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99 「閉架書庫を彷徨う」

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Academic year: 2021

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 学生時代の図書館の思い出と言えば、 なんと いっても閉架書庫である。

 完全な閉架式図書館で有名なのは、 国立国会 図書館である。閉架書庫では、一般利用者は検 索端末や目録カードなどを用いて資料を探し、

図書館員の方に資料を持ってきてもらう。この 場合、 一般利用者は書架の間を歩いたり、 実際 に本を手に取ったりできない。

 一方で多くの大学図書館では、 開架式と閉架 式を併用しているところが多い。図書や雑誌は その収納スペースが一番の悩みである。もちろ ん、 すべてを開架書庫に置くことができればそ れに越したことはないわけであるが、 そうもい かないのが実情である。

 さて、 前置きが長くなったが、 なぜ閉架書庫 にこだわるかといえば、 それは大学生や大学院 生、 そして教員の「権利」だからである。京都 外国語大学付属図書館も、 書庫の図書について は「出庫請求票」を係員に渡して持ってきても らう方式が基本だが、 学生証を提示して、 所定 の手続きをすれば書庫に入ることができる。書 庫に入ることができるのは、「権利」なのである。

一般には公開されていない閉架書庫を彷徨い、

目当ての図書や雑誌を探索する。閉架書庫はや や暗く、入り組んでいることも多い。そうなれば、

ゲーム世代の人間は「閉架書庫ってダンジョン やな」と思わずにはいられない。薄暗く静かな 閉架書庫をひたすら探索する自分を「オレ、 カッ コイイ」と考えるのを浅はかと思うかもしれな いが、 一度はそう思ったことのある人も多いの ではないだろうか。

 そして、 私の学生時代の閉架書庫といえば、

大きなハンドルの付いた手動式であった。ハン ドルを回して、 大きな書庫を移動させ、 書庫と 書庫の間に入り込める隙間を作り、 そこに入り 込んで図書や雑誌を探すわけである。ハンドル

はかなり重いので、 面倒になってくると少しし か動かさずに、 わずかな隙間に入り込んで本を 探すようになる。そして、それに慣れてきた頃に、

あとから来た他の学生が知らずに自分のいる書 庫のハンドルを回し、「書庫に挟まれかける事件」

が起こる。まさに冒険である。

 最近では、 閉架式書庫でハンドル式を採用し ているところは減り、 電動式になっているとこ ろが多い。書庫の隙間で閲覧中は、 センサーな どで感知して、 移動ができなくなるようロック されるようにもなっている。隔世の感がある。

私の知っている閉架書庫は、 もっとダンジョン 的な何かだったのである。

 さて、 閉架書庫を彷徨う「権利」の話にもう 一度戻ろう。三十代前半の頃、 東京都立川市の 国立国語研究所に勤務していた。国立国語研究 所の研究図書室は、 国内唯一の日本語の専門図 書館であり、 規模こそ大きくないものの当該の 分野では随一の蔵書を誇る。そして、 この国語 研図書室も、 図書館の係員を除けば、 研究職員 のみが閉架書庫に自由に出入りができたのであ る。国語研には学生がいないので、 わずか60人 ほどの研究職員だけの「権利」だったわけである。

誇らしい気持ちであった。

 2005年2月に北区西が丘から立川市に移転した 国語研図書館の閉架書庫は、 最新設備で明るく、

およそダンジョンっぽくはなかったが、 その蔵 書は1948年発足の歴史を受け継いでおり、 非常 に珍しい資料も多く「宝」を掘り出すのに夢中 になった。その意味では、 やはり私にとってダ ンジョンだったのかもしれない。

 Amazonをはじめ、 インターネット書店がい かに充実しようとも、 閉架書庫を彷徨うことこ そが、 私にとっての図書館の醍醐味である。

もり あつし(教授・日本語教育)

学生時代と図書館 99

「閉架書庫を彷徨う」

森 篤嗣

4

研究者と図書館

参照

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