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ノート 医療薬学 42(5) (2016) 治療に難渋した HIV 感染症ニューモシスチス肺炎患者に対しアトバコン減感作療法が有効であった 1 症例 *1, 2 3 成田綾香, 彼谷裕康 1 2 富山県立高志学園診療科, 富山県立中央病院薬剤部, 富山県立中央病院感染症科 Desen

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42(5) 373―380 (2016)〒931-8443 富山市下飯野51-1

治療に難渋したHIV感染症ニューモシスチス肺炎患者に対し

アトバコン減感作療法が有効であった1症例

成田綾香*1, 2,彼谷裕康3 富山県立高志学園診療科1,富山県立中央病院薬剤部2,富山県立中央病院感染症科3

Desensitization of Atovaquone was Effective in Difficult Treatment of

HIV-Infected Pneumocystis jirovecii pneumonia Patient: A Case Report

Ayaka Narita*1, 2 and Hiroyasu Kaya3,

Department of Diagnosis and Treatment , Toyama Prefectual Koshi School Hospital 1,

Department of Pharmacy , Toyama Prefectual Central Hospital 2,

Department of Infection Disease, Toyama Prefectual Central Hospital 3

Received October 30, 2015 Accepted February 23, 2016

 Sulfamethoxazole / trimethoprim (ST) is the most effective prophylaxis and the first-line treatment for Pneumocystis jirovecii pneumonia (PCP). Adverse reactions such as rash or fever to ST are more frequent and severe in human immunodeficiency virus (HIV)-infected patients as compared to uninfected individuals. Intravenous pentamidine isethionate (PTM) is recommended for patients who cannot tolerate ST, and oral suspension of atovaquone (ATQ) is the third alternative agent. The most common adverse effects of alternative therapies include severe dysglycemia, diarrhea and leukopenia with PTM; and nausea, rash and headache with ATQ. Such reactions limit continuation of the treatment for PCP.

 A 35-year-old HIV-infected female with PCP was given ST. She presented with systemic rash, fever, nausea and vomiting by ST. PTM was administered to her as an alternative agent. However, it was discontinued because of diarrhea, vomiting and leukopenia. Therefore, we gave her ATQ as the third alternative agent. However, it was discontinued because of systemic eruption with the itching. Although we resumed PTM, it was discontinued because of similar side effects to the initial administration. We chose ATQ that had fewer side effects than others, and tried desensitization. It was successful and secondary prophylaxis of PCP was also possible.

 This case suggests a likelihood that desensitization to ATQ can be beneficial for the patients suffering from the treatment and prevention of HIV-related PCP by the adverse events due to ST, PTM and ATQ.

 Key words ―― Pneumocystis jirovecii pneumonia, human immunodeficiency virus, atovaquone, desensitization

緒  言

ニューモシスチス肺炎(Pneumocystis jirovecii pneumonia: PCP)はヒト免疫不全ウイルス(human immunodeficiency virus: HIV)感染症患者において 最も罹患率の高い後天性免疫不全症候群(acquired immune deficiency syndrome: AIDS)指標疾患であ り,治療しなければ進行性の呼吸器障害をきたす致 死的な疾患である.1)治療の第一選択薬はスルファメ トキサゾール/トリメトプリム(sulfamethoxazole/ trimethoprim: ST)であるが,発熱,発疹などの 過敏反応の頻度が高く,多くが標準治療期間であ る 21 日間の治療を継続できない.2)第二選択薬で あ る イ セ チ オ ン 酸 ペ ン タ ミ ジ ン(pentamidine isethionate: PTM)も副作用発症頻度が高く,治療 完遂が困難な割合が高い.3) また,HIV 感染症患

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者では PCP 治療終了後も二次予防としての投薬 継続が必要となる.4) 今回,ST 並びに PTM 点滴 静注の副作用により PCP 治療を中断せざるをえ なかった HIV 感染症患者に対し,第三選択とし てアトバコン(atovaquone: ATQ)の内服を開始 した.しかし,ATQ 内服開始直後から全身性の 皮疹が出現したため投与中止となった.PTM 点 滴静注の再投与を試みたが初回投与時と同様の副 作用により継続困難であった.栄養状態および全 身状態が不良であったことから,その後の PCP 治療薬として消化器症状が出現しなかった ATQ の再投与を選択した.低用量から開始する ATQ 減感作療法を行ったところ治療量まで増量でき, その後の二次予防投薬も継続可能であった.ST, PTM並びに ATQ 不耐容症例に対する ATQ 減感作 療法は,現在までに報告されていない.本症例は ST,PTM,ATQ の副作用により PCP の治療と予 防に難渋している HIV 感染症患者に対し,ATQ 減感作療法の有効性が示唆された一知見である. なお,ATQ 減感作療法は添付文書記載の用法 用量とは異なるため,開始前に患者とその家族に 対し十分説明を行い,書面による同意を得たうえ で実施した.また,本症例報告は厚生労働省「医 療・介護関係事業者における個人情報の適切な取 り扱いのためのガイドライン」(http://www.mhlw. go.jp/topics/bukyoku/seisaku/kojin/dl/170805-11a.pdf, 2015年 10 月 10 日)並びに日本消化器外科学会「症 例報告を含む医学論文及び学会研究会発表におけ る患者プライバシー保護に関する指針」(http:// www.jsgs.or.jp/modules/gaiyo/index.php?content_ id=19&tmid=42, 2014年 10 月 10 日)に準じており, 医療薬学の研究発表における倫理的問題に関する 指針に従い,患者に対し文書による説明を実施し, 同意を得て行っている.

方  法

1.症例 35歳,女性.7 年前に紫斑病性腎炎に対しステ ロイド内服にて完治.2 年前から繰り返す脱毛, 皮疹,食道・口腔内カンジタ症があり,富山県立 中央病院(当院)皮膚科に通院.イトラコナゾー ル内用液 200 mg 空腹時を内服継続していた.皮 膚科受診時に発熱,咳嗽を訴え胸部レントゲンお よび CT 検査を施行.両肺に多発結節並びに全肺 野に無数の小粒状影,多発性空洞,淡いすりガラ ス状陰影の多発を認め,病理検査で真菌感染症並 びに PCP が疑われた.血液検査の結果,HIV-1 抗 体陽性であり,AIDS 指標疾患の 1 つである PCP と診断された. 2.治療 治療経過並びに有害事象,全身状態の経過につ いて図 1 に,臨床検査値の経過について表 1 に 示す.PCP 治療開始日を day 1 とし,有害事象は Common Terminology Criteria for Adverse Event (CTCAE) v4.0,全身状態は Karnofsky performance status(KPS)に基づき評価した.HIV-RNA 量が 高値かつ CD4 陽性 T リンパ球数が一桁と非常に 低値であり,免疫再構築症候群の発症リスクが高 いと判断した.そのため,抗レトロウイルス療法 (antiretroviral therapy: ART)に先立ち PCP の治療 を開始した.PaO2 > 70 mmHgであり重症 PCP で はないため,プレドニゾロンの併用なしでスル ファメトキサゾール 400 mg/トリメトプリム 80 mg合剤(6 錠/日,毎食後)を開始した(図 1, day 1).ST 内服開始翌日より 37℃代の発熱,食 欲不振,悪心,嘔吐が出現し,食事摂取困難となっ たため当院救命救急センターを受診.医師により STによる副作用と診断され,内服を中止し自宅 経 過 観 察 と な っ た( 図 1,day 2). そ の 翌 日, grade 3の全身性発疹が出現し,胸部レントゲン 像で PCP の増悪も認められたため当院呼吸器内 科入院となった(表 1,day 3).入院時所見は, 158.7 cm,42.0 kg,体温:36.9℃,脈拍:82/分, 血圧:111/74 mmHg,SpO2:97%(室内気),心 電図:57/分,洞調律,正常軸.ST による発疹に 対し,皮膚科よりベポタスチン 10 mg 錠(1 錠/日, 朝食後),メキタジン 3 mg 錠(1 錠/回,掻痒時), プレドニゾロン吉草酸 0.3%外用薬が処方された. 入院後,著しい咳嗽,胸・背部痛が出現し,両側 性気胸を発症した.左気胸に対し胸腔ドレーン留 置を施行,右気胸は安静保存的加療とした.発疹 の消退傾向を確認後,PCP に対して PTM 170 mg/

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図 1 液治療経過

ニューモシスチス肺炎治療薬,抗 HIV 薬の投薬歴並びに有害事象,全身状態の評価.ST:スルファメトキサゾール 400 mg/トリメ トプリム 80 mg 合剤(6 錠/日,毎食後),PTM:イセチオン酸ペンタミジン(① 170 mg,② 130 mg/日,60 分間点滴静注,24 時間 毎),ATQ:アトバコン経口懸濁液(1,500 mg/日,朝夕食後),ATQ 減感作:各 1 回量を朝夕食後に服用(① 45 mg/回,② 90 mg/回, ③ 180 mg/回,④ 360 mg/回,⑤ 750 mg/回). 全身状態(KPS), 嘔吐, 食欲不振・悪心, 下痢, ◆

疹・掻痒感.全身状態を Karnofsky performance status: KPS(100:正常, 疾患に対する患者の訴えがなく臨床症状なし,90:軽い臨床 症状はあるが正常活動可能,80:かなり臨床症状あるが努力して正常の活動可能,70:自分自身の世話はできるが正常の活動・労働 することは不可能,60:自分に必要なことはできるがときどき介助が必要,50:病状を考慮した看護および定期的な医療行為が必要, 40:動けず適切な医療および看護が必要,30:全く動けず入院が必要だが死はさしせまっていない,20:非常に重症,入院が必要で 精力的な治療が必要,10:死期が切迫している,0:死)に基づいて評価.治療経過中に出現した有害事象を CTCAE v4.0 に基づいて 評価.抗 HIV 薬 TDF/FTC:テノホビル 300 mg/エムトリシタビン 200 mg 合剤(1 錠/日,朝食後),RAL:ラルテグラビル 400 mg 錠(2 錠/日,朝夕食後服用). 表 1 臨床検査値経過 day 3 (入院時) day 18 (PTM13 日目) day 22 (ART 開始前日) day 49 (PTM 再開 9 日目) day 87 (ATQ 治療量 19 日目) WBC 2900 1200 3400 2300 4300 Hb 12.8 12.3 12.1 12.3 12.2 PLT 12.6 9.3 16.1 11.8 18.4 Alb 2.9 2.7 2.7 3.9 3.7 AST 27 28 17 18 16 ALT 15 21 12 21 14 LDH 211 155 178 116 116 T-Bil 0.3 0.3 0.3 0.4 0.5 SCr 0.7 1.1 1.0 1.2 0.9 eGFR 58 51 58 42 58 Na(mEq/L) 137 135 137 138 139 K(mEq/L) 4.8 4.5 5.1 4.4 4.6 Cl(mEq/L) 105 102 103 100 106 CRP 0.44 0.49 0.22 0.04 0.02 HIV-RNA 3.0 × 105 2.8 × 105 3.7 × 102 2.6 × 10 CD4 6 - 2 44 76

PTM:イセチオン酸ペンタミジン , ART:抗レトロウイルス療法 , ATQ:アトバコン経口懸濁液,day - :PCP 治療開始日を day 1 とし た経過日数 , WBC: 白血球(/µL), Hb: ヘモグロビン(g/dL), PLT: 血小板(万/µL), Alb: 血清アルブミン(g/dL), AST: アスパラギン酸 アミノトランスフェラーゼ(IU/L), ALT:アラニンアミノトランスフェラーゼ(IU/L), LDH: 乳酸脱水素酵素(IU/L), T-Bil: 血清総 ビリルビン(mg/dL), SCr: 血清クレアチニン(mg/dL), eGFR: 推算糸球体濾過量(mL/分/1.73 m2), CRP: C 反応性タンパク(mg/dL), HIV-RNA: HIV-RNA量(コピー/mL), CD4: CD4 陽性 T リンパ球(個/µL), ―:検査依頼なし

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日(60 分間,24 時間毎)点滴静注を開始した(図 1,day 6).点滴開始直後から下痢を発症し,食 欲不振,悪心,嘔吐の増悪がみられた.PTM 投 与 13 日目に grade 3 の白血球減少が確認されたた め PTM 点滴静注を中止した(表 1,day 18).同 時に,ST 内服開始後から継続する消化器症状に より全身状態が KPS 20 まで悪化していたため, 中心静脈カテーテルを留置し高カロリー輸液を開 始した.消化器症状の軽快と血球数の回復を確認 後(表 1,day 22),ART としてテノホビル 300 mg/エムトリシタビン 200 mg 合剤(1 錠/日,朝 食後),ラルテグラビル 400 mg 錠(2 錠/日,朝 夕食後)を開始した(図 1,day 23).抗 HIV 薬 の内服を 5 日間継続し,副作用の出現がないこと を確認後,ATQ(1,500 mg/日,朝夕食後)の内 服を開始した(図 1,day 28).ATQ 内服開始翌日, grade 3の掻痒を伴う全身性皮疹が出現したため 夕食後内服分から ATQ を中止し(図 1,day 29), 皮膚科医からクロルフェニラミン静注(10 mg/回, 掻痒時),オロパタジン 5 mg 錠(2 錠/日,朝夕 食後),ヒドロキシジン 25 mg カプセル(1 カプ セル/回,掻痒時),ベタメタゾン 0.05% 外用塗布 の指示が出された.皮疹消退後,PTM 130 mg/日 (60 分間,24 時間毎)点滴静注を再開した(図 1, day 41).PTM 再開直後から下痢,食欲不振,悪心, 嘔吐が出現し,メトクロプラミド静注(5 mg/回 ⊗ 毎食前),ロペラミド 1 mg カプセル(2 カプセ ル/日,朝夕食後)の投与を行った.しかし,消 化器症状は軽快せず,PTM 再開 9 日目に grade 2 の白血球減少も認められたことから PTM 点滴静 注を中止とした(表 1,day 49).肺の MRI 所見 にて PCP の悪化が認められたため,消化器症状 の軽快を確認後,ATQ 減感作療法を開始した(図 1,day 55).

結  果

ATQ減感作療法の投与スケジュールを表 2 に 示す.初回投与量 45 mg/回(1 日 2 回,朝夕食後) で開始し,3 日毎に倍量に増量することとした. 皮疹等の副作用出現時は,副作用出現時の用量を 維持投与し,症状消退を確認後,次の用量に増量 することとした. 第二段階量である 90 mg/回に増量した翌日,頚 部に grade 1 の皮疹,掻痒感が出現した(図 1, day 59).皮疹,掻痒部位にプレドニゾロン吉草 酸 0.3%外用薬を塗布し(day 59~61),皮疹が消 退するまで ATQ 同量を維持投与した(図 1,day 58~62).その後,皮疹,掻痒感の出現はなく, 治療量である 750 mg/回まで 3 日毎に増量した. ATQ治療量開始 19 日目,胸部レントゲン像で両 肺の多発性空洞の減少,すりガラス状陰影の消失, 血液検査で HIV-RNA 量 2.6 ⊗ 10 コピー/mL への 減少が確認されたため退院決定となった(表 1, day 87).CD4 陽性 T リンパ球数 76/mm3 であり二 次予防のため ATQ を継続投与したが,その後も 副作用並びに PCP の再燃は認められなかった.

考  察

AIDSにおける PCP の治療および予防の第一選 択薬は ST であるが,発熱,皮疹,肝機能障害, 骨髄抑制などの副作用が高頻度に出現し,投与が 中止される例が多い.第二選択薬である PTM は 悪心,下痢などの消化器症状,腎機能障害,血糖 異常5)などの副作用が報告されており,ST 同様 投与が中止される場合がしばしばある.HIV 感染 症 PCP の治療は 21 日間継続投与が標準であるが, ST および PTM を使用して標準治療期間を完結で きる例は少ないのが実情である.6)この 2 剤に加 え,第三の代替薬として ATQ を組み合わせるこ とにより HIV 感染症 PCP の治療完遂率が上昇し 死亡率が低下するとされている.しかし,3 剤を 組み合わせてもなお治療完遂できない症例が 1 割 程度存在することが国内において報告されてい 表 2 アトバコン減感作療法投与スケジュール 投与日 アトバコン1回投与量 アトバコン内用懸濁液15%換算量 1~3 日目 45 mg 0.3 mL 4~6 日目 90 mg 0.6 mL 7~9 日目 180 mg 1.2 mL 10~12 日目 360 mg 2.4 mL 13日目以降 750 mg 5 mL 初回投与量を 45 mg とし 3 日毎に倍量に増量.皮疹等の副作用出 現時はその用量を継続し,症状消退後に次の投与量に増量する.

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る.7, 8)また,PCP 治療を行った HIV 感染症例で は原則として ART により CD4 陽性 T リンパ球数 が 200 /mm3 を超えるまで,かつ,200 /mm3 以上 を 3~6 カ月以上維持するまで,二次予防のため の薬物投与を継続する必要がある.4, 9) 本症例では ST 内服開始翌日より発熱,食欲不 振,悪心,嘔吐が出現し,3 日目に掻痒感を伴う 全身性発疹が出現した.この時点での併用薬はイ トラコナゾール内用液のみであり,3 カ月以上継 続していたが副作用の出現はなかった.また,発 症前に悪心,嘔吐の原因となるような食品,サプ リメント等の摂取がないことも救急受診時に本人 より聴取確認している.イトラコナゾールによる 全身性発疹の頻度は低く(イトリゾールⓇ内用液 1%インタビューフォーム第 12 版,ヤンセン ファーマ株式会社,2014 年 8 月改訂),既報の STに対する過敏反応症状(発熱,発疹),発症時 期(投与開始 2 週間以内)が一致することから, STに起因する副作用と判断した.ST 中止後,速 やかに症状が軽快したことから,やはり ST に対 する過敏反応であったと考えられる.また,PTM 投与後に発症した消化器症状並びに白血球減少に ついても,併用薬がイトラコナゾール内用液のみ であったこと,入院管理中であり消化器症状の原 因となるような食品等の摂取がなかったこと,既 報の副作用(悪心,嘔吐,下痢,白血球減少), 発症時期(半数が投与 2 週間以内に発症)が一致 することから,PTM に起因する副作用と判断し た.減量後再投時も同様の症状が出現したことか ら,やはり PTM による副作用であったと考えら れる.ATQ 開始翌日より出現した全身性皮疹に ついても,併用薬はイトラコナゾール内用液と ARTのみであったこと,ATQ の副作用として発 疹の発症頻度が 22%と高いことから,ATQ に起 因する副作用と判断した.減感作療法中に再度皮 疹が出現したことからも ATQ による副作用で あったと考えられる.ST による発疹と比較し ATQ中止後も皮疹が遷延した(day 29~38)理由 として,ATQ の半減期が約 70 時間と非常に長い ためであると考えられる(サムチレールⓇ内用懸 濁液 15%添付文書第 4 版,グラクソ・スミスク ライン株式会社,2015 年 4 月改訂). 今回,ST 並びに PTM の副作用により PCP 治 療に難渋していたため,これら 2 剤の投与中止後 に免疫再構築症候群を考慮し控えていた ART を 開始した.これは,日和見感染症を伴う HIV 感 染症患者に対して早期に ART 介入をした患者群 の方が,晩期(日和見感染の治療が完了した直後) に ART 介入した患者群よりも AIDS 関連死亡率 が低いとの報告10)に基づいてである.特に PCP では,CD4 陽性 T リンパ球が低値であっても免 疫再構築症候群の発症率が低いとされている. HIV感染症に対する治療薬において,HIV 抑制 効果がより強力な抗 HIV 薬をキードラッグ,キー ドラッグを捕捉し HIV 抑制効果を高める抗 HIV 薬をバックボーンと呼ぶ.ART は,プロテアー ゼ阻害薬またはインテグラーゼ阻害薬からキード ラッグとして 1 剤を選択し,バックボーンとして 核酸系逆転写酵素阻害薬 2 剤を加えた 3 剤併用療 法が基本である.本症例では経口摂取の著しい低 下並びに ST による全身性発疹の既往があったこ とから,食事中または食直後の服用であり皮疹並 びに消化器症状の発症頻度が高いプロテアーゼ阻 害薬を回避し,食事の影響を受けず副作用発症率 が低いインテグラーゼ阻害薬ラルテグラビルを キードラッグとした.また,バックボーンは HIV 量が 10 万コピー以上であったため腎機能障害が ないことを確認し,テノホビル/エムトリシタビ ン合剤を選択した.11)しかし,ART のみで PCP 治 療が可能であるとの報告はない.入院時から定期 的に撮影されていた胸部 CT,レントゲン画像に おいて ART 導入後も PCP の改善は認められな かったため,早急に PCP 治療薬を再開する必要 があった.そこで,第三の代替薬である ATQ の 内服を開始した.軽症から中等度の HIV 感染症 PCPにおいて,ATQ は ST 並びに PTM と同等の 治療効果が認められている.12)しかし,ST との比 較試験において,有害事象による投与中止 4 週間 以内の死亡率は ATQ 群が有意に高いことが示さ れている.13) ATQは,重症の PCP 患者に対する 使用成績は十分に検討されておらず,ほかの治療 薬で効果が得られなかった重症 PCP における有 効 性 を 示 す デ ー タ は 得 ら れ て い な い. ま た, AIDS指標疾患の 1 つである結核に用いられるリ

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ファンピシン,リファブチン並びに悪心・嘔吐に 用いられるメトクロプラミドとの併用,空腹時投 与,下痢の症状がある場合では ATQ の血中濃度 低下が報告されている(サムチレールⓇ内用懸濁 液 15%インタビューフォーム第 3 版,グラクソ・ スミスクライン株式会社,2014 年 4 月改訂).ST や PTM から ATQ への切り替えは,併存する PCP 以外の日和見感染症や全身状態,PCP の重症度を 十分考慮したうえで行うべきである.本症例は中 等度の PCP であり,ほかの AIDS 指標疾患とし て食道・口腔内カンジタ症を合併していたがイト ラコナゾール内用液により治療可能であった. ATQ血中濃度低下に伴う治療効果の低下を考慮 し,イトラコナゾール並びに ART と ATQ に相互 作用がないこと,PTM による下痢が消失してい ること,時折悪心はあるもののメトクロプラミド の食前投与なしに経口摂取が標準量程度まで改善 していることを確認後,ATQ の投与が可能であ ると判断した.しかし,ATQ 内服開始翌日から 掻痒を伴う全身性の皮疹が出現したため投与を中 止した.その後,PTM 点滴静注を初回投与量 170 mg/日から 130 mg/日に減量し再投与を試みた. HIV感染症 PCP に対する PTM 投与において毒性 が認められた場合,4 mg/kg/日から 3 mg/kg/日へ の減量がしばしば行われており,国内外において 減量による治療失敗症例は少ないとされている.14) しかし,本症例では減量後の再投与でも初回投与 時と同様の消化器症状と白血球減少症が出現し, KPS 20まで全身状態が悪化したため投与を中止 せざるを得なかった. STは PCP だけでなくトキソプラズマ症などほ かの日和見感染症にも効果を示すため,免疫不全 を呈する HIV 感染症患者にとって有効な薬剤で ある.しかし,HIV 感染症患者における ST の副 作用出現率は,非感染者と比較して高いことが報 告されている.15) STは減感作療法が確立されて おり,初回投与時に副作用により投与中断した患 者でも減感作療法により投与継続可能となる場合 が多い.しかし,約 3 割は ST 減感作療法に失敗 する.16)一方,PTM による耐糖能異常,消化器症 状,骨髄抑制等の副作用は過敏反応によるものと は考えられておらず,これまでに減感作療法は確 立されていない.本症例においても,PTM の減 感作療法により消化器症状並びに白血球減少の軽 減は見込めないと判断し,PTM 減感作療法は試 みなかった.また,HIV 感染症患者では AIDS 発 症により栄養状態並びに全身状態の低下がみられ ることが多く,下痢や悪心,嘔吐などの消化器症 状の出現には特に注意が必要である.本症例では ST,PTM に起因する消化器症状により栄養状態 および全身状態が不良であり,中心静脈カテーテ ルによる管理中であった.PTM 再投与中止後に ST減感作療法の導入を検討したが,悪心,嘔吐 が出現し再び食事摂取ができなくなることに対 し,患者から強い不安の訴えがあった.PTM 再 投与により全身状態が KPS 20 まで悪化した経緯 も考慮し,PCP の治療再開は ST 減感作療法を回 避し,消化器症状が出現しなかった ATQ を選択 し,低用量から開始する減感作療法を試みた.初 回 ATQ 投与時と同様,ATQ 血中濃度低下に伴う PCP治療効果低下を検討し,併用薬がイトリゾー ル内用液と ART のみであること,PTM による下 痢が消失し,時折悪心の訴えはあるが経口摂取は 標準量まで改善していることを確認し,ATQ 減 感作療法を開始した.ST の減感作療法は国内で は 200 分の 1 量から開始し毎回用量を倍増する方 法17)が多用されているが,海外のガイドライン では 20 分の 1 量から開始し 3 日毎に倍増する方 法が推奨されている.18) ATQは内用懸濁液製剤で あり,衛生面を考慮して使い捨て 1 mL シリンジ で原液採取可能な液量である治療量 750 mg/回の 20分の 1 程度である 45 mg/回(内用懸濁液 0.3 mL)を初回投与量とし,3 日毎に倍増すること とした.増量過程で頚部に grade 1 の皮疹,掻痒 感が出現したがステロイド外用薬の塗布で対処可 能であり,治療量まで増量可能であった.ATQ 減感作療法中に呼吸器症状の悪化は認められず, 治療量開始 19 日目の胸部レントゲン像において 多発性空洞の減少,すりガラス状陰影の消失を確 認した.PCP 標準治療期間である 21 日間と同程 度の日数で治療完遂できたことから,ATQ 減感 作療法を用いた PCP 治療効果は通常量療法と同 程度であったと考えられる. HIV感染症患者では PCP 治療終了後も二次予

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防のために投薬継続が必要である.ATQ は HIV 感染症 PCP 発症抑制率において ST 並びに PTM と同等であることが報告されている.19)本症例で は ATQ 減感作療法並びに治療終了後も CD4 陽性 Tリンパ球数が 200/mm3 を超えなかったため二次 予防の ATQ 内服を 1 年以上継続したが,皮疹等 の副作用並びに PCP の再燃は認められなかった. 今回,ST,PTM,ATQ の副作用により治療を 中断せざるをえなかった HIV 感染症 PCP 患者に 対し ATQ 減感作療法を行ったところ,PCP の治 療完遂並びに二次予防の継続が可能であった. PCPの重症度やほかの AIDS 指標疾患の合併,全 身状態を考慮したうえでの ATQ 減感作療法は, ST,PTM,ATQ の副作用により PCP の治療およ び予防に難渋している HIV 感染症患者に対し, 有効な方法である可能性が示唆された.

利益相反

開示すべき利益相反はない.

引用文献

1) 塩川優一, AIDSの診断基準, 内科, 1985, 55, 1243-1245.

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図 1 液治療経過

参照

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