragg(永宮健夫訳), 結晶学概論, 岩波書店(1957)。 B.D. Ctillity(松村源 太郎訳),  X線回折要論, アグネ(昭和53年)。仁田勇監修, ・X線結晶学(上,下), 丸善(昭和34,

36年)。A. Guinier(高良和武外訳), X線結晶学の理論と実際, 理学電機図書(1960年)。高良和 武,妙句怪志, ・X線回折技術, 東大出版会(1984)。JCPDS,く《Powder Diffraction File,

IRorganic, Sets 1−5 Nt23 一 24,  JCPDS (U・ S・A, 1974−1983). R・W・G・Wyckoff,  tCrysyal Structure,   lnterscience Publishers, New Vork (1963)o

23

   0   2

→︵の氏Q図︶ nU   O

︾﹂﹂ωZωトZ閥

TiC powder

200 220

311 420

 222 400 331, 422 511

IX 4. MO単結晶によるラウエ斑点

50

80 110 140

20 (degree)一一一〉

図5.Tic粉末試料のデフラクトメーターによる回折記録

(6)

6.電子顕微鏡

 光学顕微鏡の分解能,即ち2点として識別できる距離は光源として用いる光の波長λに比例し開口数 に反比例する。一方,de Broglieは電子線の波長がλ ・一 h/bで与えられることを示した。電子線を 加速する電圧をVとするとλm(V/1501/2と近似でき,Vを変えることによって波長を選べる。例えば,

       む100 kVのとき非相対性理論ではλは約0.038 Aとなり,相対論効果を入れるこれより2.5%短くなる。ま た,電子線は磁場または電場によって曲げられることから光学レンズと同じ電子レンズを作ることが可 能で,光源として電子線を用いれば上の原理から分解能を光学顕微鏡より高めることが出来る。この考 えに基づいてRuskaは1931年初めて電子顕微鏡の製作に成功した。

 現在電子顕微鏡は種々の機能を持ったものが作製されている。代表的なものは透過型電子顕微鏡

(ConventioRal transm・ission electron microscope:TEMまたはCTEM)と走査型電子顕微 鏡(ScanniRg electron microscope:SEM)である。他に分析電顕として,エネルギー分散や,

X線マイクnアナライザー的要素を備えたものも開発されている。またMUller型イオン顕微鏡や,最 近BinnigとRohrer等によって電子の量子効果を利用した走査型トンネル電子顕微鏡などが開発され

た。

 以下では透過電子顕微鏡(TEM)を用いた金属薄膜研究への応用例についてのべる。その他の利用法 については参考書を見られたい。TEMを用いて金属薄膜の結晶学的な解析を行うにあたって観察される 像と制限視野回折(Selected Area Diffractio;ii:SAD)像とは不可分の関係にある。後者の解 析法はX線や中性子回折などと基本的原理は同じであるが波の種類と波長がことなる。電子線の場合,

       む物質との相互作用が他の二つと比較して桁違いに大きく,そのため薄い試料でもよい。電子線は1000Aを 越えると回析パターンは明確でなくなる。それ故,適用薄切は薄膜と個体表面に限られる。100 kV,T EM

       む       

ではAuやAgなどについては700 A以下, A 1で1000 A以下が望ましい。 S ADパターンの解析には カメラ定数がいる。既出(5)の回折条件式2dsinθ一λで試料とフイルム間距離しが大きく回折角θ が非常に小さいので,回折環の半径rとの間にd・r == L・λ の関係が成立する。これより物質の面間 隔がわかれば未知の物質をASTM Data file,既出(5)により知ることができる。

 像の解釈にあたっては以下のことを考慮して考える必要がある。試料に入射した電子線は透過波と弾 性散乱波,非弾性散乱波とに分けられる。弾性波は試料が結晶性の場合干渉性弾性散乱波,即ちブラッ

ク回折波となる。一方,試料が非結晶質の場合非弾性散乱波となりバックグランドとして強度に寄与す る。金属のような結晶性のものはブラック回折波となるので,像の解釈は薄い試料では弾性散乱理論,

厚い試料では多重散乱理論によらねばならない。これによって結晶中の格子欠陥,析出物等の性質が決 定される事に注意すること。このことは特にHirschの本に詳しい。

 参考書:P.】3.Hirsch et aL,(幸田成幸,諸住正太郎他訳), 透過電子顕微鏡, コロナ社(昭 和49年)。安達公一他5名, 電子顕微鏡利用の基礎, 共立出版(昭和50年)。 上田良二,  電子顕微 鏡, 共立出版(昭和57年)。D.B。H:01t et a1.,t{ QuaRtitative Scanning Electron Micros−

copy, Academinic Press(1974)。 S.Amelinckex et al., t Diffraction and Imaging Techniques in Material Science,Voし1&2, North−Holland Publishing Co.(1978)Q

(7)

7.質量分析法

 高真空のもとで,加熱気化した試料分子に電子流をあてると,分子中の電子1個がたたき出されて分        十  一 一  ・ 十

子のカチオンラジカルMo;分子イオン)が生じる。 Meはさらに開列してフラグメントイオンと呼ばれ るいくつかのイオンとなる。これらのイオンは磁場で質量(m)と電荷(e)の比(m/も)の大きさの順に 分離し,記録される。マススペクトルの横軸m/eの一番大きいピーク(m/e 一= 301)が分子イオンで,

他はフラグメントイオン,図中に書きこんだような分子の部分構造となるイオンである。マススペクト ルで何がわかるか。分子イオンのm/eから,試料の分子量が決定できる。同条件で測定したスペクト ルを比較し,化合物の同定ができる。フラグメントイオン今の開裂から分子構造が推定できる。同位体 存在比の多いCl,Br(35 Cl:37c1−75.5:24.5,79Br:8iBr ・ 50・5:49.5)は,イオンピークが特長 ある型になり,原子数がわかる。試料は約O.1mgの微量で測定できる。試料の導入には,プローグの先 に試料をつけて直接イオン室に導く方法(直接導入), リザーバーと呼ばれる加熱ガスだめから導く方

100

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154 ユアユへ む

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19P7 Hs一一ii)

  論 213

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301

     loo 200 3eo 4eo

      m/e

 図6.アリールアミノトリオキサンのマススペクトル(直接導入)

メトリー入門,

人(1978)。スペクトル集:S・R・H:eller Data Base, Vol・1−4, U・S・Department of amsson, aRd FeW・McLafferty,  Registry of Wiley 一1nterscience (1974).

講談社(1981);上野民夫, McLaf{erty

      aRd G・WeA・Milne, ttEPA/N IH

       Commerce (1978) ; E・Stenhagen, S・Abrah−

       Mass Spectral Data,  Vol・ 1 一4,

法,ガスクロマトグラフィーのカラムで混 合物を分離しながら導く方法がある。試料 のイオン化には,電子イオン化法(EI法)

の他に,メタン等のガスから生じるイオン が試料に反応する化学イオン化法(CI法)

などがある。二重収束型という,磁場だけ でなく電場でも収束させる,精度の高い装 置では,質量が1/1000(ミリマス)単位ま で測定できる。したがって各イオンの組成 が決定でき,分子イオンの組成から分子式 を知ることになる。

 参考書:中田尚男, く総出マスベクトル  マススペクトルの解釈と演習, 化学同       Mass Spectral

お わ り に

 たった1つのスペクトルだけで実験結果を議論できるのはまれで,多くのスペクトルどれについても 矛盾のない結果を導かなければならない。1つのスペクトルが欠けたために結論が得られないこともあ り,試料を持ち込むだけで希望するデータが得られる,機器を備えた分析センターの設置が理想の研究 環境である。しかし当大学は予算不足人手不足からそこまで至らず,教官個人またはグループが機器を 保守・管理し,希望者の試料を測定している。このため簡単に利用できないこともあるが,相互に利用 しあい,さらに使いやすい環境づくりが進められている。なお,この報告には文部省特定研究(昭和61 年度,代表者 茨城大学 徳永正之)の経費を使用した。

参照

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