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雑誌名 奈良教育大学紀要. 人文・社会科学

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(1)

奈良教育大学学術リポジトリNEAR

音楽と情緒との照応関係の分析的研究(?)−GSRと Plethysmogramを指標とした場合−

著者 今井 靖親, 奥 忍

雑誌名 奈良教育大学紀要. 人文・社会科学

巻 20

号 1

ページ 215‑231

発行年 1971‑10‑30

その他のタイトル AN ANALYTIC STUDY ON THE CORRESPONDING

RELATIONSHIP BETWEEN MUSIC AND EMOTION (?)

URL http://hdl.handle.net/10105/2893

(2)

音楽と情緒との照応関係の分析的研究(丑)

‑GSR と Plethysmogramを指標とした場合‑

今 井 靖 親・奥     忍

(心理学教室) (音 楽 教 室)

215

感情とか情緒を直接的・客観的にとらえることは困難である。しかし、これと表裏一体の関係 をもっている生理的反応を測定し、それを指標とするならば、客観的測定をおこなうことは必ず しも不可能ではない。特に最近では、物理学、化学、工学等のすぐれた成果をとり入れ、生理的 な反応を定量的に処理した実験的研究が各方面でみられるようになった。

音楽とさまざまな生理的反応との関係についても、古くから幾つかの分析的研究がおこなわれ ている。たとえば、 Ellisと Brighous (1952)は、曲によって呼吸や脈樺の受ける影響が異るの ではないかと考え、 Hallのブルーインタバル、 Lisztの‑ンガリヤ狂詩曲2番、 Debussyの牧神 の午後への前奏曲の3曲を36人の大学生に聞かせて、呼吸や脈樽の変化を調べた。その結果、心 持数の変化はほとんどみられなかったが、呼吸数には変化がみられること、それも曲の種類によ って影響が異ることを兄い出した。

Henkin(1955)は、その実験的な研究において、メロディ因子およびリズム因子とGSR(皮 膚電流反射)がどのような対応を示すかを検討し、リズムに対してはGS Rが時間とともに増 大し、メロディに対しては減少する、という結論を導いている。これに対し、今井と増田(1970) は、 GSRはリズム因子、メロディ因子に関係なく、時間的経過に従って減少する傾向のあるこ とを指摘し、さらに、音楽の要素である mou, dynamics, orchestrationとGSRとの問には、

一定の照応関係があることを兄い出している。

Fraisse ら(1953)は、心理学専攻生を被験者として、音楽聴取中における左右の手足の筋電 図を記録した。結果として、自然な感度で音楽を2度くり返して聞かせた時、筋電図の反応は、

1回めより2回めのほうが増加すること、また反応は右手が一番多く、左足が一番少ないことな どを報告している。

Frances(1958)は、音楽作品の内容と脳波バク‑ンの関係を分析し、作品の中のテーマの呈示 部と再現部でα抑制がみられたと述べている。このα波の抑制については、単に刺激あるいは 刺激問の情報に対して起るのではなく、たとえば、 2つのテーマ問のコントラストのような情報 の情報、または長い展開の後のテーマの再現のような、純粋に時間的な情報に対してなされると いう点が注目される。

岩野と児玉(1969)は、音楽聴取中のmicrovibrationの変化を検討した。彼らによると、音 楽愛好者の場合、音楽によってαの出現率の減少とβの増加が認められ、特にディオニソス的 音楽において、この傾向が強いという。

以上のほか、プレティスモグラム(容積脈波)も情動反応と密接な関係のあることが知られて

いるが、音楽の分析に用いた例は見あたらない。

(3)

216 と情緒との照応関係の分析的研究en) (今井・奥)

そこで、本研究では、 1. GS Rおよびプレティスモグラムを生理的な指標とした場合、音楽 と情緒との問に、いかなる照応関係がみられるか 2.情緒の変化に影響を与えている音楽の要 素は何かを分析的にとらえることを試みた。

方    法

装置および記録方法  音楽を録音したテープレコーダー(SONY TC‑355)とステレオ (VICTOR SSL45T)とを連動させ、被験者はヘッドフォン(VICTOR STH‑1000)によっ てステレオから音楽を聞けるようにした。プレティスモグラムとGSRの測定は、TKK万能 記録装置を用いて同時におこない、ペン書きオッシログラフで記録した。プレティスモグラムは 被験者の左手第2指より誘導した。記録時のcalibrationは、 5mm/mV、時定数は3.0、紙記録 は0.4cm/sec.である。 GSRは、通電法により、右手第2、第4指先より誘導した。 (時定数 は1.5)

被験者  本実験の対象とした被験者は女子学生(20‑21歳) 10名である。

実験に用いた音楽とその周波数分析  曲はDebussyの前奏曲第2集「花火」を選んだ。こ れはー パリ祭の花火のようすが数々のpassageによって華々しく描かれている曲であって、オ ーケストラ曲に比べると、音楽の要素に分解して検討しやすいこと、曲が3分半という短いもの でありながら、その間に多数の変化があること、以上の理由から本実験に使用した.レコードは Angel AB‑8109.ピアノ演奏Walter Gieseking.この曲をテ‑プに録音した後、日本光電製脳波 測定計に接続したFQE製作の周波数分析機FA‑101を用いて20チャンネルに分析記録をおこ

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手続き  被験者を実験室のいすに着席させ、次のような教示を与えた。 「これからヘッドフ ォンを頭につけて、ある音楽を聞いてもらいます。聞いている問の心理的・生理的な変化を記録 するため、これ(コードつきの電極を示す)を指につけます。初めは機械を調節したり、気持ち

の安定をはかる必要があるので、 3分間静かに待ってください。途中から音楽が聞こえてきて、

約3分間で終わります。実験はそれだけです。」以上のほか、被験者にプレティスモグラムおよ びGSRの電極を装着後、なるべく手は動かさずに、いすにゆったりと腰かけ、終始開眼して いるように注意を与えた。最後に‑ッドフォンをつけ、実験を開始した。

結果の整理  プレティスモグラムは、原野(1961b)の測定法に従い、各被験者とも1秒毎 に挿動波の振幅を求め、おのおのの安静時における数値を基準として、変動時の数値を百分率で 表わした GSRについては、 1秒毎に各被験者の反応出現状況を調べ、出現した人数を百分率 で表示した。この場合、記録紙上ペンの振れ幅が2m以上を反応ありとした。なお、音楽の周波 数分析の結果は、各秒毎に、脈披および、 GSRの変動曲線と比較検討された。それらは、すべ て音楽のphraseにしたがって、 AからSまでの19箇所に区分された。

結果およ び考察

1.プレティスモグラムとGSRの変動傾向

安静時におけるプレティスモグラムの振幅変動は一般に小さいが、音楽が刺激として呈示され

ると、その刺激の質や量に応じて、振幅は急激にあるいは緩徐に増減する。 (図1参照)このよ

(4)

音楽と情緒との照応関係の分析的研究(n) (今井・奥) 217

うな変化を1秒毎の平均振幅変動率でとらえ、それを折れ線グラフで示したものが図2である。

図1音楽聴取中のプレテイスモグラムとGSRの変動例

図2で平均振幅が10%以上減少または増加した箇所について、その部分の音楽の特徴と全被験 者のプレティスモグラム振幅増減傾向を調べてみたところ、表1のような結果が得られた。表1 から、音楽的刺激の性質によっては、これに対する被験者の情緒反応には、かなり新著な共通し た傾向のあることが認められる。

図2および表1には、音楽聴取中のGSR出現率30%以上のものだけを示したが、 GSRの 場合にも、音楽的刺激の性質によって、各被験者問にかなり共通した反応傾向がみられる。な お、本実験により、同じ音楽刺激に対して、プレティスモグラムの振幅減少と GSR の生起と が同時的に出現する場合のあることが確かめられたが、両者は常に対応しているわけではない。

以下、もう少し詳細に、音楽の特徴と GSRおよびプレテイスモグラムの変動傾向との関係 を検討してみよう。

2.音楽と GSR

前回の実験において、われわれは次の場合にGSRの増大が兄いだされることを確認した。

a.新しいmotifの出現 b. dynamicsの増大 c. orchestrationの拡大

今回の実験曲はピアノ曲であるから上記C.を除き、 a. b.について、前回と同様の結果が得ら れるかどうかを検討した。

(1)新しいmotif (passag‑e)の出現とGSR

「花火」は、冒頭から、めまぐるしい、急速なpassageの連続である。それらのpassageは、

theme(語例1参照)と themeの間をつなぎ、またthemeが奏されているときには、 themeを

縫ってかけめぐる。時には華々しく爆発し、時にはbackground となる。それらはほとんどの

場合32分音符以下の音符であり、 glissandoのこともある。 theme をつなぐepisode の部分に

は、これら passageの他に、 8分音符以上の音符が優勢の部分はQのみである。いま、 Qを含

めて、各部分の冒頭に、それ以前にはなかった音型の出てくる箇所を抜き出してみると、 Aィ、

(5)

218 拳畳と情緒との頗応関係の分析的研究en) (今井・奥)

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図2 音楽聴取中におけるプレテイスモグラムとGSRの傾向

D、 E。、 F、 I、 J、K、 L、M、 N、 0、 P、Q、R、Sの16箇所である。 (その他の部分は、

既にそれ以前のphrase中に出ている。)このうち、 GSRの反応が見られたのは、 Aィ、 E。、

譜例 1

F、 I、 M、 0、 Sの7箇所(全体の約44510である。ここで、上述の16箇所の新しい音型には、

実際に刺激的である場合と、音楽的には変化はしていても、何らかの意味で刺激が少ない場合の

(6)

音楽と情緒との照応関係の分析的研究en) (今井・奥)

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219

両方が含まれていることを考慮せねばならない。音楽的な刺激の中で、最も感覚的に強い刺激と しては、音量と音域が考えられるが、 「花火」ではどうであろうか。この曲では、 D、 R、 Sを 除いて音域は広く、ピアノの片端の鍵盤から、もう一方の鍵盤へ、瞬時に移ることを一つの特徴 としている。したがって、この曲では、音域自身が麗接的な刺激になるのではなく、その音域の 奏され方、即ちdynamicsが関係していると思われるO そこで、反応のあった箇所と無かった箇

所を比較してみた。

反応あり  Aィ‑・PP、 Eィ‑f、 F=・f、 I・・・/.、 M‑f∠仔、 0日pp subito S‑・♪ク.

反応なし  D‑/>/>、 1‑p♪、 K・‑PP、 L・‑♪p、 N‑・pp、 P‑・f、 Q・‑jf、

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以上から、 Aィは曲の最初であることを考慮して除外すれば、音楽の音の強さと、その時の

(7)

220 音楽と情緒との照応関係の分析的研究en) c今井・奥)

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GSR出現状況との関係が、 Nを境いにして逆転していることがわかる。この曲のクライマッ クスは、 Quasi CadenzaのMであると考えられるが、クライマックスがおさまるNまでほ、例外 なく、 GSRの出現する時は了であり、出現しない時は♪♪なのである。音楽の聴取行動は、た だ単に聴覚的な刺激に直接反応するだけでなく、観念的な刺激であるtonebuildingへの反応も含 んでいると考えられる。それゆえ、クライマックス以政の、新しい音型に関する dynamicsの反 応が全く逆になる点については、構成のメカニズムとの関連からも検討を加える必要があろう。

次に、各フレーズの途中でGSRの出現するのは、 Aト、 Aル、 E。、 G、 K、Mへ P、 Qの 8箇所であるD これらの箇所で、音楽的に変化のないのはAト1箇所だけであり、他はすべて新

しい音型あるいは新しい音域が現われている所である。すなわち、音楽的な変化のある部分で GSRの出現を伴っているのは8箇所申7箇所であり、これはサイン検定で有意差が認められ

る (/> ‑.062)

(8)

音楽と情緒との願応関係の分析的研究(皿) (今井・奥)

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以上、 2点の考察から、新しいmotifの出現とGSRの関係について次のことが言える。

1.新しいmotifが出現しても、常に、必ずGSRの生起がみられるわけではないが、曲の 前半では、新しいmotifが∫で現われる場合は必ずGSRの生起がみられ、一方、クで現わ れた場合には、 GSRの生起がみられなかった。曲の後半では、この傾向が運になった。

2. GSRの生起が見られる部分では、新しいmotifが出現している0 (2) DynamicsとGSR

GSRの出現した箇所を、 dynamicsによって分類すると次のようになるC

① mf以上のところ‑・‑Eィ、 Eト、 F、G、H、 I、K、M、 P、 Q (計10)

⑧クであるがcresc.されるところ‑・‑C、 0 (計2)

③ pであるがmarqueあるいは演奏者がthemeを明確に奏しているところ・・‑‑A,L、G、

S (計3)

(9)

音楽と情緒との照応関係の分析的研究(IT) (今井・奥)

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音楽と情緒との照応関係の分析的研究(II) (全畢二塁2 223

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(11)

224 音楽と情緒との照応関係の分析的研究Cn) (今井・奥)

④ その他‑ ・Aィ、 Aト、 K、M(計4)

以上の分類のうち、 ①と②は明らかに音量の増大であり、刺激的であることは否めない。

⑧については、色や明るさの対比と同様に、音楽の場合にも対比現象が起りうることが考えられ る。すなわち、 marque される音が、客観的にはpの音であっても、まわりのpassageの音量 との対比において、心理的により大きく響くという現象がある。しかも、演奏法としては、演奏 者は、たとえ楽譜に卯と記されていても、ある音や旋律を目立たせるためには、かなりの音量

でその部分を演奏する、という事実を考え合わせる必要がある。図3に周波数分析をした「花火」

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図3 音楽の周波数分析

の一部が示されている。ここでは、 themeの奏されるGと、 Gのpassage とは、ほぼ同じ音域 (GはAsl‑d3、 EはC‑e2)で同じようにPで奏されるEヵであるo Gの方が音域が広いので、

2480Hzまで振幅が認められるが、一見して明らかなように、同じpと記されているにもかか

わらず、 Gの振幅がEのそれよりかなり大きいのである。そこは、 ♪と記されたtheme が奏さ

(12)

音楽と情緒との照応関係の分析的研究en) (今井・奥) 225

れる箇所であり、その振幅は∫の場合のそれにも匹敵するほどである。このことから、 dynamics を論じる時には、楽譜にどう記されているか、より、どう演奏されているかを調べねばならない

ことがわかる。 Aル、 SもGと同様に、楽譜に記された♪ではなく、かなりの音量で奏されてい るから、これらのことから上記(参もやはり dynamicsに関係ある刺激と考えることができる0

④については、まずAィは曲の始まりであり、それまでの沈黙の突如として破られる箇所であ るから、この反応は当然であると考えられ、特にdynamics との関連から考察する必要はないで あろう。 A。については第5小節にあたるところだが、 d3、 d4のスタッカ‑トが見受けられる。

このスタッカートは、すでに第3小節から始まっており、音量も、周波数分析のグラフにみられ る如く、 3、 4小節と変わらない。変わっているのは、d3、 d4という高音域である。冒頭から絶 え間なく続くflを基にした急速な波状のリズム、その上に3小節ではd2、 d3、第4小節ではas2、

as3、そして5小節ではd3、 d4のスタッカートが現われる。 5小節で何らかの刺激があるとすれ ば、音域以外にないように思われるが、 (1)で考察した限りでは、音域はあまり GSRに関係 しないと思われるので、この点は今後さらに検討する必要がある。 Kについては、表1に見られ る如く、 「花火」の中でJにひき続き最もおだやかな箇所である。 Clの上6オクターブにわたる 長三和音の4分音符、全音階の上昇グリッサンド(他の部分パッセ‑ジは多分に旋法的)、テーマ のリズムを踏襲してはいるが、長三和音からなる遠隔調平行和音は、 Kを他の激しいフレーズか

ら非常にユニ‑クなものにしている。したがって、 Kの場合のGSRはdynamicsに関係ある ものでもなく、 62小節は61小節のくり返しだから新しい motifによるものでもない。これら以 外に、何か他の要素が加わったものと見るべきであろう。 M木については、カデンツァの途中で あるが、ffの急上昇、この曲全体の中でただ‑度しか使用されない最高音f4でしばらく留まっ た後、f、 a、 CとC、 es、ges という2種のきらめくアルペジオが♪♪でくり返されるところであ

る。 ♪クであるが、それがかえって音楽を視覚的なものにしている。

以上4項についての考察から、 ①と⑧は音量の増加、③も同様と考えることができる。④のAィ については、曲の冒頭であるということで、反応は∫であれクであれ当然現われるから除外す るとすれば、反応のあった17箇所のうち、音量の増大する要素がないのは2箇所(KとM)であ る。サイン検定により、音量の増大とGSRの出現との間には有意に関係がある(P‑.06)

5.音楽とプレティスモグラム

図2および麦1から明らかなようにプレテイスモグラムとGSRは、反応が同じ箇所に現われ る場合もあれば、異った箇所に現われる場合もある。音楽の聴取という種々な要素が複雑にから み合った行動を分析するためには、多方面からの考察が必要であるが、ここではプレティスモグ ラムの振幅変動が音楽のどの要素と照応しているか、また、 GSRの反応との関連性はどうかな どを考察する。

(1) dynamicsと振幅減少

プレテイスモグラムの振幅が減少するのは、原野(1961b)によれば何らかの形で刺激が与え られた場合である。 GSRの場合は、その刺激がdynamicsであり、また新しいmotifである と考えられたが、プレティスモグラムはいかなる場合に、いかなる刺激によって振幅変動が生じ るのであろうか。

まず、プレティスモグラムの振幅が10%以上減少した11箇所のうち、∫または∬が4箇所(Fィ、

L.、、 Lト、 Qニ)、 cresc.が1箇所(C。)計5箇所であるから、 dynamicsが振幅減少の強力な要

素になっているとは考えられない。しかし、次節で述べる如く、プレティスモグラムの振幅が増

(13)

226 音楽と情緒との照応関係の分析的研究cm c今井・奥)

加する時にはpの傾向がみられることを考慮すれば、 dynamicsとの関係を全く無視することは できない。また、 GSRの場合に、・新しいmo山の出現がdynamicsの増大を伴っていたよう に、 dynamicsに他の要素が加味されると、プレティスモグラムの振幅に影響を及ぼすこともあ りうるであろう。

(2)初めての音型・効果と振幅減少

前記の11箇所における音楽の要素、響いている音の50%以上に共通する要素を兄い出すことは できないが、それらの箇所はいずれも「花火」の中で初めて現われる各種の変化である、という 点は見のがすことができない。またt ここではDarrow(1929)のsensory stimuliとideational stimuli の理論も考慮に入れる必要があろう。彼によれば、 sensory stimuliに対する反応は ideational stimuliのそれより早く生じ、旧に復するのも早いが、ideational stimuliへめ反応はよ

り長く継続し、旧に復するのも遅いという。 「花火」で抽出されたプレティスモグラムの変動を、

sensory stimuliとideational stimuliに帰することは困難であるOたとえ単一の音にせよ、種々の 音を聞かせてその反応を分析した研究はごく少数でしかなく、どのような音がsensory stimuli であり、 ideational stimuliであるかが、現在ではまだ明らかでないのだから、ましてそれらの 音がメロディとして、また‑‑モニーとしてリズム的にくみ合わされた場合、 1つの反応は sensory stimuliとideationali stimuliの統合されたものとして現われるだろうと推定され、ど

ちらかに一方的に分類するのはきわめて危険である。しかし、あえて関係づけるならば、 sensory stimuliはdynamicsや極度に高いあるいは低い音域と考えられ、 ideational stimuliは、楽曲構 成上の要因(themeの再現、 motifの展開等)やdolceの部分などにおける情緒的な要因の強 い場合と考えられる。以下、 11箇所の音楽的特徴とプレティスモグラムの傾向を追ってみる。

Aノ、‑‑‑ここは第2小節にあたる。曲が始まった直後であり、 GSRはすでにAィで反応が見ら れるが、プレテイスモグラムにおいては、 10%の反応を生ずるのに約2秒の潜時を要したと考え

られる。

Aニー‑.flを基にした波型の上に、初めてdl、 d2の鋭いスタッカートが奏される。波型は冒頭 から15小節まで一貫しており、 8回奏された後の突然のスタッカ‑トは、かなり異質に響くであ

・'*‑>' ‑) ‑,

C。=‑‑23秒間絶え間なく聞こえていた波型が、 59回めに初めて1オクターブ上昇する。また、

それまで続いていたppが初めてここのcresc.で破られる。 23秒間同じ状態が続いていただけ に、この変化は大きなものとして受けとられるだろう。

Cへ‑‑=24秒からの波型のcresc.を伴った上昇、 b3からBlへの′のglissando,少で長2度の スタッカート、冒頭からのめまぐるしい動きが突然とだえたような休符。 Cの部分は変化の激し いところであり、 A、 B、 C一連の部分のクライマックスともなっている。

Cへは時間的にはpのスタッカート、休符に相当しているが、それ以前の音の動きによって、

初めて♪や休符に緊迫感がもたらされるので、 cresc. glissandoのすべてに対する反応としてと らえられるのではないだろうか。また、生理的反応測定における潜時という現象を考慮すれば、

ここではまだ休符に対する反応は含まれていないと推察することもできるだろう。

Fィ‑‑E で中音域で奏された themeが、 3小節問とだえた後、急に∫で、Eより4度高く、

しかもoctaveで奏される。その間アクセントをつけられたGl (これまでの最低音)から flに

わたって、増4度の動きを主にしたpassageがうねっていくO 音域は4オクターブ半にまたが

り、中・高音域で奏されたEをさらに強調し、、敷街していると考えられる。この同じ場所で、

(14)

音楽と情緒と の分析的研究en) (今井・奥) 227 GSR も出現率100^を示しており、ショックの大きさを物語っている。

Fリ・‑・‑Fのthemeが終り、この曲の最高音f4まで昇ったpassageが∬からのmolto dim.

でめまぐるしく動きながら、徐々に降りてくるところである。Fリの前後Fチ、 Fヌでプレテイスモ グラムの振幅は10%以上の増加を示しており、この部分で被験者が音楽によってかなりの程度に ゆり動かされているのがわかる。

Jニ‑‑JばKとともに「花火」の中では最もおだやかなところである plus araiseと記さ れ, bassとpassageは4オクタ‑ブ半も離れてはいるものの、 sempre pp passageはスラーが

かかっており、その間を8分音符のmelodyが流れている。 JニはJの2小節めにあたるのだ が、前述のideational stimuliに相当する効果を与えていると考えられる。

Kこ・‑・‑やはりKの2小節めである。 Jニとともにideational stimuli的要素が強いと見ること ができる。

L.、、 Lト‑・‑♪クの下降passageをうち破って、突然themeが′で奏される。 Lノ、はtheme の①にあたり、 Lトは⑧の部分にあたる。 Lノ、とLトにはさまれてしまにおいては振幅の増加がみら れ、同じく themeが′で奏されるFのィ、ロ、 ‑と同傾向のカーブがLのハ、ホ、トにも描か れている点が注目される。

Qニ・・‑‑Qは時間にしてわずか8秒間しかないが、その間にGSRの出現、プレティスモグラ ム振幅の増減など、今回調査したすべての反応が示されている。音楽的には、この部分だけが,6y蛋 拍子であり、音階的な順次進行を和音でおこなっていることからも、他には見られない特異な部 分である。この実験の結果のみから、ただちにプレティスモグラムの振幅増減とQにおける音楽 的要素を関係づけることは困難である。

以上、プレティスモグラムの振幅減少と音楽の特徴との関係を分析的に検討してみたが、それ ぞれの部分に、さまざまな変化が見うけられるとしても、現段階では特に共通した要素を認める ことはできない。 3分半の「花火」はpassageのめまぐるしい変化が一つの特色となっているが、

ソナタ形式やフーガの意味においての再現や展開がおこなわれていないので、それらの変化は、

この曲の中で再びくり返されることはない。したがって、再認という形で音楽の諸要素を確かめ る方法がなかった。プレテイスモグラムの振幅が顕著に減少した11箇所の反応を、より客観的に とらえるためには、その部分の音楽の要素をもっと単純化して抽出するとか、他の多くの曲につ いて同様な実験を試みるとかする必要がある。

(3) dynamicsと振幅増加

プレテイスモグラムにおいて振幅が増加するのは、原野( 1961b)によれば、これは有機体 が刺激を受けた状態から回復する時の現象である。彼の実験により、刺激の種類が異ると振幅の 元にもどる時間がちがうことが確められている。しかし、音楽の場合は、単一の刺激が与えら れ、それがおさまるのを待って次の刺激が与えられるのではなく、鳴り響く音の運動が連続的な 刺激を与えているのである。そのうえ、音楽にはアリストテレス以来明らかにされている「カタ ルシス効果」があることを考え合わせるなら、プレティスモグラムの振幅が増加する場合には、

それ以前に受けた刺激からのたちなおりである場合と、音楽そのものによる弛緩作用の結果の2 つを考慮に入れねばなるまいO

ここで結論を先に述べると、図2、表1に見られるように、振幅が10%以上増加を示している 10箇所に優勢な傾向は、それがdynamicsに関してはクの部分であり、構成的にはphraseの途

中か、または、 episode的要素を持っている、という2点があげられる。

(15)

228 音楽と情緒との照応関係の分析的研究(n) (今井・奥)

まず、 dynamicsについては、pまたはppで奏されるのは、 Fヌ、 Hィ、 Kへ、 Kル、 L未、 R.、、

Sハの7箇所である。 Fムはまだ両こならないものの、 39小節のj:fの後、 molto dim.であるOわ ずかEチとQロのみがfあるいはffであるo

(4)エピソード的要素と振幅増加

ここでは、エピソ‑ド的要素とプレティスモグラムの振幅増加との関係を検討する.振幅がそ れ以前と比べて10%以上増加した10箇所のうち、 S′、を除く9箇所が、なんらかの意味でphrase の途中である。すなわち、 Fチ、 Fヌはpassageの途中であり、 Hィ、 Q。はその前の音型にひき 続いている。 Kへ、 KルはKの冒頭から4小節にわたって4回くり返されるmotifの3、 4度めで

あるし、 Rハは、 themeの③から変型したmotifのsequence 3回めである。 Lホはthemeの① と⑧の音型にはさまれて、 65小節の下降パッセージが再びよみがえる箇所であり、 Eチはtheme

①と②の音型が終わり、 ⑧がひきつぐところである。 Sハのみがthemeの冒頭にあたるが、ここ でのthemeは、これまで終始緊張感をもって奏されたものとは異って、ラ・マルセ‑エ‑ズの 断片に憩起的に付加されたものであり、作曲者はde trとs loinと記している。ラ・マルセ‑エー ズに合わせて、 「花火」全体の余韻として響いており、新しい刺激にはならないと恩われる。

(5) ThemeとプレティスモグラムおよびGSRの悼向

「花火」の中では、 themeは部分的再現も加えれば9回奏される。めまぐるしく変化する passageの中で、 3分半に9回も同じ旋律が奏されるという事実は、どのような反応となって現 われているだろうか。まずthemeの現われる箇所を抜き出してみると、 Eニ〜Eヌ、 Fィ〜Fへ、

Gィ‑Gホ、 I.〜Iハ、 Kィ‑Kヮ、 Lハ〜M‥Nノ、〜Nリ、 P′、〜Pヮ、 Sホ〜Sリ。以上9箇所のうち、

GSRでは7箇所に反応が出ており、プレティスモグラムでは、 5箇所になんらかの形で8%以 上振幅の減少が起っている。すでに各項で述べたように、 themeは明瞭に奏されたり、卯 で想 起的に奏されているが、それだけで単独に奏されることはなく、必ず他の何らかの意味を持つ passageや音型とともに奏されている。以上の点を考慮に入れる必要があるが、本実験の結果か

らは、 themeの再現が一つの刺激となって受けとられる傾向のあることは否定できない。

themeはこの曲の場合、 Wagnerのライト・モチーフのような概念性をもたされてはいない が、果して意識して受けとられているかどうか。これは、被験者が音楽を単に鳴り響ぐ旨の運動 として聞き、音の流れに受動的に身を委ねているか、または音の建造物として分析的に論理を追 って聴取しているか、という聴取の基本的な態度にかかわりをもつ問題である。 France (1958) は脳波を使って、自発的聴取と分析的聴取において、 themeの認識に相違のあることを発見し ているが、彼の場合、被験者が果してtheme を正しく認知していたかどうかが明らかではなく、

その点で疑問が残る。我々の実験においては被験者はすべて自発的に聴取するようにした。しか

し、 themeは前述の如く刺激となる傾向が兄い出されたので、さらに、それが正しく意識して聴

取されたかどうかを調べるため、 20人の女子学生を被験者として、この曲のthemeの冒頭①②

と他の4つの旋徒計5つ(語例2参照)の中から正しいthemeを選び出させてみた。最初に「荏

火」のレコ‑ドを聞かせた後、実験者が問題①〜⑤を2度ピアノで奏し、その中から正しいと思

った番号を書きとらせるという方法をとった。結果は次のとおりである。 ㊨‑・‑1⑧‑・‑0⑧一

一7④一一9⑤一一3正解は(釘で全体の35%であった。 3分半に9回演奏されているにもかかわ

らず、かなり低い正答率である。最も theme に似ていない④と答えたものが45%もいるが、こ

れは「花火」の詞性的でないpassageの響きが強く印象に残っているためではなかろうか。theme

を被験者の35%しか正しく認知できなかったということは、この場合、被験者の多くが音楽を音

(16)

音楽と情緒と cm (今井・奥) 229

響あるいは音譜として受動的にとらえているだけで、分析的あるいは論理的にととらえているの ではないと考えてよいであろう。

要     約

この研究の目的は、生理的反応を指標とした音楽と情緒の照応関係を明らかにすることにあ る。前回にひき続きGSRを、新たにプレティスモグラムを用いたo 被験者は10人の女子学生 で、 Debussyの「花火」を聴取させた。

資料は次のように整三理された。

1. GSR 音楽聴取中の各人の1秒毎の反応出撃状況を調べ、百分率で表わした。

2.プレティスモグラム 音楽聴取中の1秒毎の振幅を求めて、安静時と変動時の数値を百分 率で示した。

3.音楽と情緒の照応関係 GSRおよびプレテイスモグラムの結果を、楽譜および楽曲の周 波数分析によって、音楽的および心理学的観点から考察をおこなった0

本研究のおもな結果は次のように要約される。

1. GSR (a)反応の生起が見られるところでは、新しいmotifが出現していた。(b) dynamics の増大はGSRの反応を促す。

2.プレティスモグラム(a) dynamicsの変化とプレティスモグラムの振幅減少との間には、一 貫した関係はみられなかった。しかし、振幅が増加する場合には音楽はpであった(b)振幅増 加と音楽の構成要素とは関係があると患われる。

く付記〉

本研究をおこなうにあたって、ひとかたならぬ御援助と御指導をくださった本学の上田敏見教授、柳川

光章助教授、杉村健助教授、田辺正友助手、周波数分析機を製作してくださったFQEの清水境‑氏、さ

らに私たちとともに資料整理その他に協力してくれた本学学生楠本真也君、また被験者の学生諸君に心か

ら感謝しますo

(17)

230 音楽と情緒と の照応関係の分析的研究 文     献

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原野広太郎1962 b光電的容積脈波の振幅変動に蓑出される感情反応の研究 東京教育大学教育学部紀要

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(1971年6月7日受理)

(18)

231

AN ANALYTIC STUDY ON THE CORRESPONDING RELATIONSHIP BETWEEN MUSIC AND EMOTION (n)

Yasuchika Imai and Shinobu Oku

Department of Psychology and Department of Music, Nara University of Education, Nara, Japan

An attempt was made to clarify the corresponding relationship between music and emot- ion, using the galvanic skin response (GSR) and the plethysmogram responses as the physiological indicators of emotional responses.

The subjects were 10 female undergraduates. They were requested to listen to Debussy's

"Feux cTartifice".

The data were processed as follows.

1.GSR

The changes shown on the galvanometer were recorded every 1 sec. and shown in

percentage.

2. Plethysmogram

The fluctuations during music and in rest were recorded every 1 sec. and compared with each other. The data was shown in percentage.

3. The corresponding relationship between music and emotion

From the viewpoint of music and psychology, the data of 1 and 2 were analysed through the music sheet and the frequency indicator.

The major results obtained in this study may be briefly summarized as follows:

1. Wherever the change in GSR was shown, new motives were discovered. The increase in dynamics stimulated the response in GSR.

2. The corresponding relationship was not found between diminution of the amplitude

in volume pulsation and the change in dynamics, but when music was played in piano, the

amplitude increased. It can be seen that the amplitude-changes are related to factors of

composition.

参照

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